シナリオ詳細
鉄帝流三が日
オープニング
●初詣 とは
年が明け、初めて神社や寺閣へ参拝する行事である。
混沌にもそれらはきっとあるだろうし、教会で祈ることも該当するだろう。もしくは独特な参拝方法があるかもしれない。
そう、例えば──。
「年明けも元気に──初詣始めちゃうよ! 進行はこのボク!! さあ皆、一緒に──」
\\ぱっるすちゃーん!!!//
──鉄帝とか。
ここは『アイドル戦士』パルス・パッション(p3n000070)の華麗なる戦いの舞台──ラド・バウではなく、彼女のライブ会場というわけでもない。ここは正真正銘、教会のド真ん前である。
●これを参拝というべきか
「なんか、ドーーン! ってするみたいです!」
野球の如くエアバッドを振りかぶる『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。しかしイマイチよくわからない、というかこれだけで分かる人がいたら驚きである。
そんな様子にクスクスと小さく笑って見せるのは彼と言うべきか彼女と言うべきか──中性的な麗人。ラド・バウのSランク戦士『ビッツ・ビネガー』。
「はァい。今日はお嬢ちゃんからアナタたちへ、初詣のお誘いよ」
お嬢ちゃん? とイレギュラーズが首を傾げれば、ビッツは「パルス・パッション。知ってるでしょ?」と小首を傾げて聞き返す。彼の身に着ける簪飾りがそれに合わせて揺れた。
パルス・パッションと言えば、ラド・バウのアイドルファイターだ。彼女からの誘いをビッツが持ってくるという事態も謎であるが、
「乙女同士のナイショよォ」
なんてビッツは人差し指を口元に当て、蠱惑的に微笑んで見せる。深く掘らないほうが良い話題かもしれない。
「初詣……年が明けたら、神様に挨拶するんだっけ」
ふわりと甘い香りを漂わせ、『Blue Rose』シャルルが聞いた知識を口にする。その言葉にビッツは頷いた。
「ええ。まず、教会で神様に祈るでしょォ? 手を合わせたり、瞑想したり……」
お、意外と普通か? いやいや『まず』って言ったぞこの人。
「その後、教会の外で開催される鐘鳴らし大会に出るのが通例ね」
やっぱり鉄帝だわ。
だが、その通例さえ知らぬ存ぜぬをつき通せばただの初詣となるだろう。ラド・バウ然り、鐘鳴らし大会然り──力試しを望む者が集まってくる場だ。
実際、ビッツにその大会へ出るのかと聞いてみれば──。
「ヤダ、不特定多数とのバトルロイヤルでしょ? アタシ、自分より強い人と戦いたくないのよねェ。『華麗』でありたいもの」
──と、頬に手を当ててみせる。つまり観戦か。
聞けば、様々な理由で参加しない鉄帝人もいるという。今年はパルスが進行を務めるらしいので参加者は増えるだろうが──。
「新年の力試しに如何? お嬢ちゃんと、鉄帝の戦士たちが歓迎するわァ」
ビッツはイレギュラーズを眺め見て、その口角を持ち上げた。
●そして、時は戻る。
「チャオ! ようこそ、鉄帝の初詣へ!」
ビッツに届けられた誘いにより、鉄帝を訪れたイレギュラーズ。満面の笑みを浮かべたパルスがイレギュラーズを迎える。
「さあさあ、会場はこっちだよ! 参加する人も見てる人も、先にルールを説明しちゃうね!」
先導するパルスについていけば──直径3mはあろうかという、鐘。パルスはその前に建つと、足元に置いてあったハンマーを持ち上げる。
「勝敗は簡単! これで鐘を鳴らして、1番大きい音が出た人の勝ち! イレギュラーズの皆も、鉄帝の皆も、力一杯鳴らしてね!」
うおおおお、という声が地響きの如く空気を揺らす。成程、パルスの影響もあって今年は随分人が多いようだ。
そんなわけで新年の運試し──ではなく、力試しである。
- 鉄帝流三が日完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年01月16日 21時25分
- 参加人数35/∞人
- 相談4日
- 参加費50RC
参加者 : 35 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(35人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●願いと祈りは満ちて
「ゲェーー、なんですのコレ、何があったんですの!?」
例年以上の人込みにはこの教会で働く者のみならず、手伝いのヴァレーリヤも目の回るような忙しさだ。パンや葡萄酒の配布をし、乳香を焚くために香炉へ。人の波は途切れることを知らず、時計を気にする余裕ができたのは数時間後。
(来年からはこの地区のお手伝い、別の人に代わってもらおうかしら)
なんて思うものの、
「手伝いに来てくれて助かったよ」
感謝の言葉をかけられれば別にいっか、と思い直したり。
ここで働く彼らの1年が幸福に満ちたものであるように、ヴァレーリヤは主(神)に祈った。
落ち着いて来た教会内にはちらほらとイレギュラーズの姿が見える。祈りを捧げるカナデもその1人。
(元の力を取り戻せますように)
混沌肯定『レベル1』。その世界法則によって力を失った今は、まるで人生を否定されたようで。元の世界ではエリート部隊に所属していたこともその考え方に拍車をかけたのかもしれない。
(だから私は、私を取り戻す。奪われたすべてを──)
世界から奪い返すように、強くなってみせる。
教会へ入った焔は「ふわぁ」と息をついた。先程全力のパルスちゃんコールを終えてきたのである。
(ちょっと疲れちゃった。お祈りだけしようっと)
祈ること、祈りたいことは沢山あった。元気に楽しく過ごせるように、とか。友達がもっと増えるように、とか。パルスのライブに沢山行きたい、とか。他には──。
(──元の世界に帰りたい)
あ、と思わず声を洩らし、焔は小さく苦笑した。それはどれだけ小さくなっても消えない炎のような想い。
(ボクは今も元気にしてるよ、お友達も出来て楽しく過ごせてるよって伝えて……安心させてあげるだけでもできたらなぁ)
或いは──祈れば届くだろうか。
熱心に祈りを捧げる焔の近くで、ランドウェラは何を祈ろうかと思考を巡らせていた。
健康でいられるように。依頼が成功するように。新たな仲間が増えるように。面倒な者がこれ以上出てこな──多い。全部願うには勿論多すぎるし、どれか1つに決めるのもかなり至難な事である。
「…………これでよし」
暫し瞑目したランドウェラは神へ祈りを捧げると目を開けた。そうして思わず隣にいた近隣住民らしき少年と視線が合う。
「あんた、どんなこと祈ったんだ?」
「はっはは! 教えるわけなかろう? 誰にも教え、」
と、ここが教会だったことを思いだしたランドウェア。おっと、と慌てて口を噤んだのだった。
「ユリーカさん、こっちっすよ」
レッドとユリーカは一緒にお祈りを。レッドはパルスとデートできるように、そしてもっと見聞を広められるように。ユリーカに問えば「内緒なのです」と悪戯っ子な笑みが返ってくる。
ガーグムドはこれからのゲン担ぎに祈りを捧げる。
(大会で良い順位を狙えるように! また溶岩風呂に入れるように!)
外で行われている初詣の音は教会内まで聞こえてくる。蛍はその音に意識を向けられつつも、珠緒と参拝しようとして──。
「……んん」
「お作法は……と、そもそも蛍さんも鉄帝の方ではなかったですね?」
教会側もイレギュラーズが多いことは重々承知、細かいところはそのお国柄もあって気にするまい。蛍の故郷である日本の作法に倣う2人の願い事はと言えば。
(パルスさんの最前列ライブチケットが欲しいのです)
来てすぐに彼女を見た珠緒はそう願い、蛍も手を合わせながら心の中で願いを唱える。
(ボクもお友達も元気に楽しく1年を過ごせますように)
以前なら故郷に早く帰る事を願っただろう。今もその思いがないわけではないが、こちら(混沌世界)も今は──なんて。
「そういえば桜咲さん、前の世界ではお祈りされる側だったのよね」
どんな願いが多かったのかと声量小さく問う蛍に、珠緒ははっとした表情を浮かべた。これまで自分が向けられていたものと結びついていなかったようだ。
豊かさも医療も限られていた珠緒の世界で願われたのは──子供の息災祈願。厳しい環境に置かれれば、先ず犠牲になるのは弱い存在だったから。今、珠緒には神へ届けられる祈りがどんなものか知る由もないが、もしかしたら同じような願いは多いかもしれない。
願いと祈りの満ちる教会にはただ──鐘の音のみが聞こえてくる。
●願いを叫べ! 鐘を慣らせ!
「ふふ、銅鑼の音を聞かねば1年の始まりという気が致しませんので」
新年の挨拶を終え、にこりと微笑んだアニーヤは鉄帝出身。軽く準備運動を終え、初詣に参加する。
アニーヤは両手でハンマーを持ち、──不意に目をカッッッと見開いた。
「──たああぁあああああーーーーーーーーっ!!!」
風を切るようなフルスイング。ゴォンという音と共にアニーヤの1年は始まりを告げた。
去年は戦闘、精神のどちらにおいても力不足を痛感していた、とリュカシス。
「なので! 未熟でくよくよとした煩悩を吹き飛ばすため! 不甲斐なくへこたれた下向きな気持ちを上回るような! 鋼の力と! 鉄帝万歳の気持ちも全力で込めて! 銅鑼ハンマーを振るいマス!」
高らかなリュカシスの宣言にいいぞ、思いっきりやれと周囲の鉄帝人から声が上がる。振りかぶったハンマーが銅鑼を打ち付け、その音は空へ良く響いた。
リュカシスは壇上を降り、パルスとピッツの元へ。新年の挨拶と「闘技場でいつか必ず」と告げる彼に、2人は楽しみにしていると頷いて。
次に出てきたのはレジーナと幽魅。
「す、少しズルいかも……しれませんが……」
口元を手で隠しながら視線を彷徨わせる幽魅だが、進行役のパルスは「大丈夫!」とウインクを飛ばす。
「2人はダメって言ってないからね! いい音、期待してるよ」
レジーナはハンマーに延長用の取手をつけ、しっかりと固定する。2人で打つには持ち手が短すぎたのだ。勿論これもダメとは言っていないからOKである。
「さぁ道子、後ろから持って」
「は、はい……やりにくい……ですけど……これで……いいかな……?」
二人羽織のような体勢でハンマーを持ったレジーナと幽魅。レジーナが小さく後ろを振り返り「息を合わせて一気に振り抜くのよ」と幽魅に告げる。幽魅は頷くと念仏を唱えるかのように「息を合わせて」と数度復唱して。
「準備はいい?」
「が、頑張って……合わせ……ます……!」
2人は鐘を見てしっかりハンマーを握り。
「いっせーの、」
「「っせ……ッ!」」
彼女らの息は──ぴったりと合わさった。綺麗に振り下ろされたハンマーが、ゴォンと鐘を揺らす。
「鐘鳴らし大会とかあるんだね、楽しそう」
続いてハンマーを手にしたのはセララ──と、ハイデマリー。こちらも2人での参加である。鉄帝を知るハイデマリーがセララを案内し、正月を楽しんでいる途中のことだった。
「2人の力を合わせて、目指せ優勝だー!」
おー! と拳を上げるセララ。ハイデマリーは勝ち負けじゃなくても、と思いつつ、
「まあ、なんなら2人で1番より2倍の音を出せばいいんじゃないですかね」
と呟いた。勝負事でないと言っても、やはり勝てたほうが気持ちは良い。
──マリーや皆と楽しく過ごせるように。世界が平和になるように。
──今年も一緒にいられるように。
2人は願いを込め、ハンマーを共に振り上げた。
「宇宙警察忍者代表として、拙者優勝を狙いにきました!」
ルル家は鐘の前でぐっと拳を握りしめる。普段の武器が使えないとなるといくらか心許ないが、そこは愛と勇気と宇宙パゥワが何とかしてくれる。
「うおー! クリティカルが上がるアクセサリーがないのでMVPいっぱい取って勲章貰うぞパーンチ!!」
──ドゴォン。
素手で鐘を殴ったルル家。ハンマーはどこに……足元に置いてあった。
鐘の前で悶絶する彼女に「ハンマーを使うのよ」とルーミニスが告げる。殴るものだと思っていたらしいルル家はきょとんと彼女を見上げた。
「……ふっ、そうであればそう言ってくれればいいものを。ですが、拙者の拳は今の一撃で砕け散りました」
救護室を探して去るルル家を尻目に、ルーミニスは鐘を見上げた。
(イレギュラーズになってもうすぐ1年……今年はでっかい事為したいわね)
始まりは華々しく。鐘を壊すくらいのつもりで、とハンマーを持ち上げたルーミニスは目を瞬かせた。
「あら、意外と軽いわね?」
全力で振ったら折れてしまいそうだ。だが鳴らせればそれでよし、とルーミニスは全力全霊で鐘をブッ叩く!!
「今年はデカい事を為すわ! 手始めに優勝よ!! 響けええええ!!!」
ビリビリと空気が強く震える。遠くまで響く鐘の音にルーミニスはにたり、と笑みを浮かべた。
「ハンマーで銅鑼を叩け、ね。上等だ」
振る容量が剣と同じならば余裕だ、とクロバはハンマーを持つ。そこに込めるは飽くなき妄執にも似た勝利への渇望。負けられない、強く在らねばならない。──だから。
「なんだろうがオレは勝ぁあああああああああああつ!!!!!!」
空気が大きく震え、銅鑼が揺れる。続いてはクロバと先ほど合流したエリーナ。腕力に自信はないが、折角の機会である。願う事を考えれば、浮かぶのは──まだ知らぬ美味しい食べ物を食べてみたい、という欲望で。
「今年も美味しい物が食べられますように!!!!!!」
ゴォンと揺れる鐘を満足げに見上げ、エリーナはクロバの元へ戻る。次々と鐘へ挑戦する者たちを見ながらクロバはふっと苦笑を洩らした。
「鉄帝式ってのも中々嫌いじゃないが、疲れるな……」
「ふふ、確かに疲れましたね……でも、賑やかで楽しいですよ」
なんてやり取りしながら帰路につく2人は「今年もよろしく」と言葉を交わしあう。
「肉! 肉! 肉! るらぁぁぁ~!!」
リナリナはハンマーを振りかぶり、体当たりするように銅鑼へ打ち下ろした。ゴォン、と響いた鐘の音に九鬼は「おぉ……!」と小さく感嘆の声を上げる。
(次は私の番、ガラガラを慣らすつもりで……!)
まさかこの世界でできると思っていなかった初詣。形は違えど、向かう姿勢は変わらない。
着物を纏った九鬼の腰には透明化した刀──そして刀に宿る人魂──が共にある。銅鑼へ向かって2礼した九鬼は次いでパンパンと拍手を打ち、ハンマーをその手に持った。
「昨年はありがとうございました! 今年は夢が見つかりますように!」
大きく響き、揺れる鐘。九鬼はそこへ最後に礼をした。
「ユリーカさんも一緒にやるっす」
いいんでしょうか? というユリーカにレッドは笑って頷いて見せる。ハンマーを一緒に持って、せーの!
2人が同時に叫んだ言葉は銅鑼より大きく、空へ響く。
「あれ?」
パルスはきょろきょろと辺りを見回す。次の参加者が見当たらない。いつのまにかハンマーもない。なんて思っていると、どこか遠くから雄叫びが聞こえ始めた。
(ハンマーの扱いを競うとは面白い。やるからには価値を狙うぞ)
そう、ハンマーと言えばこの男──ハロルド。遠くから助走をつけ、跳躍した彼は落下の勢いをも利用してハンマーを振り下ろす!
「今年も新クラス発見だ! くらえやァ!! ざんげハンマーァァァァァァ!!!」
ゴォォン、と大きく鳴る鐘。彼が今年発見するクラスは一体いくつになるのか。
「マナ、面白そうな大会がありますよ! やってみませんか?」
鐘を指差すヨハンに、マナがこくりと頷く。自分からは向かわないような大会だが、大好きなヨハンに誘われれば頑張りたいとも思うもの。
(えぇと……願望を叫ぶと高評価がもらえるとの噂ですが……)
ぽ、とマナの頬が赤く染まる。言葉にするのは恥ずかしい。けれど、鐘の音と共に届くなら──。
「ヨハン様と、末永く一緒にいられますように……」
小さくなってしまったけれど、口の動きから読み取ったか。ヨハンの口元が緩み──だが、それはすぐに引き締められた。
(ここはマナに良いとこを見せなければ! 鉄帝男児としてー!!)
ごほん、と咳払いをひとつ。マナからハンマーを受け取り、息を吸い込んで。
「マナぁぁぁぁっ!! 好きだぁぁぁぁっ!!!」
ゴォォンと鐘が鳴り、それ以上の声量が空高く響く。周りからの野次にだって負けないそれは、大切な人を想う心。
マナの元へ戻ってみれば、白皙の肌はこれでもかと赤く染まり。ヨハンが微笑みかければ彼女の唇が震える。
──大好きです、ヨハン様。
その言葉は彼にだけ聞こえていれば良い。
次いで登場した人物に周囲は大きく騒めいた。デイジーは「よろしく頼むのじゃ!」とその人物に──ザーバにハンマーを渡す。ザーバも鉄帝人、手加減という言葉は彼にない。鐘の音と共にデイジーの声が大きく響く。
「今年も、賢くて可愛い妾を皆が褒め称える1年になれば良いのじゃー!」
のじゃー、のじゃー……と小さくなっていく声。すっきりした表情で振り返るとザーバがハンマーを見下ろし、一言。
「ハンマーが耐えられなかったか」
そのハンマーは、折れていた。
新たに用意されたハンマーを手に、ヴェノムは「優勝するしかないっす」と呟く。だって金がない。自らのパンドラの方が多い。このままだと──誕生日前に飢えて死ぬ!!
(PPPとか使う覚悟。奇跡の優勝のために! ……いや、流石に嘘っすけど)
ハンマーを構えたヴェノム。鐘の中心へ、重みを十分に利用して振り子の要領で鐘を撃ち抜く。ハンマーを離すタイミングまで考えられた1撃に、鐘の音は良く響いていった。
(ここは鉄帝の慣わしに則って、鐘突きにでも参加してみるかね)
祈りなんて柄じゃない、と義弘はハンマーを握る。相手は主に鉄帝の屈強な住民、そしてイレギュラーズ。簡単に負けてやるわけにはいかない、と全身全霊を込め──。
「──任侠なめてんじゃねえ!」
空気が大きく震える。その音の余韻を聞き届け、義弘は今年への気合を入れた。
シャルルとパルスに新年の挨拶をして、ヨルムンガンドは視線を鐘へ向ける。大きな音を慣らせば神にも届くだろうか?
「ふふ、シャルル……私の勇姿を見ててくれ!」
頑張れ、というシャルルの言葉を背にヨルムンガンドはハンマーを握る。
「明けまして……おめでとうございまぁぁぁぁす!!」
ゴォォン、と鐘が響く。その音を聞き──ヨルムンガンドは「しまったな」と呟いた。(いつものことではあるが)腹が空腹を訴えている。
「シャルル、お祈り済ませたら一緒にご飯食べに行こうよぉ……」
「ん、いいよ。鉄帝だと何かおすすめあるのかな」
シャルルは首を傾げ、ヨルムンガンドと共に人混みへ紛れていく。
アカツキはハンマーを持ち、静かに目を閉じた。
(本当は……本当は『闇市金返せ』と叫びたい)
だが、それは余りにもみっともないというもの。ならばこの行き場のない怒りはどうするか──力に変えるのだ。
カッと目を開いたアカツキ、思いきりハンマーを振りかぶる。
「オ゛ア゛ア゛ア゛アアアアアァッ!!!」
常のアカツキを知るものなら目を剥いただろう。しかし彼にだって叫びたいことくらいある。悲痛なまでの雄叫びと共に、ゴォンと音が響き渡った。
そんな姿を観察していた美少女──百合子、次は自分の番だとハンマーを受け取る。年初めから力試しとは縁起の良いものだ。
(こーいうとこ、美少女と気が合って過ごしやすいのである)
軽く素振りをし、脳内で最も鐘を響かせる自らの姿をイメージした百合子。短く息を吐き、鋭く視線を鐘へ向ける。
「敵将ッ! 討ち取ったりィ───!!!」
これ以上ないほどに的確な1撃は鐘を大きく揺らす。手番の回ってきたガーグムドはその音に怯む様子なく、むしろニタリと笑みを浮かべた。
「さあさあさあ! この我が全身全霊を込めて叩くのをとくと見よ!」
慣らしとばかりに素振りするハンマーが熱風を纏う。終いには炎も巻き起こり、ここだけまるで夏が来ているような気温だ。
「あけましておめでとう今年もよろしく良いお年を!!」
大柄な体をその足で踏ん張り、力一杯鐘へ叩きつける。中心へ当てた衝撃は鐘を良く響かせた。
「すごい音! おっきいベル!! きゅーあちゃんも、スーパーボリュームでならしちゃおう!」
次に現れたのは子供──AIの旅人、Q.U.U.A.だ。力も命中精度も心許ないが、力が足りないなら自分自身に勢いをつけて上乗せすればいい。
「いっくよー! ハンマーアターック!☆」
身軽な跳躍で大回転、勢いに乗って上からハンマーを振り下ろす。鐘の音は空へ響き──。
\\ぱっるすちゃーん!!//
──しかし、パルスちゃんコールも負けていなかった。
「こっとし1年よろしくおねがいしま~す!!」
叫びながら鐘を鳴らしたエル、その音が止まないうちにパルスの元へ飛んでいき「パルスちゃん、サイン下さい!」と真白の色紙を手に頭を下げる。
「サイン? 勿論いいよ!」
快く引き受けたパルスは色紙へエル宛にサインを書く。エルはパルスから渡されたそれを大事そうに両腕で抱きしめた。
「まだまだ未熟だが俺も鉄帝男子。そこらのもやしに負けるわけにはいかねぇな」
パルスちゃんコールに参加したクリストファー。あとは鐘つきのみだと投げ捨てられたハンマーを拾い、鐘と真正面から対峙する。呼吸を整え、周りのざわめきに惑わされぬよう精神を落ち着かせ。
力は十分あるはず、あとは鐘を捉えることができるかが勝負だ。1年に1回限りの力試し、ゆっくりと振りかぶって──。
「今年は闘技場で先輩方に勝つぞぉぉぉぉおお!!」
鐘を捉えたハンマーが良い音で打ち鳴らした。鐘の揺れが収まった頃、リゲルが鐘へ片膝をついて頭を下げ、新年の挨拶を告げる。
(……こんな感じで良かっただろうか?)
立ち上がって軽く見渡してみるも、特に問題はなさそうだ。気を取り直してハンマーを握る。
母国──天義では不正義だとでも言われそうなものだが、国が違うだけでこうも違うとは。折角の楽しそうな機会逃す訳にはいかない。
少し手前へ下がったリゲルは深呼吸し、3回転の反動を使って──。
\\ぱっるすちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(中略)ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!//
盛大なパルスちゃんコールに周囲のファンが沸き上がる。しかし、そこへ立ちはだかる影──いいや、煌めきがあった。
「オーーーーッホッホッホッホッ!!!」
その高笑いに何事かと皆が振り返り、その存在感に何者かと騒めく。
「コールなら! わたくしの十八番っ!! 負けるわけにはいかないのですわ!!
そう!! このわたくしこそがッ!!」
もはやお決まりと言っていいそう指ぱっちん!
\きらめけ!/
\ぼくらの!/
\\\タント様!///
「──ですわぁーーーーーーっっっ!!!」
キラッキラに輝く(物理)タントがハンマーを振りかぶって1撃──からのフィジカルロジカルクリティカルポーズ。ハンマーが勢いに宙高く舞い、着地点はタントの煌めくおでこ。
「ンギャッ」
「タント様ーっ!?」
シャルレィスが声を上げる中、タントは「あとは……頼みましたわ……」と意識を失う。
「……任せて、タント様!」
その姿に歯を食いしめ、シャルレィスはハンマーを拾った。タント様ファンとして──そしてタント様ファンクラブ会長として──パルスちゃんコールに負けるわけにはいかない。
(鐘より何より1番に響き渡るのはタント様コールだからっ!)
ファンとして溢れんばかりの想いと、そのコールをハンマーに載せる。
「きらめけ! ぼくらの──」
ハンマーを構え、思いきり振りかぶったシャルレィス。脳裏に思い描くのはあの素晴らしきタント様!
「タント様ぁーーーーーーー!!!!」
──オーッホッホッホ! という高笑いが空の彼方で聞こえたような、気がした。
●結果発表
「皆、お疲れさま! お待ちかね、イレギュラーズ部門の結果発表だよ!」
え、そんな部門だったの? なんて反応を見つつ、パルスは辺りを見渡す。
「それじゃあ、発表するよ! 栄えある今年の初詣優勝者は──
──ルーミニス・アルトリウス君!」
わぁ、と辺りから歓声が上がる。パルスの隣に連れてこられたルーミニスは「おめでとう!」と声をかけられて。
「すごく鍛えてるんだね、ボクもビックリしたよ。ラド・バウでも君の活躍が見られるといいな! それじゃ、皆にひと言どうぞ!」
マイクを渡され、ルーミニスは観衆を見渡し──にっと笑みを浮かべた。
「これを始まりよ。これからアタシの冒険譚を、混沌中に知らしめてやるわ! アイドルだけじゃなくてイレギュラーズの応援もよろしく頼むわよ!」
こうして、イレギュラーズの1年は幕を開けたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
大会に参加された方は全員ダイスを振らせて頂きました。出目がクリティカルだった方には記念の称号を贈らせて頂いております。ご確認ください。
また、優勝した貴女にMVPをお贈り致します。今年の更なる活躍を楽しみにしています。
皆様にとって良い年になりますように。
今後もご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
GMコメント
●出来ること
1.大会に参加する
2.お祈りをする
天気の良い三が日とかその辺りです。年明けて早々に始まっています。毎年比較的多くの鉄帝人が参加していますが、今年はパルス効果もあって非常に多いです。
筋骨隆々な男性から見た目スレンダーな女性まで、様々な人が参加しています。
●大会に参加(タグ【大会】)
『初詣』が開催されています。ここで言う初詣は鐘鳴らし大会のことです。
スキル・武器の使用は不可。銅羅用のハンマーで大きな鐘を打ちます。
ハンマーは他世界によってはマレットとも呼ばれるようなもので、今回使うハンマーは動物の皮をハンマーの先にぐるぐる巻きつけた柔らかいものです。
判定は物理攻撃力と命中、GMによるダイスで判定されます。さらにプレイングによってプラス補正が付くことがあります。叫ぶのにいい感じだと補正多めです。願望とか。
●お祈りする(タグ【祈り】)
近くの教会でお祈りします。静かに祈りましょう。
大会に参加しなくても参加した後でもこれからするでもOKです。
祈る内容を誰にも教えたくない場合、カッコでくくって下さい。最後は閉じなくても良いです。
例:
(ご飯をたくさん食べる!)
(気がすむまで寝たい……
→上記、どちらも声には出さない描写をします。
●NPC
『ざんげ以外』ステータスシートのあるNPC、及びOPに登場したビッツ・ビネガーは登場する可能性があります。
ビッツ・ビネガー
大闘技場ラド・バウのS級闘士である美男子好きなオカマです。『自分より強い相手と戦う事を好まない』という鉄戦士としては珍しい性格の持ち主でもあります。
戦っていない時は気のおけない姐さんだったりもするようです。
●注意事項
本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
同行者、あるいはグループタグは忘れずに。行き先タグは必須ではありません。
●ご挨拶
\\ぱっるすちゃーん!!//
……というわけで、愁です。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
鉄帝流初詣に参加しましょう。大会に参加する方は思い切りどうぞ!
皆様が七草粥を食べる頃に出発ですので、寝正月しすぎて白紙にご注意ください。
ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
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