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シナリオ詳細

<Chaos Cherry Blossoms>櫻の唄

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 寄せては返す、蒼い波。燦々と照るは赤い太陽。
 先日大渦でローレットを賑わせた海洋にも、平和な春が訪れようとしていた。
 此処はとある断崖。普段は海水に隠れているが、この時期には潮が引き、とある光景が現れる。
 鍾乳石が高く聳える、半海中洞窟。そこにひときわ目立つ桃色の珊瑚――“海の桜”と呼ばれるそれは、ふわり、とピンク色の光をこぼし。
 薄暗い洞窟で真っ青に輝く海に、桃色の光が落ちていく。幾つも、幾つも。まるで、まさに、桜のように。



「やあ、いつもお疲れ様」
 グレモリー・グレモリー(p3n000074)はいつもと変わらぬ無表情で「海のお花見」と書かれた立て看板をしまう。
「今回はお花見の誘いだ。海洋にちょっとした観光スポットがあってね。今しか見られない光景があるんだ。――時期を外すと、潮に埋もれて見えなくなってしまう。今回は運が良かったね」
 言うと、一枚の絵画を見せるグレモリー。其処には薄暗い洞窟と、桜の木のようなものが描かれている。――まあ、下手ではない。ただ、心がこもっていない。
「これは洞窟だ。今の時期には潮が引いて、中に入れるようになっているんだけど……面白い珊瑚が見られるんだ。見た目はまさに桜の木でね、一度だけ見たけれど、まるで夜桜のようだった」
 ふーむ、と記憶を掘り起こすグレモリー。いや、思い出している場合じゃなかった、と面々に向き直る。
「すまない、物思いに耽っていた。で、その洞窟桜なんだが、海中から出て空気に触れて反応するのかな……花弁のような欠片がはがれて落ちるんだ。桃色に光る欠片が落ちていく様は圧巻だよ」
 そして、僕が此処まで褒める情景というのも珍しい。
 自分で言って自分で頷くグレモリーである。
「兎も角、行楽シーズンだしいっておいでよ。お花見とはつまり、そういう事さ」

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 今回は海洋式お花見に皆さんをご招待です。

●今回の依頼
 <Chaos Cherry Blossoms>の一環です。
 他にも素敵なお花見がありますので、見てみて下さいね。

●目的
 お花見だー!

●立地
 この時期だけ潮が引いて立ち入れるようになる洞窟です。
 入り口は少し狭いですが、中に入れば広大な鍾乳洞が広がっています。
 ひときわ目を引くのは、入り口大広間にある「海の桜」。既に破片が剥がれる現象は始まっていますので、桜が散っているような光景が皆さんをお出迎えする事になります。
 (「海の桜」の形状は八射サンゴに酷似しています。枝だけの木に似ている、といえば判りやすいでしょうか)
 他にも鍾乳洞ならではの鍾乳石や石筍もあります。
 ただし、普段は海中に埋もれていますので、余り大きな鍾乳石はありません。

●出来ること
 お花見をしたり、鍾乳洞散策をしたり、洞窟内で泳いだり

 ただし、余り奥に行くと迷子になって行方不明になるかもしれません。
 あと海は洞窟内だからか普通に冷たいです。

●NPC
 グレモリーが桜をスケッチしています。

●注意事項
 迷子・描写漏れ防止のため、冒頭に希望する場面(数字)と同行者様がいればその方のお名前(ID)を添えて下さい。
 やりたいことを一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。


 イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
 皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってお花見を楽しみましょう。
 では、いってらっしゃい。

  • <Chaos Cherry Blossoms>櫻の唄完了
  • GM名奇古譚
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年04月13日 21時30分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

サンティール・リアン(p3p000050)
雲雀
エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ソフィラ=シェランテーレ(p3p000645)
盲目の花少女
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
煌めきの王子
烏丸 織(p3p005115)
はぐれ鴉
ユー・アレクシオ(p3p006118)
不倒の盾
鴉羽・九鬼(p3p006158)
Life is fragile
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて

サポートNPC一覧(1人)

グレモリー・グレモリー(p3n000074)

リプレイ


「洞窟! 今だけ! すごい、桜、光る、してる!」
 シュテルンは瞳をきらきら輝かせて、眼前にそびえる桜を見ていた。暗いのはちょっと怖いし、ごつごつした岩は歩くのが大変そうだけど、それでも、この大珊瑚が見られてよかったと心から思う。
「海の、桜! 初めて、見るした! いっぱい、いっぱい、綺麗……花弁、落ちる、してる?」
 はて、と地に落ちた破片を拾い上げる。けれどシュテルンはびっくり。この欠片、結構硬い!
「桜、花弁、硬い……? 海の、桜だから? シュテ、わからない……これは、調べる、する!」
 いとけないシュテルンの心は、海の桜に興味をひかれたようだ。また見たいな、と見上げた桜は、果たして来年にはどれだけ大きくなっているのだろうか。それとも、今のまま花弁を散らすのだろうか。なんだかわくわくとしてきて、わーっ、と腕を拡げた。
「シュテ、また来る! また見れますよーにっ!」

「これが、海の桜か……」
 クリスティアンは知らず知らず、ごくりと喉を鳴らした。壮大な幹と枝、そして舞い散る破片。原理や性質は違えども、確かにこれは桜の木だ。
「サクラの花は見た事があるけど、海洋にもこんなところがあるんだね……」
 足元に十分気を付けながら、そっと桜に歩み寄る。破片を一つ拾い上げて、珍し気にじっと見た。
 耳をすませば、ちりん、ちりん。小さく、破片が落ちる音が聞こえる。
 嗚呼、なんて美しい光景だろう。目でも耳でも楽しむことが出来る。――共に見る事が出来ないのが、残念で仕方がないよ。
 破片の音を邪魔せぬように、そんな事を考えながら、クリスティアンは目を開ける。持っていた破片を風に流し、ねえ、と幹を見上げた。
「君、来年も此処にいてくれるかい? そうしたら、その時は――」

 珍しい光景が見られるなんて聞いたら、冒険者として機会を逃すわけにはいかない。
 シャルレィスはそうして――目前にした海の桜に言葉を失った。
「……わぁ……!」
 洞窟の僅かな隙間から吹き入る潮風が、珊瑚の表面を剥がす。それはまさに、桜の散華そのものだ。ほのかに輝く花弁を目で追うと、それはひらひらと舞い、蒼く輝く水面に落ちる。まるで夢のような光景。
「すごい……桜でお花見っていうとなんとなく賑やかなイメージがあるけど、この桜はじっくり静かに見たい感じかも」
 花弁を掌に載せて、じっとみた。その破片はいびつな形をしているが、薄さと色合いは桜にそっくりだ。
「……よし! じゃあ、鍾乳洞を探検しますか! 確かあんまり奥に行っちゃいけないんだっけ」
 迷子になるのはカッコ悪いなあ、とシャルレィスは笑い、桜の下、一歩を踏み出した。やっぱり洞窟って、冒険ってわくわくする。だから冒険者って、やめられないんだ!

 カイトは水中にいた。
 ――落ちたわけではない。海の中、翼で飛ぶように泳ぎながら、桜を見上げていた。
「(普段は空から見下ろしてるけど、こうやって見上げるのも悪くないな)」
 落ちた破片が水面に浮かび、まるで桜吹雪の中にいるようだ。
「(桜もいいけど、魚とかいねぇかな。こういう洞窟には、大物が隠れてそうだ)」
 花より団子、桜より魚。カイトは水底を見下ろしてみる。海中にも珊瑚はあふれかえり、小魚たちのよい休息場所になっているようだった。小魚が遊んでいるという事は、大物は此処にはいないのかもしれない。
 腕を伸ばして小魚を捕まえる。警戒心というものを忘れた小魚は、簡単に捕まった。そのまま水面へ飛んで上がり、顔を出す。
「ぷは! ……まあ、食いでがあるかは判んねーが……」
 そろそろ体が冷えてきた。焚火を熾して、ついでに魚で腹ごしらえでもしよう。
 落ち着いたら鍾乳洞も迷わない程度に見て回ろうか。
 のんびりしようと来たはずなのに、カイトの頭の中は予定で一杯だ。

 鍾乳洞の中、薄明かりが一つ。
 幻は南瓜ランタンを灯して、その灯りだけを頼りに鍾乳洞を進む。暖かく優しい灯りは、この光景にはぴったりだ。
 桜が散って、花弁が落ちて、水面に輪を次々と作る。それはまるで、輪唱のよう。
「――美しいですね」
 はて、散る桜が綺麗だと思えるようになったのはいつからだろうか。
 元々夢の世界の住人だった幻。――けれど。召喚を受け、人や生物を殺めるようになり、あっという間に白かった手は血に染まった。殺すたびに、命の大切さを問われ、そして知るようになった。
 嗚呼、もしもこの命散るならば、この珊瑚の欠片のように。
 海の桜を振り返り見上げながら、胡蝶は死を想う。果敢無く潔く、舞うように散りたいと。

 今日のリリーは、お花見の気分なの。
 妖精はお友達の動物たちと、綺麗な桜を見上げながらお花見。レブンは海が近いから、嬉しそうに遊んでる。カヤは座ってのんびりしてるし、他のみんなも今日ばかりはのんびりと桜を見上げてる。
「……きらきらして、きれいだね……」
 リリーも思わず目を奪われるその桜。幹はとっても丈夫そうなのに、はらはら、破片ははかなく舞い散るの。
 みんな陸の桜しか見た事ないから、見とれてる。そう、リリーも見とれてる。一緒に来られて良かった。
 リトル・リリーは動物と一緒。いつも、どんなときも。

「ふうむ、これが話に聞く“海の桜”! まこと天晴でござる。この微妙な湿気がまた肌に心地よいでござるな」
 下呂左衛門は酒をぐいと一口。舞い散る桜の破片が眼前に広がって、まるで閉じ込められたかのような心地がする。
 桜を楽しむのに、特別なものは要らない。美味い酒とつまみ。それだけあれば十分だ、と改めて思う。
 しかし、海の桜も上等だが、故郷の桜もまた見たい。折を見て帰ってみようか。桜の散らぬうちが良かろうか。
 酒をまた一口煽りながら、武者ガエルは故郷を想う。

「これはまた、贅沢な風景だねー」
 ニーニアは水着に着替えて、海へと一思いにダイブ。息を止めて水中に潜ってみる。やはり、贅沢。破片がほろほろと沈んでいく様は、地上以上の絶景かもしれない。
 ――桜を此処まで下から見上げるのは初めてかも知れないなあ。
 翼で水中を飛びながら、ニーニアは桜色の水面を見上げる。帰ったら海の桜をモチーフにした切手でも作ろうか。それとも便箋と封筒の方が、風情があって良いだろうか。
 ああ、いけない。こんな時でもお仕事の事考えちゃうんだから。でも仕方ないよね、僕、今の仕事が大好きなんだもん!



 ウィリアムとサンティールは、目の前にそびえる“さくら”に言葉を失った。洞窟の外から入ってくる僅かな光を反射する桜色。
「わあ……」
 サンティールはこみ上げる思いに、けれど言葉にならない思いに、吐息を漏らす。はらはら落ちる硬質な花弁。夜桜のようなそら恐ろしさ。だから、一瞬気付くのが遅れてしまった。ウィリアムが「サティはどうだ?」と聞いたのに。
 ウィリアムは沈黙こそ答えと解したのか……そっと、サンティールの小さな手を握った。……なんとなく。これはなんとなく。自分から手を繋いだことはなかったから。そう自分に言い聞かせながら。
「わひょ!? な、なんだよう! びっくりするでしょ!」
「別に、偶には良いだろ。……いつも、手を引かれてばかりだからな」
 跳ねた心臓は、熱くなる体温はどちらのものだったのか。手を繋いでいるいまは判らないけれど。なぜか、嫌じゃないんだ。

「……本当に、桜みたいですね」
 エンヴィとクラリーチェは桜に歩み寄り、根元に落ちる桃色の破片を拾い上げる。硬質ではあるが薄く桃色をして。
「うん。暗い洞窟なのに……夜桜みたい。今、この瞬間にしか見られない光景なのよね。……クラリーチェさんと一緒に見られて、良かった」
 それはきっと、桜の魔力。エンヴィは呟いてすぐにはっとして、違うの、と言い募る。思った事がそのまま口に出てしまうなんて、なんて恥ずかしい!
 ――けれど、クラリーチェの笑みはそれさえも優しく包み込んでしまう。舞い落ちる破片を白い掌に受け止めて、エンヴィの手を取るとそっと乗せた。
「神秘にあふれるこの世界。これからも一緒に、あちこち出かけましょうね」
 ご一緒できてよかった。
 そう笑うクラリーチェに、エンヴィは勝てない。頬の赤みが花弁に移ってくれないかしらと、掌の中を見つめるばかり。

 縁と蜻蛉は静かに桜を見上げていた。縁は此処に訪れるのは初めてではないが、誰かを伴うのは初めてで。それはなんだか、むず痒い。
 海色の着物を揺らして煙管を咥えるその姿に、いつしか蜻蛉の視線は移っていた。いつもより少しだけ、遠い距離。縁も気が付かない程鈍くはない。どうした、と視線で問えば。
「……何でもあらへん」
 素っ気ない返事。こういう時にはどうしてたかね、と縁は眉を下げて煙を吐いた。でも、蜻蛉だって素直になれるものならなりたいのだ。ざわざわ、波立つ心。
「……ああ、こっからだと更に綺麗に見えるねぇ」
 なんて。距離を詰める縁、逃げる蜻蛉。ただの戯れではないようだと縁が蜻蛉を見つめたのも一瞬。
「ねえ」
 逃げるばかりだった蜻蛉が、口を開いた。
 ――うち、こやって隣におってもええの?
 ざわめく心の一飛沫。ぽつり零して、縁の耳に転がす言葉。
 一方の縁は、桜へ視線を移したまま。
「……いてくれりゃぁ、嬉しいね」
 一言、落とされた波紋。その優しい言葉は、蜻蛉の心を更に掻き乱した。ねえ、知っとるの? その言葉に一喜一憂する女がおるんよ。
 二人は微妙な距離で、沈黙を守り続ける。桜は彼らの目にはどう映るのだろう。

 今日もリュグナーはソフィラの手を引いて、桜のもとへと歩む。仄桃色の薄明かりは、彼女の視界に届いているだろうか。
「見えずとも楽しいか、ソフィラよ?」
「ええ、勿論よ? だって――リュグナーさんが教えてくれるもの」
 彼女の耳には、破片が落ちる微かな音が聞こえているのだろうか。己が教えた光景を、その脳裏に描いてくれるのか。けれど……
「見たいと思った事はないのか? 聞いてイメージするのではなく、貴様のその目で、実際の世界を、この景色を……だな」
 最後を少しだけ濁したのはリュグナーのプライド。彼は情報屋――己の得た情報を、対価を払ったものに小分けにして見せる者。
 だから、彼には……純粋に“感覚を共有したい”と思ってしまった己が、判らなかった。
 気難し気な沈黙に、うぅん、とソフィラは思案する。
「見たいと思った事は“なかった”わ。そこまで困る事もなかったし。――でも…今はね、ちょっと違うの」
「違う?」
「そう。リュグナーさんと同じものを共有するのに、見えないのは不便だわ。だからね、最近……特に今は、あなたと一緒に桜が見られたらって、そう思うの」
 無意識に上がっている口元を隠しもせず、彼は笑った。無益な質問だったが、答えは上々だ。
「……そうか」
「そうよ。だから、どんな桜か教えて頂戴ね」

 さあ、花見酒だ!
 まるで星空の中にいるみたい、と薄暗く仄明るい周囲を見渡すヴァレーリヤに、さっき預けた酒は何処だと問うユー。
「あ! そうそう。目的を忘れるところでございましたわ! この景色で呑まない手はありません、ええと、お酒とお弁当……は」
 ふと見ると、あら不思議。入り口の波間に見覚えのあるバスケットが揺れているではありませんか。
「あーー!!」
「あーー!?」
「あわわわわ! 折角のお酒とお弁当が! ユー、取ってきてくださいまし!」
 私、海には入れませんの! 取りに入ったらきっと右腕が錆びて動かなくなってしまいますわ!
「ちょ、押すな! 俺だって義肢なんだぞ!? ほら、アレだ! レディーファーストだ! な?」
「な? じゃありません! レディーファーストの趣旨からすれば、あなたが率先して」
 行くべきじゃありませんの? というヴァレーリヤの言葉は消えた。
 なぜなら、ユーが足を滑らせ、盛大に海に突っ込んだから。
 ――ばしゃーん!
 景気の良い水音が、洞窟内に響き渡る。
「……。これはきっと、主の思し召しですの。義肢を買い替えなさいとか、そういう」
 ヴァレーリヤは司祭らしく重々しく告げる。ぷは、と顔を出したユー。酒でも呑まなきゃやってられねえ。その為に波をかき分け酒を取りに行くという、なんとも悲しい光景。
「こいつがいくらしたと思ってんだ! 他人事だと思って……!」
「まぁ、他人事ですから……」
「ちくしょう……!」

 烏と鬼が、連れ立って桜を見ていた。
「こりゃあ見事だ。なぁ、雪之丞」
「――ええ。とても、幻想的でございますね」
 海の櫻とは、言い得て妙。
 赤い眼を僅かに輝かせて、鬼の仔と八咫烏は“櫻”を見上げる。
「一風変わっちゃいるが、陸の櫻と遜色ねぇ。……いや、見た事ない分、新鮮なのか」
「剥がれ落ちる破片が花弁のようとは。海の櫻も見事なもの」
 のんびりとした会話の傍ら、織はぼんやりと考える。雪之丞とは、なんとなく言い辛いなァなんて。何かほかに、よい呼び名はないものだろうか。
 じょう……ゆきの……ゆき……
「そうだ」
「? どうされましたか」
 顔を向ける小柄な彼女に、良い事を思いついたと言いたげな顔で、雪ん子、と呼んだ。
「雪ん子って呼んでも良いか? その方がとっつきやすくていいや」
「……雪ん子、ですか。初めて言われました」
 赤い眼が真ん丸くなって、雪ん子、と彼女は繰り返し、ふと顔を上げた。
「では、拙からは、織と呼んでも?」
 友人になれそうな方は、名前で呼んでいるのです。
 そう目元を和らげる鬼の仔に、烏は良いぜと頷く。落ちてきた欠片を器用につまみ、差し出しながら。
「その方が俺もやりやすい。……記念に持って帰んな」
「! ……ありがとうございます。では、来年また訪れたときは、拙が記念に、織にお渡ししましょう」
 せっかくのご縁です。末永く続くように、願いを掛けましょう。

 【竜魔】の二人は、海の桜を前にお花見の真っ最中。
「見ろ、アレクシア……! 洞窟の水面に、桜が浮いているぞ……! 綺麗だなぁ……!」
「うん、本当に! 最初聞いたときは、海の中に桜? って思ったけど……こんなに大きな珊瑚だなんて」
 アレクシアが見上げる。桜に劣らず枝を広げ、花弁を散らす珊瑚は、成る程桜の名を冠するにふさわしい。
「で、ヨル君。巧く出来たかな?」
「ふふ……! 勿論だ……! 交換するためのお弁当、とっても早起きして何とか完成したんだ……!」
 はい、とお弁当を差し出すヨルムンガンド。そう、二人はお弁当交換をしようと約束していたのだ。早起きしたけれど、試食という名の完食を繰り返して大変だった、という言葉は飲み込んで、ヨルムンガンドは嬉しそうに笑う。アレクシアもお弁当を差し出して。
「わあ……! すごい、ヨル君のお弁当は色鮮やかだね!」
「お花見だからな……! 花をイメージして、明るくしてみたんだぁ……! アレクシアのお弁当も、とっても美味しそうだ……!」
「ふふ、ありがとう! 他の人の作ったお弁当ってなかなか食べる事がないから、ドキドキする!」
 二人はこのおかずが可愛い、と目で楽しみ、このおかずが美味しい、と舌で味わい、楽し気に言葉を交わす。
「……そういえば、これって花弁じゃなくて破片なんだよね」
「ん、そうだなぁ……! 綺麗なのがあったら、記念に持って帰ろうかと思っていたんだ……! アクセサリとかにしたら、この景色を思い出せるかなぁって……」
「私も同じことを考えていたよ。じゃあお弁当食べ終わったら、綺麗な欠片を探そうか。なんだか宝探しみたいでワクワクするね!」
「あぁ……! どっちが綺麗な欠片を拾えるか、競争しよう……! 楽しみだなぁ……!」
 二人の乙女の瞳は、きらりきらりと輝いて。

「海の桜、か……」
 ルナールはルーキスと連れ立って桜の前に立つと、感心したようにぽつりと呟いた。たまの息抜きにはうってつけの景色だ。
「ふーむ。この時期の海はさすがに泳ぐにはちょっと早い?」
「此処は特に冷えると聞いた。風邪を引くぞ」
「うん、じゃあやめとく」
 ルーキスは何人かが泳いでるのをみてうずうずとしていたが、風邪を引いて寝込んではたまらないと肩を竦める。
「ルーキスは本物の桜は見た事ないんだっけか? 桜はいいぞ。散り際も潔くて……俺の好きな花の一つだな」
「混沌は広いから、ニホン……だっけ? の桜もあるかもしれないぞー」
「混沌で見る桜もいいけどな。俺がいた世界の桜を見られる機会があれば……」
 そこまで言って、ルナールは苦笑した。ちょっとセンチメンタルになってしまった。誤魔化すようにルーキスの白い髪をわしゃわしゃと乱す。
「ねえ、どうせならこの桜、持って帰れないかなー。……いや、冗談だ。自然破壊は駄目絶対、だな」
 そのままルナールにもたれかかるように抱き着くルーキス。心配げにこちらを見る恋人に、やらないよ、と笑って。
「綺麗なものは大人しく愛でるものだよね。……ねぇ、次は何処にいこうか」
「もう次の話か? ……さて……どうするかねぇ」
 お前と一緒なら、どこでもきっと楽しいよ。
 恋人の言葉に、その腕の中で、ルーキスは嬉しそうに笑った。
 私も同じ気持ちだよ、ルナ。

「見て、ミディーくん。すごく深い穴だわぁ」
「本当ですね。足を踏み外さないように気を付けましょう」
 アーリアとミディーセラは、海の桜もいいけれど鍾乳洞の方に興味があるようで。
「私、鍾乳洞って初めて来たわぁ……自然にこういうのが出来るなんて不思議よねぇ。ミディーくんは鍾乳洞って見た事あるの?」
「ええ、ええ。というより、実は昔、此処に師匠達と来た事があるのです。良い触媒が取れるとか何とかで」
 あの桜を使って魔術を使うのだとすると、それはきっと素敵な魔術になるのだろうな、と想像する。海の桜に目を奪われがちだが、少し奥に入ってみると、何年もかけて出来た石筍や鍾乳石が並んでいる。
 ――彼が“昔”に来た時、この柱はどれくらいの長さだったのだろう。
 ふと、アーリアはそんな事を考えてしまう。長い長い時を生きてきた彼にとって、自分は一体どういう存在? 一緒にいたいとか、特別になりたいとか、そんな気持ちを伝えて、通じ合うことは出来るのかしら?
 度の強い酒は一気に煽れるのに、こういう時には途端に臆病になる。そんな自分に苦笑してしまいそうになるのを抑えて。
 でも、ミディーセラだって、何も考えていない訳ではないのだ。のんびりと時間を歩んできたはずなのに、最近はなんだか忙しない。特に彼女といる時間は、矢のようにすぐに過ぎてしまう。
 ――いつか私も、思い出に変わっちゃうのかしら。
 ――いつか彼女も、思い出に変えてしまうのだろうか。
 滑ったら危ないから、と繋いだ手。その距離にまだ甘えていたい。……不思議だね。二人でいれば、暗い暗い鍾乳洞だって、とても素敵なものに見えるのに。

 珠緒と蛍は、二人、言葉を失っていた。
 暗闇。海の青。淡い桃色の光が、はらりと舞って――
「蛍さん、足元に気を付けて」
「はっ! ご、ごめんなさい。つい見入っちゃった」
「判ります。限定ものに弱いと言われても構わなく思えます。桜咲の名は、今は置いておきましょう」
「絶句する美しさっていうか……桜の美しさや感傷を感じるのに、これは桜じゃないのよね。なんだか不思議。海の青もとても綺麗で……」
「判ります。桜咲、聞いたことがあります。これが『光と闇が合わさり最強に見える』というやつ」
「いや、ちょっと違うと思うな!?」
 違うのか、と首を傾げる珠緒。珠緒さんらしいなあ、と蛍は笑って。
「……ボクにとって珠緒さんはね、毎年美しく咲く桜なんだと思う。次の年へ命を繋ぐために散る桜……」
 それはきっと、名前や髪の色のせいではない。彼女の在り方が凛として、儚げで、けれど確かに生きていると教えてくれる、そんな――
「……だから、なんというか。ずっと何度も咲く珠緒さんを、見せてほしいなって」
 薄闇の中、ふわりと珠緒の手に温もり。蛍がその手を取ったのだ。珠緒はその手を見て、目元を和らげる。
「桜と桜咲を重ねて頂けることは、非常に光栄です。――そのようにあれかし。そう、この手に願います」
「……うん」
 ――心は消え、魂は消え去り、全ては此処にあり
 ――全てを超えゆき、空の果てにて悟りは叶うなり
 珠緒が謳う。それをじっと、蛍は聞いている。桜の花弁は、何も語らず海へと舞い、散る。

 九鬼とタントは船から降りて、改めて桜を見上げた。
「本当に桜みたいです。うっすら光ってて、幻想的……!」
「ええ、桜が煌いておりますわ……!」
「……。桜って、綺麗で、好きなんだけど……」
 口ごもる九鬼。彼女のいた世界では、桜にまつわる伝承は悲しいものが多いのだ、と少し残念そうに語る。
「まぁ、切なくなる気持ちは判らなくもないですけど……こんなに綺麗だけど、この珊瑚だって剥がれ落ちているものらしいですしね」
「そうですわね。……でも、わたくしが聞いたところによると、願いが叶う事を“桜咲く”と表現するとも聞きましたわ! 栄枯盛衰を桜で表現するなんて、ちきゅうのにっぽんの方々は、桜が大好きなのですわね!」
「あ、……そうだね。確かに、物事が巧くいったときそう言うかも……!」
 悲しい伝承を思い浮かべる自分と、嬉しい時の例えを思い出したタント。それだけ桜と言う花に人々が思いを託しているという事なのだろう。
「でも、そんなにっぽんの方々も、こんな桜はきっと見た事がないですわよね……うっとりして、思わずわたくしもぼんやり発光してしまいますわ……」
 ぼやーっと発光するタントに、九鬼はくすくすと笑って。そこは光らない、じゃないんだね、と笑い混じりに言った。
「あ、そうだ……この桜の花弁……破片って、珊瑚だから傷みづらいよね? 一緒に拾って、アクセサリにしてみませんか?」
「アクセサリ! まあ、良いアイディアですわ!」
「うん。もしこの瞬間が過去になっても、いつでも思い出せるように……」
「素晴らしいですわー! 九鬼様とお揃いのアクセサリ!」
 早速、わたくしの桜も咲いたみたいですわ!
 笑顔でそういうタントに、九鬼はなんとなくむず痒くなって、けれど嫌じゃなかったから、自分も笑みを浮かべた。彼女の言葉は真っすぐで、だから嘘じゃないって判るから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
海の桜、いかがだったでしょうか。
珊瑚といえば、その産卵は実際、海に桜が舞うような絶景だそうですね。
一度で良いから見てみたい。でも海は怖い、そんな私。
文字数の関係上、皆様の全ての心情を描写出来ませんでしたが、ご了承下さい。
ご参加ありがとうございました!

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