PandoraPartyProject
戦の後、これから
「御帰還、お待ちしておりましたぞ」
包帯だらけのバイル・バイオンがその有様よりずっとかくしゃくとした調子で頭を垂れた。
年齢も重傷も感じさせない彼の姿は、つい数日前墜落した空中戦艦に乗り合わせていた老人とは思えない位のバイタリティに溢れている。
「我等、この日をお待ちしておりましたぞ。ご無事である事は確信しておりました故に」
「……まぁ、戻ったには戻ったけどよ。爺さんの考えてる所とはまた違うんじゃないか?」
上機嫌かつ饒舌なバイルの一方で水を向けられたヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズ『前』皇帝は何とも微妙な苦笑いを浮かべていた。
数名の集まった――王の居場所……と言うに憚られる襤褸になった玉座の間は緊急の補修だけを済ませた『悲惨』な状態だ。
暴れに暴れたバルナバスとそれ以上に突き刺さった三発のラトラナジュの火はリッテラムに痛々しいまでの爪痕を残していた。
一朝一夕にはとても元通りにはならない王城の姿はまさに今の鉄帝国を思わせる。
「何か違いますものか」
憮然としたバイルは当然のような口調で言った。
「『陛下』には再びこの国を治めて貰わねばならぬ。これだけ国が傷めば外敵も黙ってはおらぬでしょう。
因縁深き宿敵――幻想(レガド・イルシオン)、天義(ネメシス)の連中も何を企むか分からぬというもの。
この事態を収めるには貴方様以上の……否。『以外』の適任はおりますまい」
「のう、ザーバ」と同意を求められた南部戦線の守護神、不敗の『塊鬼将』ザーバ・ザンザは顎を撫でながら「まぁ、なぁ」と何とも微妙な返事をした。
「確かにヴェルスの復位以上の好都合は無いだろう。だが……」
「だが?」
「『先の戦闘を帝位戦と呼ぶのは少し難しいのは事実だ』。
『先帝』バルナバスは、ヴェルスが倒した訳じゃあない。
それに何より、コイツはらしいと言えばらしいが、先の動乱の間も鍛錬を優先しておった位故になあ。
……果たして『帝位戦の例外』として復位を妥当とする根拠があるか否かという話はあろう」
ザーバの正論にバイルが唸る。
六天覇道はそれぞれに天を争い、バルナバス治世下の混乱のゼシュテルに赫々たる成果を残していた。
『退位後』は一転して個人主義に走っていたヴェルスは民や国を助く存在では無かった筈だ。
彼の『身勝手』を考えれば、少なくとも元鞘に戻る正統性の逆風と指摘せぬ訳にはゆくまい。
「我等は帝政派じゃ! ならば、我等の功績は陛下が為、陛下のものとするべきじゃ!」
「まぁ、俺様が言えた義理でもねーけど? 最後の最後は結構ヴェルスも頑張ったんじゃねーの?
何だかんだでヴェルスが居なけりゃ勝てなかっただろ。
一緒に戦(や)った俺様が保証するが、鍛えてなきゃあ死んでただろうし――」
『黄金の獣』ことキール・エイラットの援護射撃を受けたバイルが「そうじゃ!」とまくしたてた。
「第一、ザーバ! では問うが……陛下が戻らぬとしてじゃ! お主が帝位を継ぐとでもいうのか!?」
「俺は頼まれても帝位は御免だ」
一部ザーバ派の青年将校達がこの返答に苦虫を嚙み潰すような顔をした。
彼等はザーバの即位を期待していたが、本人の調子を見る限りではこの野望は叶いそうにないのは確実だ。
「アーカーシュは確かに良い仕事をした。辺境伯(ローゼンイスタフ)も、クラースナヤズヴェズダーもな。
しかし政治的にはラド・バウの連中も含め、『そうはならない』のは分かり切った話だろう?」
「それも一理無くはない。鉄帝国の帝位なる重みに『消去法』が相応しいとも思わんがな」
そこまで言ったザーバはちらりと郷田 貴道(p3p000401)に視線をやった。
周りと負けず劣らずに襤褸になった彼はローレットの代表の一人としてここに在る。
理由は言わずもがな――
「『倒した』奴にも意見を聞きたい所だな」
――彼の拳が最後にバルナバスをぶち抜いたから、である。
「聞きたいも何も」
しかし、貴道もやはり政治的な人物で無いのは確かだろう。
「さっき、将軍さんが言ってた通りさ。『あんなものは帝位戦じゃあないからな』。
俺の拳は奴を倒したかも知れないが、それだけだ。『俺の拳だけで奴を倒した訳じゃないなら帝位戦は成り立たないだろう』?
……全くくだらねぇ話だが、入れた打撃のデカさで見るならアーカーシュの狙撃手(ジェック)でも呼んでくる方がずっと適任だぜ」
今頃、ここに居ないジェック・アーロン(p3p004755)はくしゃみをして悪寒にでも苛まれている事だろう。
「それに、俺はまだ鍛錬中でね。その椅子に座って大人しく何て――してられそうにねぇや」
「良く言った。上を見るなら――それでこそだ」
貴道の言葉にラド・バウのスーパーチャンピオンたるガイウスが重く頷いた。
ガイウスが――ラド・バウ一流の戦士達が帝位に全く興味を示さない理由は貴道の台詞が全て説明していると言っても過言ではない。
どれ程登り詰めようとも道半ば。それが戦士の矜持なれば。
何より、現実問題。この国の帝位は血生臭く面倒な挑戦者達に魅入られている。帝位についた所で鉄帝三強でも無ければまともな維持さえ難しかろう。
つまる所、帝位の早晩の浮動化は再びの国の不安定化を呼び寄せる。
「選択の余地は無い、という事じゃ。
申し上げるのも心苦しいが、此度の戦、元を質せば御身の不徳によるもの。
一連の混乱の責任を取るがこの場の筋と思うが如何か?」
勝ち誇ったバイルにヴェルスは肩を竦めた。
(……さて、逃がしてくれそうにねぇな)
ヴェルスは内心で呟いた。
彼は彼で此度の『敗北』は余りに手痛く。
ラド・バウの戦士達と同じように我が為に生き直してみたくなったのは事実だったのだ。
しかし、バイルの言う責任論もまた事実である。
『冠位のあの様を思えばこの要求はそれなりに理不尽なものではあったが、それを飲み込むが故の皇帝(さいきょう)なのだから当然だ』。
故にヴェルスは少し思案してから口を開いた。
彼の視線はむすっとした顔をしたままのエッダ・フロールリジ(p3p006270)に注がれていた。
「俺は俺のしたいようにしたいし、ザーバの言う事も爺さんの言いたい事も分かる。
だから、ここは第三者に尋ねる事にしよう」
――碌に目も合わせなかった癖に。
「エッダ、お前はどう思う?」
――悪びれながら知らない顔をしていた癖に。
(狡い男!)
ヴェルスは真っ直ぐに尋ねるだけだ。
人の気も知らないで――いや、知らなかったら余程マシだ。
『恐らく彼は知っていて、彼女に尋ねたに違いないのだから』。
エッダは小さく吐息を漏らした。
彼女はそうしてゆっくりと――
※バルナバス・スティージレッドが倒され、リッテラムにゼシュテルの旗がはためいています!
※帝都決戦に勝利しました!!
※All You Need Is Power(鉄帝国のテーマ) 作曲:町田カンスケ
※ラサでは『月の王国』への作戦行動が遂行されています!
※昨日(4/1)は何もなかったよ……?
鉄帝動乱編派閥ギルド |
---|