シナリオ詳細
<夏祭り2019>儚き光、夏の夢
オープニング
●うだるような暑さと
風が熱を含み、町の市でも体を冷やす飲食物が目につくようになった。
「夏、ですね」
「暑くて溶けそうです……」
ぐったりとしたブラウ(p3n000090)にマリーは苦笑して、手元にあった団扇で風を送る。ふわふわとした毛をもつひよこには過酷な季節だ。
「夜になれば、多少はマシかと思いますけれど……そうだ、ブラウさん。海洋で行われるサマーフェスティバルはご存知ですか?」
是と頷くブラウは、しかし実際に見たことは無いようで。
「折角ですし、見に行ってみては?」
「ぴよ……あ、暑いのは……」
ブラウが視線を泳がせる。よほど堪えているらしい。
そうですねぇ、と思案を巡らせたマリーはぽんと手を打った。
「では、花火をしましょう」
「花火?」
「海洋の職人が作っているものですよ。大きなものは空に浮かびますが、小さなものなら手に持って遊べます」
花火、祭り。日が落ちればブラウも動く気になるだろうし、夏の風物詩とも言えるそれらを是非経験してもらいたい。それはブラウだけでなく──他のイレギュラーズにも。
「ブラウさん、依頼書の作成をお願いします。内容は──」
●祭囃子は遠く
ドドン、ドン、と太鼓の音がどこかで響く。
誰かはその祭りに行っていたのかもしれないし、誰かはこの為だけに訪れたかもしれない。もしくは、何となく歩いてたら集まっていたのかもしれない。
「──イレギュラーズの皆さん! こっちですよー!」
マリーの持つランタンに照らされて、黄色いひよこがぴょんこぴょんこと飛び跳ねる。精一杯羽ばたく翼は、しかしその体を浮かせるほどの力はない。
理由は何にせよ、イレギュラーズたちは海岸に集合していた。昼間より格段に元気を取り戻したブラウが、イレギュラーズたちを見回して「ぴよ!」と声を上げる。
「皆さん、花火は持ちましたか? 火はこちらに。危ないので人に向けないように──僕にも向けないようにして下さいね!」
集まった面々が頷くのを確認して。ブラウもまた、くちばしで花火をくわえ持った。
賑やかなサマーフェスティバルの片隅。祭囃子より遠くにあるここは、どこか物寂しい気がして。
それはどこか──先日の戦いによる余韻にも似ているかもしれない。
- <夏祭り2019>儚き光、夏の夢完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年08月03日 23時55分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
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参加者一覧(30人)
リプレイ
●
ゆらりと、大きな体が波打ち際を進んでいく。波と砂を踏む感触を楽しんでいたアルペストゥスは、風が運んできた匂いに顔を上げた。
仲間たちの持つ、光を出しているそれ。匂いの元であり、アルペストゥスは近づくと火花をじっと眺めていた──のだが。
不意に横切った黄色い物体に興味が逸れる。嘴に加えたそれに、黄色い鳥は丁度火をつけたところのよう。サイズ的には、時折自分が捕らえて食べる鳥類と大差なく見える。
気になるぞ、と近づいていくと鳥が──ブラウがふと振り返った。嘴がぱかっと開いて花火が零れ落ち、砂に火が消される。
「っ、ぴーーーーーーーーっ!?」
逃げるブラウ。追いかけるアルペストゥス。花火の中動き回る影は──おや、もう1つ。
砂浜で軽快なステップを踏み、時に激しく、時に緩やかに踊るクリスティアン。去年も花火を持って踊った気がしなくもないがそれはそれ。今年は今年ってやつである。
最後のターン、と華麗に回ってみせたクリスティアン。その足元へねずみ花火が飛び込んでくる。
「あっつぅ!?」
クリスティアンの悲鳴が上がる。同時に、何だか焦げ臭い匂いがし始めて──彼は一直線に、海へと飛び込んだ。
「まずは定番からだな」
すすき花火を手に持ったクロバへ、早速ルーミニスが花火を彼へ向ける。
「火傷なら大丈夫よ、近くに海あるし!!」
ニマニマとした表情は、クロバが泳げないことを知っているそれ。けれどもねずみ花火を仕掛けれはぎょっと目を丸くする。
「こ、これ勝手に暴れてるけど大丈夫なの!?」
「こーいうもんだろ? まさかビビって──」
「ビビってるわけじゃないわよ!」
眦を吊り上げるルーミニス。手筒やスパークの手持ち花火、小さな打ち上げ花火も堪能した2人は最後に線香花火へ火を灯した。
先ほどまでとは打って変わって、静かな時間が流れる。
「正直、他のに比べて地味だろう? だけど俺1番好きなんだ、これ」
仄かに明るい線香花火が、ぽとりと落ちて。新しい花火を出しながらクロバはルーミニスへ勝負を持ちかけた。
「いいわよ、絶対負けないわ!」
ルーミニスも新しい花火を取り出し、2人はせーので火をつける。
じじ、と震える玉。黙ってそれらを凝視して、クロバの火が落ちそうになった時──不意に、2人の線香花火がくっついた。
「……あーあ、引き分けね。残念だわー」
ルーミニスは肩を竦めながら、けれど悪戯っぽく笑ってみせる。
勝負ではあったけれど──1つだけで消えて落ちていくなんて、1つだけ残ってしまうなんて寂しいものだから。
「花火、綺麗だね!」
『……お前は、感想と言ったら『綺麗』しかないのか?』
その言葉の主は、シャルレィスの周囲に見当たらない。これは彼女の脳裏にのみ響く、眼帯に灯った魂の声。それはどこか、呆れたようで。
『星を見た時も、月を見た時も、そう言っていただろう』
シャルレィスは口を尖らせるも、あることに思い至って笑みを浮かべた。
「いつも興味ないって言うのに、ちゃんと覚えててくれてるんだ」
『たまたまだ』
「またそういうこというー!」
沢山花火して綺麗と言わせてみせる、とシャルレィスは言いながら花火を振り回して。そこへ彼女にしか伝わらない、巴のツッコミが入った。
「わたくし手持ち花火って初めてですわー!」
きらきらと瞳を輝かせるタントは大丈夫ですかしらと一瞬首を傾げるも、隣のクローネを見て力強く頷く。
「先輩がいらっしゃいますから大丈夫ですわよね!」
「私も初めてッスけどね……説明通りに使えば大丈夫でしょう」
というわけで、いざ点火。タントの手元からバチバチとスパークのように火花が溢れる。
「ひゃーーー! すごいですわすごいですわ!」
「……楽しそうで何より……はしゃぎ過ぎて人に向けないように、」
「先輩先輩! わたくしとどっちがきらめいておりますかしらーー!?」
眩しさに思わず手を目元へかざすクローネ。目を盛んに瞬かせ、少し目が慣れてきてからやれやれと小さく溜息を零す。
「……それじゃあタントが眩し過ぎて見えませんよ……」
そう呟けば、タントはドヤ顔で自らの勝利を宣言して。クローネの花火にも火をつけるべく、手に持つ花火を差し出すと彼女は花火を交差させた。
「……ん、点いた……ありがとう」
「……なんだかこれ、あれですわね。シガーキスみたいですわね!」
きゃっ、と声を上げるタントに、クローネは思わず目を逸らす。その目元はどことなく赤い。
(恥ずかしい事を言ってくれる……)
一体、何故そんな言葉を知っているのか。そう思っていると、ふと浴衣越しに温もりが触れた。
「綺麗……ですわねー」
「……ええ、とても綺麗……」
この一瞬しか見られなくて──勿体ないくらいに。
「おーい、シャクティ! ブラウ! 花火やろうぜー!」
「ぴよっ! フグさんもご一緒なんですね!」
「フグじゃねぇよ! カーバンクルだ!」
ちみっこいのがわらわらと集まり、賑やかに言葉を交わす。シャクティは「ワモンのダチコーなら俺のダチコーでもあるな」とブラウに声をかけて。
「そういやブラウ、どんな花火があるんだ?」
出来るだけハデでかっちょいい花火を所望され、3本の花火を持ってくるブラウ。それぞれ手に──あるいは嘴に咥えて──3匹は同時に火をつけた。
「ドラゴニックファイアー!」
「ワモンにもブラウにも負けねぇぜー!」
放出される光に歓声を上げるワモンとシャクティ。ブラウもばっさばっさと翼をはためかせる。あっという間に光は止むものの、これだけで終わる3匹ではない。
「次はせんこーはなびしようぜ! あれは誰かと一緒で、誰の玉が1番長く持つかしょーぶしねーと盛り上がりにかけるんだ」
ワモンの言葉に2匹が頷く。丁度人数もいる事だ、長持ち勝負もできるだろう。
「いいぜ、勝負だったらなんでも受けてやる。俺は男の中の男だからな!」
「格好いいですフグさん!」
「フグじゃねぇっての!!」
3匹の賑やかさは線香花火の間も止むことなく。もう1回、もう1回と何度も花火を貰いに行く姿が目撃された。
「花火って種類があるの……?」
どうしようかと悩んだシオンはオーソドックスにすすきのものを。ヴァレーリヤは悩みに悩んで「決めましたわっ!」と勢いよく手を伸ばす。──が。
花火に触れる最中、手が何かに当たった。逆さにされたバケツへ乗せられていた、ろうそくの光が傾げて──花火の山へと、落ちていく。
ぽかん、とそれを見ていた2人。先に我へと返ったのはヴァレーリヤだった。
「シオン、お水! お水を持って来て下さいまし! 早くしないと大変なことにあわわわわ!!」
光と音の中でヴァレーリヤが逃げまどい、それを見たシオンが逆さにされていたバケツをひっつかむと海へ走った。
「取ってきたー……!!」
ばしゃん、と花火の山へかけられる海水。沈黙する花火たち。
「はあ、ひどい目に遭いましたわ……シオン、大丈夫? 怪我はしていませんわよね?」
頷くシオンは、ヴァレーリヤにも怪我などがないと知ってほっと一息つく。
「無事だったし花火やろー……! 謝ればきっと許してくれるだろうし、まだ沢山花火はあるし……!」
「そうですわね」
周りを見渡せば、花火の山は点々と置かれているようで。花火が全て駄目になったわけでないのなら、後で謝りに行けば問題ないだろう。
「では、今は花火を楽しみましょう!」
「おー……!」
●
「おぉ流石、ルナール先生は手慣れていらっしゃる」
「元の世界じゃ夏の風物詩みたいなもんだったからな」
「こういう文化には疎くてねー」
はい、と手渡された花火は既にルナールによって火をつけられたもの。ルーキスはそれを持って光と音を楽しむ。
「じゃあ次はー……これとか?」
適当に選んだものをルナールへ渡せば、彼が一瞬それを凝視した。
「……?」
「ま、いいか」
首を傾げるも、ルナールは1人納得したように頷いて。危険でない場所でそれを爆裂させれば、後ろで小さく声が上がった。
「ビックリした、いきなり爆音」
ルナールの背後へと避難したルーキスに、彼は笑いをかみ殺す。……肩は震えてしまっているが。
「っ、すまんすまん。これが爆音って知らなかったんだな」
「ええいそこ笑わない!」
仕方ないではないか、と軽く拗ねた表情をしてみせて。そんな彼女の頭をルナールが優しく撫で、次の花火を渡す。
「これは?」
「線香花火だ」
火を灯せば、ジリ、と震えて、小さく火花が出始めて。それを眺めながら、ぽつぽつと言葉を交わす。
「夏の風物詩らしいし、次は来年かなー?」
「うむ、また一緒にやろうか」
浴衣が欲しくなるから、お揃いで着ようか──なんて、来年へ思いを馳せながら。2人はただただ、小さく光を放つ花火を見つめていた。
アレクシアの手元で、ぱちぱちと音がし始める。
(深緑だと、花火ってあんまり見なかった気がするんだよね)
打ち上げ花火とはあまりにもサイズが異なるけれど、知らなかったものを目にする高揚感は変わらない。ワクワクして、楽しい気持ちになって。
(もっともっと色んなことを知って、色んなことを楽しんでいきたい)
知らない、楽しいことはきっとまだまだこの世界にある。だからまずは今夏。去年よりも楽しく、沢山のことに挑戦する夏にするのだ。
そう思っている間に、手元の光がぽとりと落ちて。
「こんなに愛らしいのは、初めて見る。綺麗で、懸命で、儚いものなんだな」
イーハトーヴが呟けば、隣で線香花火を見つめていたシャルルがちらりと視線をよこした。その口端には小さく笑みが灯る。
「慈しみたくなるのは……変、だろうか?」
「いいや、全然」
ね? とシャルルが視線を向ければ、イーハトーヴの肩に止まっていたシマエナガがかくりと首を傾げた。
「そうだ。この子の名前、考えたよ。ジジっていうんだ」
人懐こく、少し夢見がちなシマエナガ。ふとイーハトーヴがジジに耳を寄せ、ああそうかと1つ頷く。
「ジジが、君にまた会えて嬉しいって。俺も、君に会えると嬉しいよ」
「……ふふ、何だかくすぐったいな。でも……ボクもだよ」
視線を合わせる2人の間で、線香花火が小さく音を立てた。
「花火! ……花火ってなんだ?」
ファレルは首を傾げる。何せ元の世界では森と森と森ばかりだった。森しかない。花火は勿論、火薬だって見たことはないのだろう。
けれど、周りのイレギュラーズたちが遊んでいる様子から面白そうな事はわかる。ファレルは花火を受け取ると、見様見真似で花火の先に火を灯した。
「おー!」
シュワ、とすすきのように飛び出る火花。わくわくして楽しくて、もう1本も火をつけると両手に持ってくるくると回り始める。周りへと飛び跳ねる火花に、線香花火を見てぼんやりしていたグレイルも流石に「わっ」と目を丸くした。同時に線香花火の火がぽと、と落ちる。
「おっと、ごめんごめん。それも花火? ってやつ? こっちとは全然違うんだな」
ファレルの言葉にグレイルは火の始末をしながら頷いた。派手な花火も悪くないけれど、こちらの方が儚くて、この夜にはぴったりだと思ったのだ。
「今度はそれで遊んでみようかな」
「それじゃあ……もう1本……貰いに行こうか……」
自分のもなくなってしまったし、とグレイルは立ち上がる。2人は再びマリーの元へと足を向けた。
「わ! 思ったより勢いよくついた……!」
すすき花火に目を丸くしたポテトへ、リゲルが怪我はないかと気遣う。大丈夫だと返されればほっと表情を和らげた。
「じゃあ、俺は……やはりこれかな」
それは? とポテトがリゲルの手元を覗き込む。今自らが持っているそれとは形状が異なるものだ。手筒花火と言うらしい。
火をつけて海を向けば、大きく飛んだ火花が海面で反射してキラキラと煌めく。
「綺麗だろう?」
「ああ。手持ち花火って色々あるんだな」
こちらは打ち上げ花火とまた違った良さがある。家に帰ったら家族でやってみても良いだろう。2人の帰りを待つ『あの子』が大はしゃぎして振り回しそうだ。
「手持ちスパークもいいかもしれないな。星が煌めくようで綺麗なんだ」
帰ってからの計画を考えながら、2人は線香花火を手に取る。これまでとは違って静かで、風情のある花火だ。
「……でも最後までしっかり爆ぜて、思いっきり遊んだこの夏みたいだ。今年はリゲルの金魚すくいのインパクトが凄かったが……来年、どんな夏が過ごせるか今から楽しみだな」
ポテトはニッコリと笑って、リゲルの頬へとキスを落とす。彼もまた優しく微笑むとその肩を抱き寄せた。
「ポテトの浴衣も雅で美しかったよ。来年の夏もきっと……ポテトがいるからこそ、素敵な時間を過ごせるのだろうな」
頬へキスを返して──2人は見つめ、微笑み合った。
集まっている様子に立ち止まったのは、偶々だっただろう。十夜は花火を受け取ると、海岸の一際濃い暗がりへと歩を進めた。
仲間たちの賑わいからも遠ざかったのは──ここが海岸故か。いつもの気まぐれか。
──まるで、命みたいでしょう?
嗚呼、そう言ったのは誰だっただろう。その言葉はやけに寂し気で、十夜は落ちようとする火を受け止めようとしたのだ。
(……今思えば、我ながら馬鹿なやつだ)
痛かった。熱かった。命がこんなにも熱いものなのなら、2度と触れそうもなく。
ぽたりと火が落ちて、十夜は無感情の色を変えずにそっと目を閉じる。
(最初から──手を伸ばさねぇ方がマシだと思ったんだ)
「花火は一瞬で消えてしまうけれど、刹那の輝きがとても綺麗」
「咲いてすぐに消えてしまうよって、その一瞬に全部をかけとるんかも……しれやんね」
クラリーチェと蜻蛉は線香花火を静かに見つめる。聞こえるのは祭太鼓と、波と、そしてちりりと鳴る花火の音。
(手元で優しく光を放つ線香花火は、愛おしく感じます。……などと言うと、笑われてしまうでしょうか?)
ちらりと蜻蛉を見れば、偶然にも目が合って。蜻蛉がにこりと微笑みを浮かべる。
(線香花火は、控えめで可愛らしゅうて。クラリーちゃんみたい)
口には出さずに、新しい線香花火を取り出す。あ、とクラリーチェが小さく声を上げた。
長く感じていたのに、あっという間で。これが最後の1本ずつのようだ。
「終わるのが寂しく思います」
「ものには終わりがつきもんや。……やから、尊いの」
ちりちりとなる花火に2人は視線を向けて。
(また来年、お誘いしましょう)
クラリーチェはそれまでに歩き方をマスターせねば、と心の内で呟く。見た目は形になっても、下駄は慣れなくて。最も、幾分か大人びて見えるクラリーチェがぎこちなく歩く様は、蜻蛉にとってとても愛らしく──微笑ましいものでもあったのだけれど。
──また、来年も。儚く燃えつきるこの花が、咲きますように。
(お祭りの中から少し外れているからかしら……此処は、他よりも少し静かなのね)
線香花火に光を灯した佐那は、遠くから聞こえる祭太鼓に耳をすませた。
去年は1人ではなく、2人でこうして花火をした。故郷にいた頃は友人と言える存在もあまりいなかったから、尚更去年は楽しくて。
──佐那さまっ、知ってますかっ!
昨夏の彼女を思い出す。火が苦手だったのだと花火を放り投げた姿を。それでもうっとりと花火を見つめていた様を。意外と抜けているところもあったと佐那は小さく笑みを浮かべるけれど──今年も、その先も。彼女はもう、隣にはいないのだ。
「わわわっ! 棒の先から光が出てきた!」
先ほどまでどんなものなのだろう、と首を傾げていたアニーは目を輝かせて手持ち花火の光を見る。綺麗だろ、という零の言葉に頷いて。
「こうグルグル動かせば……光の線だってかけちまうんだぜ……! あ、人には当てないようにな!」
アニーに当たらないよう、くるくると横8の字を描いてみせる零。真似してアニーもくるくると小さく円を描き始める。
「ねね、他には? どんなものがあるの? 教えて!」
「ふふっ、いいぜ、他にはな──」
吹き出し花火や蛇花火、ロケット花火、ねずみ花火と色々な花火を試す2人。追いかけてくるようなねずみ花火に、アニーは驚いてぴょんぴょんと駆けまわる。彼女の姿に零は苦笑を浮かべてみせた。
「びっくりしたぁ……そうだ、零くんが言ってた線香花火ってあるかな? 私それを見てみたい!」
「良いな、折角だしやろう!」
線香花火を手に持った2人は、ぱちぱちとはじける火花をじっと見つける。
「これが結構落ち着くっつうか……いいんだよな」
「なんだか儚くて、ちょっと切なくも感じて……」
この花火が1番好き、というアニーの言葉に零が視線を向ける。「アニーも?」と言葉が漏れて。
「俺も好きなんだよ、これ……」
静かな雰囲気の中、ふるりと線香花火の玉が震えて──ぽとり、と。
「手持ち花火、ですか?」
「ええ。珠緒さん、せっかくだから楽しんでいきましょ」
珠緒と蛍は色違いの面を頭に、浴衣姿でいざ手持ち花火。リボンのような紙がついた花火を珠緒が持てば、蛍は蝋燭のある場所へと珠緒を誘った。
火をつけ、突如発生した光と色に珠緒が目を丸くする。
「しゅわっと! 炎が……あ、色が、また」
「色も音も中々派手で華やかね」
これも確かに花火である。むしろこのサイズで様々に彩りを変化させるとは、侮りがたし。
「色が移り変わって、別々の美しさがあるからこそ……余計に心に響くのかしら」
そう呟いた蛍は、自らが選んだ花火を手に持つ。珠緒が選んだものよりも数段細く、まるで紙縒りのようだ。
「見た目も音もか細いけど、だからこそ余計にしっかり見ちゃうって言うか、見入っちゃうっていうか」
火を灯せどそれは大きな音も光も出すことなく。ジリ、と小さく音を立て始める。
「あっ……まるいのが、ぱちぱちと……」
ほう、と見つめる珠緒。蛍も線香花火を見つめ、落ちる瞬間に「あっ」と声を上げる。
「……趣深い品でした。花火と一括りで言っても、こうも異なるものなのですね」
「まだまだ他にもあるわよ。さあ、次は派手なのいきましょ!」
蛍の言葉に目を瞬かせる珠緒。先程自身が持っていたそれも大層派手であったが、あれ以上があると言うのか。
予想はつかないけれど──2人でなら、きっと楽しいものに違いない。
「火のすぺしゃ? す、凄い人! シュテ、とーってもワクワク! 楽しみ!」
「スペシャリスト、だな。一応、気をつけることと言ったら花火を相手に向けんなよってことくらいか」
うん! とシュテルンから元気の良い返事が上がる。初めてなら普通のから、と言う焔の言葉にシュテルンは首を傾げた。
「普通の?」
「ああ、手持ち花火だな」
アランが頷く。勢いよく火が吹き出すことを伝えれば、やや緊張した面持ちのシュテルンが恐る恐る花火に火をつけた。
「……ふぁ?! ブワッてしてるー! 色も、変わるしてる!!」
そんなはしゃぐシュテルンへ声をかけ、アランが花火の火を自らのそれに移す。
「わぁ……移る、した!」
「並んでやったりすると更に綺麗だぞ」
隣に立つアランの言葉に焔も頷き、花火に火を灯して。
「ものによって違う色が出たりするんだよ!」
「そーなだ! シュテ、2人と、並ぶして、やるーっ!」
3人で同じ方向を向き、綺麗なグラデーションを作る。アランが指の間に花火を挟み、隣に挟んだ花火から順に引火させた。
「8刀流だ! オラァ!!」
色のグラデーションを楽しんで、お次に遊ぶのはねずみ花火。
「ボクもあんまりやったことないんだよね」
「ちゅーちゅーって、鳴るの?」
首を傾げる2人の前で、アランがねずみ花火に火をつける。ぐるぐると回り始めた花火は──シュテルンの方へ。
「ひゃわ!! わっわっ!!」
ひょいひょいと逃げまどっていると、花火は急転換。目指す先は火を付けた張本人だ。
「うおおおい! 俺の方にばっか何で来るんだ!?」
「あはは、このねずみ花火はアラン君の事が好きみたいだね」
笑う焔の隣で、吃驚したとシュテルンは目を瞬かせて。けれど楽しかったと満面の笑みが浮かぶ。
「最後はせんこー、花火?」
「夏の風物詩だ、しっかりと持てよ!」
「そっと持ってないと消えちゃうから気をつけてね」
3人は輪になって線香花火を見つめる。温かい火は綺麗で、しかし少しだけ寂しくも見えた。
「だが、夏はまだこれからだ。また今度、打ち上げ花火でも見に行こうぜ」
「賛成!」
「シュテも、行く、する!」
3人は顔を見合わせて、笑い合って。ジジ、と花火が小さく鳴った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
楽しいひと時も、しんみりしたいひと時も書かせて頂きました。お気に召しますように。
またのご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
GMコメント
●すること
手持ち花火で遊ぶ
●詳細
すっかり暗くなった海岸です。波の音が聞こえます。少し遠くからはお祭りの音もまだ聞こえているようです。
手持ち花火、及びろうそく等はマリーが用意してくれました。また、各自で何らかの理由をつけて持参しても構いません。
おひとり様でも、仲間で集まってでもどうぞ。ただし人に花火は向けないでください。
●NPC
関係者のマリー、及び私の所持するNPC(シャルル、フレイムタン、ブラウ)は、ご希望頂ければ登場する可能性があります。
●注意事項
本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
同行者、あるいはグループタグは忘れずにお願い致します。
●ご挨拶
こんな雰囲気がいつだって大好きです。愁です。
再びヨルムンガンドさんの関係者、マリーさんに登場して頂きました。
わいわい騒いでも、しっとり静かに過ごしても構いません。ご参加、お待ちしております。
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