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シナリオ詳細

<グラオ・クローネ2019>オーロラ・ピンクの花飾り

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ペール・ブルーの壁紙と優しいアプリコット・ピンクのソファで少女は微笑む。
 テーブルの上には可愛らしくラッピングされたチョコレイト。
「ラビちゃんはグラオ・クローネ知ってる?」
 包みを一つ取って。『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)は『Vanity』ラビ(p3n000027)へと笑顔を向けた。
「知識はあります。大樹ファルカウと最初の少女との御伽噺、でしたよね」

 太古の昔。大樹と共に生きた少女は色を、味を、五感を持たなかった。それは押し付けられた原罪であり、少女の咎ではなかったけれど。
 大樹は彼女の人生を憐れみ天に願った。彼の大樹とて完全に取り払う事など出来はしない呪い。
 けれど、ほんの僅かにだが、願いは叶った。彼女の舌は甘みを感じ。指先に感触を覚え。
 何も映さなかった彼女の瞳は明暗を。世界を知った。
 黄金に輝く王冠でさえ灰色(グラオ・クローネ)に見えるけれど。それでも、少女は幸せだった。
 
「……それで。チョコを好きな人に渡すの。永遠に側にいるとは限らない。明日、何処かへ消えてしまうかもしれないからこそ。側に居てくれてありがとうって伝える日なの」
「誰に渡せば?」
 こてりと首を傾げたラビにアルエットは頷く。
「えっとね、お世話になっている人とか。よく話すお友達とか、家族でも良いの。もちろん、王子様に渡してもいいよ」
 雲雀はラッピングされた包みを兎の手に乗せた。ラビはきょとんとした顔でチョコとアルエットを交互に見つめる。
「私はアルエットさんの王子様?」
「えっ!? ええっと。お友達だよ」
 アルエットの頬が紅く染まり、わたわたと言葉を選ぶ様子に、ラビの瞳が細められる。
 その無表情な瞳の奥に悪戯な色が見えた。
「あ、ラビちゃん。からかったの? もー」
「ふふふ」
 ぷにぷにとラビの頬をつつくアルエット。

 オーロラ・ピンクの包みがひらりと舞う。
 一口含めば、甘いチョコレイトが溶け出して――舌の上をゆっくりと転がっていくのだ。

GMコメント

 もみじです。自宅でゆったりチョコレイトを食べましょう。

●目的
 グラオ・クローネを楽しむ

●ロケーション
 キャラクターの自室やギルドの一室。
 プライベートな空間でまったりゆったりしましょう。


●出来る事
 適当に英字を振っておきました。字数節約にご活用下さい。


【A】チョコを渡す、食べる
 ドキドキしながらチョコを渡したり、ソファに座りながらまったり食べたりしましょう。

【B】チョコを作る
 キッチンで悪戦苦闘したり、心を込めてラッピングしたり

【C】
 その他
 自宅やギルドでグラオ・クローネにちなんだ事ができます。

●プレイング書式例
 強制ではありませんが、リプレイ執筆がスムーズになって助かりますのでご協力お願いします。

一行目:出来る事から【A】~【C】を記載。
二行目:同行PCやNPCの指定(フルネームとIDを記載)。グループタグも使用頂けます。
三行目から:自由

例:
【A】
【ドキドキ】
好きな人にチョコを渡します


●NPC
 絡まれた分程度しか描写されません。
 呼ばれれば何処にでも居ます。
・『Vanity』ラビ(p3n000027)
 甘いものは好きです。アルエットの所に居たりフラフラしていたりします。
・『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)
 自室でラッピングしたり、チョコをつまみ食いしたりしています。

●諸注意
 描写量は控えます。
 行動は絞ったほうが扱いはよくなるかと思います。

 未成年の飲酒喫煙は出来ません。

  • <グラオ・クローネ2019>オーロラ・ピンクの花飾り完了
  • GM名もみじ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年03月03日 22時00分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)
永劫の愛
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん
ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束
アオイ=アークライト(p3p005658)
機工技師
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)
甘夢インテンディトーレ
鴉羽・九鬼(p3p006158)
Life is fragile
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの

サポートNPC一覧(2人)

アルエット(p3n000009)
籠の中の雲雀
ラビ(p3n000027)
Vanity

リプレイ


 ツリーハウスのリビングはチョコケーキと紅茶の香りを纏う。
「甘ーい!」
 ぱくりと一口。シラスは蕩けるチョコの味を楽しんでいた。
「ケーキだけじゃ口の中が甘々になっちゃうからね」
 アレクシアが注いだ紅茶からは花のフレーバーが香る。

 懐かしい様な切ない様な安堵感。こんな気持になったのはいつぶりだろう。思い出せない程遠い記憶。
 そう思えるのは目の前で笑うアレクシアがいるお陰。
 誰よりも大切な友達。彼女が居なくなってしまうなんて考えたくもない。
 失う怖さを知ってしまった。
 彼女はどう思っているだろうか。長命種である彼女はこの先何人もの友人を見送る事になるのだろう。
 寂しげに語った顔を忘れられない。心を許す者だけに語る「不安」は二人の仲の良さの現れだ。

 美味しいケーキと紅茶の香り。何でも無い日常がシラスが居るだけでとても幸せなものに思える。
 戦場を渡る最中の穏やかなひとときに。自然と笑みが溢れた。
「いつも本当に、ありがとね」
「俺もっと頑張るからね」
 感謝と誓い。ゆったりとした時間の静寂に、言葉を紡ぐ――

「ようこそ、ボクのお家へ!」
 アニーを迎え入れた焔はさあさあと部屋の中に彼女を誘う。
「焔ちゃんの家って私の家とは作りが違うのね!」
 玄関で靴を脱いだアニーは靴下で床を歩く感覚に目を輝かせた。
 部屋の真ん中に敷かれた炬燵。
「……これがコタツなの? 面白いなぁ」
 アニーが視線を上げればぬいぐるみや小物飾りが並んでいるのが見えた。
 どれも可愛らしく焔の人柄を表している。
「お茶も用意しなきゃ、紅茶とかも用意してみたけど、ボクがいつも飲んでる緑茶とかもあるからね!」
 興奮気味に頬を染める焔にアニーは微笑む。
「はっ、ごめんね、実はお友達をお家に連れてくるのって初めてだから」
「ふふっ、私も嬉しいよ。こうして一緒に楽しむことができて……お友達ってこんなにも素敵なものなのね」 友達が家に来る。それだけで心が躍る。
 コタツに入り、チョコを差し出して。
 美味しいものを共有する。それだけで、幸せが感じられるのだ。
「ふふふっ。これからも……」
 仲良くありたいと。アニーは優しい瞳で願った。

 サヨナキドリの応接室でラビは武器商人からお菓子をご馳走になっていた。
「小さな拾い子が1年頑張っていたからね。ここへ招いてお茶でも振る舞おうかと思ったわけさ」
「ありがとうございます」
 こてりとお辞儀をしたラビに武器商人はお菓子を差し出す。
「チェリー・ボンボンはお好みかぃ。オランジェットでも、チョコタルトでも、リクエストしてくれて構わないが……ヒヒ」
 並べられたお菓子に目を輝かせるラビ。
 もくっもくっと小さな口で食べる様を眺めながらせっかくの機会だと武器商人はモノガタリを所望する。
「依頼の話でも、キミの日常の話でも」
「日常……」
「きっとそれは我(アタシ)を楽しませてくれるだろうから。ヒヒヒヒヒヒ……」
「そう、ですね。怪我を負うまで戦って怖いと思った、です。でも、皆さんはめげずに立ち向かって行くのですごい、と。キラキラしてて。もっと、力になりたいです……」
 とつとつと。語るラビの言葉は、少しの照れと話す事の楽しさが見て取れるようだった。

「ハッピー・グラオ・クローネ! ラビ……!」
「はい」
 えへへと笑ったヨルムンガンドにつられるようにラビも笑みを見せる。
「『絆』を形にして贈り合う日らしいからなぁ……もっと仲良くなりたいなって思ってチョコを贈りに来たぞ……!」
「ありがとうございます」
 包みを受け取り頬を染めるラビ。
「ラビは情報が好きって聞いてたんだけど……チョコとか、普通の食べ物も好きか……?」
「食べ物は、情報がいっぱい詰まっています。だから……」
「好き?」
「はい」
 こくこくと頷くラビにヨルムンガンドは微笑む。
「あ、チョコは頑張って手作りしたんだ……!」
 包みを開けると薄いピンクの星型ミルクチョコが姿を表した。
「ラビをイメージして作ったんだ……ちょっと甘いけど口に合うかな……」
 ドキドキと高鳴る鼓動。
 ラビがぱくりとチョコを頬張った瞬間。綻んだほっぺが美味しさを物語っていた。

 天義貴族として恥じぬ荘厳な設え。敷き詰められた絨毯。予想外の展開にポテトは大いに緊張していた。
 ルビアが出ていった後もポテトの心臓はしばらく鳴り止まなかった。
「挨拶緊張した……」
「大丈夫か?」
「ん、ルビアさん優しかったし、ノーラも受け入れてくれて良かった」
 無意識に握りしめた恋人の指先に安心する。

「それにても、凄いな」
 テーブルの上には30種類の小粒チョコ。ポテトの手作りだ。
「色々食べてほしいから今年も頑張った」
 中身も様々。気に入ったものがあれば教えてほしいと云う彼女に感謝の言葉を紡ぐ。
 ピンクのドレスと花飾り。いつもとは違う装いにリゲルは微笑んだ。
「とても似合っているよ」
 リゲルは繋いだ手を取って。ポテトの指先に唇を落とす。
「……リゲルも王子様みたいで、凄く格好いい」
 いつもと違う格好、環境に妖精は未だ緊張を解せない。
「もうこの屋敷もポテトにとって自宅も同然となるんだ。気を緩めても大丈夫さ」
 母親に認められ、自分たちの行く道は強固なものとなった。何も憂う事はないのだと。
 これからも共に歩む事に変わりはない。
 よろしくなと云う婚約者に乙女はキスを落とした。

 送りあったチョコを食べさせ合う。恋人同士、仲の良い友達同士の蜜月。
 まさか、目の前の少女からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったクロバは内心驚いた。
「ほら、口開けなさいな!」
「ってオイ。話を聞け」
 いつも以上に押しが強いルーミニスに言われるがまま、クロバは口を開ける。
 クロバの味覚は消失している。けれど、味覚が無くとも。口の中で広がるチョコの滑らかさとフレーバーの香りは、これが手作りしたものだと容易に想像出来る。そこには感謝の気持ちが込められているのだろう。
「ま、やられたらやり返させてもらうぞ」
 一粒、彼女の口に入れて。
 代わりに差し出された花束に今度こそ目を丸くするクロバ。
「意外だった? なんで花なのかは……教えてあげないわ! 綺麗なだけでもいいじゃない」

 ゼラニウムとアカシアの花言葉は「友情と秘めた恋」。
 いつか元の世界に帰る。彼はその目的に変わりはないと言い切るだろう。
 花束はクロバの枷になる事を厭う紫銀の心の欠片。
 けれど、影刃赫灼とて。彼女と離れる事を思えば胸の奥が締め付けられるのだ。

 この想い。言葉にすることは出来ないけれど――

「紅茶でも淹れてゆっくり食べようかな」
 スティアは友人から貰ったチョコを手にソファに身を預けた。
「少し見た目はあれだけど……」
 心を込めて手作りしてくれたということが分かるから。その気持ちだけで嬉しくなる。
 口に含めば美味しさが広がる。少しぐにょーんとしているが、そういう所もあじだろう。
「こう微笑ましい気持ちになるというか……なんというか」
 本人が聞けば頬を真っ赤にして拗ねてしまうだろうから直接言えないけれど。
 出会った時は彼女とこんな風にチョコの交換をするなんて思ってもいなかった。
 仲良くなれた事に染み入る感情。これからもと願うのは友人とて同じであろう。

 家のリビングで九鬼とタントは寛いでいた。
 漂うチョコの匂い。きっとタントも用意してくれているのだろう。
 そわそわして落ち着かない。チラりとタントの方を見ては視線を落とすと繰り返している。
 こういうときは先手必勝。勇気を出して、先にプレゼントを取り出す九鬼。
「た、タント様……! いや、タントちゃん……! ハッピーグラオ・クローネ……!」
 いつもより近しい呼び方で。九鬼はタントにチョコを差し出す。
「あら! 九鬼様も御用意下さっていたのですわねー!?」
 先に出されたチョコに驚いて、顔を綻ばせるタント。
「って今、タントちゃんって……! な、何だかむず痒いですわね!」
 赤くなった頬を隠すように、チョコを一粒取って九鬼に差し出すタント。
「九鬼様! ……あーん! ですわよ!」
「あ、あーん……!」
 ルームシェアを始めたばかりのふたり。誰かと一緒に暮らすということは、心が暖かくなるものだとタントは目を細める。これからも訪れるであろう、素敵な時間を共有できる。そう思うだけで――


「ねえポー、大きなシマエナガのチョコを作ろうよ!」
「シマエナガのチョコ!? いいね、作ろう作ろう!」
 有名なパティシエが作ったチョコも貰うだけのチョコも、きっと敵わない最強の思い出。

 色違いのエプロンに、三角巾。
 溶けたミルクチョコとホワイトチョコを使ってルークは器用にシマエナガの模様を形作って行く。
 目と嘴のお菓子を付けて、仕上げはホイップクリームで花を描いていけば、もうすぐ完成。
「この部屋に美少女なポーと丸っこいポーが居て、両手に花の気分だよ」
 勿体なくて食べられないと云うルークにポーも頷く。
 ふと、ルークが視線を移すとポーの頬にチョコが着いているのが見えた。
 そっとポーの顎を引き寄せて。
「ひゃぁ!?」
 ルークはキスでチョコを舐め取る。甘いチョコと柔らかいポーの頬の感触。
「ふふっ、甘くて美味しいね。ご馳走様だよ! 」
「び、ビックリした、チョコがついてたんだ。恥ずかしっ!」
 お粗末様でいいのかなと首を傾げながらくすくすと笑うポー。
 彼女が笑顔になると自然と嬉しい気持ちになる。
 きっと、それは幸せの証――

「渡す相手の事を考えて作るのは初めてですね」
 窓越しに顔を覗かせた猫にくすりと笑うクラリーチェ。
 友達と呼べる程。親しくしてくれる人が出来たこと。
 作るのもラッピングさえ悩み、受け取ってくれるだろうかと心落ち着かなくなること。
 全てがくすぐったくて――いとおしい。

 外部との接触は、自分にとって害でしかないと言った彼らの顔が浮かぶ。
 けれど。もしもこの先に辛いことが待っているとしても。
「できた」
 ――私は、人と交流できたことを後悔しません。絶対に。

 森の中のおんぼろ廃墟。レイチェルの家は化物屋敷という見てくれだが料理自体は出来る。
 その廃墟の炊事場。到底料理に使うとは思えない魔女の工房といった有様の場所でレイチェルは服の袖を捲った。
 先ずは。愛おしい彼へ。
 そして共に過ごしてくれる廃墟の皆へ。
 日頃の感謝を込めて。『有難う』の想いを。
 柄ではないと頬を掻く彼女だが。それでも伝えたい気持ちがあるのだ。
「食べれる物には仕上がった……か?」
 一抹の不安を残しつつも甘いチョコレートは出来ていく。

「せっかくだし」
 今日はチョコの入ったクッキーを作ろうと心に決めたグレイル。
「仲良くしてくれるみんなに……プレゼントしたいけど」
 どれぐらい作れば丁度いいのだろうか。上手く作れるだろうか。喜んでくれるだろうか。
 少しだけ不安になるけれど。
「……とりあえず……少し作って……味見……かな……?」
 いつも仲良くしてくれる人達に贈るものだから。きっと、美味しくできるに違いない。
 キッチンでチョコを作る様子をジークにみせてやるゲオルグ。
「伊達に甘いもの好きがこうじてスイーツ作りをしてきたわけではない」
 手際よく豪華なチョコが次々と出来上がって行くのを、ジークがキラキラとした瞳で見つめている。
 まさかこのチョコが自分に贈られるものだとは夢にも思っていない顔で。
「ああ、明日が待ち遠しい」
 喜ぶ顔を想像するだけで嬉しくなるのだから。
 アオイは軽い気持ちでチョコを作り始めた。
 シンプルな四角形に切ったものにココアパウダーをまぶして。
 その程度で終わるつもりが、段々と凝ったデザインに。
「んー……なんでこんなもんまで作ってるんだ? 俺」
 小さなつぶやきがキッチンに木霊する。
「むふふー、腕がなるよー♪」
 チョコ作りはパティシエの本領発揮。ミルキィはギルドの皆とチョコを作っていた。
「最近は友達にチョコを贈ったり、頑張った自分へのご褒美にってのも流行ってるみたいだし」
 ミルキィは慣れていない人にアドバイスをして回る。
 彼女にかかれば初めてでも大丈夫。心強い味方だ。

 ユーリエは愛しのエリザベートにチョコを作ってきた。
 以前は渡しそびれてしまったから、今度こそはと張り切って会心の出来栄えである。
 吸血鬼の彼女はチョコが好きではないかもしれない。でも。
「私の愛情はたっぷりだから! ちょっとでも食べてくれると嬉しいなっ」
「大丈夫よ、チョコは比較的好きな方だから。それにユーリエの作ってくれたものなのですからね」
 微笑む彼女を見ているだけで胸が高鳴る。
「私もえりちゃんの愛情が欲しい、かな……」
 触れていたい。体温を感じたい。『欲しい』が募る。
 ふと体温を感じて顔をあげると、チョコに濡れた唇がユーリエに降り注いだ。
 驚きと共に茶から銀へ変じるユーリエの髪。
 そっと、身体を押し倒せば、何処にもいかないでとせがむ腕がエリザベートを包んだ。
「じゃあ、たっぷり貴方に愛を注ぐとするのですよ」
 二人だけの灰王冠の夜は甘く熔けていく――

 アーリアとミディーセラはゆったりと寛いでいた。
 ラグの上に置かれたローテーブルにはチョコと甘いお酒が並んでいる。もちろん、いつものおつまみも完備していた。
「この時期、わたしの好きなあまいお酒がたくさん出るのです。ちょっと苦めなチョコとよく合って……これもおいしい」
「みでぃーくん、そっちのお酒もちょうだいなぁ」
 同じものを共に舌で転がす。気づけば当たり前になっていたこの心地よさ。
 とても暖かくて、いつまでも続いてほしい。終わってしまうのが怖いぐらいのぬくもり。

 今日はグラオクローネ。感謝を伝える日。
 伝えたい事は沢山あるけれど、まだ切り出す勇気はないから。テーブルの下に隠した包みに触れる。
「これ、あげるわぁ!」
 アーリアはミディーセラの胸にチョコを押し付ける。
 彼は視線を落とし、何度か確かめるように持ち直したあと。
 少し驚いた顔で。
「ありがとう、ございます」
 思いがけぬ贈り物に、ミディーセラはアーリアに微笑んだ。

 シュバルツはアマリリスから手渡されたチョコをまじまじと見つめていた。
「お前からチョコを渡されるとは思わなかったぜ。有難うな。アマリリス」
 シュバルツは彼女の頭を撫でる。乗せられた手の暖かさに嬉しさがこみ上げた。
「騎士業の業務外は不得手です。しかしこのアマリリス!」
 彼の為、お菓子作りの本の通りに寸分違わず仕上げたと胸を張るアマリリス。
「……つーか、お前本当に真面目だな」
 けれど、幾分の狂いも無く完璧に完成させる事が全てではないと云う彼に、しょんぼりと項垂れる少女。
「また未熟が露呈し痛恨の極み」
「どれ、使ったチョコレートはまだ残ってるか? 一緒に作ってみようぜ」
 教えてやると手を差し出す彼からチョコを奪い取って、中身を開けるアマリリス。
「先程お渡ししたちょこにも、思いは込めました! こういうものは気持ちが大事とも言います!」
 マニュアルが駄目かどうかは食べてから判断してほしいと、アマリリスはチョコを一粒『自分の口に』咥えてシュバルツの頬を掴んだ。
「……って、おい。その食べさせ方はズルくねぇか?」
 言いながら。彼女の唇は甘く柔らかかった。

 グラオ・クローネ。感謝を想いを伝える日。
 何処も甘く頬を染める。
「……と、いうわけで……ルーキスに俺からプレゼントだぞ」
「わあ、家の中でも甘い匂いがするわけだ」
 ルーキスの眼の前に置かれた大きなチョコケーキ。ルナールの手作り。しかもハート型。
「これ、一人で格闘するの?」
「味の保証はするぞ? 知人に散々味見させたからな」
 フォークを片手に一口喰めば。蕩ける美味しさに頬が緩む。
「上達が早いなあ……しょっちゅう焦がしてたとは思えん」
「折角の機会だからな、少し張り切ってみた」
 隣に座ったルナールは手際よく紅茶を注いでいた。
 この調子ではスイーツの腕前は抜かれてしまいそうだ。

「よーしついでにルナール先生に糖分をやろう」
 自分が用意したチョコを開けて一つ摘み。そのまま彼を押し倒す。
 口に含んだチョコをとろりとルナールに口移して。
 甘い唇と舌に酔いしれる。爆ぜる水音と共に唇を離して。
「恋人の特権、きっちり頂きました」
 悪戯な笑みを零すルーキスの頬にルナールはそっとキスを落とす。
 耳元で囁くは。
「……来年はもっと凄いのにするから期待してくれな」
 未来の誓い――

 自室代わりの和室で、青い紐の小箱を開けた十夜。
「こんなおっさんにもくれるとは、グラオ・クローネ様様だ」
 灰王冠の催しなど自分には縁の無いものだと思っていたから。素直な楽しみ方なぞ分からぬと言い訳を並べながら十夜はチョコを一つ口へ運ぶ。
 滑らかな甘いチョコと染み出す酒が広がった。
「――こんないいモン貰っちまったら、流石に『縁がなかった』とは言えねぇや」
 思い浮かべるのは彼女の艷やかな黒髪と引かれた紅。
「これの三倍に釣り合う物を探すのは骨が折れそうだが」
 夢見草の香りは好きだろうかと、長い睫毛の奥に黄金を讃えた彼女の瞳を想う――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

甘いひとときを過ごせましたでしょうか。
お気に召しましたら幸いです。

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