PandoraPartyProject
腐実の王国
あなたがたはむなしい世界を生きてはならない。
わたしのみことばには知恵と知識のいっさいがこめられている。
偽りの言葉に惑わされることはなく、わたしの言葉を聞きなさい。
あなたがたがゆるがず、わたしを信じるならば天の言葉が降ることだろう。
――アラト書テーモスへの手紙 第三章一節
聖都フォン・ルーベルグに激震が走る。聖域たるサン・サヴァラン大聖堂で立ち尽くすシェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世の唇が震える。
「なんと……、なんと言うことだ……」
天使が喇叭を奏でるステンドグラスは枢機卿アストリアがこの地を去ってから新たに設置されたものだった。神の意志を遂行するが為、都の『神の居所』は瓦礫より美しさを取り戻した。
聖域で有ながらも民の憩いの場所として定期解放される事になったサン・サヴァラン大聖堂には象徴たる聖遺物が存在している。
啓示の書――その原本だ。
正式な名は畏れ多くも口にすることはできまい。神託が降れば書にはその啓示が示される。
シェアキムへ、たった今、啓示が降りたのだ。
――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
神託は啓示の書の端から悪しき気配を漂わせた。飾られた盃からは毒が沸き、銀は青く水には毒を孕む。
立ち竦んだ法王を護るように聖騎士達は直ぐに駆け寄った。民は大聖堂から退去を命じられ騎士達は招集をされる。
大聖堂内で見た全てへの箝口令が敷かれたが人の口に戸は立てられぬ。直ぐにでも『恐ろしき神託』は噂として出回っていく事だろう。
「どの様な神託が」
レオパル・ド・ティゲールの問い掛けにシェアキムは呆然と口にした。
仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
わたしの言葉が聞こえる者よ。光あるものよ。神はあなたがたをやみの力から救い出してくださった。
むなしき世界を耐え忍ぶ者よ。わたしたちは神のために『確定未来』を修正しなくてはならない。
「確定、未来――――?」
同時刻、幻想王国国境沿いに位置する港町エル・トゥルルに存在する『啓示の書』その一片が毒の炎に焼かれて燃えた。
翼を持った影の天使達が幻想王国へ向け進軍を始め、彼等は崩れないバベルでさえも解析できぬ言葉を口にし突き進む。
「聖女ルル」
馬に跨がっていた幼い少年は楽しげに歩いている女を見詰めた。うっとりと笑う彼女は純白の装束を揺らし「なにかしら」と声を弾ませる。
「偽の預言者へ神託が降った」
「有り難う、アドレ。準備は万端ね。我らが主の為に『正しき歴史』に修復をしましょう?」
女の唇が吊り上がる。聖女ルルは遺失言語たる異言(ゼノグロシア)を用いて影へ、そして狂気に陥った人々等に何かを語りかけた。
崩れないバベルでも理解は出来まい。選ばれし者達の言葉。
士気が向上する。其れ等はヴィンテント海域を越え幻想王国へと向かうのだ。ヴィンテント海域の先に待ち受けるはフィッツバルディ領か。
聖女には幻想貴族の名前など、あちら側で起きている動乱など興味は無かった。ただ、己が見据える『確定未来』への修復を望むだけだからだ。
「主は仰った――
世界は滅びに向かうであろう。
災厄の獣は唯一無二なる確定終局を齎し、世界を破滅へと導くだろう。それは遁れ得ぬものである」
「そうして?」
「街に歓楽と共に訪れた滅びの気配。蔓延して幻想は朽ちることだろう、と」
幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の公演が失敗に終わるなど合ってはならない。
――滅びを回避するために確定終局を回避しようなどと、可能性<パンドラ>が蓄積するなんて事は!
「主は心を嘸痛めていらっしゃるでしょうね。ルルが世界を修復して差し上げますから」
街は狂気に包まれる。人々は狂気に駆られ刃を握った。汝、悪魔を殺せ。汝、悪魔を滅せよ。汝、正しさとは何だ――
振るい上げた刃は、隣人と傷付ける。
聖女の侵攻と共に天使の影が海岸線に踊った。
――そうして、幻想王国側に届いた早馬は『異質なる存在による進撃』への一報であった。
※天義港町エル・トゥルルを中心に、影の軍勢による侵攻が始まりました――!
※新春RCキャンペーンが開催されています!
※アドラステイア最終攻略作戦が敢行されています……!
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