PandoraPartyProject

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通り過ぎ、追い縋る

「『見えないものを見ようとして、骨を折るのは人間の業とでも言うべきなのかも知れませんね』」
 彼らしくやや皮肉気に唇を歪めた新田 寛治(p3p005073)の言葉にすずな(p3p005307)は思わず苦笑を浮かべずにはいられなかった。
 双竜宝冠事件の登場人物として浮上した『シンドウ』なる組織はローレットとはParadise Lost事件からの因縁を持つ『悪党』である。
 寛治からすれば『愛しのお嬢様』を酷い目に遭わせた元凶であるが、すずなや特に静けさを纏ったままの白薊 小夜(p3p006668)からすれば根元はもっと深い所にあると思われていた。
「近付けば、見えてくるものもあるものね」
「私は見えないけど」と笑えない冗談を口にした小夜は手にした仕込み刀の血糊を振り拭う。
 領地の協力者(まつ)の報告もそう。ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)から聞いた『首謀者』の話もそう。
 こうしていざ荒事に駆り出され、相対して分かる話もそう。

 ――剣片喰紋に新藤。頭首の名前は藤十郎。配下の扱う流派は忘れようにも忘れられない藩の指南役のそれを思わせた。

「薄々分かっていた事ではあるけれど、やはり『シンドウ』は同郷の――私の『古い知人』である事は間違いないわね」
「……………はい」
 小夜の言葉は相変わらずその本音を見せず、彼女の調子は普段のそれと変わらない。
 一方で頷いたすずなの表情は複雑であり、幾分かの緊迫感を帯びていた。
 寛治を含めた【シン・チームサリュー】はかつてのクリスチアン・バダンデールのお膝元を今でも根城にする『シンドウ』を探るべく、サリュー近辺での調査を強めていた訳だが、少なくとも彼等がどういう属性の連中であるかは現状の彼等の状況が既に答え合わせを済ませていた。
「随分手厚い歓迎だ。『余程、我々を近付けたくないものと見える』。
 いや、自意識過剰ではないでしょうね。チェレンチィさんにも話を聞きましたが、警戒は明らかに『此方』の方に軸足がある」
 チェレンチィ(p3p008318)もまた、彼等とは別口で『シンドウ』を嗅ぎ回るイレギュラーズである。
「いやはや、男というものは未練を残しがちなものですね」
「『嫌われているのよ』」
「小夜さんのような美人を嫌う男はそう居ませんよ」
 眼鏡を軽く持ち上げた寛治は彼らしい言葉遊びを見せていた。
 彼は『此方』と言ったが、本当の答えは概ね『小夜』である。
 彼女が口を開かねば、白薊の物語の悉くが白日に現れる事はあるまいが、余程の愚鈍でもなければ横たわる事情の中心(ヒロイン)に小夜が居る事に気付かない筈も無いだろう。
 状況から明らかなのは、少なくともシンドウ――藤十郎が小夜の存在を認知している事。
 そして、彼女に対してかなり強い警戒を持っている、という事である。
「……彼等の目的は一体何でしょうね」
「ハッキリとした断言が出来る訳ではないけれど」
 敢えてそれに思考を巡らせたくはないすずなが誰ともなく問えば、小夜が前置きをして彼女に応じた。
「藤十郎の目的自体は双竜宝冠の真相と大きな関連は無いと思うわよ」
「と、言うと……?」
「彼、もっと俗っぽい人だもの」
 我が身を捧げても突き通したい理念のあるような男ではない。
 身に過ぎた過剰な野望に殉じるような男ではない。
 何より、好いた女の為に命懸けの冒険を出来るような男ではない――他ならぬ白薊小夜は誰より彼の事を理解している。
「特異運命座標としてこの世界に漂着したのは間違いないでしょうけど……もしかしたら、そこに私の名を聞いたからかしら?
 ともあれ、彼はローレットに合流する事を選ばず『シンドウ』なる組織を立ち上げた。
 そうして自分の力でこの世界に根を下ろしたなら、応分の力を求める事はそう不思議な話ではないでしょう?」
「それがマフィアなる暴力装置という訳ですか」
 すずなは努めて冷静に――感情が言葉に乗らないように努力した上でそんな風に吐き捨てた。
 そんな風に生きながら、通り過ぎ追い縋る過去を振り払おうとでもするかのように小夜に凶手を差し向ける。
 新藤藤十郎という男には言ってやりたい事が山とあるのだ。『言うだけ』で済むかは当のすずなに何の自信も無かったが――
「どうやら、フィッツバルディ派の戦争よりも優先すべき事があるようですね。『お互いに』」
 寛治は幻想の平穏がどうでもいい訳ではない。
 しかしながら究極的に言えば彼は『幻想の平穏よりアーベントロートの無事が大事』だし『勝手に勝ち逃げして死んだ男との距離と詰める』のは目下の最重要事項だ。
『彼』がやり残した仕事を完遂するのは有体に言って、新田寛治という男の沽券に関わる問題なのだ。
「……」
「……小夜さん?」
「何でもないわ」
 押し黙った小夜は慮ったすずなに小さく頭を振った。
 調査や関わりで『シンドウ』なるものの正体は概ね確定している。
 と、なれば問題はあの『具藤』だ。
(藤十郎様――藤十郎にあの年頃の弟なんて居なかった筈)
 それに、あんな迸るような剣気に才気は良くも悪くも優秀止まり、今思えば凡庸な藤十郎から感じられるようなものではない。
(彼は何者……?)
 小夜は己への問いに珍しい苦笑を見せた。
 自分も騙せないような嘘は、疵になるだけだ。
『一流の剣士の直観は、殆ど答えを射抜くように見えないものを見定める事さえある』。
(……彼は、きっと)
「まさかね」と笑い飛ばせれば、どんなにか幸せだっただろうとそう思う他は無い――
 
 双竜宝冠事件が進展しています!
 豊穣で動きがあるようです!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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