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シナリオ詳細

<エウロスの進撃>分かたれる光<騎士語り>

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 吹き荒ぶ白い雪が視界を覆う。
 悴む手先は痛い程に冷えて、冷たい風は体温を容赦無く奪った。
 雪は一見優しげな白い色をしているのに、獰猛な獣のように全てのものを攫って行く。
 ヴィーザル地方、ノルダインの村『サヴィルウス』に響き渡る怒号も、吹雪が掻き消した。

「はぁ!? どういう事だ、兄貴よ。 親父が死んだって知らせが来たと思ったら、今度はポラリス・ユニオンの野郎共とお手々繋いでの共闘だぁ!?」
 ふざけんじゃねぇと机を蹴りつけたのはノーザンキングス統王シグバルドが次男エーヴェルト・シグバルソンだった。血気盛んなサヴィルウスの戦士の中でエーヴェルトは比較的冷静な男だ。
 それが顔を赤くして怒り狂っている。机が床に転がり、割れた皿が辺りに散乱していた。
 エーヴェルトにとってポラリス・ユニオン、及びローゼンイスタフとの共闘は父親の死よりも受入れ難いものだったのだろう。
「親父を殺した奴らを確実に殺れるのは、ポラリス・ユニオンと共闘するのが一番手っ取り早いンだよ」
 異母兄であるベルノ・シグバルソンの言い草に、再びエーヴェルトは目を見開く。
「それが、腰抜けっつてんだよ! お前は馬鹿か? 親父が統王になるのを散々邪魔して来たヤツらに尻尾振って帰って来たンかよ! ふさけんじゃねえ! この臆病者のクソ野郎が!」
「ンだと、テメェ!? お前こそ何も分かっちゃいねえ! あいつらに尻尾振ってでも、親父の仇討ちはしなきゃなんねーだろうが!」
 エーヴェルトの胸ぐらを掴んだベルノが「何で分かんねぇんだよ!」と歯を食いしばる。
 舌打ちをしてベルノの手を振り払ったエーヴェルトは、兄の頬に拳を叩きつけた。
「っ! 何しやがる!?」
「この腰抜けめ! お前と俺はもう家族でも何でもねえ。俺は此処を出て行く!
 ノーザンキングスでもサヴィルウスの戦士でもねえ……今から俺は『ヴァルハラ』だ!
 覚えとけよ、次遭った時はぶっ殺してやるからな! 臆病者のクソ野郎が!」
 壊れんばかりの勢いでドアを閉めて出て行ったエーヴェルト。
「クソ……、」
 小さく漏れた言葉がベルノの悔しさを物語っていた。


 不凍港ベデクトを奪還したポラリス・ユニオンに齎された、ノーザンキングス統王シグバルドの暗殺。
 そしてシグバルドの息子ベルノ・シグバルソンは、長年の敵同士であったポラリス・ユニオンに講和と共闘を持ちかける。それはノーザンキングスが新皇帝派と戦い、父の仇を討つという誓いの為であった。
 帝国全土が未曾有の大寒波『フローズヴィトニル』に喘ぐ中、後顧の憂いを断ったポラリス・ユニオンは流通回復のために帝国東部地域の一大制圧作戦へと乗り出した。

「今回の作戦地はローゼンイスタフからルベン駅を目指し西へ進んだ途中にある街『ロクスレア』だ」
 ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)はローゼンイスタフ周辺の広域地図を広げ、ロクスレアを指し示す。
 雪の降り積もる荒野を除雪機関車を走らせ、ロクスレアを目指す。
 冬の雪に慣れているローゼンイスタフの兵士達でさえ躊躇するような吹雪――未曾有の大寒波『フローズヴィトニル』の中を突き進むのだ。それでも、兵士達の士気は高かった。
 多くの都市が窮地に陥る現状を打破するため、不凍港ベデクトの物資を流通させるため、戦い抜く決意を固めているからだ。
「……本作戦名は『エウロスの進撃』とする」
 ベルフラウは赤い双眸を上げて、集まった仲間の顔を見遣る。

「俺達も出るぜ」
 拳を打ち鳴らしたベルノ・シグバルソンは強気な笑みを浮かべた。
 その隣には息子であるトビアス・ベルノソンと『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)の姿もある。
 手を恐る恐る握ったアルエットに気づき、その頭を撫でるベルノ。
「人数は此方の方が勝っている。ならば、包囲網を敷き一斉攻撃を掛けるのがいいだろうな」
 トビアスの後から出て来たドルイドの女――エルヴィーラ・リンドブロムは地図を指し示す。
「そうですね。包囲網を敷き、指揮官を討ち取るのが定石でしょう」
 エルヴィーラの言葉にリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は頷いた。
「んで、敵は新皇帝派の軍人か。総大将はどんなヤツなんだ?」
 首を傾げたルカ・ガンビーノ(p3p007268)にゼファー(p3p007625)が資料を寄越す。
「書いてある事を見ると、意外ととまともそうだけど……」
 己の実力だけで今の大尉という地位に登り詰めた自負があり、その自信から他者にも己にも正しい意味での『弱肉強食』を求める男。
「『鷹翼』エイドリアン・ノッカーか……」
 喰らう価値はありそうだと恋屍・愛無(p3p007296)は資料に視線を落した。
「翼……、飛ぶの、かな」
 背中の翼を揺らしたチック・シュテル(p3p000932)の言葉に「おそらくな」とルカが応える。
「はっ、まだるっこしい事は分からねえ! ぶっ込んで倒せば良いんだろ!?」
 部屋の中に響いたベルノの声に、緊張した空気が僅かに和らいだ。

 出発までの時間、広間の片隅でベルノとトビアス、アルエットにエルヴィーラがソファに座る。
「ほら、カナリー」
 緊張した様子のアルエット(カナリー)の背をトビアスが押した。
「う……ぅ。パパ、ママぁ」
 ベルノとエルヴィーラの手を握り、ぽろぽろと涙を流すアルエット。
 リブラディオンの襲撃の際に召喚されたアルエットは五年間両親に会えなかったのだ。
 血は繋がっていなくとも、アルエットにとってこの三人は紛れもない『家族』だった。
「カナリー……よく、生きてたな」
 ベルノはアルエットをそっと抱きしめる。エーヴェルトからアルエットは死んだと聞かされていたベルノは五年ぶりの再会に目に涙を浮かべた。
 先日、ベルノがローゼンイスタフに共闘を持ち込んだ際は、己を殺そうとしたエーヴェルトの所在が分からなかったから、こんな風に素直に喜ぶ事が出来なかった。
 アルエットの頭を優しく撫でるエルヴィーラの手。ベルノの腕。
 久しぶりの両親の温もりにアルエットの瞳から止め処なく涙が溢れ出た。
「会いたかった、会いたかった……っ、連絡できなくて、ごめんなさい」
「大丈夫。トビアスから事情は聞いている」
 エルヴィーラは紫色の石を掌に転がす。それは先日トビアスがベルノに託したものだった。
 アルエットが家に帰らなかった理由は己を殺そうとしたエーヴェルトが村にいるから。
 だから、何方にしろエーヴェルトとの決別は必至だったのだろう。
 それよりも……とベルノはトビアスとエルヴィーラ、アルエットを大きな腕で抱え込む。
「おかえり、カナリー」
「……ただいま」
 心からの安心した笑顔を家族に向けるアルエット。

 そんな家族団らんを遠くから見ていたのは『翠迅の騎士』ギルバート・フォーサイス(p3n000195)だ。
 リブラディオンの人々を殺した相手が楽しげに笑っている。
 それが我慢ならなくて、爆発しそうな感情を押し殺して広場を出て行くギルバート。
 ――自分は我儘なのだろうか。復讐は何も生まないと分かっているのに。怒りを抑えきれない。
 歯を食いしばったギルバートは石造りの壁を殴り付ける。
「……くそ」
 この怒りは、『停戦共闘相手』であるベルノ達にむけてはならない。
 頭では分かっている。理屈では理解している。
 それなのに、身体には怒りが渦巻いて如何すればいいか分からなくなるのだ。
 押さえようとすれば忽ち力が抜けていく。
 ――きっと、このままでは戦えない。迷惑を掛けるだけだ。
「今の俺は足手まといだ……」
 翠の瞳を伏せたギルバートはローゼンイスタフの城門から何処かへと去っていった。

GMコメント

 もみじです。友軍となったベルノ達と共闘作戦です。

●目的
・街の奪還
・新皇帝派軍人の撃退

●ロケーション
 ローゼンイスタフからルベン駅を目指し西へ進んだ途中にある街『ロクスレア』です。
 新皇帝派に占領されている街では、不凍港ベデクトのように人々は怯え暮らしています。
 食料も殆ど尽きており、貧困層の中には死に絶える者も出て来ています。
 直ちに奪還しなければ住民の命は危険に晒されるでしょう。

 ポラリス・ユニオンはロクスレアに包囲網を敷いて、一斉攻撃を仕掛けます。
 何百人ものローゼンイスタフ兵とポラリス・ユニオンの傭兵達が街に雪崩れ込みました。
 精鋭部隊であるイレギュラーズ達は、友軍であるノーザンキングスと共闘します。
 総大将である新皇帝派の大尉『エイドリアン・ノッカー』率いるノッカー隊を制圧すれば勝利です。

●敵
○新皇帝派の大尉『鷹翼』エイドリアン・ノッカー
 ノッカー隊の隊長で指揮官です。鷹の翼を持った飛行種。
 鉄騎種が多い鉄帝軍人の中で、実力で大尉にまでのし上がった強さを持ちます。
 冷静な思考を持ち、部隊の最後方で的確に指揮を執ります。
 新皇帝の意思に従っているのは相当な努力をして今の地位まで登り詰めた自負があるからです。
 弱肉強食を正しく己にも相手にも求め、最後まで戦い続ける意思があります。

○新皇帝派軍人×40
 ノッカー隊の軍人たちです。
 腕っ節が強く、統率も取れています。
 ここは彼らのテリトリーです。侮ってはいけません。

○不審な影
 新皇帝派軍人でもなく、一般市民でも無い怪しい人影があります。
 戦場の見える場所から様子を伺っているようです。
 エーヴェルトの仲間の可能性があります。

●友軍
○『獰猛なる獣』ベルノ・シグバルソン
 ギルバートの仇敵。
 数年前のリブラディオンで、村を壊滅に追いやった首謀者です。
 ノーザンキングス連合王国統王シグバルドの子。トビアスの父。
 獰猛で豪快な性格はノルダインの戦士そのものです。
 強い者が勝ち、弱い者が負ける。
 殺伐とした価値観を持っていますが、それ故に仲間からの信頼は厚いです。
 ポラリス・ユニオンはベルノ達の停戦共闘を受入れました。
 現在の彼らの目的はシグバルドを殺した魔種の撃破です。

○『強き志しを胸に』トビアス・ベルノソン
 ヴィーザル地方ノルダインの村サヴィルウスの戦士。
 父親(ベルノ)譲りの勝ち気な性格で、腕っ節が強く獰猛な性格。
 ドルイドの母親から魔術を受け継いでおり精霊の声を聞く事が出来る。
 受け継いだドルイドの力を軟弱といって疎ましく思っている反抗期の少年です。
 ですが、死んだと知らされていた妹のカナリーと再会し考えを改めました。
 父を裏切るつもりは無い。けれど、守りたいものがあるのだと。
 尊敬すべき父と共に戦えることが嬉しくて仕方ありません。

○『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)
 本当の名は『カナリー・ベルノスドティール』。
 ギルバートの仇敵ベルノの養子であり、トビアスの妹。
 母であるエルヴィーラの教えにより素性を隠して生活していました。
 トビアスがローゼンイスタフに保護された事により、『兄』と再会。
 本当のアルエットの代わりにその名を借りています。
 戦乙女の姿で剣を取り戦います。

○『青の魔女』エルヴィーラ・リンドブロム
 ベルノの妻、トビアスとカナリー(アルエット)の母親です。
 ヴィーザル地方ノルダインの村サヴィルウスに住まうドルイドです。
 村の外れに隠れ住むように暮らしています。
 魔女らしく陰鬱な性格で少し考えが読みづらいですが、心根は優しいです。
 魔術を使いベルノ達をサポートします。

○サヴィルウスの戦士×10
 血気盛んなサヴィルウスの戦士達です。オレガリオも居ます。
 皆、筋肉質で獰猛な性格をしています。

※エーヴェルト以外のサヴィルウスの住人はEXプレで登場しても構いません。

○ローゼンイスタフ兵×10
 ヴォルフの命を受けて参戦しています。
 イレギュラーズを援護しますので指示があればお願いします。
 剣や槍で武装しています。
(※12/27説明文を戦場に合う形に修正しました)

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●騎士語りの特設ページ
https://rev1.reversion.jp/page/kisigatari

  • <エウロスの進撃>分かたれる光<騎士語り>完了
  • GM名もみじ
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月10日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
エステル(p3p007981)
シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)
魂の護り手
佐藤 美咲(p3p009818)
無職

リプレイ


 灰色の分厚い雲から降り積もる雪。白く美しいそれは折り重なり、人の命を簡単に奪うもの。
 吹き荒ぶ雪の中に『北辰連合派』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)の声が響く。
「ギルバートが行方不明だと? 馬鹿が……!」
 ベルフラウは街に向かう雪上車の中でギルバートの失踪を知った。
「奴の真面目さは美徳だが、行き過ぎたそれは身を亡ぼすぞ」
 報告しにきたローゼンイスタフ兵はベルフラウが悔しげに眉を寄せるのを見る。
 ポラリス・ユニオンの理念はギルバートにも伝えたはずだ。
「その中にはお前も含まれているんだぞ、ギルバート……」
 ギリリと拳を握ったベルフラウは、深呼吸をして赤き双眸を上げた。
「ともあれ、まずは街を奪還せねばならん、もうすぐ『ロクスレア』につく。総員準備に取りかかれ!」
 了解しましたと下がっていくローゼンイスタフ兵の背にギルバートを重ねるベルフラウ。
「生き急ぐなよ、ギルバート」
 ベルフラウの仲間を思う表情を見つめ『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)も考えを巡らせる。
 ノーザンキングス統王シグバルドの死。そして、その息子であるベルノ達の停戦共闘。
 剣を交えた猛き王シグバルドを殺した魔種を殺すまでの共闘に異論は無い。
 されど、大切な人達を殺されたギルバートは複雑を通り越して『クソ喰らえ』というようなものだろう。
 ルカやベルノに置き換えれば、シグバルドを殺した魔種と共闘しろというのと同じ話だ。
「アイツが姿を消した事を責められるやつなんていねえよ」
「ああ、分かっている……」
 ルカの言葉にベルフラウは唇をかみしめる。それでも、彼女は願うのだ。
 北辰の、彼女の掲げる『ヴィーザルの春』の訪れを。

「おう、湿気た面してんな? これから戦だってのに、やっぱお姫さんは城に籠ってた方が良かったんじゃねえのか? 御身は大事なお姫様……」
 ベルノ・シグバルソンの言葉にベルフラウは顔を上げる。
 神経を逆撫でるような物言いに『姫』はベルノを睨み付けた。
「そうだよ。その鋭い目つきだ。戦場に迷いは禁物だ。怒りを研ぎ澄ませよ」
「……ベルノ、此度の共闘の申し出に感謝する」
「おう」
 正直な所、シグバルドが死んだ現状ではヴィーザルの覇権を巡る争いをしている場合ではなくなってしまったのだ。されど。
「我々のしがらみが消えた訳では無い。だからこそ……だからこそ、此度の動乱が決着を迎えた時は」
 自分達を縛り付けていた凍てつく運命に終止符を打とう。
 なし崩しの現状打破ではない。ヴィーザルを統べる本当の決着だ。
 そう、ベルフラウは強い眼差しでベルノに告げる。
「これは私の一意見に過ぎん。だが現状のノーザンキングスの長たるベルノが賛同するのならば、ポラリス・ユニオンにも提案しよう」
「俺達は協力して貰ってる立場だ。今時点で『ノー』は言えねえだろ。だが、それはお前の望む本当の意味での終止符じゃあねえよな。だから、俺の一意見としては『お互いが強さを認められたら』だ。
 弱さは恐怖に変わる。恐怖は攻撃の理由になっちまう。じゃあどうすればいい?
 どっちも強ければいいんだよ。なあ、簡単なことだろ?」
 悪そうな顔でニっと笑ったベルノはベルフラウに拳を突き出した。
「……ああ、そうだな。最終的な答えは『この戦いの後』で聞かせて貰う」
 シグバルドを倒した魔種を打倒し、共闘が解かれるとき改めて問うと、ベルフラウはベルノに己の拳を合わせた。

「ベルノ……ああ、不凍港でお相手していただいたシグバルド陛下のご子息でスか。この度は……」
 会釈した『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)に「おう」と手を上げるベルノ。
「……先王陛下は強かったですよ。新皇帝派を造反させねば勝てないと思わせられる程に」
「ああ、知ってるさ。俺が一番間近で背中を追って来たんだからな」
 美咲から視線を逸らし、ベルノは何処か遠くを見つめる。亡き父の大きな背を思い出しているのだろう。
「まあ、暫く留学とでも思って内情を見ながら仲良くしてやってください」
「助かるぜ」
「ウチもノーザンキングスとはパイプが無いのでね。いわゆるロビー活動というやつでス。そちらでは重要視されないのかもしれませんが、これが私の戦場というやつでして」
 サヴィルウスでは分かりやすく力の強いものが戦場を統べる。
 しかし、美咲が得意とするのはスパイや情報操作。絡め手であることが多いのだ。
「へえ、詳しくはわかんねーけど。うちだとそういうのはエルヴィーラやラッセルが得意だろうな」
 武力重視のサヴィルウスとて、頭脳(ブレイン)は存在するらしい。
 そんな二人のやりとりを影から聞いていたのは情報兵に扮した田中 舞である。
 美咲のシグバルドに対する言い方は……リップサービス半分、本音半分といったところだろう。
 なぜなら、ノーザンキングスは国と言えるか定かではないのに、『階下』と呼んでいたから。
 舞は大丈夫なのかと眉を寄せる。美咲は些か鉄帝という国に入れ込みすぎなのだ。
「あ」
 いけない。目的を忘れていた。
「コレ動乱前のロクスレア資料でーす。ザコザコワンちゃんが隠れるならこの辺じゃないですかー?」
 情報兵に扮した舞はベルフラウへと資料を渡す。ついでに北辰・ノーザンキングス人員の素行調査資料もついている。一般兵同士で相性の悪い人を書き連ねたものだ。

『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)はローゼンイスタフ城内の広場で、再開を喜んで抱き合うベルノたちを思い出す。
 そこにあったのは、何処にでもいる普通の家族の姿だ。
 あの時、ポラリス・ユニオンが共闘の道を選ばなければ、一生見る事のなかった光景。
「だからアタシはこの選択を後悔しない。
 きっと何かを変えられるって信じてる――今日がその第一歩よ」
 握り締めた拳は決意の証明だ。ジルーシャは深呼吸一つして、勢い良く立ち上がる。
 ノルダインとの本格的な共闘、作戦行動。
 禍根が無いなんて嘘になる。彼らがリブラディオンで行った所業は消える事は無いのだとエステル(p3p007981)はベルノ達を睨み付ける。
 されど、これは仕事である。ポラリス・ユニオンが共闘を受諾したのだから、その後のためにも自分はしっかりと役目を果たさなければならないのだと己の心に言い聞かせるエステル。
「ベデクトみたいに、困ってる人……この街にも沢山。助ける、したい……今回も頑張る」
 ぎゅっと拳を握った『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)は燈灯の瞳を上げる。
 その視線の先にはベルノ達が居た。
「前は……敵として戦う、してた……けど」
 こうしてベルノやノーザンキングスの人々と共闘するのは何だか不思議な気持ちになる。
 内に秘めた想いが同じでなくとも、辿る道を一緒に歩む事ができたら嬉しいとチックは微笑んだ。
 ギルバートは何処にいったのだろう。
 不安に瞳を揺らす『魂の護り手』シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)は首を横に振る。
 戦いは目の前に迫っているのだ。ギルバートの事は心配だが一旦忘れてしまおう。
「ロクスレア、住民、きっと、助け、待ってる。早く、何とか、しないと」
 新皇帝派を倒し、街を解放しなければ命を落す人が増えてしまう。
「がんばろー!」
 シャノの言葉にチックも頷いた。

 美咲の二十二式自動偵察機が視界を横切り、『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)の精霊が空気に紛れて街の中を駆け巡った。
 大凡、敵の情報は事前に知らされていた通りであろう。こうして、自分達の目で確かめる事によりその情報精度は盤石なものとなる。
「士気が崩壊する様子も無いのは、あの指揮官の手腕か」
 リースリットは資料にあった『鷹翼』エイドリアン・ノッカーのプロファイリングを詰める。
「敵中核部隊と言えど、数は多くとも質は此方の方が数段上です」
「そうですね」
 リースリットの言葉に美咲も頷いた。既に小細工を弄する局面ではない。
「正面から攻めて抑え込み、精鋭を以て前衛を突破し指揮官を討ちましょう」
 こくりと頷いた美咲は視界に入り込む敵影を知覚する。
 僅かに瞳を伏せたリースリットは心の奥で『翠迅の騎士』の名を呼んだ。

「ヘンな気分ね……彼らとこうして肩を並べるってのは」
 青い瞳を横を走るベルノ達へ向けた『凛気』ゼファー(p3p007625)は不思議な気持ちを覚える。
 真っ当な善人なんてのはこの戦場にいやしない。血に濡れていない真っ白な手では生き残れない。
「王様の弔い合戦は未だ先として、今日は派手にやってやろうじゃない。
 ……殴り合いなら大得意でしょう?」
「おうよ! お前が親父の言ってたヤツか。楽しみにしてんぜ」
 お互い武器を持ったその拳を掲げ、笑顔を浮かべる。
「さあ、行くわよ!」
 ベルノ達に先んじて一歩前に出たゼファーの声が戦場に響き渡った。

「思ったより『食事会』の機会は早く来たようだな。楽しい食事になると良いのだが」
「ああ、俺はもっと美味しいもんがいいけど、まあこっちもこっちで好きだぜ!」
 手袋を締め直した『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)の隣でベルノが強気な笑みを零す。
「この国で『強い』など当たり前だ。大切なのは、そこに込められた『モノ』だ。
 何を得るために何を捨てたのか。それこそが『味』を決めるのだから」
「ははっ! お前おもしれーこと言うじゃねえか」
 愛無の言葉にベルノは楽しげに声を上げた。
「さて、如何かな。何処にであるようなジャンクフードなのか。違うのか」
 喰ってみれば分かるかと唇を三日月に歪ませる。
「僕も羽チップスとか食べてみたかったし」
「……ぴぇ」
 ベルノの後ろに居た『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)が翼を震わせた。
「というわけでアルエット君とエルヴィーラ君は僕の側にいたまえ」
 以前、魔種に羽根をもぎ取られた事のあるアルエットは愛無の申し出に緊張する。
「別にとって食いやしない。前にちょっかいかけたのは罪悪感を煽れば口も軽くなるかと思っただけだ。羽チップスは興味あるが」
「ひぇ……」
 再び震えるアルエットの背を母であるエルヴィーラ・リンドブルムが支えた。
「大丈夫だカナリー。その者は冗談を言っているのだよ」
「う、うん。分かっているわ。でも、背中がうずうずするの」
 もぎ取られたから。アルエットはどうしても思い出してしまうのだ。
「仮にエーヴェルトが暗殺を試みるとして……殺せる目が高そうなのは君ら二人だろう。殺したい理由も加味して可能性は高い。まあベルノ君とトビアス君はオレガリオ君に任せよう。彼も獣種。奇襲には強い」
 任せたまえよと背を向けた愛無は獰猛な黒き暴食の獣へと変幻する。
「自由な風よ。誰にも縛られぬ大地よ。アンタたちの力を、アタシに貸して頂戴な」
 ジルーシャは竪琴の音色と優しい香りで精霊へと語りかけた。
 この街は新皇帝派の軍人の制圧圏内である。
「……何が起こるかわからないもの」
 罠や防壁など注意するべきものは数え切れないだろうろジルーシャは息を吸い込んだ。

「……第一、第二、第三部隊準備整いました! いつでも行けます!」
「よし……このローゼンイスタフの御旗の元に集え、我が同胞たちよ! 行くぞ!」
 ベルフラウの口上と共にロクスレア奪還作戦が始まる。


 敵の位置を詳細に把握した美咲はルカに視線を送り頷いた。
 ルカは小さく息を吐いて剣を握る。
 ギルバートは腸煮えくり返るような怒りを我慢して自分達に北辰連合の未来を託してくれたのだ。
「みっともねえ戦いを見せたらそれこそ合わせる顔がねえぜ」
「行きます!」
 敵影の最も人が集まっている場所へ駆け抜ける美咲、それに追従するルカ。
 味方が到達する前に先陣を切るのが二人の役目。
 乱戦になれば仲間を巻き込むルカの大技は使えなくなる。
 だからこその、初陣一閃。構えていた兵士がルカを知覚しながらも、応戦する間もなく血飛沫を上げる。
「ぐ、ぁ!」
 数人の兵士が地面へと転がり、肩で息をしていた。
「なんつう、威力だ……これがローレット」
 以前戦った時よりも、もっと精度をあげてきていると、ベルノは己の内側から闘志が弾けるのを感じる。
「サヴィルウスの戦士さんよぉ! 遅れんじゃねえぞ!」
「ははっ! 言ってくれるじゃねえか。そんなもん見せられたらこっちも燃えてくるぜ!」
 ベルノは仲間へ号令を掛けた。血肉躍る戦いに自然と笑みがこぼれる。
 美咲は淡々とルカの援護を進める。派手な攻撃の威力は仲間に任せ戦場を駆け抜け、より効率を出すのが美咲の役目なのだ。彼女がいるからこそ、円滑にルカ達が暴れることが出来る。
 シャノはエネミーサーチを走らせ、周囲からの敵対心に注意を払っていた。
「敵、群れ、なら、連携、崩す、大事。要、狙い撃つ」
 戦場で仲間が万全に戦えるように見渡すのがシャノが自分に課した役割。
 美咲と同様に影ながら戦場を支援する者が居るからこそ、全体を補うことができるのだ。
「左、敵、群れ。注意」
「了解!」
 シャノの言葉にゼファーが身を翻し、囲まれるのを回避する。
「お客を迎えるなら、ドアベルの一つ取り付けてて欲しいもんですけどねぇ」
 ただ回避するだけでは物足りないと姿勢を低くしたゼファーは、追従する敵に向かって槍を薙いだ。
 軽い動作からは想像もつかないほどの、重い槍身を受けた新皇帝派の軍人は「ギァ」と悲鳴を上げる。
 美咲やリースリット、ジルーシャが先んじて調べてくれていたお陰で、面倒な罠もあらかじめ解除する事が出来たのは仲間との連携が上手く行っている証拠だ。
 ゼファー達が集団戦での戦い方に慣れているとベルノとエルヴィーラは感心する。
「――目覚めたならば祝祭だ。我らが主に喝采を、乗らぬ者には厄災を」
 ジルーシャの纏う香りは精霊を呼び覚まし、熱気を帯びた息吹が戦場を覆った。
 次々と喉を押さえ藻掻き苦しむ軍人が地に倒れる。
「まだまだ……アタシの魔力はそう簡単に尽きたりしないもの」
 更に重ねた精霊の息吹は逃げられぬ檻となって敵を絡め取る。

「エルヴィーラ、不審な影が居る。こっちの様子を伺ってるみたい」
「ああ、そのようだな」
 チックは戦場を監視するような視線に気付く。もし、自分達が戦っている時に何かあれば助けてほしいとチックはエルヴィーラにお願いする。こくりと頷いた魔女は索敵に神経を研ぎ澄ませた。
「こっちは任せろ。お前がするべき事を成せ」
「うん。ベルノ達に任せる……出来る様に、動きを鈍らせて道を拓くよ」
 ベルノやトビアス、イレギュラーズが存分に力を振るえるように。
 道を灯すのだとチックは灯火を掲げた。

「進めえ! 陣形を乱すな! 我がローゼンイスタフの力を示せ!」
 ベルフラウの凜とした声の後ろから兵士達の雄叫びが聞こえる。
 浮き上がったベルフラウとその後を行く兵士は、まるで戦乙女と勇猛なる戦士のようだと、サヴィルウスの戦士達は思った。戦乙女は振り返る。
「我等鉄帝と永きに渡り剣を交えて来た貴様らの力はその程度か!?」
 御旗を掲げたベルフラウの声がサヴィルウスの戦士の耳に届いた。
「それではヴァルハラへ行った父祖(シグバルド)も浮かばれぬだろうよ!!」
 見せてみろ! 凍てつく大地に屈しなかった力を!
「おおおオオオ――――!!」
 地の底から響く様な雄叫びがサヴィルウスの戦士達から上がる。
 これは弔いの戦の第一歩。此処で負けるようなら、この先も報いることなど出来はしない。
「行くぞ! その力、存分に奮え!」
 ベルフラウの統率力の高さに感心するのは愛無だ。
 神経を逆撫でするような発言だが、逆に奮い立たせるように仕向けるとは。
「ならば……」
 愛無はその力を見せつけることで彼らを乗せようと判断する。
 彼らをコントロールするのは愛無には難しい。ならば、此方が存分に戦い強さを見せればいいのだ。
 猛きサヴィルウスの戦士達ならば、自然と着いてくるだろう。
 駆け抜ける黒い巨体にサヴィルウスの戦士達の視線が向く。愛無の猛々しい戦い振りに身が震えるのだ。
 口元に笑みを浮かべた戦士達が愛無と共に戦場を駆け抜ける。
 ベルノたちと共に剣を振るうのはエステルだ。
 エステルはヴィーザル地方出身である。寒さの中ではいつも以上に調子が良い。
「チっ」
 トビアスが敵の銃撃に負傷する。
 どくどくと流れ出る血を気にする事も無く立ち上がる少年。
「待ちなさい」
 それをエステルは引き留めた。この極寒の地で傷をそのまま放置すれば、其処から肉が腐り落ちる。
「誰かを守る為に戦いたいのなら、まずは自分が万全でなくてはなりませんよ」
「ああ、すまねえ」
 エステルの癒やしの加護に助かると礼を言うトビアス。
 万全の状態でトビアスを送り出したエステルは、内心少しだけ複雑な思いを抱えていた。
 ギルバートの気持ちを思えばこそ、指先に棘が刺さって抜けないようなもどかしさがあるのだ。


「そろそろ突破の頃合いか」
 リースリットは戦場をぐるりと見渡す。
 新皇帝派の軍人は順調に数を減らしていた。此方も負傷した兵は多いがまだ戦えるだろう。
 ベルフラウとリースリットは目配せをして頷く。
 元より要地を守って来たローゼンイスタフ兵である。血気盛んなサヴィルウスの戦士には攻めさせ、兵士達にはその援護をさせるのが良いだろうとベルフラウはリースリットに告げる。
「ローゼンイスタフ兵とサヴィルウスの戦士は最前線へ」
「ああ? 俺達が援護だって? 戦わせろや!」
「そうだ。『最前線』で存分に戦えるぞ。任されてくれるか?」
 ベルフラウの言葉にサヴィルウスの戦士達はニッと口角を上げた。
「やってやろうじゃねえか!」
「その間にアタシたちとベルノたちで指揮官を叩きましょ!」
 ジルーシャはベルノへウィンクをしてみせる。
 士気を上げるサヴィルウスの戦士の傍らでリースリットはトビアスに訪ねる。
「トビアスさん……精霊の力を借りて戦う事にまだ抵抗がありますか?」
 ヴィーザルの峻厳な自然の前では、人間などあまりにも小さいのだとリースリットは語る。
 その大いなる力を借り受けるのだとトビアスの背を押した。
 精霊の力を借りるとはどういうことかリースリットはその身を以て示す。
「アルエットさんはこの規模の戦場は初めて……ですよね。トビアスさん、どうかお願いします」

 勢いは此方にあると愛無は地を駆けた。
 されど、味方陣営にはサヴィルウスの主要メンバーも多い。少なくとも『共闘』を続けるなら誰かが欠けることは避けねばなるまい。その方がギルバートが帰って来る理由にもなる。
 狂気に飲まれているような男では無いと信じたいけれど、その内なる怒りは計り知れない。
 それに個人的に聞きたい事もあるのだ。恩をうるのも悪く無いと愛無は前線へ走った。
 チックは戦場を飛びながら眉を寄せる。
 停戦と共闘が受諾されてからそう日は経ってない。だから、まだ複雑に感じている人も居るだろう。
 感情は人それぞれ抱くもの。一つとして同じものは無い。
 だからこそ、難しいのだ。その感情を否定する言葉も見つからない。
「──それでも、目指すべき場所は。討つべき相手はどうか、違えないで。
 此処にいる皆は、一緒に進んでいく相手……だから」
 チックの言葉にトビアスはぎゅっと剣柄を握る。
(しかし、トビアスもベルノも、見ている限りですと情に厚いですね?)
 エステルはサヴィルウスの戦士達を見て疑問を浮かべた。
 肉親に限るのかもしれないけれど、仇討ちの為なら自分達と手を組むのだから。
 だからこそ、疑問が残る。リブラディオンは何故襲われたのか。
「我々も、受けるメリットあっての共闘ですからね。まずはノッカー隊、撃滅といきましょうか。
 ノルダインの騎士たちよ。期待していますよ?」
 エステルが大きな剣を振るえば、飛び散る火花が雪に反射する。

「決着は早い方がいいでしょ」
 戦線に道が開けば、風にのって一迅の槍が降ってくる。
 ゼファーは仲間が切り拓いた戦線の合間を縫ってエイドリアンに接敵した。
「腕っぷしでの勝負こそ、此の国の流儀でしょう? 最後まで愉しくやろうじゃない、ねぇ!」
 風を纏わせた槍の尖端に割かれた雪が傘みたいに弾ける。
 雪の上での戦いはこの地で暮らしているエイドリアンの方が優位に立てるのかも知れない。
 されど、こと死闘においてゼファーほどの立ち回りが出来る者はそうそういない。
 戦場が雪に覆われているならば、それを利用する他無い。
「バリケードだろうと陣だろうとブチ抜いてやるわ!」
 雪を巻き込みながら、迸るゼファーの槍。
 その背を狙う銃弾をベルノの剣が弾く。その横顔は剣を交えたシグバルドによく似ている。
「いつか終わる共闘なのが惜しいわね」
 綺麗事で片付きそうに無いことはゼファーとて分かっている。
 分かっているからこそ、思わずにはいられないのだ。
 統制の取れた相手に正面から挑む。それは得策では無いとルカも承知している。
 されど、だからこそ。今は意義があるのだ。
 新皇帝派の軍人に正面から勝って強さを見せつけること。掴むのは何の言い訳も出来ない完全勝利だ。
「俺達は冠位魔種をぶちのめして国を取り戻そうってんだ! こんなところで死ぬんじゃねえぞ!」
 ルカの剣檄と怒号。それは皆が求める未来へ向けた言葉だ。
 政治の事は分からない。ベルフラウのように民衆を奮い立たせる術も持って居ない。
 だからルカは剣を振るう。誰よりも前に立ち、戦う背中を示すのだ。
「……っ!!」
 エイドリアンはルカ達の覇気に気押される。
 きっと、イレギュラーズは強い。否応が無く突きつけられる真実だ。
「頭、潰せば、戦い、終わる。お前、最後」
 シャノは味方の攻撃に重ねるように的確に銃弾を叩き込む。
 弾丸の驟雨はエイドリアンの体力を根こそぎ奪った。
「アンタたちの負けよ。大人しく街から出て行きなさい!」
 ジルーシャの言葉に視線を向ければ、空に巨大な手の幻影が見える。
 そのまま振り下ろされた手はエイドリアンの身体を押しつぶした。

「テメェの強さは何のためにあるんだ。気に食わねえやつに唯唯諾諾と従って強いって言えるのか」
 ルカはまだ残って居る新皇帝派の軍人へと声を上げる。
「意地も誇りも貫き通せねえ強さに意味があんのか?」
 降参しろと呼びかける言葉に、項垂れたように銃を下げる新皇帝派の軍人。
「……気を付けてくださいス」
 美咲の偵察機に不審な影が映る。チックとシャノもそれに気づき警戒を強めた。
「さっきから、気配、感じてる。お前、誰」
 焦らすように建物の影から此方の様子を伺う影にルカは牽制の刃を向ける。
「話がしてえならゆっくり姿を見せな。不審な動きを見せたらぶっ殺す」
 その間にも美咲の偵察機が影の姿を追った。
「勝った、時、一番、気、抜ける。不意打ち、気を付けて」
 シャノは身を引き締め注意深く不審な影を見つめる。

「……いやいや、どんな戦い方をするのかと思えば。正面突破の力業。全く、もう少し頭を使えばもっと楽に制圧できるだろうが。例えば、飲み水に毒を撒くとか」
 姿を表したのはリブラディオンの墓地で見かけた金髪のノルダイン。
「やはり、ですかエーヴェルト。貴様だけ、ジグバルソンでは異質」
 エステルは敵意を露わにエーヴェルトへ剣を向ける。
 エーヴェルトの後には黒い影を纏う男が居た。彼もエーヴェルトの一味ということだろう。
「今、相手する、時、じゃない。こらえて」
 シャノに止められたエステルは、それでもエーヴェルトから視線を逸らさなかった。
「お前、相手、こっち。何しに来た?」
「そうだぜ、エーヴェルト。何しに来たんだ、てめえは出て行っただろうが!」
 ベルノ達の言葉に嫌みな笑いを見せるエーヴェルト。
「相手を知る事は戦いの上で重要な事だ。情報はあるに越した事は無い、そうだろう?」
 エーヴェルトは美咲へわざとらしく視線を送る。
「なあに、ここで戦うつもりは無い。俺も冷静だ。機が満ちなければ、な」
 嫌な笑いを見せるエーヴェルトの身体を黒い影が包み込む。
「おい、待ちやがれ!」
 ルカの言葉にエーヴェルトの後に控えていた男が一瞥を寄越した。
 揺らめく黒い影と共に、二人は吹雪の中へ消える。

 ――――
 ――

 ベルフラウは軍事施設の高台へと登り、其処へローゼンイスタフの旗を立てる。
「この、ロクスレアはポラリス・ユニオンが奪還した! もう、暴力に屈することはなく、眠れぬ夜を過ごすことも無いだろう! ここに勝ち鬨をあげよ!」
 ベルフラフの声はロクスレアの街内放送に乗せられ響き渡った。
 その瞬間、街の中で隠れ怯えていた住民が歓喜の声を上げた。

 シャノはギルバートの行方を思案する。
「きっと、一人、ぐるぐる、考えてる。とても、心配」
「そうね……ギルバート、どこへ行っちゃったのかしら」
 ジルーシャはシャノの背をぽんと叩いて眉を下げた。
「様子がおかしかったのが心配だけれど……無理ないわよね」
 今はそっとしておいてあげた方がよさそうだと、ジルーシャはシャノを諭す。
 ジルーシャはベルノ達を完全に信用できてはいない。それはエステルも同じだろう。
 何もかもを許せる訳がないのだ。
「でも……アタシはまだ疑っている。お互い『怒り』を向ける先が本当に正しいのか」
 矛先を間違えちた怒りの炎は、相手だけではなくいつか自分の事も焼き尽くしてしまう。
 ジルーシャはそう師匠から教えてもらったのだ。

「ベルノさん。幾つか、貴方にお聞きしたい事があります」
 リースリットと愛無はベルノの元へとやってくる。
「……何故、リブラディオンを?」
 あの虐殺の真の目的は何だったのか。
 エーヴェルトは明確に調停の民を狙って虐殺し、アルエット達姉妹をも殺そうとした。
 その裏の意図も凡そ判明している。
「……そもそもあれは、貴方が意図し現場で指揮したものですか?」
「俺が指揮した。あの襲撃は、弟の弔いでもあった」
「弔い? どういうことですか?」
 リースリットと愛無の視線を真っ直ぐに受け止めるベルノ。

 ベルノ・シグバルソンには父母が同じ年の離れた実弟ユビルが居た。
 異母兄弟である次男エーヴェルトより年下であったユビルは五男。
 ベルノとエーヴェルトはユビルを可愛がっていた。
「五年前のその日、リブラディオンの村長から親父宛に手紙が届いた」
「それって……和平交渉のスか?」
 美咲の問いかけにベルノは頷く。
「親父は手紙を読んだあと、俺に任せると言った。今までの親父なら即刻破り捨ててるのにだ。だから、俺達は考えたんだ。足りねー頭を使ってな。和平と言っても条件があるだろう。先ずは交渉の場を設けるのが道理だと考えた俺達はリブラディオンに聞きに行ったんだよ。だがな……」
 ギリリと歯を食いしばり拳を握ったベルノ。
「リブラディオンの奴らは話しを聞きに行ったユビルを殺しやがった。一緒についていったエーヴェルトによると油断していたユビルの胸を一突きだ。エーヴェルトはユビルを庇いながら命辛々逃げてきた。あいつらまだ成人してもねえ子供を容赦無く……」
 リースリットとルカは『ベルノの言葉は偽りではない』と判断する。
 そこに滲んだ無念や慟哭は演技などでは到底出来ぬもの。
 されど、妙な違和感を感じるのだ。
「和平交渉が本当だったとしたなら、その使者を殺し自ら決裂させるのはおかしいのでは?」
「…………どういうことだ?」
 リースリットの言葉にベルノは驚いたような悲しいような複雑な表情を浮かべる。
 動物的な勘の鋭さは真実に辿り着いている。けれど、人間の理性が其れを否定するのだろう。
「本当に、ユビルはリブラディオンの住人に殺されたのか?」
 愛無の言葉はベルノの胸に深く突き刺さった。

 白い吹雪がビョウビョウと鼓膜を揺らす――


成否

成功

MVP

シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)
魂の護り手

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 イレギュラーズのお陰でロクスレアは無事奪還されました。
 MVPは戦線を支えた方へ。

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