PandoraPartyProject

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聖なる凶報

「……」
「……………」
「…………………」
　お喋りな彼女が黙り込めば影の城の二人の時間は自然と無音のものになる。
　原罪たるイノリもまあまあ饒舌な方ではあるのだが、山の天気よりも変わりやすい乙女の心情に無配慮な男は殆どの場合、割を食うものと相場が決まっているから。
「……」
「……………」
　口をへの字にしたままのマリアベルは酷くぶすったれていて、何時もの彼女よりもずっと幼く見えた。
　イノリは超然とした彼女がたかだか二十年少ししか『起きて』いない事を知っているし、彼女は聖女だった時から言うほどお淑やかで無かった事も知っている。
　だから、自然と作り出されたこの無音の空間にも辛抱強く我慢をしていたのだが――
「……なぁ、マリアベル、流石に埒が明かないぜ」
「……そうね」
　溜息を吐き出したイノリにマリアベルは諦めたように頷いた。
　彼女がこんな風なのはBad End 8が意気揚々とワームホールを引っ提げて行ってからである。イノリとしては正直どちらの味方をする訳にもいかず、何とも苦笑いをする以外の無い話だったが、一連のやり取りで生じた恋人と娘（いもうと）の諍いも含めて、黒き聖女が如何ほどの意気込みでそれに到ったかは良く承知している心算だった。

　――いいじゃない。イノリ。私はもっと上手くやるから――

　自信満々で出て行ったマリアベルがこの仏頂面で帰って来たのだからそこにある話の意味は知れていよう。
「……別に失敗した訳じゃあ無いのよ」
「そうだね」
「Bad End 8は各地に橋頭保（ワーム・ホール）を突き立てた。
　影の領域からの侵攻は加速的に強度を増しているし、彼等はもう生きた心地もしないでしょう。
　だから別に失敗した訳じゃないし――私も負けた訳じゃないのよ？」
「……そう『かも』ね」
　幾分か言い訳じみたマリアベルは嘆息を零したイノリに唇を尖らせた。
「そりゃあ確かにね。幾ら何でも予想外だったわよ。
　特に『影の領域』に二人も来られて――その行方も掴めてないなんて！
　イレギュラーにも程があるし……でもこんなの普通無いでしょう！？
　どうしてあの連中、ワーム・ホールになんて飛び込むのよ。意味わかんない」
　パンドラの加護に護られた華蓮・ナーサリー・瑞稀（p3p004864）とドラマ・ゲツク（p3p000172）はマリアベルの執拗な追跡も掻い潜り今に在る。無論、生き残った人間等殆ど居ない影の領域（ラスト・ラスト）においてか弱い乙女達の命運等知れているだろう。
　だが、意味不明と称するしかない連中は文字通りの可能性の獣である。
「蒼剣君はどうしたんだい？」
「レオン君は……ああ、もう。『神託（Case-D）』はすぐそこまで来ているっていうのに」
　ルクレツィアをあれだけ軽侮したマリアベルだからこそ、この些細な失敗は手痛かったのだろう。
　水も漏らしたくない最終局面で胎の中におかしなリスクを抱えてしまったのは彼女からすれば痛恨だ。
「行きたいなら止めない」と煽っていたのは元より『無事で済む訳がない』或いは『行く筈がない』とたかを括っていた証左でさえあったから。
　都合良く舞い降りる奇跡という奴はつくづくと滅びの未来と相性が悪く出来ている――
「責めてないよ。というよりもこの広い城にももう、僕と君だけじゃないか。マリアベル。
　成就を分かち合う子供達ももう居ない。残ったのは君だけだ。
　……僕は元々誰も責めちゃ居なかったんだが。まぁ、こうなったのはその甘さが理由かも知れないけれど」
「……」
「君はとびきり優秀で、それから誰よりも僕の為を思ってくれているんだろう。
　いや、自惚れさせてくれよ。マリアベル。こんな風に話が出来る機会なんてあとどれ位あるかも分からないんだから」
「知ったような顔をして。はい、そうですよ。ずーっと貴方の為に頑張ってるわよ。心から！　悪い？」
「悪くないって」
　苦笑したイノリは色濃く感知した滅びの気配に目を閉じていた。
「顕現場所が影の領域である以上、これから始まる最後の戦いはきっと僕達に有利になるさ。
　勝てば最高だが勝つまでもない。時間切れは僕達の勝ちで、そうだな。
　僕はもう随分と後ろ向きな理由で滅びを求めていたけれど、そこに多少の我儘を添えていいとするのなら」
　目を開けたイノリは真っ直ぐにマリアベルを見て微笑んだ。
「付き合わせるようだけど、最後の瞬間は君と眺めていたいものだ」
「――――」
「悪いかね？」
「悪いわよ」と喉元まで出かかった言葉を飲み込んでマリアベルの顔は今日で一番面白い調子になっている。

　※Bad end 8首魁と見られるマリアベルとの戦いの報告が上がっています……！
　※世界各国にて発生した戦いの、結果報告があがっています……！

　※ファルカウ西の森メーデイアにてアトロポスが出現したようです。

　※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。

　これはそう、全て終わりから始まる物語――

　Re:version第二作『Lost Arcadia』、開幕！

これまでの天義編｜プーレルジール（境界編）｜Bad End 8（？？編）

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