PandoraPartyProject

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帝都星読キネマ譚:夜妖纏フ

 秋の虫が鳴き始めた頃、告げる時は夜半。
 モダン建築の谷間を這い回る電線の向こうに、花街があった。
 ここは豊穣郷カムイグラならぬ、神咒曙光(ヒイズル)と呼ばれる歪な模造品である。
 夜妖を祓う神使、即ちイレギュラーズは、バグによってゲームの様に変貌させられた『ネクスト』と呼ばれるこの新世界へとダイブし、悪意あるクエストの数々をこなしている。
 バグの原因を追及する為に、現状はクエストを『攻略』する他なく、こうして引っ張り回されていた。

 ――夜妖を以て夜妖を祓う。

 それはネクストにおける天香遮那の言葉であった。
 夜妖とは練達の希望ヶ浜地域における都市型モンスターの総称であるが、それがヒイズルに出現していること、なにより『国産みの神』二柱が、それぞれ希望ヶ浜とヒイズルに姿を現し始めたようなのだ。
 課題はいよいよ、ゲーム攻略だけでは済まなくなって来始めている。
 鏡合わせの、けれどちぐはぐな表裏の行方は、果たして――

「ここが件の妓楼とやらだな」
「そうみたいだね」
 些か不機嫌そうなベルンハルト(p3x007867)の言葉に、システムマップを確認しながらスイッチ(p3x008566)が頷いた。遮那と出会い、会話せよとのクエストを受けた一行は、彼と直接刃を交えた。そして去り際に『ここへ来い』と伝えられたのである。ここには伽羅太夫なる花魁が居り、天香(国家)と遮那(反逆者)とを繋ぐ役割を担っているとされる。

 一行はいくらか歩き、揚げ屋と呼ばれる建物へと足を踏み入れた。
 太夫ともなれば一見が会うなど叶わないが、思いの外スムーズらしい。色ガラスのはめられた丸窓を背に、ひとまず各々は籐の椅子に腰掛ける。そして振る舞われる茶と菓子を前に、固唾を呑んで太夫を待った。
「ようおいでくだしんした。どうぞ伽羅とお呼びくだしんす、それから――」
 太夫の隣で、一人の女性が丁寧に腰を折る。
「天香の巫女、小金井正純と申します。少々長くなりますが、仔細は私からお話しましょう」
 隣に居るのは――小金井正純(p3p008000)ネクストにおける存在(そのうちの一人)らしい。
「まずは。……そうですねぇ」

 伽羅は室外へ話が漏れぬよう三味線を奏で、正純もまた小声で語りだす。
 ここヒイズルは航海(セイラー)との通商開始を境に、空前の大発展を遂げたのだと言う。
 中世然とした混沌のカムイグラと違い、こちら側(ヒイズル)はさながら大正浪漫の世界になっている。
 だが光あれば闇があるように、花開く文明の影に現れたのが『夜妖』ということだ。
「原因が『光』にあると。そういうことですか?」
 ミセバヤ(p3x008870)が言葉を飲む。
「少なくとも、遮那様はそのようにお考えなのでしょう。それに――」
 茶で唇を湿らせた正純が言葉を濁す。
「天香(国家)側にお仕えする私からは申し上げにくいのですが、『巫女として』であれば」
 それは『正しいかもしれない』のだと、正純は続けた。

 遮那は兵力を整え、この国の『光』――豊底比売へ立ち向かおうとしている。
 かつてイレギュラーズは、カムイグラの澱みによって苦しむ瑞へ、神逐(かんやらい)を行った。
 おそらくそれに近しいことを、実行しようとしているに違いない。
 増幅しすぎた光は陰陽の歪みを生み、闇が膨れ上がる。夜妖の大量出現だ。
「このままでは百鬼夜行……百妖夜行のほうが正しいでしょうか。おそるべき事態も想定されますが」
 正純が言葉を続ける。
 だが光に抗するには闇を用いる他になく、故に夜――即ち『夜妖』の力が必要だということ。
「あの方は、力の制御を『師』の元で学びました」
 ――魔哭天焦『月閃』。
 一行との戦いの中で遮那が用いた力だ。彼は制御しきれていなかったが、けれど彼は言ったのだ。神使なら『使いこなせる』のではないか。遮那は大妖《転輪穢奴》忌拿家・卑踏を師として、夜妖の力を制御しているらしい。現実世界の卑踏はカムイグラの穢れを背負った、忌むべき、そして哀れむべき存在であったが。驚くべきことに、今度はその力を借りることになりそうだ。
「忌拿家卑踏は埠頭近くの煉瓦倉庫を仮住まいとしているようです」
 正純との話は、おおよそ、そのようなものだった。
「光は今も輝きを増し続けています。このままでは、夜妖が国の裏側全てを覆ってしまうかもしれません。
 ――けれど、これ以上を私の立場から申し上げることは出来ないのです。何かをお願いすることも」

 神様というものに、善悪はない。
 いや、強いて言うならば。豊底比売の行いは『純粋な善性』とすら呼べるだろう。
 空前の発展は、この国を豊かに、幸せに、導いているのだから。
 ともかく、正純は何を言おうとしているのか。
 その言葉の裏にあるものは――
「はっきりと言えばよかろうよ。手を貸せ、と」
「……それは。ええ、そうですね。その通りです。あの方へ、どうかその手をお貸し下さい」
 ベルンハルトの言葉に、正純は決意をこめた瞳で応えた。
 遮那へ協力してくれと。

 光への反逆。

 ――つまり『ヒイズルを相手に戦え』ということである。

 ※R.O.Oの神光(ヒイズル)で動きが見られている様です――
 ※遮那を追った神使(イレギュラーズ)のクエスト解析が開始されました。

これまでの再現性東京 / R.O.O

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