PandoraPartyProject

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パトリキ・コンロクィウム

パトリキ・コンロクィウム

 幻想各地を魔物が襲っている。
 それは巨人、或いは鳥類――が多いとの事だ。
 中には滅びのアークによって突然変異した強個体……怪王種(アロンゲノム)と化した存在も確認されていると聞く。そんなモノが街中にまで降りてくる様な事があればどうなるか――今のところ大きな惨事にまで至ったと言えるのはギストールの街ぐらいだが。
「いや。その件に関してもイレギュラーズの調査次第、か」
 幻想王国首都のメフ・メフィート――
 その中の『とある』建物の中を歩くのはカザフス・グゥエンバルツだ。
 彼は幻想国内を襲っている現在の魔物事件を注視している。盗賊だの魔物だの……そんな連中がどこかに出没する事自体はさして珍しくもないが、しかし聞けば同時期に神翼庭園ウィツィロの封印が解かれたという情報も舞い込み。
 王権の象徴――レガリアがあるとされる古廟スラン・ロウも何者かにより荒らされたという『噂』も発生すれば、流石に偶然魔物が活性化しているだけなどとは思っていない。
 これは何かの前触れだ。
 先日行われた大奴隷市の騒ぎからの……

「あら――これはグゥエンバルツ卿、このような場所でお考え事でも?」

 瞬間。掛けられた声は女性のもの。
 それはエミリジット・ローニャック
 彼女『も』またフィッツバルディ派の一人であり――カザフスにとっても知らぬ顔ではない。尤も、天義の領域に近い場所で己が武力を高め、ローニャック家の越階を望んでいる不相応な小娘風情という認識でしかないが。
「ローニャックの娘か。このような場所に何をしにきたか」
「幻想貴族たる者がメフ・メフィートにいて何かおかしい事でも?
 まぁ――一言で言うなら所用の為、とでも申しましょうか。
 最近はこれにお熱な方が多いと……グゥエンバルツ卿も存じていましょう」
 言いつつ、エミリジットがその指先に絡ませるのは――硬貨だ。
 それはブレイブメダリオン。
 勇者の証とされるモノで、幻想王国で起きる奴隷問題や魔物事件の解決にあたった者へ与えられる――フォルデルマン三世が提唱した『新たな勇者』を決める為の祭事物だ。元々は幻想王国にとってもそれなりに価値を持つ一品だったそうだが……
「それをイレギュラーズに配るとはな――国王陛下殿も何をお考えなのか」
「良いではありませんか。元々陛下が即位された頃に『色々』あって散逸してしまった物……我々の手元から離れた物がどこの誰の手に渡ろうと、さして問題では。むしろ今この時代に新たな価値を付与された事により――」
「貴様にとっては都合が良いか?」
 射抜くような視線をエミリジットへと向ける。
 ……幻想王国は貴族の血筋と伝統の国だ。現国王フォルデルマン三世が『放蕩王』と言われようと、彼に一定の権力が備わっているのは曲がりなりにもその血筋が尊重されている面があるからでもある。
 では――そんな彼が『メダリオンを持つ者は時代の勇者である』と宣言したならば。
 一度は政治的混乱期に散逸した硬貨であろうと新たな価値を持つのだ。

 『勇者』という単語はこの国において特別な意味を持っているのだから。

 ローニャック家の越階を望む身としてはその硬貨が、己が野心――目的に存分に役立つものだと認識しているのだろう。彼女自身が勇者となる事を目的……としている訳ではなく、誰かに渡すだけでも大きな価値を持つのだから。
 例えば『勇者』と目されるイレギュラーズ達に渡すならば縁の繋がりとして。
 だから天義方面に近い彼女がこんな所にまで来ていたのか。
 首都であればソレを持っている者が比較的多いのは道理で……
「小賢しい。小娘が、首都にまで来て硬貨漁りか?」
「ふふ。酷いお言葉……私、皆様に少しお話させて頂いただけですのに」
 言うエミリジットの五指の間にはメダリオンが。
 一つではない。二つ、三つ……なんぞや交渉をして手に入れたのか、それとも。
 ――まぁ、いい。
 その程度の数で何かが決まる事は無い。
「で? 私にも交渉に来たつもりか?」
「まさか。偶々グゥエンバルツ卿をお見掛けしたので、ご挨拶に伺っただけです――ええ、本日は」
 野心を隠さぬ言動。節々に見える貴族としての所作が、若きながらも彼女の才を窺わせる。
 しかしメダリオン。幻想王国に齎された、新たな政治動乱になるやもしれぬ一石。
 その渦中に自ら飛び込むか。
 恐らく似たような事を考えている貴族もある程度いるだろう。
 魔物達が蠢いているこの情勢下で、さてどのような波紋が生まれて往く事か……
「小娘。その華奢な体でどう立ち回ろうが構わんよ――公の邪魔にならぬ内はな」
「左様ですか。それでは元老院の皆様にも、どうぞよろしく」
「弁えよ。双頭の竜の膝下であるぞ」
 深々と。淀みなく礼をするエミリジットを一瞥しながら歩を進めるカザフス。
 すぐ傍には一つの扉があった。それは議場へと続く道。
 ――ここは幻想の意思決定機関。黄金双竜が頂点に座す、多くの貴族が集まる地。

 幻想元老院。

 魑魅魍魎が蠢く様な場所で――ああ。昨今の情勢の話が出ようとしていた。

これまでのリーグルの唄 / 再現性東京

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