シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>巨神眠りし古廟スラン・ロウ
オープニング
●
――鐘の音が鳴り響く。
幻想の王宮、その奥の間が一つには『鐘』があった。
だがソレを鳴らした者はいない。
ソレは一人でにその身を振動させ音色を奏でていたのだ。
ゆっくりと。長い余韻を残しながら、一度、二度、三度――と。
「まさか……この鐘が鳴り響くとは……」
それを見据えるは王宮専属の司教。異変に勘付き、見に来たのだ。
――これは『静寂なる鐘』と呼ばれ、長年に渡って一度も鳴り響かない物であった。
しかし意味がない訳ではない。静寂なる鐘は、ある条件を満たして『しまった』時に鳴り響く様に設計されている――いわばアーティファクトの様な物なのだ。聖堂に響き渡る旋律に司教は背を向けて、彼は王宮へと内密に走った。
「急がねば。これを……陛下へ……!」
伝えねばならぬと焦燥と共に往く。伝えねば、伝えねばならない。
――鳴らされざるべき鐘の音が響いたと。
古廟スラン・ロウに異変あり、と。
●
「なんだって! レガリアが無くなった!?」
幻想国家王都メフ・メフィート。
その王の間にて一つの報告を受けているのは『放蕩王』フォルデルマン(p3n000089)である。幻想近衛隊隊長『花の騎士』シャルロッテ・ド・レーヌ(p3n000072)の口から齎された言の葉は――幻想の王家にとって看過し難い事であった。
それは王権の象徴となる物品、所謂『レガリア』の消失。
いや消失という言葉は正確でないか。なぜならば――
「はい……古廟スラン・ロウへ何者かが侵入した可能性がある、との事です。
あの地に眠るレガリアの反応が消失していると……」
「なんという事だ……! まさかレガリアが盗まれるなんて……!
――で。シャルロッテ、あそこに置いてあったレガリアってなんだったかな?」
近衛の長はいきなり頭が痛くなってきた。
端的に『盗まれた』と言っているのにこの王は事の重さを自覚しているのかいないのか……ともあれ幻想はかつて世界を旅した勇者王が建国した国家であり彼の死後も、彼にまつわる物品は常に保管されている。
その中でも勇者王と特に縁の深い物はレガリアとされ王宮――
もしくはレガリアを守護する遺跡に保管されている事がある。
――古廟スラン・ロウもその一つであった。
「スラン・ロウに保管されていたのは……『角笛』です。勇者王がかつて、滅びた大地フィンブルに訪れた際に入手したもので――その角笛の音色は周囲の者らに活力を与えたり、叡智を授ける神秘を宿していたという伝説があります」
「そうなのか、凄いなぁ!」
「ただ一方で……所有するだけで争いを呼ぶ運命が込められていた、とも」
真偽は分からない。
勇者王がその角笛をスラン・ロウに安置して以降誰も使った事が無かったからだ。なぜ手放し、古廟とされる地に置いたのかは『一つの伝承』があるのだが……ただ経緯はともかくとして……スラン・ロウは名前こそ知識としてあれど、その位置は王家以外には不明であった。
ただ一つ。
『スラン・ロウの安息が脅かされた時、幻想大聖堂にある『静寂の鐘』が鳴り響く』
斯様な伝説は存在していた。そして――聞いたのだ。
その静寂の鐘の音を、管理している司教が。
「ううん、成程。しかし実際に『ない』かは見てみないと分からないだろう? もしかしたら何かの間違いという事もあるのでは?」
「ええ、ですので陛下……これは近衛隊が確認せねばなりません」
信頼のおけぬ者ではなく、幻想国王直轄の部隊でこそ、と。
……しかし結論はあれどシャルロッテからは憚られた。『スラン・ロウの位置をご教示ください』とは。
繰り返すが、スラン・ロウの位置は王家しか知らない。近衛の長たるシャルロッテも例外ではなく、事実としてフォルデルマン三世しか知らないのだ。王家にまつわる重大な秘密であり――だからこそ自ら問うのではなく命じて欲しかった。
近衛隊よ、スラン・ロウへ往け――と。
しかし。
「よし! なら――イレギュラーズと一緒に見に行こうか!」
「…………はっ!?」
「その、えー。なんだ。スランなんとかは私しか知らないのだろう。迂闊に位置を言ってはいけないと先代から何度も何度も言われていたからな。だから場所を言う事は出来ないが、かといって私では危険が危ないかもしれないし――
なら我が友たるイレギュラーズがいれば安心ではないか!」
斜め上、明後日の方向の回答が来た。
まさかイレギュラーズとは――いや彼らの力量に疑う余地はない。数々の活躍を鑑みれば彼らと共に往く事はなんら問題はないだろう……そもそも『果ての迷宮』の通行とセーブクリスタルの使用すら許可したのだ。レガリアの在る地は駄目という訳でも……
いやしかしレガリアは王権に関わる事態である。
イレギュラーズと言えど余人をあまり関わらせるべきでは……
……よし。
「……陛下がお決めになった事であれば私に異論はありません」
「おお、そうか! なら早速イレギュラーズ達に話を」
「ですが私も同行します」
「え、しかしだな」
「同 行 し ま す」
だがそれはそれとして自分も行く。
異論はないがこちらにも異論は挟ませないですよ、陛下。
――珍しくシャルロッテが怖かったのでフォルデルマンは静かに頷くだけだった。
●
古廟スラン・ロウ。
それは王家が所有する私有地の一つに存在している――
木々を超えた先。緑の息吹を感じる更にその奥。
古びた門があった。
扉はとうの昔に朽ちており、中に入るは容易そうだが。
「いやぁ実にいい景色だな! うん、何もなくて森林浴にピッタリだ!
まだちょっと寒いが、夏頃になったら丁度いいかもなぁ、ハハハ!」
しかし荘厳足る雰囲気もフォルデルマンにとってはあまり関係ない。
彼はどこであろうと放蕩王なのである――そんな彼に護衛として付くは複数のイレギュラーズと、シャルロッテ。
「……陛下は今日もお元気そうで何よりですが、皆さんには今回陛下の身を守護して頂きたく思います。ここ古廟スラン・ロウは本来人の立ち入る様な場所ではないのですが……今回は思わぬ事態が発生している可能性がありますので」
事態を概ね聞いているイレギュラーズは小さく頷いた。
レガリア――王権に関わる品が消失している可能性がある、と。
これよりその真偽を確認しに行く。だが……万一レガリアの消失が事実だとしても。
「外には他言無用でお願いします。これは極秘事項だと思ってください」
「まぁそれは……しかし入り口はおろか中にまで王様が付いてくる必要が?」
「はい。そもそもレガリアを安置している本殿への扉は王族に反応して開くそうで――つまり……ええ。やはりどうしても陛下自身にお越しいただく事が必要なのです」
成程。やはり幻想王家に関わる地であるだけの事はあるのか。
……当のフォルデルマンはお上りさん気分なのか陽気に周囲を眺めている。それはイレギュラーズらの護衛を信用してか、それとも純粋に能天気なだけか……後者な気がするがこれ以上深く考えるのはやめておこう。
それよりも。
「万が一中になんらかの非常事態が発生しているとして、想定される懸念事項は?」
「盗人か魔物か。まぁ人間の場合、レガリアを盗んだとして未だに留まる理由はありませんから……実質、予期せぬ魔物が内部にいる可能性の方が見受けられますね」
その為、私は陛下の警護を最優先しますとシャルロッテは述べる。
「陛下は私が。何があろうと傷付けさせません」
「じゃあ俺達は周囲の警戒や先行しての偵察が良さそうだな」
「はい……お手数おかけしますが、よろしくお願いします」
礼を示す様に彼女は頭を下げて。
しかし――古代の遺跡、か。
ファルベライズ遺跡にも似たような物はあり、そこには大精霊が鎮座していたが……
「そういうば此処って何の遺跡なんだ?」
「……正確な所は不明です。王家に所以がある、としか」
ただ。
「スラン・ロウには一つの伝承、いえ噂話……というべきものが一つあります」
「それは?」
「かつて此処には大地を震撼させた者がいると」
一息。
「古廟スラン・ロウには――巨神が眠ると言われているのです」
- <ヴァーリの裁決>巨神眠りし古廟スラン・ロウ名声:幻想30以上完了
- GM名茶零四
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月24日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●
――静寂。
風の囁きすら聞こえぬは古廟スラン・ロウ。
本来王家しか立ち入りを許されぬ、神聖なる領域――
「その上で王権象徴たるレガリアも存在するとは……実に興味深い。
斯様な機会を与えて頂いた事には、陛下に感謝せねばな」
尤も、花の騎士殿は心労が多そうだが――と『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)は前往く彼らの様子を見ながら呟くものだ。
現幻想国王フォルデルマン三世。
彼の護衛の為にリュグナーは、彼を中心とした陣形の内の後方側に位置していた。国王を中心に据え、その周囲をイレギュラーズが固めているのだ――万が一。『何か』不測の事態が起きても大丈夫なように備えている。
……当の国王はそんな気遣いを悟っている様子もなく『ははは、なんかもう疲れてきたな帰ろうか!』などとのたまっているが。
「やれ、陛下はピクニック気分か。まぁ実際にピクニックで終わればそれが一番だが……」
「まぁそうだという保証もないのが幻想の現状でもある。各地に出没している謎の魔物達という情報……同時に失われたとされるレガリア。全く関連がないとも思えんな」
周囲を警戒する『怪盗ぱんちゅ』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)と『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の両名。アルヴァの言うように『何事』もなく終わるならばそれに越したことはない。
しかし――考えれば考えるに妙な話である。
そもそも勇者王の血筋でしか開かないとされる扉があるのに盗まれた……? 何か他に開く方法があったのか、強引に破ったのか……されどもしも正規の手段として開いたとするならば……
「ならばやはり犯人は王族の中にいる、と考えるのが妥当でごぜーますが……さて。もしもそうなら話がこじれる様な事になりそうでごぜーますね……」
ま、全ては確認してからだろうとアルヴァと同様に『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)も思考を巡らせる。かの有名な勇者王の遺物であるレガリア――そして古廟スラン・ロウ。
そんな場所の位置すら知る者が一体何人いるというのか。
思考に耽る。奥にまで行けば分かるだろうかと――その最中に、ベネディクトは少しばかりフォルデルマンへと近付いて。
「陛下。お楽しみの所は幸いですが……レーヌ殿の言う事は必ず守って頂きますよう」
「おおベネディクト、勿論だとも。私がシャルロッテの言う事を無視した事など――うん、まぁ――うん! とにかく細かい事は気にするなハハハハハ!」
「…………因みに、この地は『巨神』が眠るという話があるそうですが、その存在に覚えは?」
え、巨神ってなんだ?
やはりと言うべきかなんというか、陛下は存じていない様だ。予測していた事ではあった故に特に落胆するような事ではないが……されど名前からして並大抵の存在ではない事だけは窺えるし、ただの御伽噺とも思えない。
「ヒヒッ。実に面白い話だよねぇ……王権の象徴が眠りし地に巨神なる伝説があるなんてさ。そもそもここ『何の』霊か存在かを祀ってるんだい?」
「――さて、それが元々不明なんです。お話した巨神であるとも言われてはいますが……」
確実とも言えぬ。レガリアが安置されていたことも含め、徹底的に情報が秘匿されているから――とシャルロッテは『闇之雲』武器商人(p3p001107)へと言葉を紡ぐ。勇者王が何かしらの形で関わっているのは確かだが、この社自体は勇者王が訪れる前から存在していた、とも……
「謎が謎を呼ぶってかい? 鶏が先か、卵が先か……」
「それじゃ質問の方向性を変えましょうか――
ねぇ陛下、勇者王の敵役ってどんなのが居たかしら?」
「うん? 敵? 敵ってなんだい? 勇者王の敵ってのは迷宮ぐらいなものだろう司書よ!」
晩年に至っても攻略できなかった果ての迷宮こそが、英雄アイオンの勝てなかった『敵』
武器商人に次いで『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)へと王は言を。あぁ、フォルデルマンがイーリンの事を『司書』と呼ぶのは、やはりイーリンが呪い除けの為に教えぬからである。国王の前であろうと――それはブレない。
「成程。それも確かに、確かに――そうね」
同時。イーリンは周囲を眺めながら『観察』をしていく。
それもまた警戒の為だ。入り口から此処に至るまでの間に何か差異はないか。妙に折れた枝木や草に残る足跡でもいい……とにかく異常と、そうでない部分の違いを検知しようとしているのだ。
平常なる心をもって焦らぬ様に。
あぁ本来許されるのであれば何もかもを気にせず此処のあらゆるを書に書き留め、己が瞳に刻み込みたい所なのだが――逸る気持ちは奥底に抑えつつ彼女は己が役目を成さんとして。
「どうしたんだい皆、随分と気にするじゃないか。王家由来の地なら別に侵入者もいないだろうし――気にせずとも良いものを。なぁアルテミア!」
「え、ええ!? あ、いや、ええと――そうですね陛下!」
突如話を振られた『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は思わず反射的に陛下に賛同する声を挙げてしまった。くっ、これも幻想貴族に連なる者の習性か……! 陛下からの護衛依頼だと聞いて馳せ参じたはいいのだが……
ともあれ会話をしながらも警戒は怠らない。
中衛の位置にて側面を守れるように。参道の外、森の中の気配や物音、匂いに気を配り……当然後は目視も怠らない。陛下の身を狙う輩がどこに潜んでいるやもしれぬのだから――と。
「うーんしかしここまで来たんだ、折角だから――後で本殿においてある品物でもいるかい? たしかブレイブメダリオンという古い硬貨もあそこに在った筈で」
「へ、陛下! 褒章の品を賜るは光栄ですが、国家の重要物をそう頂く訳には……!」
しかし警戒している最中にもどんどん機密情報が彼女の耳に届くどころか、スラン・ロウの奥にある物を持って帰るかい? と誘われる始末である。陛下! 陛下! お隣にいるシャルロッテさんから漏れ出ている気配が凄い事になっていますよ陛下!
お爺様達から色々と『評判』は聞いてはいたけれど……
(シャルロッテ様の気苦労も絶えないでしょうね……)
ともあれこの地の事は墓場まで持って行こう。それが幻想貴族として務めである。
……まぁブレイブメダリオンに関しては後に実際全面的に配るというお達しが出るのだが……それはまた別の話として。
「はー……こりゃ花の騎士様に怒られるのは国王陛下が一番早そうね?」
「でもボクは王様の事嫌いじゃないよ。こんな怪物でも信用してくれるみたいだしね」
周囲の気苦労もなんのそのな勢いのフォルデルマンを見て『never miss you』ゼファー(p3p007625)は吐息を一つ漏らし、されど『無垢なるプリエール』ロロン・ラプス(p3p007992)はその在り様には好意的に見れる所もあると捉えていた。
イレギュラーズという存在であれば無警戒と言えるほどに――
器が大きいと感じる事も出来るものだ。まぁ、近くに控える花の騎士の心の疲れたるやどれ程かは知らないが……
「でもさ、本来立ち寄れない様な場所に踏み入って冒険する……って、やっぱりワクワクするよね!」
しかしそんな彼だったからこそ今ここにイレギュラーズ達がいるのだと『はなまるぱんち』笹木 花丸(p3p008689)は、己が心の高揚感を確かに感じていた。
事が事だ。王家にとっての象徴たるレガリアが奪われたかもしれぬ事件……本来であればはしゃぐ様な事ではないのだろうがそれはそれ、これはこれ。
「王様もシャルロッテさんも安心して!
護衛のお仕事だって花丸ちゃん達にマルっとお任せ、だよっ!」
「おお頼もしいな花丸よ! と言っても結界のあるこの地に危険なんてある筈もないがな!」
ははははは! またも高らかに笑みの感情を見せるフォルデルマン三世――
されど、歩を進める度にイレギュラーズ達は段々と『何か』を感じ取っていた。
優れし五感を持つ花丸はゼファーと共に前方に位置し、聞いていた罠が無いかを確認しながら進んでいた。よく見据えれば参道の中には踏み込み式で発動する罠もあって……それはゼファーが即座に見つけて皆で回避を。
或いは不審な敵性存在がいないかとも……その結果、耳に届くは『何か』が動く音。
動物か? 否。ここに至るまで結界の影響か、鳥すらいなかった。
それはイーリンの記憶にも確かに刻まれており、そして。
「……強い感情を感じる。なんだ、これは? 我々以外に『何か』がいるぞ」
ベネディクトが張り巡らせていた感情を探知する術に――引っ掛かった。
近くに感情を携えし存在がいる。
このような場所に――誰も立ち入らぬであろう王家が地に――
イレギュラーズ達の間に緊張が走る。
捜索の術を持たぬ者達にも不穏な気配は既に感じられる程に『近い』
エマが警戒し、アルテミアが剣を携えて――
「来た」
刹那。風の囁きすら鳴りを潜めた、その時。
『――■■■■、■■■!!』
咆哮。身体の芯まで揺らすかの如き叫びと同時に。
木々を押しのけ吶喊してきた――巨人が如き存在をその目に捉えた。
●
「な、なんだあれは!!? 巨人か!? け、結界とやらはどうなっているのだ――!?」
「……で。魔物はいないんじゃなかったかしら、ねえ?」
響く地鳴り。その巨体が激しく動けばこうも重い存在感を示すのか。
フォルデルマンにとっては完全に予想外だったのか慌てふためいている――が、シャルロッテを含め周りの者達にとっては想定していた『万が一』だ。自信満々に『魔物? いる筈がない!』と言っていた王をゼファーは横目で眺めつつも対応する。
いかなる事態であろうともフォルデルマンの護衛は最優先だ。
よって奴らの狙いを引き付けるべくゼファーは前へ。
「さぁってと。初めて見た王様とはいえ――ま、あんたらの好きにさせる訳にはいかないわ」
名乗り上げる様に巨人らの注意を引く。
彼らの眼前で動く存在は目障りにも映ろう。奴らの拳を躱しつつ、これ以上前にはいかせない。
「っと、どうやら敵の様です。陛下はこちらにて少々お待ちを」
「さてっと、残念ながら花丸ちゃんの出番みたいだね……どこから出てきたんだか……!」
さすればその巨人らをアルヴァや花丸の撃が襲うものだ。
優れし機動力を持つアルヴァは縦横無尽に位置を調整しつつ、己が狙撃銃の引き金を巨人達へと絞り上げる。精密なる射撃は空気を壁として幾度も曲がり、その脳天を穿たんとするのだ。同時に、別方向からも訪れていた敵を花丸がゼファーの様に引き付けんとする。
「王様には近寄らせないよ! 花丸ちゃんの目が黒い内はね!」
巨躯であろうとも劣らぬ激突。その動きを塞き止め、拳を一閃。
纏めて薙がんとする一撃は他の巨人をも的にする――今の所確認できているだけでも四体いるが、花丸の耳には更に奥からもこちらへと押し寄せんとしている存在を感知していて。
「この巨人達……ええ。皆、首や目の部位を狙ってください! これらの類は重厚な筋肉に覆われているのが多数。肉の圧が薄い場所を少しでも狙った方が効果的です……!」
同時。アルテミアの言が皆へと跳ぶ――魔物の知識から掘り当て、有効であろう手を模索するのだ。合致情報が無かったとしても、弱点の推察ぐらいは近似の魔物から出来るものである。
「……鬼や巨人と言えば、今まで見てきた中では豊穣の妖怪……或いは妖精郷に居たオグルが思い浮かぶけれど……それとはまた異なる系統ね、彼らは」
大枠では似ている。しかし細部が異なり、恐らく彼らと同種ではないのだろうと。
それでも――陛下を害するというのならば。
「陛下には近付けさせません。下がりなさい、下郎ッ!」
彼女は前へ。引き付けられている個体を見据え――剣を振るうのだ。
蒼き炎を纏わせた一閃は、荒々しくも鮮烈。
まるで舞が如き数多の斬撃は敵の守りを崩そう。肩の関節を、首を、目を狙い排除せん。
陛下の敵を。幻想国王の命を狙うならば容赦はすまい。
――彼女の言を皮切りに巨人への攻勢が強まる。
魔物の知識を武器に。誇りを胸に抱いて守護の力とせん。
「全く。VIPを狙う不届き者は誰? 魑魅魍魎の類が近付けると思わない事ね――
ベネディクト、指示を頂戴!」
「陛下。私の背へと……ご安心ください。イレギュラーズが共にあります」
直後、イーリンの支援も続く。未来を観測するが如き動きから紡がれる一撃が敵を薙ぐのだ――
髪は紫苑へ、精気は幽世へ。紅玉の瞳が敵を捉え、魔力の塊が貫くのだ。
誰をも近寄らせぬ。王へ近付かんとする不届きものなど――絶対に。
故にシャルロッテは彼らの活躍を信じ、己は陛下の傍にある。
彼女がフォルデルマンの近くにいればまずもって王に攻撃が届く事はないだろう。余波程度であれば彼女が如何様にも捌く。
「……敵がいる事は想定していたが、それなりに数が多いな。これほど不確定要素が多い以上、俺達は陛下から遠くは離れられん。この防御陣形のまま殲滅するか、或いは――別の好機を見出すか」
「ヒヒッ。さぁてさあさぁどのように動くのが正解かね、マナガルム卿」
そして――イーリンから声を掛けられたベネディクトは思考を巡らせている。
今、この位置では全周囲の警戒が必要だと。敵の数に限りがあるのならばこれでも良いが、もしも想定以上の場合……一度場を突破して、本殿なり障害物を背にして戦うように布陣し直した方が吉かとも。
されど、ここまではゼファーらに十分な集中の余力があったが故に、侵入者用の罠の事をあまり気に掛ける必要はなかったが――戦闘をしながらでは何がしかの被害が出る可能性もある。
どうすべきか。今はまだこの陣形のまま状況を見据えた方がよいかと。
統率の意志を携えて――次なる一手を導き出さんとしつつ。
槍を振るい接近する巨人へと斬撃。
同時、武器商人はいつでも王を庇える位置に着いている――万一防衛線を突破して来ても、シャルロッテの容量を超える波が襲い掛かって来ようとも。あらゆる撃を跳ねのける闇之雲が此処にあらば盤石の体制だ。
かの者を突破しうる才が、このような巨人どもにはたしてあるか……
「しかし――随分と皆、陛下に御執心の様だ。或いは……その血筋の方が、かね?」
そして気付く。
奴らの殺意は最前線を張るイレギュラーズよりも、フォルデルマンの方に向いていると。
――勇者王の末裔に異常なほどの敵意を向ける鬼(まつろわぬもの)か。
ヒヒヒッ、実に面白そうな話になってきた。
奴らはただ湧いて出ただけの鬼という訳でもなさそうだ。
「ま、角笛なんてのは戦争の開始を告げるモノなのだから、元々この話がきな臭いのも頷けるが。ヒヒ!」
「なんの始まりを指し示してるんでごぜーますかねぇ……
とにかく今はこの巨人達を押しのけて、奥に進むことに注視するでごぜーますか」
エマは吐息を漏らしつつ、更に現れた新手の巨人へと――掌底一閃。
が、重い。吹き飛ばしの力に堪えるかのような、岩を打つかの如き感覚が手元へと。
「成程。ですが、これで終わりでもねーんでごぜーますよ」
故に直後。黒き狼の妖精を紡ぎあげ――その牙を巨人の喉笛へと。
月の犬を意味するマーナガルムの意志は食い破らんと巨人の存在に絡みあう。
突破させぬ押し留める。
幾体現れようと、どれだけの負の感情を携えていようとも。
「ふむ……実に興味深い個体達だ。いずれもが等しく国王を狙っている……
統一されているかのようだ――その根源ははたしてどこにあるのか」
「……どうしてこれほどの負の感情を。しかもどうして国王に……?」
直後。リュグナーとアルヴァは彼らの意志を探れないかと、読み取る術をもってしてその心を捉えんとする。異種族、魔物の類であればそれを言語化して察知できるとまでは期待していないが……しかし、感情の方向性ぐらいは読むことが出来た。
彼らは全て同じだ。
同じ怒りを、恨みをその拳に乗せて――こちらへと振り下ろしてきている。
「謁見にしては少々過激ではないか。
礼儀を知らぬか蛮族よ。一国の王の前だ――平伏して待つが良い。
それにその無粋な拳も……この地を穢す不要なものよ」
一応は。という言葉は呑み込んで、巨躯から放たれた拳をリュグナーは跳躍にて回避。
同時に放つは黒く、半透明な鎖だ。それは地獄の大侯爵の名を冠する者の陰。
逃がさぬ。いや、これ以上は行かさぬという意思がそこにあるのだ。束縛し、自由を奪おう――更に展開するは周囲を保護する結界術が一つ。戦闘の最中であればどれほどこの地を保護できるか分からぬが……
「まぁ、花の騎士殿の悩みの種は少しでも摘まねばな」
「……お心遣い、感謝いたします!」
なんだか『リュグナー、別によくないか少しぐらい壊れても?』という某国王の声が聞こえてきた様な気もするのだが、花の騎士殿の安寧の為にも自分の耳には聞こえなかった事にして無視しよう。
ともあれ巨人達は攻勢は未だ続く。
彼らは強い敵意と共にこちらに向かってくる者の、幸いと言えるのは――その攻勢の波が散発的であった事だろうか。戦力の逐次投入とも言うべき下策の状態となっているのだ。
彼らの巨体を止めるには複数人か――もしくは高き壁の如く敵を止める事が出来る花丸やベネディクトの様な力が必要だった。
故に、彼らが数を揃えて一斉に掛かってきていたら厳しかったかもしれないが。
「でも、これぐらいならなんとかなりそうだね……!
あ、でもあまり離れすぎないでね。治癒の力が届かなくなってしまうから……!」
されど散発的であればロロンの治癒能力も相まって防衛線は維持され続けている。
巨人達の拳が地に落ちれば激しき衝撃を伴うものの――ロロンもこの程度で倒れるものか。
支えるのだ全てを。凌ぐのだこの殺意の群れを。
「よし。敵の前線に穴が生じつつある……一気に跳ね返すぞ。少しずつ前へ!」
そして見えた光明。幾度と襲来していた巨人達だったが、その数が減っている。
もうこれ以上の増援がいないからか――? しかし好機だ。戦っていれば段々と分かり始めてきたが、奴らにはあまり高度な知恵は感じられぬ。故にこの先で罠を仕掛けて待っている――と言った事はないだろう。
だからベネディクトは前進を進言する。
本殿へと突き進むのだ。そもそも巨人達の殲滅は、今回の主題ではないのだから。
「王様も一緒に動こう。大丈夫、今なら行けそうだよ」
「そうか! いや巨人達が襲い掛かってきたとはどうなる事かと思ったが……流石私の友人達だな! こんな巨大な存在でも臆す事無く立ち向かえるとは!」
「ま。冒険には想定外が付きものですもの? これぐらいはまだまだ『ある』事よね――さっ、余興だとでも思って楽しみなさいな、王様!」
ロロンが促し、中央にいるフォルデルマンもまたその歩を進め始める。
邪魔をする輩はゼファーが切り伏せつつ、フォルデルマンへ言を。
その身はイレギュラーズ達が守るから。最悪でも花の騎士や武器商人もいれば、まだまだ十分に安全は確保されている。同時、花丸が跳躍し、邪魔な巨人の頭の先から拳を叩き込めば。
「でも――本殿に入れば安全とも限らないからね……気を抜いちゃだめだよ!」
「さて、鬼はもう出たけれど……あとは蛇が出るかどうか」
花丸の懸念に、イーリンもまた呟く。
鬼が出るか蛇が出るか。
これ以上の予測外が出ぬ様にと願いながら――歩みを進めた。
●
古廟スラン・ロウ本殿。
それは参道を只管進んだ先にあった。
本殿とはいうものの、王家直轄の地として余人の手が入っていない故か立派な建物――とは言えない。遺跡の入り口とも言うべき様子のソコには、大きな扉が一つあって。
「これです! 陛下、どうぞご自身の手でこの扉を……!」
「うんうん、これでいいのか? おぉ――随分と軽く開くなぁ」
さすればシャルロッテの導きを得ながらフォルデルマンがその手を翳す。
――さすれば一瞬、淡く扉が光り輝いたかと思えば。
内側へと誘う様に――扉がゆっくりと開いていく。
『――■■――■■■』
同時。扉が開くと共に、追ってきていた巨人達に異変が生じた。
本殿の中へとまで、追って来ないのである。
どころかその歩を後ろへと。イレギュラーズ達を睨みつける様にしつつも、どこぞへと退くように……
「ふむ――奴ら、ここまでは来ないようだな。建物の中では狭いと感じたか、それとも……」
狂いし瞳の力を行使しつつ力を奪っていたリュグナーは瞼を閉じる。
包帯を巻きなおし、思考するは――奴らの動きの理由。
ここに現れしは巨人ども。そしてここには巨神が眠るという……
奴らが退いたのは戦闘の不利面だからではなく、もしかすればここ自体が奴らにとって重要な地であるからという可能性もある、か? 言葉通りに考えるなら巨神とは奴らの親玉であるという関連性が思い浮かぶもので。
「……ところで魔物はいないと聞いていたのだが、あの闘志と殺意に漲る集団は一体?」
「うん――いやぁ私もビックリしたなぁ!」
笑顔の国王。まぁ彼には傷一つないから良しとする、か。
とはいえ――まだだ。これで終わりではない。
重要なのはここからだ。見据える先にあるのは地下へと続く古き階段。
この先に本来ならばある筈だ――レガリアが。
「さて。その前に一息つくのはどうだい? 陛下、こちら去年にも献上しましたヴァシュランなれば――ああ毒見の分も必要かと思い、花の騎士殿にも、ええこちらに一つ」
「わあこれかぁ! うんうんいいじゃないか武器商人! 流石我が友だ!」
「へ、陛下……いや陛下が仰られるならば構いませんが……」
ヒヒッ、と笑みを紡ぐ武器商人が取り出すは、以前にも献上した事のあるさくさくとしたメレンゲに挟んだ濃厚なアイスクリームだ。巨人達も退いたのであれば、ちょっとした小休憩しても構わないだろう。
――幸い周囲にもう戦闘の意志を携えている者の気配はないのだから。
「ああジョーンズの方は熱い紅茶をよろしく。イースターにも新商品が出る予定だから……楽しみにしておくれね。ヒヒヒ!」
「うん? ジョーンズというのは司書の事かい? どうして私には教えてくれないんだ司書よ!」
「いい女は秘密の多いものよ、陛下。名前一つとっても然り……秘密を着飾って女は魂をも昇華させるの。気になりましたら――後で調べればよろしいかと」
この国の歴史と、王の責務と同じようにと。
イーリンは己が名を煙に巻くようにフォルデルマンへと言葉を。
――さぁ、さぁさぁ遂にここまで来た。
この先が王家の遺跡の中核点。余人ならば見る事も叶わぬ蜜月の領域。
背筋が震える。
それでも息を整えれば――一歩を踏み出すモノだ。
「神がそれを望まれる」
階段へと歩を進めれば周囲に音が木霊して、静寂の世界に生み出される。
そう深くはない。底はすぐそこに見えており、特別に光を用意する必要もないぐらいだ。扉から差し込まれる量だけで十分――故に、念の為の警戒だけを胸に携えて往く。
陣形は相変わらずフォルデルマンを守る様に。
侵入者がいたなら……この先に何か不測の罠がないとも限らないのだ。
アルテミアは一層の警戒を強める。何か僅かな変化でもあれば、無礼は承知の上――それでも陛下を抱き庇ってでもお守りしようと。
皆の緊張が高まり――そして――
「あぁ……そんな、やはりレガリアが……」
辿り着いた先、妙な文様が刻まれた台座が一つあったのだが――
そこにはそれ以外に何もなかった。
……よく見据えると周囲に硬貨の様なモノはある。誇りかぶっているが……これが先程言っていたブレイブメダリオンというヤツだろうか? しかしこれは聞いていた『角笛』ではなく、レガリアという程の代物でもないだろう。
シャルロッテの反応からして、この台座の上に本来ならば『在った』のか。
されどやはり影も形もない。この場には神秘の残り香もなく……あるのは只『喪失』という二文字の概念のみ。
「ふむ……しかし下手人は一体どうやって盗んだんだろうね。扉は機能していた。壊された様子もない……となればやはり、王以外の血筋の人間が……? もし盗むとしたら、ここと同じ道を通るんだよな?」
「可能性としてなくはありませんが……しかし、陛下以外に勇者王の血筋を引くものなど……あとは、ええ。道はまずもって間違いありません。他の道などは無いです」
「……そっか。念の為に調べるだけ調べてみるけど……『巨神が眠る』って何か関係あんのかな……?」
アルヴァの疑問――に応えるシャルロッテの確認しうる限りは『いない』筈なのだ。
勇者王の血筋がどこぞにもあると、そもそもそれ自体が政治的な混乱を生む。
勇者王の地を引くのはフォルデルマン三世ただ一人――の『筈』だ。
とはいえもしかすれば他に進入路があったかもしれぬとアルヴァは痕跡の調査を。正面から盗みに入ったか、どこか別の所から強引に……しかしどれだけ見てもそんな不審な痕はなく。
「……いや、だが元々は遺跡か何かの地だったのだとすれば王家も知らぬ道があるという可能性も――あるのではないだろうか。遺跡をより深く知っている者がいれば、別の開き方などがあるのかもしれない」
「王族以外でも強行突破できるやもしれないでごぜーませんからねえ? どれだけ厳重な加護があろうとなかろうと、不可能なんて単語は誰にもいえねーでごぜーますし……ただ、相当な手練れに限るでごぜーますけど」
言うはベネディクトとエマだ。陛下以外に資格を持つ者の可能性……も、あるが。別の手段を考えるならばそもそも遺跡に詳しい者がいたのではないだろうかと。
或いはそうでなくても勇者王の血筋に反応して開く扉など……ある程度、人物を判別する神秘が関わっているのであれば、それを誤魔化す術などを用いたのかもしれない。エマの懸念通り、出来るのならば相当な技術を持った者だけに限られるだろうが。
――ただ確かなのはレガリアが無いという事。
どの推測にしろ、良い予感には繋がらないことを確信していて。
「オーケー。とりあえず一度今後の事を先に考えましょ。レガリアは確かにない……と。
じゃあ次はどうする? もうちょっと周辺を探してみる? それとも――」
帰還するかと、提案するのはゼファーだ。
巨人達の姿はない――が。いつまでも安全とも限らないものである。より数を携えて包囲されたら……その時は王の身を確かに守れるとも限らないのであれば、一度退くのが賢明だろうか。
「探してみても……なさそうだしねぇ……」
ロロンの言うように一縷の望みに掛けて探してみるのは無駄になりそうだと。
そう、誰しもが確信していた。『レガリアはもうこの周辺にはない』
壊れた訳でもなく、誰かが持ち去ったのだ。
それが『誰』かは――現時点においては見当もつかないが――
「うーん……でも花丸ちゃんは思うんだけどさ、なんで『今』レガリアが奪われたんだろうね」
と、その時。言を紡いだのは花丸で。
「犯人が何らかの目的を持っていたとして、どうして『今』だったんだろう。幻想ってさ、最近は平和だったよね。大奴隷市なんてものはあったけどさ、今レガリアを奪ったら当然王家の敵として追われる訳だし……」
「――確かに奪うなら例えばサーカス事件や砂蠍の混乱期の方が余程好機だったでしょうね」
同じくアルテミアも――疑問に思う者だ。
どうしてこんなタイミングでレガリアの盗難を行ったのか。
もしも、いつでも入れたのならもっと別のタイミングがあった筈だ。それをしなかったのは何故だ? いや、或いは、もしかして――
「……最近になって奪取できるようになった、という可能性もあるな」
「いやむしろそっちの方が『っぽい』よねぇ――ヒヒッ」
リュグナーが推察し、武器商人もまたその結論に思い当たる。
いつでも出来たのではない。近頃になって出来る様になったのではないか?
では、一体何が始まりで?
何があったからレガリアを盗めるようになった?
――あの扉を抜けることが出来る手段とは――?
「……大奴隷市が何か関係しているのか?」
そしてベネディクトは思考する。
ここ最近で起こった幻想王国の出来事は『ソレ』しかない。
今はまだ『ソレ』がどう繋がるのか――情報が足りないが。
「皆さん、本日は陛下の護衛を……ありがとうございました。
そしてお願いがあります。どうかレガリアの一件は――」
「内密にって事ね。はいはい当然分かってるわよ」
「勿論ですシャルロッテ様、口外は控えます。フィルティス家の名に誓いまして……」
そして本殿から出ようとした矢先、シャルロッテから掛けられた言葉に、ゼファーは口元に指を当てて『内緒』の合図を。黒幕の目的はともかくとして、少なくとも王家の象徴のレガリアが盗まれた――などと言う事は口外されては困るのだろう。
アルテミアも知ってしまったが、誰ぞに迂闊に話したりする気など毛頭ない。
……尤も、既に噂として幻想の一部の貴族には伝わっていたりもする。
彼らが黙っていた所で焼け石に水かもしれないが、しかし。
「まぁなんとかなるんじゃないかなぁ――うん! 今までだって何とでもなったんだ、今回だって大丈夫さ大丈夫!」
ハッハッハ! と相も変わらず能天気な国王陛下殿。
ああ……全く。結界が無くて、精霊がいれば何か分かったかもしれないのだが。
「……ま、王様の言うように『今回もなんとかなれば』いいんでごぜーますがね」
一抹の不安をエマは抱きながらも――晴れやかなる青空を見上げながら、願うように呟いた。
●???
「――成程。たしかにあの扉を開く事が出来るのは栄えある勇者王の血筋の者だけの様だ」
本殿からイレギュラーズ達が出て行ったあと――
少し離れた所で双眼鏡を片手に様子を見ている影があった。
それは先程襲ってきた巨人ではない。一般的な人間であり……
「これで我々も確信して行動が出来る。やはり『奴』が手に入れた手段である……『アレ』は本物なのだろう」
「――では、長」
「ああ。イレギュラーズ達の消耗が激しきればこの場で『彼』を拉致する事も考えたが……流石にそうもいかない様だ。あんな巨人達では勇猛なる彼らを退けるなんてことが出来ようはずもないな」
双眼鏡を仕舞い、立ち上がる影。
もうこの場には用はない。『フォルデルマン三世により扉が開かれた』場面を目撃した、彼らには。
いつまでも残っていれば巨人達がこちらにも来るかもしれないから……と。
「我々レアンカルナシオンも行動を開始する。
上手く立ち回って我々の悲願を叶える為に動こうじゃないか――
そう。世界平和の為にね」
紡ぐ。
幻想の闇の中で、複数の思惑が闊歩する。
失われたレガリア、復活する古代獣、壊滅したギストールの街……
はたして如何なる未来が待ち構えている事か。
少なくとも今はまだ誰も――その未来を予測できている者はいなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
……レガリアの紛失が正式に確認されました。
シャルロッテさんは皆さんには口外しないように頼んでいますが、そもそも紛失の噂は既に一部の幻想貴族に伝わっているようなので、やがては段々と漏れ始めるかもしれません……
これから如何に事態が動いていくのでしょうか。それはまたいずれ。
ありがとうございました!
GMコメント
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
●依頼達成条件
フォルデルマン三世を護衛しつつ、スラン・ロウ最深部へ到達。
その後『レガリア』の所在を確認し無事に帰還する事。
●フィールド
古廟スラン・ロウ。
その位置は代々幻想王家の者しか知らないと言われている地です。
今回特別にフォルデルマン三世が信頼する友人たるイレギュラーズならばと共にスラン・ロウへ行こうという事になりました。シャルロッテさんが頭を抱えていますが、なんでだろう……
古廟スラン・ロウは元々何らかの社であったとされています。
内部に入ると周辺から不思議な神秘の空間である事を感じるでしょう――この地では精霊や使い魔の類の動きが非常に鈍くなります。結界か何かが張られているのかもしれません。その影響か動物の類もいないような……
周辺は自然が多く、木々に満ちています
社の中枢まで辿り着くと本殿の様な建物が存在しています。
レガリアが安置されている――筈です。本殿の扉は勇者王にまつわる人物ではないと開けられない、という伝承があります。ここまで辿り着きレガリアの有無を確認してください。
なお、事前に内部の情報は一切ありません。
フォルデルマン三世の知識も当てになりません――が。彼曰く。
・なんかそれなりに広いらしい
・侵入者用の罠っぽいものがあるらしいから気を付けた方がいいらしい
・とりあえず参道を通っていけば本殿まではいけるらしい
・結界があって魔物はいないらしいぞ!(自信満々)
……との事です。
●フォルデルマン(p3n000089)
幻想国王にして『放蕩王』と称される人物です。
善人ですが、世間知らずというかなんというか……な面があります。
彼(というか勇者王の血筋の人物)がいないと開かない扉があるそうで、フォルデルマン三世の力が必要です。シャルロッテ曰く、強引にぶち破る事も不可能ではないそうですが、あまり不必要にスラン・ロウを傷つけるのもよくないと。
●シャルロッテ・ド・レーヌ(p3n000072)
『花の騎士』と呼ばれる近衛隊隊長です。
近衛として相当な力量の持ち主。フォルデルマンの護衛に当たります。
●レガリア『角笛』
かつて勇者王が身に着けていた物品とされており、その縁から王権として象徴されるレガリアの一品に数えられます。なんらかの神秘を携えている品……だと思われますが?
何者かにより盗まれたか、何らかの理由により消失した疑いが掛かっています。
少なくとも『無い』目算は非常に高いのですが……とにかく見て確かめなければなりません。
●魔物×?
道中、社に向かう貴方達を襲ってきます。
全力で迎撃してください。
その姿は巨大な鬼――あるいは巨人の様に見えます。
どこから出てきたのか一切不明ですし、何がしかの言葉を口走っているように聞こえますが恐らく意味のある言語ではありません。フォルデルマン三世を見つけると、彼を最優先で攻撃してきます。
その感情には怒りか恨みか……とにかく負の感情だけが伺えます。
強靭な肉体と拳は地を穿つ程です。
またブロックには二名分必要となります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
●重要な備考
このシナリオは三本連動(排他)です。
『<ヴァーリの裁決>神翼庭園ウィツィロと勇者王のハンマー』
『<ヴァーリの裁決>ギストールの惨劇』
『<ヴァーリの裁決>巨神眠りし古廟スラン・ロウ』
以上の内、一つにしか参加は出来ません。
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