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シナリオ詳細

蒼く燃える程熱く、燃え尽きぬほど濃密に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●喪失、憐憫、憤怒
「この感情を何と呼べばいいのでしょうか」
 熱に浮かされた声で私は問うた。何時もそこにいる親しい貴方に。激しい脈動が鳴り響いている。
 貴方は「恋をしたのかもしれないね」とはぐらかした。
「恋とはこうも痛いものなのでしょうか」
 視界に入った光景に痛覚はなく、けれども経験と知識は叫び声を上げそうになり、私は理性でそれを縛った。
 貴方は「叶わない恋はいつも痛いものさ」とはぐらかした。嬉しそうに持ち上げた『それ』に私は見覚えがあったけど、私の方を向いてくれないことのほうが気になって仕方ない。
「なにかとても大切なものをなくした気がするの。恋とは失うものだったかしら」
 そんなふうに、私は口にした気がする。貴方はわかっているのかいないのか、曖昧に笑っている。けれどもその笑みはとても大事なものを見つけたように、狂気と蠱惑を湛えて歪む。
 やっぱり貴方はわかっていない。「君はこんなに多くを得たね」と、こんなに満たされてるじゃないかと、嬉しそうに笑っている。

 私は動かせない翼などいらなかった。
 不格好に長い足などほしくなかった。
 つぶらな瞳のままでよかった。
 きれいな黒髪に生んでくれた両親に、この白髪をなんて伝えようか。
 ああ、ああ、そこに広がっている血は全部私のものなのに。もとに戻したいという欲すらも私の中には残っていない。
 視界の隅にはただただ不格好な肉塊にこびりついただけの、『私のどこか』が。

 気付けば辺り一面が燃え広がっていた。
 私で遊んだ貴方はいつの間にかとても小さくなって転がっていた。どんな顔で最期を迎えたのかもわからない。
 私だったものが燃えてしまった。
 もう私ではない肉体がある。
 私ではないものは要らないから燃やしてしまおうと思った。
 そしてそれきり、私は闇に閉ざされた。

●魔種『煮え炎の殺生石』
「魔種討伐の依頼が舞い込んでいます。……依頼人は、魔種になった人物の父親です。なんでも、行方を眩ませて長らく経ってから、娘を攫った一団の情報を得たそうなのですが、既に一団は全滅、お嬢様と思われる魔種は……なんといいますか、魔種ではあるのですが戦闘能力が極めて限定的かつ能動的ではないとのことで、警戒度はやや落ちています」
 『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)は資料をめくりながら、歯に物が詰まったような言い回しでもって説明する。
 魔種である以上はそのどれもが強力であり、精鋭を集めてやっと勝ち筋が見えるかどうか、程度のケースが多い。というか、それが通説である。
 が、三弦曰く「普通に闘って、余程のケースがなければ十分勝てるだろう」とのことだ。
「『煮え炎の殺生石』、というのが識別名です。属性は『憤怒』、影響は『炎』、燃焼と爆発を司る能力を持ちます。……ここまで延べると、普通なら近付くことすら困難な相手が思い浮かぶでしょうが。彼女、憤怒と共に深い哀しみ……というのでしょうか。強力な精神干渉を行ってきます。攻撃を受け続けなければ命が危ぶまれる火力ではないようですし、イレギュラーズなら無視して撃破もできるようですが、彼女がこうなった理由や、攫った一団の背景などを知ろうとするなら炎を受けてその上で倒す必要があると思われます」
 名前、情報、どれをとっても強敵にしか思えない。抗議をしようとしたイレギュラーズは、しかし眼鏡から投影されたその姿をみてぎょっとなって動きを止めた。
 炎の中に転がった、人の姿を完全に失った炭化したかのような、黒い塊。炎の中にあって涙のような液体の筋がそこかしこから流れているのが分かるだろうか?
 周囲、炎の影響を受けていないだろう草花がいびつに萎れていることから、ただ「怒りのまま燃やす」個体であることが明らかだろう。
「それで……この一団、情報が極めて断片的にしか残ってないのですよね。規模やその末路からして、優秀な人物が関わっていたとは考えづらく。でも、魔種になった少女に関連した情報を見る限り、高度な外科手術の技量を持った何某かが関わっている、或いは情報提供をしていた可能性があり……」
 三弦が情報を早口で述べている間、ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)の背筋に冷や汗が落ちる。
 何も知らない情報だらけなのに、心臓を握られたかのような不快感が、足元に降りていった。

GMコメント

 全くなんにもわからないのになにかとんでもないことが起きそうなことだけは凄くわかりますね! 畜生!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●魔種
 純種が反転、変化した存在です。
 終焉(ラスト・ラスト)という勢力を構成するのは混沌における徒花でもあります。
 大いなる狂気を抱いており、関わる相手にその狂気を伝播させる事が出来ます。強力な魔種程、その能力が強く、魔種から及ぼされるその影響は『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』と定義されており、堕落への誘惑として忌避されています。
 通常の純種を大きく凌駕する能力を持っており、通常の純種が『呼び声』なる切っ掛けを肯定した時、変化するものとされています。
 またイレギュラーズと似た能力を持ち、自身の行動によって『滅びのアーク』に可能性を蓄積してしまうのです。(『滅びのアーク』は『空繰パンドラ』と逆の効果を発生させる神器です)

●成功条件
・魔種『煮え炎の殺生石』の撃破(難易度中低~)
・(オプション)一定以上『想起の炎』を受け、記憶の追体験を完了させる。ないしは複数名で受け、記憶の照合を一定レベルまで進める(戦闘終了後行動)

●煮え炎の殺生石
 元カオスシード、「エイリス・ヴェネツィーエ」。現在は激しい炎を放ちながら動かない炭化した肉の塊のような惨状になっています。
 火炎、凍結両系統が無効。HP、防技は魔種相当にあります。ただし神秘攻撃力が魔種にしては低め。
 基本的に能動攻撃はせず、攻撃してきた相手に対し『想起の炎(神超単・万能・混乱系列)』を放ちます。これは攻撃してきた相手が増えればEXAに関わらず全員に放ちます(なので最大攻撃回数8まで行きます)。
 この炎は同一対象に連続5回放ったらもう一度攻撃しないと飛ばしてきません。まあ安全策が色々あるし、闇雲に叩いてもイレギュラーズ側が窮地に陥るアレです。
 なお、5回で打ち止めなので受ける攻撃は最大でも40回(8人×5回)となります。
 『想起の炎』を受けた対象は『メモリアルエフェクト』が蓄積します。蓄積した分だけ勝利時に情報が開示されます。
 受けた回数が多いと重要度とか『彼女が認識していない記憶』が彼女の知覚情報を元に再現されたりします。この情報は、今後の調査に用いられます。

 ちなみに、何故優先設定があるのかは皆目見当がつきません。いまのところは。

  • 蒼く燃える程熱く、燃え尽きぬほど濃密に完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
武器商人(p3p001107)
闇之雲
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
エル・エ・ルーエ(p3p008216)
小さな願い
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

リプレイ


 魔種の周囲は、枯渇と延焼を繰り返し、草木が再び生えることのなさそうな惨状を呈していた。遠巻きに見守るイレギュラーズ達「だけ」に敵意を向けてくることはない、されど、世界全てに対する敵意は明らかだ。
 『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)と『闇之雲』武器商人(p3p001107)、2者が放った3体の使い魔は、一同の更に外側を周回するように移動している。
「なんというか……異様……としか言い表せない状態の魔種だね……」
「死ぬに死ねず……死なせず、転げ落とされた、という印象だ」
「どうして、こうなってしまったのでしょうか」
 『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)と『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)も、能動的な攻撃はせずとも『魔種』としての意思露わなそれの異常性には閉口するしかない。エルも同意を示しつつ、されど何をすべきかについては、一つしか無い選択肢を思えば心が痛む。
「彼女が魔種であり、俺達はイレギュラーズである以上、戦わなければいけないのは百も承知だけど」
「魔種になった者は、もう二度と元の姿に戻る事はない。これ以上罪を重ねる前に終わらせてあげましょう」
 『未来を、この手で』赤羽・大地(p3p004151)と『守る者』ラクリマ・イース(p3p004247)は自分達の役割を違えることはない。そこに至る苦悩が如何ほどであれ、魔種になった者にかける情を持たない。あるとすれば、終わった命に捧げる祈りぐらいだ。
身体ずっと燃えてるのってマジしんどくね?俺は一部だけど君は全身じゃん?超痛そう。こうなる前に助けてあげたかったな』
「過ぎたことを悔やんでも仕方ない。次の犠牲を生み出さないことの方が重要だ」
「……うん、今は彼女を楽にしてあげよう」
 『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)、『虚』と『稔』の2つの意思による対話めいた言葉のやりとりを聞きつつ、『戦場のヴァイオリニスト』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)は己の胸を押さえ、静かに頷いた。先程から、否、依頼を受けると決めた時から抱いている感情は、掴みどころがない。膨れ上がり、ないしは押し込められ、膨張と収縮を繰り返す思考の乱れ。こんなものを抱え込んでいたら死んでしまいそうだ、などと思うくらいの感情のゆらぎ。
「大丈夫だよ、小鳥。我(アタシ)がいるからねぇ」
「ありがとう、紫月。甘えさせてもらうよ」
 なんとか立っている、としか言いようがないヨタカの姿に、武器商人は後ろから肩を支える形で語りかけた。ヨタカにとってそれが、どれだけ心強いかは語るまでもないだろう。
「情報収集が目的ではありますが、できるだけ損害無く魔種を撃破することを優先しましょう。武器商人さんの負担が大きいので、俺達で出来る限りカバーします」
「エルは、ヨタカさんと武器商人さん、どちらも元気いっぱいで、帰れるように、がんばります」
「そういうこと。皆、やるべきことをやるさ」
 ラクリマ、エル、ヴィーグリーズの言葉はいつもの調子となんら変わらない。変わらないからこそ、2人の背を押すには十分すぎた。
「じゃあ、1人ずつ5回殴って交代、全員に対して5回ずつ反撃が来たら相手は打ち止めだから、あとは総攻撃。準備はいいかい?」
「了解した。武器商人殿には世話をかける」
 武器商人が改めて方針の確認を促し、アーマデルを含む全員が大きく頷く。アーマデルにとっては、魔種の状態はあらゆる意味で冒涜だ。
 魂にとっても肉体にとっても、これ以上無いほどに。今すぐにでも倒したいが、それが出来ぬ歯痒さがあり。されど、思いを遂げるだけの力と仲間がいることを、彼は誰より知っているのだ。


「商人さん、お願いします」
 一番手として名乗りを上げた『稔』は魔種に向け、挨拶代わりに魔力弾を叩き込む。蒼い炎が表面から溶かし、威力を削り取ってなお核となったその信念は健在だったらしく、小さくない傷を生む。
 反撃に飛んできた炎を武器商人が受け止めると、稔は続けざまに不吉の帳をおろし、その意思に狂気を生み出そうとする。にもかかわらず、魔種は自傷に走る兆候を見せない。心理的強度も高いのか。
「もう……一発!」
 霊刀による直接攻撃に切り替えた彼と共に、武器商人も前に出る。至近で放たれた炎は勢いに乏しく、しかし何事かを刻み込もうとする意思が濃い。
「攻撃を変えてみるというのはいいかもしれない……紫月、守ってくれるかい?」
「勿論だとも、小鳥」
 5度の炎を受けて小動もしない武器商人の後ろから、ヨタカがヴィオラを構え、音の魔弾を叩き込む。続けざまに吐き出された音の術式は軽やかな音色の中に逃さじの覚悟と決意を乗せ、着実に魔種の肉体に不調を重ねていく。尤も、その炎の中にある肉塊がいかなる逆境にあるのかは、傍目には判別し難いのだが。
「これは、俺にとってチャンスかな。ヨタカ殿に感謝を」
 アーマデルは蛇銃剣を振るうと、連続して斬撃を叩き込んでいく。共に穿たれた銃弾は、内側からヨタカの生み出した不調に呼応してその肉を裂き、続けざまに放たれた技巧の数々はさらなる不調を折り重ねる。如何に魔種の不調に対する耐性が高くとも、重ねられた試行はいつしか真実へとたどり着くものだ。
「真実を突き止める為なら、俺も幾らでも協力しよう」
 大地は武器商人に繰り返し治癒を施し、積み重ねた傷を癒やす。ヨタカと入れ替わりで前進した彼は、手にした羽ペンを振るって魔種へと言の葉を叩き込む。一言、ふた言、いくらでも。綴られた言葉は流れを生み、魔種の肉体に着実に傷をつけている。それでもその肉体に崩壊の兆しがこれっぽっちも見えないのは、腐っても魔種ということだろう。
 大地は攻撃の手を止め、観察に徹する。先程から仲間達の攻撃が手を変え品を変え続けられているが、身じろぎしない相手の感情の機微を測るのは至難の業だ。
「人が人を傷つけ殺す理由は単純至極。大抵、憎悪と狂気の何方かに分類されると聞く。……俺は純真潔白な天使だから、詳しいことは分からんが」
「お嬢ちゃんが怨みを買ってたのカ? 無いダロ」
「そうだな、だとすれば後者だ」
「つまり、彼女を魔種にしてまで叶えたいなにかがあったのか、魔種にしたかったのか? 俺にはさっぱり理解できませんね」
 稔と『赤羽』の会話を聞きつつ、ラクリマはタクトと魔導書を携え、ゆっくりと息を吐く。タクトとともに紡がれる歌は剣を生み、次々と魔種へ降り注ぐ……堅固な守りも、その剣には通じない。深い悲しみを思わせる体液が表面を伝うが、すぐさま蒸発し、その感情を悟らせはしない。まるで、涙一粒すらも無駄だと断じる心持ちをみているようだ。
「エルは、ヨタカさん達の為にも、がんばります」
 ぐっと拳を握ったエルは、魔種に対して封印の術式を、次いで悪意の一撃を叩き込む。エルめがけて放たれようとした炎は、しかし掠れたような音を上げてどこにも向かわず消えていく。その間にも叩き込まれる術式は、彼女の、魔種となった少女に対する理不尽を、それに向けた行き場のない静かな憤りを反映しているようにも見えた。
「武器商人さん、ヴェルグリーズさん、エルの後は、お願いします」
「……だそうだ。先手は貰うよ」
「好きにするといい。ヴェルグリーズなら間違いはなかろ?」
 エルの言葉に苦笑しつつ水を向けたヴェルグリーズは、武器商人からの思わぬ信頼に複雑な表情を見せた。仲間達から適度な範囲で治療を受け、万全な武器商人らしい……そう思いながら、ヴェルグリーズは一足で魔種の懐に踏み込み、苛烈な一撃を叩き込む。重い感触に、至近から吐き出される炎の苛烈さ。自分も『受け止める者』としての自負はあるが、武器商人はこれを何十発と受けたというのか。
「こんな魔種を作って放置…………いや、逆襲されたのか? どちらにせよ理解できないな。道理が通らない」
「さて、どうだか。我(アタシ)はここまで傷ついた分、思い切り反撃させてもらうよ」
 ……道理が通らぬというのなら、武器商人の状態そのものが道理を超越している。普通ならとうに倒れる傷を受けて、なお倒れぬ。ここまでは、その人となりを知る者なら当然というだろう。だが、ここからが『今の武器商人』の曲者たるところだ。
 受けた傷を力とし、相手に対する攻撃を加速させる。目の前の憤怒の魔種をもかくやと言わんばかりの猛攻は、受け止め耐えて立ち上がる姿のその先を明確に示すものと言えるだろう。それでもなお運命には届かない。復讐の炎は、しかし敵を確実に殺すために吐き出されているわけではないのだから。
 蓄積する記憶の澱に思考を鈍らされながら、しかし武器商人は仲間に総攻撃の指揮を出し、一気呵成に攻め立てる。魔力は全てくれてやる。命も限界まで差し出そう。だから、その秘めたる思いを、秘密をすべて寄越せと強欲なる異界の者は、声にセずただ叫ぶ。
 ……やがて、魔種の命が炸裂するとともに、その記憶の奔流が爆ぜた。


 人というのは満たされぬ生き物である。それがたとえ、貴族に産まれた恵まれた人種だとしても。
 エイリスという少女の不幸は、貴族の持つ富で満たせるものではなかったことにある。それを夢見がちな少女のそれと捉えるだけならまだいい。
 真なる不幸は、彼女が手に入れられぬもの――飛行種や海種が持ちうる『個性』のように己もありたいと思い、現にそうしようと無茶を繰り返したことにある。
 たとえば空を飛びたいから、身ひとつと粗末なグライダーを手に屋根から飛び降り。
 水辺を自在に泳ごうと夢想し、川に流され命の危機に見舞われたりだ。
 思いつく限りあらゆる行為をあらゆる場所で、それこそ親を騙してまで試し続けたその行為は狂気の淵に立っていたといえるだろう。
 だが彼女は「強欲」ではなかった。海洋の民が絶望の青に挑んだような、ただ純粋な憧れだった。
「私は平凡だから自分の手で掴みたいの」
 エイリスの口癖はそれであった。自分の努力、自分の知識、自分の伝手で、自分にはないものを手に入れたいと思っていた。
 それは隣の青い芝だとわかっていても止められない。嫉妬するでもなくただ純粋に、彼女は夢を見続けていた。

 混沌に生きる者達は総じて魔種なるものへ変貌する病理を抱えて生きている。
 それを調べ、追求したいと男は願った。
 ならず者集団であった人々に歪んだ形とはいえ知見を与え、興味をそそり、行動の指針をくれてやった男は、元ならず者達が人の姿を捨てる可能性を夢見ていた。彼らが凶行に走り、最初の『成果』だと言って人の形を成していない、息をしているだけでも明らかにおかしい――混沌で知り合ったあの男の技術だろう――ナマモノを作り出した時、彼らは一生を狂奔に注ぎ込んでもきっと魔種にはなれまいと確信した。
 男はそれきり、多少の薫陶を与えてからはその狂人達から距離を置いた。
 彼らは魔種に憧憬を抱いていたが、だからこそ彼らは魔種には辿り着けないだろう。誰が言ったか、憧れとは理解と最も遠い想いなのである。
 男の不幸は、ヴェネツィーエの家に伝手があったにも関わらずエイリスの『素養』を見落としたこと。
 エイリスの不幸は、男が狂人達から離れるためにヴェネツィーエの家との伝手を彼らに明け渡したこと。
 外の世界、ほかの種族、自分にない可能性を拡張するというひたむきな狂気(ゆめ)は、エイリスに、その男達が何を求めて人の形を変え、新しい存在を生もうとしていたのかを理解させることを終ぞしなかった。
 彼女が欲していたのは「何者かになるための変質」であり。
 男達が求めていたのは「今とは違う別のもの、それが何を成し遂げようが成し遂げまいが関係なく、歪んだ美意識を満足させる器」であった。
 畢竟、エイリスが得た肉体の変化は彼女が望むようなものではなく、翼があれど飛ぶことはできず、獣の脚は結合部の神経縫合が半端なため動かしても激痛が走る。
 視神経は拡張されはしたが脳が耐えられる情報量を超え、髪は度重なる手術と粗末な麻酔術の産物として、ショックで白変してしまった。それで死ななかったのは、きっと男の甘言に乗り続け、或いは乗っている自分の悲劇性に酔っていたのかもしれない。
「こんなに優れた造形のまま狂ってくれれば、きっとより素晴らしい■■になるに違いない。――――様もその経緯を知ればお喜びになろう」
「この娘にはもっと深い絶望を、より重い現実を、そして心の底から湧き上がる生の感情を以て振る舞ってもらわねば」
 エイリスは彼等が、自分のことを見ていないことに何より憤りを覚えた。
 彼等は自分を踏み台にして、自分ではない誰かに心を捧げているのだ。変化し続けたエイリスという女の姿には何ら興味がない。よしんば私が死んでも、次があると嘯いている。
 許せない。こんな連中も、こいつらに入れ知恵をした――――ルという人間も。
 何もかもが許せない、この姿すらも。

『……ああ、見てしまったんだね。知ってしまったんだね』


「…………っ」
「紫月!? 大丈夫かい、紫月!!」
 武器商人は、ヨタカの必死な叫びに誘われる様に体を持ち上げ、自然な所作で彼の肩をかき抱いた。長い髪は表情の一つも見せはしないが、しかし目元と思しき位置から滂沱のごとく流れる血涙は、ただならぬ状況にあったことを窺わせる。
「ヴェルグリーズ……我(アタシ)はキミに役割を押し付けたのかい?」
「いんや、全く。魔種が滅びた直後にいきなり倒れ込んだから、ヨタカが受け止めたんだよ」
 感謝するんだよ、とヴェルグリーズはヨタカをちらと見て、呆れたように武器商人に視線を向けた。
「エルは、エイリスさんや誰かの落とし物がないのか探しましたが、なんにも、残ってませんでした……でも、武器商人さんが起きる前に、エルの使い魔さんの反応が、消えました」
「酒蔵の聖女の加護も馬鹿にはならない……ってね。死んだ連中の中に『そういう』奴がいたから話を聞けたけど、うん……なんだ、この場所が『工房』の成れの果てらしいんだ」
 エルとアーマデルは互いに調べた結果を挙げ、状況の異常さに顔をしかめた。遺品の類がないのはいい。霊魂経由で、魔種の能力の危険度が理解できたのも収穫だ。だが、使い魔の反応が消えた? つまり、ここに何かが近付いていたということではないか。
「魔種になる直前の彼女の姿……本当に燃える前だけど、概ねの体型は推察できた。けど、随分と歪だったよ。女の子がしていい姿じゃなかったね」
「本当にキミ達は優秀だねェ。我(アタシ)が受け取った情報はちょっと、ごちゃごちゃしててね……」
 武器商人は、果たして何から話そうかと情報を整理し、ぽつぽつと口にする。
 折り重なり入り組んだ二人分の記憶。エイリスのものと、この事件を起こした者達の更に上、『元凶』と呼べる者の思考。それらをトレースしたがために、自我の境界が曖昧になったのを、運命の力で強引に引き戻したのだろうということ。
 そして、エイリスが魔種として怒りに身を任せながら記憶を相手に押し付けたのは……ただただ復讐出来る人間を探していたのだろう、ということ。
 それらの情報を統合し、1人の人物の名前が浮かんだこと。
「その元凶の名前は――」
 言うか否かのタイミングで、ヨタカの表情が青ざめたのを全員が感じ取った。だが、口にせねばならない。その後は、全員が引き受けることができるから。
「シュプレヒコール」
 膝を屈したヨタカの目に光はない。だが命は健在だ。一同は、その人物の名を心に刻んだ。大事な仲間の心に打たれた、楔の名を。

成否

成功

MVP

武器商人(p3p001107)
闇之雲

状態異常

なし

あとがき

 大変お待たせして申し訳有りません。シナリオとしては問題なく成功しております。
 敵に対して能力的に大きなアドバンテージがあった為、苦戦らしい苦戦はなかったです。
 流石にほぼすべての情報を1人で受け止めるというのは全く想定しておらず、受ける負荷がとんでもないことになっているのでパンドラは多少減っておりますが、面白い策ではありました。
(差し引きで見ると減ってないかもしれませんが。せいぜい2人スイッチが関の山だと思ってて……)
 今回の出来事に関連して見えてきた『何か』が、どういった関わりを見せるのか。今後機会があれば、またお付き合い頂きたく。

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