PandoraPartyProject

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鴉殿

 ――嗚呼、三流(マガイモノ)は実に虚しいな

『神』を自称する魔術師に謁見した時、鼻で笑った彼の言葉が思い出される。
 成る程、実際不愉快な評論だが、正鵠を射抜いている事は確かであった。
 彼が何を考えて、どういう心算でそう言ったのか正確には知れなかったが、少なくともボクはそれを『在り様』の事だと承知している。
 比較対象論で言うのなら彼からすればボクですらも児戯に等しいのだろうが、大例外の自身を除けば特異点足り得る人間を捕まえて技術の巧緻を語るのは些か均衡を欠くというものだろう。
「スケアクロウ。君は何時も笑ってるな」
「人生が楽しいものデ」
「ホント羨ましいわよ! 苦労が無さそうな顔をして!」
「君にだけは言われたくないケドね」
「どういう意味よ!?」
『何年の長きに渡り苦楽を共にした仲間』と他愛のないやり取りをして、自分自身に問い掛ける。

 ――パウル・エーリヒ・ヨアヒム・フォン・アーベントロートは本当に何かを愉しんでいるのか?

 自身に並び得る傑物と過ごす時間は確かに悪いものでは無かった。
 混沌に例外的に揃い得た綺羅星の勇者達と『歴史』を作るのは『初めて』の経験だったから。
 されど、それでも彼等は徐々に衰えていく。
「アイオンは楽しくありませんカ?」
「うん?」
「幻想(レガド・イルシオン)を立て、『果て』を超えるのでショウ?」
「ああ。その心算だ。でも」
「でも?」
「少し、疲れたかな」
『自身の手で成し遂げられるか分からなくなったのは、彼が老いたからに他ならない』。
 あの、何処までも生命力の溢れた俊英だったアイオンの顔に皺が現れ始めていた。
 子供っぽいとからかわれたマナセは美しい女性に成熟している。
 仲間の一人だったフィナリィは既に亡く、その他の者も似たようなものだ。
 時を重ねたなりにその姿と在り様を変えている。

 ――澱のまま、取り残されたのはこのボクだけである。

「アンタ、何考えてるか分からないから」
「何も考えてないんじゃないですカ」
「そうやって、はぐらかすから。これでも私達、友達だと思ってるのに」
 マナセの直球な言葉は不思議とそう嫌では無かった。
『少なくともこのたった数年だか数十年は自身にとって得難い友情を確認する時間だったと理解した』。
 そして同時に。『友情を確かめ、実感する』という素晴らしい時間さえも『長い人生』に塗り潰される時が来たのだと確信していた。
 鴉は貪欲だ。
 その悪食は全てを呑み込む。
 鴉は実に長くを生きる。
 遠く、遥かに遠く――例えばあの自称神のように。或いは混沌の神に元々そう作られた幻想種のように。
 長い時間を過ごす為の精神性を有さず、長い時間を耐え得る為の本質を有さぬまま――
(或る時は、研究。何処までも技術を極め、叡智を貪欲に喰らい尽くし、我が身を磨いた。
 或る時は、人助け。身を粉にして誰かの為に尽くし、多くを救ってみた。
 或る時は、悪逆非道。救ってきた人間を倍して混沌に地獄の花を咲かせたさ。
 それで、今度は友情か。今更並び得る『友人』を得て、その素晴らしい時間も既に黄昏時を迎えている)
『これから、然して遠くない未来に。彼等が全て居なくなった時、鴉は何を思うのだろう?』。
 自然(せつり)を魔術で超えてしまったマガイモノは自分自身で『全て』を経験し、その一つ一つを『何時か来た退屈』へと色褪せさせてきた。
 黄金のような時間が残した果実は甘く、その甘やかさの後に残されるのは『友情を知った経験』と『経験してしまった無価値』に他ならない。

 誰よりも未知に焦がれながら、誰よりも未知から取り残されている!

 シュペル・M・ウィリーは『完全』故に耐えられても、『マガイモノ』はとてもあの時間を堪え難いのだ!
 ……そうして、何年。何十年。いやさ、何百年、それ以上。
 やはり、ボクは孤独であり、やはりボクの退屈はその酷さを増していく。
 大抵の事は我が身で味わい、たまの例外もそう多く無聊を慰める事なんて無い。
 ボクは酷く無感動であり、酷く無味乾燥としていて、心底笑った事なんて全然無かった。
 親友達(アイオンやマナセ)は何時も笑っていると言っていたけれど、それは自覚しない――持てる者達の戯言だ。『勇者の奇跡』の一角でしかない。
 だから。

 ――お父様!

『長い澱みの時間の果てに子供(リーゼロッテ)が出来た時、ボクは心底歓喜した』。
 大して特別な経緯がある訳でもない。リーゼロッテを産ませた母親は戯れの関係で彼女を産んだ頃には狂って死んでしまっていたけれど。子供が出来ない性質だと思っていた自身(ノーブルクラス)にそれが出来た時、ボクは直感的に意味とその先を理解したのだ。
 リーゼロッテが『同属』なれば、ボクは世界に一人きりのマガイモノではなくなるだろう。
 全てが色褪せるこの世界の中で、自身を殺し得る、滅ぼし得る『同属』が愛しかった。
 その高みは余りに遠くとも――『そう育ってくれさえすれば』。永遠の退屈からの脱出に何よりも相応しいと考えられた。

 ――それは儚くも虚しい希望的観測だったに違いない。
   鴉は絶大で、たかが娘には何十年、何百年では余りに荷が勝つ。

 しかし、ボクはそれで十分だった。

 ――お父様、試験で一番を取りました。褒めて頂ければ、リズは嬉しく思います。

 ――お父様、お誕生日をおめでとうございます! もし宜しければこちらを……

 ――お父様。

 ――お父様!

 ――お父様……

「……『お嬢様』は実に健気でいらっしゃるカラ」
 揶揄するように告げる度に傷付いた蒼薔薇が愛おしくなった。
 鴉は薔薇を啄むが、誓ってそれは『愛』故にである。
 考えてみればこのボクは、経験していなかった事が二つもあった。
 そしてその二つをたった一つで十分に満たす解がそこにはあったのだ。

 ――男女の愛と、子育てと。

 捩じれて歪んで鴉は嗤う。
 嗚呼、三流(マガイモノ)は――実に虚しく面白い!

 ※ヴィーザル地方の村リブラディオンへ調査に行きましょう。


※鉄帝と天義の国境付近で『何か』が起こっているようです――
※不凍港ベデクト、鉄道網の調査の報告書が届いています――!
※アーベントロート動乱『Paradise Lost』が最終章を迎えています!

鉄帝動乱編派閥ギルド

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