PandoraPartyProject
<Sprechchor op.Ⅱ>
――魔種『煮え炎の殺生石』が出現してから、3ヶ月が経過しようとしていた。
自ら攻撃を行おうとしない奇癖を持つ魔種の討伐は決して難しいことではなかったが、魔種が討伐に向かった者を通して吐露した情報、そして遺体から判明した事実はローレットにとって非常に厄介な要素を孕んでいた。
ひとつ、魔種となったもと貴族の少女は常軌を逸した肉体改造の果てに反転に至った経緯があり、その肉体改造には他種族の肉体が使われていた、ということ。
獣種、飛行種、海種。様々な種族から切り取られたであろう肉体を惜しみなく使われた事実は、魔種となった少女以外にも多数の犠牲者の上に成り立っていることが窺える。
幻想王国でそんなものを調達する手段などそうそう考え難い。……となればこれを成し遂げたのは『奴隷』に関わるなにかであることは予想できる。
ふたつ、下手人達(ここでは魔種となった『エイリス・ヴェネツィーエ』の誘拐と改造に関わった者達)はとある旅人と関わり、幻想にそぐわぬ医療技術と魔種に対する無意識の信奉を植え付けられたことが明らかであること。
魔種に対して信奉を募らせることは(珍しいが)類例がないわけではない。ないのだが、それを旅人が植え付けたこと、自然発生ではなく自ら生み出そうと動く者の存在の2点に於いてその危険度を大いに異にする。
果たして、武器商人(p3p001107)の情報提供を以て、『原罪のシュプレヒコール』を名乗る旅人の追跡調査、ひいてはその絶命がローレットが目指す小目的のひとつとして設定され、少数のイレギュラーズを幻想と近隣諸国へ派遣。各国での彼の足取り、及びシンパ達を引きずり出すべく情報収集を開始した。
幻想では、佐藤 美咲(p3p009818)が目をつけていた北方貴族『イーノ・ミステ男爵家』を調査した結果、貴族家の炎上のさなかに『正義巛巛亜心』の介入を捕捉。怪王種および複製肉腫の群れと交戦。
赤羽・大地(p3p004151)とグリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)は『肉体の一部を盗む猟奇殺人犯』の噂を聞きつける。
海洋では、アーマデル・アル・アマル(p3p008599)と冬越 弾正(p3p007105)が海洋からラサへと向かう奴隷船の航路を発見。その際『『毒の乙女』レイラ』と接触。
彼らが調べた航路によれば、奴隷船が海洋から直接ラサへ――陸路でネックとなるバルツァーレク領を回避する形で――輸送されていることが明らかとなった。
それに先立ってシグルーン・ジネヴィラ・エランティア(p3p000945)が聞き出した情報が正しければ、奴隷船には海洋貴族の食い詰め者達が載せられた可能性が浮上する。
夜乃 幻(p3p000824)ら5名ほどが人体改造に知見のある怪しい医者を特定し、これと接触するも『杉田玄黒』なる外科医の名前を引き出した段階で対象が外的要因により自爆。
武器商人、ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)を中心とするラサ調査隊は奴隷たちの増加傾向とその内訳に不審なものを感じ取り、聞き取り調査を重ねるが複製肉腫集団に襲撃を受ける。そこに現れた鵜来巣 冥夜(p3p008218)の兄『鵜来巣 朝時』の口からシュプレヒコールとの関連性、そしてその足取りを追う為には『ヴィジャ盤』を完成させねばならぬことが告げられたのだった。
そして、フラーゴラ・トラモント(p3p008825)とエル・エ・ルーエ(p3p008216)は、深緑にて弾正の弟『秋永 長頼』に怪しい動きありとの情報を入手するのだった。
斯くして『二つの占い』に導かれしスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)を含めた面々は、各国に現れると目される『シュプレヒコールの配下』の調査と撃破へ向かうこととなる。
●格好をつける男、緩やかな死出の旅、母を騙る者、そして
「お前の存在が兄を苦しめる。お前の努力は兄を追い詰めた」
雪解けを迎えた春の滝めいて。
音の波が流れ出て、世界を染める。
語る声が意識を支配する。
「兄の自由なる魂を語る。
一族から離れ、しがらみと先入観の白眼視から解放され、名高きギルドで友と活躍し日々栄光と友情を謳歌する、そんな兄を一族の蜘蛛の糸に戻すのを望む――違う。自分の元に戻ってほしいのだ」
シュプレヒコールの聲は低く、明瞭だ。
神のように理を識り、錬金術師のように生命の神秘を操り、心を感じ取り、分析して。その瞳に映る自分がひどく醜く視えて、自分とはこうなのだと突きつけられるようで。
長頼は両腕で身を抱き隠そうとした。
「この子も駄目だった。耐えられなかったのよ。どうして……どうして……」
「なら、あの子は君の子ではなかった」 君の子であるならば、当然、君の毒に耐えられるのだから……」
「そう。そうなのね? それなら、私の子はどこにいるの……?」
「この世界は広い」と彼は言う。この世界のどこかに、きっと……。
「そうね。こんなときはスープが必要だわ。あたたかいスープを用意しなくっちゃ」
ああ、思い出す。子供の頃のこと!
配られるスープの底にみんなは怯えていた。いつだってお薬が入っている。
でも、配られる食べ物はもうそれしかなかったの。
だいじょうぶ、だいじょうぶ、言い聞かせて飲んで、飲んで、飲むうちに。少しずつ、少しずつこの体は毒に染まり耐性を得た。
そう。このスープを飲んだら、また、探しに行かなくちゃならない。
私の子供達を。
――其れがあればまた会える。君か、君ではない者たちかは知らないが。
――病理を解き明かした時にまた会おう。
「……なあ、冥夜」
雨が降り出す。ああ、なんて暖かい――
「お前はまだ、真理に気付いていないのか」
世界を救うには、力が必要なんだ。
その力の色が白か黒かなんて関係ない。強いものだけが平和をもたらす事が出来るのだから。
なあ、そうだろう? だからお前だって、強くなってきたんだろう?
「ボウヤ、ボウヤ、ドコニイルノ」
『それ』は子供を探していた。失った子供、可愛い子供。たくさんの子供を愛せるようにその身を変えてきた『異形の母』は、いつしか母というには理解し難い外見へと変化していった。
その有様、その末路をシュプレヒコールはくすりと笑って愛でた。
「正直、『魔種には興味がない』のだがお前は別だ。反転した後に相当に穢れを溜め込んで悪化したとはな? 『君』みたいだと思わないか」
「魔種のまま狂っただけの代物と妾を一緒にするとは、蒙昧極まる見識よな。いま一度その戯言を妾に向けて吐いたら、あとは分かるな?」
シュプレヒコールの傍らにいる『それ』は彼の言葉にひどく心証を害したように顔を顰める。その可愛らしい所作ですら、まともな者が浴びれば形を保っていられまい。
「そう機嫌を損ねるな。私にとっては興味深い話なんだ。……さて、それじゃあ子どもたちを探しに行こうじゃないか。私も彼が気になるが、今は顔を出す時じゃない。……正義巛巛と鵜来巣も動いてくれているのなら、なおさらね」
「ボウヤ、ソコニ」
……ソコニイルノカシラ。
※<Sprechchor>のあらすじと解説
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