シナリオ詳細
<渦巻く因果>大樹の恵みと小さな魔法使い
オープニング
●魔法使いマナセ
「――で、どうしてご指名なんだ?」
不思議そうな表情を見せたクロバ・フユツキ(p3p000145)にフランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)は「それはだって、深緑と言えば、だからじゃない?」と問うた。
リュミエ・フル・フォーレと親交のあるクロバと、石花病という難治性の病の治療を探りアンテローゼ大聖堂にも訪れるアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)を彼女はマナセの前へと連れて遣ってきた。
「ええと、君がマナセ君?」
「ええ。わたしがマナセよ! よろしくね、クロバとアレクシア」
にんまりと微笑んだ少女は波打つ癖のある桃色の髪を揺らせ、嬉しそうに二人の顔を見た。
――迷宮森林に詳しい人を連れて会いに行く。
それがマナセが『魔女ファルカウ』へと告げた約束であったのだという。約束、というのもそれだけではない。
――わたくしは『森を守る』という約束だけで構いません。
そう告げたファルカウと名乗る女性。柔らかな黒髪に、萌える草木を思わせる鮮やかな瞳を有した女であった。
「マナセは、ファルカウとの約束を守るためにプーレルジールを守りたい……でいいんだよね?」
本来ならば戦わずに済む筈であった少女は自ら武器を手にするのか。それを思えばジェック・アーロン(p3p004755)は彼女にこれ以上戦いを教えるのは良いことなのかとついつい考え込んでしまうのだ。
魔法使いかお姫様になりたいと言った10歳の少女。天真爛漫で、好奇心が旺盛。ただ、勇者アイオンに出会わなければ其の儘のんびりと学士として様々な事を学び安全地帯で過ごしていけるのだろう。
「いいの」
マナセはにっこりと笑ってからジェックの手を握り締めた。
「わたしはね、きっと、こうやって誰かの力になるために魔法が使えるんだと思う。
街のみんなは、お前みたいなやつが魔法を使えるなんておかしいっていってたわ。制御もへたっぴだから、いつか人を殺すって言われた」
「マナセ……」
向き合って、手を握れば小さな少女だ。掌は柔らかく、指先の力だって弱々しい。
それでも彼女は一人で此処までやってきた。未知を求めて、自らの運命に引き寄せられるようにやってきたのだ。
「キミならできる。側にいる、力になるよ」
「えへへ、ありがとう!」
にんまりと微笑んだマナセに「うんうん、うおー! がんばろうね!」とスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が拳を振り上げた。
『わん!』(はい!)
「どうやらポメ太郎もマナセを応援しているらしいな」
頷いたベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の足元ではポメ太郎がぐるぐると回っている。楽しげなその様子に目を細めてからマナセは「ポメ太郎、おいで」と呼んだ。
「はい、ぎゅ。あったかい」
『わん』
「あなたは無理しちゃ駄目よ。だって、こんなにあんよが小さくって、もふもふなんだもの。
汚れちゃったらブラッシングしてあげるけど、もし、とっても強い敵が来たら隠れて頂戴。巻込んでちりちりにしたくないから」
「マナセさんは魔法の制御を覚えるところからかな……」
スティアは彼女の魔術が『素晴らしいもの』であることは分かる。だが、幼さ故に制御出来ていないことは問題なのだ。
「マナセ君は古語魔法が使えるんだったね。それで、その魔導書がファルカウのものだとも読み解けたって聞いているよ」
「ええ。アレクシアはフランツェルと一緒にその研究もしてたんでしょう?
なら、何か気になることはある? ファルカウに相談しに行く無いようも、まとめておかないといけないとおもうの!」
聞きたいことがあれば、これで少しは教えてくれるはずだとマナセは言った。
ファルカウの提示した森を守るという条件を此れで満たせるはずだ。
(そもそも、『ファルカウ』という魔女が何者か――という話ではあるが……いや、もしかしてこの時代にリュミエが居る可能性もある、のか……?)
クロバは悩ましげに顎を擦ってから「ファルカウは何を知っていると思う?」とマナセとフランツェルに聞いた。
「大樹の成り立ちや、石花病とは何か……を知っているのでは無いかしら。
リュミエ様がファルカウから離れられない理由だってもしかすれば彼女は知っているかも知れない」
「みんなは迷宮森林の大樹をファルカウと呼んでいるわ。どうして同じ名前なのか、それも何かのヒントかも。
あーん、考えることがいっぱい! どうしましょう。ベネディクト、わたしとポメ太郎におやつを頂戴!」
頭を抱えたマナセの肩がぴくりと動いた。瞬時に魔力が展開されていく。
「マナセ」とベネディクトが呼べば、彼女は遠方に見えたゼロ・クールを睨め付けていた。
「やな気配」
彼女は本能的に何かを察知したか、それとも強い魔力を有するが故に『それを察知』出来たのかは分からない。
無数のアンデットと、そして木々の気配をさせる滅びの化身の姿がある。
其れ等を引連れているのは弓を手にしたゼロ・クールだ。穏やかな雰囲気を有しギャルリ・ド・プリエでも見かけることのある彼女は――
「メル・ティル……?」
ジェックがぽつりと呟いた。スティアは「あの子、回廊に居たゼロ・クールだよね?」と不思議そうに呟く。
「如何にも」
メル・ティルの唇が動いた。
「この体はメル・ティルというゼロ・クールのものである。夜が来る前に姿を見せるのはちと、厳しいがそうと言ってはいれぬか。
改めて、貴殿等に向き合おう。
某めはダルギーズと申す。栄えある四天王が末席を許されし一つの剣士――その慣れ果てにござる。
……生憎、この人形は弓使い。『本領』を発揮することは出来ぬが……武器を選んでいては戦士の名折れよ。
死してなお主命をお守りせんがため、何人たりともここを通す訳には参らぬ。異世界より来たりし志士よ、いざ尋常にお覚悟を」
普段はおどおどと、おっとりと喋っていたはずのゼロ・クールがくつくつと喉を鳴らす。
無数のアンデットが前へと向かう。
「まって、怖い!」
マナセが叫んだ。
「えっ、きもい!」
「マナセさん、そういう事を言っている場合じゃなくって」
「あ、ちがうわよ。アンデットじゃないわ! あの後ろに居るもやもやした虎みたいなの。
『ファルカウのマナ』に良く似ててきもい! よ、良く分からないけど、ファルカウはこれを倒して欲しかったのかしら!?」
マナセが杖を握り締めてから前線を睨め付けた。
「何か良く分からないけど、おまえはなにがほしいの! 言いなさい! ダンゴーズ!」
「ダルギーズである」
「ダ、ダルギーズ!」
マナセが視線を逸らした。もしかすると余り話を聞いていなかったのかも知れない。
「目的……そうであるな……。一つ、貴殿の持つファルカウの魔導書である。そしてもう一つは……これ以上は何も言うまい。
全ては我らが主君、イルドゼギア様の為!」
「ぼやかすなーーー!!」
マナセが叫んだ後「ベネディクト、でんこうせっか!」と叫んだ。
「マナセ……」
「うう……た、戦いましょう!」
一先ず――彼等を此処で止めねばならない。ファルカウの事だって、何だって。
魔法使いは大忙しなのだ。
- <渦巻く因果>大樹の恵みと小さな魔法使い完了
- GM名夏あかね
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年09月30日 22時06分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
明るく、好奇心旺盛な10歳の少女。魔法使い『マナセ』。
後世においては勇者王の伝説にその名を連ねる魔法の原点ともされている天才である。
ただ、その過ぎた才能は片田舎では孤独となり、勇者アイオンに連れ出されるまでは俯いて歩いていたという彼女。
「ぎゃあああああ!? 何かやばめのが来たーー!」
――の、片鱗は何処にもないレベルで騒がしかった。
「マナセ」
呼び掛ける『冠位狙撃者』ジェック・アーロン(p3p004755)はアンデッドを指差して「こわい!」と叫んだマナセの背を撫でる。
「マナセ、一度深呼吸」
「すうっはあああああ」
「そう。じゃ、行こっか、魔法使いさん」
幼く、まだまだ発展途上の魔法使い。世間知らずで人懐っこい彼女。慌てた様子で「でんこうせっか!」と『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)に指示をする彼女はジェックのお陰で得た落ち着きを胸に恐る恐ると振り返った。
「済まんな、マナセ。でんこうせっかは俺には難しい」
「うえーん、そうよね。ごめんなさい!」
「だが、一息で幾らかの動きを繰り出す事は出来る。俺達と君の力で奴らのこの場から退けよう。出来るか?」
マナセの瞳がきらりと光った。勿論だとも。自信を得られるほどの実力があるわけでも、経験があるわけでもない。
ただ、イレギュラーズ達との砂漠の国の冒険がマナセという少女に希望を与えたのだ。
「わんわん」と鳴いたポメ太郎はマナセの直ぐ後ろにいた。頑張って下さいと応援してくれる可愛らしいポメラニアンを抱き上げてから「重たいポメ太郎」とマナセはもふもふと毛並みを堪能する。
「行ってくるわ! ポメ太郎、終ったらご飯食べましょうね! おやつ! ね!」
スティッキに魔力を宿す。桃色の髪がはためいて、すうと息を吐出したマナセの瞳が鮮やかに光を帯びた。
――わたしはね、きっと、こうやって誰かの力になるために魔法が使えるんだと思う。
『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)はマナセの名を呼んだ。
「そう考えられるというのはとても素敵なことだと思います。
自分が出来ることと、やりたいことが、折角一致しているのですから……マナセさんにはもっと自信を持って頂きたいですねぇ」
「ふふ、コレに勝てたらわたしって天才かもって自惚れて良いかしら?」
「ええ、勿論」
揶揄うように笑ってから「では『ダンゴーズ』……ではなくダルギーズとアンデッドを倒しましょう」とナイフを手にした。
この世界では勇者王アイオンの仲間ではなくただのマナセ個人として自由に伸び伸びと走り回ることが出来るのだから。
明るく笑った彼女の名に聞き覚えがあって、どうしようもなく足を止めてしまうのはアルティオ=エルムに縁在る者達だった。
「『ファルカウ』という名前の魔女……『森を守る』……
それにマナセ君ってやっぱりこっちの世界での……気になることは色々あるけど、まずは目の前のことをなんとかしないとね!」
首を振った『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)に『滅刃の死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)は頷いた。
「知りたい事は沢山ある。だがその為に、ここにいるマナセや俺達の邪魔だ。もれなく乱暴にお引き取り願うとしようか――!」
ぎらりと睨め付けたクロバの言葉に反応したのは何故かマナセだった。
「乱暴に! お取引を願うのね! それ気に入ったわ。やいやい、ダンゴーズ! もれなく乱暴にお取引願うんだから!」
呆気にとられた様子でちらりとマナセを見たクロバはその幼い少女の笑みに肩を竦めた。なんとも気が抜けてしまう相手だ。
『骸騎将』ダルギーズの周辺から土が盛り上がりアンデッド達が姿を見せ始める。あちらもこちらも準備段階と言うべきか。
「ファルカウって美人らしいと聞いて!」
「確かに美人だったわ」
「……うそうそ。だってお師匠が行くって聞いたからね。弟子としては、ついてかないわけにはいかないでしょ?
ま、森を荒らすなら放っておけないしねぇ。ネクロマンサー? 的な感じなら、夜が近づくほど危ないかもしれない。さっさと倒すに限るさね」
揶揄い笑った『発展途上の娘』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は普通に「美人だった」と頷くマナセの様子をまじまじと見詰めていた。
もしも、彼女に危害を加えられる可能性があるならば彼女の事を守ってやらねばならない。
此れだけ明るく、自信満々に振る舞えど彼女は未だに幼い子供なのだ。良い大人になれるかどうかも、使命がなにかなんてまるっきり関係ない。
「マナセ、いこう」
光のように魔力が杖に集まった。シキはその鮮やかさが何よりも美しい物に見えた。
●
少女は10歳になったばかりだった。だからこそ『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)の記憶にあるマナセとは懸け離れているのだ。
妖精郷を襲った冬。冬の王の封印術式を駆使し、自らを賭してでも封印しようと行使した彼女はその封印を失敗した。
(……封印の維持に妖精女王の生命を削り続ける封印道具を作った人のイフ……。
複雑な気分だが逆に言えばあの封印術の一端を知れるチャンスかも知れない……知らなければ……。
いや、知ってても対処出来なかったが……無知は愚か物だからな……知らねば)
マナセを見るが、現在のマナセはその封印術を知らない。マナセがあの時駆使した封印術とは勇者王パーティーの一人であった封印術の遣い手フィナリィを真似てのものなのだ。
今現在、此処に居る彼女は攻撃魔法の遣い手である幼い娘だ。
「というかファルカウ見つかったのか!? なら昔の深緑の冒険したいものだ」
「え!? 人間をどうやって冒険するの!?」
「……」
「……?」
ファルカウとは、魔女個人の名前であるとマナセは認識している。サイズは幼い少女との話が噛み合っていなかったことにぱちくりと瞬いて首を振った。
どうにも調子の狂う相手だ。言葉を真っ向から捉える所があるのだろう。
『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115)は思わず笑ってから言った。
迷宮森林と呼ばれる場所はプーレルジールには存在して居る。サイズが調べたいと考えて居た妖精郷とはある意味で混沌世界に漂着した精霊達の住まいであり妖精と名乗る彼女達も精霊種そのものだ。
この世界でもあると言い続ければ世界がそう認知して『ある』かもしれないが、冬が鎖し絶滅することは避けられないだろう。ある意味、何処かで常春が幸福に存在して居ると考えた方が良いはずである。
「ですが、妖精郷は私にとって必要不可欠な存在です。
魔女ファルカウ。世界は違えど、深緑の、妖精郷での出会いがあったから、”ワタシ”は”私”を確立できました。
その御恩を直接返せるというのなら、この場を借りて、尽力させていただきます」
『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)は静かに息を吐出してから扇情を俯瞰する鳥を宙へと踊らせた。アンデッド達とは遠く離れた場所に羽ばたかせた存在である。秘やかに地を走る獣はこっそりと林の中にも隠した。
「迷宮森林に入るのはオススメしかねるわね」
「どうして?」
「迷う出る事は出来なくなると思うし、最悪、幻想種に骨を折られる」
――小枝を折ったら腕を折れ。
そんな恐ろしい場所だった。フランツェルの言葉を聞きながら『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は「なんとも」と呟いた。
「うーん、それにしたって、今はダンゴーズ!」
「ダルギーズですね」
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)にスティアは「ががーん! マナセさんに釣られちゃった!」と口を押さえた。
「死んでても忠義を尽くそうとするなんて……魔王って意外と人望があるのかな?
とはいえ、勝手に体を使うのはどうかと思うな。すぐに追い出して助けないと!」
「ええ。……『骸騎将』ダルギーズ。『魔王』配下の四天王か……。
狙いが明確にファルカウの書……そしてあの謎の気配の塊。大樹の嘆きだとして、魔王配下を攻撃しないのなら……。
あれを調べる事は、今、かの場所で何が起きているかの手掛かりになりそうですね。『魔女ファルカウ』の意図を知る意味でも、欠かせない情報でしょう」
アリシスは呟いてから、ふと、考える。大樹の嘆きが魔王は以下を攻撃していないならばそれが同等の存在なのか。
それがこの世界に留まる話であるのかは定かではないのだ。
(何にせよ気になる話ではありますね。この場所に何が起きているのか――)
思考を一度止めたのはダルギーズの精神が『中に入っている』ゼロ・クールの唇が吊り上がったからであった。
「始めよう、イレギュラーズよ」
弓を番えたゼロ・クールをぎらりと睨め付けてからグリーフが前線へと飛び込んでいく。秘宝種の体は『究極の宝』のようにも思わせた。そのルビーの煌めきが何よりも鮮烈にアンデッド達を寄せ付ける。
ずんずんと前へと進むグリーフが展開したのは二枚の障壁だった。アンデッドを相手取らんとするグリーフを見てからマナセが「グリーフ! それおばけよ、気をつけて!」と後方で拳を振り上げて叫ぶ。
「大丈夫です。倒しましょう」
「うーん、おばけとアンデットは違うような!? でも、ダルギーズにまで近付かないとね! 行こう!」
ダルギーズへと魔力を叩き付けようとするがその行く手をアンデット達が阻む。ならばと、スティアが鳴らす福音の音色にアンデッド達は顔を上げた。
グリーフと共に連携し、鉄壁の護りを見せるという見た目は嫋やかな少女。マナセは何故かスティアには「おばけだから気をつけて」とは言わなかった。
「スティアって、オバケビンタで祓いそうね」
「……うん、マナセくんって結構言うね」
アレクシアは思わず笑った。奇妙な虎の姿をした『形容しがたいモンスター』達を一瞥してからアンデッドへと向けて眩い光を放つ。
相手は此方の出方を確認しているのだろうか。其れ等が何であるのかは定かではない。マナセを守るように立つサイズは「あれは何か分かる?」と問うた。
「分からないけど、わたしは嫌いなものじゃないの。それがいやね」
「……嫌いなものじゃない、か」
誰もがあの存在に森乃気配を感じている。鮮やかな深き森――それを宿すのは大樹の意志が作り出した存在そのものだろうか。
何にせよ、アンデットとダルギーズを排さねば全てを識る事は出来ないか。
「こうも容易くアンデッドを使役できているというならば、貴方がダルギーズであることは疑う余地もないのでしょう。
ですが、四天王……ダルギーズが他人の身体を使っている、というのが気になります」
アリシスはアンデッドへと浄罪の秘蹟を持って神罰を降しながら後方で弓を構えたダルギーズを眺めた。弓が雨の如く降り注ぐ。相対するジェックの弾丸は矢にぶつかり奇妙な音を立てて居る。
「……マナセ、何かあったら教えて」
「うん。ジェックも、気になることがあったら言ってね」
気になること――それがダルギーズそのものだとは言いようがなかった。あの体の元となったゼロ・クールは『知っている』存在だったのだから。
メル・ティルと名付けられたゼロ・クールがダルギーズに体を乗っ取られて動いている。それを呪縛と呼べば、それらから引き離すことは出来るのか。
「……ダルギーズだけじゃない。ル=アディンもゼロ・クールに憑りついている様子だった。
四天王ってまさかみんな精神体なの? 『混沌』では既に斃された存在とはいえ、プレールジールでは違う筈、健在である筈なのに」
「いえ……こうも考えられる。
四天王の素性と出自はイルドゼギア以上に情報が無いものの、魔王のように旅人ではないなら本人が存在していてもおかしくは無い……のですが。
エピトゥシ城には確か彼らの複製体が多数存在していた
……魔王共々複製体を予備の器とする心算であったのなら、博士の様に魂を別の器に移す手段を持っていたのでしょうが……或いは、彼らは初めからそういう存在だったのか?」
もしくは――混沌世界と、その存在そのものが全て違っているのか、だ。
ジェックは「四天王が『そう』なら……魔王も?」と問うた。アリシスは其処までは分からないがダルギーズから聞き出すことが出来ればと前方を睨め付ける。
でんこうせっか、の代わりに、アンデッドへと向けて槍の一撃を叩き付けたベネディクト。狼の唸り声の如く、地へと叩きつけられるその衝撃にマナセが目を細めてから「負けてられない」とうずうずと身を揺れ動かした。
「マナセ、無理は禁物だ。だが、魔法の神髄を見せてみろ」
「任せて。最近はね、出力の仕方を――チョットダケ――覚えたのよ」
些か不安だとベネディクトは眉を寄せた。マナセが杖を握り締め、唇を動かす。それは呪文だろうか、アレクシアは僅かな文字列からフランツェルと共に嘗て呼んだことのある古語の一部分が含まれていることに気付いた。
「せーーの! どーーん!」
雷が天より落ちる。出力は大きすぎるほどではあるが、その火力は絞ったのだろう。「私は構いませんが巻き込みには注意をなさってくださいね」とグリーフは言った。
数が数だ。相手も相手だ。巻込まれても構わない、マナセも心配せずに、とは告げて居たが思い切りが良すぎればグリーフ以外を巻込む可能性がある。
「きゃーー!? どうしましょう!」とマナセは慌てた様子でサイズの腕を掴んだ。
「わたしが仲間を壊す!?」
「だ、大丈夫だと思う」
「ジェ、ジェック~~~! わたしがスティアを殺したとしても友達で居てね!」
「うん。殺さないでね」
ジェックはあわてんぼうの魔法使いに小さく笑ってから再度引き金を引いた。メル・ティルを救いたい――只、その為にはダルギーズそのものの在り方について理解しなくてはならないのだろうから。
●
「在るべき輪廻に還れ亡者よ、葬り人が必要なら任されてやるさ!」
前線へと飛び込むクロバは漆黒のガンブレードを分離させた。刀と銃剣による二刀流にて無数のアンデッドに2度目の眠りを与え続ける。
森が害される。その事をクロバは何よりも許せずに居た。紅に煌めく刃は憎悪ではない。ただ、あの嫋やかな女が愛するこの森を守りたいが為であった。
「ダルギーズさんは主の命で誰も通さないと。つまり、森の中心にはすでにあちらの手がということでしょう」
「……ああ、森が害されている可能性はある」
眉を顰めるクロバにグリーフは「深緑を保護する戦いには慣れています」と頷いた。そうしてから頭に過ったのは『灰燼の道』だった。
アルティオ=エルムの茨を払い除けるために木々が燃えた。その炎を思い出すだけでも心は痛むのだ。
「ねえ、サイズ」
「……何か?」
隣に居るからか、マナセはサイズに「森燃えたの?」とイレギュラーズの話す言葉の一つ一つを確かめるように問い掛けてくる。
彼女の問い掛けに「ああ、まあ」や「そうだな」と疑問を答えながらも、仲間達を巻込まぬように用途不明ユニットを駆使してアンデッド達を退ける。
その結果がアレクシアが前にした『謎の存在』なのか。あれは恐らくは大樹の嘆きだ。
ダルギーズの様子を見ていたのだろうそれらは一様に動き出す。
「森のことは、森の魔女にお任せあれ!さあ、かかってきなさい!」
――ならば、一気に引き寄せるのみだ。紅色の魔力は鮮やかに光を湛え花開く。
(……大樹の嘆きに似たものなら、同じような感情が読み取れるはず……。
ただ、もしこれが同じく大樹の嘆きだとしても、あれは『森の防衛機能』のはず……。
それがこうして滅びの気配を漂わせているということは、この世界の迷宮森林は……すでに危機に瀕している?
魔女ファルカウが『森を守って欲しい』といったのもそのため?)
アレクシアは眉を顰めた。感じられる気配は全てが嘆き苦しむものが多いが悍ましい気配さえもさせていた。
森は最早、滅びに触れてしまったのだろうか。これらが『防衛機能』ではなく何らかの意志で動いていたならば?
「フランさん」
「……もし、ファルカウが『滅びに面していた』なら、それらは滅びのアークの意志で動くかも、しれないわ」
「……そう、だよね」
きっと、これがそうなのだとアレクシアは痛ましげに眉を寄せる。
マナセに向かってくる可能性があることを考えて、その傍に立っていたシキは「マナセ、気をつけてね」と告げた。
彼方がマナセの手にした書を目的とするからこその戦術だ。アレクシアが相手にする『大樹の嘆き』に類似した存在とて、皆、マナセを狙っていたからだ。
「その体、借り物だよね? ダルギーズ」
「ならば?」
「返して欲しい」
真っ向から睨め付けて、シキはそう告げた。まるで大樹の嘆きがダルギーズを守るかのようだとアレクシアは感じていた。
眉を顰めたアレクシアにスティアは「どうしてだろうね」と問う。
「森は私達の敵なの?」とシキは問うた。応えが出ないままアレクシアは「今はマナセ君を守るだけだね」と再度、決意する。
アンデット達を前にして自由に空を飛ぶチェレンチィは捉え所のない戦術を展開していた。
地を蹴って跳ね上がったチェレンチィと入れ替わるようにベネディクトが鋭い一撃を放つ。
アンデッドの呻き声、ただ、それらが痛みを訴えないだけ『まし』とでも思うべきか。幾分か人を殺すという罪悪感から解放され――マナセの前で『人の命を奪う』場面を見せなくて良くなる。
(――と、言うのも勝手な話なのだろうか)
屹度彼女は誰かの命を失う場面だって見てきたことだろう。それでも、この場の彼女にそう言った場面を見せることを厭うのは誰もが同じだった。
「他者の身体を乗っ取って使う等、まるで寄生型終焉獣のようですね。貴方自身の身体は無いのですか、『骸騎将』ダルギーズ?」
問うたアリシスに一瞬だけダルギーズの鋭い視線が投げ掛けられた気がした。はっとした様子でスティアが頷く。
どうやらアリシスのその問いかけは『正解』なのだ。
「連れてる虎っぽいのはどうやって呼び出したの?
今、迷宮森林で何かやろうとしてたりするのかな? 少なくても良いことではないよね?」
「某が成したのではない」
それがある意味での答えである。スティアはダルギーズに肉薄し、その動きを阻むべく引付ける。炎の如く弾ける魔力と共に、蒼き光が広がっていく。
聖職者たる娘は相反する死の遣い手ダルギーズを厭う理由が存在して居る。だが、それだけではない。
否定する前に、その存在を見据えてみせるのだ。魔力が咲き誇る、それを打ち消すが為、周囲に広がった赤黒い魔力は死の気配だったか。
「ダルギーズと言ったか。四天王、その慣れの果てとも。であれば、貴様は既に死んだ存在か」
「否、某は生者よ。ただし、滅びそのものと呼ぶべきかも知れぬが」
ダルギーズは生者で蟻ながら寄生をするのだというのか。本来の四天王とは別に、それらが概念的に存在し肉を探しているならば。
自身等も出来る限りは備えた方が良いかとベネディクトはロングソードを手にしながらダルギーズを睨め付けた。
スティアが引付けるダルギーズの元へと叩き付ける。ジェックの視線に気付き頷いた。それを『壊す』事は本意では無いのだ。
メル・ティルはジェックが知るゼロ・クールだ。チェレンチィは行動の阻害を行ないながら「流石に武人ですか」と呟いた。
弓を武器としていても武人と名乗った以上は近接攻撃も特異としているのだろう。少しばかりの距離をとり、雷の気配を放つ。
後方へと下がり、チェレンチィが地を蹴って飛び上がった。速力と共にダルギーズの『体』の頬を抉る。一閃の傷からは血は溢れない。
(これがゼロ・クール――痛みもなく、傷を厭わず、ただ、戦う一線級の戦士)
それがダルギーズが得た体だというのだから、退きやしない。まるで、死者には痛みなど感じる余裕もないとでも言うかのようだ。
チェレンチィが眉を顰める。慈悲を帯びる刃の振り下ろし方に迷ったからだ。
「……どう、どう戦おう」
マナセは迷っているかのようだった。チェレンチィは「マナセさん」と呼び掛ける。
「大丈夫、戦い方は直ぐに分ります」
相手を倒してはならないならばどの様に戦うべきか。その道を示すのはイレギュラーズだ。
「マナセ、その……どう話したものかな。
なにせ、君の努力を否定はしないが俺も壊すことでしか何かを守れない男だ」
「クロバも?」
クロバは肩を竦めてから頷いた。確かに人を殺すという可能性だって拭えない。それを10歳になったばかりの少女に背負わせなくてはならないか。
両親にも、周囲の友人達にも否定されてアイオンの手を握り締めて街を出た娘。
伝承ではそれでも、母は最後には認めて送り出すために彼女に愛らしい戦装束を与えたと記述されていた。
母親からの最後のプレゼントだったのだろう。旅に出た娘が無事に帰る保証など無いからこその。それだけ過酷な日々を過ごす事となる彼女を思ってからクロバは息を吐く。
「よく頑張ってるよお前は。……思うに、夢見る何かに頑張れる少女はとても素敵だとは思うんだがな。
誰かを、そして何かを守れる魔法使い、っていいと思うぜ?」
「そうかしら? 頑張り屋さんなのは確かだけど」
唇を尖らせたマナセに強がりだとシキは笑った。マナセは固定砲台。ダルギーズも同じだ。だからこそ、マナセを庇うように立っていたシキがくるりと振り返る。
「マナセ、君は自分に自信がないみたいだけどさ。良い大人かどうかなんて、何が出来るかじゃなくて、何をしたかでしょ。
力を使って君は何がしたい? マナセはなんだって出来るよ。自分を信じれば世界だって救えるはずさ!」
シキの言葉に、マナセはクロバをもう一度見た。
ああ、だって。決まっちゃったんだもの。未来って言うのを切り拓く切欠は簡単なのだ。
「わたしは、みんなを守りたいわ! みーんな、心配になるくらい、前のめりなんだもの!」
違いないとベネディクトは笑った。最後方でマナセを見ていたジェックは「じゃあ、前のめりなアタシの我が侭聞いてくれる?」と問うた。
メル・ティル。ダルギーズが憑依している四天王だ。
確かにプリエの回廊にもプーレルジールにも詳しいメル・ティルを利用されることは避けたい。ゼロ・クールである以上『損壊』するのが一番だと分かって居る。
「ダルギーズを剥がす方法も分からないまま無責任に『助ける』とは言えない。
ここプレールジールで奇蹟が起こせるのかも分からない。ソレに頼るしかない自分も歯痒い……。
それでもやっぱり、できることならダルギーズだけを倒したい。メル・ティルを助けたいんだ」
酷く、悔しげに言った彼女に同意するように死霊を集めていたグリーフは頷いた。
「寄生型の終焉獣と同質のものなのか、あるいは別種の『乗っ取り』なのか。
他所では人の身体を乗っ取っている存在も確認されているので、それがどういった事象なのか、その存在の状態を。
解除方法があるなら、その術を、今後のためにも……もしも、あなたが寄生型の終焉獣と同じであるのならば」
引き剥がす術はあると願いたかった。核にまで至れば終焉獣が寄生した場合は破壊するしかないとも聞いている。
だが――
「ダルギーズさん。そのゼロ・クールの方は。核は。どうされましたか? 返してくださいませんか」
「此度、某は偵察に過ぎぬ。そして、貴殿らも森に危害が加わることは避けたいだろう。
なればこそだ。某は此処で退くとしよう。狙撃手の娘、引き金を引くな。魔法も許さぬ。良いな」
ぐ、と堪えるジェックの傍でマナセは魔力を湛えた杖を降ろした。アレクシアは「偵察?」と低く問う。
「……アレクシアさん」
「うん」
アレクシアはスティアに頷いた。スティアは仲間を制してから息を吐く。
「一つだけ聞くよ。此処で見逃せばその体は無事に帰ってくるの?」
「さて、保証は出来ぬが。此れだけは見せてやろう――このゼロ・クールの核にまで某は侵蝕して居らぬ。
そこの魔術師の女とゼロ・クールの娘が言うとおり某は『寄生型の終焉獣』に過ぎぬ。他の四天王とてそうだ。仮初めの体を借り受けたものの方が多いであろう」
アリシスが「成程」と呟いた。ならば、魔王とてそうである可能性があるか。
「この妙な気配……。
魔王の配下が呼び声のような気配を発している事も踏まえると、大樹の嘆きが終焉の気配に囚われ取り込まれている可能性は考えられる。
……迷宮森林が既に終焉の侵食を受けている、それも大樹の嘆きが動く程に深刻な状況にあるのかもしれない。
ならば、こそ。貴方が森を気に掛けた時点で我々はこれに考えを至らねばならない。魔女ファルカウの素性もですが、現状が気になりますね」
眉を顰めたアリシスにダルギーズは喉をクツクツとならしてから姿を掻き消した。
「ダンゴーズ!」
叫ぶマナセは「ジェック……」と呼び掛ける。必ず、彼女のために奴から奪い返すのだと、その心に決めたのだ。
●
大樹の嘆きと似た存在だという。魔女ファルカウは彼等を鎮めたかったのか、それともファルカウ自体も『そう』であるのかは定かではない。
「……言葉を交すことも出来ない程に、恨みに、苦しみに囚われているかのようでした」
眉を顰めたグリーフにアレクシアも頷く。ダルギーズを退けた今、気配を感じている。柔らかな黒髪に、緑の気配を纏わせた不思議な魔力だ。
ただ、彼女は此方に姿を表そうとはしていないのだろう。あくまでもイレギュラーズの出方を見ているようである。
「……フランツェル、俺が聞きたいのは『大樹ファルカウ』だ。その起源を知ることができたなら――と思って居る。
対価ならまた用意する。これは俺にとっても千載一遇のチャンスかもしれないんだ。なんだってするさ」
ファルカウに問いたいのはリュミエがその地から動けない理由だった。クロバの問い掛けにフランツェルは「あなたならそう聞くと思っていた」と頷く。
「ね、ねえ」
シキと手を繋いで居たマナセはクロバをまじまじと見てから不思議そうに首を傾いだ。
「どうして、あなたはリュミエって人のためにそうやって頑張るの? なんだってするって言ったもの」
「……何故か、か。深緑という地を拓いたが自身はその役目で離れられなかったり、とか……いや、単に俺が連れ出したいだけだ。
俺が一番特別に思う人に世界を見せたい、っていうのはあまりに稚拙な理由だろうか。これじゃ理由にならないか?」
「ッ―――! 素敵!」
こっそりと耳打ちをしたクロバにマナセの瞳が鮮やかに輝いた。シキの手を繋ぎ「お師匠はなんだかあれね、ロマンチックね」とマナセが頬を緩める。
「うん、お師匠はロマンチックかもね」
「うふふー」
頬を緩めたマナセを見てからスティアは「マナセさんってファルカウに対してはあんまり分からないんだよね?」とふと思い出したように問うた。
「うん。わたしはお勉強はたくさんしたけれど、迷宮森林に関しては良く分からないわ」
「なんだかね、少なくても森が滅びに向かっているのは間違いない気がするんだ。大樹の命の源が脅かされてるって感じなのかな……。
それを癒す為にはファルカウの巫女がいる? そもそも巫女ってなんなんだろうね。契約でもしたのかな?」
ファルカウの巫女とは即ち、クロバがその関係性を問うたリュミエである。マナセは「例えば、森が迷宮であるために、人柱が必要とかはあるのかもね」と言った。
「人柱……うーん、ずっと気になってたけどファルカウさんとリュミエさんって何か関係があるのかな?
姉妹だったり、血縁関係とか? 本人ではないような気がするけど……大樹と契約して変わっちゃうとかあるのかな?」
「ほら、血が似通ってるならそういうまじないにつかえるとか言うの。樹は分からないけど、魔素(マナ)って固有のものだから。
それを理解出来るかどうかって、なんていうのかしら……一番に適した血筋や才能が必要みたいな感じなのかなあ」
ならばマナセの言う通り、リュミエは偶然にも適合したのだろうか。それは『大樹』ファルカウに。魔女と同じ名の付くアルティオ=エルムの象徴に。
「うーん……。
ファルカウさんには聞きたいことは色々とあるのだけど……身体が石のように固まってしまう病気って、今のこの世界にはあるのかな……?」
石花病。それがアレクシアにとっての一番の疑問だった。
「さっきの大樹の嘆きらしきものの状態と……フランさんが以前言ってた、「私達の深緑」に根付いている石花病の根源かもしれない滅びの可能性。
合わせて考えれば、どの道この時代の迷宮森林には、色濃い滅びの可能性が潜んでいたんじゃないのかな。
それを、ファルカウさんは何かしようとしている。消し去るか……封じるか」
どの様な状況だってアレクシアはファルカウに協力すると宣言した。
眩い光が一つ落ちて、アレクシアの前に緩やかに何かを示す。
古語で描かれていたが、それには確かに『この森は滅びに面している』ことや『魔女ファルカウ自身は滅びを封じる為に生きている』と書かれていた。
(もし……もしも、未曾有の事件があって現実のファルカウも滅びを封じていたならば。
現実で、それが変質してファルカウ自体に影響を及ぼしているから石花病が波及した……?)
アレクシアは至った疑問を前に首を振ってから「ありがとう」とだけ魔力の気配を感じた方向へと告げた。
「よーし、じゃあ、マナセさんと古語魔法の復習だー! 気になることがあったら聞いてね。戦闘でのことは……そうだね、連携が大事かもだけど!
足りないのは経験のはずだからこういうのは有効な気がする! 立派な魔法使いになって貰わないといけないしね!」
「えへへ、頑張る」
スティアににんまりと笑ったマナセが手にしていたファルカウの書。サイズは見せて欲しいと頼むが、言葉自体は読むことは出来なかった。
一先ずは受け取ってから其れ等の文面を記憶しておいたが――さて、フランツェルがある程度は混沌の言葉を照らし合わせてくれる為、少しずつ読み解けばそれは魔法の指南書のようでもあった。
「……マナセは自信が無いのか」
「うん。おとうさんとおかあさんが、否定していたもの。魔法を使ってたっていい大人になれないって。お勉強しなきゃだめよって」
サイズはむ、とした。それはマナセ自身になのか、それとも彼女の生育環境になのかは分からない。
「古語魔法を使っても良い大人になれない? 超くだらない、古語魔法も普通の魔法も人を殺せる、両方ともただの力の塊だ。
良い大人の条件に使うなんて馬鹿げてる、大事なのは自分の力を知り、責任を持つ事なのにな」
「わたしには、その責任を持てないと思ってるんじゃないの?」
「……両親が?」
「ええ。だって自惚れじゃないのよ。わたし、魔法は天才だから」
教えられる人間がいないからこそ、いつかは人を殺める可能性があると言われ続けたのか。俯いてから書を抱き締めたマナセは「でも、みんななら教えてくれる気がするの」と決意したように呟いた。
わんわんと鳴き声を上げながらポメ太郎はマナセのまわりをぐるぐると回っていた。
怪我をしていませんか? 大丈夫ですか? 痛いところはありませんか?
まるで『兄』のように振る舞ってみせるポメ太郎を前にしてからマナセは「大丈夫」とポメ太郎を抱き上げる。
「ポメ太郎も怪我してない? 大丈夫?」
わんを鳴いてから尾を揺らすポメ太郎をぎゅうと抱き締めてから「ならよかった!」と笑った。
「マナセ」
ベネディクトは重たいと呟くマナセからポメ太郎を受け取ってから視線を合わせるように膝を付く。身を乗り出したポメ太郎が「マナセさんは我慢してませんか!?」と前足をしゃかしゃかと動かし居てることに気付いて小さく笑った。
「どうだ、少しは魔法を使う事に自信がついたか?」
「……うん。ちょっとだけ、だけど」
戦うことで誰かを護れることが良いことだと告げてくれた人が居た。それだけでも嬉しいのだとマナセは呟く。
「ちょっと、か。少なくとも、今日。マナセは俺達とポメ太郎や森を守った。それじゃ駄目かな?」
「あ、でもね、それだったら、うん。ポメ太郎を護れたことはとっても嬉しいわ!」
マナセはにっこりと微笑んでから友人となったポメ太郎に「ねー?」と目線wの合せて笑みを浮かべたのであった。
(ここはプーレルジール、IFの世界で、ボクがウェズに教えてもらった『勇者王の物語』の彼らとは違いますが――)
それでも、目の前に立っている魔法使いは等身大の少女だった。
明るく朗らかに笑う姿も、魔法の出力を間違えたと慌てる存在も。何処からどう見たって、彼女は普通の女の子だ。
「折角こうして出逢えた縁ですから、ほんの少しでも力になれたのなら、光栄な――いえ、その……嬉しいなと思うのです」
「えへへ、わたしも嬉しいわ。よろしくね、チェレンチィ」
これから何が起こるのかは分からない。大樹の嘆きも――この世界も。
それでも、共に進むことは出来る筈だから。チェレンチィは微笑んだマナセに大きく頷いた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。マナセの中でのイレギュラーズは戦いの先輩であり、信頼できる仲間なのでしょう。
これからも仲良くして上げて下さいね。きっと、いつかあなたの力になるはずですから。
GMコメント
●成功条件
・『骸騎将』ダルギーズの撃退
・アンデットたちのプーレルジールからの撤退
●エネミー
・『骸騎将』ダルギーズ
ゼロ・クールの戦士『メル・ティル』の中に寄生している四天王です。
魔王イルドゼギアの為にとギャルリ・ド・プリエを目指しています。
その目的はマナセが持ち込んだ『ファルカウの書』と、もう一つ何かあるようですが……。
弓を携え後方から狙撃手として非常に高い精度の攻撃を放ちます。また、配下が盾となります。
固定砲台的な存在であるとも考えても構わないでしょう。
・『アンデット』 30体
ゾンビともいいます。人間形態の戦士達です。ダルギーズの配下であり、非常に人間的な動きを見せます。
ダルギーズに従い戦います。お目当てはマナセの手にしている『ファルカウの書』のようですが……。
・『????』 10体
滅びの気配です。虎を思わせます。
……ですが、妙な気配がします。木々の気配が濃く、これではまるで大樹の嘆きのようですが……。
●『魔法使い?』マナセ
マナセ・セレーナ・ムーンキー。魔法使いかお姫様になりたい10歳女児です。
古語魔法を理解し使用することが出来ます。攻撃魔法>回復魔法>>>>封印術です。
威力は流石は勇者パーティーの魔法使いです。制御が下手くそですが……。
性格的には明るく溌剌。元気いっぱいの女の子です。自信が無いのは「古語魔法をつかったって良い大人になれない」と周りに言われ続けて居るからであり、その辺りは現実世界のマナセとはあまりかわらないようです。
ファルカウとの対話のためにこの地を守り抜くと決めて居るようです。
●フランツェル・ロア・ヘクセンハウス
深緑のアンテローゼ大聖堂の司教。魔女ヘクセンハウス。深緑に伝わる歴史を編纂し記憶する役割を担います。
ヘクセンハウスの書庫と呼ばれるアンテローゼ大聖堂の地下にある書庫には『ヘクセンハウス』を継承した魔女がいることで内容を読み解くことの出来る呪いが掛かっています。
ファルカウとの対話のために『何を聞きたいのかといった疑問を集めているようです』。
回復手として行動します。マナセの古語魔術に似た術式を駆使しているようです。
●『魔女ファルカウ』
マナセが持っていた魔術書に名前が記載されている魔女。
魔術書の著者であり、古語魔法の遣い手のようですが……詳細不明。
『森を守って欲しい』という願い事を託しています。今回の襲撃を防げば何か進展があるかもしれません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
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