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シナリオ詳細

未来夢見て夜明け前

完了

参加者 : 22 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 夜明け前が一等暗い。
 地平線に光がチカと瞬くと、一筋の光の矢が世界に光を齎していく。
 星飾りを垂らした夜闇のヴェールを纏った貴婦人は表情を変え、鮮やかに色彩を変化させながら微笑むのだ。子どもたちよ、朝が来ましたよ、と。
 明けない夜はない。
 太陽は必ず昇り、明日は必ず来る。
 ――そうあらなくてはいけないのだ。

「明日とか未来って君にとってどういうもの?」
 終焉の活動が活発で、ローレット内では情報屋が慌ただしく動き回っている。けれども根を詰めすぎてはいけないことを心得ている劉・雨泽(p3n000218)は、書類の角を整えながらそう口を開いた。
「僕はね、夜明けだと思うんだ」
 眠って起きたら『明日』の人もいるだろう。
 けれど明確なビジョンとしてどれかと考えたら、夜明けの――日の出が雨泽にとっては『新しい一日』の区切り。そしてそれが、未来なのだと思っている。
 ――終焉の魔の手が迫っていた。
 天義と練達、それから深緑の『ワーム・ホール』は閉ざされたが、幻想と鉄帝、海洋、ラサ、覇竜には未だ健在だ。そしてそれらは影の領域へと直結しており――空中神殿の聖女が言ったのだ。
『……影の領域、影の城のイノリ達を倒し、Case-Dの顕現を回避して下せーでごぜーます』
 彼女の言葉は既にローレットへ届いている。
 そしてそれは、最終決戦への通達でもある。
 この戦いに赴けば、帰れないかもしれない。
 けれどこの戦いに勝利できなければ『未来はない』。
 誰もが覚悟を決めねばならない。
 準備の忙しさで一時忘れられたとしても、澱のように何かが胸に溜まっていくことだろう。
「何かを頑張るためにはやっぱり、『かけがえのない人』とか『大事な想い』とか『平穏な日常』を忘れないことが大切だよね」
 夜明け前が一等暗い。
 地平線の向こうから眩い光が現れる瞬間の、世界に光が広がっていく一瞬の煌めき。それが見たいと雨泽は紡いだ。
 太陽は必ず昇る。
 終焉がそれを阻むと言うのなら、抗うだけ。
「夜の静寂を払って、朝を、明日を、未来を迎えに行こうね」
 そのためにも――夜明けを見に行こう。
 そう、雨泽はあなたを誘ったのだった。

 終焉へ立ち向かう、その前。
 最後のその穏やかな日常で、あなたはどこに居て、誰と何をしていますか?

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 このシナリオは『決戦前夜』や『最後の日常』イメージの描写となります。
 どうぞ、あなたの大切な人との穏やかなひとときを。
 決戦シナリプレイ返却前までにこのシナリオのリプレイをお届けします。
 壱花所有外のNPCはサポートから推薦を出せます。

 通常参加=文字数の多いイベシナ
 サポート参加=普通のイベシナと同等 の、描写量となります。

 前回のイベシナ参加者様で文字が多い方を好まれるかな? な方へ優先をだしていますが、お好みで選択頂けますと幸いです。
※無いとは思いますが……19時の時点で予約が超過していた場合は、5の倍数で枠追加をいたします。

●シナリオについて
 夜~朝方の時間帯の『一場面』になります。
 ご飯を食べ終えて明日も頑張ろうと眠りにつくもよし、迫る終焉の緊張から眠れず眠れぬ夜を過ごすもよし、誰かと穏やかに過ごすのもよし、誰かに決意を表明するもよし……あなたは、どこで何をしているのでしょう?

●NPC
 GM壱花所有NPCの居る場所です。御用があれば、どうぞ。

◯劉・雨泽(p3n000218)
 【8】豊穣に居ます。
 海が望める霊山の山小屋で一泊しようとあなた方を誘いました。そこから見られる夜明けを――日の出を見たいと思っています。

◯鹿紫雲・白水(p3n000229)
 【8】豊穣に居ます。
 国内を守ることが務めである刑部卿は夜遅くまで執務室で書類仕事に追われています。

◯瑛・天籟(p3n000247)
 【9】覇竜に居ます。
 亜竜集落ペイトに居ます。大体いつも酒盛りをしています。

◯メファイル・ハマイイム
 【9】覇竜に居ます。
 いつつぼし島の泉で静かに過ごしています。
 浮遊島は星が近くとてもきれいです。

◯サマーァ・アル・アラク(p3n000320)
 【5】傭兵に居ます。
 アラーイスに誘われて同じヴィラに居ます。夜ご飯は大きなお肉を串にさしたものが出るのだと、ご飯を楽しみにしています。夜明け頃の気球を見たいけど寝ていそうです。

◯アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
 【5】傭兵に居ます。
 夢の都内の高級ヴィラを一棟借り切っています。夜明け頃に上がる気球を見ようと思っています。

●EXプレイング
 開放してあります。
 文字数が欲しい、関係者さんと過ごしたい、等ありましたらどうぞ。
 可能な範囲でお応えいたします。

●サポート
 イベシナです、気軽にどうぞ。

●ご注意
 名声は【幻想】に入ります。
 公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為、未成年の飲酒は厳禁です。
 また、シナリオ趣旨と異なる内容は描写されません。


行動場所
 以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。
 領地や自宅等、街や集落の中でしたらご自由に。
 ラサや豊穣の弊NPCが居る施設も利用可能です。

【1】幻想&ローレット


【2】鉄帝


【3】天義


【4】海洋(シレンツィオ、竜宮含)


【5】傭兵(ラサ)


【6】練達(再現性東京含)


【7】深緑(妖精郷含)


【8】豊穣


【9】覇竜


【10】その他(プーレルジール等)


交流
 誰かと・ひとりっきりの描写等も可能です。
 NPCは話しかけたりすると反応します。

【1】ソロ
 ひとりの時間を過ごします。
(NPCもそっとしておきます)

【2】ペアorグループ
 ふたりっきりやお友達、関係者と。
 同行者がいる場合は【名前+ID】or【グループ名】をプレイング頭に。
 一方通行の場合は適用されません。お忘れずに。

【3】マルチ
 特定の同行者(関係者含む)がおらず、全ての選択肢が一緒で絡めそうな場合、参加者さんと交流。(ソロ仕様なひとり完結型プレイングはソロとなる場合が多いです。)

【4】NPCと交流
 壱花所有の同行NPCと交流したい方はこちらを。
 なるべくふたりきりの描写を心がけますが、他の方の選択によってはふたりきりが難しい場合もあります。
 交流したいNPC指定は【Nサ】【Nア】の記載で文字数の節約になります。

  • 未来夢見て夜明け前完了
  • 決戦前、最後の日常です。通常参加は文字数の多いイベシナ、サポートが通常文字量のイベシナとなります。
  • GM名壱花
  • 種別長編
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2024年03月24日 22時05分
  • 参加人数22/22人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 22 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC3人)参加者一覧(22人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
佐倉・望乃(p3p010720)
貴方を護る紅薔薇

サポートNPC一覧(12人)

プルー・ビビットカラー(p3n000004)
色彩の魔女
ギルオス・ホリス(p3n000016)
ディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071)
赤犬
建葉・晴明(p3n000180)
中務卿
劉・雨泽(p3n000218)
浮草
鹿紫雲・白水(p3n000229)
刑部卿
テアドール(p3n000243)
揺り籠の妖精
瑛・天籟(p3n000247)
綵雲児
サマーァ・アル・アラク(p3n000320)
くれなゐに恋して
アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
恋華
ムラデン(p3n000334)
レグルス
ストイシャ(p3n000335)
レグルス

リプレイ

●幻想
 ここに来るのも最後かなぁ、なんて軽口とともに『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)が笑いながら扉を開くのは自身が営む喫茶店。空腹で店の裏に行倒れていた『片翼の守護者』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)を拾って、彼にパンケーキを提供した思い出の場所だ。
 それからなんと、もう約5年。気付けば恋仲になり、夫婦になり、ふたりはずっといっしょに過ごしている。振り返れば早いけれど、過ごしている時はどれも大切な時間ばかりだった。
 ――最後の戦いで勝てねば、この世界は滅ぶ。
 そう言われてもルーキスには特別感はないし、ルナールだってそうだ。命をかけて護りたいって程でもない。
「仮に混沌が滅んでも、どうせ私達は最期まで一緒でしょう?」
「うむ、この世界が滅ぼうが俺らが最期まで一緒っていう事に変わりはないぞ」
 この世界が滅べば、そこにいる命は潰える。それまでの時間を戦闘に費やすのも、戦場に赴かず寄り添い過ごすのも、どちらでもいい。どちらでも、最期まで一緒なのは変わらないから。
「あ、折角ならメニューも最初のヤツにする?」
 いつもの席についたルナールへ声をかければ、そうだなと同意が返る。
 手慣れた動きで窯に火を入れて、焼いた生地をひっくり返してもう一面。
 確か図々しくもおかわりもしたはずと思い起こしながらルーキスを見つめていると、「ちょっとアンニュイな気分」とルーキスが零した。
「らしくないって? 失礼だなあ、こう見えてれっきとした女ですよ」
 ルナールは言葉を返してはいないけど、恥ずかしいのかルーキスが先回りをする。そんなルーキスをルナールは可愛いと思う。いつもそう、思っている。
(“終わり”なんて概念がそもそも俺ら夫婦には不要なんだ)
 そんなモノあるわけない。
 ルナールはそう思うが、実際に終わりはくる。
 ならば戦いに参じて、それを壊せば良い。
「ね、ルナール……愛してるよ」
「俺もだ、ルーキスを愛してる」
 自然と溢れる言葉に、ふたりで微笑み合う。
 例え終わりが来ようともその気持ちは変わらない。
 戦いが始まって――それがどれだけ続くか解らないけれど、きっとその先に平穏な夜明けがあるから。それを愛する人と見たい。
 でも、それは明日から。
「今日一日ぐらい、此処でのんびりしていこうか」
「今日だけじゃなくて、この先もずっとな」
 ことんと置かれる白い皿には、いつもの、そして懐かしのパンケーキ。
「おかわりも焼いておこうか」
「……矢張り覚えていたんだな」
「キミのことだよ? 忘れるはずがないじゃない」
 ふふんと笑ったルーキスがまたパンケーキを焼きに行き、ルナールは焼き立てのパンケーキを頬張った。
 平和になったその先で、またこの穏やかなひとときを、必ず――。

 ――拝啓。
 シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は自室で家族にあてた手紙を書いていた。
 内容は2ヶ月後に全員での会食の提案。
 明日からは最後の戦いが始まるけれど、必ず帰って皆で集まるそのために。
『皆を悲しませないためにも、戦いに出向く私は絶対に帰ってきます』
 父が没し家を出て9年、シフォリィはようやく大人になれた気がした。

 遅い時間だ。けれどもこの日は遅くまでローレットには灯りがついていることだろう。情報屋たちが今、戦っているからだ。
(息抜き、してくれるといいけど)
 会いたい人の姿を思い浮かべた囲 飛呂(p3p010030)は菓子を手に、幻想の石畳を蹴った。
 いってきますを告げるために。そして無事に帰って、ただいまを告げるために。
 夜明け前になってもローレットには灯りがついていた。気分が昂っているからか眠れなくて足を運べばその部屋に灯りがあって、また徹夜でもしているのかと『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)はローレットのギルオス・ホリス(p3n000016)の部屋前までやってきたのだけれど――
「……ギルオスさん?」
 返事がない。ハリエットは静かに戸を開けて室内を覗き込む。
 彼は机に突っ伏して眠り込んでいた。彼が日々忙しいことを補佐をしているハリエットはよく知っている。
「ギルオスさん。ちゃんと横になって休もう」
 ベッドへ移動させるねと声を掛け、そっと体を支えて運ぶ。ぴくりとギルオスが反応したようだが、その顔はまだ穏やかな夢の中にある。きっとこの、自身に触れる誰か――あぁ、この感覚はきっと彼女だ――の熱を心地よいと感じているのだろう。
 彼をベッドへ寝かせたハリエットは少し考える。
 もう夜明け前。自分も少しでも寝たほうがいい。だって明日は最後の戦いが始まって、そのためにも各国の情報を集めようとギルオスは頑張っているはずだ。彼の頑張りが無駄にならないためにも、万全でなくては。
 近付きすぎないよう、邪魔にならないよう、気を付けて。ベッドの隅に小さく丸くなる。眼前には瞳を閉ざした彼が居て、その目がハリエットを見なくても、言葉を交わせなくても、傍にいるだけで幸せだ。
 大好きな人の傍は幸せで、安堵して、瞼は自然に重たくなった。
「私の事、どう思ってます、か……?」
 夢路の舟を漕ぎ出す前に溢れた声は夜明け前の空気に消えて。その呟きは彼には届かなかったが――
「――リエット」
 ギルオスの声も、寝入った彼女には届かなかった。
 無意識に伸ばされた手がハリエットに触れ、自然に抱き寄せる。この心地よい熱は常に傍にあって、触れる度に感謝と愛しみを覚えるものだ。
(――だってきっと僕は……君の事が好きなんだ)
 世界を終わらせはしない。この熱を、彼女を護りたい。
 穏やかな温もりと微睡みの中、ギルオスはハリエットを想っていた。

 ――晴さまに見せたい景色があるの、です。
『いつか』とずっと思ってきた。けれど、『今』がいい。
 まっすぐにそう告げた『めぇめぇエスコート』メイメイ・ルー(p3p004460)の頬を建葉・晴明(p3n000180)の指がくすぐっていく。
 未来というものは、途方もないからこそ今がいい。男の気持ちも同じで、彼女の見せてくれる、彼女の見た世界を知りたいと思っていた。
 そうして向かったのは、メイメイの故郷。ベルの冬の村から山へと登った、山々が一望出来る場所。慣れた手つきで野営の準備を済ませるメイメイの手つきを見守る晴明の表情が、珍かなものを見たと素直に告げていて何だか愛らしい。
「晴さま、寒くはありませんか?」
「いや、大丈夫だ」
 天幕も、防寒着も、温かなお茶だってある。それに――。
「っ」
 ぴょんっとメイメイの羊耳が跳ねた。
「嫌だったろうか」
「いいえ、いいえ」
 茶を手にしていない片手を重ねた晴明に、メイメイの鼓動は跳ね上がった。
(落ち着いて、わたし)
 為すと決めてきたことがあるからと、左薬指の指輪を見て心を落ち着ける。明日からは激しい戦いが始まり、今がゆっくり過ごせる最後の時。けれどそれを最後になんてしたくはない。
「どんなに離れても、心は傍に。必ず貴方の元に、帰ります」
「……幾久しくあなたと共に荒れることを俺は喜ばしく思うよ」
 晴明の視線も、メイメイの薬指へと向けられていて――ああやっぱり、寒さなんて感じない。
「あの、それで……わたしからも、お守りを贈らせて下さい」
 メイメイは断りを入れてから晴明の髪へと触れる。そこに結ぶのは、メイメイが角飾りに使っていた紅い結び紐だ。
「……この先も、お傍に」
「大切にする、何があったってあなたと共にあらば屹度、良き未来が切り開けると思うよ」
「あと、その、少しだけ、目を閉じていて下さい、ね?」
「まだお守りを?」
 素直に目を閉ざした晴明の唇へ、メイメイは唇を寄せた。
「……これも、お守り、です」
「お守りならば、俺も返さねばならないな?」
 小さな笑みに瞳を丸くしている間に手を引かれ、唇を落とされる。
「あなたの無事を願っている」
「っ、晴さま」
 冷えるからとそのまま抱きしめられ、幸福を感じた。
 ずっとこうしていたい。
 うっとりと瞳を閉ざせば眠気がくる。
 けれども。
「あっ、晴さま! 夜明けです、よ……!」
 まなうらが赤く染まり、空を見る。
 美しい夜明けをまた、こうしてふたりで迎えられるよう、決意を胸に。



●鉄帝
 フロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)は夜の鉄帝の町並みが好きだ。双方少し寒いけど、拒絶も肯定もしないから。
 これまでの戦いは大抵吹き飛ばされての連続だったけれど……それでも、蝶のはばたき程度でもこの街の為になっているのなら!
「メテオリット! 久しぶりの大仕事、また付き合ってもらいますわよ!」
 屋根の上に立ち上がったフロラは鎌をくるりと回し、相棒にそう宣言した。

 パタパタパタ。
 朝も早くから、『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)動き回る。今日の朝食は、肉が柔らかくなるようにと昨夜からじっくり煮込んだボルシチとちょっと不格好だけれど一生懸命包んだペリメニ。一通りの準備が整えば、またパタパタ、パタ。
 パタンと扉を開けて、カーテンも開けて、小さな音を立ててベッドに座ったのなら――それでもまだ眠っている『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)を揺り起こす。
「マリィ、マリィ。起きて下さいまし、もう朝でしてよ」
「うーん……」
 陽の光が眩しくて、眉間に寄る皺さえも愛おしい。小さく笑ったヴァレーリヤが朝ご飯はと尋ねれば、食べると応えが返ってきた。
「わー! 朝から豪華だね! 流石はヴァリューシャ! 美味しそうだ!」
 顔を洗って食卓へと向かえば、温められた朝食がマリアを待っている。未だ寒い鉄帝では白パンなんてすぐに冷めてしまうとマリアが席につく直前まで温められていた。
「どうぞ召し上がれ」
「いただきまーす!」
 勿論マリアにとって、ヴァレーリヤの料理はいつだって美味しい。けれども今日のボルシチもペリメニは過去最高傑作では!? なんて、きっと毎日最高を更新していっている。
「あっ、ほら。口元にちょっと付いてしまっていましてよ」
「あっ……。ごめんよ。美味しくて夢中になっちゃった!」
 恥ずかしい! と口元のパンくずをとってもらったマリアは赤くなるのを、ヴァレーリヤは柔らかな瞳で見つめた。
「ねえマリィ」
 食事を終えて紅茶で喉を潤す頃、呼びかけたヴァレーリヤの声質が変わった。
「これから決戦ですわよね」
 硬い声。けれど「そうだったね」と返すマリアの声と表情は穏やかなままだ。
 決戦で負ければ、世界は滅ぶ。
 滅ばなくとも、厳しい戦いの場へと赴けば、どちらかの命が失う可能性もある。
「私、こうやって二人で朝ご飯を食べたこと、ずっと覚えていますわ。絶対に。何があっても」
「私も君との思い出は全て絶対に忘れない。今日の事も昨日の事も、去年の事も。全て背負って戦場へ往くよ」
 それでもふたりは覚悟して、戦場へと赴く。
 日常を謳歌して、それから戦支度をして気持ちを切り替えて。
「名残惜しいけれど、もう行かないといけませんわね」
 身支度を整えたヴァレーリヤが外への戸へと視線を向ける。そんな彼女の手をマリアは待ってと掴んで止め、そのまま掬い取ると唇を寄せた。
「ヴァリューシャ、心から愛してる」
「……ありがとうマリィ、私も大好きでしてよ」
 こんな時でも、かんな時だからこそ、マリアは全力の愛をヴァレーリヤにくれる。それが愛おしくて嬉しくて、ヴァレーリヤは眩しげに微笑んだ。
 私からも。額に勝利を願う口付けを贈れば、近い距離でふたり、笑い合う。
「君と新しい朝をずっと迎えたい。だから勝とう。皆の為に、未来の為に、私達の為に」
「行きましょう。私達と、皆の未来のために」
 笑顔でぎゅっと暫く抱きしめ合ってから、ふたりは手をつなぎ、ふたりの家を後にした。
 絶対にこの家へ帰ってくる。
 おかえりとただいまを言い合って夕飯を食べて眠り、また朝を迎えるために。

●天義
 自宅としている協会で、『夜鏡』鏡禍・A・水月(p3p008354)は珈琲が飲みたいと『高貴な責務』ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)へねだった。
「嵐の前の静けさと言うべきなのかしらね。こんなにも穏やかな夜なのは」
「夜が明けたら決戦だ、って思うとなんだか不思議な感じがしますね」
 ルチアが丁寧に淹れてくれたマンデリンの深煎りの香りがふわりと香る。のんびりとした穏やかなひとときを過ごしているのに、この平和は明日にはない。死ぬよりも辛い戦いがあって、いつ終わるのかも知れぬ戦いに日常を恋しく思う日々が続くだろう。
「私はね、鏡禍。世界さえ護れるのなら、自分の命さえ使い切ればいいと思っていたの。きっと、貴方が危ない所に行かないで欲しいって言っていたのはそういう危うさだったんじゃないかと思うのだけれど」
 作戦に失敗すれば、世界は滅んでしまう。力を持った身なれば、決して座視してはならない。
 少し前のルチアならただそう誓って戦場へと向かっていた。勿論今もその思いが無いわけではない。けれども今はそれよりも……と思うものがあるのだ。
 護りたいものが出来た。己の命が己だけのものではなくなった。貴き責務よりも、彼との穏やかな日常をと欲を動機として動きたいと思ってしまった。
 言葉を紡ぎ始めたルチアは己の左手を見る。そこには鏡禍が刻んだ証があって、自然とそこへと唇を寄せた。
 例え戦場で離れていたとしても、この痣がふたりを繋いでくれる。
「でもね。死んでしまえば二度と貴方と過ごせなくなる。だから、安心しなさいな。どんな危地に向かおうと、貴方に『お帰り』って言って貰うために生還する。そう、誓うわ」
 ルチアの真っ直ぐな言葉を受けて、鏡禍も言葉を紡ぐ。
「僕、たまに言ってましたよね。危ないところに行かないで欲しいって。でもそれをいうのはもうやめます」
 世界が滅んだら、鏡禍もルチアも命はそこまでだ。愛した証も、愛された証も、共に生きてきた幸せな時間ですら喪われてしまう。滅びとはそういうものだ。
 危険なところへ行ってほしくない。その気持ちは変わらない。けれどそれ以上に一人で勝手に逝ったりしないと信じているし、彼女も自分と同じ気持ちで戦ってくれるのだ。心配してばかりではいられない。
 鏡禍も視線は彼女の痣へと向けている。刻むことを許してくれたことも愛おしい。
「代わりに、ちゃんと『ただいま』って言ってください。僕もちゃんとここに帰ってきますから。約束です」
 もし平和になってもそれが守られない時は――鏡禍は後を追うだろう。気付かれていそうな願いは口の中で転がすだけに止め、約束ですよと小指を絡めた。

●海洋
 とぷ。海にトビウオが戻った時のような音を立て、盃の水面が揺れた。
 ざざんと聞こえる波音に、空には冴え冴えとした月。
 居酒屋『潮騒』の縁側はふたりにとって馴染な場所で――それなのに、出逢った日と同じ時間で同じ場所なのに、あの日の夜とは何もかもが違っていた。世界情勢も、ふたりの関係も、胸の内も。
(世界が緩やかに滅んでくれるならむしろ願ったり叶ったりだ、なんて思っていたんだが――今やその滅びに抗おうとしているときた)
『暁月夜』十夜 蜻蛉(p3p002599)が注いでくれた酒へと唇を落とした『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は再び空へと視線を移しかけ――ふと眼前の蜻蛉を見た。いつ見たって『自分には勿体無い程のべっぴん』と思う。けれどもう、その隣は己のものだという自覚がある。
「そういうお前さんの盃はまだ空だろ。そら、付き合ってくれや」
 これが最後になるかもしれないから、とは言わない。
 敏い女だ。縁の弱い部分によく気がつく蜻蛉はジッと縁を見つめ、それからころりと鈴を転がすように「ほんなら」と微笑み盃を差し出した。
「おおきに」
「悪いな。こんな夜に、隣にいるのが冴えねぇおっさんで」
「うちは、あの時からずっとこうなる事を夢みとりました。後悔なんてどこにもあらへんよ」
 何かを隠すように零される軽口にも慣れたもの。けれどもしっかりと否定するのは、蜻蛉の恋心ゆえ。
 不思議と魅かれたお店と、他者と線を引く何を考えているのか分からない男。一歩近付きたくて立ち寄って、もっと近付きたいと手を伸ばしたのが始まり。
(やって、命懸けの恋やったもの。……恋はいつでも命懸けやもの)
 一世一代の賭けみたいなものだった。
 それが今や実って、『この時』をともに出来る仲となっている。
「縁さんやって、うちみたいな猫に好かれてしもてお気の毒様です」
「……ったく、よく言うぜ。そんな事、思ってもねぇくせに」
「ええ、これっぽっちも思とりません。んふふっ」
 ずっとこの日常が続けば良い。
 気軽に軽口を叩きあって笑い合う、そんな平和で幸せな日常。
 喪われるのが怖い。日常もお互いも。
「……もしも、このまま世界が終わってしまっても、縁さんと一緒なら……って、」
 笑えない冗談を遮って、縁は手を伸ばした。
 終わらせてなんて、喪わせてなんて、やるものか。
「ここに……俺の隣にいてくれよ――蜻蛉」
 ずるい。これじゃあ「ちょっと」なんて窘められない。言葉の途中で抱きしめられた蜻蛉は、縁の腕の中で少しだけ唇を尖らせて。けれども与えられるぬくもりも、言葉も、その行動も。どれもが嬉しいものだから、自然と上がる口角を感じながら手を伸ばす。
(大丈夫。この先も、一緒に生きたいもの。あなたと)
 ――うちはここにおります。これからも生きて、齢を経ても隣に。
 言葉は、きっといらない。広い背中に手を伸ばして、ぎゅっと、ただぎゅっと強く抱きしめれば――いくら縁が元朴念仁だろうと伝わってくれることだろう。
(これからも、この先も、お前さんには一生敵う気がしねぇ)
 深い水底にいた縁へ手を伸ばして引っ張り上げられたあの日から、ずっと。
 ずっとずっと、これからも。

 夜が明ける前の海はインク瓶を投げ込んだかのように黒色だ。
「望乃、眠たい?」
 はふ、と溢れた愛おしい妻の眠たげな表情に目尻を下げ、『世界で一番幸せな旦那さん』フーガ・リリオ(p3p010595)は眠たげに目を擦る『世界で一番幸せなお嫁さん』佐倉・望乃(p3p010720)の手を取り砂浜を歩いた。砂に足を取られないように気をつけて、なんて声を掛けて。
「ここいらでいいか」
 ギフトでトランペットを喚び出したフーガは海に向かって立つ。
 前方には大海原、後方には――常ならば人の気配があるはずなのに、しんと静まり返る白いホテルたち。
 観光地たるシレンツィオ・リゾートは今、静まりかえっている。世界の危機の最中に旅行が出来る者などイレギュラーズくらいのものだろう。ご近所迷惑上等! の気持ちで来たけれど、これならめいっぱい吹けるねとふたりは笑いあった。
 大きく息を吸って、トランペットへ命を吹き込む。気持ちの良い大きな音が出て望乃が楽しげな笑顔を浮かべ、アイコンタクトをしたフーガも笑む。大好きなトランペットを思い切り吹けて、傍らには最愛の妻。これから辛い日々が始まるだろうに――ああ、どうしてこうも幸せなのか。
 シレンツィオ・リゾートは、ふたりにとって大切な土地だ。Bad End 8の担当範囲から外れるからと終焉獣たちに襲われていないことがふたりには奇跡のように思えていた。
 このシレンツィオの海で出逢い、フーガと望乃、ふたりの物語は進み始めた。
 ひとり、またひとりと共に笑い合える友人ができて、温かな贈り物を贈り合ったり、思い出を紡ぐ日々が始まった。
(――おいらの人生、黄金の百合しかないって思っていたけど)
(――ひっそりと枯れる運命だと思っていたけれど)
 トランペットから流れるフーガの旋律に合わせ、目配せをしてから望乃が歌を歌い出す。
(この世界に着てから太陽のような幸せと温もりをたくさんくれたんだ)
(もっともっと、この世界で生きていきたいと思えるようになれたのです)
 トランペットに、歌に、気持ちを籠めて。
 明日がもっとより良いものでありますようにと願いを籠めて。
 今度は自分たちが世界を照らす太陽になれますようにと祈りを籠めて。
 眠気も絶望も、歌唱と演奏で吹き飛ばして。
 世界の果てまでも、この希望に溢れた音楽が届くように。
(「また明日」も、その先も。あなたとこの世界で笑って過ごせますように)
(この先も「また明日」を継げる為に、無事に生きて帰ろう)
 そうして帰ってきたらまた、世界に「おはよう、朝だよ」って告げよう。
 ふたりの思い出の地であるシレンツィオ・リゾートにまた人々の笑顔が満ちる日々を願って、シレンツィオ・リゾートの白い浜辺でふたりきりの夜明けのストリートライブを行った。

●ラサ
 乾いた風が砂埃を巻き上げ、頬を撫ぜる。
 星という宝石を散りばめた暗い夜空を見上げる『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は今、民家の屋根の上に居た。
 サンディの領地はお世辞にも『安全』とは言えない。ある程度の悪徳を見逃してきているのも、そういった者たちも――自身を含めて隠れられそうな気がしたから。解っている。サンディ一人が逃げたところで意味はない。むしろ格好悪いし『らしく』ない。
(いままで、こんなこと、覚えている限りではたぶんなかった……と、おもうのだが)
 けれどもどうにも、沈む気持ちを振り切れずにいた。
(――明日なんて来なければいいのに)
 明日、もし『失敗』したら、世界が終わる。
 そんな危険はいつだって隣り合わせだからレアではないのだけれど、過去最高に『危険な状況』。過去最高に『死にたくない』。けれど過去最高に『欲しい』ものはその先にある。
 故にサンディは明日も仲間たちと死地へと赴かねばならない。それが、『サンディ・カルタ』だから。
(皆、今夜は何をしているのだろう)
 冷やかすわけではないけれど、この気持ちを吹っ切るヒントを貰えるかもしれないと、サンディは屋根の上を猫のように移動して、他のイレギュラーズたちを探しに行く。
 遥かな昔、踏み出せなかった一歩を、踏み出せるような。何かを、探して。
(大丈夫。今夜を過ぎれば、俺はまた『サンディ・カルタ』だ)
 だから、今宵だけは――。

 明日からの戦いは、きっと熾烈なものとなるだろう。
 一日で続くのか、それとももっと長い時間を要するのか。
 いつだって戦いは不確定要素に満ち満ちていて、細い双肩に乗るには重たすぎる。
(私の故郷なんかは別にどうだって構わないけれど……)
 けれども『祝福(グリュック)』エルス・ティーネ(p3p007325)は自身の領地の民や混沌で出会った友人たちのことは護りたいと思っている。それから――
「ディルク様」
 こんな日なのに、ディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071)は余裕で満たされていて、彼『らしい』。赤の濃い葡萄酒のグラスをくゆらせて、なんだと向けてくる視線は常と変わらず、傭兵という職業柄なのか、彼は常と変わらない。
「あなたが死ぬとかそんな事思っちゃいませんけれど……でも敢えて言いますよ、死なないでくださいね。私も命の無駄遣いはしないように心がけますから」
 心がけるだけ、である。命は落ちる時には落ちる。眼前の男はきっとそれをよく理解している。
「……この戦いに生き残ったら嫁にしてくれるって約束、別に本気にしなくてもいいですよ」
「どうした?」
 ディルクの視線が向けられて、エルスはぐっと言葉を飲み込む。彼は自由であるべきだ。だからいい子に我慢をして――
「っ」
 伸びた手が加減無く頭を撫でた。髪がぐしゃぐしゃになって、エルスは「もう!」と声を上げる。ひらひらと振られる手が憎たらしい。……けれどそれすらも愛おしいと思ってしまう。
(あなたは絶対死なないってわかってるのに)
 けれど『もしも』を気にかけてしまうのも、恋心なのだ。
 最終的には長命種であるエルスが彼を置いていくから、別れはいずれ必ず訪れるのに。
「武運を祈ります……必ず勝ちましょう……!」
 ぐっとエルスが拳を握りしめて眉を上げれば、「何を当たり前なことを言ってるんだか」とディルクが喉でくつくつと笑っていた。

『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は冒険者で、プルー・ビビットカラー(p3n000004)は情報屋。前者は現地で困難に立ち向かい、後者はホームで待ち、戻ってきた冒険者たちの沢山の苦しみや悲しみをその目に映す。
 ――けれどいつからか、そのベルディグリの瞳に他の人を映してほしくなくなった。この願いは困らせるだけだと解っている。だから、胸に秘めて。
「……ね、全部終わったら、お仕事も落ち着くのかしら」
「そうね、少し休暇を貰えると思うわ」
「それじゃあその時は……旅行に行きましょうよ、二人で」
 そんな会話をしながら、ふたりは夜明けを待っていたヴィラを出る。吹いた乾いた風は冷たくて、いいかしらと断りをいれてからジルーシャは自身の外套でプルーの肩を包み込んだ。
 これまで沢山の色彩(けしき)に出会ってきた。鉄帝のオーロラ、海洋の花火、豊穣の天の川……そして今日は、ラサの夜明けの気球。
「これからもこの先も、二人で探しにいきたいわ」
「まだまだ沢山、私の知っている景色を教えて上げる。長命の私との一生は屹度長いわ、けれど、楽しい物であるべきでしょう?」
 貴方のプロポーズに応えるならば、もっと沢山の色彩を貴方に。
「それって……」
 美しい瞳にジルーシャが吸い込まれそうになった瞬間気球が上がり、周囲がワッと騒がしくなった。
「本当は……決戦に向かうまで、アンタを独り占めしていたかったの」
 見送ってほしいというのも、本当。喧騒の中に秘めていた気持ちを零す。
(もう独り占めしているわ? 分からず屋。いけないことだけれど、貴方の無事を一番に思って居るのよ)
 どの冒険者の無事よりも、一番に。いけないことだから口にはしないけれど。
(私の方が心配しているだなんて、きっと分かってはくれないのだわ)
 友人を見つけたジルーシャが手を振る。その横顔を見て、プルーは「こっちを見て」と囁いた。
「プルーちゃん?」
「必ず帰ってきて頂戴ね」
 ああ、気球よりもこの瞳に見惚れてしまう。

●練達
「夜明け前がいちばんくらい、のでしたっけ。でもくらいのは、星がきれいに見えますね」
 練達の町明かりは眩しすぎるからと街から離れた丘の上、「テアドールがさむくないように」とぴったりテアドール(p3n000243)へくっついた『願い紡ぎ』ニル(p3p009185)はぎゅっと手を握りながら空を見上げた。
「ニルは、まもりたいひとがいて。たすけたいひとがいて。かえってきてほしいひとがいて。力になりたいひとがいて。だから……いかなくちゃ」
 テアドールはニルの友達だ。仲良しで大好き、あいしてる。まもりたくて、まもられたくて……触れられる距離にずっと居たい。けれど戦いに行くということは、テアドールと離れるということでは……?
「テアドールも……一緒にいてくれますか?」
 問うニルの顔をテアドールは優しく見つめた。
 ニルはきっと、来たる終焉が怖いのだろう。
「僕はニルの傍に居ますから」
 それに……とテアドールが視線を落とす。
 ニルはベスビアナイトの、テアドールはシトリンの、プラチナリング。
 指輪を通して声を届けられるから、この指輪があれば大丈夫。
「離れていても、僕はニルのことを想っています」
 どうしても側にいられない時は指輪に祈ろう。
 けれど僕も多少は戦えるのですよとテアドールが微笑んだ。キラキラの瞳も髪も、空に輝くお星さまよりも綺麗で目が奪われる。
 テアドールはいつだってニルの心に寄り添ってくれる。ニルのコアをふわふわさせたりうずうずそわそわされる。――テアドールがいるから、頑張れる。
「ニル、約束をしましょう」
「やくそく、ですか?
 互いに無事に帰ってくることを。
 世界が平和になったらお出かけをすることを。
「ニルはテアドール行ってみたい国も、いっしょに食べたいごはんもいっぱいあります」
「僕はニルとだったら何処へでも行きます」
 いつしか両手を重ねていたふたりは、互いの無事を祈って額を合わせた。
「平和になったら、ずっとずっといっしょにいてください」
「これまでも、これからもずっと一緒です」
 ひとりじゃなくて、ふたり。
 だからきっと、だいじょうぶ。
 やがてふたりの頭上にも太陽がやってくる。
 眩しい太陽をふたりで眺めてから、朝ご飯にしましょうとニルは笑った。

●豊穣
「宮様!?」
 夜も遅い時間に自宅を訪ってきた相手へ、『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)は素っ頓狂な声を上げた。無理もない。彼女は敬うべき尊い方で、支佐手の憧れの君なのだから。
「お前の顔を見られるのは、今宵が最後かも知れんからな。それに、先の挨拶が今生の別れというのは、あまりにも悲しかろうさ」
「勿体ない御言葉。この支佐手、感謝の念に堪えません」
 忙しい夜であろうにすまぬなとまで気にかけてくれる。支佐手の言葉に偽りはない。昼間に出立の挨拶をしたのに、いつだって真賀根は気にかけてくれる。その上「どうだ、一献」と誘ってまでくれるのだ。
「昔を思い出しますの。思えば、わしが行き詰まったり思い悩んだりした時、宮様はこうしてわしを励ましに来て下さった」
 暫しの逡巡の末に受け取った盃と、交わされる思い出話。
「あん時頂いた菓子の味、今でもよう覚えとります」
「言われてみれば、そんなこともあったな。あの頃のお前はまだ小さくて、外に出る度に怪我をしていないかと肝を冷やしたものだ。堂の裏で泣き腫らしていたのを、私が見つけたこともあったか」
「み、宮様……!」
 そういう話は忘れて欲しい。顔を赤くして制する支佐手に、真賀根が楽しそうに笑った。昔話が出来るということは『良いこと』だ。それだけの長い間、互いに命と絆を繋ぎ続けているということなのだから。
「ところで支佐手、好い人はできたのか?」
「いえ」
「そうか、そうか……いや、何でもない」
 即座に否定すれば、返ってくるのは微妙な反応。
 あの、と問おうとしたところでずいと何かを差し出された。
 支佐手を守る呪がかけてある小刀だ。
「……死んでくれるなよ」
「必ずや。黒蛇衆の名、大陸に轟かせて参ります」
 先の言葉と態度が気になるも、主が帰れと願うのならば。
 小刀を恭しく両手で受け、支佐手は頭を垂れた。
 ああ、なんという可惜夜なのだろう。

 夜の山道は危ないからと早くから山を登って、早い時間から山小屋で仮眠した。
 明けきるにはかなり早い時間に皆を起こした雨泽が熱い珈琲を淹れて、配っていく。そのカップを受け取った『未来への陽を浴びた花』隠岐奈 朝顔(p3p008750)は「ねぇ雨泽さん」と話しかけた。
「貴方から見た、前の私の話を聞かせて貰えませんか?」
「前の君? 僕はあまり知らないよ」
 僕より君の方が知っているんじゃない? と、雨泽が笑った。
「君はずっと、可愛い女の子だよ」
 危険を承知で飛び込んでしまう危うさはある。
 背の高さを気にしてるけど、高い視線からの世界でないと見えないものもある。
「……私ね、世界を救ったら自分の命を終わらせるつもりなんです」
 死んじゃ駄目って言うのかな。そう思いながらも気持ちを吐露すれば「そうなんだ」とだけ返った。
「……駄目って言わないんですか?」
「沢山考えた選択だよね? 言わないよ。でも、そう云うってことは僕に話を聞いて欲しいってことでしょう?」
 イレギュラーズはそう簡単には死ねない。朝顔は小さく笑い、カップへと唇を落とした。
 話すのは、恋をした人のこと。
 あの世か来世で初めましてをしようと約束をして、でも転生した彼は彼ではないこと。
「だから、会いにいくしかないのかなぁって」
 死ぬのは怖い。……でもきっと、今の私なら。
「あ。雨泽さんは置いて逝っちゃ駄目ですよ?」
「……置いてかれちゃうのは僕の方だよ」
 そろそろかなぁと空を気にした雨泽を見て、朝顔は会話を切り上げる。
「僕は今の君も前の君も、きっとずっと覚えているよ」
 離れていく彼女の背へかけた声は、届いただろうか――。

 星が瞬く暗い夜空はいつもよりも近くて、手を伸ばせば届きそうだと『赤翡翠』チック・シュテル(p3p000932)は空へと手を伸ばした。これまでのことを思い出しながら手へと視線を向けていた。
 世界が平和になったら、どうなるだろう。子猫だったミィはもうすっかり大きいし、一緒に住んでいる二人の子たちももっと大きくなることだろう。学校に行ったり、他の国へ旅したり、二人の世界はきっと広がっていく。
 動く気配に気がついて視線を下ろせば、何かを話している朝顔と何か話していた雨泽が戻ってくるところだった。
 そろそろだよと雨泽が、肩が触れ合う隣に収まる。
「手を握っても、いい?」
「聞かなくてもいいよ」
 世界が終わってしまうと、手を握ることすらできなくなる。人々の未来は閉ざされ、先刻思い描いた子供たちの未来も、雨泽と一緒に過ごす時間も消えてしまう。
 そんなのは嫌だと、今のチックにはハッキリと跳ね除ける意思がある。
「見て、日が昇る」
 雨泽が静かに告げた。地平線から顔を覗かせた光が世界を変えていく。
 その光は、世界だけではなくて――
「チック」
 呼ばれたチックは昇ったばかりの朝日から雨泽へと視線を向け、小さく息を呑んだ。けれど、「これが、俺」と瞳を細めた彼へすぐに微笑みを向けた。
 太陽光によって変色する宝石がある。思えば彼は常に『太陽を避けていた』。この三年間、太陽の下では傘や帽子や布等の被り物を欠かさなかったのだ。
 額の角が、ゆっくりと変色していく。
 赤から、翡翠へ。陽の光を反射して。
 ――いつか翠雨を見せてあげる。
 それがこれなのだと理解して、チックは息継ぎさえ忘れてしまいそうになる。胸がふわふわして、情報と悦びに頭がくらくらした。
「ありがとう、翠雨。本当の色を、見せてくれて」
「うん」
 チックが手を伸ばし、ぎゅっと抱きつく。
「またこうして、朝日を迎えられる様に……必ず、一緒に帰ってこよう」
「……そう、だね」
 迷うような手が、翼を避けて背に触れた。

●覇竜
 いつつぼし島は空が近いからだろうか。澄んだ泉に煌めく星々が美しい。
 それなのに、『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が戦いに赴く時間は刻々と迫っている。メファイル・ハマイイムももう『ならぬ』とは言わない。
「……ねぇ、お母様。一度だけでいいの。『娘』と私を呼んでほしい」
 チラと向けられた視線が、水面のように揺れた気がした。
「呼ぶだけで良いと」
「ええ、思って欲しい訳では無いの」
「そうか」
 そっと水竜の長いまつ毛が白皙に影を落とす。失望されたように思え、こんな甘えたでは竜が好む勇者ではないとオデットの視線も少しだけ落ちた。
『もう!』
 ふたりのやり取りを見て、そんな声を上げたのはぺり・ハマイイムだ。
『オデット、母様はね「呼ぶだけで満足なのか、本当にそう扱ってもいいのに」と言ったのですよ』
「……っ」
 パッとオデットが顔を上げた。否定がないということは――
「思って、くれるの?」
「勇者なれば。……ただし」
「解っているわ。『逆縁は大罪』でしょ」
 最後の死地へ赴きちゃんと帰ってこられたのなら、オデットは真の勇者だろう。だから、その時は。
「私、すごく頑張るわ。頑張って、また無事に会えたら、力加減を練習してぎゅって抱きしめてくれる?」
 声が震えた。胸が熱くて、自然と涙が溢れた。
「娘を抱きしめぬ母はおらぬ」
 昇る日の光の中、力加減が苦手な水竜に変わって上級精霊がオデットの涙を拭い『私のこともお姉様と呼んでくれたら嬉しいわ』と咲っていた。

「寒くはありませんか?」
 星空を観ようとストイシャ(p3n000335)を誘った『人外好きな』Lily Aileen Lane(p3p002187)は、ストイシャの家のキッチンを借りて作ったホットミルクを差し出しながらそう問うた。
「あ、ありがとう……リリー」
 Lilyが寒くないようにと色々と用意してくれたし、ホットミルクで指先も温まる。ふたりで星を見上げながらホットミルクを飲んで、飲み終えたら地面へ置かれた手に手を重ね、寄り添いあってぬくもりを分かち合う。
「世界を救う戦い……頑張らなくちゃ、です」
「ん……」
 Lilyの声が僅かに揺れていた。
 怖くないかと言えば、嘘になる。人類の脅威と相対するのだ、怖いに決まっている。それでも決戦に行こうとするのは、世界を護りたいし、仲間を失いたくない、『家族』を失いたくないからだ。
「一番の理由は、大切な人を護りたいから、かな?」
 勇気を出して、声に出した。けれどもすぐに照れて「なんてね」と付け足して、傍らのストイシャはどう思っているだろうかと伺った。
 ストイシャは穏やかな瞳でLilyを見ていた。頑張ろうとしている大切な友達を応援したい気持ちでいっぱいだ。
「あのね……えっと……ストイシャさん」
 モジモジと指先を重ねたLilyは何度か言葉を飲み込んで。
「頭ナデナデお願いしても良いかな……、ストイシャさんに撫でて貰うと、気持ちが落ち着くし……、頑張らなくちゃと気合いが入ると、思うから」
「が、頑張れ……リリー」
 柔らかく、丁寧に。優しく撫でてくれるストイシャの手が心地よい。
 全力で世界を護ろうという気持ちになったLilyは、必ず戻ってくるとストイシャへ約束したのだった。

 例え明日が滅ぼうとも、いつもどおりの日常を。
 ふたりでご飯を食べて、ココアで指先を同じ温度に温めて、並んで歯磨きをして……そうして一緒の布団へと。横になって目を閉じれば朝はいつだってやってきて、『ともに最期まで』水天宮 妙見子(p3p010644)はむにゃむにゃとムラデン(p3n000334)に起こされるのだ。
 そう、そうなるはず。
「……眠れないのか」
「……はい」
 妙見子は頑張って日常を過ごそうとしていたけれど、最悪の事態を想像して不安になっていることなんて、ムラデンにはお見通しだった。怖がりなんだから、もっと甘えればいいのに。
「……もしお互いが約束を守れなかったらどうしますか?」
 ともに最後まで、という約束。
 守れなかったらどうしようと、妙見子は不安になる。
「私はね貴方を失うなんてことになったらきっと、世界を恨んでしまいます」
 異世界の破壊神だったから、また世界を壊してしまうかも。
 冗談ですよと小さく笑う妙見子の気持ちを、今はもうムラデンも理解できる。家族を失うのが怖くて、大切な妙見子を失うのが怖い。
「僕を弱くしたのだとしたら、たみこなんだからな」
「弱くなったのですか?」
「……なってない」
 ムラデンの声が少し尖ったから、妙見子はくすくすと笑った。
 このひとときが本当に愛おしい。大切な人が隣で横になっていて、自分のことを思ってくれている。妙見子の両手の中には大切な人たちで溢れかえってしまいそうだけれど、ぎゅっと包みこんで全部、全部、護りたいと思った。
 そんな妙見子のことは全てお見通しなのだろう。妙見子が触れたいと思って指を伸ばすと、すぐにムラデンの指先が触れた。ムラデンも手を伸ばしてくれたのだと不安にきゅうと縮こまっていた気持ちが綻ぶ。
 指が自然と絡んで、肩を抱いて、互いの体温を分け合えば――妙見子の口からは安堵したような吐息が溢れた。まるで不安な気持ちを半分、ムラデンが貰っていってくれたかのよう。
「僕は必ず、傍にいるよ。ドラゴンだぜ? 信用しなよ」
 額がくっつきそうな程間近で、強気な笑み。
 そうですねと微笑んで、ぬくもりに導かれるように瞳を閉ざす。
「春になったら、桜を見に行きましょうか」
 満開の桜と、歩幅を合わせて隣を歩んでくれるようになった竜。
 まなうらに浮かんだ美しい情景と確かな約束の言葉を胸に、妙見子は夢路の旅へと向かう小舟に揺られた。

 ――――
 ――

 どんなに今絶望を感じていようとも、夜明け前が一等暗いだけ。
 明けない夜はなく、太陽は必ず昇り、明日は必ず来る。
 だから、「未来(あす)を迎えに行こう」と雨泽が笑った。
 今が黎明。終わりの始まりの時――。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

最終決戦、頑張りましょうね。
未来を、明日を、夜明けを、大切なひととまた共にするためにも。

通常参加者のパンドラを多めに回復予定でしたが、100の方も居たので譲渡できるようにパンドラ回復アイテムのお土産を配布しております。

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