PandoraPartyProject

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もう逃げない

もう逃げない

 白い雪が斜めから吹いて頬を冷たく濡らす。
 ざくざくと雪の道を歩きながら、ギルバート・フォーサイス(p3n000195)は苦悩していた。
 何故だか頭にこびりついて離れない言葉がある。

 ――穢れた血脈に雷神の制裁を。

 吹雪が勢いを増す。視界が雪に覆われる。
「はぁ……」
 吐いた息が即座に白い結晶となって空に霧散した。
 ポラリス・ユニオンは、仇敵ノーザンキングスとさえも休戦の契りを結び、今や新皇帝を打破するための大道を歩もうとしていた。
 本当ならば、あのヴォルフ伯は、統王シグバルドを狩りたかったろう。
 多くのイレギュラーズだって同じ気持ちだったはずだ。
 それさえも出来ずに居ながら、けれど懸命に王者の道を歩もうとしている。
 あまりに眩しく――

 ギルバートはふと、唐突に笑顔のアルエットの団欒を思い出していた。
 なぜか腸が煮えくりかえるような思いに苛まれる。
「……俺は何をしているんだ」
 それに引き換え、自身の悩みなどなんてちっぽけなものなのだろう。

「探しましたよ、ギルバート」
 吹雪の中、ふと顔を上げれば一人の女が立っていた。
 黒い服を纏った怪しい空気を纏う女をギルバートはじっと見据える。
「誰だ」
「分からないでしょうね、こんな姿になっているのですから」
 なぜこんなに、懐かしい気持ちになるのだろう。
 その口調と会話の間合いがひどく懐かしさを覚えるのだ。
「私はあの日、あの村で家族を失いました。娘も、娘婿も、沢山の孫も全員」
「……」
「けれどその中で、一人だけ生き残ってしまいました」
 悲しげに揺れる女の瞳。それがよく知っている『誰か』を思い起こさせる。

「――まさか、あなたは」
「ええ、ギルバート。お久しぶりね。お薬やさんのヘザーおばあちゃんです」
 女の言葉は、真実としか思えなかった。
 その声音も、表情も、まるであの老婆を若返らせたように感じられて――
「ギルバート、何をしているのです。あなたには為すべきことがあるはずです」
「なすべきこと……」
「私と共に憎きノルダインを根絶やしにするのです。
 新皇帝など関係ない。我等ハイエスタが生きるための国を作りましょう」

 ハイエスタが生きるための国。ノルダインからの脅威も無い安全で幸福な時間を過ごせる場所。
 ギルバートは目の前のヘザーの手をじっと見つめる。

 ――――
 ――

 ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)達は吹雪の中で、行方不明となっているギルバートを追っていた。視界が白く覆われるヴィーザル地方ヘルムスデリー村の近くには、林の奥深く、彼が最近よく心を整理するために立ち寄る泉があった。この吹雪の中でも凍ることのなかった、美しい場所だ。
 そこに足を踏み入れた時、確かにギルバートはそこに居た。
 虚ろな表情で、もう一人の誰かへ視線を注いでいる。

 彼の前に立つのはヘザー・サウセイル。憤怒の魔種だ。
 ギルバートはあろうことか、差し出された手を握ろうとしているではないか。
「っ……待って、駄目。ギルバートさん!!」
「だめっ!!!! その手を取らないで!!!!」

 吹雪の中にリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)ジュリエット・フォン・イーリス(p3p008823)の声が響き渡る。
 やっと見つけたギルバートの姿に、ジュリエットは自分でも驚く程大きな声を上げた。
 チック・シュテル(p3p000932)の灯火が吹雪の中を駆け抜け、ギルバートとヘザーの間に迸る。
 その間に走りだしたジュリエットはギルバートが伸ばした手を掴んだ。
「私は確かに許さなくても良いと申しましたが、手段を選ぶなとは申しておりません!」
 必死にギルバートの胴へしがみつくジュリエット。
 見上げればギルバートの瞳に覇気が無い。虚ろな瞳だ。

「ヘルムスデリーは良いのですか!?」
「……」
 リースリットの叫びにギルバートの肩が震える。
「彼らは――彼らは、何れ必ずヘルムスデリーを滅ぼしますよ。ギルバートさん。貴方の知るヘルムスデリーの人々は……憎しみのままに他者を根絶やしにする、そんな戦いに手を貸す人々ですか?」
 ギルバートの脳裏に浮かぶのはダニエルやパトリシアといった家族の顔。
 そして、ディムナやヴィルヘルム、セシリア……友人達の笑顔だ。
「……今思い浮かべたのは貴方と共に在る人々でしょう。そして――今まで貴方と出逢い共に在った全てとの想い出は。ギルバートさん、貴方が踏み止まる理由にはなれませんか……?
 積み重ねてきた記憶と時間。笑顔と楽しいひととき。紡がれた想いは怒りに塗りつぶされていいものなのかとリースリットは問いかける。
「ちゃんと考えてそれでも魔種になりたいっつーんなら好きにすりゃ良い。そん時は俺もお前の敵として立ちはだかるだけだ。だがなギルバート」
 ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は外套をはためかせ、鋭い瞳でギルバートを見据える。
「お前は魔種になって何もかもわからなくなって良いなんて思っちゃいねえだろ。魔種になったお前は止めようとする両親だって殺すだろう。生きていたカナリーだってそうだ」
 ギルバートの虚ろな瞳が動揺に揺れた。

「……そこのジュリエットを殺しても構わねえのか? 違ぇだろ」
 ギルバートへしがみ付いているジュリエットの顔が見える。守るべき大切な人だ。
「お前はお前の故郷を奪ったやつが憎いんじゃねえのか! 鉄帝の事が終わって、まだベルノが許せねえってんなら決闘の場も作ってやる。ルカ・ガンビーノの名にかけて誰にも邪魔させねえ。
 戻ってこいなんて言わねえ――だが魔種に逃げるんじゃねえ!!!!
 ルカの言葉にギルバートの瞳が大きく見開かれる。
「俺は……逃げようとしていたのか?」
 ヘザーへと伸ばす手が頼りなく震えだした。されど、まだ迷いがある。
「……ギルバート。今から聞く事、隠さずに答えて。この場所が、君を有りの侭でいさせてくれるというの……なら。思った事、そのまま教えてほしい──ベルノ達の事は、今でも赦せないと思う?」
 チックはギルバートの背に静かに問いかけた。

「俺は、許せない。この怒りは……」
 リースリットはギルバートの肩を掴み力を込める。
「貴方のその怒りは当然のものです。捨てる必要も、否定する必要もありません」
「君がベルノ達に赦せないと、怒りを抱く事を。間違いとは思わない」
 チックもリースリットの言葉に想いを重ねた。
「もし……彼らと戦いたいと願うなら、おれは止めない。でも、魔種としてじゃなく……ギルバート自身の怒りを以て戦うなら、だよ。君がこれまでに抱いてきた感情を、在り方を。歪めてでも尚というのなら」
 この場で止めてみせるとチックは杖を握り締める。
 ギルバートの胸に渦巻く激しい怒りは、大切な者を奪われた悲しみと同義だ。
 リースリットはその膨れ上がる感情を否定しない。
「小さくなんてありません。――誓います。全てを明らかにし、必ずけじめを付けさせると」

 ジェック・アーロン(p3p004755)はヘザーへと視線を向けた。
 皆がギルバートの頬を叩き手を差し伸べるなら、ヘザーは自分が相手すると一歩前に出る。
「やぁ、ヘザー。ベデクトぶりかな、あの時の風穴は癒えた?」
「……あなたですか、うろちょろ、こそこそと。それでいて痛烈な――」
 ベデクトの戦いでは、ジェックは狙撃によって、ヘザーに幾度も痛打を浴びせていた。
 ヘザーは影を操る魔種であり、身体さえもそういった存在に変質したと思われる。
 だが力を奪われ続けたことは事実だろう。
「あれからキミの墓へ行ったよ。
 五年は長いね、どの墓も草木に覆われていた。
 けれど……誰もキミを忘れていなかった」
「……」
 ヘザーの表情が歪む。
 考えたくないとでも言うかのように。
「ねえ、ヘザー。キミの怒りは、恨みは、憎しみはキミの物だ」
 ジェックは真正面からヘザーを見据えた。
「けれど、だからこそ。
 キミが愛したハイエスタの子を、『それだけ』にしていいの?
 笑顔の絶えなかった『ヘザーお婆ちゃん』ですら、『それだけ』になってしまったのに」
「あなたに、あなたに何が!」
「そうじゃないから、今まで村の皆の前に姿を現さなかったんでしょう」
「――ッ!」
「キミの復讐はキミの物で……皆にはただ幸せでいてほしいと願うから」
 そして問う。
「……違う?」
 微かな沈黙の後に、ヘザーは唇を戦慄かせた。
「ええ、仰る通りでしょう」

「求める手を間違えるな! ギルバート、お前が望んで来たのはノルダインを根絶やしにする事か? ハイエスタの国を興す事か? 違うはずだ、卿の……貴様の怒りは! その様な大義の話ではない!」
 ベルフラウはギルバートの横に並び顔を向ける。
「貴様の怒りは、貴様の周りに起きた惨状に対する物だったはずだ。貴様の怒りの矛先を他人に委ねるな! 貴様が自らちっぽけだとする悩みを私は見落とさない」
 このヴィーザルの地に積み重なり、膨満としてはち切れんばかりの怨嗟、怒り、悔恨を思いベルフラウは胸に手を当て拳を握る。
「その全てを私は軽んじたりはしない。大も小も全て拾い上げてみせる」
 拾い上げるもののなかにはギルバートの怒りも含まれている。
 決して諦めたりなんかしない。
「私の手を取れ、お前に付けられたこの手の傷に誓う。お前の積年の怒りを、無碍にはしないと!
 信じろ! ここにいる私たちを!!!!」

「あ……」

 ジュリエットは苦しげに歯を食いしばるギルバートの頬をその手で打った。
「魔種になってまで、全てを滅ぼさねばなりませんか?
 罪のない者まで巻き込む事が貴方の本当の望みですか!
 ……私に聞いて欲しい話があるのは嘘ですか?」
 ほろりと零れ落ちる涙がジュリエットの頬を伝う。
「……酷い人」
 けれど、自分が一番酷いのだとジュリエットは銀白の瞳を上げた。
 柔らかな唇がギルバートに触れる。
「何処にも行かないで……私の……側に居て」
 吹雪の中に囚われていたギルバートの心がジュリエットの口付けで解けて行く。
 其れだけでは無い、彼の心を叩いて引き上げたのは仲間達の声だ。
「ジュリエット……みんな」
 嫋やかなジュリエットの身体を抱きしめたギルバートはその温もりを確かめる様に力を込めた。
「ありがとう。俺はもう大丈夫だ」
 ギルバートの翠の瞳には強き光が戻っていた。

 それを見たヘザーは悔しげに眉を寄せ、蝙蝠のような影となって何処かへと飛び去った。


 ※特殊判定の結果が反映され、ギルバートが無事に帰還しました。
 ※ギルバートはイレギュラーズとの絆により原罪の呼び声に対して強い抵抗力を得ました。


 ※地下道攻略作戦が始まりました!!

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