PandoraPartyProject

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破局の狂報

 ――絶対的破滅到来! 世界中に破滅の足音なる!
 煽情的に踊る見出しを眺めながら、『アークロード』ヴェラムデリクトは馥郁たる香りのお茶をゆっくりと口に含んだ。程よい温かさと香りが口中に広がり、うんざりするような気持を多少は慰めてくれた。幻想に存在する彼の屋敷は、今は静かだ。破滅に至る最期の時を楽しむように。
 ――ラサ砂漠にて破滅の獣現る! 神代の獣か!? オアシス都市がいくつも壊滅――。
 ――天義都市ファウ・レムル消滅す! メギド伝説の再来か!? 聖都に激震奔る――。
「ああ全く、つくづくうんざりだ。失敗国家に、この銘柄が残って居たことだけは褒めてやるがね」
 破滅を謳うスナック菓子のような新聞は、市井に踊る下世話な其れではある。しかしながら、この幻想国の愚民どもが消費する程度に、各国の破滅は浸透しているということでもある。
 ――ローレット、対応を開始。果たして救国の英雄は世界を救えるか――!?
「この私が! 嫌々ながらもあの好き勝手する身勝手どもを何とかまとめ上げ! あの恐ろしい黒聖女の機嫌を取りつつ綱渡りをしているわけだが!
 そろそろボーナスの一つでもあっていいんじゃあないか?」
 そう大仰に嘆いて見せるヴェラムデリクトは、ちらりと眼前に座る『怪物』を見やる。
 焔宮 鳴(p3p000246)――否、憤怒の魔、ホムラミヤ、である。
 本来は鎖から解き放たれた魔獣のような存在へとなり果ててしまった彼女は、しかし今は『おとなしく』している。
「何を黙っている。何とか言ったらどうだ?」
「……」
「冗談の一つでも言えるようになったほうがいい」
 応えない。ただ、その目の奥にちりちりと燃える怒り、憎悪、そういうものを燃やすのみである。
「まぁ、いい。お前に待機を命じているのは、この私だからな。
 だがな、お前はすぐにやりすぎる。悪い癖だ。自我で魂の変容に抵抗してみせろ。
 己が望みを叶えたがるのは生命の本質だ。そんなに化け物になりたかったのか? お前の自我は」
「燃ヤセバイイ」
 声を上げた。
「全部、ゼンブ、ゼンブ……燃ヤス」
「ああ知っている、知っているとも。存分に、この上なく、厭というほどな。
 この私が! この火薬のような女を! ああ……だが、使うのは今じゃあない」
 とん、と椅子に座る。
「狂犬か、それとも怪物か。いずれにせよ『成り立て』はこれだから始末におえん。
 もっとも『長すぎる時』も、本質を見誤らせがちだがね。
 だから幼子よ、眠りは長くとるべきだ。記憶を整理し固着し、時の流れに押し流されんようにな。
 ともあれ海洋か深緑か、その辺りを火の海にでも変えてやればいいが。
 幻想だけはやめておけ。あの女(冠位色欲)の縄張りだからな。あいつは勤勉な上に鼻が利く。
 物事はシンプルなほうがいい。この私を板挟みにはしてくれるなよ。面倒事には巻き込むな」
「知ッタコトジャナイワ」
 ホムラミヤが、唸るように言った。
「解キ放テバイイ。ワタシヲ。ソレデ終ワラセテクル」
「……全く、つくづく厭になる。
 愛に時間を、だ。猶予を与えてやろうとは思わんのかね。
 僅かばかりのモラトリアム。友と語らい、家族を愛する、惜しむべき短い時間を」
 ヴェラムデリクトがジョークのようにそう言う。
「いずれにせよ、お前を使うのは今じゃあない。いい加減、二度目だぞ。さっさと理解しろ。
 原罪も、黒聖女も、意図などどうだっていい。本質はそこじゃあない。
 仕事というのはな。適切なコストを、適切なタイミングに、適切な場所へ投下するものだ」
「……」
「考えなしにお前を解き放ってみろ。あっという間に殺されるのが関の山、犬死にだ」
「燃ヤスコトガ、デキレバイイ」
「連中は冠位殺しだぞ。いたずらに凡百の出る幕はない。無論、この私もな」
「燃ヤス。ゼンブ、ゼンブ、ゼンブ」
「とはいえ……それならそれも、お前らしいのかも知れんがね」
 とん、と深く椅子に腰かけ、もう一度ゆっくりと茶を味わう。
「まったくもって、つくづく厭になる」
 大仰に嘆く様にするヴェラムデリクトだが、しかし現時点においては、彼の思惑通りに物事は進んでいた。全剣王たちはラサで終焉の獣を蘇らせたし、始原の旅人たちは、天義のオーグロブを復活せしめた。
 世界中には終焉獣や星界獣が跳梁跋扈し、絶対的終焉――『Case-D』の勢いを後押しするように、終焉、それ以外の魔は動き出している。
 予定通り。予定通りだ。今のところは。
「しかしこれまでの積み重ねはどうだ。何もかもがパァ!
 アーカーシュの浮島をたたき落としたのは良かった。
 古代幻想国の氏族同士を殴り合わせたのも良いだろう。
 アルテナが生きていたのは想定外だが、実に喜ばしい。
 だが、そこにきて『これ』だ。
 まさに、不確定要素(イレギュラーズ)、か」
 ふむん、とヴェラムデリクトは唸る。
 冠位など既に一柱しか残されてはいない。
 いかに仕事とはいえ、正面から当るのは馬鹿の所業であろう。
 それに――
「燃ヤシテシマエバイイ」
 と、心の内を見透かしたように、ホムラミヤは言った。
「コノ世界ゴト、ローレットモ」
「あの空でも見ておけ。遅かれ早かれ、いずれ避けようもないのだからな」
 ヴェラムデリクトの心中はさておき。
 世界は、間違いなく、破滅へと進んでいる。

 ※『バグ・ホール』の発生と共に混沌中で魔種による事件と甚大な被害が蔓延しつつあるようです……


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