PandoraPartyProject

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Lightia the Mother Dragon

 果ての黄昏――ヘスペリデス。
 前人未踏であった覇竜領域の最奥に位置する約束の地。
 そこは冠位暴食ベルゼーによって、人と竜とを繋ぐ架け橋と夢想された美しい園であった。
 ベルゼーを打倒するため、この地へ足を踏み入れたイレギュラーズは、竜達の手荒い歓迎を受けていた。
 人と竜との架け橋は、皮肉にも苛烈な戦場へと変貌を遂げている。

 ベルゼーは竜を育て、亜竜種の集落を守り、彼等を愛するように生きてきた。
 これまでイレギュラーズに伝えられた情報は全て、ベルゼーの優しさを物語っている。
 魔種とは世界を滅ぼす存在であり、人類にとって不倶戴天の敵だ。
 なのに何故。ベルゼーは、かくも情け深く、優柔不断で、温和なのだろうか。
 答えはきっと、ある狙撃手の言葉にある。

 ――嫌いなものは、美味しくないから。

 つまりベルゼーが冠位暴食であるからこそ、全てを平らげる存在であるからこそ――人を、そして竜を好きになってしまうのだ。愛してしまうのだ。そもそもベルゼーは戦いたくなどなく、戦う理由もない。
 だから彼の権能には厄介な性質が備わっているのだろう。

 美しかった園には今や雷鳴が轟き、宙空に浮かび上がった小石が震えている。
 風も砂も花びらも、まるでひとところへ吸い寄せられるようになびいている。
 ベルゼーの権能には明確な欠陥があった。それは制御不能であるということだ。
 あたかも食欲と同様に、腹を減らせば暴走をはじめ、何でも飲み込んでしまう。
 かつて三百年ほど前に暴走しかけた際、先代六竜である『光暁竜』パラスラディエが身を捧げた。現在の暴走は、それをほぼ消化しきったから発生したのだ。

 パラスラディエ――人の前ではリーティアを名乗る女性は、この地でイレギュラーズを導いてきた。
 彼女は幻影を外へ顕現させ、イレギュラーズと行動を共にしている。
「星詠みは、確かにそう告げてはいました、とはいえ……まさかこんな」
 ベルゼーを滅ぼすためには、到達せねばならず、しかし手段は存在していなかった。
「運命というものは、あるいは定められているのかもしれません、けれど――」
 リーティアの幻影が一行へ向き直る。
「皆さんの帯びた可能性というものは、きっと別の道を切り開くものなのでしょう」
 海洋の少女が起こした奇跡は、さながら未知の航路を開拓するようにベルゼーの権能を穿った。
 海の民が新天地を求め、長い願いと闘争と屍の果てに、ついにつかみ取ったように。
「ならばその献身を以て、私の術を重ねましょう、確実に成し遂げてみせます」
「リーティアの術――罠と言っていたか。具体的にはどのような力なのだろうか?」
 問うたのはベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)だ。
「異界の伝承トロイアの木馬とは仰っていましたが」
 ユーフォニー(p3p010323)も続ける。
 リーティアはベルゼーの権能、人も竜も大地も全て呑み込まんとする『飽くなき暴食』――要するに腹の中へ魔術的な罠を仕込んでいるという。
「ベルゼーはかつて食らった存在を、自身の領域内に再現することが出来ます」
 例えば――
「――竜とか!」
「……っ」
 イレギュラーズは息を飲んだ。
 リーティアは先代六竜であり、娘である年若いアウラスカルトと比較してあまりに強大な能力を持つ。
 そんな存在を再現されては勝利など夢のまた夢である。
 第一に再現されるのはリーティアだけではない。かつて食らった様々な存在が含まれるはずだ。
 そもそも論として、冠位魔種などという代物は、どだい人の手に負えるような存在ではない。彼等は原初のオールドセブンであり、滅びのアークの権化である。
 だからこれまでイレギュラーズは、細い糸を手繰るように勝ち筋を見つけてきた。
 自身の権能を配下へばらばらに貸し与えた怠惰はともかく。必要だったのはパンドラの奇跡であり、天義の神器であり、決死の大軍であり、諸々の古代兵器でもあった。
「だから策があるのです。私はこれをですね、軒並み『乗っ取り』ます!」
 リーティアが目の横にピースサインを引いた。
「お腹の中、滅茶苦茶にしてやりますよ! えへん!」
 竜が、それも天帝種(バシレウス)であれば、さしもの冠位魔種とて胃潰瘍どころの騒ぎではない。
「乗っ取る……ですか」
「それがつまり、策ってことなんだね」
 リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が静かに繰り返す。
「はい、とはいえ自由自在に動かすことまでは出来ませんが。ある程度動きを縛ることは可能でしょう」
 滅びのアークが形作る大量の怪物を、多少なりとも制御するなど。
 途方もない大魔術ではないか。
「ということは、大幅な弱体化が望めるってところかな?」
 ジェック・アーロン(p3p004755)の言葉に、リーティアは「そうですね!」と返した。
「とにかく作戦を考えましょうか、色々再現されると思いますが」
「私達がそれを何とかしなきゃなんだよね」
「どんなものが出てくるんだろう」
 笹木 花丸(p3p008689)セララ(p3p000273)に、リーティアが頷く。
「ですので、皆さんには娘と共に、私の再現物と戦っていただくのが良いかと思っています」
「せ、先代六竜とですか!?」
 それも歳経た伝説の古竜と。しにゃこ(p3p008456)の声は思わず上擦った。
「間違いなく居るでしょうし、皆さんであればこそお願い出来るかなって」
「……」
「それに自分がやりそうなことは分かりますし、制御もしやすいと思うんですよね」
(なるほど……これで点と点が結ばれたか)
 ベネディクトは得心がいった。リーティアが話をはぐらかしていたのは、これが原因だと。
 娘にいつ開示するかで悩んでいたのだろう。
 そしてふと視線を移したその時だ。
 無言で話を聞いていた小さな少女が、勢いよく立ち上がった。
 アウラスカルト(p3n000256)だ。
 眉をキっと釣り上げている。

「母よ、この嘘つきめ!」

 作戦を考え始めていたイレギュラーズ達が、にわかに静まりかえった。
「私は別に嘘なんてついていませんが」
「共に、今しばらく共に在ると、約束したではないか」
「……期限付きなのは分かっていたでしょう」
 リーティアは困ったように眉尻を下げる。
「だが! だが! 汝は我に、汝を殺せと言っているに等しいではないか!」
「いいえ、単に滅びのアークが再現した幻のようなものですよ」
「だとしてもだ!」
「……」
「汝の再現物を汝が操るのであれば、汝自身といかほどの違いがあるというのか!」
「操るといっても、どちらかというと私は動きの邪魔をするのですが」
「そんなこと、わかっておるわ!」
「……」
「我はそんなこと、そんなことを言っておるわけではない!」
「……アウラスカルトちゃん」
 戦慄く少女を、アーリア・スピリッツ(p3p004400)がそっと抱きしめ、一行に背を向ける。
 アウラスカルトはその胸に顔を埋めたまま、しゃくりあげはじめた。
(どんな顔だって、見せないようにしてあげるわ)
 この誇り高い小さな少女は、顔をくしゃくしゃに歪めているだろうから。

 リーティアとの触れ合いが、いつかは終わることを誰もが知っていた。
(……リーティア、さま)
 メイメイ・ルー(p3p004460)が俯く。
 それが『そろそろ』であることも。
「母よ、我は汝をうざいと言った」
「……」
「失せろと、どこかへ行けとも言った」
「……」
「引き裂いてやるとさえ言った」
「いいですよ、そんなこと。別に気にしていません」
「いやだ、良くなんかない! そんなことあるものか!」
 アーリアの腕の中で、少女の肩が震えている。
 過去に放った己が自身の言葉に焼かれ、傷つけられている。

 ――それからしばしの時間が流れた。
「……もういい」
 腕の中で、掠れた声が聞こえる。
「アウラスカルトちゃん」
「大丈夫という意味で言った」
「……」
「我は……これは我が言わねばならん、から。だから腕を放してほしい」
 アーリアにとって、初めは恐ろしかった。竜という存在は。
 強大で、粗暴で、尊大で、我儘で、いけ好かない――
 爪の一振りで、人の営みなど瞬く間のうちに破壊されつくしてしまう。
 だが今、腕を放すよう訴える少女は、アーリアの中ではそんな存在ではなくなっていた。
 それはみずみずしい感情を持つ、小さな少女に過ぎなかった。
 けれど強い娘だとも思った。
 竜だからではない。
 自身の感情と運命とに、向き合おうとしているからだ。
 目の前の少女は、ゆっくりと、けれど着実に成長しようとしている。
 かつてアーリア自身も別の形で通った道を、歩こうとしている。
 竜であれば自身の腕を振り払うなど、造作も無いのだろう。
 けれどアウラスカルトはそうしていない。
 あくまで頼んできたのだ、自身の意思で。だからもう断る理由なんてなかった。
 全てが終わったあとで、もう一度抱きしめ、撫でてやるのが己の役割なのかもしれない。
 大人になるのなんて――願わくば――ゆっくりでいいのに。
 そんな祈りと共に、アーリアは腕の力をそっと緩めた。
 腕を抜け出したアウラスカルトがリーティアを――母を見据える。
「認める、謝る、我が愚かであった」
 産まれてから二度目の涙をこぼしている。
「もう言わん。約束する。絶対だ。竜は約束を決して違えん、だから……!」
 それが叶えようもない、我儘にすぎないことをアウラスカルト自身も自覚しているだろう。
 ただ叶わずとも、滅茶苦茶でも、理屈なんて破綻しきっていても、言葉にしたいこともあるだけだ。
 声音はか細く、弱く、ついに途切れた。

「アウラスカルト、あなたは言いました」
 リーティアが力強い視線で娘を見つめた。
「この勇者等の剣となり盾となり、滅びへ立ち向かうと」
「言った」
「あの言葉は、嘘ですか?」
「嘘ではない」
「誓えますか?」
「既に誓っている」
「では、あなたが為すべき事は、分かりますね?」
「……」
 しばしの静寂があった。
 そして――
「分かった、分かっている」
 アウラスカルトが顔をあげる。
 戦慄く唇をいなし、涙を払い、決然と。
「我にその背を預けよ、イレギュラーズ。我等は邪しき権能を祓い、冠位暴食を討ち滅ぼす」

 ――我が力を以て、汝勇者等が滅びを打ち砕かんことを! 必ずや!!

 ※ヘスペリデスの最奥――ベルゼーへの道が切り開かれています。
 ※終わりの時が近付こうとしています。
 ※リーティアが『罠』を準備しています。


 ※『双竜宝冠』事件が新局面を迎えました!
 ※豊穣に『神の国』の帳が降り始めました――!
 ※練達方面で遂行者の関与が疑われる事件が発生しています――!

これまでの覇竜編シビュラの託宣(天義編)

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