PandoraPartyProject

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Noise

「……っ……!」
 平素から殆ど『表情』の変わらない永遠の少女の面立ちが苛立ちに揺れていた。
 ローレットから緊急通信が入ったのはつい先程の出来事である。
 調査中のIDEA――そしてR.O.Oに纏わる重要な情報の知らせはそれが練達の首脳に伝わると同時にその凶暴な牙を剥き出しにした。
「マザー、被害状況は!?」
 マスターの異名を持つ塔主の中の塔主――老練なるカスパールの焦った顔を見れるシーン等滅多にない。
 そしてそれはセフィロトの全てを一手に取り仕切る『中枢』。
 その絶大な処理能力で涼しく都市を運営するマザーのそれについても同じである。
 シュペル・M・ウィリーとローレットの会談は『事件の核心的事実』を伝えるものとなっていた。
 五里霧中に包まれ、漠然と姿を掴ませなかった『敵』の正体が知れた事は僥倖だったが、それを知った事は文字通り『戦争』の始まりを意味していると言える。
「……ダメージは、小規模であるとは言えない。
 IDEAの調査とログイン・バックアップ、システム補修に回したリソースの分、兄に負けています。
 ハッキリ言えば、私は私のシステムの一部に干渉(ハッキング)を受けている状態です。
 こうなれば……カスパールはIDEAを捨てる結論を持つでしょうね。
 しかし、残念ながらそれは遅きに失したと言えるでしょう。
『私は現在、私の意志でIDEAと自身を切断する機能を掌握されていますから』」
 何時になく饒舌なマザーの言葉が事態の深刻さを補強し、カスパールは唸り声を上げる他は無かった。
 Project:IDEAは練達の悲願だが『至宝(マザー)』と天秤にかけて良いものは練達には存在しない。
 ならば打つべき手はマザーの退避であり、被害をこれ以上広げない事であるのは明白だった。
 しかし、それは『敵』も承知の話だったのだろう。
 いや、より厳密に言うならば『敵の狙いは最初からマザーだった可能性が高い』。
 気付くのに遅れた分、初動の『負け』は状況に深刻な影を落としている。
「……しかし、まさかマザーに兄上がおられたとは」
「……………」
 ローレットから聞いた――シュペルの語った『創世神話』はカスパールからしても驚愕の事実であった。
 何よりマザーやHadesを産み出す事の出来た技術者等という存在が例えようも無い程の規格外である。
 文字通り『神の御業』を聞き及べば、流石のカスパールも絶句する他は無かったのである。
「……しかし」
 再び口を開いたマザーは苦しそうな顔で呟いた。
「ローレットの方達の働きは大きかった。
 もし彼等の情報が無かったら、辛うじての防御も不可能だったでしょう。
 システムへの侵入は一時的に遮断されている状態です。
 ……これは『兄』だけの力ではないようですから、何時まで持つかは分かりませんが――」
 ノイズ走るマザーは消耗の色を示している。
 彼女は希望的観測を口にしない。同時に必要以上に悲観的な未来を告げる事も無い。
 故に。混沌最高の演算能力の語る――言葉の精度は極めて高い。
『マザーとHadesの処理能力はほぼ同等であり、Hadesには先制攻撃を仕込む時間があった。更に他ならぬIDEAが産み落とした原罪のコピーがついている』。
 シュペルが口にした通り、Project:IDEAは些か優秀過ぎたのだ。世界の構造体と称された『イノリ』を忠実にコピーしてしまった事は現実さえ浸食する最悪のイメージだ。
 まさか現実のイノリと同等とまでは言えまいが、先に大国である天義や海洋鉄帝国の連合艦隊を壊滅間際に追い詰めた『七罪』共に劣るという道理もあるまい。
 故にこれはIDEAの危機である以上にセフィロト――練達そのものの亡国危機であると言う他はない。
「この後は――兎に角、ご自愛下さい。何より自衛を最優先に。
 ローレットのバックアップと御身のガードには我々も全力を尽くします」
 コクリと頷いたマザーは理解していた。
 愛しい子等が全てを失うのは『自身』が陥落した時なのだと。
 彼女は自身よりも子供達を愛するように作られている。子供の我儘にも、成長や挑戦にも無償の愛を捧げるように作られている。
 だからこそ、彼女は持てる処理能力の大半を『防衛』に回さざるを得ない。
 我が身の内を這い回る呪いの蛇を感じながらマザーの表情は決して晴れなかった。
(クリスト……)
『兄』が何を考えて『イノリ』に手を貸しているのかは分からなかった。
 ただ、彼女は自身を侵す凶悪な敵の意味を知っている。
『兄』と『原罪』が絡み合う、複合罪悪――それを言い表す言葉を知っている。

 ――コンピュータ・ウィルス(クリミナル・オファー)。

 もし、もしである。万が一意識を手放したならば『最悪の事態』が産まれてしまう――
「……出来るだけ、時間を稼ぎます」
 マザーは嘘を吐かない。独力で根治出来る、とは言わなかった。
「但し、くれぐれも。状況は芳しくありません」
「はい。その間に何としても――
 こうなれば奴のゲイムに乗って、R.O.Oを攻略し切る他はありませぬ。
 しかしながら、口惜しい。わしが出撃出来たなら……!」
 中央の監視モニターにはR.O.O(ゲイム)に起きた新たな異変。
 patch3.0『日イヅル森と正義の行方』、その告知が嘲り笑うかのように表示されている――


 ――R.O.O内部にpatch3.0『日イヅル森と正義の行方』の実施が告知されました!
   同時に一部のイレギュラーズが『ログアウト不可能』になっています!
   又、マザーの異変により練達首都『セフィロト』の機能が最低限まで低下しています!



 ――Tower of Shupellで新たな情報がもたらされました!
 ――隠れ里クスィラスィアの探索に出掛けていたイレギュラーズが帰還したようです。
 ――<グランドウォークライ>の祝勝会が開かれています!
 ――スチーラー鋼鉄帝国史上初の『鋼鉄皇帝総選挙』が始まります!
 ――<マジ卍文化祭2021>が開催中です!

これまでの再現性東京 / R.O.O

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