PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<泡渦の舞踏>羨望の声

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●海底
 こぽ、と気泡が浮き上がる。少年は海底の岩に腰掛け、それをぼんやりと見上げていた。
「……僕も、欲しいだけだよ」
 海底から浮かび上がる気泡を見上げ、海種の少年──魔種『セーロ』は誰へともなしに呟いた。
 その内に抱くのは何故と問う声と、それに伴う羨望。先日の戦い、敵にかけられた言葉が彼の嫉妬を助長する。
 嗚呼、何もかもが羨ましい。思い出す言葉、動き、全てが妬ましくて腹立たしいほどに。あの時トドメを刺さなかったのは何故だろう。わからないけれど、最早なんだっていい。
 だって、シンデレラ──チェネレントラが招待状を出したから。海洋へと出したそれは、おそらくローレットへ届けられるだろう。
「早く来ないかな。ねえ?」
 ふわりと足を揺らし、セーロはくつくつと笑う。その問いかけに応えがなくとも構わない。

 羨ましいそれらは、手に入らないなら消してしまおう。嫉妬する対象を──イレギュラーズを今度こそ、全員とも。


●チェネレントラの招待状

 ──月夜の晩、皆様をお迎えに参ります。『色欲』と『嫉妬』の呼び声に乗せて──

「海洋が、危ないのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の表情は強張っていた。
 先日、海洋で発生した謎の大渦。そこにいたのはサーカス団から逃亡したチェネレントラ、そして仲間と思しき魔種。
「前回の調査で、あの大渦はチェネレントラが『敗北の復讐(リベンジ)』に発生させたってわかったのです」
 彼女1人の力でそれは成し得ない。周りの魔種が協力したのだろう、とも。
 このまま放置しておけば、純種の多い海洋はいずれ魔種の手に落ちる。大渦の周囲に蔓延る魔種、そしてチェネレントラに一刻も早く対処せねばならないのだ。
「皆さんにお願いするのは大渦の周囲にいる魔種の1人……セーロ、という少年です。前回1度戦っているので、報告書もあります」
 ばさ、と羊皮紙に書き留められたそれをテーブルへ出したユリーカ。その報告書と自らの拾ってきた情報を整理し、書き留めた別の羊皮紙も隣に出す。
「セーロは元々海種のようで、海の中でも活動できます。皆さんには前回と同じように『海中戦闘用スーツ・ナウス』をお配りするので、水中戦への心配はしなくて大丈夫なのです。
 あと、子供でもセーロは魔種なのです。純種の皆さんは『原罪の呼び声』に気をつけてくださいね」
 ユリーカは心配そうにイレギュラーズの顔を見る。ローレットより反転した者が出たのは遠い過去の話ではない。今回だって十分にあり得る話なのだ。
「皆さんならきっと、魔種を倒して海洋を助けられるのです。準備万端にして、いってらっしゃいなのです!」

GMコメント

●成功条件
 魔種『セーロ』の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 前回の戦闘を受け、より情報の精度が高まりました。

●魔種『セーロ』
 少年の姿をした魔種です。人間姿ですが四肢に鱗が点在していることから、元は海種だったのだと推測されます。
 大渦のそばにおり、イレギュラーズを待っています。羨ましい、嫉妬してしまう『それら』を全て海底へ沈めるために。
 両腕に抱えられるほどの石板を持っており、それを媒介に神秘系攻撃を仕掛けてきます。石板には微かなひびが入っていますが、前回同様武器として使用してきます。
 単体・範囲攻撃共に行えるようですが、【氷漬】【崩れ】のBSが付与されることがわかっています。特殊なスキルとして、自身を起点としたレンジ2の範囲攻撃を使用します。
 ステータスとしては命中、防御技術が高いです。次点でEXA。その他特に秀でた能力はありませんが、魔種として全体的なステータスが高めと考えてください。

●ロケーション
 海洋近海に発生した大渦のそばです。不利になりそうな環境ではありませんが、海底には大きな石がごろごろと転がっているため、互いにとって遮蔽物となり得ます。
 基本的に海中での戦闘となるかと思いますが、皆様には練達の作った『海中戦闘用スーツ・ナウス』が配布されます。これを身に着けることで渦の中でも息をすることができます。海種の方はつける必要はありません。
 また、海中戦闘のため、炎を扱う攻撃は与えられるダメージが3分の2になります。(当シナリオ限定ルール)

●ご挨拶
 愁と申します。
 前作を読まなくても今作には影響ありません。皆様の全力を持って、今度こそセーロを叩き潰しましょう。
 ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • <泡渦の舞踏>羨望の声Lv:9以上完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年02月07日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
アイリス・アベリア・ソードゥサロモン(p3p006749)
<不正義>を知る者

リプレイ

●嫉妬の少年
 かの魔種は、海底に転がった大岩に腰かけて待っていた。
「よう、がきんちょ」
「……生きてたんだ。帰って仲間に手当てされたのかな」
 『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は魔種『セーロ』の前に相対する。セーロの視線とレイチェルの視線が交錯し、嫉妬の言葉が少年から漏れた。
 招待状が来たからには、レイチェルの行くべき場所はたった1つ。あのまま──前回のままで終わらせるわけはない。
「──さぁ、前の続きを始めようぜ?」
 レイチェルが不敵に笑って見せ、同時に『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)が放った赤き彩りがイレギュラーズの周囲を巡り、鼓舞していく。
(さてはて、地の利は向こうにありって感じだけど、どうなるやら)
 結末はリンネにもわからない。けれど、やることは大差なく──全力を以って討滅するのみ。
 セーロは石板を抱きしめてイレギュラーズたちを見渡し、不意に頭上を向いた。少年へ影が落ちたのだ。魚? いいや、この影は──。
「──哀れではあるけれど、災いを振り撒く以上は討たせてもらうわ」
 流麗に、されど鋭く。
 『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)が携える2振りの刀がセーロの頭上から襲い掛かる。セーロは咄嗟に腕を交差させ、そこからはおよそ皮膚へ当たったと思えぬ硬質な音が響いた。アルテミアが刀を引くと、セーロの袖が破れて肌が──否、鱗が覗く。
「見たことある顔も、ない顔も──嗚呼、でもやっぱり仲間とかお友達ってやつだよね。自慢しに来たの? 今度こそ皆沈めて、」
「拙者等ローレットは、ただ騒いでつるむだけの軟な集団ではござらぬよ」
 セーロとアルテミアの間に滑り込んだ『黒耀の鴉』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は、少年が生成した氷の剣を受け止めた。同時に針のような痛みがセーロを襲う。
「拙者等はそれぞれ違う望みがあれど、互いの利害は一致している。故に共に助け合い、同じ方向を向いてゆける『同志』。
 他人の事を考えずただ羨ましがるだけの今の貴殿に本当の絆とは何か、とくとご覧にいれて差し上げる」
「助け合い、同志、本当の絆……ああ、本当にねたましい」
 咲耶が普段見せているのんびりとした雰囲気は、セーロを見据える今は欠片ほども残されておらず。それは魔種を挑発するような言葉であると同時に、彼女の覚悟を表すようでもあった。この魔種と再戦を望み、集った者たちに負けぬよう──それこそ、咲耶の持ちうる可能性全てをかけるほどの。
「少年の姿をしているのはいかにも哀れを誘いますが……世に仇なすものあらば、宇宙警察忍者夢見ルル家、即見参!」
 『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)が横合いから素早く矢を連射する。それを辛くも避けたセーロは素早く視線を下へと落とした。
「やぁ、久しいね」
 海底の地を蹴り、ふわりと翻るスカート。その足技に巻き込まれたセーロは年不相応な苦々しい表情を浮かべて『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917) を見る。
「とはいえ再開を喜び合うような間柄でもないかな」
「そうだよ。皆、この海へ沈むんだから」
「それは君の方だ」
(嫉妬に対する答えは、自分を高めるか、相手を落とすかだ)
 少年の嫉妬は決して欲するモノへ届かない。自らが抱くそれに足を曳かれ、相手を落とそうとするのと同時に堕ちていくのみだ。
 『祖なる現身』八田 悠(p3p000687)が逆再生の手をセーロへ伸ばす。身をよじり、大きく移動しようとするものの咲耶がそれを許さない。
「嫉妬の魔種……素直に嫉妬が出来るだなんて、妬ましいわ……」
 いらだったセーロの耳へ、『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)のふわりとした声音が忍び込む。彼女の『妬ましい』は少年のそれと同じではない。セーロもそれを感じ取ったのか、不機嫌を隠さずエンヴィを見た。同時、エンヴィの元から嫉妬の弾丸がセーロへ向かって飛んでいく。
「私の嫉妬の弾丸は、狙った相手を逃しはしないわ」
 ──だって、妬ましいもの。
 エンヴィの弾丸にセーロが苦悶の表情を浮かべた。弾丸の触れた場所から広がる爛れたような痛みと、流れ始める血。彼女の嫉妬は呪いのように、それだけではとどまらない。『黒鴉の花姫』アイリス・アベリア・ソードゥサロモン(p3p006749)はセーロの様子を見ながら小さく目を細める。
(子供でも、魔種、なんだよね……あぁ、ちょっと欲しいなぁ、あの魂)
 アイリスは考える。他の子と分けておいたら、変なことにはならないかな。けれど死してなお、他の人にその『声』を聞かせてしまうようなら普通にまずい。なら──仕方ない、諦めよう。
「──神よ、罪深き彼女に贖罪の機会を与え給え」
 その言葉に十字架が反応し、アイリスの前で修道女人形へと姿を変える。人形から放たれし怨霊の矢は、今まさに苦しむセーロへと一直線に伸びていった。
(誰かに繰り返し挑む……なんて、果たして何時振りでしょう)
 記憶を掘り起こす暇はないが、決して最近のことではないことは確か。『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は彼へそっと口を開く。
「私たちが今の貴方に差し上げられるものは1つだけ。命を交わし求め合う──そんな『特別』な関係だけです」

 ──『求められる』気分は如何ですか?

 一条の雷撃が迸る。その先の言葉は聞こえてはいなかっただろうが、その答えは少年に言われずともわかるもので──前の言葉からも得られるものだった。
「仲間は、絆は貰えないの? 僕にはくれないの? いいな、いいなぁ」
 大した傷を負っている風にも見えないセーロは、けれども少しずつダメージが入っていることを窺わせる。レイチェルはその様子を見ながら、両目を妖しく輝かせた。
 ──変わる、変わる。2つ足から4つ足へ、その体は白銀を纏って。
 咲耶を巻き込まぬよう、素早くセーロの斜め前方へ移動した銀狼──レイチェルは少年へ向けて真っすぐに咆哮した。魔力を帯びたそれは衝撃波となり、持っている石板ごとセーロへ襲い掛かる。ぎり、と少年が葉を食い占める音を咲耶は聞いた。
「皆、皆……沈んじゃえよっ!!」
 セーロの頭上に現れた氷の球から、全方位へ勢いよく氷のつぶてが発射される。自らには当たらぬように、他の者には的確に。氷のつぶては刃のようにイレギュラーズの体を切り裂いた。同時に、数人の傷口から氷が広がり始め、集中力を削いでいく。
「リンネさん、回復を」
「任せてー」
 悠とリンネが仲間の傷を癒し始め、咲耶が踏ん張る中イレギュラーズたちが一斉にセーロへ武器を向ける。そんな光景にセーロは「ああ、妬ましい」と呟き、再び氷の刃を周囲へ降らせた。


●赤は揺蕩い、紛れ
 イレギュラーズはセーロにダメージを与えられていながらも、確かに彼を翻弄していた。
 メートヒェンと咲耶の視線が一瞬交錯し、ほぼ同時のタイミングでブロックを交代する。視界を邪魔しようとするスカートに、セーロは──以前のように──大きな氷の柱を叩き落とした。それを紙一重で回避し、メートヒェンはセーロの前に立ちはだかり続ける。悠とリンネは幾つも転がる岩陰を縫うように進み、セーロの攻撃射程に極力入らぬよう回復役として立ち回る。リンネは時折海底を蹴り、仲間を赤の熱狂で鼓舞して。
「魔種と対峙する時いつも思うのだけど、1人で複数の敵と渡り合えるだなんて……とても妬ましいわ」
 1人で戦えるだけの強さを得られれば良いが、それはなかなか叶うものではない。
 エンヴィが死霊弓を放ちながらセーロを”褒める”。言葉だけなら同じでも、その意味合いの違いはセーロの癇に障るようだ。放たれた矢を岩陰に隠れてやり過ごす──だが、少年と言えど魔種。肩に刺さった1本の矢に顔を顰め、エンヴィはそれを引き抜いた。
 何かがすり抜けるような動きにはっとセーロはそちらを見るが、誰もいない。その死角からアルテミアは武器を振りかざす。
「こっちよ」
 リンネが赤の熱狂で見方を鼓舞する中、ルル家はしかとセーロへ狙いを定めた。
 ──集中集中、集中せよ。
 セーロの高い防御技術は鱗に止まらず、恐らく石板も盾のような役割をしているのだろうと察せられる。故に、その隙間を突かねばならない。
(敵の守りが如何に堅牢なれど、その鉄壁の守りに穴を穿つのが拙者の戦法)
 この一瞬に、脳が焼き切れるほどの集中力を込めて!
「千閃の風と散れ! 銀河旋風殺!」
 多重にルル家が分散し、一斉にセーロへ襲い掛かる。メートヒェンのブロッキングバッシュによろけた
彼へ、アリシスは告死天使の刃を振りかざした。
(魔種らしい──と言えば、その在り方は魔種らしいのかもしれませんね)
 嫉妬に塗れ、欲する。セーロの羨望は嫉妬でありながら、強欲にも見える。そしてその羨望は満たされる事は無く、より一層強く──深くなっていくのみ。
「待っ──」
 不意にセーロが引いた。同じだけ詰め寄ろうとしたメートヒェンは、増した速度に焦りの声を上げる。悠が肉薄しようとするもそれをすり抜け、セーロはアイリスの前に立ちはだかった。
「さっきから、仲間からの追撃ばかり。痛くて痛くて妬ましい」
 少年の周囲から生まれた氷の鮫がアイリスへ襲い掛かり、赤を海へと滲ませる。
(私にできることを、しないと)
 秘めたる可能性を以って継戦を選ぶアイリス。けれども魔種の攻撃はまだ、終わっていなかった。
「ここにいる皆、助け合って羨ましい。……消えちゃえ」
 息をつく間もなく周囲へ氷の雨が降り注ぐ。それは後衛の幾人かも巻き込んで。
 ──嗚呼。1人、浮かんでいく。

「ごめん」
「いいや、相手は魔種でござる」
 仕方ないと割り切れるものではない。けれど今、そこに心囚われるわけにもいかないのだ。
 メートヒェンが再度ブロックし、後衛と浮かんでいくアイリスの元へ行かせないよう動きを阻害する。体勢を崩した数人へリンネが超分析で回復をかけると同時、セーロの足元に黒い触腕が絡みついた。
「頂いていきますよ」
 ルル家の服の裾から伸びたそれは少年から精神力を吸い取り、奪う。氷の矢を複数構成し、ルル家の方へ飛ばすセーロの背後から咲耶は武器を強かに叩きつけた。
「……ッ」
 レイチェルは息を詰めたセーロの至近距離まで接近し、──少年の視界が暗闇に閉ざされる。頭を振るものの、そんな行動で暗闇は晴れたりしない。アリシスはセーロへ語り掛けた。
「セーロ。貴方は仲間や友人を欲しい、羨ましいと言う」
「だって羨ましいもの。お姉さんは僕の仲間になってくれる?」
「いいえ。……けれど彼女たちは、チェネレントラたちはどうなのです?」
 アリシスの問いかけにセーロはきょとんとした表情を浮かべた。それは暫しして呆れたような、馬鹿にするような表情へと変わる。
「……あの気狂いシンデレラたちが? 仲間?」
 その言葉からはセーロが彼女たちを仲間だと感じていない、それに値しないと思っていることが察せられた。成程、とアリシスはその美貌に剣呑な色を乗せる。
「彼女らが値しないというのであれば、今の貴方にそれらを与えられる者は──何処にもいません」
「どこにもいないかなんて、お姉さんが決めないでよ!」
 周囲に氷の礫が降り注ぐ。押さえるメートヒェンの表情が苦痛に歪んだ。
「メートヒェン殿!」
 咲耶が素早くブロックを交代し、下がったメートヒェンは悠に庇われながら回復を受ける。彼の死角へ再び入ったアルテミアは、翳された石板に構わず蒼き一閃を払った。石板の表面に小さなキズが増え、不可視であるセーロの力の流れが断ち切られて彼女へ流れ込んでいく。
(貴方の過去が天涯孤独だったのか、除け者にされていたのか、私は知らない)
 知らなくとも、倒さなくてはならない。
 アルテミアはセーロを──彼の持つ石板を見る。彼は気付いているだろうか。過去に仲間が確かに残したものも含めて少しずつ、石板の傷が増えていることに。
 せり合いながらも傷を増やしていくセーロ。しかしそれは彼をブロックする咲耶も、他の仲間も同じ。自らの体力が減ってきたことに咲耶は視線を走らせた──時だった。
「どけよっ!!」
 氷の剣が袈裟懸けに振り下ろされる。目を瞠った咲耶は揺らめく赤を視界に映しながら、斬られた勢いに沈みかけて──ぐ、と手を握りしめた。
(2度目の後悔をするのは、許されぬ)
 己の、忍びの矜持を守り通すのだ。己のパンドラが彼女自身の可能性は十分にあると、奇跡を起こさぬなら自らが立ち上がるまで。
(拙者も全力を尽くさねばならぬ。その為に命を削る事へ、何を恐れる事がござろうか──!)
 パンドラが傷を癒し、リンネのヒールオーダーが咲耶を再び戦線へと押し上げる。咲耶はキッとセーロを見据えると、的確にレジストクラッシュを繰り出した。肺から空気の押し出される音が聞こえ、その体勢が大きく崩れる。その瞬間を見逃さず、アルテミアは戦乙女の加護と共にセーロへ切りかかった。海へ少年の腕が舞い飛んで──けれどもまだ、少年は戦い続ける。
 メートヒェンは同じ場所へ攻撃を食らわらないよう体をずらし、そうして空いた場所から仲間も攻撃を加えていく。セーロの体が傷つき使い物にならなくなるのが先か、それともイレギュラーズたちの継戦能力が尽きるのが先か。
 突如聞こえた咆哮にセーロははっとそちらを見遣った。レイチェルとの間には大岩が立ちはだかっている。これを突き抜けてくることはあるいまいと──。
(──あるんだよ)
 それは咆哮でありながら、魔力を乗せた衝撃波だ。大岩を突き抜け、その勢いを殺すことなく咆哮がセーロを襲う。不意にピシリと小さな音が響いた。
「──ぁ、」
「……石板の罅。前回突き立てた牙。俺は執念深くてなァ」
 セーロが目を瞠る中、石板はぼろぼろと崩れ落ちていく。少年は憎悪の瞳でレイチェルを睨みつけ、その手をかざした。
「どうせ、どうせこんなものに頼らなくったって!」
 1振りの剣がレイチェルへ飛んでいく。だが、その傷は先ほど──石板があった時──よりも浅い。鱗による強固な守りが健在なれど、その変化はイレギュラーズを勝利へと1歩近づけた。
 障害物となる岩に隠れて魔弾を飛ばすエンヴィ。悠もその死角を利用して身を守り、巡り巡る円環法で仲間へ回復を施し続ける。
(哀れと思わば良いのでしょうか。憎いと思わば良いのでしょうか)
 けれどそれらを考えるには慣れすぎてしまった、とルル家は弓弦を引いた。当たり外れの大きいそれは、しかし執拗な攻撃によって確実にセーロを追いつめる。その肩へ幻燐の蝶がひらり、ひらりと舞って留まる。──勿論、この場に本物の蝶がやってくるはずもない。
 咄嗟に肩から払いのけるものの、蝶は素早くセーロの精神力を──魂の欠片を奪ってアリシスの元へ戻って行った。蝶がアリシスの元で消えると同時、彼女の肩を氷の剣が深く刺す。
「──っ、」
 アリシスは顔を歪め、しかし水をしかと踏みしめた。その瞳に宿る意思は強く、その傷は想定よりもずっと浅い。
「っ、イレギュラーズなんて、嫌いだ!!」
 セーロが頭上に氷の球を作る。それはとげを持ち体を膨らませる──バベル的翻訳をするとハリセンボンのような──形状へ変化し、イレギュラーズへ襲い掛かった。体に穴を開け、血を流しながらもイレギュラーズは倒れない。倒れるわけには、いかない。
 少年の懐へ、青き戦士が肉薄する。
「──はぁっ!!」
 風圧がアルテミアへ跳ね返り、その肌へ赤い筋を作った。当たれば身を護ることも叶わぬ、蒼き斬撃はセーロを飲み込み──力を失くした体は、赤を海に残しながらゆっくりと沈む。

 気が付けば辺りはとても静かだった。終わったのだと、そこでようやく実感し始める。

(……貴方がそうなった始まりは存じません。
 唯引き込むだけの貴方──或いは、かつての貴方に自分から歩み寄り続ける勇気が有れば、そうはならなかった……のかもしれませんね)
 アリシスは海底へ沈んだセーロを見下ろしながら心の中で呟いた。メートヒェンは同じように見下ろして小さく目を伏せる。
「さようなら──」
 君は嫉妬から解き放たれただろうか。もし来世があるのなら。君が多くの仲間と出会えることを、祈っているよ。
 イレギュラーズの祈りとともに、1人の魔種は海底で眠りについた。


●離れ、落ちて
 瞳を開けると、遠くで海面が揺らめいていた。
 ──嗚呼。
 溜息をつくように、泡沫が上って行く。
 ──やっぱり僕も、欲しかったなぁ。
 手を伸ばしても彼らには届かない。
 ──だって。
 

 ──君たちのソレ(絆)は、とても眩しかったんだ。

成否

成功

MVP

如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き

状態異常

メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)[重傷]
メイドロボ騎士
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)[重傷]
夜砕き
アイリス・アベリア・ソードゥサロモン(p3p006749)[重傷]
<不正義>を知る者

あとがき

 お疲れさまでした。如何だったでしょうか。
 仲間という存在への嫉妬を抱く魔種『セーロ』は海の底へ。彼の物語は終わりを迎えました。
 皆様の物語はまだまだ続くでしょう。傷を負われた方はどうぞご自愛ください。更なる活躍と紡がれる物語を、楽しみにしています。

 忍びの矜持を持つ貴女へ。PPPは発動しませんでしたが、その心はとても芯が通ったものでした。今回のMVPをお贈り致します。

 それではまた、お会いできることがあればよろしくお願い致します。

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