PandoraPartyProject

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ひねくれた方程式

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 ヴァーリの裁決――降って湧いたような幻想の国難だが、かの国を取り巻く空気の深刻さは未だに限定的だった。
 無論、良い事が起こっている訳ではないのは確実だ。民生にも少なからぬ被害は生じ、出没する怪物達は間違いない脅威になっている。
 しかし、それでも――だ。
「『勇者総選挙』もいよいよクライマックス間近――といった所か」
 執務室で鼻を鳴らした『サリューの王』クリスチアン・バダンデールの言葉は人々にとって鮮烈な意味を帯びていた。
 元はあの放蕩王の『思いつき』から始まった事業ではあるが、これは政治的にはお遊び以上の意味合いを持ったと言える。
 フォルデルマンの意図に関わらず幻想という国において『勇者』という響きはやはり特別だった。それまでは全く民草を省みぬ事も多かった貴族達は怪物の討伐に対して前向きとなり、それだけではなく。有力な個人――例えばローレットのイレギュラーズ等に仕事を回す等をし始めた。貴族個人が勇者になるのは難しくとも『自身の子飼い』が勇者に選出されるならば、それは確かな得点になるという皮算用もあっただろう。
「何れにせよ『イレギュラーズの領地』は狙い撃ちにされていたのだ。
 遅かれ早かれといった所はあったかも知れないが――
 陛下もアレで惚けていないならば、中々の曲者かも知れないよ」
「そんなタマかよ」
「案外分からないぜ。彼はあの『アイオン』の血筋なんだから。
 それはそうと、聞いてると思うけど一応おさらいしておくぜ。
 絢爛華麗なる勇者総選挙、現在のトップはフィッツバルディ派の子犬君――失敬、『双竜の猟犬』たるシラス(p3p004421)君だね。
 公が表立って大々的に支援しているとは聞かない以上、どうも彼の個人技だ。
 これにはさぞ公もご機嫌だろうよ」
 クリスチアンの言葉に死牡丹梅泉は「あの小童がな」と鼻を鳴らした。
 彼とシラスが出会ったのはもう二年以上も前になる、とある依頼での出来事だ。
 当時のシラスは少なくとも鉄火場に畏れを持っていた。『見所は十分にあったにせよ、子犬だったに違いないが』はて、どうか。
 口元を擦る梅泉の表情は試すようにも測るようにも見えていた。
「男児三日会わざるば、刮目して見るべきだ。今の彼は甘く見てると噛み付かれるぜ」
「『知っておる』」
 涼やかな答えに肩を竦めたクリスチアンは言葉を続ける。
「お次はイーリン・ジョーンズ(p3p000854)。君も知っているだろうが有力なローグの一人だ。才色兼備なお嬢さんだよ。
 ヨハン=レーム(p3p001117)。見た目程は可愛くない『剣聖』の息子だ。鉄帝派の彼が勇者総選挙で走ってるのは思惑があるかもね。
 ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)。おいおい、フィッツバルディ派は随分頑張るじゃないか?
 ん? ああ、そういえば――君はこないだ会ったばっかりなのだっけ、ユキノジョウ!」
 梅泉の傍らの白衣の男――自身の眉が僅かに動いたのを目ざとく見つけたクリスチアンに刃桐雪之丞は苦笑する。
「続けよう。小さなモンスターことセララ(p3p000273)君。彼女には殆ど政治的意図はないだろうが逆に勇者らしいとも考えられる。
 麗しき怪異――武器商人(p3p001107)君。どうもバイセンの知人が多いみたいだね。それはそうか、君に会って生きているんだし。
 リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)――驚いた、ファーレル家のご令嬢だぜ。私が一曲お願いしたい位だ!
 夢見 ルル家(p3p000016)、神威神楽じゃ飽き足らずこっちでもかき回す台風の目かな? いや、恋する少女は恐ろしい――
 更にジェック・アーロン(p3p004755)アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)オウェード=ランドマスター(p3p009184)と続く訳だが、可愛らしいスナイパー・ガールの活躍は勿論のこと、アーベントロート派の私としてはアルヴァ君やオウェード君には何としても頑張って欲しい所かな?」
 何れも名のしれたイレギュラーズ達であるから勝手知ったる今更である。
 しかしながら愉快気にクスクスと笑うクリスチアンは仰々しく紹介する事それそのものが目的だったのだろう。
 食傷気味の顔をした梅泉、瞑目する雪之丞、興味のなさそうな紫乃宮たては、欠伸をする伊東時雨――協調性のない連中に関係なく長広舌に精を出している。
「さて、誰が勝つか分からない勇者総選挙――これが幻想において政治的な意味を持つ事は理解しているね。
 問題は上位の名簿リストに君の名前がない事なのだよ、バイセン。
 ……君、相当色々仕留めたよね? これはどういうからくりだい?」
「勇者なぞ虫唾が走るわ。路傍の餓鬼に全てくれてやったまで」
「……………君ねぇ」
「『主ならばその位は想定済みだと理解しておるがな?』」
「そりゃあ私はそれ位想定済みだが、文句を言わない理由にはならないな。
 親愛なるイレギュラーズ君が全て上手くやったら面白くないだろう。
 第一、私は一応アーベントロート派なのだ。『黄金双竜』が満面の笑みを浮かべた時、不機嫌なお嬢様に当たり散らされるのが誰だと思っている」
 代わりたがりそうな酔狂なイレギュラーズは何人かいるが、確かにそれはぞっとしない。
「だから仕事して貰うよ。ゲイムだ。といっても、これは君達にとっても愉快な話だろう。
 忠勇の家臣たる私にお嬢様は感謝するべきだな!」
「何をさせたい」
 机に向かったまま指先でピン、とメダルを弾くクリスチアンに受け取った梅泉は苦笑した。

 ――アダマンタイト・メダリオン。

「『勇者総選挙』の上位は走ってる。だが、前提条件として死んでしまえばお終いだ。
 波乱のないレースなんて一つも面白くはないだろう?
 だが、ただ上位に辛く当たるだけのイベントはアンフェアというものだから。
 具体的な方法は任せるから君達でそれを使って『面白く』してくれたまえよ。
 私は私で――もう少し、愉快な方に首を突っ込もうかと思っているからね!」
 クリスチアンは『これから起きる事件』で勇者総選挙が大きく動くのは既に察知している。
 それに加え彼の目には幻想首脳部さえまだ見ぬ幾つかの情報が見えていた。
(私の承知する範囲でも今回の三貴族に裏はない。陛下も勿論、十割の善意の人だろう。
 となると、ややこしいのはミーミルンド卿とその一派。クローディス・ド・バランツ……この辺りか?)
 幻想に掃いて捨てる程ある『貴族の粗相』はクリスチアンにとって『どうでもいい』事だ。
 それより何より問題は――
(――死の女神フレイスネフィラ。
 いや、与太話ならジョークとしては上等なんだが――)
 その名に思い当たった時だけ、彼は柄にもなく深刻な仏頂面を見せていた。


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