PandoraPartyProject
裏表の正義
黒衣を纏う騎士。その者の名は――ネロ。
彼は鉄帝で遂行者の放った戦力と一戦交えた後であった。帰路に就く狭間、彼の脳裏に浮かんでいたのは……成り行きとは言え共に戦ったイレギュラーズ達の顔。構うなと言っていたのに自らの動きを助けた――お節介達。
「……アレがイレギュラーズか。誰も彼も、優しい瞳であった」
されば、ネロの口端に微笑みの色が一瞬だけ宿ろうか。
……ネロは先述の通り黒衣を纏う騎士である。しかし『聖騎士団』に属する者ではない。
記録はなく、しかし黒衣自体は偽物ではない――謎の者。
自分が一体誰なのか、一体どこの所属なのか名乗らなかった。
なのに彼らは己を『悪人ではない』とし、助けてくれた。
己自体は『関わるな』と……突き放そうとしていたのに。
「物好きめ」
だからか、最後に些か口を滑らせてしまった。
近頃出ている影の艦隊とは遂行者サマエルの放っている配下であり、その裏には奴に協力する狂気に落ちた旅人……マリグナントという者がいると。更に『聖ロマスの遺言』の裏に潜む『預言者ツロ』の存在――冠位傲慢とコンタクトを取れるとされる存在の事を。
ソレらは『ネロが属する組織』が掴んでいた情報であった。
いやもしかすれば一部のローレットの情報屋やイレギュラーズも調査によって掴んだ者がいたかもしれない、が。ともあれネロにとってみればネロ自身が持つ情報であり、本来であれば余人に漏らす意味などない。
なのに話してしまった。全く、己も何をしているのか。
我は影。光と迎合する事なき存在だと自戒していたというのに。
「…………ふぅ」
息を零す。零してしまう。
なぜならば、先述の行いを悪くないものだと思ってしまったから。
クソ。だめだ。どうしてもいけない。
人と話すと、情が湧く。
人を信ずる事。同『組織』に属する者以外には関わらぬようにしていたのに。
……あぁ、だが仲間も言っていた。イレギュラーズを信用してみてはどうか、と。
あの時は否定したが、しかし確かに悪くないかもしれない。
イレギュラーズ。新たなる時代を紡ぐ者達。
そろそろ『自分達』も役目を終える時が来たのかもしれないと――
「……むっ?」
と、その時だ。ネロの嗅覚に――血の匂いが届く。
同時に嫌な気配が背筋をなぞった。
――駆ける。己らが隠れ家とする廃屋から血の匂いがするなど、まさか。
扉を蹴破りて、そのままの勢いに駆けこめ――ば。
「……カリギュラ!」
其処には、一つの亡骸があった。
それはネロと行動を共にしていた男。自らと同じ組織に属する者。
もはや体温はない。殺されて一時が立つか――
瞬間。部屋の奥から殺意が至った。
寸での所で反応したネロは大きく跳躍。放たれた撃を躱し、そちらへと視線を向けれ、ば。
「――お前は、マスティマか!」
「然り。ちょろちょろと……お前達は、いい加減煩わしかったのでな。
これより我らは『創生』の一時に入る。その前に小汚い蠅を潰しに来た」
其処にいたのは――天義を中心に暗躍している遂行者が一人、マスティマ。
ネロが属する『組織』が長年追っていた遂行者だ。しかし……
「後はお前ぐらいかな? 終わりだな『バビロンの断罪者』も」
「……いいや終わらん。私一人でお前達を皆殺しにするだけの事」
「大言を弄すな。そんな事が出来るなら、とっくのとうにやっているだろう。
天義という国の正義を守るために、あえて闇へと潜った高位騎士の末裔……
ご苦労な事だったな。涙ぐましい障害、その全ては水泡と帰す」
もうその組織……『バビロンの断罪者』は実は、壊滅状況にあった。
遂行者との戦いに敗れたのだ。最早組織としての体は保てぬ程に……
ネロなどのごく一部の生き残りが孤軍奮闘していただけ。
「そして今もまた一人、貴重な残存兵は失われた」
「……」
「天義の闇に生きた者達よ。自ら闇に潜ると決めた殉教者達よ――
お前達の献身ぶりは無意味たる穴に落ちる。此処で滅びを迎えるがいい」
マスティマから至る殺意は、鋭い。
更に周囲からはなんぞや迫りくる気配もある。さては影の天使か、影の艦隊か……
されどネロの胸の内に絶望はなかった。
いや、むしろ彼の中に今渦巻いていた感情は。
「――よくも俺の友達を殺したな」
極大の憤怒であった。
マスティマの殺意を塗りつぶす程の気配が溢れると同時――
ネロの身にも変化が生じた。元より強靭であった肉体が、しかし更に膨張するが如く。
「ん? 貴様、まさか……人間ではないのか? 獣種……いや、これは……!」
さればマスティマは『珍しいモノ』を見たかのように息を零す。なぜなら、ば。
「まさか、驚かせてくれる! お前の様な『穢れた犬』が天義の闇にいようとは!
滅ぼされたのではなかったのか。かつての天義に! お前は終焉の――」
「黙れ」
衝突音。凄まじい衝撃が響き渡ったかと思えば、マスティマの身が壁へと吹き飛ばされる――同時にネロは逆方向へと駆けようか。脳髄は奥底まで憤怒に染まっているが、しかし。
それよりも優先するべき事があった。
此処に同胞の亡骸を残してはいけない。
もう冷たくなった身体であったとしても。
己に温かさを教えてくれた人達の温もりを――忘れてなどいないから。
遂行者ではなく影の天使如きであれば囲みは突破できる――
「あぁ」
此処で遂行者と命を懸けて戦ってもいい。どちらかが死ぬまで戦ってもいい。
だが無駄死にだけは出来ない。
どうする。己が成し得るべき事は。一人となった今、出来る事は……
――貴方にとっても都合の良い"利用先"になれるんじゃないかな。考えておいてよ。
――生きていた方が長く働ける。お互い無事だといいな。
刹那。ネロの脳裏に湧き出たのはイレギュラーズ達の言葉。
刻見 雲雀(p3p010272)、エーレン・キリエ(p3p009844)……
彼らから、先日の戦いの折に掛けられた言葉だ。
――もう旋律は覚えたから、隠れても無駄よ。よろしくね、ネロ!
――手の数は多い程良い。拙者達の事は頭の片隅にでも留めておかれよ。
更にリア・クォーツ(p3p004937)や如月=紅牙=咲耶(p3p006128)の顔も、ふと思い出そうか。
暖かであったと感じたからこそ離れなければならなかった。
穢れた闇の者が、栄光ある光に交わるなどあってはならない。
それがバビロンの断罪者であったから。しかし。
――わたし達と一緒に、戦ってもらえませんか?
光り輝くかのような、実直な瞳。あの時は眩しくて、思わず目を逸らしたが。
「あぁ……」
最早時代は、天義は、変革を迎えているのだ。
今こそその時かもしれぬと、ネロは思考を巡らせるのであった。
※天義国の方で動きが見えているようです――?
※パンドラパーティープロジェクト6周年ありがとうございます!
※『六周年記念ローレットトレーニング』開催中!
※『冠位暴食』との戦いが終結しました――
※覇竜領域では祝勝会が行なわれているようです。
これまでの覇竜編|シビュラの託宣(天義編)
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