PandoraPartyProject

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破滅の爪先

破滅の爪先

 絶対的破滅、通称『Case-D』は、決定的なまでにその『終わりの時』へと歩を進めつつあった。
 世界は虚無に飲み込まれ、ローレットが『バグ・ホール』と呼ぶ破滅が世界を喰らい始める。
 世界は破滅する。このままでは。それは約束された『終わり』の始まり。
「――ほう」
 そんなさなかに、彼らは動き出した。Bad End 8と呼ばれる最悪の八人。
 終焉より来る最悪の魔は、『Case-D』の発現に呼応するように、無秩序に、無差別に、破滅への靴音を鳴らすように行動を開始したのだ。
「このような辺鄙な砂の山に、このようなものがあったとはな」
 くく、と笑うのは8人の魔が一人、『全剣王』ドゥマである。乱雑にそろえられた青の髪をなでるようにしてみれば、酷薄めいた顔に愉快気な色が載る。
 ラサ、南部砂漠コンシレラの乾いた風が、最悪の魔たちのほほを撃ち叩いた。それは、本能的に、恐るべきものを追い返そうとする大地の意思であろうか。
「精々が我が進むための悪路程度に思っていたところよ。
 エトムートめの進言なければ見逃していたところよな」
「まるで節穴ね、王様」
 どこか超然とした少女――ステラは言う。
「これだけの滅びを見逃して、楽しい行軍をしていたなんて」
「好い、不敬を許すぞ、星の獣。我は力を持つ者には敬意を払う。貴様が居なければ、この正確な地を測ることはできなかった」
 そこは、一見すれば何の変哲もない、砂塵の山である。もうしばらく離れれば、いくつかのオアシス都市があって、そこで当たり前のように人々が生活しているはずだ。実際、この地に至ろうとするこの魔たちを、その目で見たものもいるかもしれない。だが、どうせどこぞの旅人であろうかと、その姿は見過ごされていたわけだが。
「探知機替わり?」
「それが仕事ならそうするがよい、というだけの話だ。仕事に励むものを我は無下にはせん」
 ふん、とつまらなさそうにかわいらしく鼻を鳴らして、ステラは傍らにたたずむ魔女へと視線をやった。
「それで、目覚めさせられそう?」
「ええ」
 と、魔女――ファルカウが落ち着いた様子でそういう。だが、もし魔の素養を持つものが彼女に近づけば、彼女がとてつもない魔力を放ち、今も眼下の砂の山に送り続けていることに気づくだろう。
「容易く起こせますわ、全剣王
 地中に眠るは終焉の獣。滅びのアークの化身とでもいうべき、究極の終焉獣。
 ベヒーモスとも、アバドーンとも伝説に謳われる破滅の怪物の微睡みの時間はおしまいでしょう」
「ではさっさと起こすがよい、魔女よ」
「焦ればことをし損じますわ、王よ。術式は優美でなくては」
「ほう? 歯がゆいな」
 と、全剣王は、その手に巨大な剣を握った。豪奢な装飾の施されたそれは、自らが不敗であることを誇る剣である。
「昔から、寝覚めの悪い子供を起こす方法など決まっている」
 声を上げ、全剣王は飛び上がった。まぁ、とファルカウは言う。
「星の獣、隠れる場所なら提供いたしますが?」
「あの程度、問題ないわ」
 瞬間的に、二人が強力不壊の結界を生成した。間髪入れず、飛び上がった全剣王がその大剣を思いっきり地面にたたきつけた。
 最初に感じたものは、おそらく衝撃。だが、もしこの場にただの人間が居たならば、それを衝撃と理解するまでもなく、ぶつりとその意識と生命を断たれただろう。それはまだ幸福なほうだ。次に訪れたのは、まるで苛烈な炎獄のごとき爆裂であった。あたりの生命をおよそ嘗め尽くすような地獄の衝撃は、そのうちにいた生命に、生きていたことの悔恨すら思わせるほどの激痛を与えたはずだ。
 それはもちろん、生命だけに限ったことではない。小山のような形だったその場所は、巨大なクレーターのごとくえぐれた。それだけでも、全剣王の放つ一撃の威力というものを察せるだろう。
「とんだ災禍ですわ、乱暴者め」
 服についたほこりを払うファルカウと、退屈そうに髪をいじるステラは当然のごとく無事である。
「それで、星の獣。反応は?」
「そうね。もう目覚める。これで世界中に星界獣が降り注ぐことになるわ。覇竜領域だけじゃなく、すべてにね」
 ステラの言葉に、ファルカウはうなづいた。すると、どうだろう――。
 まず、大地が揺れた。次の刹那、クレーターから大量の、いうなれば『負の気』とでもいうべきものが噴き出すのが分かった。なるほど、これはまさに、そういった負の気なのだろう。なぜならそれは、滅びのアークより生まれた、終焉の獣――終焉獣なのであるから。
 ゆっくりの時間をかけて、それは奈落より這い上がった。巨大なる体。つるんとした肌。およそこの世のものとは思えぬそれは、ある種の神々しさすら感じさせていた。
「しっかりと、両の眼を開きましたね、災厄よ」
 ファルカウがそういう。立ち上がったそれは、まるで母を呼ぶ産声のように、

『――――!』
 吠えた。
 目覚める――終焉の獣が!
「それで、これをどう使うの?」
 ステラが訪ねるのへ、ドゥマがうなづく。
「黒聖女(マリアベル)めは我々のリーダーを気取っているが、しかしそのオーダーは各々好きにせよ、というものよ。
 ならば、こやつも好きに使って構うまい。過程や手段はどうあれ、最終的に世界が破滅していればよいのだろう?」
「では、このあたりの砂漠で試運転といたしましょうか」
 ファルカウが言う。
「ええ、わたくし、砂漠の民は嫌いですもの。
 愛し深緑を穢した者たちを少しくらい間引いたっていいでしょう?」
「怖」
 ステラが肩をすくめた。
「好い。では、さっそく試運転と行くか。先ほど、よいオアシス都市があった。あちらのほうに進ませれば、3つ4つは都市を消し飛ばすこともできよう」
 呵々大笑するドゥマに応じるように、終焉の獣はゆっくりと歩を進め始める。

 片手では数え切れぬほどのコンシレラのオアシス都市が『消滅』した、との知らせが全世界を駆け巡るのに、そう長い時間は必要なかった。

 ※『バグ・ホール』の発生と共に混沌中で魔種による事件と甚大な被害が蔓延しつつあるようです……


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