PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>ギストールの惨劇

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――まだどこかで、炎が燻っている。
 春の風が運んでくるのは、そんな煤けた臭い、埃っぽい臭い――それからひどい屍臭。

 崩れた石垣も、砕けた石畳も、割れた壁面も、折れた家々の支柱も。
 いずれも破損面は真新しく、それらの破壊がつい最近に起きたであろうことを明白に語っている。
 足元に転がる小さなぬいぐるみは、綿が飛び出しており、踏みつけられたらしき足跡が痛々しい。きっと幼子が大切にしていたのだろう。繕いの跡も見て取れる。視線を少し上げれば木製のジョッキが描かれた看板はずたずたに断ち割れ、大通りに転げている。瓦礫の下敷きとなって逃げ遅れたとおぼしき死体は青ざめ、腐敗を始めていた。これでは、まるで災害のようだ。人間の仕業とは思えない。
 こんなことが可能であるならば、おそらく大型の魔物であろう。
 だが火事の痕跡もある。それをやったのは魔物か、あるいは軍隊か――
 ひどい予感に誰かが身震いした。
 ――例えばだが、或いはその『どちらも』だとしたら、果たしてどうする。

 一行の眼前では、一つの小さな町が物の見事に壊滅していた。
「生きてる人が居るのなら、助けなきゃ……ね」
「ええ、当然です。それにこの惨劇の原因も探らなければなりません」
 息をのんだアルテナ・フォルテ(p3n000007)の隣で、シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が小さく頷いた。イレギュラーズ一行は、ローレットからの依頼で『ギストールの町』へ赴いていた。
 依頼主は幻想王国そのものであり、仕事内容は生存者の救出と調査である。

「足元が危なそう。何かないかな、そっちとか、踏んだら崩れそうだし」
 大通りは比較的ましだが、倒壊した建築物の瓦礫は、危険そうである。
 こんな状況では、生存者の救助といっても、一人一人の身元全て確認するのは不可能だろう。この町に人が何人居るのかもよく分からない上に、捜索時間だって足りはしない。
 一般的な話としては、人間が飲まず食わずで生き延びられるのは、せいぜい七十二時間程度が限界とされている。つまり丸三日間だけ。パっと見たところ、この街が滅んでからは既に三日程は経過していそうであり、状況は絶望的だ。そもそも無事であればとっくに逃げ出していることだろう。瓦礫の間に閉じ込められた時に、たまたま食料や水があったなら、一縷の可能性はあるだろうか。大凡、そんな所だと思えた。
 今日一日だけどうにかして、駄目そうであれば諦める他にないだろう。

「おそらく、ここにはアンデッドも居ます」
 ぽつりと呟いたシフォリィは、自身の言葉にはっとした。
 なぜそう考えたのかは、シフォリィ当人にすら分からない。ただ脳裏で何者かが警笛を鳴らしたのである。 死者が多ければ怨念を糧とした魔物類が生じることは、不自然ではない。むしろ良くある話だ。
 だから己は、きっとそう思ったに違いない。シフォリィはそう考えて、ひとまずは自身を納得させた。

 さて。まずはどこから、何をしようか。


「……ねえ、みんな。ちょっと来て。大変なことが起きてるみたいなの」
 この依頼を受諾する前に、アルテナはそう言っていた。
 ギルド・ローレットはいつもの喧噪はそのままに、しかし物々しい空気に包まれていた。

 この所、幻想――レガド・イルシオンでは立て続けに事件が発生していた。
 幻想各地の裏市で大量の奴隷が売られた事を発端とし、奴隷商人と悪徳貴族が暗躍している。続いたのは魔物の大量発生。古の史跡スラン・ロウとウィツィロの封印が暴かれた事と関連がありそうだと思える。
 そしてこの町が滅んだ事、それから魔物達が幻想各地に襲撃を仕掛け始めていること――仕掛けられている攻撃は、イレギュラーズが管理する領地にも及んでいる。
 全ては未だ点と点に過ぎないが、ローレットの情報屋は『何かにおう』と述べていた。それらの事件の背後に、何らかの邪悪な意図を感じざるを得ないからだ。
 情報屋はそのように述べ、納得した者もしない者も居たろうが、けれどこれまでも、そんな情報屋の勘が大きな助けになっていた事はたしかだ。根拠こそまるでないが、信憑性だけはある。

 ともあれ幻想王家からの依頼を受けた一行は、ギストールの町へと調査に赴く事になった。
 町が崩壊したという事件は、交易商が急ぎ伝えてきたものだ。
 その時にはまだ、町には火の手があがっていたという。
 魔物か、それともどこかの軍勢か。
 幻想の敵国といえば鉄帝国だが、それはあり得ない。宣戦布告もなければ、進軍の形跡もありはしない。そもそも好戦的ではあるが、変なところで律儀で堂々としている彼等が、そのような奇襲をするはずもない。
 一体誰が、何のために、町など滅ぼしたのか。
 仮に悪徳貴族の仕業としても不自然だ。下手に町などを攻めるより、政争に打ち勝って『まるまるもらってしまった』ほうが、余程彼等の利益に叶うというものだから。
 それにまるごと破壊とは、さすがに大仰すぎるではないか。

 ともかく、やらねばならないことは明白である。
 滅びた町を散策し、敵が居れば交戦するか逃走するかを決めて実施し、生存者がいればこれを救出する。
 そして『誰がこれをやったのか』という情報を、可能な限り引き出す訳だ。
「それじゃあ、はやく行きましょ。こうしてなんて、居られないもの」
 イレギュラーズは、足早に歩き出したアルテナの後を、急いで追った。
 だって町にはまだ、生存者がいるかもしれないのだ。
 救える命があるならば、救いたいではないか。
 だから早馬を走らせよう。

GMコメント

 pipiです。
 町ほろんじゃいました。

●目的
 かなり漠然としていますが、やるべきことはおおよそ三つです。
・町の状況を調査し、何らかの情報を持ち帰る。
・敵がいたら戦うか逃げる。
・もし生存者が居たら救助したい。

●フィールド
 パっと見たところ、惨劇から三日ほどが経過しています。
 到着時刻は昼前です。夜まで探索して帰還しましょう。
 小さな町ですが、多くの建造物が倒壊しています。
 所々で未だ、炎が燻っています。
 いろいろな手段であちこちを散策しましょう。
 大通り、中央広場、教会、商店類、取引場などの集会場、工場(こうば)、民家などがあります。

 手分けをするかなども自由です。
 多く分かれるほど探索効率が向上し、半面で敵の襲撃に対しては脆弱になると思われます。

 あまり気にしなくて良い情報ですが、皆さんにはそれぞれ軍馬が貸与されています。自分の馬なりバイクなり何なりでもいいでしょう。町の入り口で、降りた所からスタートです。
 騎乗状態では、特別な工夫でもしなければ、ちょっと進めそうにありません。

●敵
 アンデッドが居ると思われます。
 おそらくゾンビのような敵と、怨霊っぽい敵でしょう。
 前者なら物理攻撃主体、後者は神秘攻撃を行うと推測されます。
 だとすれば強くはありませんが、どこにどれだけ居るのかは不明です。
 戦うか逃げるか、どう戦うか等を考える必要がありそうです。

●味方
『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 皆さんの仲間。
 両面型前衛アタッカー。
 Aスキルは剣魔双撃、ヴァルキリーレイヴ、アーリーデイズ、グラスバースト(神遠範:凍結、氷結、出血、流血、反動、高命中低威力)
 非戦闘スキルは呈茶、センスフラグ。

●シフォリィさん
 もしかしたら――ですが。
 最近おかしな夢をよく見るかもしれません。
 こんな時ですが、もしもそうであるならば、そのことについて考えて見るのも悪くないでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●重要な備考
 このシナリオは三本連動(排他)です。
『<ヴァーリの裁決>神翼庭園ウィツィロと勇者王のハンマー』
『<ヴァーリの裁決>ギストールの惨劇』
『<ヴァーリの裁決>巨神眠りし古廟スラン・ロウ』
 以上の内、一つにしか参加は出来ません。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決>ギストールの惨劇完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月24日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アト・サイン(p3p001394)
観光客
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ

リプレイ


 馬の頬を撫でてやった『若木』秋宮・史之(p3p002233)の眼前には、廃墟が広がっている。
 石壁に囲まれた町と外とを繋ぐ門は半壊していた。そもそも、石壁自体がいたるところで崩壊しており、わざわざ門を通る意味さえ感じない。
「町、ほろんじゃったのかあ~……」
 ぽつりと史之が呟いた。埃っぽい風が、微かばかりの空虚を抱く乾いた声音を、空へと溶かす。
 風化はしていない。話に聞く通りごく最近発生した出来事だ。まるで災害にでもあったかのようである。
「街が壊滅……噂になってる魔物の大発生のせいかな?」
 同じく降り立った一行、『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が述べたのは、幻想各地で発生している事件についてであった。幻想中部では巨人が、南部では鳥系の魔物が大量発生している。
 また幻想では近年まれに見る奴隷の裏市が開催されていた。未だ点と点を繋ぐものはないが、なんらかの動き、少なくとも兆しが見えるのはたしかであった。
「この街は奴隷が散見された街でもある。安価な労働力として奴隷の存在は不思議では無いかもしれんが」
 言葉を濁した『弱さを知った』恋屍・愛無(p3p007296)が顎に手を添え、首を傾げる。
 果たしてこの町の滅亡と、どう結びつくのだろうか。

 一体全体、あまりに不明瞭なことが多い。
「不気味な話でもあるな」
 そう述べた『死神二振』クロバ・フユツキ(p3p000145)に、一行が頷く。
「……酷い」
「……どうした?」
「いえ。ただ、そう思っただけで。生存者がいるなら助けたいですが……それと調査もしなくては」
 アンデッドの可能性を告げた『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)だったが、クロバはどことなく、彼女の様子がおかしいと感じていた。
(……それに何でしょう、この胸騒ぎは。ここに来てから、夢が、脳裏を過り続けて……)
 シフォリィはこの所、おかしな夢をよく見るようになった。
 内容は太古の昔。シフォリィ自身はあずかり知らぬ時代のことだ。勇者王と呼ばれる幻想王国の建国王アイオンに纏わる、いくらかの逸話に沿ったもののように思える。
 それらは全て漠然としたものではあったが、ただの夢としては妙に具体的過ぎる。
(――何かが起ころうとしているというのか)
 クロバの胸の内を、焦燥がかき乱す。何がどうであれシフォリィが心配だ。
「預かってください。ファミリアです」
「ありがとう。えっと、よろしくね。そしたら……」
 シフォリィからリスを預かった『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)は、リスを手の甲に乗せ、肩に移し替え、首をなんどか傾げたあと、ブラウスのボタンを一つ外して衣服の中へ滑り込ませる。
「一番安全そうなのは、うーん……ちょっとくすぐったいけど、ここ、になっちゃう、かな」
 困ったように頬をかいたアルテナの、豊かな胸の間から、リスがぴょこんと顔を覗かせた。

 ともかく。一同の表情は、決して明るいものではない。
「なんというか。起きてしまったこと自体は、しょうがない」
 史之の言は些かシビアに過ぎると言えなくもないが、正鵠を射るものである。仕事は仕事と気分を切り替えねば、助けられるものも助けられないだろう。
「何にせよ、何が起こっているか知らないといけないね、急ごう」
 応じたヴェルグリーズに一同が頷いた。
 先程ギルド・ローレットで、馬車を用意出来ないかと言いだしたのは、そんなヴェルグリースと愛無であった。ギルドが手配したのは早馬であり、理由は単純に一刻も早く現場に到着するためであった。これがもしも馬車であれば数倍の時間を要するに違いない。
 だが「夕方までは時間があるのだろう」と食い下がったヴェルグリースと愛無は、数時間後に到着してもらうよう取り計らうことに成功した。生存者を発見出来たなら、載せて運ぶためである。あとはヴェルグリースが砂糖菓子と水を用意してある。とにかく水分と、カロリーの補給が肝要だ。
「七十二時間の壁、か……」
 マルク・シリング(p3p001309)の述べた通り、おおよそ水なしで生き延びることの出来る限界が、その程度だとされている。これは諸々の条件により大きく変動するが、目安として度々用いられるもので、ローレットの情報屋も引き合いに出していた。
 この町が滅んでからは大凡三日程度、つまり七十二時間は経過していると思われる。偶然生存出来、倒壊した建物に閉じ込められて身動きがとれず、なおかつ水がないなど、あり得そうな仮定をいくらか積み重ねてみると、現時点での生存は非常に困難だという推測に達する。
 だが絶望的とまでは言い切れない。だから――マルクは廃墟となった町を見据えた。救えるかもしれない命に、手を伸ばすのだと。

 町は――町だった場所は、ひどい臭いに包まれている。
 砂埃と、かび臭さと、焼け焦げた臭いと、饐えた臭いと、それから屍臭だ。
 鏖殺されたのは老若男女を問わない。
「非道を働くものですね。相応の報いが来る日を早める事も役目でしょうか」
 そんな『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)の不敵な言葉は、おそらく一行の誰にも共通する心境と思える。
 マグタレーナの耳へ、遠く聞こえてくる音は何かが砕けた音だった。まだ炎が燻っているようだ。
「これは相当な火災があったと見える。乾燥気味の土地、あるいは季節柄とはいえね」
 腕を組んだ『観光客』アト・サイン(p3p001394)が首を傾げる。
 魔物が襲撃したとしよう。仮に昼時や夕刻時といった火を使う時間帯だったと仮定してみよう。町はこれほど燃えるだろうか。
(火を吹くやつなら、そうかもね)
 ともあれ、遺体の分布状況を見てみたい。大きなヒントはそこにある。事件発生時に『どんな人々がどこに居たのか』といった傾向が分かれば、まずは襲われた時間帯が分かるだろうから。
「じゃ手筈通り、三班に分かれようか。僕らはこの街を襲った容疑者を突き止めようと思う」
 アトはまず、大通りに転がっている遺体に目星をつけた。

「一体なにが起きたら、こんなこと……」
 愛らしい眉をしかめた『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)が呟く。
「救える命があるなら救いたい」
 応えたのは『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)だった。
 海洋の医学校では命は尊いものだと教わる。誰しもがそのように述べる。何よりも優先されると――ココロ自身はそのように断言出来るほどの実感を持たない。けれど全ての物事は、生きていてこそ可能となる。そして生きたいという望みは、彼女の胸を焦すのだ。
「だから、行かないと」
 そんなココロの言葉に、タイムもまた頷いた。
「ええそうね、いこう。わたし達にしか出来ない事がきっとあるはず」
 こうして一行は三手に別れ、町の調査を始めたのである。


「俺はまず、上から見てみるよ」
 そう述べた史之は、上空から町を一望して仲間達と情報を共有した。
「一見した限りには、生存者も敵の姿も見えない。煙が上がっているところは、ここと、それから」
 三チームがそれぞれ、簡単な地図を手にした。チェックしながら探索することが出来るはずだ。

「マルクさん達がそっちで、わたし達はこっちね」
 ヴェルグリーズ、マルク、史之、それからマグタレーナを見送り、タイムは廃墟を見据えた。
 中央の大通りはアト、クロバ、シフォリィに任せ、ココロ、愛無、アルテナとタイムは右手側を捜索するつもりだ。さて、まずはどこからか。直感(人助けセンサー)に従えば、生存者を発見出来るかもしれない。
「生きている人はいませんか!? 助けに来ましたよ!」
 声を張り、瓦礫の間をココロが駆ける。まずは応答出来る人を、一刻も早く探すのだ。声は安心感を与えることにも繋がるだろう。
「こちらは、残念ながら駄目そうだ」
 首を横に振った愛無の言葉に、一同が視線を落とす。
「……こっちもです」
 鼠のファミリアを呼び戻したタイムも、やはり暗い表情で首を横に振る。
「生存者の居そうな場所……アルテナさん心当たりありますか?」
「うーん……」
 タイムの言葉に、アルテナは頬に手をあてて考え込んだ。
「やっぱり、建物の中かな?」
「僕は少し聞いてみよう」
 目蓋を閉じさせた亡骸の額に、愛無は手のひらをあてて目を閉じた。

 ――崩れたんだ! 崩れ、壁が。

 ――熱い。熱い!!

 愛無に聞こえる、周辺に漂う霊魂の声は、やはり死に際の無念を告げるものが多い。
 もう少しあちこちで訪ねてみれば、あるいは状況も変わるだろうか。
 保護結界を展開して延焼や崩落を防ぎつつ、一行は徐々に歩みを進めていった。

 ……
 …………

 一方で通りを挟んだ向こう側でも、史之達が捜索を開始している。
「比較的建物が無事な所から見てみようか。ライフラインが生きている場所を探そう」
「ええ、そうしましょう」
 慎重に瓦礫をどかした史之が支える中で、一行は建物に入り込む。
 辺りはひどく暗いが、もともと瞳を閉じたままのマグタレーナには関係ない。
 僅かな物音も聞き逃さぬよう、耳を澄ませて音の反響を探る。
 マルクもまた鳥のファミリアに、上空から生存者や敵影を探させていた。
 無傷の建物はなさそうだ。見た所、火災の強さはまばらなようだ。
 強く燃えた場所も、そうでない場所もある。この情報は共有しておこう。

 かれこれ一時間ほどが経過したろうか。捜索は続いている。
 徐々に、徐々に。
 手にしたマップに記しが増えて行く。つまり未だ、何も発見出来ていないということだ。
「こちらに地下室がありそうです」
 マグタレーナが示すのは、半壊した商店であった。だが入り口が完全に塞がっている。
 逆に言えば、その中には一定の空間があるとも思えた。隠れたまま出口が塞がったかもしれないのだ。
「食料品のお店だね。入ってみよう」
「僕もなんとなく、そんな気はするよ」
 応じたマルクに頷き返し、ヴェルグリーズは壁に手をあて、そのまま透過して身体を滑り込ませる。
 暗い室内だが霊薬によってどうにか視界は確保出来る。
 下へ向かう階段が見えた。入り口は塞がっていない。
 慎重に階段を降りて行くと、そこは倉庫だった。

 ――ああああ!? あ! あ!

 隅の方で何かが悲鳴をあげた。
「助けに来たよ。どうか安心して!」
「ひ、人か!?」
「……そうだね」
 僅かに言いよどんだ剣の精霊(ヴェルグリーズ)は、けれど肯定してやった。
 細かな事情を説明をしてやる余裕はなさそうだったから。
 ともあれ木箱の中から這いだしてきたのは、壮年の男だった。
「水は飲める?」
「ああ、いや。ここには水と果物がある。私なら大丈夫だ。なあ、一体なにがあったんだ」
「俺達は、それを調べに来たんだ。それから人命救助に」
「……そうか」
「まずは外に出ようか。生存者が居たよ! 手を貸して欲しい!」
 史之やマルクと共に、入り口を塞ぐ瓦礫をどかすと、どうにか男が這いだしてきた。
「あんたがたはイレギュラーズだな。俺はジェムソン。この店を切り盛りしてた一人モンだ。
 俺みたいなのが助かったのは、もったいなくもありがたい話だがよ。しかしなんてえ有り様だ」
 男は辺りを見渡して肩を落とす。
「商人ギルドの連中は無事か?」
「いや、まだ見つけられたのはジェムソンさん、あなた一人なんだ」
「だったらあの通り、て。わからねえかな、こんな様子じゃ」
「この地図だと、どのあたりかな?」
 史之が差し出したマップを、ジェムソンは指さした。
「この辺に商人ギルドの集会場があるんだが、あそこは頑丈だから、誰か居るかもしれねえな」
「ありゃ、真夜中だった。倉庫で商品の整理をしてたんだ。
 そしたらいきなりドーン! て揺れてな。慌ててランタンを消した俺は――」

 なるほど、襲撃は深夜だった訳か。
 これは貴重な証言である。
「ここが俺達の通ってきたルートで、安全だとおもう。後で馬車が来る手筈になっているからさ」
「そりゃ不幸中の幸いってもんかもな」
「人手が必要だったら、手伝ってもらうかもしれないけど」
「まあ。そりゃ、任せとけ。何時でも声かけてくれや」
 ジェムソンはどこか呆然としながらも、受け答えははっきりとしている。
 おそらく眼前の状況が余りに信じられず、さっぱり飲み込めていないことが、かえって幸いしているのかもしれなかった。なんというか、非常事態モードなのだろう。
 ともあれ男は町の外に佇む木陰にたどり着くと、いきなり崩れるようにへたり込んだ。
 馬が心配そうに顔を近づけている。
「いや、ちょっと。さすがに、こうさせてくれよ」
 緊張の糸が切れたに違いない。


「あっちで生存者が見つかったそうよ」
「ならばこちらも、負けてはいられないな」
 タイムの言葉に愛無が応じた。
「なんとなく、ここに誰か居る気がするの」
 倒壊した鍛冶場へ、タイムが鼠を走らせる。
 二階が地上に落ちているようだが――崩れた木材の影に座り込んだ人影がある。
 折れた柱を登り、近付いてみると、微かに呼吸をしているのが分かった。
「……息がある。生きてる!」
 振り返ったタイムに、一行が力強く頷いた。
「どうにか瓦礫をどかさないといけないな。崩さないように。ちょっとやってみよう」
 愛無は身体を滑り込ませて支え、どうにか入り口を確保する。
「わたしが行きます」
「ああ、頼む」
 愛無が支える瓦礫の中へ、ココロは這うように入っていく。
「大丈夫? すぐに手当するから」
 返事はないが、まずは魔法式医術を施してやる。
「ぁ……だれ」
 ようやく顔を上げたのは、子供であった。埃でひどく汚れているが、女の子だろう。
「説明は後。助けに来たの。ここを支えるから、出てこられる?」
「……ん。痛っ」
「いくらでも治すから、だから早く、ね」
 あまり動けないようだから、引っ張ってやる。
 建物を這いだした二人を確認して、愛無は慎重に身体を離した。
 ココロは先程刺さったらしい棘を抜いてやり、消毒を施す。
 あちこちにある打撲や切り傷は、建物の倒壊に伴う単純な外傷だろう。
 ファーストエイドキット『クール・ダンジュ』を使い、手際よく海洋王国式外科治療を進めてやる。
「はい、お水飲よ。あとこれはお菓子」
 タイムが手渡そうとした水を、けれど少女は見つめるばかりだった。
 喉がかわいているだろうに、かなり衰弱しているのだろう。
「……ゆっくりで大丈夫よ」
 ならばとタイムは腰を落とし、水をそっと口元に近づけてやる。
 少女は一口ずつ、ゆっくりと飲み始めた。
 咳き込むたびに、タイムは背をさすった。
「命に別状はなし。町の入り口で休んでもらおう」
「パパとママは? どこ?」
 誘おうとしたココロに、少女がようやく、まともな言葉を話し出す。
「わたし達が探すから、だからあそこに居るおじさんの所で待っていて」
 しゃくりあげ、泣き始めた少女だったが、致し方ない。
「頑張って。背中に捕まって、ね」
 アルテナがおぶってやり、町の入り口まで運ぶ。
 すすり泣く少女に背を向けた一行には、まだやるべき事が沢山残っていた。

 少女の父と思われる者は、先程の建物から、残念ながら遺体で発見された。母は分からない。
 父の死因はココロが観察する限り、やはり建物の倒壊によるものだった。
 だが次の建物を捜索している時、異変は起こった。
 時刻は夕暮れ時を迎えようとしていた。

 ……
 …………

「逢魔が時か」
 遺体だったもの――アンデッドを斬り捨てた史之が呟いた。
「……助けてあげられなくて、ごめん」
 浄化の魔術で仕留め、倒れ伏す身体へマルクが祈りを捧げる。
 夕刻になり、あちこちで散発的な交戦が発生していた。
 いずれのチームも、アンデッドと交戦している。
 敵はいずれもたいした能力を持っていないが、これから増える可能性もあった。
「戦闘は出来るだけ避けたい。ファミリアで見る限り、あそこは迂回したほうがいい」
 マルクは一呼吸置いた。
「動いている人が居るんだけど。どうみても……死者なんだ」
 そう続けたマルクに、一同が頷いた。

「町の人々が兵士と巨人に殺され、町に大規模な火災が発生したのは間違いないようです」
 霊魂との意思疎通を試みてきたマグタレーナの元に、徐々に情報が集積していた。
 理路整然とした情報を得ることが出来れば最良であったが、絶望の残滓はピースとピースをつなぎ合わせなければ、はっきりと意味のある情報にはならなかった。
 しかし漠然とした情報でも、怨念を向ける相手が誰であるのかは分かってきた。
 何度も試みた結果、ようやく有益な纏まりが見えてきたのである。
 とは言え、怨念はいずれも、ひどいものだった。
 こんなにも多くの恨みつらみを聞いていたら、気分でも悪くなりそうだ。
「けれど真相の究明が弔いとなるならば、いくらでも引き受けましょう」
 心配をする仲間へ向けて、マグタレーナは毅然と述べた。
 自身に語られる無数の恨み言を、それでも彼女は胸におし抱いてみせると。
 得られた情報は整理して、後で仲間達に伝えよう。
 町にはいよいよ瘴気が渦巻き始め、アンデッドが大量に発生する懸念が濃厚になってきた。

 一行は急ぎ、集会場などの頑丈そうな建物を手当たり次第に探していた。
 避難所として機能するからである。
 生存者が居る可能性が高まるのだ。
 だがなぜだろう。
 そうした場所に限って、特に出火が酷かったようだ。
 理由は、一体何か。

 ともあれ幾度目かの交戦を終えた史之が、溜息を吐き出した。
「きりがなくなるようなら、引き返すべきかな」
 そう言って唇を引き結ぶ。
 いつ引き返すべきか。
 いよいよ決断の時が近付いていた。


 大通りを捜索するチームの様子はどうか。
 アト、クロバ、シフォリィの三名は、建造物が破壊された原因や遺体の様子等を調査している。
「事件発生は深夜だ。次に考えるべきは、敵の規模だね。それから出火の原因だ」
 大通りで、瓦礫を滑り降りたアトは、そう述べると腰に片手をあてた。
「個人的にも気になるところだ。ちょっとした火事なら、とっくに鎮火しているはずさ」
「かなり大規模な火災だったみたいだね。それに偶発的とは思えない」
 クロバの言葉にアトが頷く。
「こちらは、駄目でした」
 肩を落としたシフォリィは、けれど言葉を続ける。
 生存者が居れば助けたいというのは当然で、ある程度は民家なども確認している。
 だがいずれも無人か、あるいは遺体であった。多くが圧死、ないしは焼死である。
「気になる点は無人の家も多いことです。事件発生は深夜のはずですよね」
「少し整理しようか。少なくとも、町は瞬間的に破壊された訳じゃない。それから火を放たれたんだろう」
 逃げようとしたであろう人々は、大通りにも多数いる。多くは殴られ、あるいは引き裂かれたようだ。
「主力は大型の魔物の群れとみて間違いない。ジャイアントやオーガみたいなものじゃないかな。けどね」
「ああ、これだな」
 しゃがみ込んだクロバの視線の先に横たわる人は、胸に傷がある。
「……この方は町の兵士でしょうが。死因は間違いなく、剣による刺殺です」
 シフォリィの言葉に、アトとクロバが頷く。
「人間の仕業って訳だ」
「ほぼ間違いなさそうだね。そういう魔物が居たという線は薄い。
 なんたって町をぐるっと囲んでいる外壁が、ほとんど壊れていないんだ」
 それに、倒壊した町の外壁は、あくまで『内側から』崩されている。破損は事後だと推察されるのだ。
「建物を打ち壊せるほどの魔物が、ご丁寧に南北の入り口から侵入した。つまり統制がある。
 それに火災の原因も、間違いなく人為的だ」
「というと?」
「魔物が火を吹いたって様子じゃあない。それにたぶん魔術でもないね。油でも撒かれたんだろう」
 アトの言葉にクロバとシフォリィが眉をしかめた。
「ほらここ、これは水樽が壊れたぬかるみだとおもうが、こっちの樽は綺麗に燃え尽きている」
 ものによって、場所によって、燃え方がずいぶん違うように見える。
「さっきマルクのファミリアから連絡があった通り、燃え跡がずいぶんまばらなのもある」
「これが樽か?」
「ほとんど焼けて朽ちているけど。ほら、これは帯金じゃないかな。
 よくよく見れば、びっくりするほど樽の数が多い。沢山の樽に油が入っていたんじゃないか」
 アトの言葉にクロバが唸る。
「運ばせたってのかい。それを、わざわざ」
「全部が全部とは限らないけどね。巨人が持ち込んだものもありそうだ」
「燃え移ったり、燃え移らなかったり、また燃えたり。長々と時間がかかった。とか」
 クロバの推測に、アトが頷く。
「そうかもしれない。あとはあの教会で、もう少し裏付けをとろうか」
「了解だ」
 石造りで頑丈な教会は、災害時には避難所として機能する。
 特にそこは、町の中心であった。
 事件発生が深夜であるにもかかわらず、そこに多数の死者が居るならば――きっといろいろなことが分かってくるだろう。

 人の死が瞬間的ではなかったこと。
 それから、どのように殺されたのかということ。

 ――結果として、それらは皆、推測通りだった。

「まず巨人のような大型の魔物が攻め入った。
 だが南北にある町の入り口は何者かに封鎖されてしまった。
 それも魔物かもしれないが、ひとまず『そいつ』は誰でもいい」
 アトが続ける。
「町には何者かが、あらかじめ油の樽を運び込んでいた。
 推定巨人共は建物を打ち壊し、逃げ惑う人々を次々鏖殺した。
 そしてその現場には武装した集団も混ざっていて、殺戮に参加した。かなり統率のとれた集団だろう」
 クロバが息をのんだ。
「――例えば、騎士団か」
「同感だよ。それから目覚め始め混乱した町に、火が放たれたんだ。丹精こめてね」
 アトが説明を続ける。
 教会はおそらく炎に巻かれたのだろう。
「人々は逃げ惑い、避難するために教会へと飛び込んだ。
 頑丈な教会や集会場には特に多くの油が持ち込まれていた。それで教会は全滅した」
「ひどいな。クソ……」
 アトの言葉に、クロバが吐き捨てる。
 焼き殺された者。
 焼けたまま外に逃れて殺された者。
 簡単な調査で分かったのは、そんな所だった。
「あちらでは生存者が見つかったようです。具体的な手がかりになりそうなものはありませんでしたが」
 アルテナに預けたファミリアから、シフォリィが得たのは、今のところそんな情報だった。
「現時点で分かったことを共有しよう。敵は大型の魔物と人間の集団。人為的な火災」
 頷き合うアトとクロバに、シフォリィが向き直る。
「アルテナさん達が、敵との交戦に入りました。アンデッドです」
 どの場所も同じか。
「――妙に死の臭いが濃くなってきた。俺達もやらなきゃならないらしい」
 周囲には、魔的な存在の気配が漂いはじめている。
 クロバもまた、眼前に現れたアンデッドに二振りの剣を構え――


「邪魔だから消えて!」
 アンデッドを吹き飛ばしたココロの後ろでは、一人の女性がうずくまっていた。
 治療は終えていたが、アンデッドに怯えてしまったらしい。
 震える女性を助け起こしたココロは、一行と目配せしあった。
 そろそろ、頃合いだ。
 各地の領地が襲われているという事件も多数舞込んでおり、この町だけに構っている訳にもいかない。

 一行は後ろ髪を引かれる思いで見切りを付け、町の入り口に集結する。
 辺りはすっかり暗くなっていた。
 そこには身を寄せ集める人々は、十人ほどだった。
 孫を心配し、町へ戻ろうとする老人を、御者が引き留めている。
 二台の馬車が到着しており、人の良さそうな御者達と最初に救助された男が人々を看病していた。
 衰弱していた人々は、治癒魔術と飲料水、食べ物などで容態が回復しつつある。
 元気だったのは食料品店の親父だけで、今は看病に手を貸してくれていた。
 被害者には熱を出している者もおり、町での治療が必要だ。王都へ急ぎ戻らねばならない。
 だからもう、そういった意味でもタイムオーバーなのである。

 町一つで、僅か十人余りの生存者。
 結局、助けられたのは、これだけだ。
「俺達だけでも、前向きに考えよう」
 史之の言う通り、一行はどうにかそれだけの人命救助に成功したのは確かだ。
 タイムは生存者から事件発生当時の事情を聞いている。
 助かったのは、いずれも事件発生時に堅牢な場所におり、あるいは瓦礫に閉じ込められるなどして、逃げられなかった人々である。現場で何が起こったのかを把握している人は居なかった。
 助かったのも、ほとんど偶然のようなものだろう。
「……答えにくいことを聞いてごめんなさい」
 タイムはそう結んだ。

 町からは時折この世ならざる、うめき声が聞こえはじめた。
 おそらくアンデッドが発生しているのだろう。
「せめても……どうぞ安らかに」
 ヴェルグリーズが短く祈る。
 身を寄せ合う人々は、青ざめ震えていた。
「みんな、早く馬車に乗って。そっちの人は、運んであげて。
 わたしはこっちの馬車に乗るから、来た時の馬は誰かにお願い」
 促したココロは、比較的衰弱の重い人が居る馬車に乗り込んだ。看病は続けたい。
「ではココロ君の馬には荷物を預かってもらおう。気になる書類が結構あるんだ」
 そちらのほうは、愛無が引き受ける。
 こうして残る一行は各々が馬に跨がった。
 イレギュラーズは馬車を護衛するように、帰路を進んだ。
 話すべきことは多く、時間も惜しい。一行は馬を寄せ合った。
「それにしても、シフォリィさんはどうして『いる』と分かったのかしら……」
 タイムが首を傾げる。
 たしかに、町の人が沢山死んだのであれば、怨念も渦巻くだろう。
 アンデッドが発生しても不思議ではないと言われればそうなのだが――
「ずいぶんと数が多いのがひっかかる。三日でこうもなるか?」
 アトの言葉通り、町には次々にアンデッドが発生しつつある。大規模な数になりそうだ。
「相当な怨念は渦巻いているようです、ただ――」
 マグタレーナが述べる。不安や恐怖に怯える霊を鎮魂していったが、それでも多すぎる。
 殺戮に怯えて死んでいったこととは、もう少し何か違いを感じると伝えた。
「アンデッドは、どんな由来で出てきたの?」
「つまりこれは、自然発生だけじゃないな。
 ネクロマンシーって訳でもなさそうだ。魔物由来の能力か何かだと推測するよ」
 考え込むタイムに、アトそうが応えた。

「シフォリィ、大丈夫か? ここ最近、その。変だよ」
 クロバの声に、シフォリィは肩を跳ねさせた。
「……夢を見るんです」
「夢?」
「私は、何かしてしまったのかもしれません」
「何かって」
 その夢が、もしも遠い昔の現実であったとしたら――
 それを知るのは、認めるのは、あまりに恐ろしいことだった。
「それでも、一緒なら、踏み出せる気がするんです。だから、支えてください」
 シフォリィがその夢について、クロバへとどこまでを告げたのかは、二人のみぞ知るのだろう。

 取引場などから無事な書類を探してきた愛無は、馬上で資料に視線を落としている。
「食用油類の一時的な保管が依頼されていたようだ。それも大量に」
「町一つを焼き尽くすほどの?」
「いや、それには全く足りないだろう。材料調達に金がかかりすぎる上に、あまりに怪しすぎる」
「依頼者は?」
「名前が書かれていない。賄賂でも使って無理矢理通したのかもしれないな」
「それで、そんな量であっても、計画的に活用することは出来ると」
 アトと愛無が頷き合った。
「敵は巨人と騎士団じゃないかと推測しているよ」
「霊達は騎士だとは言っていませんでした」
「なるほど、つまり姿を隠していたって訳だ」
「そうかもしれません。否定する材料はなさそうです」
 マグタレーナの情報と、つじつまを合わせて行く。
「それからこの町は奴隷が散見されたと噂されていたが、オークションの類いは行われていない」
 馬上で書類を見ていた愛無は、そう結論付けた。
「なるほど?」
「小さな商いすら行われていなかった、とまで言い切るつもりはないがね」
 つまり奴隷として売られていた者が、なんらかの手引きでこの町をうろついていた可能性が高いと。

「敵は南北の門から侵入した。そこから進軍経路を予測してみるのはどうだろう」
「その辺りは俺も気になっているよ。ただ相手は統率されているとなると……」
 ヴェルグリーズの言葉に、史之が頷いた。無作為に近くの町を襲った訳でもないと見える。
「やっぱり、犯行は計画的だった」
「小さな町だけど、攻めてきたのは中々の大軍で、時刻は深夜」
 マルクが言葉を続ける。
「構成はしっかりと統制のとれた魔物と人間の集団。魔物は巨人。
 破壊と殺戮はおそらく数時間かけて行われ、町に火が放たれた。
 破壊よりも殺害にかなりの重きが置かれている。略奪は全くか、あるいはほとんどない」
 ここから、何が見えるか。

 そして最後に突き止めるべきは、この惨劇を引き起こした動機だ。
「殺すために殺したとしか思えないよ。まるで虐殺が目的そのものに見える」
 そう述べたマルクの表情は険しい。
「それに、全滅が目的とも思えない」
 これまで敵の意図を考えてきたが、犯行そのものは用意周到だ。しかしそれにしては粗雑な点も多い。
「つまり殺し尽くすんじゃなく、短い時間に出来るだけ多く殺す」
「生き残りがいようが、構わなかったということか」
 愛無が応じた。
「犯人は『幻想貴族の誰か』だ、そこまでは分かったよ。
 少なくとも三大貴族じゃないだろう。この辺りで消えたって奴隷の持ち主じゃないか?」
 そう言って、アトは大きな溜息を吐いた。
 ならば、それは誰だ。

成否

成功

MVP

アト・サイン(p3p001394)
観光客

状態異常

なし

あとがき

依頼お疲れ様でした。

フィールドをうろうろするというのも、そんなに多くないシナリオタイプと思いますので。あれこれ考えながらの探索感をお楽しみ頂ければ幸いです。
事態は、ずいぶんきな臭くなってきたようです。

MVPは真相にグっと近付いた方へ。

それではまた皆さんとのご縁を願って。pipiでした。

PAGETOPPAGEBOTTOM