シナリオ詳細
<グランドウォークライ>Motherland Howl
オープニング
●
「これがその……情報を解析したデータです。映しますね」
いつにも増して口ごもった普久原・ほむら(p3n000159)は、何度かまばたきし、深呼吸を繰り返す。そしてアイスティーで唇を湿らせてから、プロジェクターで資料を壁へと投影した。
映し出されたのは一人の女性の姿。
名は『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュと記載されている。
「えっと、ピント調整して、これで大丈夫ですね。見えてますね」
「うん、大丈夫。見えてる見えてる。壁に映るのって、なんかすごい技術ね」
答えたのはアルテナ・フォルテ(p3n000007)だ。
「……あ、は、は。便利ですよね、パソコンとかって」
周知の通り、探求都市国家アデプトではこの世界『無辜なる混沌』における様々な法則を打破するための研究が行われていた。その一つ『Project IDEA』は重大な国家事業としてR.O.Oという仮想空間を形成した。
しかし原因不明のバグにより異常な情報増殖が発生。あろうことか無辜なる混沌を歪にコピーする形で、ネクストと称する『まるでゲームのような世界』へ変貌を遂げたのだった。
そしてローレットにはバグの原因を突き止める為に、大型の依頼が舞込んだという訳である。
「このディアナが、バグの原因に、少なくともかなり近い存在なんじゃないかと、上が言ってて」
推測の理由はいくつかある。
ディアナの操る力があまりに強大であること。
ディアナを観測する際に、原因不明のエラーが頻出すること。
そして観測した彼女自身が、己をバグであると自覚している様子があること――等々だ。
ほむらは言葉を続ける。
「あと、これは個人的なことなんですけど。ええと……出来れば、笑わないでもらえると」
ディアナはほむらが十四歳の頃に書いていた、自作小説の登場人物らしい。
それ自体はどうでも良いのだが、ティファレティア、ディアナ、エトリラといった、その世界の登場人物が、なぜかネクストに出現している。あるいはその小説にそっくりな異世界が実際に存在し、旅人として無辜なる混沌に出現したのか。はたまたほむらの心象をこの世界の怪異が取り込んだのか。真相はともかくとして、ネクストは『無辜なる混沌の要素』を雑に組み込んで肥大しているのは事実だ。混沌側にも、おそらくだが『何らか』の事象それそのものはあるとも思える。
「いやまあ、小説っていうか、そんなちゃんとしたものじゃなくて。いわゆる黒歴史帳っていうか……」
個人の話はそのあたりで切り上げるとして、重要なのは『攻略』である。
ネクストはこれまでも、ゲームのようなイベント攻略を要求してきた。
今度のイベント名は『グランドウォークライ』。
巨大な機動要塞に搭乗し、R.O.O内の鉄帝国のコピー『鋼鉄(スチーラー)』の内乱に干渉し、首都スチールグラードを奪取せよという、荒唐無稽なものである。
「私があっちで出来ることは、そんなに多くなさそうよ」
「その辺は私も同じですし、もしよければ、来て頂けたらすごくありがたいです」
資料を見つめながらぽつりと零したワルツ・アストリア(p3p000042)は、ほむらがとにかく「心細い」という理由で真っ先に連絡した相手であった。
「バグの悪意が人為的というのはなんとなく分かってきましたけど、意外と正々堂々と見えるっていうか」
乱雑に用意された巨大ロボットなどの要素も、まるで攻略を実現可能とするためのサポートに見える。
ともあれ。
このチームはネクストにダイブし、ディアナへ直接接触するという危険な任務を負う事になる。
「情報は出来る限り提供していますが。なにぶんバグですから、何があるか分かりません」
リスポーン地点が近いが、『ゲーム内で死んだ回数』の影響は、未だ分からない。
「とにかくやってみるしかないって感じですが、どうかよろしくお願いします……」
言葉を結んだほむらは、イレギュラーズの目を見つめてから、深く頭を下げた。
●
そこは異様な光景であった。
あちこちに無数のクリスタルが生え、薄桃色に煌めいている。
建物や空も、鮮やかすぎるピンク色に染まっていた。
この世界の名はネクスト、混沌に寄り添う『どこか』である。
「君等が一緒に来てくれるって訳か、助かるね」
この世界へダイブした一行に向け、そう言ったヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズ(p3n000076)は、現実世界では鉄帝国の皇帝であるが、ここネクストでは二十歳ほどの若者であり、一介の闘士である。
鋼鉄皇帝殺害の嫌疑をかけられた――即ち『次期皇帝の候補』と思われた彼は、自身を狙う軍閥から身を守るために、このゼシュテリウスという軍閥を立ち上げた。
無論、ヴェルス自身は皇帝になる気などこれっぽっちもない。
様々な経緯があり、容疑者の候補から外れた訳だが、大軍勢を『食わせる』には兵站が必要だ。
ゼシュテリウスのスチールグラードへの進撃は、これを手にするために行われる。
だが大きな戦いとなれば、他軍閥も黙ってはいない。
それが現状の乱戦であり、イベント『グランドウォークライ』として現れたものであった。
この世界ネクストは、世界で巻き起こる様々な事象に、イベントと称して介入しているようにも見える。
それはさておき、このチームは城を占拠しているディアナなるバグNPCへ直接接触し、これを帝都から退けることを目標としている。おそらく相当な強敵であることは間違いない。
「まあ、俺達にはコレがある」
超強襲用高機動ロボット『エクスギア・EX(エクス)』。
搭乗式の巨大人型ロボットだ。
全てがワンオフ。イレギュラーズ個人のために、カスタマイズされている。
敵も当然利用してくるだろうが、そこはそれ。
とにかく、このイベントにおいては生身と比較して大きな戦力を得ることが出来るだろう。
リスポーン地点となるサクラメントは城の中に設置されており、かなりすばやい戦線復帰を可能とするだろう。またイベント中の特殊な判定により、エクスギア・EXに搭乗した状態でリスポーン出来る。
敵はディアナの力によって生み出された、様々な人々の模造品らしい。
そんなことを可能としたのが、この桃色の世界という訳だ。
本物は捕えられているようだが、そこは別の作戦に委ねることになる。
この戦域の作戦では、とにかくディアナを強襲し、最大の打撃を叩き込むのが肝なのだ。
「さっさと行きましょ」
リーヌシュカ(p3n000124)はそう言って、小さな端末のボタンを押した。
細いボディラインをぴったりと覆う、赤と黒のパイロットスーツに包まれる。
「あー……なるほど、これは……」
ほむらも同様に。白いスーツに覆われる。メリハリの強い豊かなボディラインが浮き彫りだ。
「い、いや、待って下さい。さすがに相当はずかしくないですか、これ」
「安全で操縦しやすいってことなら、仕方ないじゃない」
アルテナもまた、紫色のスーツに包まれた。
コックピットに乗り込み、発棺準備。
いよいよ出撃だ。
●
「さすがに強引すぎませんこと? これだからこの国(鋼鉄)は……趣味に合いませんわね」
苛立ちを隠せないディアナは、ぬいぐるみを抱きしめながら、不機嫌そうに唇を尖らせた。
それから薄桃色のパイロットスーツに身を包み、巨大ロボットのコックピットに身を滑り込ませる。
「こんなガラクタ、好みではないのですが仕方ありませんね、レティ」
「仕方なかろう。現状、パラス・ルジエで大きく力を損なった状態では、こうする他にない」
「言われずとも分かっておりますわよ。バグというのも、不便なものですわ」
城から上空へと飛翔し、スクリーンに投影された映像から周囲を見渡す。
そこかしこでは、すでに戦いが繰り広げられていた。
叩き込まれる高射砲の砲弾をものともせず、二つの機体が向き合っている。
頭部のバルカンが火を吹き、轟音と共に巨大な盾を瞬く間にひしゃげさせ――盾を投げ捨て突撃する一機を、光線剣が赤く溶断し、そのまま切り裂いた。
上下二つに分かれた機体が、空中で爆発四散する。
高速回転する盾の残骸が、無人の銀行へ突き刺さった。
遠方に光る点がある。
みるみる近付いてくる。
ディアナの機体から、十を超える飛翔体が観測された。
「来ましたわね、イレギュラーズ」
――不本意ながら。
私手ずから、お相手をして差し上げましょう。
- <グランドウォークライ>Motherland Howl完了
- GM名pipi
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年09月27日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●
――天空に舞う。
そこは本来、抜けるような青空であるはずだった。
機動要塞ギアバジリカから射出された十数機のエクスギアエクスが貫いたのは、煌めく桃色の空だ。
「頭が痛い――忌々しい気持ちになるわ……にゃ」
思い出すのは、奇しくも魔界。『怪盗見習い』神谷マリア(p3x001254)の出身世界である。
荒れ果てた大地に桃色の空に疼く『中の人』の記憶は、端的に不快であるが、さておき。
城の上へ降り立った各機が通信回線を開いた。
「ずいぶんと、ご機嫌斜めだね」
コクピット内に出現した仮想スクリーンの中で、ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズ(p3n000076)が歯を見せて笑う様を、マリアは一瞥した。
「この……おいヴェルス! あんたにゃわからないだろうけどこっちには『借り』があるにゃ! 機体の名前くらいちょっと考えるにゃ!」
「おいおい、無茶ぶりも過ぎるってもんだが。いっそ『ねこ』じゃだめなのかい」
「呼んだです?」
答えたのは『かみさまのかけら』ねこ神さま(p3x008666)だった。
「あー、いや。そうじゃなくてだな……猿とかカニとか、あるじゃないか」
「そ、猿蟹。イケてるでしょ、この組み合わせ」
続けた『カニ』Ignat(p3x002377)に、ヴェルスは「そうだとも」と同調する。
「そいつは最高に鋼鉄ウケするって保障するね。今にも合戦しそうだ」
「なに言ってんのあんた達」
「それでええと、敵は――。二時方向、上空ですね。って、上半身映るんですかこれ、モニタ」
「ぷえ……っ!」
スクリーンの中で酷く赤面し、ついに背を丸めた『ロード†オブ†ダークネス』フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)に、『兎のおみみ』わー(p3x000042)が思わず声をあげた。
パイロットの身を守るぴっちりとしたスーツは、ボディラインをほぼそのまま浮き上がらせている。
「にゃあに、にゃーにとってスーツはこの恰好と大差ないにゃ」
まあマリアはそうなんだろうが。なんなら『中の人』でさえって、おっと。野暮はやめておこう。
「それでこちらがサクラメントのようですね」
一行に確認した『なよ竹の』かぐや(p3x008344)が告げたのは、この戦場における復帰ポイントだ。
「にしても『バグ』ねぇ。どうやらこの騒動の手がかりみたいだし色々探りたいもんだな」
そう言った『バケネコ』にゃこらす(p3x007576)に一同が頷く。
「当方、あまりこう言うのに縁のない人生でして」
戸惑う『噺家』キース・ツァベル(p3x007129)の様子も無理はない。
遠距離タイプの機体を操ることになったキースだが、巨大ロボットを操縦して戦うなど、あまりに荒唐無稽にすぎる話だ。困った事に、演目だって思い浮かんできやしない。スーパーロボット長屋とかあんまりか。
「それで、名前はどうなったにゃ」
「忘れてなかったか。だったらチェシャーでどうだい」
「……安直にゃけど、ま、それでいいにゃ。それじゃいくにゃよ!」
「ああ、俺達の空を取り戻す! 頼んだぜ、イレギュラーズ!」
各機はスラスターを点火し、上空にある幾つもの『点』を目指した。
モニターに映る映像――点は、見る見る迫って来る。
徐々に拡大されていく点の正体は、大量の敵機だ。数は五十近い。
煌めきと共に、光線が雨のように降り注いで来た。
だがこの距離では大味にすぎる。要するに、当たらないのだから、どうということはない。
「ヒュー! ロボットに乗って戦えるなんて二度となさそうな体験をさせてくれるねROO!」
「昔見た練達のアニメの最終回みたいだな、これ」
口笛を吹いたIgnatに『調査の一歩』リアナル(p3x002906)が答えた。
尤も『この世界』を練達のゲームと思えば、頷ける所も大きい。
一行はネクストの、鋼鉄(スチーラー)帝都へ進撃していた。
軍閥同士が抗争を続ける中で、兵站等インフラ類の中心となる、要所中の要所を奪う作戦だ。
巨大ロボットに乗って戦うという荒唐無稽なものだが、バグだらけのゲーム様に変貌したこの世界では、さもありなん。仕方の無い所である。
「ゆくぞ、我が愛機『デュランダル』よ!」
颯爽と先陣を切る『闇祓う一陣の風』白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)の機体デュランダルは、名の示す通り騎士然とした姿をしている。そのコクピットモニターに、薄桃色の機体が見えてきた。
あれこそ、この世界に発生した『バグ』の一つであり、鋼鉄を混乱させている元凶の一つ。『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュの機体『スイート・ラズベリーパイ』である。
あれに情報を吐かせることが出来さえすれば、謎に一歩近づけるはずだ。
「世界を乱し滅ぼさんとする非道の徒よ! もはやこの地に貴様らの居場所は無いと知れ! 白銀の騎士ストームナイトの剣が、今、貴様を討ち払う!」
啖呵に呼応するように通信回線が開かれた。
「ようこそ、『ホンモノ』のイレギュラーズの皆さん。
シャドーレギオン、四頌姫(フォリナー)、お客様を歓待して差し上げなさい」
「敵将の機体が揃い踏み、ってわけだね……手筈通りにこっちは任せて先へ」
立ち塞がるのは三機。フレアのティアーズソロウ、『ロイヤルネイビー』あるてな(p3y000007)のイラストリアス、そして『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)の機体『機動騎士ブラックウルフ』である。現実世界の『黒狼隊』を思わせる精悍な姿だ。
「かたじけない!」
殺到する量産機の間を縫うように、ストームナイトはエトリラ機へ迫る。
Ignatは追おうとする敵機をロックオン。
「鉄帝によく似てる国をオモチャにされちゃ出しゃばらないワケにはいかないね! FIRE!」
Ignatの機体――金輪を戴く猿型のアンジャネーヤの砲門から二条の光線、蟹光箭が迸る。
「オレ達はこのまま、ディアナを止めに行くよ」
「ああ、あのお嬢ちゃんには聞かなきゃならねえことが山ほどあるんでな」
「……ぷえ」
コクピットは不思議と落ち着くものだ。それにわーとしては、ほむら……もといフレアの希望とあっては頑張るほかない。希望ヶ浜のゲームセンターでは動物園と揶揄される2on2ロボットバトルを勝ち抜いてきた。それにレベルとて貯金の切り崩しで補っている。熟練の操縦を見せつける時が来たのだ。
「ほむ――フレアさん」
「はい」
「何かあればすぐ飛んで行きますから、安心してくださいね」
「ほんと助かります……私この手のゲーム下手で」
接種完了。ほむぬいを膝に乗せ、ここからは常時フルパワーだ。
●
「彼女が『鋼鉄』の混乱させている『バグ』ですか」
資料の中に居た彼女――ディアナは一見人間のようにも見えるが、出自は創作物――それも普久原ほむらが中学二年生の頃に書いた自作小説モドキの登場人物だと言う話だ。
創作物という点では――
(『あたし』と通ずる部分もありますが……)
個人の創作物がここまで世界に影響を与えるというのは、あり得るのだろうか。
「そのあたり、どうなのです?」
「私の稚拙な創作が、ネクストに直接影響を与えたとは考えにくいです」
サブモニターの中でフレアが答える。
「今だから思うんですが、私が元々居た世界。いわゆる異世界『地球』は、魔法だとかそういった不思議なことなんてない世界だと思っていたんです。けど、きっとそうじゃなかった。私はたぶん、別の世界の話をなにかの啓示で真似たか。もしくは私の世界の人達は、小世界を作ることが出来たんじゃないかなって」
「なるほど、なるほど、なのです」
「あー……ディアナや、あと、あの。ぬいぐるみのティファレティアは、私の創作に『良く似た』ウォーカーなんだと思います。つまり私の創作に良く似た世界からやってきたウォーカーが、無辜なる混沌(この世界)に、たぶんだけど居る。だからあのディアナは、混沌の存在を変にコピーしたものなのかなって」
答えたフレアがぼそりと続ける。
「そこに責任みたいなものを、感じる感じないってのは、また別の問題なんですけど……」
「気持ちって、そういうもの……かもです。ねこは気負うべきものとはおもわないのですけど」
「あ、は、は。ありがとございます」
メインモニターの中。遠く、交戦を始めたディアナ機を横目に、ねこ神さまはリーヌシュカ(p3n000124)と共にシレニア機へ狙いを定める。
「それはそうと、色合いが知り合いによく似てますね。ああいうの流行っているのです?」
「それは、ううん。私は知らないわ」
ひめにゃこのことかー!?
「人の世は大小あれど乱れるのが常ですが、人の想いを、願いを歪ませるのちょっと看過出来ないのです
ゆえに、ゆえに、ねこは、貴方達を殴るのです。思いっきり」
「それじゃ行きましょ。ぶん殴ってやるんだから!」
「行くですよ『キャスパリーグ』――暴れるですよ!」
「支援対象は私を抜いた十三機。……多いが?」
苦笑一つ、リアナルは。遊撃をしつつも『HPバー』の管理を一手に引き受ける他ない状況だ。
「人数が多いからなんとかなりそうな奴はなんとかしてもらわないと困るんだよな」
最悪の場合、味方はサクラメントから復帰出来る。どうしても守らねばならないのはヴェルスとリーヌシュカだけでいいとも言える。取捨選択せねばならない時には――
「流石に、どちらも数は多いね。敵将の機体も揃い踏み、ってわけだ。けど――」
一歩も引けないのは、互いに同じだ。
「この剣に誓って、僕は皆を、この国を護ってみせる! 恐れぬのなら、掛かってこい!」
多勢に無勢と言えど、だからこそやれることもある。
マーク――ブラックウルフは巨大な直剣を掲げ、大盾へ隠れるように敵陣へ特攻する。
従うのはあるてな機、ほむら機。
「たかが三機で何が出来る!」
量産機を駆るシャドーレギオンが吠えた。十を超える機体が一斉にマルクへ光線ライフルを放つ。
――だがマーク機、ブラックウルフの勢いは止まらない。
「なぎ払え!」
巨大剣の質量が敵機に叩き付けられ、ひしゃげた肩部分がはじけ飛ぶ。
「やってやる、やってやるぞ!」
錐揉み回転する敵機パイロットは片側のスラスターを点火し、慣性と共に弧を描いて迫る。
だがイラストリアスのドローンが放つ無数のバルカンに胸部装甲を徐々に押しつぶされていった。
「にゃはは! バグが何かわかんにゃいけど挑発にゃ全力で乗ってやるのにゃ! アレぶっ壊せばガラクタにいい素材でも入ってるはずにゃし!」
マリアとストームナイトが、こちらへ急接近する敵幹部エトリラ機ライトニング・セレスタに迫る。
「エトリラだな。白銀の騎士ストームナイトが相手となろう」
「――邪魔ですね」
「早速光栄なお言葉だが、それだけで済ませるつもりはない。陣を食い破る魂胆は見え透いている」
高機動高火力の機体に、好き放題させてやるほど甘くはない。
「済ませますよ、断じて」
「どうかな。試してみようじゃないか。合わせるぞ、マリア殿!」
「りょーかいにゃ」
一斉に射出されたマイクロミサイルがストームナイトを囲み――炎の翼のように吐き出されたフレア渦の中で無数の爆炎を描いた。マントのようなスラスターの出力を上げ、デュランダルがライトニング・セレスタへ肉薄――構えは第三の秘剣。
解き放たれた剣閃が大気を切り裂き――轟音。
超音速が大気を破る衝撃と共に、敵機を打ち付ける。
「そのまま動けなくしてやるにゃよ!」
射出したアンカーが敵機を縛り上げ、軋み、数枚の装甲がはじけ飛んだ。
「……小癪、です。――!?」
歯がみするエトリラのモニターから、マリア機が消え失せ、衝撃。
機体の背を切り裂く光線ダガーの連撃に、エトリラは盾を叩き付けるが、縦横に赤く溶断される。
「やりますね。前言は撤回します」
「だろう?」
「ぷええええ!」
「たしか、エスタって言うんだっけ?」
わーとヴェルスの機体がエスタ機を追う。
「なるほど貴様等二機が私の相手か」
迫る巨大な剣を回避したヴェルスが唸る。
「俺がこのまま前に出るから、君は援護を頼む。この分じゃあ、俺は逃げ回るのがやっとかな」
「わかりました。ぷえ。けど、ディアナには近付かないようにお願いします。くれぐれも」
ヴェルスがバグの影響を受ければ『詰み』だ。わーはそれを指摘した。
「覚えとくよ。『バグ』ってやつに巻き込まれるのは、俺だってごめんだ」
聞き分けがよくて、ありがたい限りである。
エスタ機の激しい剣撃を捌き続けるヴェルス機、両者の位置はめまぐるしく入れ替わり、捉えどころがない――が。そんな状況こそ、スナイパーの腕の見せ所だ。
「……見えます。ぷえ」
わーが駆るレッドコメット、深紅の機体にエングレービングされた薔薇の刻印。流線型の美しいフォルムが掲げるライフルが輝く。一条の光が貫いたのは、狙い違わずエスタ機の脚部だった。
灼熱し、落下する脚部――機体のバランサー損失は勝機を近づける。
このまま敵機が撃墜するまで撃ち続けるのだ。これは試合でなく、勝負なのだから。
●
戦場では無数の機体が宙を乱れ飛んでいる。
かぐやが駆るのは『ムーン・エンパイア』。
艶めくエメラルド色が美しい、女性のようなフォルムの機体だ。
「つまらない話ではございま……」
思わず小咄を披露しようとしたキースであったが、さすがにロボットの落語ネタは出てこない。
「かぐや、お手数をおかけしますが、フォロー宜しくお願いしますね」
「ええ、無論。わたくしにおまかせあれ」
(フュラーのフォロー……うん、駄洒落にしてもダメすぎますね)
キースは胸中に言葉をとどめる。聞かせる相手が某殿であれば「どっひゃーん!」やもしれぬが。
男もすなるロボット操縦といふものを、女もしてみむとてしている、勢い猛(もう)なりしかぐやならどうであろうか。さておき。
かぐやはコクピットで舌なめずり一つ。竹槍状のパイルを多数、宙空へと展開した。
相手が竜であろうが爆撃機であろうが、巨大ロボットであろうが。何ら問題などあろうはずもない。
「真っ向勝負なら望むところ。さあさあ始めますわよロボット喧嘩バトル!」
「後悔するよ。覚悟して」
「覚悟など、とうに済ませておりますわ」
(両手斧が醸し出す、禍々しいまでの破壊の気配……実に、実に胸が高鳴りますもの)
巨大質量のバルディッシュが唸りを上げ、モニタ――メインカメラを抱く頭部へ迫る。
だがムーン・エンパイアは避けもせず、パイルを掴み腕を引き絞った。
激突する、巨大な質量と質量。
金属のぶつかり合う重音が響き、コクピットを振動させる。
「極めし竹槍投擲術こそが最強であることは、自明の理」
「良かった。一撃で潰れたら、面白くないから」
「フュラー。テスタロッサ・グリム。お相手出来て光栄でしてよ!」
続く第二撃を、今度は蹴りつけ、かぐやはもう一柱の竹状パイルを投げ放つ。
バルディッシュの質量に振り回されるように旋回しているフュラー機は、避けようも無い。
掠めた小手部の装甲が弾けるが、フュラー機は構うことも無くさらにスラスターの出力を上げた。
斧は再びパイルを放とうとするかぐや機をかすめ、装甲に亀裂を走らせる。
「落ちろってんだよ!!」
かぐや機と激しい白兵戦を繰り広げるフュラー機を支援するように、二機の量産機が迫るが――
「さてと、この敵機はどうやら近接戦闘が好きな様子……それに、この位置なら」
キースが狙いを定める。ロックオン。
「はっ、やっぱり」
これはビーム兵器のようだ。
キースのライフルから放たれた光線がフュラー機の肩装甲を貫き、後ろの一機、その腕を溶断する。
メインフレームからオートパージされたヒジ先ブロックが爆散した。
「リーヌシュカさん、援護の合間に懐に潜り込むです!」
「そうさせてもらうわ!」
「白ねこさんっ」
ねこ神さまに呼応し、キャスパリーグがソニッククローを顕現させる。
二人が対峙するシレニア機は遠距離戦を得手とし、離脱しようとするがリーヌシュカ機が邪魔だ。
「逃がさないわ! 行きなさい、ええと、猫の神様の人で猫!」
「猫の神様の人で猫……」
合ってそうな気もしなくもない。だいたいは。
ともあれ、敵機への対策としては、懐に潜り込めば有利になるはずだ。
キャスパリーグの鋭い爪がシレニア機を捕え、純白の装甲に三本の傷痕を残す。
まずは先制攻撃。ともあれ、敵がさほどスピードに優れないのは幸いだ。
対シレニア戦が、おそらく最も有利を勝ち得た場所になるだろう。
なんといっても相性がいい。ここから、攻めていきたい所だ。
巨大な砲門は至近距離に迫る二人をうまく捕えることが出来ない。
二機は援護のために殺到する数機の量産機のバルカンを浴びるが――
「――こうする他ないだろうな」
リアナルのリペア――第三の配達物が傷ついた機体をナノコーティングで埋め合わせる。
「へえ、こうなるのか」
なるほど、敵ネームド機のスペックは、こちらの機体をいずれも凌駕している。
この世界がゲームであるならば必然なのだろう。
だがこちらとて全てがワンオフ。この戦場のためだけに作られた最上級の機体、技術の粋だ。
量産機など足元にも及ばぬ。援護を試みようとする量産機を一気に引き寄せたマークは、光線兵器の乱舞を浴びるが、未だ倒れていない。続くアルテナとほむらの援護射撃により、量産機は一機、また一機と、徐々にではあるが数を減らし始めている。
一方、敵の大ボスはどうか。
「やあ! こちらの声は聞こえているかい!」
Ignatが通信回線を開く。
「ええ。賑やかですこと」
「それじゃ名を聞かせて貰おうか、お嬢ちゃん。データとして知っていたとしても直接出会ったからにゃ自己紹介ってのは大切だろ?」
「そうでしたわね。ディアナ・K・リリエンルージュと申します。どうぞ以後、お見知りおきを」
「たとえこの場じゃ敵同士の関係であろうともよ」
「ええ、それに。極めて不本意、遺憾ながら。今後何度も、こうして対峙するのでしょうから」
にゃこらすの言葉に、ディアナは意外にも素直に応じた。
ディアナ機が放つ三角錐状のドローン兵器が、一斉に光線を放つ。
「然程――だな」
にゃこらす機の放つジャマー、大気に拡散された粒子が、無数の光線を拡散させた。
「好んで駆っている訳でもございませんのよ」
軽いが、避けがたくはある。その上、敵は素早いが、目的はこの場、二人で倒しきることではない。
「ところで、この宵闇庭園――パラス・ルジエはお気に召しまして?」
「ディアナキャッスルか。随分と趣味の悪いことで」
「どうせ、猫風情には分かりませんでしたわね」
「聞き捨てにゃらにゃいにゃ」
「そうなのです」
すかさずマリアとねこ神さま。
「何匹おりますの!?」
「余裕そうだね。というかさ。言っちゃあなんだけれど、ここは用途不明のガラクタみたいな機械と殴り合いの大好きな国民くらいしか居ない国だよ。殴り合いを楽しもうってタイプじゃなさそうだけれど、何を目的にこの国を占拠しようっていうのかな?」
「ええ、仰る通り。押しつけられた場所ですわ」
「へえ、そりゃ誰に?」
「素直に言うとお思いですの?」
「意外と、そんな気がしてね。だいたい、ここ以外は終わってるのに、よくやるよね」
Ignatの言葉にディアナは溜息一つ。
「どうせ、すぐに姿を見せますわよ。『アレ』は。それに下手なことを言って、あれらに文句を言われるのは御免ですから。私にも私の事情というものがあるのです」
「――なるほどな。ま、お前らにはお前らの願いってのがあるんだろうがこっちにも事情ってのがあるもんでな。どうせ闘うってんなら楽しもうぜ。俺もお前らも所詮は偽物。テメェ以外の何にもなれねぇ贋作同士なんだからよ」
にゃこらすが獣型のエクスギアエクスを駆り、天駆ける。
展開するシールドビットが光線を弾き、にゃこらす機はディアナ機に食らい付いた。
「皆様は、どこまでご存じなのでしょうね。ええ、私は贋作――偽物です。あなた方の世界から取り込んだ情報を元に生まれ落ちた、たかが模造品なのでしょう。けれど、ここに私という個が居るということそのものは、何者にも覆させませんわ」
「同感だ! それじゃこのまま、ちょいとばかしダンスと洒落込もうぜ――お姫様?」
「趣味ではありませんわよ、男は。たとえ猫でも!」
「まあまあ、悪いけれどちょっと足を止めてゆっくりしてくれないかな!」
すげない返事にIgnatが眉を寄せる。
「けれど、ええ。いいでしょう。お二人様。エスコートのお手前、拝見させて頂きます」
「そうこなくっちゃ、FIRE IN THE HOLE!」
にゃこらすとIgnatが砲門を開き、爆炎が大空に満ちた。
●
戦いは続いていた。
いいかにもボスステージらしい戦場では、攻防の末に味方機が落ちることもままある。
これはリアナルにも、他の面々にも責はない。単純にゲームが『クソ』であるからだ。
「こんの、クソゲー!」
思わずほむらが叫ぶ。
「申し訳ないが、さすがに全機の修繕は無理ゲーだ」
後退したヴェルス機の修復を直ちに終えたリアナルがぼやく。
「いや、助かるってもんだ。それに時間は充分に稼げてる。君のお陰さ。それじゃ、また後で」
だが一行は既に七割ほどの敵量産機を撃墜し、更にはリーヌシュカとヴェルスを『守り抜く』ことにも成功している。この世界の住人である二人は、リスポーン出来るリアル・イレギュラーズと異なり、後が無い。エクスギアエクスには安全と思われる脱出装置があるとは言え、万が一は考えられるのだ。
撃墜の可能性は、可能な限りそぎ落としておくべきなのである。
練達の一室、棺桶のようなダイブ装置の中――
獰猛な笑みを浮かべた『殿』は、もう一度ヘッドセットの穴にマゲを通して目を閉じた。
――コンテニュー。
意識がネクストへ転送され、復帰点『サクラメント』がコクピットのモニタに映る。
猛接近するフュラー機を睨み、ムーン・エンパイアはスラスターを全解放した。
「やはり爆発しますか」
続いてサクラメントからリスポーンしたのは、キース機である。急接近する敵味方機は、けれど。
「それでは飛んで火に入る夏のロボット――ですよ」
キースのモニタ中央に、深紅の機体がロックオンされる。
熱くなったフュラーは避けようともしない。
ライフルから放たれた光条がフュラー機の頭部と胸部上方をメインカメラごと焼き尽くした。
このまま、もう一撃。
キースが放つ光条は今度こそ胸部を穿ち、コクピットの外壁が露出する。
だが腹部のサブカメラに切り替えた敵機は、勢いを落とさず巨大なバルディッシュを振りかぶる。
かぐやは笑った。性能の差が何か。操手の力量差が何か。だが――
「気合いだけは負けるワケには参りません!」
――EMERGENCY。EMERGENCY。
モニターへ表示された回避の確率は、ゼロパーセント。
しかし表示されたデータを、かぐやは鼻で笑い飛ばす。
負けない。
確率どころか、根拠すらゼロなのはハナから分かっている。
計算ではない。そうじゃあない。つまりこれは『プライド』だ。
払い、流し、穿ち貫き――喰らって喰らって喰らって尚。
「抉りにゆく……ッ!」
衝撃と共に、機体が大きく傾く。エメラルドグリーンの左腕ブロックが肩先から離れ、宙空で爆散した。
フュラー機の蹴りがコクピットを揺らす。
装甲がひしゃげ、めくれあがっている。
続くさらなる一閃に、今度は片足を奪われた。
「――かぐやっ」
「心配はご無用、ですわ」
片腕だけで、彼女はパイル――竹槍を構えて、スラスターを全解放する。
「これだけお膳立てしてもらってしょっぱいバトルをする程、わたくし耄碌しておりませんことよ」
バッキバキのボッロボロになってからがロボバトルの本当の勝負!
キースのライフルが、迫るテスタロッサ・グリムを再び捕えた。
迫るバルディッシュを持つ片腕が溶断される。バルディッシュは軌道を変え、コクピットを切り裂いて、かぐやの眼前で止まった。両機は空中で重なり合うように静止する。
竹槍もまた、テスタロッサ・グリムの腹部を深く深く貫いていた。
「まさか、ね。素直に屈辱よ。機体で勝っていて、この結果は。お名前を頂いても?」
「『なよ竹の』かぐや――ですわ」
「また会いましょう、かぐや」
爆発四散するテスタロッサ・グリムの中から、エクスギアが射出され、空へと消えた。
「……さすがにずるいとおもう」
シレニアが初めて口を開いた。とはいえ敵ネームド機の機体性能は異様に高い。
「そうは言っても、なのです」
その上、イレギュラーズは多勢に無勢を強いられている。
無制限のリスポーンとてタイムラグがあり、戦線を押し上げられれば対応しきれなくなる。
そうなればゲームセット。イレギュラーズは敗北だ。
第一に相手はバグであり、そもそもゲームの『胴元』だろう。
ならば一方的に『ずるい』などと誹られる筋合いはない。
「よくわからないけど、そういうゲームって訳なんでしょ!」
リーヌシュカが操るサーベル型ドローンがシレニア機を切り刻む。
敵機は最早、自慢の浮遊砲台を二門とも失っていた。
「もう後がないのです。シレニアさん」
「……」
ねこ神さまのキャスパリーグ、その鋭い爪が胸部装甲を捕え、完全に引き剥がした。
二人は、今やシレニアを完全に押さえ込んでいる。
「……ティファレティアさま、ディアナさま。ごめんなさい、離脱する」
エルブランシュからシレニアのエクスギアが射出され、一気に遠ざかり、見えなくなった。
「今だよ。僕ごと巻き込んで構わない! アルテナさん、ほむらさん、頼む!」
「「了解!」」
多数の量産機を相手取るチームは、いよいよ正念場だ。
マークは事前の打ち合わせ通り、殺到する敵に貫かれながら叫んだ。
無数のドローンがブラックウルフ諸共、無数の敵機を焼き尽くし――だが装甲が剥げ落ち、フレームを剥き出しにしたマーク機は、依然として駆動を続けている。
「よし、これで量産機は全部だね。こちらはディアナ機に向かうよ。
アルテナさんとほむらさんは、他のネームド戦の援護を」
「うん、わかった! 気をつけてね」
「わかりました」
「無茶をする……君のアレ(秘策)がバレたらどうする気だ。それにこちとら手一杯だぞ」
「ごめん、そうだね」
リアナルのリペアを受け、マークが鼻の頭をかいた。
「こちらの様子はどうですか?」
「キースか、こりゃツキが回ってきたね。こうして逃げ回っているよ。援護を頼む」
「分かりました」
「えっと、そんな訳で。来れちゃいましたので、がんばろうかなって」
「ほむっ、フレアさん」
一進一退のわーとヴェルスが援軍に湧いた。
「かぐや殿! 助太刀感謝する! ゆくぞマリア殿!」
「もちろんにゃ」
激突は続いている、が。
「ちょっと、みんなは!? うっそ、えー……」
動揺を見せたエトリラの隙を、ストームナイト――デュランダルは見逃さない。
鋭い突きがエトリラ機に迫り――腕の実弾兵器を誘爆させた反動で辛うじて避ける。
「捕まえた、もう逃がさないのにゃ! やっちゃうにゃよストームナイト!」
だが、ライトニング・セレスタは巻き付いたアンカーを振りほどけずにいる。
「感謝する。この千載一遇、逃す手はない!」
突き、更に二の太刀の衝撃に、エトリラ機は跳ね飛び、そのまま城壁をぶち抜いた。
巨大質量の慣性はそのまま、二枚、三枚の内壁を食い破るが――
尚も猛追するデュランダルは、その剣に銀風を纏い。
「ゴッド……ストーム――」
「うそでしょ」
「――クラッシュッ!」
一閃がエトリラ機を両断し、エトリラを乗せた脱出ポットが天高く射出された。
「ひゅー! あとは、大将首を横からかっぱらってやるにゃよ!」
「ああ!」
●
「で、だ。ディアナのお嬢ちゃん。そろそろ終わらせたほうがいいんじゃないか」
「言ってくれるものですわね」
にゃこらすとIgnatへ、方々から機体が近付いてくる。
いずれも味方機であり、残る敵機はディアナだけだ。だが他ネームド機と比較しても、桁違いの堅牢さに、マークとリアナルを加えた四名はほとほと手を焼いていた。
「ところでほむら殿! あのディアナ、貴殿が作ったキャラなのだろう? 何か弱点とかないのか? まさか、最強無敵で欠点が一つもないとかいうまい!?」
ストームナイトが問う。
「つくったっていっても、ほんとあれですよ。私の出身世界では、そういった趣味を持つ子供が患う流行り病みたいなものっていうか。中二病って言われてるようなやつで。その辺に売ってる本みたいに、クオリティが高い作品と呼べるような代物ではないっていうか。一言で言えば、恥ずかしい過去――『黒歴史』です」
「歴史と呼ぶならば、秘匿されるべきとは思いませんわね」
かぐやが応じる。
「一緒に中二黒歴史を暴いたらディアナさん弱体化しません……?」
「いやー、うーん。あれ当人はマジだと思うので、どうでしょう……」
わーとフレアがあれこれと考えるが、とにかく火力で攻めるしかないのか。
「ディアナは、あれはたぶんいくつかある世界線の一つの……って、分かりにくいですね。たぶん、あのぬいぐるみは、普通に生きてます、けど、ええと……」
「ほむらさんよ! とにかくあいつの情報寄越せ! 思考パターンとか何かほら! あるだろ!」
畳み掛けるるにゃこらすに、フレア(ほむら)は幾度か首を捻って小さく唸った。
「ディアナは、ティファレティアというキャラクターとカップリングさせるために作りました。ティファレティアというのは、恥ずかしいのですが、私が昔『なりたかった女の子』のメアリー・スーです」
「わかりにくいよ、それ」
Ignatのつっこみは鋭い。
「ディアナはティファレティアを、つまりあのぬいぐるみを全肯定し、無条件に愛し、崇拝します」
「わお」
「無条件に従う?」
にゃこらすが尋ねた。
「いえ『あなたのために~』って勝手するほうですね。回りが見えなくなりがち」
「なるほどな」
「だから、ぬいぐるみを狙って下さい。私が知っているディアナであれば、あのぬいぐるみに傷一つ付くことすら、絶対に許せない。可能性が万に一つもあるのであれば、ディアナは戦線を離脱するはずです」
「にゃるほど」
マリアが舌なめずりした。
「だったら変形……ト……トラモード(マリア違い)にゃ! こいつで一気に決めるにゃ!」
マリア違い。夢見リカ家みたいなもんだろうか。
「ええい、とっとと元の錆びれた国に戻しやがれにゃあ!」
赤熱したマリアが、かぐやが、ストームナイトが。イレギュラーズは立て続けの連撃を叩き込んだ。
ディアナ機の装甲が徐々に傷を増やしている。
高速旋回。横殴りの重力に、パイロットスーツが圧を上げ、しかし視界は真っ赤に染まる。
鋼の拳と拳、精密機械の結晶同士がぶつかり合い、ひしゃげ、砕け、金属片をまき散らした。
「そろそろお疲れか。お姫様?」
「いちいち癪に……!」
嘯くにゃこらすに、ディアナが唇を噛みしめる。
新たに射出された浮遊光線兵器が一行の機体を包囲し、なぎ払い――
「行くですよ!」
――モード・シマネコ。
ねこ神さまがシマねこさん色に輝き、なんかすげーダメージを与えている。
こうげきのしょうたいがつかめない!! ←ちゃうねん。そう書いてあんねんもん。
かくして一瞬とも永遠とも思える、一進一退の攻防が続いていた。
「――あっは!」
その時だ。通信回線が開かれたのは。
「そう、そうなのですね。創造主。創造主が、居りますのね」
ひどく歪んだディアナの声音に、わーの胸騒ぎが止まらない。
――見える。
見えた、何かが。だから――
「避けて!」
わーはフレアの機体へ、自身の機体ぶつけ――突進するディアナ機のサーベルに貫かれた。
「よかっ――た」
「ちょっ!」
フレアのモニターに映るわーのコクピット内部が白熱に包まれ、通信が途絶えた。
とっさに抱きかかえたフレア機の腕の中で、機体が爆発四散する。
「邪魔を! 忌々しい! 今すぐにそこから引きずり出して切り刻んで差し上げましょう!」
『熱くなるな、ディアナ。まずい』
通信回線からフレアそっくりの声が聞こえる。例の生きたぬいぐるみ、ティファレティアだろう。
「申し訳ありませんわ、ですがレティ。あの者達は、邪魔ですの! それに憎き、あの!」
吹き荒れる爆風を背にディアナ機が向き直る。
身を挺したわーに激昂し、冷静さを失ったディアナの光線がマーク機を蹂躙した。
灼熱する爆風がマーク機を包み、これで一機撃墜。ディアナはそう考えた。
「そろそろ、いい加減に……――っ!?」
ディアナの声音は後半、ひどく引きつっていた。
巨大なバインダーを腕ごと、背後から切り落としたのは、一本の剣だった。
ディアナ機に生じた巨大な亀裂は、コクピット上部にまで及んでいる。
剣の主、マーク機は脚部と頭部を失いフレームだけで辛うじて浮かんでいた。
それは秘策。
たった一度だけの切り札。
剣術基礎中の基礎――フォム・ダッハの一閃である。
これこそマークに許された、最大最強の一撃。復讐の刃だ。
「小癪!」
ディアナ機の光線剣がマークの座るコクピットを貫き、口角をつり上げたマークが白い熱に溶け消える。
炉を破られた機体は、そのまま赤熱する光球となって爆散した。
だが――コクピットの亀裂から顔を覗かせたディアナの表情には、ひどい焦りが見てとれる。
それもそのはず、今や彼女は完全に囲まれているのだ。
しかも生身の肉体をさらけ出したまま。
「……お届け物だ。最後くらい、やらなきゃそれこそ『小癪』だろ」
リアナルの一撃は、ついにコクピットの上部もろともにディアナ機の上半身を吹き飛ばす。
完全に剥き出しとなったコクピットの中で、ディアナは両手を張り、決死の防御結界を展開していた。
「この代償は、高く付きますわよ……あなたがたにとっては、ゲームに過ぎないのだとしても」
恨み言を吐き捨てたディアナが手のひらをコンソールに叩き付け、脱出ポットが射出される。
漆黒の球体に包み込まれた聖頌姫とぬいぐるみは、すっかり色を取り戻した蒼穹へと消えた。
「グランドウォークライとかけて、ロボットバトルと解きます」
「え、と。その心は?」
どこかやけくそ感の漂うキースの呟きに、フレアが問う。
「……ぜんぶめちゃくちゃ」
「いいね、それ。最高に鋼鉄ウケするよ」
ヴェルスが笑った。
散った仲間達も無事にリスポーンし、全員が機体を降りる。
誰かの大きな溜息がこぼれ落ち――
無闇矢鱈と大仰な戦争は、ようやくおしまいになったのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼お疲れ様でした。
良い感じだったのではないでしょうか。
MVPは活路を切り拓いた、その気高さへ。
それではまた皆さんとのご縁を願って。pipiでした。
GMコメント
pipiです。
まずは重大なバグを鋼鉄から追い払い、スチールグラードを奪還しましょう。
●目標
敵勢力の撃退。
とにかく派手に戦いましょう。
●フィールド
スチールグラード中心の城の上空です。
今回、皆さんは自由に飛行出来ますので、あまり気にする点はないでしょう。
見栄え重視で派手に行きましょう。
●敵
『ディアナ機』スイート・ラズベリーパイ
スマートで素早い、薄ピンク色の機体です。
桃色の光線サーベルの他、多数の小型浮遊光線兵器を駆使したオールレンジ攻撃を行います。
『シレニア機』エルブランシュ
火力の高い、純白の機体です。
黄金の巨大な槍を持ち、二門の大型浮遊光線兵器を駆使した遠距離高火力の攻撃を行います。
『エスタ機』ブラック・リリス
黒い大剣を携えた、漆黒の機体です。
バランスの良い接近戦闘を行います。
『フュラー機』テスタロッサ・グリム
巨大な両手斧を持つ、真っ赤な機体です。
高火力の近接戦闘を行います。
『エトリラ機』ライトニング・セレスタ
無数の実弾兵器を搭載した、強襲型の機体です。
高機動高火力ですが、回避能力には優れません。
『量産機』×40
シャドーレギオン達が乗る機体です。
あまり連携もなく、次々に襲いかかってきます。
頭部にバルカン砲。腕に光線ライフルや光線サーベルを持ちます。
強さは微妙ですが、数は厄介です。
●味方
皆さんの作戦に合わせて適当に行動します。
スペックは皆さんとおおよそ同等です。
特別に命令したい場合は、プレイングに記載すればそれに従います。
『ヴェルス機』ゼシュテリオン
二刀の光線サーベルを持ったスマートな機体です。
高機動でスピーディー。至近距離の戦闘に優れます。
『リーヌシュカ機』フルメタルキャバルリー
多数の浮遊サーベルを展開する、強襲型の機体です。
至近距離の単体攻撃、範囲攻撃に優れます。
『アルテナ機』イラストリアス
多数の砲門を備えたグラマラスな機体です。
また超小型無人戦闘機を多数展開し、中~遠距離の火力に優れます。
『ほむら機』ティアーズ・ソロウ
赤い光線サーベルを持ち、背に翼状に展開された多数の小型浮遊光線兵器を射出し、それを駆使したオールレンジ攻撃を行います。
●エクスギア・EX(エクス)
皆さんが搭乗する機体です。
人型の巨大ロボット。
無条件に飛行出来る以外は、皆さんのスペックに合わせて個別に調整されていますので、特に気にしなくても大丈夫です。何も考えずに、生身同様に戦闘してOKです。ルール上は距離等の数値を拡大して合わせる形で判定しますので、こちらも特に気にしなくても大丈夫です。
どんな見た目のロボットにするとか、機体名にするとか、あるいは性能に特別なカスタマイズがしたい場合は、プレイングになんとなく記載下さい。「近接タイプ」とか「遠距離狙撃タイプ」とか、書き方も各自適当で構いません。頑張って拾います。
見た目とか、特に指定が無い場合には、pipiが勝手に作ったり作らなかったりします。
特に重要なこだわりポイントなどがある場合は、EXプレイングなどを活用下さい。
コクピット内には通話システムが搭載されており、味方同士で自由におしゃべりできます。
●サクラメント
皆さんの復帰地点です。
今回は近くに用意されており、比較的スムーズに戦線復帰出来ます。
ロボットに乗ったまま復帰出来ます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません
また、今回は復活ポイントがすぐそばにあるため死亡してすぐに再出撃が可能です。
一度のシナリオで複数回のデスカウントを受ける可能性もあります。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
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