PandoraPartyProject
ホワイト・メモリー
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_bustup/88026/0f4cd6f0dc3c579fca1874e46eded24d.png)
理想郷は潰えた。
新たなる神になろうとした傲慢なる男は――滅んだのだ。
夢は塩の如く消え。世界には現がやって来る。
……そう。確かなる現実がやってくるのだ。
「――亡くなられたのね、ゲツガさんは」
「お母様……」
祝勝会が行われんとしている片隅で――サクラ(p3p005004)は己が母たるソフィーリヤ・ロウライトと顔を合わせていたか。サクラが脳裏に思い浮かべているのは……己が祖父たるゲツガ・ロウライト。
やむを得なき事情から遂行者へと転じていた祖父は、討たれた。
いや最後はサクラ自らの手で決着をつけた……というのが正確か。
イレギュラーズの皆や友たるスティアの力も借りて。
あぁ断固たる決意をもって戦った。その刃に曇りはあらぬつもりだった。
だけど。
「お祖父様は、ね。最後まで……戦い抜いてたよ、お祖父様らしく」
闘争の最中を駆け抜け一息つく間がやってくれば。
祖父との想い出が、喉の奥からやってくるものだ。
厳格な人物だった。イレギュラーズに成りたての頃は祖父を恐れていた事もあったか……ローレットは不正義すら容認する組織だったから。あの当時の天義の情勢からしても、見事に『天義騎士』であった祖父が己を見つければどう出てくる事かと――
それでも、家族だった。
父が亡くなり、母も出奔してからは……ロウライト家の長として在り続けてくれた。
想い出がない筈がないのだ。
だから――
「お祖父様。私は、お祖父様の孫娘として生まれて、幸運でした」
「……私の所為で迷惑をかけた、わね」
「……涙は、流さないって決めたんだ。それはあの時だけで、もう十分に流したから」
彼女は。天に祈り捧ぐように言葉を紡ごうか。
……もしかすると初めてだったかもしれない。戦場で、堰を切ったように。
涙を流したのは。
立ち止まってなんかいられないのに、止まらなかった。
胸の奥よりこみ上げ来る熱で――
一杯になってしまったから。
でも。何度も涙を見せたら、きっとお祖父様に叱り飛ばされてしまうから。
だから次を見据えよう。未来へ歩む私達は、次へと――
ハッ。そういえば怒られるかもと思えば……
「お母様。実はね、刀が割れたの。これは……どうしようかなぁ」
「――そう。お父さんの時と同じね」
「えっ?」
「ロウライト家は血、かしらね。ゲツガさんもそうだったけど随分な使い方をするから、まぁ戦場で色々あるみたいよ。貴女のお父さんの時はどうしてたかしら……たしか直してたか、受け継いでいたか――」
「血に関してはお母様も中々だと思うけれど……
鉄帝動乱の時にお母様の話をちょっと聞い……うわなんでもない!」
サクラの禍斬は、ルストとの戦いの折に派手に割れた。
スティアの紡ぎあげた祈りの華と共に。ルストめの胴に十字を刻んでやったが為に名誉の負傷……いや損傷と思うべきだろうか。しかしソフィーリヤは語る。ロウライト家の聖遺物は途絶えない。戦いの果てに昇華されていくと――
そして失われた者に想いを馳せるのは、サクラ達だけではなかった。
「ネロ様……どこにも姿は、見えませんでした、ね……」
「それでも、遺体があった訳でも――あらへんからなぁ」
メイメイ・ルー(p3p004460)や火野・彩陽(p3p010663)が言の葉を紡ぐのは……共に戦った『バビロンの断罪者』ネロ=ヴェアヴォルフの事である。戦場の活路を切り拓かんと全霊を尽くした彼は、最終的に『行方知れず』となった。
多くの者が彼の命の奇跡を願った。だが存在そのものが滅びのアーク側であるネロを、パンドラの可能性が救い上げるのは極めて難しい――いや無理と思っていいだろう。なによりネロ自身が去らんとする意志があったのだから。
だが。彩陽の言った様に彼の遺体はどこにも存在していなかった。
戦いの余波。聖遺物の行使で跡形もなく消え散ったというのか?
いや。
「きっと生きてるわよ、アイツはね」
「……えぇきっと未来で。またいつか出会えると信じます」
秦・鈴花(p3p010358)にグリーフ・ロス(p3p008615)は、確信している。
きっと生きていると。また隣り合って進んでいける日が来ると――
グリーフはネロの疲弊が少なくなるように敵の多くを引き付け。
鈴花は『生きたいと願え』と、言ってやったのだから。
……明確なる死が確認されなかったのは多くの者の行動が寄与している筈、だ。
「もしも、もう一度、会えたのなら、ふふっ。
今度はゆっくりと、語り合いたい、ですね」
「あぁ――そうしてこそのハッピーエンド、ってな」
「そうですね。戦いのない世界で、彼も役目から解放された世界で」
メイメイは、頬を寄せた白の毛並みの感覚を思い起こそうか。
柔らかな感覚。忘れがたき感触が、確かにまだ記憶と手の平にある。
瞼を閉じればより鮮明に。
彩陽やグリーフにしろ、彼の事は忘れられないものだ。
もしももう一度出会えたら――あぁ何をしようかと思い馳せようか。
「私は決まってるわ。もう一度、バカって呼んでやるのよ」
と。言うは鈴花か。
あの分からず屋には何度でも伝えてあげるから。
だから早く出てきなさいよ――バカ。
空を見上げれば、雪が降り始めていた。
訪れた平和。シャイネンナハトを祝福するかのような。
優しい白き粒が、降り注いでいた。
……あぁ。どこかネロの狼としての毛色にも似ていようか。
「――――」
刹那。どこか遠くで――
狼の遠吠えが聞こえた気がした。
一度限り。風に吹かれて蕩けて消える程、遠くから……
※『煉獄篇第一冠傲慢』ルスト・シファーを撃破し、イレギュラーズが勝利を収めました――!
※天義では祝勝会が行なわれています。
※『プルートの黄金劇場』事件が終幕したようです……!
※神の王国が終焉を迎えました――
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