シナリオ詳細
白き炎の巡礼者たち
オープニング
●白い炎
聖教国ネメシスの一部の地域には、聖なる炎の伝承がある。
神のもたらした聖なる炎は、邪悪なるものを打ち滅ぼし、善なるものを包み込む。
人々を助け、人々の光となるという……。
まあ、そんな、どこにでもよくある伝承だ。
●教会
聖教国ネメシス。
ここは、聖都からはやや離れた小さな教会だ。扉を叩くと、出てきたのはずいぶんと年老いた神官だった。
「あらあら、寒い中よくいらっしゃったねえ。ティト! お客さんが来てるよ! ティト!」
「わー、ちょっと待っててくださいー!」
奥からばたばたと、洗濯物かごを持ったままの見習いの神官がやってきた。
「すみません! こちらにどうぞ!」
イレギュラーズたちは教会の中に通された。
「イレギュラーズのみなさん! 本日はよろしくお願いしますね~!」
ここは見習いの神官と年老いた神官の女性2名が切り盛りしている。見習い神官は、せわしなくお辞儀をした。
「ええと、今日はですね、この『白い炎』の種火を皆さんに運んでもらって、町はずれの祠に奉納してもらいたいんです!」
そう言って、神官はランタンをかかげる。いや、見せたいのはランタンの中にある小さな炎か。ガラスの中で、炎は白く揺らめいている。
「この白い炎、聖なる炎というものでして、この町では結構見かけるかもしれませんが。この教会にあるものがおおもとなんですよ!」
神官はそっとランタンから炎を取り出して、指でつついて見せた。
「熱くないんですね~! これが! いやー、悪いことしないで生きてきて良かったあ……」
「ティト、不信心な真似はよしな! すまないねえ……この火は、”悪人のみを裁く”と言い伝えられていてね。触っても、熱くはないんだよ」
年老いた神官が補足する。
「失礼しました。えーと、これを順番、かわるがわるにリレーして、パスしあっこして、お祈りされながら町を進んでいって……それで、祠の燭台のすすを払って、あたらしいのにとりかえてきてほしいんですね! 本来ならば我々神官の仕事なんですけれど。ちょっとフィリアッタさんの調子が良くなくって。私も心配で」
「さぼりたいだけだろ、アンタは」
「そ、そんなことないですよぉ……私だって神官の端くれですからね! 年に一回のこの儀式は、私にとってすごくたのしみなものなんですから。……そうそう、この炎は、幸せをもたらすそうですよ。なんか願い事ってありますか?」
というわけで、イレギュラーズたちは炎を運ぶこととなった。
- 白き炎の巡礼者たち完了
- GM名布川
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年11月30日 21時40分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
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参加者一覧(30人)
リプレイ
●戯れ
「悪人のみを裁く炎、かあ。何だか不思議だね」
アレクシアは呟く。
「……この炎に触れる事で救われる人がいるなら、できるだけ多くの人に触って欲しいね」
風向きを確かめ、アレクシアは空を見上げた。
(炎を見る為にそれなりに人も集まるだろうし、何かの事故で火が消えたら……なんて大変だものね)
ファミリアが異変を察知して、慌てて駆け付ける。
(これでもTPOは弁えるデキる男なのです)
玖累はいつもの拘束衣ではなく巡礼服だ。
「これ、悪い人は触れないんだ……ふーん?」
玖累はにんまりと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ふふん、なら聖人君子な僕は手を突っ込んでも大丈夫だね!」
炎に両手を突っ込んだ玖累は悲鳴を上げた。
ざわめく観衆。しかし、けろりとして起き上がった。外傷もない、演技だ。
玖累は笑顔のまま、にこにこと手を振って通行人を解散させる。放り出した炎は、アレクシアが受け止めるから大丈夫、とわかってやったのだろう。
「さっきの事? 気にするな」
「ええー」
アレクシアはしばらく並走してついていくことにする。
「でもこれって、本当に謳われてる炎なのかちょっと疑問だね?」
「うーん……そうかも?」
「カミサマも奇跡もあるこの世界で、伝承と差異のある変わった炎なんてさ。変質したのか、別の物なのか、大げさに騙って奇跡とする事もよくあるから、何とも言えねーけど」
●笑顔あふれる
「じゃ、あとはよろしく」
「信仰の象徴を継ぐ、責任重大な仕事ですね」
コロナは押し抱くようにして玖累から炎を受け取る。
聖女のような笑みをたたえ、聖火を運ぶコロナに、町の人たちは祈りをささげていた。
「ははは、サポートも大事だな!」
「まあ、なんとかなるものだ」
苦笑するリゲルに、ポテトが頷く。
「頼りにしているよ。街中に聖なる炎を届けよう。騎士の誇りにかけて!」
と、そこへやってきたのは聖騎士だ。
「はい、どうぞ炎にお触りください」
コロナは祈りの道具を広げ、簡易的な祭壇をこしらえた。
「この炎もまた、騎士様がお勤めの中で知らず知らずのうちに守ってきた物の一つですから。お祈りもしていかれますか?」
「ああ」
長いようで短い祈り。コロナが寄り添うように立っていた。
「過去のお勤めでしたことを思い出し、時に苦悩することもあるでしょう。しかし貴方の目に映る全てのものは、貴方の行いが無ければ今ここに存在しなかったかもしれませんね」
騎士は幾分、和らいだ顔をした。
「心が癒されるようですね」
リゲルが声をかけると、騎士はにこりと笑った。
「貴方に幸福がありますように」
コロナは静かに微笑んだ。
「賑やかなお祭りもいいけどこういう落ち着いた儀式も良いよね」
炎を受け取りスティアは笑う。
「皆が楽しみにしているし、幸せをもたらすって言われててなんだか素敵! たくさんの人が幸せな気持ちになれるように頑張らないとね!」
天真爛漫な空気が伝播してか、スティアの周りは明るい。
「表情はやっぱり笑顔が良いよね! いやー、私のカリスマ力で大人気間違いなし! ……たぶん」
一見して近寄り難さすら感じる美貌と裏腹、気さくで明るい人物である。
「喋ると印象が変わるな」
ポテトが言う。
「え? 黙って微笑んでるだけの方が良いって? そういう悲しいこと言わないで!」
いつのまにか、スティアの周りには人だかりができている。
「ちゃんと並んでね! おっと……」
落としかけた火を、クーアが受け止めた。
「わっ、ありがとう! 熱くない?」
クーアは頷く。……どこか残念そうに。
●くらい赤の色
(なんというか、不可思議な焔なのです)
クーアは揺れる火を見つめる。
(私の求める焔は万物を紅く包み絶やすような赤色、これとは正反対のものなのですが……しかし、これはこれで気になるのです)
熱くないし、燃え広がることもない。……残念な結果。
ひとしきり試行すると、クーアは歩き始めた。
(私の求める、また齎すべき救いとは真逆ではありますが。しかしこれも確かに救いなのでしょう)
天義の人間も好き好んでは来ない路地裏へと進む。
(なれば望む全ての人に遍く届けましょう)
「善人尚以て往生を遂ぐ、況や悪人をや」……でしたっけ?
追いかけてでも、クーアは無造作に手を差し伸べた。
「『悪しきもの』とは、一体誰の事なんだろうね」
クーアの足取りに、静かにマルベートが加わる。
「私も悪魔だけど、それは只の種族だし、この炎を見ても少なくとも嫌な思いはしないな。
此の世には悪魔よりよほど邪悪な人間も多いのかもしれない、なんて考えてしまうね」
マルベートはローブを深く被り、尻尾と翼を隠している。クーアは、人には見られたくない部分があることを理解している。
物乞いの一人が這い出して来る。
「おい、どけ! 邪魔だ!」
それでも物乞いはどかない。他人の足を掴んで、前へと這いずりだしてくる。
(それがどんな思いを込めたものであれ、悪魔は願いを叶えるのが本分だからね)
他人を押しのけてまで願う者が居れば、それは悪魔の仕事となる。
(只願うだけの者には悪魔は微笑まない。本当に望むのならば自ら手を伸ばさなければね?)
シラスは、マルベートから受けとった炎をぼんやりと見つめる。
(悪人のみを裁く火、ね。子供騙しだぜ。見ろよ、触れても何ともない。温もりもない)
シラスは衆目から身を隠すように路地裏を歩く。
気が付けば、汚い老人が側にいた。
据えたような不潔な臭いは気にならない。
(俺も似たようなもんだった)
だが、アルコール臭い息は耐えがたい。
酒浸りだった母親を思い出す。
(こんな奴らこそ燃えてしまえばいいのに)
手を伸ばしてくる。振り払いはしない。老人はヘラヘラ笑って、何度も礼を言った。
(俺は何もしてねえのに)
卑屈に礼を言う姿に、なぜだか苛立ちを覚えた。
いつもなら黙って仕事していられた。だが、今日は……。
「あんたみたいのが火に触れてどうすんだよ」
――救いがあるとでも?
老人は目を見張る。
シラスはその場を後にした。振り返ることはなく。
乱暴に炎を渡されて、サクラは一瞬驚いたがしっかりと炎を受け取る。
炎に焼かれなかった酔っ払いが、清廉を勝ち誇ったように笑っている。
それは違うとサクラは思う。
「どうか炎に焼かれても気を落とさないで下さい。また、炎に焼かれなかったからと安心しないで下さい」
凛とした声が、あたりに響き渡る。
「罪は償いを続ければいずれ許されましょう。今許されていないから、全てが悪しではありません」
臆することなく、一歩を進める。
「また罪が許されていたとしても、貴方の善なる行為を辞めないで下さい。それは確かに人を助けているのですから。一人一人が胸のうちにある正義の灯火を絶やさなければ、必ずこの世界は救われましょう」
貧民たちは一人、また一人と、真剣にサクラの言葉に耳を傾けていった。
●フォローミー
「へぇ、こいつが聖なる火か……。熱いって感じねぇのは俺が吸血鬼の力を失くしたからかねぇ?」
「見てると何だかほっとする炎ね。他の人にも見て触って幸せになってもらいたいわね」
「聖なる白い炎、かあ。ゆらゆら揺らめいてとても綺麗だ」
サイモンと結、津々流は思い思いに感想を述べた。
「っと、出発する前に、ちゃんと腹ごしらえを……」
津々流は、その細い体で驚くほどたくさん平らげる。その様子に、おばさま方は大盛り上がりだ。
「細い体でよく食べるわね」
歩いてしばらく、サイモンはかなり下から袖を引かれた。
「ん? ついてきてほしいって? ああ、別に構わねぇぜ」
素直に路地裏へと入っていくと、一件のあばら家にたどり着いた。
「成程。風邪を引いちゃった子にこの炎を見せてあげたかったんだ。うふふ、優しいんだねえ」
「泣かせるねぇ。消さなきゃ問題はねぇから見るだけじゃなく触ってもいいぜ?」
兄弟は控えめに歓声をあげる。
(医者に見せる金もねぇのか、なんか力になりてぇもんだな)
ちらりと津々流を見ると、津々流は優しく頷いた。
ヒールオーダー。病床の少年を優しく包み込む。炎のおかげだとはしゃぐ彼らに、あえて何も言わない。
「お、この花は火を見せた礼か?」
おずおずと差し出された花を、サイモンは嫌な顔一つせずに受け取る。
「……サンキュー、ただこれだと俺のほうがもらいすぎなんでな、この救急箱にゃ風邪薬もはいってるかもしれねぇ。釣りがわりだ。もってきな」
「えっ……」
「あと腹が減ってたら治りもわりぃだろ、弁当食ってかねぇか?」
兄は一瞬顔を輝かせるが、弟のほうを見て真面目な顔になる。サイモンは笑う。
「ほら、お前も一緒に食ってけ! 風邪がうつらねぇように体力つけろよ!」
「たぶん炎は売ってもお金にはならないわ」
何やらこそこそと相談している孤児に、結は釘を刺した。
図星だったらしい。
「炎が消えるまでは売らずに大事にするなら……」
結はそっと部屋の片隅にランプを置いた。津々流がそれに火をともす。
●罪人来たりて
コーデリア、エルとシグが道でかち合った。
「白き炎の儀式が伝わる地域……話には聞いていましたが、なるほどこの炎には不思議な暖かさがあるようですね」
「せっかくですから、いろんな人に触らせてあげたいですね」
コーデリアは天義に詳しいようで、情勢を分かりやすく解説する。シグはそれに注釈を加えながらも、時折感心したように頷いている。
この魔剣の心には、正義も悪もない。
在るのはただ、大切な者たち。知識への渇望。そして――。
(私が唯一計れるのは、その行動が『理』に叶うか――それだけである)
不意に、人だかりがざわめいた。
髭の伸び切った一人の男。
……どうやら罪人のようだった。
炎に触れようとするが、人垣がそれを許さない。
「お前さんたちの信仰に拠るならば、この炎は悪しき者を拒むと云われている。…ならば、若し真に有罪なのであれば、彼はコレに触れられないはずだ。……私の理解は正しいかね?」
シグの言葉に、人々は反論できずに静まり返る。
「何故近づかせる事すらも厭うのですか?」
コーデリアが一歩進み出る。
「この炎が、悪しきを滅ぼすものであるなら、邪なる者はそもそも炎に影響を及ぼすこともできないでしょう。この方が真に罪人であるならば、炎の裁定は下されます。そうでなければ……事実を受け入れるべきです」
「真に彼が悪ならば、触れられずにお前さんたちの正当性が証明される。……それとも……己が信仰に、自信すら持てぬのかね?」
「さあさあ、どうぞ! 触ってみてね」
一瞬だけできた間を、エルが遠慮なく埋める。
男は躊躇した、ように思えた。
「大丈夫です。貴方が焼かれる事は、きっとありませんよ」
コーデリアは請け負う。
「これでも、それなりに人を見る目はあるつもりですから」
●高慢
「りょーかいっす! うっかり消さないよう気を付けるっす!」
浩美は今は冷たい手で炎を受け取った。
「皆の幸せの為、この畜生でも協力致しましょう」
牛王は重量盾を軽々とかざし、揺らめく炎を風から守る。
「ええい! ワシらが先だ」
祈る子供たちを押しのけて、貴族たちがやってきた。
貴族は金貨を取り出したが、浩美は手を後ろにひっこめた。
「巡礼者を手助けすると徳が上がるって話はわかるっす。しかし弱いものを無下に扱うその浅ましさ、果たして寄付の善行と釣り合うっすかねぇ?」
「なっ……」
「あ、残念ながら俺っち免罪符売りじゃないんで、代わりに押しのけた弱者相手に善行を積んでみたらどうっすか?」
話しながら、白い炎に指先で触れて見せる。
「お待ちください」
現れたアマリリスに貴族は嬉しそうにするが、彼女は貴族の味方をしなかった。
「寄付の御心、神さまは貴方に祝福を届けるでしょう。しかし貴族さま! か弱き民を退けて我先にと行動してはなりません!」
「なんと……!」
「貴方の強大な財力とお優しい心を。どうか、か弱き者にも分けて下さい、ませんか? 己が間違い等無いと仰るならばどうぞ、この炎に触れてみて下さい!」
「……」
「ぅ、貴方様に失礼な言動は諸々甘んじて罰を受けましょう」
浩美は退かない。良心に欠けてても信心があるならば。
とうとう貴族が折れる。アマリリスは微笑み、感謝の意を述べる。
それでも、話を聞かない貴族はいた。牛王は黙って話を聞く。
金を貰い、貴族が満足そうに帰って行くのを見守った。
「お怪我はありませんか」
突き飛ばされた子供を起こし、擦りむいた膝に手当てを施してやった。詫び代として、先ほど受け取った金を持たせる。
「押し退けられた人達を見なかったことにして巡礼を続けるのは苦に感じる……のは、只の我欲かもしれません。それでもやるのは……白い炎から勇気を頂いたから、かな」
●分けてください
「諸君! ゴッドである!」
豪斗は高らかに左手を掲げる。
「と、此度はこういう事を言っても仕方がないか。うむ、このホワイトフレアは確かに人の子のハートにアフェクトしているようだ!」
「幸せをもたらす炎か、眉唾かも知れねぇが本当ならすげぇことだよな。それに、それが絶えたことがねぇんだろ? ヤバいよな」
黒羽はしきりに頷いている。
「まあ、ゴッドはゴッドである故、許す許さないなどといった事にはこだわらぬ! このワールドの神もそうであるのかはわからぬが、誰がタッチしても熱くないという事は変わらぬのであろうな!」
「炎を分けてください!」
小さな声。
ノースポールは男の子のろうそくに炎を移す。危なっかしく歩こうとする。
「必死そうな子だ。放ってはおけないね。リレーは皆に任せて、僕達はこの子に付き添おうか。……一緒に行こう?」
「……不安だし、ルークの提案に賛成!」
ポーは屈んで微笑みを向けた。
「炎が消えたら大変だから、私達が守ってあげる。お家まで、一緒に行ってもいいかな?」
男の子は顔を輝かせる。
「うむ! リレーは任せて行きたまえ!」
豪斗が請け負った。
「お母さんの為に1人で来たの? 偉いね! この炎と君が傍にいれば、お母さん、きっと良くなるよ」
(自警団の活動で慣れてるのかな? 頼もしいよ)
ルチアーノは、明るく励ますポーの姿に微笑む。
強い風が吹いたが、ルチアーノはさりげなく炎を守る位置にいる。
「お母さんを君が守っているんだね。偉いね。何かあれば力になるからね」
家の前までついたところで、ルチアーノはしゃがんで、男の子をぎゅっと抱きしめる。
「私の家族はもういないけど、あの親子は、ずっと一緒にいて欲しいな」
「そうだね。大切なものがあるならずっと守り続けられるよう祈りたい。応援したい。それが母親なら尚更だ。失ったらそれまでなんだから」
「お母さん、元気になりますように」
ポーは不意に不安そうな顔を見せた。ポーも家族を失っている。
「ポー」
「え?」
「僕が傍にいるからね?」
ルチアーノは優しくポーを抱きしめる。
「……うんっ。ずっと、傍にいてね!」
ポーは頬を染め、やんわりと抱き返した。
「どうしてこんなに良くしてくれるの?」
「エステルさんにも病気のおふくろがいたのです。仕送りはしていたのですが、今はちょっと、生死もわかんない有様で。だから、できることをしたいのです」
エステルはてきぱきと薬を置き、何かを書き連ねている。
「何?」
「治療マニュアルというやつでしょうか」
無理のない生活指導や服薬指導が、分かりやすく載っている。
「……お金、持ってないよ?」
「これも炎のお導きというやつです。砂浜で珊瑚拾ったような幸運とでも思ってくださいな。さて」
エステルは立ち上がり、貧民街の戸を順に叩く。治療のために外に出られない人たちに、炎を分け与えるために。
蝋燭がなく、ただ見るだけの貧民へ。エステルは袖を切り、差し伸べる。
●かつての罪
リヴィエラとヴァレーリヤ、アルファードの番だ。
「ふうん、聖なる炎……興味深いものね。私の教派には無い伝承ですわ」
「信ずる教えは異なるけれど、これも主のお導き。不肖ヴァリューシャ、喜んで参加しますわっ!」
ヴァレーリヤが元気よく頷くと、胸元で赤い十字架が揺れた。
「――炎、ですか……」
成程確かに、アルファードにとっても暖かく感じる。
ただ、水の象徴であった彼女としては、消してしまわないかという恐れもあった。
有り得ないと分かっていても、身に沁みついた感情はそう簡単に無くなるわけではない。
「大丈夫よ」
リヴィエラに促され、アルファードは手を伸ばす。
恐る恐る赤子に触れるかの様に、割れ物にでも触れるかの様に、大事に、そっと手に取った。
「良ければベラと」
アルファードは、愛称で呼ばれることを好む。
リヴィエラは、受け取った炎を運ぶ途中で使用人の格好をした女性に気づいた。
(きっと寒いんだわ)
青ざめて震えている。
「ふふ、あなたも炎の近くへどうぞ。一緒に暖まりましょう?」
しかし、女性は立ち去る。
一度は見送りかけたが、瞬きをすると、女の人がいた場所に青い水晶が生えている。
気が付けば炎を二人に託し、その姿を追いかけていた。
彼女は話す。かつて、子供を捨てたことを……。
「そう、辛かったわね。後悔しているのね。でもその子を愛していたからこそ、救ってくれる可能性の高い教会に捨てた。そういう事なのでしょう?」
「はい……」
「仮にそこに過ちがあったとしても、貴女はこんなにも苦しんだのだから、きっと主は貴女をお許しになるでしょう」
リヴィエラはそっと片手を取った。
「あなたは自分のしたことを、こんなに後悔しているもの。だから大丈夫、きっと炎に触れるわ」
「でも……」
「触れておゆきなさい」
黙って話を聞いていたアルファードは、確と見つめ凛とした声色で言った。
「ね?」
リヴィエラはにっこり笑う。
炎は優しかった。
「さあ、涙を拭いて立って歩きましょう。生きてさえいれば、再会する事もできるのだから。
大丈夫。きっとその子も幸せに暮らしていますわ。だってこの世は、神の愛で満ちているのですから」
●寄り道小道
「聖なる白い炎か……」
ゲオルグはじっと炎を見つめる。
(嘘か真かは別として人々の心の拠り所となるものなのだろう。しっかりと送り届けなければ)
コートで風をよけ、雪解けを避けながら歩く。町でクッキーを差し出され、礼を言って一枚をとった。
(折角の善意を無碍にするのは心が痛むしな)
ゲオルグの指先が小さな魔方陣を描いたかと思うと、ふわふわ羊のジークがぽこりと飛び出した。
(1人で食べても美味しいが、一緒に食べるともっと美味しいのだ)
「今日はゆっくり歩こうか。この混沌に来て得た贈り物、大切にしたいからな」
少し迂回すると、ラデリの姿が目に入る。ラデリは植物に何か尋ねていた。
「そこで何を?」
「ああ、人間種以外のものを探していたんだ」
人間種至上主義なこの国では、獣種はなかなか出歩けない。
「噂には聞いていたが、こうして目にするのは初めてだ。本当に触れても熱くないんだな……不思議な感じだ」
しばらく歩くと、耳を隠すようにした獣種の住処があった。
彼らは嬉しそうだ。炎には滅多に触らせてもらえない。
(人を傷つけない、聖なる炎か。そんな炎が小さい頃、身近にあったなら火を嫌わずにいたかもしれないな)
火を見るとどうしても、焼けた故郷や狂った父親を思い出す。原罪の呼び声。辛い悲劇だ。
気紛れに、白い炎を自身の魔法で真似てみる。
(この炎も熱くない。……回復術でも考えてみるかな)
わずかに、荷が降りたような心地もする。
●祠の前
祠の前。
「大切な炎なんだ、他の風で消えてしまわないように守ってくれるか?」
ポテトはランタンを受け取り、そっと風の精霊に守りを頼む。風はおとなしくなり、ポテトの頬を撫でる。
「はっ!」
リゲルは銀の剣に太陽の炎をまとわせ、掲げてカラスを追い払う。
「ここで消えたら大変だからな」
「やあ、手伝おう」
ゲオルグとラデリも作業に加わった。すすを払い、炎を奉納する。町のにぎやかさに反して、ここは静かだ。
●幸せにできたかい?
「無論なのじゃ!」
「皆様大変お喜びでした」
サクラが笑い、デイジーは胸を張る。高々と運んできた火を神官に見せようと掲げる。
「……おっととと!?」
躓き、神官の胸に飛び込む。
「大丈夫かい?」
「ごめんなさいなのじゃ」
押し付けられた炎に、神官は目を細める。
「まあ、熱そうでもない所を見るとそっちも大丈夫なのじゃー」
デイジーは悪戯っぽく笑う。
「誰しもひとに言えぬ罪を持っておる。妾も先日言いつけを破って夜中にこっそりお菓子を食べてしまったのじゃ!
じゃが、この炎はそんな妾も暖かく照らしてくれておる。この炎が熱くないのであれば、きっとその罪は許されたのかも知れぬの」
お主もその口かの、っと耳打ちされ、神官は目を見張る。デイジーはウインクをひとつ。機嫌良さそうに退場していった。
黒羽はティトとフィリアッタに進む。
「この街の住人だろ? だったらこの炎を触って然るべきだよな。……それに、早く良くなってほしいじゃんか」
「おや、ありがたいことだねえ」
「あはは、ちょっとおっかないんですよね」
ティトは少し怯んだ様子だ。
「昔は私を捨てた親が、これで火傷をするって思ってたんです。そうしたら、許そうって。でも、この炎は、幸せを運ぶ炎で……」
「炎だけでは、幸せになれなかったんじゃない?」
玖累の言葉に、ティトは目を丸くする。
「あの炎は、間違いなく多くの人を幸せにしたよ」
「きっと幸せにできたはずよ」
結とアレクシアが笑う。
「それでさ、神官さんも幸せになれるかな?」
「神官様、この焔は確かに間違いなく聖なる炎でありました。この炎がどこが火種かは関係ない。町の皆様の信じる心こそこの炎を聖なる象徴として、祀られ愛されるのですから」
「ティトとフィリアッタにも幸せが来ることを願っている」
アマリリスとポテトが言う。
「結局のところ、ユーたち自身のソウルに問うしかないのだ、幸せも、赦しも! プリエステス・フィリアッタよ!」
豪斗が両手を広げる。
「ユーがこのホワイトフレアが人の子達にハピネスを与えているとフィールしているのならば、このフレアは人の子にギルティを問うものではないのだ! 故に、そのクエスチョンのアンサーはユーだけが持っている!」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
白き炎の巡礼、お疲れ様でした!
イレギュラーズの手によって、町には笑顔があふれたことでしょう。
天義の道理からは零れ落ちてしまうような人たちも、イレギュラーズの手によって、いくばくか幸せになったのだと思います。
皆さんは何を願われたでしょうか。
”なにもしない”炎は、きっと、叶えてくれることはないのでしょうけれど、かなうことは、きっとあるのではないでしょうか。
機会があったら、またお出かけいたしましょう!
GMコメント
●目標
白い炎をリレーして奉納する。
(サブ目標:たくさんの人を幸せにしよう)
●登場
ティト……見習い神官。若い女性。
フィリアッタ……かなり年配の神官。女性。腰を悪くしている。
●白い炎
教会にまつられている暖かい火。
触れてもとくにダメージは受けない不思議な炎です。
この炎は分けることができますが、教会のランプにおさまった炎が、一番暖かい輝きを持っているような気がします。おおもとの株、とでもいうのでしょうか。
そう言い伝えられています。
「悪しきものは触れることはできない」と言われていますが、実は誰に対してもダメージを与えることはありません。
辺りを照らすことはできますが、物は少し暖かくなるくらいです。ものを燃やしたり、調理したりは難しいでしょう。
通常の炎と同じように、水や風に弱いです。なくなってしまうと大ごとです。ただ、うつして持つことができるので、まあ、街の人とかにみられてなかったら大丈夫でしょう。……たぶん。
ほんとうにただの、害のない火です。
ダーティーなフレーバーとしてプレイングに「この炎に触れることはできない」だとか「触れようとしたらいやな感じがする」などという印象を指定しても構いません。逆に「見ているとほっとする」というようなのが大半の人の感想でしょう。
●巡礼の道
教会のある町を巡礼して、町はずれの祠に奉納し、戻ってきます。リレーですが、複数人並走したり、何組かに分かれたり、渡した後もついて行ったりしても大丈夫です(ただ、プレイングは絞って書くのがおすすめです)。
誰から誰にパスとかあれば、ご指定ください。指定がなければ、流れで適当に処理します。
町の人たちは巡礼者を見かけると、嬉しそうに声をかけてくれます。炎に向かって祈ったり、ろうそくを持ってきて種火を分けてもらったり、寄付をしようとしたりします。
・腹が減っては巡礼はできぬ
親切な別の教会のおばさんシスターたちが巡礼者に山ほどのパンやらスープやらクッキーやらを差し入れます。おいしいですが、量が多いです。彼らは若い人たちは無限に物が食べられると思っている節があるようです。善意です。
・「炎に触らせてくれないか?」
どこか思い詰めた人々が、炎に触れたいと申し出ます。
ひとりの男は聖騎士です。人々を多く救いましたが、同時に、戦場で数多くの人を殺めてきました。
もちろん、聖教国ネメシスにおいて聖騎士を務めた人間が、その正義を疑うようなことを口にすることはありません。
男の頼みを聞くも、断るも自由です。断ると、「そうか、ありがとう」と言って立ち去ります。聞くと、触って、やはり礼を言って立ち去ります。
ひとりの女性は使用人の恰好をしている女性です。かつて、10年前に生活の事情で子どもを教会に捨てました。ひどく青ざめていて、震えています。炎に触れようとすると「やっぱり、いいです」といって立ち去ろうとします。
促されれば泣きながら事情を話すでしょう。声をかけても、かけなくても自由です。
ひとりの老人は酔っぱらいです。ボロを着ていて、かなりにおいます。炎に触らせると、嬉しそうに礼を言って去っていきます。それだけです。
一人の男は罪人です。牢屋で罪を償った後ですが、人々からは嫌がられています。友人を陥れたという罪で牢獄に入っていましたが、彼は牢獄でも冤罪を主張し続けました。証拠は不十分でした。
罪を償った罪人が炎に近づくことさえ、街の人たちは嫌がります。けれど、罪人は触りたがっています。
そのほかにも、そのほかの事情で触らせてくれと申し出る人たちがいるかもしれません。
・寄付をする貴族
いかにも成金の貴族たちです。子どもたちや身なりの悪いものを押しのけ、巡礼者に会おうとします。貴金属を巡礼者に渡すと、満足そうに去ってゆきます。
・「ついてきてほしい」
身なりの汚い孤児と思しき子供に頼まれます。承諾すると、裏路地に案内されます。
風邪をひいて寝ている小さな弟分に、巡礼の炎を見せてやりたかったのだと言います。頼みを聞いてやると、お礼にその辺に咲いていた花をくれます。
医者を頼む金がないようです。
炎に向かって「売ったらいくらになるかな?」とか言いますが、悪気はないのです。
・「炎を分けてください!(小声)」
声の小さい男の子が必死についてきて、炎を分けてもらおうとします。
病気の母親のために、炎を分けて欲しかったようです。男の子が持っているのは、みすぼらしいろうそくで、かなり危なっかしいです。炎を無事に持って帰れるかどうか不安です。
●祠
厳かな雰囲気のある祠です。街のはずれ、なだらかな丘にあります。丘の周りは墓地となっています。ややぼろぼろで、崩れかけていますが、人々から愛されてはいるようで手入れされている様子があります。
カラスがいるのと、ちょっとだけ風が強いので注意しましょう。残りの小さくなった燭台を取り換え、炎を灯して依頼はおしまいです。
●(PL情報)
OPに出てくる年配の神官は、かつて、実はこの聖なる炎を絶やしたことがありました(とっておいたろうそくから分けて、事なきを得ました)。
よってこの炎は実は「おおもとの」とは違っているのかもしれません。
もうウン十年も前のことですが、神官はずっと気に病んでいます。もちろんこんなこと知れたら天義では斬首ものなので、聞かれても肯定することはありません。
聞かれてもすっとぼけます。なんてやつだ。
もどったイレギュラーズに、彼女は「あの炎は人々を幸せにできたかい?」と聞いてきます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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