PandoraPartyProject
破壊への道標
絶対的破滅、通称『Case-D』。それは世界にバグ・ホールと呼ばれる超常現象を引き起こし、文字通りに世界を切り崩し始めた。
同時、それに呼応するかのように終焉に属する魔たちは一斉に、無秩序に、無文別に行動を開始――世界を、人々を、平穏を蹂躙する。
ローレットは彼の『神』の力を借りながらも対策を講じる中、R.O.Oでも観測された『終焉の獣』の発生が確認され、甚大な被害をもたらしたとの報告が、世界を駆け巡る。
ドゥームズデイ・クロックは、まるでこれまで仕事を忘れていたといわんばかりに慌てて秒針を走らせ、午前零時のゴールに向けて狂気的な刻音を鳴らす。
そんな最中。
魔は、さらなる破滅を導くべく、暗躍を続けていた――。
「『彼』は寝坊助という奴だからね。早く起こしてあげないと」
『始原の旅人』、ナイトハルト・セフィロト。Bad End 8と呼ばれる最悪の八人の一人。
彼が訪れたのは、天義の東の地。海にもほど近いファウ・レムルの街である。
かつて『神が降臨し、メギドの火によってすべてを破壊した』――と伝えられるその地は、ある種の観光スポットのようにもなっている。その『神』の破壊痕とされる遺跡が現存するのだ。
はっきりと言えば、そのようなことを誰もがうっすらと『信じてはいない』。信仰篤き天義の地ですら『眉唾物だろう』と語られるそれは、しかし地元の貴重な伝説と観光の収入源として、今は人々の暮らしを金銭という形で支えるのみだ。
「しかし、怒るんじゃあないかなぁ。頭の上で、こんな風に暮らされているとね」
破壊された跡地、とされる遺跡の瓦礫に無造作に座り込んで、ナイトハルトは笑った。その遺跡に向けて、魔力を集中させている魔女――ファルカウは柔らかく笑う。
「穏やかに眠っている傍で、愛し子たちが暮らしていることを、厭うたことはありませんわ」
「『彼』がキミくらいに穏やかだったらなぁ」
くすくすと、ナイトハルトは笑った。
「しかし、後輩たちも気づきはしなかっただろうね。
ゼシュテルの遥か北の地。
ラサにあった封印の壺。
そして、アデプトの霊脈。
この三点が、天義に眠る『神(かれ)』に繋がることには。
……まさか、ラサから再現性東京に封印の壺が移動するとは思わなかったけれど。おかげで少し、場所の計算がずれて、この場所を探すのに手間取ってしまった」
「そんなことをおっしゃって。貴方であれば、そのような演算などは容易いことだったでしょう?」
「どうだろうねぇ?」
くすくすと笑うナイトハルトは、その手をもてあそぶように開き閉じして見せた。未だ、本来の力は戻らない。本当の、あるべき、力は。
「それで、僕としては午後のお茶を楽しんでもいいところだけれど♪」
「ええ、少しばかりお待ちを。術式は優雅に。幼子を起こすのには、乱暴な声ではなく、母の優しきものであるはずですわ」
「全剣王ならそうしただろうね。いいよ、僕は待つさ。気の遠くなるような時間を過ごしたんだ。そのくらいの時間は誤差にもならないよ」
ナイトハルトへ僅かに視線を送ったのちに、ファルカウはその魔の気配を以て、術式を編み上げ始めた。もしこの場に、魔術を志す者がいたならば、その超常の業を目の当たりにし、自分の才の限界を否応なしに感じさせ、その道をあきらめさせたことだろう。
ファルカウはこのような例えを気に入らないだろうが、大型のダンプカーのアクセルを全力で踏み込みながらそれを以て針に糸を通すような、強大な魔力を用いて繊細に操る業を、まるでピアノをつま弾くように優雅に行っている。それは、まさしく人外の魔女の仕業であった。
「見事だね。この世界の美しさを見るようだ」
「始原の旅人。貴方はこの世界がお嫌いだったのではありませんか?」
その言葉に、ナイトハルトは怒りと悲しみを内包したような複雑な表情を浮かべた。
「僕はこの世界の事は好きだよ。花も、空も、大地も。生き物も、人もね。『彼女』がそうだったように。
嫌いなのは、カミサマだけさ」
ざ、と風が走ったのは、ナイトハルトの怒気によるものか――ファルカウは謝罪するように静かに瞳を閉じると、魔力の制御に全力を注いだ。
それから過ぎた時間は、おそらく僅かであっただろう。ファルカウは、ふと言葉を紡いだ。
「子守唄は、静かに。
さぁ、目覚めなさい、咎の黒眼」
同時――。
ばぢり、と、空気が震えた。
それは、怒気である。先ほどのナイトハルトのそれすらも凌駕するような、怒り。そういったものの、純粋なエネルギー。
はたしてそれは、怒りだけであっただろうか? もしこの場に生半可な人間がいたならば、その気配だけでも恐怖に恐慌に陥ったに違いあるまい。それは、明確な、憎悪をも内包していたのだ。
ナイトハルトが『世界は好き』だと先ほど言ったが、それを否定するかのような、強烈な、世界そのものへの、怒り、憎悪、破壊衝動。そういったものの塊が、今、この空間から這い出て、生まれおちようとしていた。
「おはよう♪ オーグロブ」
ナイトハルトの言葉に、『咎の黒眼』オーグロブはぎろりとその眼を向けた。同時、空間より現れ出で、中空に固定されていたその巨体が、ずん、と地に落着した。
「何を破壊すればいい」
うっそりと、そう告げる。
「いや、愚問だった。
すべてだ。
すべてを破壊し、憎悪し――愛そう」
「……不機嫌そうじゃない? 彼? ちゃんとゆっくり起こしてあげた?」
「シルクのハンカチで撫でるように、優しく」
ナイトハルトのジョークに、ファルカウもジョークで返した。
「まぁ、いいや♪ オーグロブ、寝起きでストレスもたまってるだろう?
暴れてもいいよ。ちょうどいい具合に街があるからね」
そういうナイトハルトに、オーグロブは兇悪に笑ってみせた。
「ああ――まずは痕跡を。
我が今世に復活したという証明を。
この地に刻むとしよう」
オーグロブは、ゆっくりと歩を踏み鳴らした。それだけで、大地が裂けるような衝撃が、あたりに走った。
天義聖都に、ファウ・レムルの街が消滅したとの知らせが入るのは、これより僅かばかり先のことになる。
※『バグ・ホール』の発生と共に混沌中で魔種による事件と甚大な被害が蔓延しつつあるようです……
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