PandoraPartyProject
光鱗の道
「嫌な風」
そう呟いたのは珱・琉珂 (p3n000246)であった。
幾つもの戦いに一先ずの決着がついたか。だが――進むべき先は定まっている。
越えねばならない存在を前にして、人はどの様に乗り越えるのか。
そう思えば、『決まっていた』のかもしれない。
ずっとずっと、前からそうだった。
『あの時』も悍ましい程の絶望が、そこにあった。
誰もの命を愚弄し、奪い去っていく嵐の気配。
一度踏込めば、命など泡の如く溶けて消え行く運命であった。
それでも人は新天地を目指した。
産まれに染み付いた在り方は、父の背を見て感じたものだったのだろうか。
あの海を越えれば新天地が広がっている。故、己が犠牲になろうとも誰ぞが辿り着く未来を望んだのだ。
『絶望』で亡霊を見送ったときも、『都市国家』で蒼穹に挑んだときも。
あの鮮やかな青には魅せられていた。いつか誰かが辿り着くのなら、それは自分でなくともいいと、そう思って居た。
――そうだよ。だからさ、これはアウラスカルトの為でも、琉珂の為でも、ベルゼーの為でもなくて。
いつか、いつか辿り着く誰かのため。私じゃなくていい。先を目指した誰かのために。
……例え命を懸けるとしても、刃が彼の命に届かないとしても、私は先を願う―――
たったひとりの、先行くだれかのひかりになりたかった。
「ッ、進んで――!」
夢見 ルル家(p3p000016)が言って居た『胃に飛び込めば何かを救える』と。
ならば、イリス・アトラクトス(p3p000883)は示す。一度入れば二度とは戻れないならば、戻れるだけの有りっ丈の奇跡をそこに呼び寄せて。
光に飲まれる。
青ざめた海。幾重もの命が折り重なって溶けた波濤。
この航海はまだ、続く。
世界を救うための途方もない命の果てだ。
シルフォイデア。お父様。
海は、屹度綺麗でしょう? 褒めてくれたって良いんですよ。
家出娘が世界を救うために、奇跡を願うんですから。
私はひかり。
眩い光鱗の娘。
このひかりに、どうか――
最後の最後、風穴の空いた大口から強大な古竜語魔術を放たんとした竜の、魔力を呑み喰らう『暴食』の光が広がった。
収縮し、するりと竜と共に事切れてしまったのは、一人の娘。
剣を仕舞い込んでからクロバ・フユツキ(p3p000145)は息を呑む。するすると走るようにして、ノリア・ソーリア(p3p000062)は宙を泳いだ。
「以前 出あった ベルゼーさんは みずからの食欲に あらがっていましたの。
――であれば 暴走中の 権能も 満ち足りるときを ねがっているでしょう」
ノリアは小さく呟いた。あの光が、イリスが作ってくれたチャンスが僅かな時間を稼ぐことが出来る。
皆で進む為の一歩を作り出せる。おいしさはノリアの自慢。尻尾だけで許してくださいというおねがいと、他の物では物足りないと思わせる呪い。
美味たる人魚は権能だって狂わせると決めて居た。一時だけで良い。一時だけでも、自分の方を向いてくれれば。
ノリアが顔を上げた。イリスの示した先――そこが。
「いやはや……、どうしたって来て仕舞うんですからなあ。お嬢さん、大切な人が居るのであれば気をつけた方が良い」
ベルゼー・グラトニオスの権能。その『腹の中』か。
自らの腹を撫でてからベルゼーは苦々しげに笑う。
「ああ――」
世界を護らんとする者達。
人々は、彼等を英雄と呼ぶのだろう。死をも恐れず脅威へ立ち向かう者達。
暗黒の海を越え、荒れ狂う絶望をも踏破し、眠りの淵にあった森を目覚めさせ、憤怒の太陽をも穿った者達。
『五番目の障害』は佇み、イレギュラーズを眺める。彼も。琉珂も。
皆がやって来た。
「――ああ、おまえも、琉珂も美味しそうですなあ」
いっそ、全て丸めて飲み込んでしまえれば。
こんなにも苦しくも事なんて、無かったのに。
※『怪竜』ジャバーウォックらを退け、ベルゼー・グラトニオスの元へ辿り着く事が叶いました――!
※『双竜宝冠』事件が新局面を迎えました!
※豊穣に『神の国』の帳が降り始めました――!
※練達方面で遂行者の関与が疑われる事件が発生しています――!
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