PandoraPartyProject
『魔王座』II
「それで……『方法』ってのは何なのよ?
ああ、要らない前置きとか勿体付けは後に回してよね」
傍らのマリエッタならばその講釈を喜んだかも知れないが、セレナ・夜月(p3p010688)の方はもっと『常識的』である。
どうあれ時間が無いのは事実であった。
短い会話の間にも膨張し始めた世界の歪みは破滅的な予感を強め続けている。
何時顕現するかも知れない『それ』の本質も、恐怖も――人智に理解出来るものではない事は確実だったが、神託が成れば世界が終わる事だけは奇妙に確信出来ている。明らかに奇妙な感覚に違いなかったが、イレギュラーズはイレギュラーズ故に自身等の直感を疑う事は出来なかった。
「何でも言ってくれたらいい。ヴァリューシャとの明日を、混沌を守るんだ!」
「行きがけの駄賃、毒を喰らわば酒まで! というものですわね!」
(……酒?)
気を吐いたマリア・レイシス(p3p006685)にヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が応じ、クールなラダ・ジグリ(p3p000271)が少しだけ面白い顔をした。
イノリもこの期に及べば是非も無いらしく。そんなやり取りに構わず残った腕で歪みの中央を指さした。
「まず大前提としてこれは『魔王座(Case-D)』顕現の為の門だ。それそのものじゃあない」
「『終焉』はここを通って世界に来る……?」
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)の言葉にイノリは「そうだね」と頷いた。
結局、特異運命座標は戦うべき最後の敵の正体を知っている訳では無かった。
「これは『本物のバグホール』のようなものだ。
何処かの世界線には、人為的にこの穴を作り出した執念深い魔女も居たみたいだけど……
君達には改めて言うまでもないだろうが、『原罪』の、或いは冠位級魔種の力は君達という個に数倍も、数十倍もする。
いや、軽侮をしている訳じゃない。『君達はそんな格上に対して悉く勝利を収めてきた』。
ならば、君達は結果として僕達よりも『勝てる』かも知れない。それは当然の理屈だが」
言葉を一度切ったイノリは絶対的に断言する。
「……それでも、魔王座には絶対に勝てない。そも、次元が違い過ぎる。アレが顕現すれば僕ですら鎧袖一触、秒も持たずに終わるだろう。
クソ爺――つまり、この母なる混沌、更に連なる全ての世界の造物主に等しい存在ですら匙を投げた相手って事だ。
アレは全ての例外であり、全ての法則を意志を運命を一顧だにしない。つまり、勝てない」
「勿体付けないって言ったじゃーん!」
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)の言葉にイノリは「必要な理解のプロセスだ」と返す。
「と、言うのも君達にはそれだけの覚悟をして貰う必要があるという事だ。
『この先』も『この次』も無い。リカバリーのチャンスは無い。奇跡を起こせば戦って勝てるなんて未来は絶対に無いんだ。
君達の何処かにそれでも乗り越えられる、なんて思っている人間が居たら……いや、心の片隅にでもそんな想いがあったなら。
取り返しのつかない結末を招く可能性が否めない。だから、今僕は敢えて完全なる結論を述べている」
「ず、随分親切になったね……!」
炎堂 焔(p3p004727)が呟くとイノリは「毒を喰らわば酒まで、だよ」と僅かに冗句めいた。
「全てを終わらせるプランを望んでいたんだ。
だが、それを諦めたならば今度は次善を徹底しない理由は無い。
僕の動機はどうあれ、ざんげだ。あの子を犠牲にして存続する世界を終わらせたかっただけで――
――悔しくも失敗したのなら、負けを認めたなら。今度は君達のやり方と腕前を見せて貰わないといけないからね」
「それで」とイノリは続けた。
「結論から言えば君達が終焉を回避する為には、門を壊す必要がある。
ムスティスラーフ君が言った通り、通り道になる門が閉じれば魔王座は混沌には現れない。
君達は戦わずとも破滅を回避する事が出来るし、同時に混沌が救われる唯一の方法はそこにしかない」
「問題は――『斬れる』ものであるか、という事ですか」
白刃を備えるすずな(p3p005307)の言葉は彼女らしいものだったが、正鵠は射抜いていた。
魔王座は門を通って混沌に訪れる。門を壊せば世界は救われる。
だが、それ程の存在が通過する門等というものをそんなに簡単に閉じる事が出来るとは思えない――
それは世界各国に出現したバグ・ホールの事例からも知れている。
「……とは言っても。貴方は先程、可能性は『ゼロよりマシ程度にしかない』と言った。
つまりそれは言い換えれば『ゼロよりマシな可能性』は残されているという事だ。
今度こそ勿体は無く、教えて貰えませんかね。私、この後結婚の予定がありますので――」
「――ワタシにもあるんだけど!?」
「……勝手に予定を決めないで欲しいのだけれど……」
新田 寛治(p3p005073)の言葉に善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は牙を剥き、彼女の背に隠された当のリーゼロッテ・アーベントロート (p3n000039)はどちらの言葉にか、或いは両方の言葉にか少し気恥ずかしそうに、気まずそうに明後日の方を向いていた。
「他人の事なんて言えない幕間じゃないか」
呆れたように嘆息したイノリは大きく息を吐き出して、言った。
「結論から言えば破壊は不可能じゃない――と、僕は『思って』いる。
と言うか、僕が教えてやれるのは魔王座と戦うなという前提と、全ての意志は門に向けるべきだという結論までだ。
実際に手っ取り早い魔法で門を壊す攻略法何て存在しないし、僕自身これの壊し方なんて分からない。
だが、君達は僕に勝った位だからね。不可能なゲイムの攻略は――奇跡の発揮はお手の物ってやつだろう?」
イノリは最後にこう言った。
「最もマシな狙いは教えた。
禁止事項もきちんと伝えた。
意志は統一された筈だから、手段の方は是非君達で何とかしてくれ。
時間は無いけど。言っただろう? こんなもの『ゼロよりマシな話』でしかないって――」
※<終焉のクロニクル>Pandora Party Projectが終結しました!
※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。
これまでの天義編|プーレルジール(境界編)|Bad End 8(終焉編)
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