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シナリオ詳細

<夏祭り2019>Golden brown
<夏祭り2019>Golden brown

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 不揃いな水音が耳をくすぐり続けている。
 ゆったりと寄せては返す夜の浜。

 時折足先を攫おうとする波から揺蕩う光を掬い上げると、揺れる月は指先からするりと逃げてゆく。
 砂の挟まるサンダルを脱ぎ、『幻想大司教』イレーヌ・アルエ(p3n000081)は冷えた砂を踏みしめた。
 軋む感触が思いのほか心地よく、彼女はそのままいくらか歩いてみる。
 気持ちの良い夜だった。

 ふと顔をあげれば、水上バンガローから心地よい曲と暖かな光が漏れている。
 丁度良かった。
 少し冷えてきた所だった。

 開け放たれたままの入り口を通り、促されるままカウンターチェアに座る。
 一体どれだけぶりだろうか。これほど『べき』と『ねばならない』から、自身を長く遠ざけたのは。

 乗りかかった船――聖都の復興から降りたのは心に一抹の呵責を感じないでもなかったが、さりとて幻想大司教が異郷に長くとどまる訳にも行かない。
 幻想でやるべきこと、やらねばならぬことは山積みで、一分一秒でも惜しいという事情はある。
 普段の仕事もそうではあるが、魔種――それも『煉獄篇冠位』が倒されたという事実は正しく新たな伝説である。
 激動の予感は確かで、これまで以上に忙しくなるのは確実と思われた。
 第一イレギュラーズを招待したという海洋のサマーフェスティバルに己が招かれるなど思いも寄らない。寝耳に水も甚だしい。

 参加の誘いにかなりの難色を示したイレーヌであったが、イレギュラーズに説得されてしまった。
 彼女が知るべき情報や教会に伝えるべきことは、かの天空神殿を経由して運ぶなどとまくし立てられてしまったならば、致し方もない。
 結局らしくもなくその気になってしまったのだったのだが、神殿を骨休めに利用するなど、けしからんといえばけしからん話だ。
 ともあれイレギュラーズは、イレーヌの身を案じてくれたのであろう。
 彼女は先の戦いでイレギュラーズと共に神器を起動させるため、かなりの深手を負っていた。傷そのものは治癒すれば問題ないのだが、あまり心配させるのもよろしくはない。
 乗りかかったのは、或いはこちらの船だったのかと思い直すことにした。
 とはいえ――イレーヌは苦笑一つ。さすがにこうした衣装まで着せられるとは思ってもいなかったのだが。

 ところで。
「これを、どこかに置かせて頂いても?」
 思い切って尋ねてみる。
「お預かり致します。こちら割れ物……では……ございませんよね」
「ええ、おそらく」
「かしこまりました」
 これで『肩の荷』が下りたか。
 はてさて。あれは、一体誰が選んだのだろう。

「オーダーはいかがなさいましょう?」
 そうだった。ここはそういった場所だ。
 だがそもそも、どんなものがあるのだろうか。
 彼女は周囲に視線を送り、確かめる。色とりどりのボトルは酒類であろう。彼女にとってはどれも余りに馴染みが薄い。
「カクテルなどいかがでしょうか?」
 迷いを察したのか、バーテンダーが話しかけてきた。
「飲み慣れたものなどございましたら、そちらをベースにおつくりすることも出来ますよ」
 己が飲み慣れたように見えでもしたのだろうか。可笑しさを感じた彼女は、ワインを使って欲しいとオーダーしてみる。

 バーテンダーは店の奥からワインボトルを持ち出し、テキパキと栓を抜く。
 曇り一つないグラスにワインを注ぎ、銀のメジャーカップに満たされたカシスのリキュールを足した。
 ごく軽いステア。
 バースプーンをくるくると操る姿がサマになっている。

「こちらカーディナルです。デモニアをベースに致しました」

 手際に感心していると、ふとそう聞こえた。
 イレーヌはバーテンダーの表情を探る。自分自身はきっとひどく驚いた顔をした筈だ。
 そういう名のワイン、カクテルということか。ラベルにはその通り『デモニア』と記されている。カーディナル――枢機卿はカクテルの名であろう。
 含むところはなさそうだ。いや、あっても困るのだが。さておき。
 ならば窓の外に広がる満天の星空を湛えたこの杯を、ひと息に飲み干してやるのも悪くない気がしてくる。

 今回の彼女の仕事は、こうしてやっと終わりを告げたのだった。

GMコメント

 モヒートが美味しい季節になりました。
 海洋の夏祭りで一休みしましょう。pipiです。
 よく本文よりこっちが長いとか言われます。

●出来ること
 自由だ!
 ここで好き勝手に夏の夜を過ごしてやりましょう。

 激戦に思いを馳せるのも良し。
 気分を切り替えて遊びに徹するのも良し。
 何も考えずにのんびりするのも良し。

 遊び疲れた後か。ここからが本番か。
 お一人で。友達と。恋人と。家族と。
 この機会を自由に利用してやりましょう。 

●ロケーション
 水上バンガローのバー『ゴールデンブラウン』と、近くのナイトビーチ。
 飲食やお散歩が楽しめます。
 水着や浴衣のままでOKです。

 早めの時間には生演奏や花火が楽しめるようです。
 遅い時間は落ち着いた雰囲気に。

 夏のリゾートを満喫してやりましょう。

 メニューは以下。
 書かれてないものも、言えばなんとなく出てきます。

●Food
 ナッツ、スモークナッツ、ピクルス
 ジャーキー盛り合わせ、チーズ盛り合わせ
 ソーセージ盛り合わせ、生ハムとサラミの盛り合わせ、オイルサーディン
 ポークパテ、鶏レバーパテ、田舎風テリーヌ
 自家製コンビーフ、厚切りベーコンエッグ、燻製盛り合わせ
 アヒージョ(エビ、チキン、ほたて、マッシュルーム)
 フィッシュアンドチップス
 クラブハウスサンド
 バゲット、ガーリックトースト

 野菜スティック、カプレーゼ、浅漬けオリーブ
 チョコレート盛り合わせ
 ドライフルーツ盛り合わせ
 南国フルーツ盛り合わせ
 レーズンバター

『パスタ』
 アーリオ・オーリオ、オイルサーディン、アラビアータ、からすみ、バジル...

『ピザ』
 マルゲリータ、マリナーラ、気まぐれ

●黒板
 岩牡蠣(焼き、生)
 自家製ローストビーフ
 朝採り夏野菜のバーニャカウダ
 近海魚のカルパッチョ
 本日のアクアパッツァ
 ビーフステーキ450g
 ビフテキサンド

●Drink
『カクテル』
 スタンダード各種、スモーキング、ナイトロジェン
 お好みに応じます。

『ウィスキー』
 ブラックウォーカー、ブルーウォーカー、グレイクラウン...
 グレンローレット、アドバーグ、ハイランドガーデン、ザ・サントヒル、ベイサイドデプレッション...
 アールスローズプラチナム、ビルダーズエンブレム...
 エコーズ...

『テキーラ』
 ラサブランコ、ラサレポサド、ネフェレストアネホ、ブルースパイダー...

『ラム』
 ムルシエラゴ 、ロンリッツパーク、キャプテンドレイク...

『ジン』
 ビーフイーター、エルダートム、スカイブルー、No.10...

『ウォッカ』
 スチールグラード、バニラ、シトラス、バイソングラス...

『ブランデー』
 フォルデルマン、フィッツバルディ、バルツァーレク...

『カルヴァドス』
 バルツァーレク...

『ベルモット』
 マルセイラン、フランセスコ...

『ビール』
 メフ・メフィートペールエール、パドラディ、ミットヴォッホカッツェ、ヘイローEX、ルーベルグ...

『リキュール』
 カシス、ラズベリー、等々各種。

『ワイン』
 フィッツバルディ(赤、白)、アーベントロート(赤)、バルツァーレク(赤、白、ロゼ)、フルネメシス(白)、デモニア(赤)、ブラックキャット(白)、ポルタ(強化)...

『スパークリングワイン』
 バルツァーレク(ロゼ)、エストレージャ(白)...

『薬草』
 修道院系、草系、アニス系、ルート系、各種...

『ノンアルコールカクテル』
 各種...

『オリジナルカクテル』
 サンセットビーチ、ジュエリービーチ、アデプトマティーニ、ナイトメア、オールドワン、ディープグリーン、ディスペアブルー...

『ソフトドリンク』
 フレッシュジュース、自家製ジンジャービア、クラマト、他各種...

●他
 各種シガーあり。

●諸注意
 未成年の飲酒喫煙は出来ません。
 UNKNOWNは自己申告。

 他のPCと同行する際には、一行目に名前の記載をお願いします。

●同行NPC
 声をかければ同席します。
 複数居たらみんな適当に一緒になります。
 誰も居なければ、特に描写されません。

『幻想大司教』イレーヌ・アルエ(p3n000081)
 水着。

「説得したのは自分です」とか。
「衣装を選んだのは自分です」とか。
 言い張っても構いません。そういうことになります。
 複数居たら複数名の仕業になります。

『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 水着。
 皆さんの仲間です。


  • <夏祭り2019>Golden brown完了
  • GM名pipi
  • 種別イベントシナリオ
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年07月28日 23時15分
  • 参加人数 30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
二輪
エンヴィ=グレノール(p3p000051)
ふわふわな嫉妬心
十夜 縁(p3p000099)
黄昏き蒼の底
竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白い烏
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
自称・旅人
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
祈る者
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
蒼海守護
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
燕黒 姫喬(p3p000406)
猫鮫姫
サンディ・カルタ(p3p000438)
アニキ!
銀城 黒羽(p3p000505)
ド根性ヒューマン
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェイク・太刀川(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
メリンダ・ビーチャム(p3p001496)
瞑目する修道女
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈る暴走特急
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
天穹を翔ける銀狼
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
玲瓏の壁
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
仲間を信じて!
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
蒼き深淵
ルナール・グルナディエ(p3p002562)
紅獣
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
サクラ(p3p005004)
聖剣解放者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
美咲・マクスウェル(p3p005192)
見敵必殺
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
不戦の職人騎士
ソア(p3p007025)
雷精
ファレル(p3p007300)
修行中

リプレイ


 黄昏の海に真珠を溢している。
 定められた速度で沈む夕日と、人が感じる時間は往々にして平等ではない。

「もうこんな時間!」

 楽しい時というものは足早に過ぎ往き、思い出に変わる。
 けれど――真っ赤な夕日を浴びるヒィロと美咲の笑顔は、そんな夏の感傷とは未だ無縁であった。

「それじゃ、ジャーキーとソーセージと野菜スティックから!」
 手軽に摘まめるものをチョイスしたヒィロは、飲み物は何を頼むかと目線で美咲に問う。
「飲み物はー、まず、ジャック・ローズを」
「へー、やっぱりお姉さんって感じだね!」
 メニューに並ぶ沢山のノンアルコールカクテルに目を回すヒィロ。
「はぅ、よくわかんない。み、美咲さんヘルプ!」
「私はいいけど、男のひとにお任せしたりは、しないようにね? 彼女に、シンデレラを」

 テーブルに並んだカクテルに目を輝かすヒィロに美咲は目を細めた。
「真夏の太陽に染まった海みたい……」
 美しいカクテルと夏の空に乾杯をして。
「あっ花火! すごいねー!」
 打ち上がる花火が二人の瞳を照らす。
 美味しい食べ物に楽しい会話、それに綺麗な夜の花。
 素敵な思い出がまた一つ。

「一枚着るだけでも、結構落ち着くものね……」
 浜辺ならいざ知らず水上バンガローに水着のままでは恥ずかしいとエンヴィが頬を染める。
「少し冷えてきましたね。エンヴィさん、水着もパーカーも可愛らしいですね」
 クラリーチェの言葉に更に白い頬に朱が乗った。
「あなたも、水着綺麗で良く似合ってて……パーカーも可愛らしくて……とても妬ましいわ」
 褒めて褒められ。元いた世界では無かったコミュニケーション。
 気恥ずかしいけれど心地よいやりとり。
「褒めあいってくすぐったいですね。……と。乾杯でもしましょうか」
 傾けたグラスに揺れるノンアルコールカクテル。
「えぇ、乾杯……よくわからず頼んだけれど、美味しい物ね……」
 数年後は本物で乾杯しよう。紡ぐのは二人だけの約束。
 こんなにも未来が楽しみになるなんて思ってもみなかった。
 願わくばどちらも欠けること無くその時が迎える事が出来るように。
 夏の夜に祈るのだ。

 さて宵の口。
 徐々に人が増えてくる時間だ。
「すっすごい……!」
 ソアは目を輝かせながらメニューに食いついていた。
 全部は無理だろうか。けれど、この中から選ぶなんて出来ない。
「やっぱり……上から順に……!」
 テーブルの上に並べられた料理。それにナイフとフォーク。
「ち、ちっちゃいな、これボクの指くらいなんじゃないか?」
 そっと持ち上げて料理をぱくり。瞬間に高揚する瞳。
「美味しい!」
 そのままがっつけないのがもどかしいけれど。
 さて、次は海洋の酒か料理か。

「ステーキ! ステーキ!」
 ファレルはメニューに書かれた肉のラインナップを指さす。
 他のも食べたいけれど、ここはやはり肉だろう。
 海洋で食べられる肉料理はどんなものかと笑みがこぼれる。
「肉だー! 頂きます!!」
 口の中に沢山の肉を突っ込んでおいしさに笑顔になった。
 これはコックに美味しいと伝えねばなるまい。

「ふはーーー、今日のご飯はなんにしよっかなー!」
 姫喬の水着。今年は羽織もあって、より和の趣が深い。
 まずはメニューをひと眺め。それから視線は黒板へ。
「お! 牡蠣あるじゃーん! 生で3つちょーだい!」
「かしこまりました」
 足しげく通った甲斐があったというもの。

 カクテルはマイタイをヴァージンで。 ぎざぎざの歯でストローを噛み噛みいただいてしまおう。
 ダークラムの代わりにアーモンドとカラメルのシロップが使われているようだ。
 それから牡蠣。にまっと笑んでつるりと――もとい殻ごと! ぱくり。

 横目に映るアルコールへの好奇心。嗜む人が少し羨ましくもあるが。
「ま、そのうち勝手に飲めるでしょ」
 今はまだ、これがちょうどいい。
 それにきっとそのうち眼鏡のおじさんが分からせに来る。

 吐息――レディの微笑。
「フッ……」
 テラスの席で夕日に瞳を細めるタント。
「サンライズ。わたくしに相応しい名前のカクテルですわね。今日ばかりは馬鹿騒ぎはせず、お澄まし顔で大人のレディの仲間入りですわ……」
 そう、彼女にもこんな日がある。

 一方その頃――
 手に持った花火に火をつけたメリンダ。
 まばゆい火花を噴き上げ、指元に迫る灼熱。

 これは――大変。
 刹那の間合いでメリンダは悟る。これは『手にもっちゃダメな奴』だ。
 だからメリンダは投げた。そりゃもう力いっぱい投げた。

「ぴゃーーー!?」

 遠くから叫び声が聞こえる。この声は――
「あら、ごめんなさい。なんだか私達、よく会うみたいね。運命かしら?」
「ぎゃあ!? メリンダ様!? また貴女ですのね!? 運命なんて感じませんわッ!」
 花火をぶつけたお礼にとメリンダは奢りを申し出る。
「情熱の赤……大人の味……これを作っていただけるかしら?」
 大人の味に興味津々なタントは差し出された情熱の赤(ハバネロドリンク)を煽った。
「ぴゃーーー!?」
「ふふ……賑やかな夜だわ」

 お口が燃えても。お尻が焦げても。

   \きらめけ!/

   \ぼくらの!/

 \\\タント様!///


 水着の上にTシャツを羽織ったヘイゼルは水上バーの入り口に立つ。
 とうとう混沌での成人を迎え、お酒が飲めるようになったのである。
 彼女の出身世界では十五で成人だったのだが、孤児院上がりで奨学金を使って軍学校へ通っていた彼女には――単純な話、お金が無かったのだった。
「ですから、今日がちゃんと大人にお酒を飲む初めての機会かもしれませんね」
 メニューを開けば沢山の種類。
 どれがお勧めかを問うてみれば。
「フレッシュな果物を使ったものはいかがでしょう?」
 ならばとそれをお願いしてみる。

 程なく。
「ガルフストリームです」
 名前とは裏腹にフルーティで可愛らしい味わいのお酒だった。
 エメラルドの海を思わせる色彩。ハードシェイクが織りなす白い泡は、さながら波のように。

「……わ、美味しい」
 サラミとドライトマト。キノコ、チョリソーにたっぷりのチーズが口に幸せを運んでくれる。
 アンチョビの塩気がちょうどいい。
 フローズンダイキリが火照った身体に染み渡る。
 さっそく舌鼓を打ったのはイーハトーヴだ。

 他のカクテルはオレンジ色の甘いものがいいだろうか。
「どれもすごく綺麗で、君の新しいドレスのアイデアが沢山浮かびそうだよ、オフィーリア」
 飲み過ぎだと注意するオフィーリアに平気だと笑うイーハトーヴ。
「俺の可愛いお姫様は心配性だなぁ。ふふ」
 可愛いオフィーリアがこんなにも心配してくれるんなんて。ああ、改めて好きだなとイーハトーヴは思った。

「こんばんは、イレーヌ様」
「こんばんは、サクラさん」
 彼女の自己紹介を、しかしイレーヌは知っていたようで、サクラは微かに頬を染める。有名になってしまったものだ。
「天義の危機に幻想の大司教様のお力添えを頂けるとは。本当にありがとうございます」
「皆さんのほうが大変でしたでしょう」
「そんなとんでもない!」
 そんなやり取りの中、どうしても視線はイレーヌの姿に。
「どうされました?」
「イレーヌ様、素敵な水着ですね!すごく魅力的です!」
「これは……」
 一体誰の差し金なのだろう。不――いや正義だ。うん。

「オーダーはいかがしましょう?」
「ビーフステーキ450gと朝採り夏野菜のバーニャカウダ、近海魚のカルパッチョを。あとフレッシュジュース」
「オレンジでよろしいですか?」
「はい」
「健康的ですね?」
「昼間泳いできたんでお腹減っちゃって……」
「それでは私はチーズとバゲットに。それから帆立貝の酒蒸しを」
 イレーヌは何も食べずに一杯いったらしい。

 戦いは――喜ばしい事ばかりではなかった。
 けれど前に進もうという意思をこめて。
「乾杯です」

 花火も終わり、夜も更けてきた。
 相棒のぱらぞんの隣、海に面した席で。
 ココロは山で採れる料理を皿にのせていく。
 海種である彼女は魚介類を頂かない。

 ふと、視線を流して酒を飲み干す人を捉えた。
「あれ飲むと楽しい心になるんだね……羨ましいな。ちょっと一杯くらいなら」
「へい! 帆立貝の酒蒸しお待ち!」
 隣の席に運ばれた料理にビクリと肩を振るわせるココロ。
「いけない、いけない」
 ぶんぶん首を振って次に見えたアルテナとイレーヌの”大人”な部分に眉を寄せる。
 やはりあそこまで育つには肉が必要か。

 行くべき?
 ――1ポンド・ステーキ。

 はてさてそんな席の隣のこと。
「ふっ、カクテルを頂きましょうか」
 わかっているのだ。毎年恒例。
 人は一年に一つだけ歳を取る。剣は振り回してもアルコールは二十歳から。この世界はそういう風にできている。
 実は――四音の『構造』上、物の味を感じる事は出来ないなれど。

「乾杯!」
「かんぱーい!」
「サンディさんもお疲れ様!」
「うんうん」
 あんな戦いの後だ。そんな話にも花が咲く卓へ。
「へい彼女ー、お茶しないー? 今夜は熱い夜を過ごそうぜー」
「四音さん、急にどうしたの? 一緒に食べる?」
「そんな残念な子を見るはやめていただけませんかね」
「え、えぇ……」
「私は聡明で深慮で賢者な知性あふれる存在なのですからね! ね!!」
「え、うん。そ、そうね」
「そんな残念な子を(略)」
「ま、まあ、飲もうぜ」
「ええ、そうしましょう」
 各々の口から語られるのは他愛もない話。それから戦いの話。
 そして――
「私だってびっくり」
「いやほら、だってあのイレーヌちゃんだぜ?」
「うんうん」
 カウンターに座る物憂げな女性の話題だ。
 陰口ではないが、ちょっと声は抑え目に。
「こーゆー場所に来るのも」
「うんうん」
「水着で来るのも予想外だろ……! そー思わねーか?」
「……うん」
「いやしかしすげー水着。自分で選んだのかな……」
「……うん」

 あ。
 あー。

「いや、その水着も……」
「なあに、それ」
 やばい。拗ねたか。フォローに回るサンディ。若干、遅かったろうか!

 ならばここは四音が。そろそろ千夜一夜語っちゃう?

 ――そんな久しぶりの休暇だった。

 激戦に続く激戦は、黒羽に休む暇も与えていなかったのだ。
 尤も、死闘を続けたのは他の面々も同じではあるのだが。黒羽のことだ――きっと戦いでは盛大に殴られ続けたに違いない。
 ともあれだからこそ。この催しは非常に有難いものだった。

 ナッツの盛り合わせ。それから生ハムとサラミの盛り合わせをちびちびと摘まみながら、周囲で花咲く話題も肴に加えて。
 飲み物は焼酎があればよかったが――ビールでも頂こうか。


 少し夜風が出てきたか。

 ジークと連れ立つゲオルグがカウンターに座る。
 静かで落ち着いた時間は悪くない。

 食べ物は――この世界の果物を頂いてみよう。
 それからチョコレートの盛り合わせだ。

 飲み物はあえて果物に合わせる形で、おすすめのカクテルからマスター任せに。
 ジークはフレッシュジュースを。
「ジンベースのチョコレートマティーニと、こちらはマンゴーのスムージーです」

 果物はマンゴーにパパイヤ、パイナップル。スターフルーツにドラゴンフルーツ。
 内陸では残念になりがちなドラゴンフルーツは、現地で食べると案外甘い。
 チョコレート。こちらは苦みが強く、こちらは甘いようだ。
 ロシアンルーレット気分も良いだろう。
 ジークには甘いものを選んで進呈する。
 美味しそうに食べる姿が愛おしいものだ。

 カウンターで一人。クローネはグラスを傾ける。
 バーは一人というのも、気兼ねなく良いものである。
「ジントニック。ビーフイーターにビターズを一滴加えてお作りしました」
 少しだけ香る。
「……最近、自分でカクテルを作る事になりそうなんですよね……何か、オススメはあったりするでしょうか……」
「この季節で簡単なものですと、カイピロスカはいかがでしょう?」
 なるほど。それなら砕いた氷にウォッカとライム、砂糖があればよい。
 さて二杯目。
「ジンでしたら、凍らせたNo.10をお出ししましょうか?」
「……お願いします」
 シャーベットのような舌ざわりの一杯。芳醇でキレのある香りが広がる。

 そして三杯目。
 メニューは見たことのないものが多く。
「……良ければお勧めを教えて頂けないでしょうか?」
「お好みはございますか?」
「……甘くて、度数の高いものを希望します 」
「では、凍らせたブルースパイダーを。大人のソーダアイスですね」
 なんだかガリガリで少年な味で、ひどくドスが効いていた。

「珍しい人が居るものねぇ」
 これまた珍しい衣装で。
「同感。です」
 アーリアの声に、イレーヌがほほ笑む。
「一杯どうかしらぁ?」
「血が足りませんものね」
 二人はくすくすと笑う。
 まずはキールを。イレーヌはデモニアベースのカーディナルが気に入ったらしい。
「帆立がおいしかったですよ」
「じゃあそれを頂こうかしらぁ」
「かしこまりました」
 フルネメシスを侵食するカシスがまるで、最近みた光景に思えて。
 二人はもう一度笑った。
「そういえば、身体の方は大丈夫なのぉ?」
「この通り、もう少し血が必要です」
 いたずら気に空のグラスを回した。なんだか大司教とは思えないが、大丈夫そうで安心する。
「そちらはどうです?」
「私もよぉ」
「では……次が必要ですね」
「あらぁ」
 思わぬ問いかけにアーリアがほほ笑む。
 ならば次は『幻想三大貴族を飲み干してみる』とか。

 お互いの無茶で手に入れた、貴重な時間だ。
 今日位は、ゆっくりとお酒を楽しもう。

 カウンターが良く見えるソファ席に集まる三人の集いは――酒の縁であろうか。
「ふっふっふ、これだけのお酒……飲めるチャンスを逃す手はありませんわね!」
 不適な笑みで拳を握るヴァレーリヤことヴァリューシャがウェイターに告げたのは。
「メニューのここからここまで、持って来てもらえるかしら?」
「全部……でございますか」
「ええ、全てロックで!」
「……かしこまりました」

「僕はそうですね……『ブラックウォーカー』のダブルをロックで」
 王道のブレンデッド。さすがに飛ばす。
 こうしてアルプス・ローダーが酒を楽しめるのもまた、混沌肯定の為せる業。
 前の世界の相方は、図体の割に弱かったから。当てつけ――轢き逃げではない――というものだ。

 僕は貴方より腕っぷしも酒も強くなってしまったんですよ――と。

 はてさて、対面の二人はやるものだ。
「私は……この歳になると『選択と集中』ですね」
 若いころなら、同じことをしていたであろうが。
「フィッツバルディを」
「ボトルでよろしいでしょうか?」
「もちろん」
 今宵の寛治はワインで攻める。幻想三大貴族の家名を冠したワインとは気になるところ。
 肴は各々の好みと、オススメでよかろうか。

「左からムルシエラゴ 、ロンリッツパーク、キャプテンドレイクでございます」
 いつものウォッカも悪くないが、試したことのないお酒を飲むのは楽しいもの。
 穏やかな辛口のムルシエラゴ。まろやかで薫り高いロンリッツパーク。甘くスパイシーなキャプテンドレイクはバニラアイスとも合いそうだ。

 寛治はまずフィッツバルディをテイスティング。思いの外、華やかな香りが鼻孔を擽る。
「なるほど」
 だが口に含めば予想通り、辛口かつ強いボディだ。

 三人の様子を伺うマスターが、カウンターのボトルを並べ替え始める。ヴァリューシャに飲ませる順番を決めているのだろう。
 時間は穏やかに流れ、杯の入れ替わりは激しく――

 口当たりの良さと穏やかな味・香りから食中酒に最適なバルツァーレク。
 アーベントロートは一口テイスティングしたら、少し時間を置いて香りを開かせてからが本番。血のように赤いフルボディに、満開の薔薇のような豪奢な香りが開きます。
 おっと。
 ヴァリューシャが興味深げに振り返る。
 アーベントロート、さっき飲んだけれど、ちゃんと時間を置いて飲んだろうか。
「ごめんなさいマスター、あれをもう一度頂いても宜しくて? 何だか気になってしまって」
「かしこまりました」

「アルプスさん、ヴァレーリアさん、宜しければ私がエスコートをさせていただいても?」
 無論。是非もない。

 こうして――

「えへへ……もう飲めませんわ」
 ヴァリューシャが幸せそうにつっぷすものだから、今日はこのブルーウォーカーでおしまい。
 アルプス・ローダーのグラスが澄んだ音を立てた。

 お酒の種類だけ、人の物語はあるのかもしれない。

(いえ、その理屈だと司祭が人生経験豊富な人格者になってしまいますね)

 えへへ……

 ――

 ――――ジェイクは失う怖さを知っている。
 だから、家族を欲した。

 それは幻も同じで。二人で共に歩むと約束したから幻影に打ち勝ち大きな戦いから戻ってこれた。
 今はそれだけで、幸せを噛みしめることが出来る。

 幻の大胆な水着に目を奪われる――
「綺麗だよ幻」
 絞り出した言葉。出来ることなら今すぐにでも抱きしめたいぐらいだ。それ程に美しい。
 幻もまたジェイクの引き締まった身体に胸を躍らせる。
 差し出された手に幻の指先が乗って。

 オーダーは彼女の青い羽根をイメージした幻想的なカクテル。
 パイナップルリキュール、ウォッカ、ブルーキュラソー、レッドワイン、ジンジャーエール――微かに花。
 キラキラと煌めく愛の香り。

「触れてもいいかな?」
 返事をするより先に彼の筋張った男の手が幻の髪を撫でる。
 強引なのに心が解れていくようで、彼女は恋人の肩に頭を預けた。
 絡み合う指先と甘い言葉。触れられるだけで広がる快感に心が満たされる。
 幻は小さく「はい」と紡いだ。
 ――夏の夜に触れあう体温はいつもより熱を帯びる。

「もうちょっとゆっくりさせて欲しいなー」
 ルナールの背中にもたれたまま、苦笑を混ぜてルーキスはワインを一口煽る。
 魔種のごたごたが収まったと思えば、今度は祭事だと大騒ぎ。
 実に慌ただしいことこの上ない。
 カルヴァドスを傾けてこれはこれで楽しいとルナールは微笑む。
「あ、そういえば新調した水着どーう?」
「ん?あぁ、今年の水着な。勿論似合ってるし綺麗だぞ」
 渡されたカクテルを飲み干していつも通りの答えを返した。
「悪酔いするからきちんと食べたまえよー」
 寄りかかり、のし掛かり。ルーキスは恋人に絡んで行く。
「酒は好きだが、酔わんし悪酔いもしないんだよなぁ……」
 逆にルーキスが口につまみを運ばれ、もぐもぐと咀嚼していた。

「あっはっは、いやあ回りが早いね。疲れてるのかな?」
 瞼を落としかけているルーキスを引き寄せて自分の膝の上に誘うルナール。
「ルーキスが酔うってことは疲れだろうさ、こんな時くらいゆっくりしてろって」
 彼の手のぬくもりが心地よくて、ルーキスは漣の音を聞きながら瞼を閉じた


 雪之丞とシオンは夜の浜辺を歩いて行く。
「シオンは酒を選んだようですが、もう大人だったのですね」
「んー……そーだよ……ラサで育って、混沌中の色んな国を傭兵として回ったりしてたからね」

 雪之丞は手に持ったフルーツジュースと相手のカクテルを見比べた。
「ジュエリービーチっていう美味しそーなカクテルを選んだー……」
 ふわふわとした声色でフルーツジュースを所望するシオン。
 代わりにカクテルをというわけにはいかないので、雪之丞は自分にグラスを渡す。
 初めに鼻孔を抜ける微かなレモン。味わいはピーチにバナナ、オレンジとそのピール。ザクロの赤が織りなすグラデーションと共に。
 ラストノートはリュウゼツランのコーディアルか。
「おーいしー……!!」
 にこりと笑ったシオンは雪之丞の水着を見つめた。
「今年のゆきのじょーの水着はなんていったけ……? そーだ……大胆って言葉が似合うね」
 シオンの言葉に彼女の頬が赤く染まる。

「……月と星の光がゆきのじょーのお肌にほんのりとアクセントを加えてて……とっても綺麗だよ……」
 恥ずかしさに口元を隠した雪之丞は、話を逸らそうとシオンの水着に言及した。
「そちらは、可愛らしいですね。なぜ、女性用かは不思議なのですが」
「えっ……女性用なの……? まあ……」

 似合ってるならいいかな。と。

 ――

 ――――

 潮風が蜻蛉の髪を浚う。踝を冷たい波が抜けていった。
 花火の後の静寂。慣れたような喪失感。聞こえる漣が二人を包み――

 手の中のプレリュードフィズを一口。
 レモンがはじけ、ヨーグルトのような優しい甘味の奥に、蜻蛉は仄かな苦みを感じて。

「花火……綺麗やった、ね?」
 立ち止まり振り向いた蜻蛉が微笑みを浮かべる。
 彼女の瞳には十夜の白い浴衣が映っていた。
「あぁ、そうさな。……また今年も“切なくなった”かい?」
 純白のカクテル――マウントフジのグラスを揺らして十夜は口の端を上げる。

「……切なくなるから、見るんやないの」
 去年もこうして浜辺で紡いだ。花火の余韻。切なさの音。
 からかい混じりの笑い声は蜻蛉の温もりと甘い香りに遮られた。
 火照った頬を十夜の胸に預けて寄りかかる蜻蛉。
「酔うてしもた……少しだけでええから、こうしとって」
 蜻蛉の言葉はきっと嘘だ。けれど十夜は「……ずるいな、お前さんは」と呟くだけ。

 波の音が二人の間を通り抜けて行く。
 本当にずるいのは、この温もりを抱き寄せる事も、突き放す事も選べない十夜なのだろう。
 小さく漏れた謝罪の言葉に、蜻蛉は眉を下げた。
「……馬鹿ね」
 儚い夢。背中に触れる切ないぬくもり。

 今はそれだけで――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

依頼お疲れ様でした。

のんびりとしたリゾートをお楽しみいただければ幸いです。

それでは。また皆さんにお会いする日を心待ちにしております。
pipiでした。

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