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シナリオ詳細

<烈日の焦土>バビロンの断罪者

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●バビロンの断罪者
 遂行者達の活動は遂にラサ、深緑、そして鉄帝にまで及び始めた――
 天義を始めとし……幻想、海洋、練達、豊穣を順繰りにして、遂にだ。
 なんたる事か。奴らは文字通り全ての国を巻き込むつもりだというのか。
「うぅ……ぁああ……」
 そして――その中の鉄帝において、妙な動きが見えていた。
 幻想と鉄帝の国境付近。所謂南部戦線の領域において……正気を失ったが如き者の姿が見えるのだ。ソレは近隣に住まう鉄帝国の民か――? されど誰も彼も瞳には生気が伴っておらず濁り果てている。
 まるでなにがしかの『狂気』に晒されたかのよう。
 彼らの歩みはただ一点、南に向いている。
 このまま行けば幻想王国へと辿り着くだろうか。
 あちらから見れば国境侵犯とも言える行為。その行いを――

「――見てはおれん」

 止めたのは『黒衣』を纏う一人の男だ。
 刹那の瞬き。民衆らの前へと出でたその存在は、彼らの身を穿つ。
 意識を刈り取る為に。顎を、腹を。丸太の様な足を振るえば一気に薙ぐ事もしようか。
 その動きたるや只人のソレに非ず。鋭き視線をそのまま民衆らの後方へと向けて……
「『影の艦隊』か。遂行者サマエルの直下部隊……
 だがソレだけではない。聖遺物の力も感じ得る。
 ――預言者ツロの仕業だな。さてはまた聖遺物を悪用したのか」
 紡ぐ。正気を失いし民衆らの群れの向こうには『影で出来た人間』だ。
 遂行者側の戦力として度々見受けられていた『影の天使』の一種だろうか――しかし、以前見かけた者らよりも別の特徴が見受けられた。それは『戦艦の大砲や高射砲のような、近代的な装備』を身に纏っているのだ。
 直後。黒衣の男へと砲撃が放たれる。
 当然だが見かけだけ『そう』と言う訳ではないようだ。激しき砲撃が放たれれば、黒衣の男は跳躍し林の中に逃げ込もうか。先の通り、戦う力に関しては黒衣の者にもかなりの強さがあるようだが……しかし民衆らの犠牲を考慮せぬ砲撃が繰り広げられれば話は別。
 数の上で圧倒的に劣勢なのだ。囲まれ動きを封じられれば危機に陥るやもしれぬ。
 或いは民衆の被害を一切考慮しないのであれば――全く違うのかもしれぬが。
「……こんな程度の連中に手古摺っている場合ではないのだがな。
 遂行者がいないのは幸か、不幸か……」
 男は吐息一つ。なんとも、もどかしいものだと。
 ……男の目的は『遂行者の打倒』であった。
 その身に纏っている黒衣は決して遊びの代物ではない。
 聖戦の意を示す衣は覚悟をもって着込んでいるのだ。それこそ『遥か以前』から。
 天義の為、暗躍している遂行者共を討つのだと――
 されど彼一人では限界があった。遂行者達の戦力は強大であるが故に。
 彼らの行い全てを止めるには手が足りなすぎる。
 どこか外部に……そう例えば、英雄と称されるイレギュラーズ、彼らとならば……
(……いや無為なる事だ。我は影。その本分を忘れてはならぬ)
 が。彼は首を振って思考の靄を払おうか。
(……そうだ。如何なる軍勢と戦おう事になろうと、それでも)
 それでも、と。男は心の内で呟き続けようか。
 彼の瞳は死なぬ。彼には戦うべき理由があるのだから。
 遥か過去。己を救ってくれた、大恩ある方の為。大恩ある方の一族が住まう天義の為――

「我、ただ正義を成さん――」

 黒衣の男は戦い続ける。例え己一人になろうとも。例え無謀であろうとも。
 天義に仇名す者――許すまじ。


 ――イレギュラーズ達は鉄帝の国境線に向かっていた。
 南部戦線拠点バーデンドルフ・ラインから少し離れた集落で異変があったと、辛うじて無事だった者から依頼が舞い込んだのだ。集落に住んでいた大部分の者達が正気を失ってしまったと……原因がなにかはまだ分からぬが、とにかく放っておけない。
 急ぎ向かう。目撃された情報によれば南下するように向かっていたと聞く。
 ならば国境線を超える前に先回りする事も可能なはずだ、と。そして。
「――おっ。ここは、廃砦か?」
 先回りした地にてイレギュラーズは、小さな廃砦を発見した。
 建物が幾つかと、周囲を囲うそこそこ高い壁がぐるりと。
 元々鉄帝国のモノだったか。それとも幻想王国のモノだったか……ハッキリとはしないが壁になりそうな障害物は多い。あちこち破損している故に万全に使う事は出来ないだろうが、正気を失った民衆らを平地で真正面から相手取るよりはマシだろうか。
 ここでなんとか民衆らを待ち構えようかと――思案をしていれ、ば。

「……誰だ? お前達はまさか……イレギュラーズか?」

 建物の一角から、声が生じた。
 そちらへと視線を向ければ――いたのは『黒衣の男』だ。
 ……黒衣と言う事は天義の者か? それが何故鉄帝国の領域へ。
「アンタは誰だ? こんな所で何してる?」
「……応える必要はない。お前達の方こそ何故此処にいる。まさか」
「俺達は依頼だ――正気を失った連中を止めてくれってな。たく、何が原因なんだか」
 が、黒衣の男は……敵対的ではないが、あまり友好的な態度でもない。
 どこか、関わりを極力最小限にしているかのようだ。
「……知らぬのか。アレは恐らく『聖ロマスの遺言』だ」
「――なんだって?」
「『聖遺言のクーダハ』に納められていたはずの書だ。
 その一片に遂行者……いや預言者ツロの力を感じる。
 呼び声を拡散するような力を宿しているが故に、民衆らの正気を奪っているのだろう」
 ただ、ある程度情報共有を成す意志はあるのだろうか。
 黒衣の男は語る。この事態の原因となっているモノの事を。
 どうも『預言者ツロ』なる人物の思惑が絡んでいるらしい。天義の大教会に保管されていた聖遺物の一つはしかし、預言者に奪われ……そして彼らの力として今や利用されている。
 呼び声の狂気を拡散する装置として。
 ソレが存在し続ける限り――狂気は段々と深まっていく事だろう。ただ。
「破壊出来れば、民衆は止まるか?」
「狂気の深度が進む事はなくなるだろう。ただ、狂気そのものがなくなるとは思えん。
 ――影響を受けた人間を救うためには、また別に無力化する必要があるだろうな」
 要は、民衆を救いたければ不殺の意志と共にあれ、と。
 貴重な情報だ。まずは民衆を救う為にも、遺言書を持っている敵を見つけるべきだろうか。呼び声を発しているのであれば気配で分かる気もするし、何か探知しうる技能があればもっと早く特定する事も出来るだろう。
 主力となる敵を打ち倒し、民衆をも可能な限り救う。
 あとは――
「アンタ、どうする? 俺達は協力出来るんじゃないか?」
「……」
「アンタが何者かは知らないが目的はきっと同じだろう」
「……協力はせん。だが連中の目的を阻む意志を邪魔する気はない」
 この黒衣の男と協力出来るのではないかと打診してみようか――
 されどやはり何か一線が在るのか、彼は此方に踏み込んでこようとはしない。
 ただ、少なくとも敵対する事は無さそうだ。
 この場の事態を解決する為に……互いに邪魔にならぬ様にしよう、と言った所か?
「そうか――だが、せめて名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃないか?」
「……名前か」
「そうさ。『アンタ』じゃ呼び辛いからな」
 もうすぐ正気を失った民衆が到達してくる頃だろう。
 戦闘の準備を整えねばならぬ、が。その前にと黒衣の男へ言の葉を紡げば。
 男は、少しだけ逡巡こそしたものの――

「私は……名もなき者。だが仮に名が必要であれば『ネロ』とでも呼ぶがいい」

 重い口を、開いたのであった。

GMコメント

●依頼達成条件
・敵勢力の撃退
・鉄帝国住民を可能な限り保護する事

●フィールド
 鉄帝国、南部戦線近くの国境沿いです。
 そこに小さな廃砦がありました。朽ち果てており、砦としては万全に機能するものではありませんが、障害物として幾らか壁にする事ぐらいは出来そうです。なお砦の周囲は林地帯であり、木々に包まれています。

 なんとか先回り出来たため、敵との接触にはやや時間があります。
 が、暫くすると後述する敵戦力がやって来るようです――
 鉄帝国住民に関しては可能な限りの保護をお願いします!

●敵戦力
●鉄帝国住民×30名
 鉄帝国に住まう住民達……でしたが、現在は『聖ロマスの遺言』なる代物によって狂気状態に陥っています。クワや包丁など、簡易ですが武器を手に取っている者が多いようです。戦闘能力はまちまちですが、動ける限り皆さんを害してこようとするでしょう。
 不殺スキルなどがあると便利ですが、絶対に必要と言う訳ではありません。

●影の艦隊(マリグナント・フリート)×5名
 遂行者サマエルに関連する存在です。『影で出来た人間』の姿をしているほか、全員が『戦艦の大砲や高射砲のような、近代的な装備』で武装しています。後述する、狂気で狂った鉄帝国住民らを尖兵としつつ、自身らは後方から砲撃を繰り返すようです。
 中々に強力な範囲攻撃を得手としています。【不調系列】【出血系列】のBSをランダムに幾つか付与してくる事もあるようです。

 また、この内の1名は後述する『聖ロマスの遺言』なる代物を持っています。
 これは呼び声を発しており鉄帝国住民らを狂わせ続けているようです――
 時間が経つと狂気の深度が深まっていく可能性があります。

●『聖ロマスの遺言』
 詳細は不明ですが、なんらかの本の紙……のようです。
 これも聖遺物の一種なのでしょうか。ある程度、神秘の力を感じえます。
 が。その紙からは『呼び声』が発せられているようです。あまり強いものではありませんが、一般人の正気を狂わせる力はあるようで、狂わされた者らは『影の艦隊』らの配下として動かされています。

 壊れると呼び声は消失しますので狂気が深まりはしませんが、しかし狂気状態は続行しますので、住民らを無力化するにはまた別途不殺での対応が必要となるでしょう。(不殺スキルが必須ではありません)

●味方(?)戦力
・ネロ
 騎士団やイレギュラーズに解放されている『黒衣』を纏う謎の人物です。
 遂行者側戦力と敵対しているようです。また遂行者の事について、やや詳しいような印象が見受けられます。

 背に大剣を背負っています、が。その刃を抜くつもりはないのか拳で戦っています。
 それでもかなりの戦闘力を感じます。只者ではなさそうです。
 皆さんと連携する気はないようですが『影の艦隊』を打倒するべく戦場を共にします。
 基本的には民衆らを不殺せんとしながら、影の艦隊に接近する機会を狙っているようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <烈日の焦土>バビロンの断罪者完了
  • 知られざるべき者。名もなき者。ただ正義を成さん――
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月31日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

リプレイ


 彼方より、なんぞやの気配が接近してくる。
 情報にあった……聖ロマスの遺言の影響を受けた連中、か。ケッ。
「どうやら――あの遺言は、ここ以外でも使われたらしい。断片でもある程度力があるとはな。七面倒くせぇったらありゃしねぇ……まぁいい。あとどれだけあるかも知ったこっちゃねぇが、サッサと壊しちまうのが一番だな」
「全く……国を跨いであちらこちらに好き勝手してくれるね……
 やっとの想いで平穏を取り戻した国すら間違ってる――なんて言うつもりなのかな」
 舌打ちする『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)。同時に『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は憤怒の心を胸の内に宿そうか――この国は文字通り、全員が死に物狂いで、全てを賭して安寧を得たというのに。
 再びに騒乱を起こさんとしているのならば叩き潰すのみだと。
 が、幸いと言うべきかまだ連中がやってくるまで少しの暇がありそうだ。その内に出来る事をやっておこうと『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)や『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)は――
「お名前、聞いておきながら名乗ってませんでした、ね……わたしはメイメイ、です。えぇと……ネロさま、でしたね。一時の間かもしれませんが、どうか、よろしくお願いできればと……」
「このまま一人で戦うつもり? 別に止めたりしないけれど――どうせ連中が来るまで暇でしょ? ならこっちを手伝ってよ。出来る限りの事をした方が勝率も少しは上がるでしょ」
「……やれやれ。イレギュラーズとは節操がないな」
 廃砦を利用する為の行動を開始せんとする。傍に在る黒衣騎士、ネロにも声を掛けながら。
 メイメイはファミリアーの使い魔を放ちて先行偵察。敵が来るタイミングを確実に図りつつ、陣地を構築する手伝いをしよう。同時にリアは、敵が来るであろう方向を眺めているネロの助力が得られないかと思考を巡らす――
「それに。ほら、あたしはか弱い乙女なのよ? こーんな細腕に重いのを持たせる訳?
 黒衣の騎士様は見捨てようっての? 助けを求めてる、か弱い乙女を!」
「私の知る乙女は自らを『か弱い乙女』とは連呼しない者ばかりなのだが。
 ……まぁいい。敵が来るまでの間だけだぞ、それ以降は知らぬからな」
「えぇえぇ勿論! まぁほら、あたし達とアンタは目的が一致しているんだし
 アンタもあたし達を利用すればいいじゃない? 気兼ねなく、ね。
 ほら、そういう訳で準備よろしくね!」
 さすればネロは吐息一つ零しつつも『仕方なし』とばかりに行動しようか。
 ネロは友好的とは言えないが、しかし過度にイレギュラーズを排する気配も感じられぬ。まぁただ言葉を掛けただけであれば『我関せず』とばかりの態度を貫いたかもしれないが、しかしそこはリアの説得の心得が功を奏したか。巧みな言葉の抑揚がネロを微かに動かしたのだ。
「ネロ君、だったか。随分不吉な名を選ぶのだな」
 更に作業の傍らで『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)もまた、ネロに対して語り掛けようか。ネロ、という言葉は……ルブラットはやや心当たりがあるのだ。尤もそれはこの世界でも同一の意味を持っているかは分からない、が。
「不吉だと――? 名は名。それ以上の意味はあるまい」
「……いや、此方の話だ。何でもない。
 ともあれ今は歩みを共にしたいものだ。互いに尽力しよう」
 ――そして。精々貴方が『弾劾者』になり得ぬことを願っているよ。
 呑み込んだ言葉もあったが、まぁいい、と。ルブラットは廃砦の構造を利用して罠を仕掛けんとする――この辺りには色々と壁はあるのだ。戦闘力を奪った民を保護するためのスペースを作りつつ、敵が簡単には侵入できぬようにワイヤー式の罠を幾つか。
 市民を殺さず、動きを止める。殺傷力よりも足止めを重視した代物が重要なればこそ。
 あぁ勿論味方には伝えておこうか。味方が罠に掛かるなど笑い話にもならない。
 そしてその『味方』には当然――ネロも含んでおこう。
「……作戦を伝えるのは構わんが、私が考慮するとは限らんぞ?」
「まぁまぁ、これも何かの縁。目的が同じなら覚えておいて損はござらぬよ。
 同調せよ、などとは申さぬ。我々も初めて会った訳だしな。ただ――」
 これから少しずつ拙者達の事を知って貰えばそれで充分。
 紡ぐのは『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)か。彼女はネロと同様に黒衣を着込んでいる。見れば見る程、やはりネロの服も己らに託されている黒衣と同じであると実感するものだ……
 まぁ、やはりネロは黒衣の者がいてもなお、態度を崩さぬようだが。
 その辺りは想像の範疇内だ――問題ない。
 とにかく急ぐ。ネロにも、一方的にでもいいから情報共有しながら。
 廃砦を少しでも使えるように改修しておくのだ。
「ぉぉぉ! こんなこともあろうかと用意しておいた釘にトンカチがありますよ! いつの間にポケットの中に入れていたのか覚えていませんが、良しとしましょう……! 補修する道具が足りてない人はいますか? お手伝いに参ります!」
「うむ。では、此処に糸を繋いでくれるか? それから向こう側は窓を補強しよう――」
 更に『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)も張り切って陣地構築に参戦しようか。ルブラットや咲耶など心得を持つ者達の動きを支援し、作業時間を短縮させるためにも彼もまた尽力するのである。
 だからポケットを漁ってみれば――おぉなんか簡易な補修道具があった! こんなこともあろうかと……こんなこともあろうか、と? 常日頃から準備していた(?)賜物だ……! トンカチもって罠や補強の手を強めていれ――ば。
「わわ、来ます……! 走って来てます、よ!」
「作業はここまでだね――後は頑張ろう! ネロさんも、無事でね!」
「……私の事は構うな。自分の心配だけしているといい」
 ファミリアーを飛ばしていたメイメイや、優れた感覚を周囲に張り巡らせていた『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が気付くものだ。敵の接近を。
 ここまで決して長い時間では無かったが……しかし可能な限り陣地の構築は行った。
 壁はある程度補修済み。ネロの手伝いもあってか民を収容しうるスペースも確保できたか。当然盤石にして堅牢とは言えないが、されど即興にしては十分と言える。後はイレギュラーズ達の地力が物を言うだろう。

 戦いが始まる。狂気に侵された鉄帝国の民達が――向かってくる。故に。

「……気にいらん。罪もない民たちを無理矢理尖兵に仕立て上げるなどと。
 ましてや最前線に立たせ己らは後方に……? 醜悪極まるな」
「こういうのがあっちにとっての『正しい歴史』――とやらなのか、な」
 『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)や『冬結』寒櫻院・史之(p3p002233)が即座に動き出すものだ。今回の連中の戦法は、あまりにも悪意があると……
 あぁ、こんな狂った歴史を是とするならば。
「――狂った暴力で叩きのめされるのも是としなければならないよね」
 史之は紡ぐ。理不尽には、理不尽をもってして対抗せしめよう、と。
 べつに。俺は狂っちゃいないけどさ、アハハ?


「う、ぉ、ぉおおお――!」
「うぅ。痛い、かもしれませんが……ごめんなさい、少しの間、耐えて下さい、ね。
 大丈夫、必ず、助けてみせますから……!」
 狂気を瞳にやどした鉄帝の民が怒号を発しながら向かってくる。
 元々兵士でもない者達だ。その動きは決して洗練されたものではない……が、数が多ければ厄介ではある。囲まれたりして動きが鈍ってしまう可能性は十分にある――だからメイメイは天上より使い魔の視界も得ながら、光を放とうか。
 それは不殺の意思を込めた一撃。彼らを救ってみせるのだと紡ぐ――
 更にエーレンも機先を制する形であえて跳び込んだ。その動きにはネロも動こうか。
「ネロといったか。俺は鳴神抜刀流の霧江詠蓮。手伝わせてもらうぞ」
「――好きにしろ」
 礼儀として名乗りつつ協力の旨を申し出れ、ば。ネロも無理には拒まぬものだ。
 直後にエーレンが放つは鞘の一撃。市民らの腹部、顎を打ち抜いて意識を刈り取らんッ!
 ネロも同様に顎を掌底で一閃。無用な犠牲を出さぬように立ち回れ、ば。
「やあはじめまして。ええと……ネロって呼べばいいの? いい名だね。
 即興で考え付いた割には――良い名前だ。本当に即興なのかな?」
 更に史之もネロに言を紡ぎながら、民らの注意を引き付けんとしようか。
 叩き込んだ打撃から生じたのは紅いプラズマ。
 衝き走る電撃が数多の者らの脳髄へと染み渡り――精神に負荷を与えよう。だがソレは殺す為の一撃ではない。迸ったモノによって怒りを生じさせ、連中の陣形に穴を開けてやるためのモノだ。不殺の意志と共に彼らを薙ぎ掃わん。
「名前には意味があるものだよね。それは――誰がどういう意図で名付けたのかな」
「……詮索は不要だ。答えはせんよ」
「まぁなんにせよ共に戦えるなら頼もしい限りだよ、僕も頑張るよ!」
 同時。ヨゾラもまたネロを意識しながら敵に相対しようか。
 鉄帝国住民に罪はない。可能な限り生かして助けてあげたい、と。
「君達に恨みはないんだ……痛みはあるかもしれないけど、ごめんね! どうか生き延びて!」
「まずはとにもかくにも、皆さんを眠らせてあげるのが重要でしょうね。
 ――先の罠を張った所にも上手く誘導できればいいのですが」
「ああ。それと、影の艦隊こそが本命だ……連中の隙を突いて一気に接近もしたいね」
 ヨゾラが放つは星空の魔術。形成された泥が煌めくような輝きも秘めながら、敵陣中枢へと襲い掛かるのだ……勿論ソレには不殺の意を込めて。更に迅やルブラットも邪魔立てせんとする市民をまずは片付けんと動こうか。
 鉄拳制裁。迅は拳で薙いで、ルブラットも刃を振るおう。
「我々を傷つけるのも本意ではないのだろう? 今は暫し眠っているといい。
 起きた時には平穏なる朝日が見える事を――約束しよう」
 上手く彼らの注意を引く事が出来れば、そのままワイヤー式の罠を活用しておきたい所だ、が――問題になるのは後方に位置している『影の艦隊』の方か。連中は砲撃を得手とする者達。戦線をそちらへと向けてしまえば、仕掛けた罠ごと吹き飛ばす事もあり得る。
「位置取りも気にする必要がやっぱりある、ってな――
 まぁいいさ。連中だって全方位警戒出来てる訳じゃねぇだろ。
 ――意識が逸れた時がチャンスだ。見逃すなよッ」
「ええ勿論です! 影の艦隊はいずれにせよ許せませんしね……騒乱の痛みがようやく落ち着いてきた頃だというのに、またこの国を荒そうなどと……! 殴り倒す為にも、機は見定めますよ!」
 されどキドーは連中の意識の狭間を狙わんと機を窺うものだ。ナイフを振りかぶって来る民を黒き犬の牙をもってして打ち倒しながら、しかし瞳は常に『影の艦隊』に向いている。今は住民らを相手取っているが……少しのチャンスとて見逃してやるものか。迅も同じ気持ちであるのか、影の艦隊を打ちのめせる一瞬を見定めんとしている。
 連中の外道も見過ごせないが、砲撃も厄介なのだから。踏み込める時に、踏み込もう。
 同時に解析の術も張り巡らせる。誰だ――? 遺書の断片を持っているヤツは。
 断片は狂気を発していると聞く。ならば明らかに神秘の力を感じるヤツがいる筈だ、と。
「……恐らくあの中央の個体、かな?
 なんとなく配置がアレを中心だし、守っているのかもしれない」
「ふむ――然らば、成さねばならぬでござるな。道を抉じ開けさせて頂く!」
 であればと。周囲を俯瞰するような視点で戦場を見据えていた雲雀がなんとなし気付くものだ。敵の動向の中枢にいる『影の艦隊』の個体を。敵にとっても大事なモノであれば自然と護るような布陣になるのは当然の事であったか――
 故、咲耶は跳び込む。
「さぁさぁ参られよ! 拙者が存分に相手をさせて頂こう!」
「一般人はなんとかしてみせるわ――砲撃に巻き込まれないようにもしておかないと、ね!」
 それは名乗り上げる様に。注目を集めて意識を自らに収束させるのだ。
 直後にはリアによる支援の一撃も齎されようか。
 邪悪を祓う柔らかな光で民らの力を奪っていくのである――続けざまには雲雀による八寒の如き冷気の術式が紡がれれば、より深く彼らの戦闘力を屠っていこうではないか。そうしていれば……戦闘慣れしていない民から順次、倒れ伏す者も出てこようか。
 だが。『影の艦隊』はそんな事になど頓着しない。
 駒が倒れたのなら駒ごと薙ぎ払うだけだと――砲撃を続行しようか。強烈なる弾幕が前線に降り注いで。
「なんて事を……! 無茶苦茶ねアイツら、命をなんだと思ってるのよ!」
「狂気で支配し従わせて、戦わせておきながら、構わず巻き込んで砲撃を仕掛けてよう、と……? やっと、やっと凍える様な、長い冬を終えて、歩き出そうとしていた、彼らを……なんだと、思って、いるのでしょうか……! エーレンさま、住民の皆様を、お任せできますか……!」
「無論だ、任せろ。誰一人として殺させてなどやらんよ……!」
「拙者の式神も手伝わせるでござるッさぁ、ここは拙者達に任せて先に征かれよ!」
 であればリアは即座に住民らを救わんと治癒の術を振るい――メイメイは戦の加護を前に出る皆々に齎しつつ、住民に被害が出始めればなんとか命を救おうと祈りを捧げようか。されば爽やかな薫り立つ風が皆を包み、降り注ぐ負を祓いて命を繋がんとする。
 同時に救出自体も忘れない。
 高速へと至るエーレンが無力化出来た住民を片っ端から木馬に運び込むのだ。卓越した動きを宿すエーレンであれば一度に何人も運搬するのもお手の物……そうして先程作り上げた陣地へと運びだせば、ひとまずは砲撃が着弾しない安全地帯だと言えようか。
 エーレンの超速度があってこそ砲撃の被害から次々と助け出す事に成功していた。
 更に咲耶もまた式神を操りて避難所たる陣地に住人を次々と移動させ続ける――
「――しかしやはり大元を叩き潰さねばキリがないな」
「行くのかい? なら僕も行くよ。連中には……色々ぶちまけてやりたいモノが多すぎるんだ」
 故にネロは赴かんとする。影の艦隊の――懐へと。
 だが一人で行く事はない、と史之もまた動きを見せようか。
 ……連中が正しい歴史がどうだのこうだの唱えようが、それ自体は妄言と流してもいいのだ、けれど。見過ごせない事がある。
「――これまで歩いてきた道のりを否定されるのは腹立つよなあ」
「……それに関しては同感だ。生きた道のりは、人それぞれにあるのだ。
 決死に生きた軌跡……連中如きに否定させなど、せん」
 だから一切合切おじゃんにして。
 やつらの希望を粉々にしよう。
 ――往く。住民らの数は減りて、影の艦隊に接近しうる道は見えているのだから。
 更にリアも大跳躍を果たそうか。ここが攻め時と見た彼女は、全霊を用いて接近するのだ。
「これ以上好き勝手はさせないわよ……倒れなさいッ!」
「操って従わせてる鉄帝の人達の後ろに隠れてるんじゃない、この馬鹿ー!」
 一斉攻撃。ヨゾラもまた、星をも砕かんばかりの極撃を叩き込んでやろうか。
 特に狙うのは『聖ロマスの遺言』を持っていると思わしき個体だ――
 リアの放つ光が薙ぎ、史之の終焉を刻む一撃もまた直撃すれ、ば。
『――――』
 影の艦隊の顔が、歪んだ気がした。
 影の艦隊の最大の特徴は『砲撃』である。
 ソレ自体はそれなりの威力があり、舐められたモノではない。されど砲撃を中心としているからか、連中は元々後方主体の者達だ。肉壁となっていた民らの大部分が排除され、接近戦が仕掛けられたのであれば――今度は一気にイレギュラーズ達が有利となる。
「ハッ。やっとご対面出来たなァ……テメェらには手加減なんぞしてやねぇから覚悟しろよ!」
 直後には遺言を持ちし者を特定したキドーがぶちのめしに掛かろうか。
 放つ礫が力となる。転がる内に膨れ上がるソレは強大なる存在となりて襲来。
 ――叩き潰してやれよ。
 キドーが呟いたソレは闘志に溢れ、同時に影の艦隊への全霊の一撃となる。
 攻める。攻め上げるのだ。この機を逃すべからず――
 更にこの場にはネロという味方もいるのだ。
「滅びるがいい。汝、不正義なり」
「やるものでござるな。やはりその黒衣は伊達ではござらぬか」
「……黒衣に託された誇りに掛けて、負けられんのだ」
「いやはやもし何かあれば助太刀しようと思っていましたが――必要なさそうですね!」
 五指を固めた拳の一閃が穿ち貫く。直後には咲耶の猛攻も続こうか。
 しかしネロは強いものだ。なぜ剣を抜かぬのかは分からぬ、が。万が一に備えて傍に位置していた迅の庇いを必要としない程度には実力を宿している。ただ……不殺には慣れていないのだろうか、民を前面に出されるとネロにはやや困った様子があったのは見て取れた。
(加減が苦手と言う事でしょうか――なら)
「むっ……礼は、言わんぞ」
「ええこちらはお気になさらず。貴方は自由に!」
 故に彼はネロの援護として民を引き受けるものだ。
 しっかりとした連携が出来なくても。今日と言う日、確かに隣り合って戦った事が縁を紡ぐ事もあるだろう。されば、とても耐えきれるものではない。影の艦隊如きになど。
「死んで許されると思うなよ? これだけの事をしでかして……
 死すらお前達には生ぬるい。地獄を味わうといい――ッ!」
『――!!』
「むっ……気を付けたまえ、悪あがきが来るようだ!」
 更に怒り心頭たる雲雀が――死兆星の輝きを紡げば、影の艦隊が薙がれるものだ。
 最早連中の体力も風前の灯火……だが。
 遺言を持っている個体を見定めていたルブラットは気付いた。影の艦隊が自爆覚悟で砲撃を繰り出さんとしている事を――やられるくらいならばせめて道連れ、という心算か。決死の砲撃が至近で放たれれば、凄まじき衝撃が響き渡りて。
「させるかッ! 無辜なる民を巻き込んだ罪――噛みしめていくがいい!」
 されど。民の収容を完了したエーレンが超速の勢いと共に切り結んだ。
 敵が第二射を撃つよりも早く接近し、一閃するのだ。
 誰が聖遺物をもっていようと関係ない。全員切り伏せれば――なッ!
『ガ、ガ――』
「落ちろ、奈落の底に」
 神速抜刀、影を討つ。
 断末魔を挙げさせる暇すら与えず――その首筋を両断せしめたのであった。


「うぅ、ぅ……こ、ここは……?」
「もう、大丈夫です、よ。もう、危険はありませんから、ゆっくりと……」
 戦いは終わった。数こそ多かったものの、イレギュラーズ達の尽力もあってか……鉄帝の民に死者は出ていないようだ。治療は必要かもしれないが、メイメイを中心に見て回っている――明るくなったら街の方へと皆を運んで行こうか。そうすれば助かるだろう。
 と、同時。やはりというべきか、ネロが姿を消さんとしている。
 やるべき事は終わったとばかりに。だから。
「ハッ……! ネロ様、ご助力、ありがとうございまし、た」
「……気にするな。私はお前達を利用したにすぎん」
「いえ、今回は、とても助かりまし、た。
 その黒衣を、身に纏うということは、ネロ様も、天義に縁のある御方、なのでしょう。
 なら、また、お会いする事も、できます、か?」
 ぺこり。頭を下げて感謝を伝えよう――
 たどたどしい口調だが、メイメイはしかと己が感謝の念を伝えんとする。
 あまり、説得は特異ではないけれど。もし、もしよければ。
 『――わたし達と一緒に、戦ってもらえませんか?』
 まっすぐに見上げて、意思を伝えるものだ。
 ……さすれば光り輝くかのような実直なる視線に何を想ったか、ネロは目を逸らして。
「さてな……私は表に出でぬ者。影から影に移るものであれば……これきりやもしれん」
「かー! ああいえばこう言う……いやなんか分かるぜ。
 いるんだよ、弊社のスタッフにもお前みてェなヤツがさぁ。
 良くも悪くもこう! で前しか見てねェの」
 続けて言を紡ぐのはキドーか。大げさに、額に手を当てて身振り手振り
 顔の脇に両手を立てるジェスチャーも行いてネロの気質を見定めようか――
 真っすぐのだ、と。やる気はあるが、力加減が下手で視野狭窄になりやす いタイプ。
 誰かを頼る事を知らず。分からず。或いは気恥ずかしくて言い出せない。
 だから足元がお留守になってたまにヌケてるようになったり――
「言葉が足りなくて非友好的に見えたり、とかなぁ。お前さん悪いヤツじゃなさそうってのだけは分かるぜ――ただよ。名前はなんだぁ? 黒いからってネロって、犬猫につけるようなセンスしやがって! そいつばっかりはどうなんだぁ?」
「……フッ。犬猫に付けるセンス、か」
「あん?」
 刹那。キドーの発言の何が面白かったのか――
 ネロは、苦笑するような感情の色を、口端に灯そうか。
 それも一瞬の事であったが……さて?
 いずれにせよ幸いにしてネロは敵なる者ではない事だけは確かだ。ならば、気長に付き合っていけばいい――一度踏み外した賊上がりと比べれば――随分と扱いは易そうだ、と。
「初めまして、ネロさん。ヨゾラって言います。
 戦いも終わったし、改めて――よろしくね!
 それにしても徒手空拳でずっと戦うなんて……すごいなぁ」
「拙者も改めて……如月=咲耶でござる。ネロ殿、どうやら様子から見てお主は聖騎士団員ではござらぬな? されどその黒衣が偽物の類であるとも思えぬ――はたしてどこの所属でござるか」
 と、続けて住民の介抱をしていたヨゾラに咲耶も一段落したのか、ネロへと至ろうか。
 問いたい事は多くある。なにより共通しては『一体何者なのか』と言う事だろう。
「どこの所属、か……それは知らぬ方が良いだろう。
 だが一つ言える事があるとすれば、私は別にお前達の敵ではない。
 天義に害する者が、私にとっての最大の敵であればこそ」
「ふむ――影なる者、と言う事でござるか。『闇』に属す……いやこれ以上は無粋とも言えようか。相分かった。されど、拙者達の望みもまた遂行者と冠位の討伐。手の数は多い程良い。拙者達の事は頭の片隅にでも留めておかれよ。拙者達は立場を交える事もきっと叶おう」
「そうだよ。遂行者達相手に戦うなら――味方だ。一緒にまた、きっと戦える。
 少なくとも僕はネロさんとまた一緒に戦ってみたいよ。
 その剣を使わないの……は、また何か理由があるんだろうけれど。
 本気のネロさんも見てみたいし、ね」
「……仮にもう一度があったとしても。期待に応えられるかは、分からんがな」
 だがネロは言葉を濁して応えない。恐らくはあまり表沙汰には出来ない組織、もしくは団体なのだろうかと咲耶は推察しよう。どこの国にも多かれ少なかれそういうのはあるものだ……
 それでもネロはきっと悪い人ではないかろヨゾラは再びの縁が紡がれる事を期待する。
 遂行者を互いに敵とする以上――向いている方向は同じなのだから。
「しかしネロ殿は我らよりこの騒動について詳しい様子。
 今この場で情報の共有を行う事も叶わないでしょうか……?」
「そうだね――貴方は遂行者について元から知っているような素振りをしているけど……よければ、教えられる範囲でいいから教えてもらえないかな? 僕達もあんまり遂行者の事については詳しくないんだ」
「それに、ねぇ。あの影の艦隊に覚えはある?
 俺は初めて見るんだけど、そっちは何か見覚えがある感じだったよね。
 遺言の件も含めて。よかったら知ってることを教えてくれないかな?」
 そして迅と雲雀、それから史之は、ネロ自身ではなく……
 彼が握っていると思わしき情報を尋ねてみようか。
 遂行者。影の艦隊。知りたい事は山ほどあるのだから。
「…………影の艦隊は遂行者サマエル配下の連中だ。
 より厳密には奴に協力する狂気に落ちた旅人の影響で生み出されたと聞く。
 たしか名前は……マリグナント、と言う奴だったか。私は逢った事はないがな」
「ふぅん、成程……?」
「遺言に関しては私も仔細は知らん。だが預言者ツロが関わっているのは間違いない――」
「ツロ?」
「遂行者の中でも例外的に『冠位傲慢』と定期的にコンタクトを取っている男だ。
 打倒しなければならん罪深き咎人と言えようか。
 だが奴がどこにいるのか分からん故、討ちに行く事も出来ん」
 つまりは遂行者達の中でも重要な役割を占めている男が裏に潜んでいる、と。
 ……それにしても案外情報を出してくれるものだ。
 戦いが始まる前は、まだあまり関わろうとしてくる態度はなかったのだが。
 戦闘で隣り合って戦った事――そして彼を援護した事――
 それらが彼の心を多少、氷解させているのだろうか。
「そうですか――ありがとうございます、ネロさん!
 今はまだ余裕がないと思いますが、いつかご飯食べに行きましょう!」
「食事か……斯様な未来が訪れる事があれば、な」
「その時には、是非あなたの真名も聞いてみたいものだね」
 ともあれと迅は礼を述べ、そして史之は――紡ぐものだ。
 それまでは『ネロ』と言う事にしておこう、と。
 あなたが秘したいのならば、秘したままでいい。『その時』が来るまで……と。
「あーちょっと待ちなさいネロ!
 ほら、こっち来なさい! 最後の砲撃でちょっと怪我してるでしょ――
 包帯ぐらい巻いてあげるから、ちょっとこっち来なさい。そうそうこっち、こっち」
「待て、引っ張るな。この程度大したことはない」
「ん、なーに言ってんの。こういうのはね、放っておくと後でじわじわと……あら?」
 直後。今度こそ踵を返そうとしたネロ、を。強引に引き留めたのはリアだ。
 如何にネロが精強とはいえ無傷はあり得ぬ。故、傷の治療をしようと……
 したのだ、が。傷口を見て気付いた。やけに治癒速度が速いような……?
 ほとんどもう塞がっている。何かおかしい。彼も戦える者である以上一般人ではないだろうが、先の砲撃で負傷し治癒してきた一般人と比べてもあまりに軽傷が過ぎる。これは一体……?
「んー……まぁいいわ。アンタの事情はまだ聞かないけど。
 でもさ。アンタを追っていればいずれ黒幕に辿り着けそうなのよね」
「……それは期待しすぎだ。私は遂行者を追っているが、未だ奴らの本拠地すら分からぬ」
「勘よ勘。そう言う訳で、これからはアンタの事も追いかけるから。
 もう旋律は覚えたから、隠れても無駄よ。近くに来たら分かるんだからね――
 よろしくね、ネロ!」
「……フッ。随分と、言葉遣いが雑な、か弱い乙女もいたものだ」
「はぁ?」
 何かご不満――? リアは横目でネロを見据えるものだ。
「ふむ。治療が不要とは……あぁ、まぁ傷が薄いなら結構な事だろう。
 ともあれ、ありがとう。共に民たちを助けてくれて。
 君がいなくば犠牲になっていた民もいたかもしれない」
「謙遜するなイレギュラーズ。彼らを救えたのは、お前達の強さが全てだ」
 同時。ルブラットもまた、礼を告げておこう。
 例え異教の神の為に戦っているとしても、救われた命があるのに違いはないのだから。
「……今後も敵は鉄帝に手出しを続けるのだろうか?
 私にとって鉄帝は『悲しんでほしくない』と思う存在が多い土地でね」
「分からん。だが、連中の本拠は間違いなく天義にある。
 ……鉄帝を再び襲う前に、天義をまずは征さんとするだろうな」
「ふむ……」
 そして天義が終われば次は世界を――と。そう言う心算だろうとネロは語る。
 全国的に遂行者の姿が目撃されているのは、その前段階だ。
 いつかアレが本番になる時がくる。その時また鉄帝が襲われるだろうと……
「ともあれ見事な手際だった。ネロが天義のため戦うなら、また共に戦うこともあるだろう――なにやら見えぬ事情があるようだが……生きていた方が長く働ける。お互い無事だといいな」
「無理にとは言わないけれど、イレギュラーズはきっと貴方の味方に成れると思うよ。利害は一致してるんだから……貴方にとっても都合の良い"利用先"になれるんじゃないかな。考えておいてよ。閉ざす門はないから――さ」
「あぁ……全く。お節介な者が多いな、イレギュラーズは。……壮健であれよ」
 故に。天義側へ戻らんと歩を進めるネロ。
 最後に語りかけるはエーレンに雲雀か――
 雲雀は、なんともネロが放っておけなかった。
 なんとなく……知り合いに雰囲気が似ている気がしたから、どうしても。
 だが。雲雀にしろエーレンにしろきっとまた会えるとどこか確信が胸の内にあった。

 そしてそれはもしかすると――遠い日の事では無いのかもしれなかった。

成否

成功

MVP

エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 謎の黒衣騎士ネロ。イレギュラーズとは関わらない心算だったようですが……成り行きとはいえ共に戦った事で、彼の心境にもやや変化があったかもしれません。また彼はいずれ皆さんの前に姿を現す事でしょう。その時はもっと心を開いているか――はその時に。

 ありがとうございました。

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