PandoraPartyProject

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神々の箱庭III

 それ自体の是非を問う事は無意味だが、彼は自身が情の深い人間であると考えてはいない。
 情とは大本、他人への興味から生ずるものと考えられる。
 自分以外の他に対して価値を見出す程に温かな感情は産まれ得るものだからだ。
 例えばそれは情けである。例えばそれは友情である。当然ながら愛でも良い――
「……まぁ、我ながら中途半端な話ではある。小生には全くもって似合わんな」
 ――故にシュペル・M・ウィリーは苦笑と辟易を隠す事が出来なかった。
 情けだの友情だの、ましてや愛だの。彼の長い長い人生には殆ど無縁のものだった筈だ。
 天上天下唯我独尊。彼の前に彼は無く、彼の後ろを行くのは彼以外の全てである。
 事実と関係なくそれを全く疑わないこの男が『他者』にこれだけ心を砕く事態は例外と呼ぶ他無い。

 ――シュペル、僕はね。君に僕の『子供』達の後見人になって欲しいと思っている

「……全く、頼む相手が余りに筋違いというものだ」
『出来る気になっているルーキー達』が何をしていようと興味は無かった。
 不本意ながら一応認めてやる『友人』の子がそんな彼等を慈しみ、助け続ける事も又然りである。
『何事も起きないのならば、唯変わらない完全と不朽を見守るだけで良かったのだ』。
「……………いや、違う。根本的な間違いだ」
 シュペルは思わず唸るように呟いた。
 より正しくは『例え何事かが起きたとしても、その顛末を見守るだけで良かった筈だった』。
 友人(チューニー)の望みは彼が遺した子供達の在り様を気にかけて欲しい、に過ぎなかったのだから。
「間違いが過ぎる!」
 シュペルは口をへの字に曲げて何とも機嫌の悪そうな顔をした。
 実際問題、助けろとは言われていない。だが、どうにも放っておけなかったのは確かである。
『彼からすればとんでもなく有り得ない事に、その為に未熟者に塔を登らせてしまった』。
 人嫌いの彼がアトリエに人を『招いた』事等、長い時間の中でも数える程も無い事態だった。
「……………」
 実際問題、シュペルがその気になれば練達に生じている問題の大半は解決が可能である。
 しかしながら筋金入りに『偏屈』な彼は素直にそんな事をするような性格ではない。
 彼はセフィロトの連中が好きでは無かったし……
 それをさて置いても、何より最大の問題は『チューニーの言葉を守るなら身動きが取れない事』である。
 兄クリスト、妹クラリス――
『未完の』天才が遺した子供達は混沌におけるオーパーツである。
 神を僭称するシュペルさえも認める程の天才が遺した『奇跡』が残すべきものである事は確かだった。
 されどシュペルは『この事態』に動き難い。チューニーの望みは子供『達』の後見をする事だったからだ。
 要するにシュペル自身、どちらかに肩入れする事に気が向いていない。
『Hades(クリスト)がマザー(クラリス)双方の判断を尊重しなければならない』という事だ。
 奇跡の産物、否。友人の忘れ形見を残したいと考える気持ちと、他ならぬクリストの判断を見守る気持ち、その双方が彼にはあった。
 何とも難しく何とも煮え切らない話。だからこそシュペルはイレギュラーズと謁見したのだ。
 運命をねじ伏せ従える特異点は天に任せるようなダイスの代わりとしては余りに上等だったから。
 シュペルが決め切れない事は滅多にないが、彼が委ねるならば相応の相手でなければならないのは明白だ。
「……小生は馬鹿か」
 考える程に自分らしくはない事態にシュペルはやはり苦笑を深めた。

 ――ほら。アンタって悪ぶってるばっかりでお人よしじゃない!

 その胸中にちくちくと残る棘のような言葉があった。もう何年経ったか分からないのに、未だに消えない。
「……誰がお人よしだ。今すぐゲームオーバーにしてやっても構わんが?」

 ――出来もしない事ばっかり言って! 大体、何時もアンタ言ってるじゃない。
   小生が本気になったら貴様なぞすぐさまお終いだーって!
   それ間違ってないわよ? アンタがその気ならアタシだってもうここにはいないでしょ!

「……小生は何時でも本気だろうが」
『出来の良すぎる頭が一字一句を間違えずに退屈なやり取りを再生した』。
 たかだか数百年の時間では記憶は褪せない。
 いや、それが数千年であったとしても褪せる事等無いのだろう。
 大嫌いな――お節介焼きの面影は、在りし日と変わらずに『知ったような口を利く』。
 シュペル・M・ウィリーは何時だって特別という呪いを帯びていた。
 この世界に在る限り、何処までも際限なく帯びていた。
 その呪いは根源的で強大だった。恐らくは他ならぬ自身にとってさえ例外にはならず。
『神を神とも思わないあの女以外にとってシュペルは常にどうしようもなく特別だった筈だ』。

 ――まぁ、……じゃないわよ。

「……………」

 ――そういうトコ、嫌いじゃないわよ。
   何だかんだ言っても悪ぶり切れない所も、不器用で嘘が下手くそな所もね。
   安心しなさいよ。きっとアタシが更正させたげるから。
   あ、でも。しなくても一生付き合ってあげるから泣いて喜んで構わないわよ?
   ……でもまぁ、生きてる内にはもうちょっと素直になってくれてもいいかなって思うけどね!

 神にも出来ない事はあるものだ。
 全く認めたくはないが、くだらない事で思い知ったものだ、とシュペルは深く嘆息した。
 そして、ふと思いついて正面に鏡を呼び出す。
「貴様の責任だぞ、――――」
 鏡面に映る自身の顔は悲惨極まりない。
 うんざりしたような、気が抜けたような、思い出したくもないものに出会ってしまった顔である。
「貴様の責任だぞ、本当に」
 何時から本当のお人よしになったのだか、とシュペルは酷く珍しい自嘲をした。
 どれ位振りにか『彼女』の名を呼んだ時のその顔は目を覆いたくなる位に歪んでいた――


 ――R.O.O内部にpatch3.0『日イヅル森と正義の行方』の実施が告知されました!
   同時に一部のイレギュラーズが『ログアウト不可能』になっています!


 ――Tower of Shupellで新たな情報がもたらされました!
 ――隠れ里クスィラスィアの探索に出掛けていたイレギュラーズが帰還したようです。
 ――<グランドウォークライ>の祝勝会が開かれています!
 ――スチーラー鋼鉄帝国史上初の『鋼鉄皇帝総選挙』が始まります!
 ――<マジ卍文化祭2021>が開催中です!

これまでの再現性東京 / R.O.O

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