PandoraPartyProject
うたかたの
――それは今際の夢だったのかもしれない。
「……ふっー、どうして朽ち果てた後にも誰ぞに会うのだ」
「私の知った事では無い」
語るべくは遂行者が一人マスティマ。そしてもう一人は月光の騎士と謳われ、やむを得なき事情から遂行者となったゲツガ・ロウライト。二人が今いる場所は、分からない。いやそもそも『どこでもない』のかもしれない。
なにせ二人は、死んだ。
イレギュラーズとの戦いに敗れたのだ。
だからこの邂逅はあり得ない。泡沫の夢であり幻。或いは走馬灯の類か?
……次の瞬間には消えていてもおかしくない。
二人もソレは分かっている。なんとなし、不思議と感覚でだ。
分かっている上で言の葉を交わすのは――戯れと言えようか。
今際の際の、戯れだ。
「戦場には終焉獣たる人狼がいただろう。奴はどうした」
「知らん。見ていない」
「見ていない? ……まぁどうでもいいか。もう全て終わったのだ」
此処が。仮に死の間際に見る夢であるのなら。
戦場で命を賭していた人狼もいてもおかしくないが――
いないとはどういう事だろうか。先んじて消え失せたか、それとも……
などと思考をマスティマは巡らせ、しかし止める。
無意味だ。生も死も最早我らには関係ない。
皆死んだ。
アーノルドも、ヘンデルも、氷聖も、サクも、グラキエスも、オルタンシアも、メリッサも、リーベも、エクスも、サマエルも、アドレも、パーセヴァルも、テレサも――
あぁ、ただ一点。
「聖女ルル……いやカロルは生き残ったのか」
「うむ? 分かるのか?」
「なんとなくだがな。私にもよく分からん。不思議と感じるというか……
まぁルストの前にいるのなら、戦いの果てにも残れるかは知らんが。
……さっさと逃げればいいものを」
「残るのならば、残るだけの理由があるものだ」
マスティマはカロルという少女の状況を、これまたなんとなし察した。
現状、唯一明確に生き残っている遂行者の同胞だ。いやある意味遂行者ではなくなった、か……? ともあれマスティマは、それぞれ抱く理想は異なれど、理想郷を望むという一点において志を共にした遂行者を同胞と考えている。
だからこそ、もしも生き残ったのなら。
精々無為には死なぬようにと願う程度の情が湧くものだ。
……まぁ。この胸中自体も無為か。
「成るように成るだろう」
半ば適当な様子で。大きな吐息を零そうか。
彼はもう満足してしまった。世界に必要なのは理想でないとマスティマは知れたが故に。
人々には自らの意志によって立って歩いていく力がある。救いは必ずあると。
必要なのはソレを『信じる』事だった。
死の間際に悟れたのは、もう遅すぎたが。
「さて、いくか」
「そうか」
「お前には天義では襲撃した事もあり迷惑をかけたな。まぁ別に謝る訳ではないが」
「気にするな。貴様らは断罪された身。罪はもう問うまいよ」
「減らず口を叩く天義騎士だ。お前のようなものが騎士など、この国の未来はやはり心配だな」
今際の泡沫が弾けようとしている。
冠位魔種の戦いがどうなるかまでは分からなそうだ。
やれやれ。気になると言えば気になる、が。
「生憎と。貴様に案ぜられるような国にはなるまいよ」
ゲツガは確信している。明日はきっと、穏やかな光が零れ出でると。
……あぁ良い人生であったかは知らぬが。
良い子に、孫には恵まれた。その友らも。イレギュラーズという者達全ても。
――何一つの心配事などありはしない。
「私は、光を見た」
刹那。月光の騎士が口端に見せたのは。
微笑みの感情であっただろうか。
厳格たる月光の騎士に珍しい柔和たる感情が、しかし確かに一瞬だけ。
――望外だ。騎士として、多くを断罪した己が。
此れほど穏やかな気持ちで、彼方なる地に旅立てるなど……
……戦いは、もう少しだけ続く。
それでもきっと終わりは遠くないと。
確信していた。この世より過ぎ去りし、誰かは……
※神の王国での戦いが佳境に近付いています――
※『遂行者』カロル・ルゥーロルゥーが『聖竜』の力でただの少女となりました。
※『遂行者』夢見・ルル家が『通常のイレギュラーズ』として復帰しました。
※別たれていた『聖竜』の力が『4つ』、使用されました――
※神の王国に対する攻撃が始まりました!!
※『プルートの黄金劇場』事件に大きな変化があった模様です……
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