シナリオ詳細
<希譚>語べ部に非ず
冒険中
参加者 : 30 人
冒険中です。結果をお待ちください。
オープニング

●『音呂木 非夜乃』
音呂木という名には特徴がありましてねえ。
『言』に『一』を組み合わせたものを音と書くらしいんですわ。まあ、日が立つで朝日が昇るなんちゃって、そんな事も言いますわな。
呂もおなじく『口』が二個も挟まれる。それを最後に木で終ると。木ィ、言うんはその形だけ見ればそれそのものですわ。
そも、神木がありますわな。それを見立ててるというのもええかもしれません。
漢字はどうでしょう? 十に八やろか。十八。とわ、永久(とわ)か。そりゃあけったいな名前やな。言霊とは言うたもんで。
音呂木ってのは元より、言霊に関する立場であった事には違いはありません。
そしたら葛籠は? 葛籠ってのは其の儘の言葉ですわ。籠……まあ、箱ですわ。箱っていうのは『何かを仕舞う場所』でしょう?
なら、誰が語って、誰が、仕舞うんでしょうなあ。うちらが『そう』やと思ってはりました?
それは大いに違うわ。誰が始めた物語やろうか。この『希望ヶ浜怪異譚』ってのは――
「非夜乃ちゃん」
呼び掛けた葛籠うつしよを前にして音呂木ひよのは唇を引き結ぶ。
夜に非ず。
年齢も不詳、始めから『希望ヶ浜学園』の先輩として姿を見せた彼女。
音呂木神社の巫女であることだけは分かるが、プライヴェートは余りに明かさない。
希望ヶ浜怪異譚とは何か。
うつしよはこう言った。『誰が始めたんでしょ』と。
イレギュラーズははた、と思い返して頂きたい。
そもそも、語り部が居なければ『真性怪異』に等とどの様にして出会えるか。
水夜子は信頼できない語り部だ。何故か、それは彼女が全容を知らないからである。
ならば? 音呂木神社の巫女であり、訳知り顔で飄々と動き回るひよのはどうだろうか。
真性怪異に嫌われて、その神域に入り込む事の出来ない『巫女』。
帰り道を示すと言いながら怪異との逢瀬をセッティングしていたのは。紛れもなく。
「ひよのさん」
呼び掛ける笹木 花丸(p3p008689)を真っ直ぐ見詰めてからひよのは一歩後退した。
「パイセン……?」
ああ、今ほど『貴女がサボるタイプでよかった』と思う事は無いでしょう、茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)さん。
ひよのはじりじりと後退してから唇を震わせる。
「うつしよ――」
それから。
それから、彼女が姿を消した。否、『隠れた』と言うべきだろうか。
●希望ヶ浜怪異譚
「書物によれば、音呂木(おとろぎ)とは神社境内に存在している神木からとされているそうです。
『神々が神木を目指してお通りなさった』という意味合いで御路木(また、神木が天の世界に繋がっているとされお通りなさるという意味で『戸路来』)と呼ばれていたらしいですよ。それが転じ『御途路来』となり、現在の漢字が当て嵌められた、と」
澄原邸。本来ならば澄原 晴陽の居所ではあるが、病院業務が故に病院近くにマンションを一室借りた従姉に変わって澄原 水夜子が拠点としている場所である。
住民である筈の従兄――龍成も燈堂家に居候状態であるため、実質的に水夜子の『城』である。
aPhoneを一瞥し、父親からの定期的な連絡を横目で確認してから水夜子は広げた資料に向き直る。
「希望ヶ浜怪異譚。――通称を『希譚』と呼ぶそれは都市伝説を蒐集した書であると言われています。
これらは音呂木神社に蒐集され、厳重に管理されていますが……確かに……」
「ね? 我々がいないと、気付かなかったでしょう」
「ええ……どうしているんですか」
眉を揺り上げた水夜子に葛籠とこよがにこりと微笑んだ。イレギュラーズと共に現状確認が為に音呂木神社から場所を移したというのに。
にこにこと微笑んだとこよに水夜子は「とこよ先輩がいるって事は……」と呟いた。
「うちも居るわけですわ、ねえ、とこよ」
「まあね。うつしよ。ぼくたちも『安全に帰りたい』だけですから」
一方は希望ヶ浜大学の民俗学部の青年。水夜子の先輩に当たる葛籠とこよ。
もう一方はその双子の噺家をしている怪談語り部、葛籠うつしよ。
どちらも、希望ヶ浜怪異譚で度々その名を目にする作家『葛籠神璽』と同じ姓を有している。だが、彼等は「ひよのこそ正当な血筋の人間だ」と言った。ひよのがイレギュラーズを巻込まなければ、怪異譚にも様々な真性怪異にも出会うことは無かったはずだ、と。
「ひよのちゃんからすればぼくたちって嫌な存在なんですよね。
なんたって、言霊に対して縛られない上に、ひよのちゃんが『失敗』したら止める立場ですから」
「ああ、そう。そうなんよね。ひよのちゃんが『ダメ』だったらうちらが代りにならなあかん。ああ、いややなあ」
くすくすと笑うとこよとうつしよに水夜子は「失敗? ダメ?」と問うた。
「まあ、色々とねえ。
……希望ヶ浜怪異譚で怪談を蒐集していた作家は寧ろ『怪異を作り出す』方に躍起やったと思いますわ。
そりゃ、言葉を残し、誰かがそれがあると信じれば神様は作り出される。八百万の神々を信仰するこの国ならではでしょう」
「葛籠神璽という男は、そうやって怪異をさも『存在する』ように書いたのではないかとぼくらは考えて居ます。
それがね、どうやって力を帯びるか。皆のように『多数の目』に触れさせて、歪な信仰を神様という箱に入れて、再度、封印しなおすんだ」
怪異とは、神様とは、目にも見えぬ存在を『改めて定義して其れ等を封印し直す』事で管理する。
まるで、神様と呼ぶべき存在を管理しているかのような言い草だ。
それを音呂木神社が成しているというならば水夜子は「そういうこともあるのでしょうね」と納得することだろう。
「……その、失敗やダメというのは『神様を管理できる力があるかどうか』という事で良いですね?」
「さあ。まあ、それでいこうか」
「そうだとして、ひよのちゃんはどうだったんでしょうね。
ひよのちゃんは巫女なのに、神様のお告げを『破って』まで何かをしようとしてたとしたら? 神様は、どうするでしょう」
当然、怒ることだろう。
水夜子はいまいち『聞きたい答えをくれない』2人を見詰めながら肩を竦めた。
「それで――『無事に帰る』とは?」
「よくぞ聞いてくれました! さ、さ、扉を開けて」
ぐいぐいと水夜子の背を押したうつしよがにんまりと笑う。
澄原邸の外には異界が広がっていた。
悍ましい景色そのものだ。
夕焼け空に染まった道は行き止まりが多く、標識が無数に建てられている。
水夜子は「え?」と呟いてから一歩だけ足を踏み出し――背後で扉が閉まる音がした。
「飲まれてしまったみたいですなあ、みゃーこちゃん。うちらも同じや。
さ、帰り道を探しましょか。『皆が語った怪異』も『皆が経験した物語』も、神様はまだ全て平らげてはらへんものね。
この間に出てしまわな……どうやって人間は人間の意識を保ってられるんでしょ」
●澄原水夜子
澄原水夜子と言う娘は歪な精神性を有している。
澄原の家に生まれたが、所詮は『親戚』と呼ぶ立場である。父には「彼女を支えなさい」と常に従姉の名を上げられていた。
才女として持て囃された彼女は常に学ぶ姿勢を崩さず、水夜子から見ても『努力の人』であった。それと同時に『私にはなれっこない存在』であったのは確かだ。
彼女の近くで俯いている『弟』の方が寧ろ親近感はあった。日の当たる場所で姉と比べられる彼が不憫だが、近しい親戚であっても彼が居るからこそ水夜子がとやかく他者に言われることはなかった。
(晴陽姉さんがもしも、実の姉なら私は仲良くはなれっこないだろうな)
それだけ完璧な人だった。あの人の手伝いをしろと言い付けられ、教育されてきた水夜子は「この人をどう支えろというのだ」と幼い頃から思い続けていた。
ああ、そうだ。女だったから悪かったのだ。
もしも、自分が男だったなら。きっとあの人の隣に立つようにと教育されただろう。
婚約者として名を上げられた『可哀想な夜善お兄さん』は全く以て気にしてなかったが、もしも、自分がその立場だったら何れだけ苦しかったか――それだけ、澄原水夜子は澄原晴陽という女には敵いっ子なかったのだ。
(寧ろ、龍君と私は似ているのかも知れませんね。利用価値がなくなったガラクタだったのかも。
……私の反抗期は未だ未だずっと続いている。父が、従姉が『私の役割』として怪異を追うことを与えてくれたのなら――)
いっそ、それらに殺されてしまえば己の存在は必要なものだったとでも教えてくれるのだろうか。
実にバカみたいな話だ。
教育熱心な父におっとりとしたお嬢様育ちの母。兄弟と呼べる存在は居らず、従姉兄の背中ばかりを追い掛けて過すことを強いられた幼少時代。
だからこそ、夜妖という非日常を前にしたときの自分は『それらから逃れられるような気がして』自由だった。
――ああ、姉さん。私ってね、姉さんのことが大好きだけど、大嫌いなんです。
私って、誰にでも好かれて、誰にでも愛されて、誰とでも仲良く出来る女の子じゃなきゃ『利用価値』がないんですよ。
姉さんみたいに人を拒絶していたのに理解しようと手を伸ばすことも出来ないし。
龍くんみたいに欲しがり屋さんにだってなれないし。
……打算で近付いたくせに2人を大切に思っちゃった私はね、それでも『澄原』から逃げたかったのでしょうね。
いっそ、『怪異に取り殺されたって』良いくらい。それに焦がれていたの。
あーあ、怪異に囲まれて暮らしている。羨ましいな、ひよのさん。
「ぃ――――、」
水夜子の唇が震えた。目の前には父の幻影があった。
「ど――して」
かたかたと歯列が鳴った。貴方がいるような場所ではないでしょう?
これが『この空間が見せている幻影』だというならば趣味が悪い。
「違う。私は、もっと、呪われていたいのに。怪異がいい。あれなら現実から離れさせてくれる。だから――」
水夜子は一歩後退してから振り向いた。
「ひよ、の……さん?」
其処に立っているように見えた音呂木の巫女の姿は直ぐに掻き消えた。
鈴の音がする。蹲ってから水夜子は胃の中身を吐出した。ああ、馬鹿みたい。
『選ばれなかったら、何者にもなれないことくらい、ずっとずっと、ずっと昔から知ってたくせに――

- <希譚>語べ部に非ず冒険中
- [注:繙読後、突然に誰かに呼ばれたとしても決して応えないでください。]
- GM名夏あかね
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 出発日時2023年09月26日 23時59分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
冒険中です。結果をお待ちください。
GMコメント
どちら様もご興味在りましたら、一緒にお気軽に呪われましょう。
●希譚とは?
それは希望ヶ浜に古くから伝わっている都市伝説を蒐集した一冊の書です。
実在しているのかさえも『都市伝説』であるこの書には様々な物語が綴られています。
例えば、『石神地区に住まう神様の話』。例えば、『逢坂地区の離島の伝承』。
そうした一連の『都市伝説』を集約したシリーズとなります。
前後を知らなくともお楽しみ頂けますが、もしも気になるなあと言った場合は、各種報告書(リプレイ)や特設ページをごご覧下さいませ。雰囲気を更に感じて頂けるかと思います。
[注:繙読後、突然に誰かに呼ばれたとしても決して応えないでください。]
[注:繙読後、何かの気配を感じたとしても決して振り向かないで下さい。]
●音呂木神社
希望ヶ浜では良く知られる神社です。音呂木の神域は皆さんにとって決して悪いものではない……筈ですが、今日は様子が違います。
●希望ヶ浜市街?
澄原邸から出ようとするとどうやら道が可笑しいようです。行き止まりが多く、目的地である『希望ヶ浜学園』まで辿り着けません。
どうやら何らかの異世界に迷い混んでしまったようです。
水夜子はこういう時のお約束を口にしています。
一つ、何かに声を掛けられても決して振り返らない事。一つ、何かを持ち帰らないこと。一つ、……分かり合わないこと。
夜妖(ザコと呼びます)なども右往左往しているようです。それらは攻撃でなんとなかりそうですが。
どうにも『何ともならなさそうな』ものも動き回っています。本能的に危険を察知出来るでしょう。迷わず逃げてください。
このシナリオはある意味『ホラーハウスをどうやって抜け出すか』といったシナリオであります。
『タムケノカミ』が歩き回っています。何故かは分かりません。ひよのが居そうな気がします。何故かは分かりません。
分からないことが多い理由がただ一つございます。
『ここがどこなのか』を誰も分からないからです。この空間では気になることを為ても良いでしょう。とこよ&うつしよは水夜子と一緒に居ます。気になることがあれば話を聞いてみても良いでしょう。
希望ヶ浜なのでしょうか? 珍しく公衆電話があります。ずっと電話が鳴っているようですが……。
何か落ちています。これはなんでしょう。パズル? あれ、人形も落ちているな。
怪異のパラダイスです。駅も近くにあるようですが、近付きたくはありませんね。あ、あそこに誰かの定期券が落ちている。
●怪異
★『特に印象的だったシナリオ』『怖かった話』など、PCの印象に残っていた物語がこの中では歪な怪異として毀れ落ちて存在している事があります。プレイングではそうした物に触れてみるのも良いでしょう。
★タムケノカミ始め、『これまでの希望ヶ浜怪異譚』などの怪異の姿も見受けられる気がします。お嬢さんだ、アリエ様だ、蕃茄ちゃん……?
★『言霊』(怪異)が居るようです。あれは危険ですね。逃げましょう。
・タムケノカミ
再現性東京202X街『希望ヶ浜』地区に存在するとされている悪性怪異。
水夜子曰く「希望ヶ浜怪異譚にすこしばかり記載されている怪異の一種」
旅人の安全を護り、旅の安全を祈るが為に道端に存在しているとされたみちの神の一種であるとされ、正確な名前は判明していない。
葛籠 神璽曰くは音呂木家に縁が深く、『音呂木』より旅立つもの見守っていた存在であろうと考えられているらしい。
・真性怪異(用語説明)
人の手によって斃すことの出来ない存在。つまりは『神』や『幽霊』等の神霊的存在。人知及ばぬ者とされています。
神仏や霊魂などの超自然的存在のことを指し示し、特異運命座標の力を駆使したとて、その影響に対しては抗うことが出来ない存在のことです。
つまり、『逢った』なら逃げるが勝ち。大体は呪いという結果で未来に何らかの影響を及ぼします。触らぬ神に祟りなし。触り(調査)に行きます。
●NPC
・音呂木ひよの
音呂木神社の巫女。真性怪異に嫌われる為、他の怪異とは同居できないタイプです。
その理由も『音呂木の神様』の加護を持っているからだそうですが……。
イレギュラーズの『先輩』。実年齢は不詳。真性怪異及び悪性怪異の専門家。
神事の奉仕、及び神職の補佐役を担っていますが、希望ヶ浜学園の学生及びアドバイザーとしての立場が強いようです。
『この』希望ヶ浜市街ではひよのが居るような気がしますが……。
ほら、鈴の音がする――
・澄原水夜子
澄原病院のフィールドワーカー。明るく元気な前のめり系民俗学専攻ガール。
基本、怪異に突貫していきます。澄原と名乗っていますが晴陽/龍成の姉弟とは従姉の間柄になります。
父親に晴陽に取り入ってある程度良い地位において貰うようにと幼少期から厳しく躾けられました。言われるが儘に育ちました。ある意味で後ろ暗い過去やら、良いとは言えない生育環境で育っていますが彼女自身は明るく振る舞っています。
――そうじゃなきゃ、嫌われちゃうでしょ?
うつしよの悪戯で異世界空間に放り込まれています。今は何処かで蹲っているようですが……。
・真城 祀
水夜子の保護者なのかひょこりと顔を出しました。意気揚々とやって来ては水夜子の調査を邪魔しているようです。
・葛籠 うつしよ
怪談の噺家。とこよの双子の妹。音呂木の縁者を名乗っており、ひよのもそれを否定していません。
水夜子にとっても知り合いのようですが……。
「うちは別に敵やありません。だって、敵や味方なんてそんな分類、神様の前では大した意味さえ持ちません。
ひよのちゃんからすりゃ、うちは敵かもしれませんけどね。そんなん女の子のちょーっとした気紛れみたいなもんですやろ?」
カラカラと笑う彼女は、何か知っているようですが……。
・葛籠 とこよ
希望ヶ浜大学民俗学部に所属している青年。水夜子の先輩でうつしよの双子の兄です。
ひよのはとこよを嫌っている様子です。ですが、数年に一度だけ『音呂木神社』に入れるため、やって来ました。
夜妖憑きであり、つちぐもが憑いているのではないかと水夜子は推測しています。『希望ヶ浜怪異譚』についても詳しいようですが……。
・葛籠 神璽
希望ヶ浜怪異譚と呼ばれる都市伝説を蒐集した一冊の書です。その作家、エッセイスト。著書多数。
●Danger!
当シナリオには『そうそう無いはずですが』パンドラ残量に拠らない死亡判定、又は、『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
Tweet