PandoraPartyProject

シナリオ詳細

絶対破滅のレトログレッション

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 躰を這い蹲る様な咆哮が、闇夜に残響する。


 その日、高く聳えたつ山々の麓に位置する、地方の街が一つ、消滅した。
 ”消滅”の意をより明確にするのであれば、正気を有する市民が、”焼失”した。
 ―――≪原罪の呼び声≫(クリミナル・オファー)。
 純種から構成される市民は、その咆哮を聞いていた。
 瞬間と云うよりも、継続的に。
 だからそれは、計画的な衰退。
 市民たちは、徐々に侵食されていた。
 市民たちは、その事実に気が付いていなかった。
 曰く、山には口碑の魔獣が棲まうのだと。

 ”森に棲むと云われる人狼。
 その魔物に負わされた傷は軈て躰を蝕み、
 ヒトを魔物に変えてしまうのだと云う。”

 ―――その人狼の、≪原種≫(オリジナル)。

 人狼の王。
 孤高の王。
 絶対の王。
 山を支配するモノ。
 やがて、ヒトを滅ぼすモノ。

 ≪魔種≫(デモニア)たる、
 ―――≪人狼の王≫(ルー・ガルー・オリジナル)。

 動かぬモノ。
 只座すモノ。
 そうであった筈のルー・ガルーが、歩き始めた。
 躰を這い蹲る様な咆哮。
 身を凍えさす咆哮。
 身を灼く咆哮。
 闇夜に残響する咆哮。

 それは明確な畏怖の芽生え。
 世界に仇名す一つの魔種の、反逆である。

●ローレットへの依頼
 その速報に、ローレット内の空気が強張った。
 此度の標的は、人狼型魔獣。
 魔種である。
 ≪鉄帝≫(ゼシュテル鉄帝国)と≪天義≫(聖教国ネメシス)との国境付近。
 聳え立つ山々の麓にある街を始めとして、多数の市民が行方不明になっているという。
 その原因は、原罪の呼び声である。
 狂気の伝播は純種達を狂わせ、その身を灼き切った。
 勿論―――、ルー・ガルー自体の残虐性と脅威性も、飛び抜けている。
 ≪特異運命座標≫(イレギュラーズ)へのオーダーは単純だ。

 現場へ急行し、ルー・ガルーを無効化して欲しい。

●人狼の王
 ヒトの身を切り裂くのは何と手応えの無い事だろう。
 だが、その身を喰らうのは、想像していたよりも美味な事である。
 ヒトの身を焼き払うのは何と容易い事だろう。
 だが、その身を灼いた後の熱風と匂いは、存外心地よく、甘美な物である。
 死体を踏み潰す感触も心地良いし、死を前にした絶叫は、私の身を昂らせる。
 ―――ずっと山の中で眠っていたから、こんなこと、私は知らなかった。
 何もしなくても、私は、それでよかった。
 それだけで私は、周囲を跪かせていた。
 だが、山々の声が、最近変わった。
 やけに騒がしい。
 私の寝覚めを妨げる。
 世界の状況が変わっている。
 ”七罪”の『煉獄篇第一冠傲慢』ルスト・シファーからの言伝も、
 それを受けての事であろう。
(まあ、其処には然程興味はないが、無視も出来ない。
 ……そして、この男、か)
 ルー・ガルーは腕に抱えた一人の男を見遣る。
 私の子供たちの匂いを持つ男。
 興味深い。
 だが、まずは―――。

 黒銀の無機質な毛並みは、絶えず形状を変化させ、生物のソレを思わせない。
 一般的なヒトの二倍ほどの体躯。
 ≪獣種≫(ブルーブラッド)と、≪鉄騎種≫(オールドワン)の特徴を、併せ持つかの様な容姿。
 双眸は深紅に彩られ。
 美しい彫刻の様な相貌は純粋な殺意に溢れ。
 彼は、鋭く周囲を見渡し。

「この蹂躙を、楽しもう」

 破壊し尽くされ、血に沈んだ廃街の中心で、一つの脅威が高らかに笑った。

GMコメント

●依頼達成条件
・魔種ルー・ガルー・オリジナルの撃退又は撃破
・一般人ニダルの救出

●情報確度
・Bです。OP、GMコメントに記載されている内容は全て事実でありますが、
 ここに記されていない追加情報もあるかもしれません。

●現場状況
【場所】
・鉄帝と天義の国境付近(鉄帝寄り)に連なる山々の麓にある街の中央部。
・周囲の建物は悉く破壊されており、視界は開けていますが、遮蔽物等は
 殆ど残されていません。
【時刻・天候】
・夜。晴れていますが、僅かな降雪があります。
・街は破壊し尽くされているため、光源等が無く、相応のデメリットが予想されます。
【その他】
・約二百名の住民は、全てルー・ガルーにより殺害されています。
・ニダルという幻想の一般市民がルー・ガルーに捕えられ、意識を失っています。
・周辺で巡回中であった鉄帝の兵士五名が急行し、プレイヤーの友軍になります。
・シナリオは、街の中央部で、ルー・ガルーと相対する時点から開始します。
・事前自付与・他付与、事前の友軍への指令は、可能です。

●味方状況
■『鉄帝兵士』×5
【状態】
 ・国境周辺の巡回に当たっていた兵士。
 ・何れも前衛物理型の鉄騎種。
【傾向】
 ・鉄帝と幻想の比較的有効な国交関係を反映させ、且つ、
  皆様がイレギュラーズであることを勘案して、従順な友軍として動きます。
【能力値】
 ・素人ではありませんが、特に指示が無ければ、大した動きは出来ません。

■『ニダル』
【状態】
 ・幻想に住む一般市民男性。
 ・過去に、ルー・ガルーと類似した事例に巻き込まれた経験があり、
  ルー・ガルーに関する調査を行っていました。
 ・意識を失っていますが、生命に支障はありません。
【能力値】
 ・一般市民であり戦闘能力は有しません。

●敵状況
■『魔種ルー・ガルー・オリジナル』
【状態】
 ・七罪の一人『煉獄篇第一冠傲慢』ルスト・シファー麾下の魔種です。
  ルストに対してのスタンスは、”ほぼ無関心”です。
 ・魔種への反転前は、鉄騎種の純種でした。
 ・人狼の王と呼称される、非常に強力な敵対ユニットです。
 ・人型です。双眸は深紅に染まり、黒銀の無機質な毛並みは絶えず
  形状を変化させ、生物か無生物か判別つかないような形態を有します。
 ・長く山奥に眠っており、世間の常識に極めて疎いです。
 ・上からの命令もあり、動き始めました。
【傾向】
 ・一般的な思考能力を有しており、理性的な会話が可能です。
 ・極めて残虐な行動指向を有しており、魔種らしく、
  無辜なる混沌を歪め、大きな不幸と混乱を招こうとします。
【能力値】
 ・高EXA、高CTです。常に複数回行動を取ります。
 ・極めて高い攻撃力が特徴です。
 ・神秘攻撃に対して特殊な抵抗値があります。
【攻撃】
 1.爪撃(A物至単、致死毒、ブレイク、連、飛、大威力)
 2.咆灼撃(A物近域、炎獄、失血、大威力)
 3.衝撃波・序(A神中域、魅了、停滞、失血、HA回復)
 4.衝撃波・破(A神遠域、魅了、停滞、失血、HA回復)
 5.衝撃波・急(A神超遠域、魅了、停滞、失血、HA回復)
 6.EX王の資格(A特レ神、呪い、致命、封印、大威力)
   ※特レ:ルー・ガルーを中心とする半径三十メートルの同心円内を対象とする。

●備考
・本シナリオに登場する『人狼』は、便宜上設定された呼称(識別コード)です。
 他GMシナリオに登場する『人狼と呼称されるもの』とは異なる独自の概念です。
・拙作『それじゃあ、バイバイ。』と関連あるシナリオですが、
 そちらを参照する必要はございません。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●Danger!
 当シナリオでは魔種の『原罪の呼び声』により純種が影響を受ける可能性が有ります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

皆様のご参加心よりお待ちしております。

  • 絶対破滅のレトログレッションLv:5以上完了
  • GM名いかるが
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年01月22日 22時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談9日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
シキ(p3p001037)
藍玉雫の守り刀
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
アミ―リア(p3p001474)
「冒険者」
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女

リプレイ


 ―――その場の空気を身體に取り込むだけで、内側から血肉を蝕まれるかの様な悍ましさを感じた。
 すんと鼻を啜った『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は、そんな惨憺たる空気と血肉の匂いを受け止めて、眼前の”人狼”を睨んだ。
「街をこんなにして……! どれだけの人を犠牲にしたの!」
 ―――絶対に許さない。
 そう続けた玲瓏なる侮蔑に、《人狼》(ルー・ガルー)は、無感情に瞳をずらした。
「ああ……。
 ……まだ、残っていたのかね」
 その声色は、まるで。”食べ残していたコーンを見つけた”……それくらいの気軽さしか孕んでいない。『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)には正しくそう理解出来た。
 実際、その程度の事なのだ。―――彼にとっては。
(酷い状況……でも、救える命がまだ在る。
 なら、私がやる事は只一つ―――絶対に助けるんだ!)
 古代魔導器『セラフィム』の柄を強く握りしめたスティアの、その視界の少し先。
 これから始まる”惨劇”の最前線の一人、『濃紺に煌めく星』ラノール・メルカノワ(p3p000045)の背中はそこはかとない愁いを湛え、その外套が街を燃やす熱風に揺れた。
(死体の山等は見慣れているものだが……これは酷いな。
 ”争い”ではなく、”虐殺”の跡。
 ……死んだ者の中には、きっと年端のいかぬ子供も居たのだろう)
 希望も。未来も。幸福も。
 ―――その全てを握り潰して、《あの敵》(魔種)は此処に立っている。

「ルー・ガルーは”只座すモノ”であると聞き及んでいたのだがな……。
 ……何の企みに”加担”している?」
 ラノールの問いに、ルー・ガルーは漸く、僅かではあるが感情らしい感情を示した。
「―――”加担”。
 妙な口振りだな小僧」
 じろりと深紅の双眸がラノールを嘗めつける。
 併せて、だらりと揺れた、ルー・ガルーの片腕に抱かれるニダルの姿を、『藍玉雫の守り刀』シキ(p3p001037)の茫洋たる真紅の双瞳が捉えた。
「……はははっ!」
 次第に重圧が掛かり始めた空間―――其れを切り裂くかの様な快闊な笑声。
「―――テメェか、”王”のクセに誰かの”手下”やってる奴ってのは!」
 『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)の嘲笑。
 貌に浮かぶのは―――彼を真正面から引き受けるのだと云う確固たる決意。
「益々聞き捨て成らぬな……」
 ……対してルー・ガルーは、比類無く美しい狼獣の相貌を歪め、口端を釣り上げた。
「魔種を統べる者―――”七罪”の麾下かしら?」
 『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)の甘く伸びやかな声色に、ルー・ガルーが目を細める。
 ……ああ、これは。
 『「冒険者」』アミ―リア(p3p001474)が感じたのは、心地の良い殺意の塊。
 その横では『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)の絹の様な髪がちりと焦げる―――舞う火の粉の為か、それとも。
(―――素晴らしい。
 久々に”愛し甲斐のある君”と出会えたじゃないか)
 そうほくそ笑んだ『逃れ得ぬ黒狼の爪』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)。
 此れから、明確な殺し合いが始まる。その嘱望が焦がすのか。

 そして、
「来い―――リーゼロット……っ!」

 ルー・ガルーが無言で踏み込む一瞬、同時。

 ハロルドは己が得物、聖剣『リーゼロット』を召喚する。

「おら……、テメェに俺の守りが貫けるか!?」

 ―――にたり、と。
 ルー・ガルーの口許が嗤った。


 次の瞬間、ハロルドの体躯が爆ぜた。
「……っ!?」
 『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)が思わず腕で顔を隠した。
「ハロルド殿!」
「―――」
 激しい風圧が盛大に土を舞わせる。
 ボルカノの問いかけに、

「―――相手に取って、不足なし!」

 ……初手で、その整った相貌を血跡塗れにされたハロルドは、何とか膝だけは地に付けず、辛うじて態勢を戻した。
「無理はしてくれるなよ」
 ラノールが直ぐ様、ルー・ガルーへ接近し、そして、……天駆脚により、平時であれば随一の速さを誇るリノをも凌ぐシキが、
(……”あの人”の守り刀であり続けられるように……。
 『僕』も『私』も……もっと、強くなる)
「……!」
 逆にルー・ガルー、そのニダルを抱えた右腕側へまで肉薄し―――、暫時、抜刀。
 黑塗りの鞘から放たれる。
 ―――大太刀・真名『禍津式』。
 その斬撃は視覚で追える類の物でも無く。
 只、美しい朱色の一線を、ルー・ガルーに書き残した。
「ほう……」
「……関心してる場合じゃ……無いよ……」
「―――全くね」
 シキとは真反対。
 ……ルー・ガルーの死角。正真正銘の”最速”―――リノが、撓やかに。
「人狼の王様ねェ……。
 ―――中々、ステキじゃない」
 シキが斬り裂いた腕に、白銀の月が煌めく『Ereshkigal』を突き刺し、
「返して貰うわよ」
 ニダルを奪還すると、直ぐ様、後退を始めた。
 その様子をじいと眺めるアミーリア。
(さて、人質に対してどう出るか)
 視線の先では、ルー・ガルーが走り往くリノ達を眺めている。
 積極的に取り戻そうという様子では無いが……。
「―――蹂躙は楽しい!
 今まで知らずにおいたのであれば、とんだ世間知らずさんであるな」
 カカ、と。百合子が笑った。
「であれば、貴殿は知るまい
 ”こーいう事”をすると、大抵吾達みたいなのが飛んできて……”お得”であるぞ!」
「”お得”? ……フフ、その心は?」
 ルー・ガルーもその妙な女の言葉に声を漏らした。そんな彼に、
「さぁ、死合おうか!」
 胸の前で腕を組み。
 仁王立ちした百合子は―――高らかに宣言した。

 ……ルー・ガルーは考えを改める。
 成る程、此れは。
 ―――噛み応えの有る肉だ。

 アミーリアが長剣『巨人から隠れる消滅』を構える。
(”雑草”狩りを楽しむ変わり者の魔種ねえ。
 ……ま、嗜好はそれぞれ。それもいいけど)
 可憐な容姿とは相反する狩人の視線が、ルー・ガルーを穿つ。
「どの道、どんな小物であろうと油断はしないけど。
 楽しみは強者との《遊び》(殺し合い)との中に見出す物だろうにねえ―――!」
 ―――我が神の加護は 我が身に在りて―――
 具現化エーテルから放たれる”凶の魔術”。それはルー・ガルーを襲い、
「一気に片をつけるわよ……!」
 アレクシアが呟きながらハロルドに療術を施し、
「貴方は、リノさんが救出した彼をお願い!」
「了解した!」
 鉄帝の国境警備隊員はスティアの指示に頷き、ニダルの応援へと向かう。
(怪しい兆候は……)
 ルー・ガルーの有する強力な魔術。
 それを強く意識したスティアは、ルー・ガルーへの観察を一時も怠らない。
(人の味を覚えた人狼という事であるか。危険である。
 ……でも疑問も。解き明かしたいのであるが)
 そのキナ臭さを感じ取っているのはボルカノも同じ。
「とかく世はままならない事、その身に刻んでやるのである―――!」
 その鋭い爪に呪詛を宿し、即座にルー・ガルーへ叩き込む……!
 鈍い感覚がボルカノの手先へ伝わる。直撃だ。
 アミーリアの攻勢魔術とボルカノの爪撃。
 其れを受けて、敵は―――。

「―――ハ」

 口元から漏れる息。
 白い息―――それはやがて笑声に変貌し、

「―――ハハハ!」

「……まずい……っ!」
 スティアとアレクシアが同時に叫び、互いに互いの立ち位置を確認した。
「構えて!」
「……っ!」
 ルー・ガルーから三十メートル。
 其れが、絶対条件。
 絶対に。
 何方かは―――。

 瞬間、

   キィィ―――――――――――――ン

  白色。 

   見えたのは、

   キィィ―――――――――――――ン

    ルー・ガルーの―――。


「―――立てっ!」
 怒声の様な激しい声に思わず瞼を開けたリノは、一瞬の内に頭を覚醒させる。
 意識の中に、”何か”居る。
 そんな気持ち悪さを飲み込む状況を確認し―――。
「冗談は止してよねェ……」
 飽くまで平時の飄々とした表情は崩さない儘、けれど、リノの美しい口の端が、僅かに歪む。

 降り注ぐは、朱い雪。

 ”人血”に染まる―――朱い雪だ。

 ルー・ガルーを囲んだ十名のイレギュラーズと鉄帝兵士の多くは地に膝をつき、頬から血を流していた。
 スティアとアレクシアは二人とも、射程外への退避に成功した様である。
 そして。
 ―――そして、ルー・ガルーの右腕はシキの左胸を貫通していた。
 禍津式はルー・ガルーの頬を撫ぜる様に避けられている。
 肉の引き千切れる音がして、ルー・ガルーはシキの体躯から腕を引き抜いた。
「スティア殿、アレクシア殿!」
「奴に―――隙を与えるな!」
 ラノールとハロルドが何とか立ち上がり、戦線を復帰すべく最前線へと帰る。

 ―――《可能性》(パンドラ)は。
 《特異点》(イレギュラーズ)に、まだ戦えと囁いている―――!

 一人、一人とイレギュラーズは立ち上がる。
 ルー・ガルーはその様子を、愉し気に眺めていた。
「良い。―――実に良いね、《人狼王》(ルー・ガルー)」
 右手に純心を穢す『グランフルシェット』。
「もっと別な形で会えていれば良かったとも思うよ。
 ……ああ、そうさ、互いに深く傷付けあって、存分に喰い合おう。
 私達は―――《食事》(それ)がしたいんだから!」
 左手に煌命を簒う『グランクトー』。
 可能性に立ち上がらせられた《血染めの悪魔》(マルベート)が、舞踏が如く双槍で切り穿つ―――!
「―――同類、かね」
 胎動する表面。
 黒銀の”無機質で且つ有機質な”体毛。
 ねめつける様な深紅は。
 無言でその槍撃を受け止め、堪らず反撃の構えを取った。
 その時、

「吾こそは”美少女”!
 ―――咲花百合子である!」

 瞬間、動きを止め……百合子を”視た”。
 美しい髪をべっとりと血糊で固めた百合子。
 そして彼女の身體から放たれる、覇気。
 その時確かに、ルー・ガルーには隙が生まれた。
 ―――そも、ルー・ガルーは”美少女”という概念自体を知らぬ。
 だから、彼が通念概念と種族概念とを混乱することは無い。
 けれど、ルー・ガルーは。
 そんな初めての定義付けに、
「今度は行かせないぞ」
「む―――」
 ラノールが振るうマトックにルー・ガルーは足を止め、
「テメェは此処で抹殺する! 何を犠牲にしてでも!
 ―――俺は、平和を乱す輩は皆殺しにすると決めているんでな!」
 挟撃するハロルドの矢継ぎ早の斬撃。その刃がルー・ガルーの身を削ぐ。
「むず痒い……!」
 振りかぶったルー・ガルーの腕が暴虐的にハロルドの身を削ぎ落す。かは、と彼の口腔から血が吐き出されるのを待たずに、
「思ったより骨あるじゃない、貴方!」
 ぐん、とアミーリアから繰り出された炎の斬撃をそのまま手で受け止める。
 押し込むアミーリア、受けるルー・ガルー。拮抗する二人は、極至近距離で邂逅した。
「私たちへのオーダーはあくまでも時間稼ぎ。鉄帝と天義の本隊が到着するまでの、ね。
 軍が来ても蹂躙できると思ってるだろうけど……さて、本当にそう上手くいくかな?」
「ふん。そう云った小細工などは止めておけ、女」
「小細工かな?」
「ああ―――私は、”お前達を”喰らいたい」
 そのままアミーリアが弾かれる。しかし、その振り向き様、
「何時までも蹂躙ばかり出来ると思ったら大間違い!」
 ボルカノが決死の覚悟でルー・ガルーが雪崩れ込む。
(……シキ殿は)
 ちらりとボルカノは視線をずらす。それが精一杯。
 眼前の敵は、そんな小さな隙すら、許してはくれないのだから。

「酷い傷……!」
 スティアは直ぐ様、術式を展開し、聖域を作り出す。
 手を当て、目を閉じる。
 その身から紡がれるは、高位の療性魔術。
「―――、―――」
 眼前で浅い息を繰り返すシキ。
 重傷だ。
 或いは、その命さえも―――。

「……誰一人、逝かさないわよ」
 少し離れた所で、アレクシアがシキの様子を視界の端に収めた。
「私は護る為に此処に来た。だから、誰一人、たったの一人も」
 『トリテレイア』を嵌めた腕を高く掲げる。
「―――《ヴェルヴェーヌ》(祓魔の浄花)!」
 直後、浮かび上がる赤き魔力の花。
 それは、戦場全体を覆い尽くし。
「中々、ロマンチックじゃない」
 頭上に咲く魔術花に感嘆を漏らし、ボルカノの側方からリノが加勢する。
 その身が振るうは、『Ishtar』―――黄金の星のナイフ。
 ―――その一突きがルー・ガルーの身を穿つ。
 目を細めたルー・ガルーは大きく腕を薙ぐと、堪らずボルカノが後ろへと払われる。
「人狼の王様ねェ、中々ステキじゃない。
 教えて差し上げるわね、私達のこと―――」
「その必要は、無い」
 ボルカノを薙いだのとは別腕を豪速で突き出せば、その掌は一瞬でリノの細い首を締め付け、そのまま彼女を持ち上げる。
「―――《戦え》(ヤレ)ば、分かる」
「っ……、あぁ……でも、アナタ」
 リノの相貌が歪む。足は地につかず、視線はルー・ガルーの艶麗な瞳球に注がれ、
「とっても……キレイだわ」
 直後、リノの体は地面に落ちる。
 かは、と嘔吐いたリノの頭上を、左右から其々マルベートの双槍とハロルドの聖剣リーゼロットが交差する様に、ルー・ガルーを撃滅せんと突き出された。
「……っ!」
 が、しかし。
 二人の視界に在るのは、互いの得物が寄り添うところ。
 瞬刻前に在った筈のルー・ガルーの姿は其処には無く―――、
「上だ!」
 ラノールの叫びに、上を見上げたマルベートとハロルドより早く、百合子が跳躍した。
「貴殿との邂逅、感謝すら覚えておるぞ、《人狼王》(ルー・ガルー)。
 ―――熱き闘争が楽しめるのだからな!」
 繰り出される白百合清楚殺戮拳『鉄法』の構え。
 そして再度ルー・ガルーへ流し込まれる、美少女(種族)の覇気。
 宙で交差する、拳と拳。
「良いぞ」
 ルー・ガルーは目を細めた。
「貴様らは興味深い。私の目を覚まさせたのは……」
 寸での所で躱し返す刀でルー・ガルーの放つ衝撃波が、百合子を激しく弾いた。
「貴様達なのだな―――!」
 着地したルー・ガルーは矢継ぎ早に咆哮し、大気が揺れる。
 世界秩序までもが平伏するかの様な感覚。
 空間が歪み、己の内臓を、内から咀嚼するかの様な―――。
「本当に良い夜だよ、ルー・ガルー!」
 マルベートが思わず笑みを零す。
 柵も生い立ちもすべて忘れて。今宵は只、一匹の獣に戻れる。
「嬉しいよ……、君も私と同じ、幸せな気持ちで居てくれるのだからね。
 ―――酷虐を愉しむ、友であれるのだから!」
「余所見してる暇などないぞ!」
 マルベートからの熾烈な攻撃を受けるルー・ガールーを更にハロルドが押し込めば、
 ラノール、そしてボルカノを合わせたこの三名が壁となる。
 現時点でローレットにおける最も堅牢な壁と云っても過言では無いだろう……!
「お前は此処で、滅びる……!」
 ルー・ガルーの爪撃を浴び、血を流しながらそう言い切ったラノール。
 そして、

「……そう、貴方は」
「……! まだ動くかね……!」

 その死角から気配を消し肉薄する、

「……此処で終わり」

 ―――死に体の様なシキの、幽玄なる一閃。
 その切っ先は、
 ルー・ガルーの相貌へ吸い込まれ―――。


 ルー・ガルーにとって、驚嘆という感情はない。
 驚きとは、
 自らが有する常識と、遭遇した非常識との乖離の度合いを指すのであれば、
 成程合理的な機構でもある。
 彼にあるのは、
 百合子やマルベートと類似する様な、
 只なる《快楽》(蹂躙や闘争)への羨望だけであって―――。


 ルー・ガルーの相貌に妖刀が突き刺さり、貫通した。
 妙な感覚。
 それは、何を斬っている感覚なのか。
 数多の事物を斬り捨ててきたシキにとってすら、それは不明確な感触。
 ルー・ガルーの傷から勢いよく噴出する体液は、深海の様な青、青、青―――。
(やったのであるか……?)
 ボルカノが僅かに視線をずらす。
 視線を受けたスティアは、しかし唯々ルー・ガルーのを凝視し、
「―――ま」
 「まだ、次が来る」と皆に伝えるより早く、
 頭を割るような甲高い周波数、
 フラッシュバック。
「……くっ!」
 アミーリアが、百合子が倒れ、
 
 ―――”王の資格”は。
 ルー・ガルーの存在そのものの”在り方”であり。

「……良く分かったよ、《傲慢》(ルスト)がこの私を覚まさせたこと」

   キィィ―――――――――――――ン

 ルー・ガルーは己を貫く刀を引き抜き、放り投げた。
 ハロルドとラノールの口から鮮血が噴き出る。
 脳内を揺すぶる衝動にアレクシアも花の顕現を維持出来なくなり、

   キィィ―――――――――――――ン

 リノが、その薄れゆく意識の中、最後に視たのは。

   キィィ―――――――――――――ン

 スティアが震える手を必死に伸ばす。
 しかしその手が、彼を捉えることは無く……。

「もう私は貴様たちを殺せないし。
 貴様らも私を殺せない。
 だから、おあいこ」

 ルー・ガルーを覆っていた黒銀の毛並みは消失し。巨体は縮小され。
 ……やがて一人の、長い銀髪を揺らす少年だけが代わりに其処に立ち。

「次は、きちんと殺してあげるからね?」

 そう言って潰えた左眼でウインクしたルー・ガルーは、動かぬ右足を引きずり、雪降る闇夜に姿を消していった。

 ―――多大な血を流し、彼を退けたのである。

成否

成功

MVP

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女

状態異常

ラノール・メルカノワ(p3p000045)[重傷]
夜のとなり
リノ・ガルシア(p3p000675)[重傷]
宵歩
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)[重傷]
饗宴の悪魔
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
天義の聖女
シキ(p3p001037)[重傷]
藍玉雫の守り刀
咲花・百合子(p3p001385)[重傷]
白百合清楚殺戮拳
アミ―リア(p3p001474)[重傷]
「冒険者」
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)[重傷]
ぽやぽや竜人
ハロルド(p3p004465)[重傷]
ウィツィロの守護者

あとがき

皆様の貴重なお時間を頂き、当シナリオへご参加してくださいまして、ありがとうございました。

 非常に脅威性の高い敵対ユニット、魔種『人狼王』ルー・ガルー・オリジナルとの闘いお疲れ様でした。
 この性能のユニットを現状構成で如何に妥当するか悩ましい処だとは思います。今回はシビアに数値等ビルドの所も判定で加味しましたが、皆様のプレイング・スキル構成は、敵を撃退するに十分な内容であったと理解しています。
 短期決戦とは言え、スティアさん、アレクシアさんと云う厚いヒーラー二名が居たのも幸いでしたし、防御力の高い壁役・反応の高い機動役ととにかくバランスが良かったです。
 一方で撃破にまでは至りませんでした。再戦の可能性は不透明ですが、可能性としてはゼロではございません。
 まずは体を休めてくださいね。

 尚、今回は純種のPCには『原罪の呼び声』による反転判定を掛けていますが、反転者は居なかった事を併せてご報告いたします。

ご参加いただいたイレギュラーズの皆様が楽しんで頂けること願っております。
『絶対破滅のレトログレッション』へのご参加有難うございました。

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