PandoraPartyProject

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Bug observation

「――またクエストか」
 探求都市国家アデプト、首都セフィロト――
 R.O.Oを観測しているモニターを前にして思わず佐伯 操は吐息を零すものだ。
 現実における深緑のコピーとも言える『翡翠』の方で新たな動きが見えている……少し前に起こった『ジーニアス・ゲイム・ネクスト』からしてR.O.O側のシステムが勝手にイベントを開催するのは分かっていたが『また』だと。
 東の豊穣――神光(ヒイズル)の国では夜妖が溢れ
 北の鉄帝――鋼鉄(スチール)の国では大規模な混乱と内乱が発生し。
 西の深緑――翡翠(エメラルド)の国では鎖国政策が進もうとしている。
 いずれもイベント、或いはクエストと言ったゲームの体でプレイヤーに課題を課してくるものだ。それらをクリアする事によってゲームの流れは変わる……が。一つ解決してもまた増えてくるこの段階は一体何だろうか。
「まるでイタチごっこではないか」
「そうかね? アリス達の見事なる活躍によってそう悲観する程のものでもないと思うが」
 その時。頭抱えし操へと言葉を紡いだのはマッドハッターだ。
「神光はどうにも現実とリンクしている様な所があり予断を許さないが――
 歯車で満ちた鋼鉄の動乱は間もなくクライマックスを迎えそうだ。
 その中では妙な存在を捉える事も出来ているではないか。今まで影も掴めなかったのに、だ」
 見据えるは『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュとコンソールに表示されている存在――彼女が一体何者かは不明だ、が。鋼鉄の動乱に関わっている存在だと睨まれている。ただし練達が知り得る限りディアナなどという少女が現実の鉄帝にいた記録はない。
 しかし一際『異』の気配がするのだ。
 R.O.Oには現実とリンクするNPCが多くいるが――しかし。
「アレこそがバグの欠片ではないかね。そう! あり得べからざる存在――或いはいてもおかしくはないが、おかしい存在! そう言った者達がR.O.Oの異変を撒き散らしているのだとしたら? いや勿論目的など私は知らないよ。だけれども、R.O.Oのコントロールを取り戻したい我々にとってみれば彼女らの存在こそ正に手がかり!」
「……確かにそれは、な」
「そして感じないかね? 翡翠はどうにも自然が害されている様だが……
 強引ではないか。大樹を折りにいく? 物理的に? 魔術的に? いずれでも構いはしないが――人の意識や文化を変えたり、願いを捻じ曲げるといった手法からすると即物的に過ぎる。簡単に言うなら、そう」
 スマートではないのだよ、と。
 そのような手法……どこかに犯人に結び付くような材料が残っているかもしれないものだ。例えば誰かが妙な人物を目撃した――おかしな出来事を感知した人間が多い――などなど。
「バグの痕跡が多く残り始めているかもしれない、か」
「そしてその足跡を辿っていけばいずれバグの穴を見つける事が出来るかもしれないね。
 いや出来るだろうさ――何せ愛しのアリス達だ。この世は常に彼らの為にある」
「……まぁ確かにクエストをクリアし続けていればゲームが正常に進んでいるという事でもある。我々にとって悪い事ではない――筈だな」
 アリス……つまりマッドハッターなりの『特異運命座標』の呼び方なのだが、とにかく彼はアリス達に全幅の信頼を置いている様だ。彼らがいたから着実にR.O.Oのゲームが進んでいるのだと。
 そして操も同時に思考する。そもそも正体不明のバグは何の為に各地でこのようなクエストを催しているのか、と。もしもこれらのクエストを無視したら――クエストが全て失敗という結果に終わっていたら――
「ゲームが正常に終了しなかった、という事になるのかな」
 つまりバグの隙間が広がってしまうかもしれない。
 ……ただの憶測ではあるがやはりこの翡翠のイベントも無視する訳にはいかないだろう。鋼鉄の国の内乱も首都で決戦が行われている――そちらの観測とデータ把握も勿論重要だ、が。可能な限り手を伸ばしてこの世界を見続けるのだ。
「……特異運命座標達には、もう少し苦労を掛ける事になりそうだな」
 テーブルの上に置かれていた珈琲に手を伸ばし、口を付ける操。
 青く輝くR.O.O『ネクスト』世界の地図を見据えながら――口内に感じた熱湯の如き熱き感覚に、思わず舌を出してしまうものだった。

 ※翡翠を舞台にした新たなイベント『大樹の嘆き』が始まりました!

これまでの再現性東京 / R.O.O

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