PandoraPartyProject

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少女の選択

 靴音が響く。しんと静まり返った大聖堂内部はやけに冷たい気配をさせていた。
 壁に手を当てて押し込む。そうするようにと遂行者アドレに教わったからだ。掌が沈み込み、ガコンと重苦しい音を立てた。
 人一人通るのがやっとだと言う程度の細い通路をすり抜けるように歩いてからコートに付着した埃を払う。
 それから、怯えも怖れもない表情で楊枝 茄子子(p3p008356)は目の前の男に向き合った。
「ツロ」
『預言者』を名乗る男は書架に目をやっていたが、茄子子の声に気付いたように振り返った。
「良くやってきたね。逃げ出すかと思ったが、そうでは無かったみたいだ」
「逃げる意味なんてないでしょ」
 肩を竦めた茄子子に「それはそうだ」と表情に貼り付けたツロは直ぐに朗らかな微笑みをその整ったかんばせに貼り付けて見せた。
 胡散臭い男だというのが茄子子から見た彼への感想だ。まるで人形が意志を持って動いているような作り物のような男。そんな男に詰られる時間を待つことになる茄子子。
 何とも滑稽な時間だと『遂行者になりきっているイレギュラーズ』は考えて居た。
「君なら逃げれるだろうに。……茄子子、いいや、ナチュカ・ラルクローク。君には我々の『聖痕』は付与されていないね?」
 茄子子は至って冷静に「何言ってるの?」と返した。心臓の芯から冷え切ったように嫌な汗が伝った。
 茄子子は『聖痕』を付与されていない。聖痕を持つのはグドルフ・ボイデル(p3p000694)夢見 ルル家(p3p000016)だけだ。
(『聖痕』はルストの使徒になる事。つまり、滅びのアークを体に受け入れて強制的に反転に近しくなること……ってルルが言ってたっけ。
 そうなれば、『会長』の自我は分かんなくなっちゃう。それはダメ。『私』はやることがあるから。
 だから――だから、ルルが自分の『聖痕』を与えた振りをしてくれていたのに。なんで今更?)
 茄子子はまじまじとツロを見た。聖女ルルの言葉を一言に纏めれば、それはイレギュラーズにとって死を意味しているのだ。
 死ぬ訳にはいかない。死んでは意味が無い。茄子子は愛しい人との幸せな時間を手に入れる為に、敵も味方も全てを欺いて最後は美味しいところかっさらうつもりなのだから。
「ああ……。カロルがね、我々には黙って薔薇庭園での茶会で素晴らしい交流をしてくれたようだ。
 勿論、君も出席しただろう? ナチュカ・ラルクローク。生憎、この体は入れなかったのだけれどね」
「嫌われてたの?」
「手酷い事を言う。カロルにではなく、聖竜にだろうね」
 ツロが大袈裟な程に悲しそうな顔をした。茄子子はそれでも無をべったりと貼り付けた顔で「へえ、で?」と問うたのだ。
「元々が聖女だった事もあってね、人の情には弱い子だ。イレギュラーズが命を落としたとなれば、あの子は必ず聖竜の力を分けるだろう。
 それでも泳がせているのはね只の人間に扱えるとは思わないからだ。
 その力を駆使することで死をも覚悟して何かを願うのかも知れないが――まあ、念には念を入れておかねばならないのだ」
「――だから、それとこれと。会長と聖竜がどう関係あるのさ」
「『山賊』と名乗った青年は兎も角、『大名』と呼ばれていた彼女はカロルのために活動するだろう。あの子は止められない。何かあればカロル諸共殺すしかない。
 そして、次が君だ。ナチュカ・ラルクローク。君は我々の味方かな」
「……何で?」
「君の真意は何処にあるのかと思ってね。『教皇』を手にしたいと言って居たが、それは我らのためになるのか、どうか……だ」
 ツロを見詰める茄子子は「なるでしょう?」と低く問うた。
「シェアキムが天義から消えれば……あの国は今も緩い地盤が更に緩くなって足元を掬われる。
 それなら……それなら、遂行者として『勝つことが出来る』じゃない」
「その身柄が此方の者ならば」
「……当たり前でしょ、私は遂行者なんだから」
 茄子子がふい、と目を背ける。ツロは穏やかに微笑んでから「さて」と手を合せた。
「そこで、これは取引だ。ナチュカ・ラルクローク。君に『聖痕』が付与された聖遺物を貸してやろう。
 上手く使うと良い。これを使って『シェアキム』を手に入れるんだ。もし敵わないならば殺してしまえば良いだろう。理想郷でならば作り上げられる」
「……」
 ツロの眸を見て、それが本気だと気付いた。茄子子は唇を引き結ぶ。
「これは取引だからね、君には決定権を委ねよう。よい返事を待っているよ。ナチュカ・ラルクローク」
 微笑む男の前から一歩後ずさりをしてから茄子子は「考える」とだけ呟いて踵を返した。


 ※遂行者との戦いが続いています――

 ※シーズンテーマノベル『蒼雪の舞う空へ』が開催されました。
 ※プーレルジールの諸氏族連合軍が、魔王軍主力部隊と激突を始めました。
 ※イレギュラーズは『魔王城サハイェル』攻略戦にて、敵特記戦力を撃破してください。


 ※ハロウィン2023の入賞が発表されています!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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