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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>神翼庭園ウィツィロと勇者王のハンマー

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●大いなるハンマーの物語
ハァ……ハァ……いいからァ……ざんげハンマーだ!!!」
 ローレットで、っていうかもしかしたら世界でいちばんざんげハンマーを頭にたたき込んでる男を知っているか。
 たたき込みすぎて最近関西人になったとかいつでもハンマーできるように空中庭園に勝手に小屋たてて入り浸ってるとか言われる奇人である。
 が、そんな彼だからこそお招きしたいという貴族もどうやらいるようで。
「これぞ真のハンマーなのだ!」
 慎重一メートル十センチという子供と見まがうほどの女性サニーサイド・ウィツィロ卿。
 オーバーオールに鎖鉄球を身体に巻くという貴族らしからぬ格好で、今まさに自動ハンマーたたき込み機を体感してるハロルド(p3p004465)の横で両手を挙げた。
「ハンマーランドへようこそなのだ!」

 説明しなければなるまい。
 ここ幻想王国の土地神翼庭園ウィツィロはその名の通りウィツィロ卿が治める土地であり、かつては空に浮かぶ伝説の島アーカーシュの一部だったとも言われる土地である。
 空から欠け落ちた大地。翼を失った祠。ハンマー伝説の聖地。
 などと呼ばれているが……。
「完全に遊園地だね」
「トリヤデ?」
 『ハンマードーナツ』なるまあるい餡ドーナツをぱくつきながらつぶやくジェック・アーロン(p3p004755)。
 ハンマー型のコーヒーカップやメリーゴーランドや観覧車が並ぶこのどうかしちゃってる遊園地の風景を、彼女はぼーっと眺めていた。
「伝説だけではお金にならないってことなのかな……」
「トリヤデ……」
 ハンマーキャップなる帽子を被って専用のポップコーンバケツからパンチのきいた味のぽっぷをもふもふするアンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)。
「観光って、大変なんだね」
「トリヤデェ」
 頭の上にトリヤデさんをのっけたミスト(p3p007442)。このたまたま一緒になったっぽい三人が、揃って白い建造物の前に立ち止まった。
 丸みを帯びた造形に、なんかトリヤデさんぽいなあとか思うミスト。アンナはアンナで知り合いのニワトリっぽいなあとか思ったりしていた。
 建物には看板がかかり、看板にはポップな文字でこう書かれている。
 『ハンマー博物館』

 館内を歩けば、音声ガイドが流れ始める。
『ハンマーに歴史あり』
『かつて勇者王は仲間達と共に大陸を旅し、その伝説は深緑鉄帝ラサとあちこちに残っていますが、ここ幻想王国も例外ではありません』
 丁度そこに立っていたのは、オーバーオールを着た巨漢。身体に鎖鉄球を巻き付け、ひげを蓄えたどこか優しそうな顔立ちの男……の石像だった。
『ポチトリ・ウィツィロ。大陸を旅するにあたって大いなる翼となった古代神翼獣ハイペリオンの世話係にして、勇者王のハンマーをもつ男――』
 隣には透明なケースにはいった大型鎖鉄球が置かれ、よく磨かれたであろうツヤを放っている。
『勇者王のハンマーは、その奇跡的な力で勇者王パーティーを度々助けたと言われています。今やその力は失われましたが、ウィツィロ家を象徴する大切な武具として今もこうして展示されているのです』
 もう少し進むと、今度は神々しい鳥の絵画が飾られていた。
『古代神翼獣ハイペリオンは勇者王の冒険が終わると共に、再びの封印へとつきました。
 神の翼を封じた卵は、今も神翼庭園ウィツィロの祠に治められ、それを守護し祈り続けることがウィツィロ家当主に代々定められた役目となったのです』
 まるで太陽のように白く、そして美しく広げられた翼。
「トリヤデェ……」
「綺麗な絵だね。これが古代神翼獣ハイペリオンなのかな」
「隣に建物が描かれてるけど、すごく大きな鳥だったんだね」
「背中に乗ったらたしかに大陸中を旅できそう」
 ジェックやアンナは、巨大な鳥の背にのって大空を旅する勇者王たちの姿を想像し、ほうぅっと息をついた。
「これが、勇者王の伝説……」
「素敵だね……」
 そしてもう少しだけ進むと、ベンチとステージが配置された広間へと出た。
 そこで彼女たちが目にした者とは!?

「ハァ……ハァ……いいからァ……ざんげハンマーだ!!!」
「このように自動ハンマー叩き機を使えばいつでもどこでも何度でもハンマーできるのだ! どうなのだ!? いまならもう一つつけた二個セットでさんまんじー! さんまんじーなのだ!」
 メリーゴーランドみてーに回転する機械に頭をごすごす殴られ続けて半笑いになってるハロルドと、それを指さして一生懸命宣伝するデコ娘がいた。
「「…………」」
 沈黙する三人&トリヤデ。
 ベンチにはたまたま休憩しにきたおじーちゃんとか何も聞かずに走り回ってる子供とか、野良犬とか、猫とか、小鳥とか、とにかく誰もステージに関心を示していなかった。
 あともっといえば、ここまで歩いてきたけど遊園地のアトラクションで遊んでる人を見たことないし、スタッフもなんか暇そうにぼーっとしてる人ばかりだった。
「ぐあーーーーーどーしてなのだーーーー! なんで売れないのだーーーーー! ハンマーこんなに格好いいのにーーーー!」
 あ゛ァッ! て言いながらステージに崩れ落ちるデコ娘。もといウィツィロ家当主サニーサイド・ウィツィロ。
 そして今度こそウグゥつってぶっ倒れる血塗れのハロルド。
 あらためてご紹介しましょう。
 ここはウィツィロ家が領地に作った一大(赤字)観光スポット、ハンマーランドである。

●神翼庭園ウィツィロとほころびの祠
 現代当主サニーサイド・ウィツィロは、ここ神翼庭園ウィツィロを治める貴族である。
 かつては勇者王のパーティーに加わり、古代神翼獣ハイペリオンの世話係として大陸を旅した伝説のハンマーマンの末裔であるという。
 そんな伝説を観光資源にしようと遊園地ハンマーランドを建設したがセンスがぶっとびすぎたせいで客が定着せず、復興目的で現代のハンマーマンことハロルドを呼んでイベントを開いた……のだが。
「お客全然こなかったのだ……」
 ベンチに寝そべって坊田の涙を流すサニーサイドちゃん。たぶん年齢的にはオトナの筈だが、慎重の小ささとおでこの開いた髪型とオーバーオールという組み合わせでなんか子供っぽく見える領主さまである。
「このままじゃまずいのだ。借金してまで遊園地つくったのに」
「なんでハンマーの遊園地なんか……」
 誰もが抱く疑問をぼそっと言ってくれるジェック。
 一斉に振り返るアンナとミスト。とトリヤデ。
 サニーサイドは凄い勢いで起き上がった。
「だってハンマーかっこいいのだ! ご先祖ポチトリ様はちょーかっこいいハンマーマンなのだ! あちしの憧れなのだ! みんなそう思うはずなのだーーーーー!」
 後半だだっこみたいに両腕をぶんぶんするので、ミストたちは『そっか、夢叶えたかったのかあ』と自分たちなりに納得するに至った。
 が、そんな中。
 突如として外から轟音が響いた。

 慌て逃げ惑うスタッフたち。
 博物館から外に出たアンナたちは、その光景に目を剥いた。
「あれは……」
 メリーゴーランドが破壊され、その根元にあたる場所から真っ黒い鳥めいた魔物が大量にあふれ出ていた。
 それまでだだっこしていたサニーサイドが真剣な表情となり、懐から小さな本を取り出す。
「あれはもしかして……古代神翼獣ハイペリオンと共に封印された悪しき古代獣なのだ!」
 これ! といってかざした挿絵には黒い鴉のようなものが描かれ、巨大な鴉とその周囲を飛び回る魔物の群れが町を襲うさまとして描かれていた。
「大体分かったぜ」
 頭の血を拭い、ニッと笑うハロルド」
「なんか知らねえが古代の獣が這い出てきたんだろ? で、俺らはそいつを打っ潰せばいい」
 え、ぶっつぶすの? と二度見するミストだが、ジェックはライフルを、アンナは水晶剣をそれぞれ既に構えていた。
 ガスマスクを手に取るジェック。
「ローレットは何でも屋。依頼するなら今だよ」
「幸い、一緒に来てる友達やローレットの仲間も集められるしね」
「わ、わかったのだ! いますぐ依頼するのだ!」
 サニーサイドは手をびっと掲げると、黒い魔物達を指さした。
「ローレット、あの古代獣たちを倒すのだ! おかねは…………出すのだ!」

GMコメント

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

■これまでのあらすじ
 幻想王国の南方、神翼庭園ウィツィロ……というかそこに建設された遊園地ハンマーランドに訪れていたローレット・イレギュラーズたち。
 偶然なのか突如として封印を破って現れた黒き古代獣たちを倒すべく、彼らに緊急依頼が下った。
 領主サニーサイドちゃんの夢であったハンマーランドを守るため。
 逃げ惑うスタッフとごくわずかな客たちを守るため。
 戦え、ローレット・イレギュラーズ!!

■神翼庭園ウィツィロ
 伝説の飛空島アーカーシュから欠け落ちたといわれる陸地。
 これまた伝説の勇者王のパーティーに加わっていたという古代神翼獣ハイペリオンとその世話係ポチトリ・ウィツィロ。彼らの伝説が眠る場所であり、古代神翼獣ハイペリオンもまた封印の眠りについた土地とされている。

■古代神翼獣ハイペリオン
 勇者王のパーティをのせ大陸じゅうを飛び回った。冒険における飛空艇的存在。
 不明。絵画からして神々しく巨大な鳥のはず。

■オーダー
 突如湧き出した黒き獣たちを倒します。
 まずは大量に湧き出た鴉型の怪物を倒してください。
 その間逃げ遅れたおじーちゃんや野良犬なんかを助けていくとなおグッドです。

 しばらく戦っていくと巨大な鴉型の古代獣が復活するので、みんなで力を合わせて倒しましょう。

■ハンマーチャンス
 今回だけの特別ルール『ハンマーチャンス』が適応されます。
 各PCはシナリオ中1回だけスキル構成をチェンジすることができます。
 整合性とかは気にせずなんとなーく『こういうビルドにチェンジするぜ!』とプレイングに書き込んで変身してください。
 その際サニーサイドちゃんが鎖鉄球でガッてしてくれます。勇者王のハンマーっつう消耗品らしいです。

 これを使って序盤は機動力を活かして人をかついで運んだり崩れた建物に侵入して人助けをしたり、終盤は巨大怪物をがちビルドでタコ殴りにしたりしましょう。
 なんやかんやあってシナリオ終了後にはもとのビルドに戻ってる扱いとします。

■エネミーデータ
・ノワールクロウ
 鴉に似た怪物たちです。
 空を飛び爆発する魔法の弾を放ちます。
 このせいで遊園地はあちこち爆発しまくっています。とても危険で、建物やなにかも沢山崩れています。

・巨大古代獣『ブラックメア』
 巨大な鴉めいた怪物です。
 飛行能力をもち、黒い風と黒い爆炎を操って破壊の限りを尽くします。
 はるか古代ではこの力で作物を荒らし尽くし飢餓をおこしたともいわれています。
 古代神翼獣ハイペリオンが眠りにつく際、その力を使って共にこれらの怪物を封印したとも言われています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●重要な備考
 このシナリオは三本連動(排他)です。
『<ヴァーリの裁決>神翼庭園ウィツィロと勇者王のハンマー』
『<ヴァーリの裁決>ギストールの惨劇』
『<ヴァーリの裁決>巨神眠りし古廟スラン・ロウ』
 以上の内、一つにしか参加は出来ません。

  • <ヴァーリの裁決>神翼庭園ウィツィロと勇者王のハンマー完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月18日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ミスト(p3p007442)
トリヤデさんと一緒
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
アセナ・グリ(p3p009351)
灰色狼
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
アムル・ウル・アラム(p3p009613)
夜を歩む

リプレイ

●ある日、糸が綻んで
 デートの下見、といえば嘘になるが。
 『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)はたまたま貰ったハンマーランドのチケットを消化すべく、ついでにVDMランドの参考になればなくらいの気持ちでこの神翼庭園ウィツィロへと訪れていた。
 他の地域ではあまり見ないような植生、鳥が多く飛ぶ空。どこか物悲しくも鮮やかな色合いの風景は、古代のわびさびを感じる空中庭園とはまた異なった趣を感じさせせる。
 この場所にやってきて、芝生にレジャーシートをしいてサンドイッチのひとつでも食べればなかなか素敵な休日になるだろう。
「けど……」
 振り返るとハンマー型の観覧車が回りまくってるのは、本当になんなんだろう感がすごかった。入場料とかそういうものをまるでとらない公園だからか、管理の辛さが見て取れる。住民もあまり多くないようで、税金もとれていないのだろう。領地経営の難しそうな土地のようだ。
 だからこそのテーマパーク建設と観光資源化なのだろうが……。
「ま、自分の領地に遊園地をつくった私も同じようなものかな」
 マリアは立ち上がり、お土産に最適とパンフレットに書いてあったハンマー饅頭とやらを買いに行こうと考えた、その時。
 ドウ、という地面を内側から爆ぜさせたような音と共に大地が揺れ、観覧車が黒い噴水によって押し倒されていく。
「あれは、一体……」
 だがここで立ち止まって震えている一般市民では、マリアはない。ズンと大地を踏みしめスパークを起こすと、磁力のレールをひいて空へと駆け上がっていく。
 そうして見えたのは、大地より吹き出た大量の怪物たちとそれによって破壊されていく遊園地の風景であった。

「今度旦那様と逢引しようとしてた場所の危機!? でしたら閉園前に今すぐでぇとへ……」
 いつでも繰り出せるようにと懐に忍ばせていたハンマーランドペアチケット。それを今こそ消費する時なのではと安牌な男性を捕まえて『デート→結婚→世界平和』のコンボを繋ぐ時なのではと駆け出そう……とした時、崩れたゴンドラのひとつが見知らぬカップルへと降り注ぐのを見た。
「――!」
 思考より早く、行動が完了していた。
 助走からの跳躍からのムーンサルトブライダルキックがゴンドラに炸裂。一発ではその重量を避けきれない――と思った矢先、全く同じ方向から同じように助走をつけて跳躍した女性がスクリューをかけた右拳のブローをゴンドラめがけてたたき込む。
 ねじれるような軌道を描いてハンマープールへと落ちていくゴンドラ。
 同時に着地したその相手は、オシャレでガーリーな格好をした物静かそうな女性であった。
 カフェテラスで夢見がちな小説でも読んでいそうな佇まいからあのパンチが? という意外性についつい観察してしまう澄恋。
 が、相手の女性……『灰色狼』アセナ・グリ(p3p009351)も全く同じ目で澄恋を見ていたこともここにご報告したい。
「おしとやかそうな女性だとおもってたけれど……すごいのね」
 あらあら、という顔で頬に手を当てるアセナ。
 嫁を通り越して母の貫禄であった。一応補足しておくと二人とも独身未婚。意外性コンビが誕生した。
 カップルたちがお礼を言いながら逃げていくその方向から、『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)が折りたたみ式の魔槍(マジックランス)を展開しつつ歩いてくる。
「あれー? そこにいるのはえっと……ローレットで会ったことあったよね。俺俺、夏子」
 知ってる? と言って親指で自分の顔をしめすと、背後からかっ攫おうと爪むき出しで低空飛行をかけてくる巨大鴉を後ろ回し蹴りならぬ回し槍の殴打によってたたきおとした。
 インパクトの際におきるバチンッというスパークが、ある意味彼の特徴である。
「なんか大変なことになってきちゃったね。依頼書受け取ってきたんだけど、よかったら一緒に受ける?」
 そして余裕そうに、夏子はポケットからウィツィロ家のスタンプが押された便せんを出してきた。
「あ、安心して。依頼を受けたのは僕だけじゃないから。ほらあそこにも」
 天空を指さすと、巨大鴉とシザーズ軌道を描きながら幾度となくぶつかり合う飛行種の影。
 三度目の交差の後手刀によって相手の翼をたたき折ると、頭部を掴んで急降下。騒動によってひっくり返っていたハンマーメリーゴーランドの中央へと強引にたたき落とし、自分は地面すれすれで翼を開いて滑空。
 翼で制動をかけ、アムル・ウル・アラム(p3p009613)は彼らの前へと着地した。翼を畳み、振り返る。
「状況が飲み込めないんだけど……まずは、何をしたらいいの?」

 ハンマー博物館はどうもずいぶん昔からあった建物を利用したもののようで、そこらの建物よりずっと頑丈にできているらしい。あの丸っこい形状は伊達ではないということだ。
「ハンマーっていうくらいだからクラスヒントでも見つかるかもとおもって来たけど……まさかよりによってこんな大騒動に見舞われるとはね」
 ハンマー叩きすぎイレギュラーズ女性部門ナンバーワンとの呼び声高い『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)。
 ここを守ったらハンマー神の加護でも得られるかしら、とか考えてみた。ローレット内でのクラス前提スキル発見数は1500ほどに登るが、そのうち300ほどをアンナが占めていた。その考えかたももっともである。
 アンナとハロルドがクラス発掘のほぼ半数を占めているので、この二人によってローレット・イレギュラーズがクラス選択の自由を広げているといっても過言ではない。天義の祖父も(表にはださないまでも)さぞ嬉しかろう。
 という話はさておいて……。
「んあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!? あちしのハンマーランドがーーーーーーー!」
 膝から崩れ落ちるサニーサイド・ウィツィロ。
 じぶの領地がこんなんなったら誰だって膝から崩れ落ちる。
 だがそこへ――。
「狼狽えるなサニーサイド! ハンマーランドは滅びん! 何度でも甦らせるさ! 丁度リニューアル案も上がってたから帰ったら企画会議な!」
 『聖断刃』ハロルド(p3p004465)が腕組み姿勢で登場した。
「ハンマーマン!」
「聞いて驚け。既に王へ領地申請は通しておいた。お前の借金も肩代わりする契約だ」
「ハンマーマン!?」
「更に驚け。新マスコットとして初代ウィツィロことポジトリ氏をイメージしたポジトリ君をデザインさせた。関連商品も続々発売予定だ」
「ハンマーマン!?!?!?」
「だからこの依頼が仮に失敗してハンマーランドが壊滅したら……きっと俺の領地も無くなるし肩代わりするはずの負債額は爆発する。頑張ろうな!!」
「ハンマーマーーーーーーン!!!!」
 これは実話である。ハンマーランドあるんだって知ったハロルドはその日のうちに鉄帝ヴィーザル地方から領民と資源を引き連れてここウィツィロへの領地移住を決めたのだった。というか領地問題で未だに戦争してる両国間でこんなん許されるのローレットくらいなもんである。そして実行するのはハロルドくらいなもんである。たぶん。
 もっといえば、他人の領地のおはなしが自分の領地の話にいきなり切り替わった瞬間であった。
「っつーわけだテメェらハンマーランドに手ェ出しやがって許さん皆殺しだゴルァ!」
 いつものハロルドに戻ったところで、突然の招集に応じてやってきた『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)はゴルフバッグみたいな鞄からバスター砲を取り出し、肩へとかついだ。
「いいんじゃないでしょうか、ハンマーランド。復興したらハンマーの種類も増やしましょう。ドリルを付けたり、ブースターを付けたり、爆薬的な物を仕込んだり、兎に角大きくしたり……全部のせもいいですね」
「いいな! 夢が広がるな!」
「大人の夢を守るため戦いましょう……なんて言うと、イイですね」
 ステラは口の端っこで笑うと、バスター砲を空に向けてぶっ放した。

 いくら現在のハンマーランドが不人気だからといっても人は居る。スタッフもいるし暇なおじーちゃんもいる。
「外に居るひとたちは博物館に避難させて。バリケードはって、保護結界かけて、武器集めて立てこもること。動物とかは直接抱えてはこぼう」
「トリヤデ!」
 『黒いガスマスク彗星』ジェック・アーロン(p3p004755)はガスマスクを装着する寸前のところでそうスタッフたちに呼びかけると、あらためてガスマスクを装着した。
 これがジェックにとっての戦闘のルーティーン。かつての空気が汚れきった世界でのピリついた感覚が全身を駆け巡り、武器が延長身体化する感覚が宿る。今なら銃底をどこかに擦っただけでイテッと声をあげるかもしれない。
「トリヤデ?」
 頭の上に乗っていたトリヤデさんが見下ろしてくる。
 『トリヤデ一番槍』ミスト(p3p007442)はしばらくこの派手な状況にぽかーんとしていたが、首をぶんぶん振って気を取り直した。
「えっとあのたしかはいぺりおん様? が眠ってる大事な場所を壊したりするのは、よくないよね」
「トリヤデ!」
 両肩にのったトリヤデさんがグッて力こぶを作った。
 握りこぶしに炎を宿し、翼を広げるミスト。
「わるい鳥めー、まとめて焼き鳥にしちゃうからね!」
「「トリヤデ!?」」
 助走をつけて大空へとテイクオフするミスト。両肩でヒュッて細くなるトリヤデさん。
 天空で輪を描いて飛ぶ巨大鴉の群れノワールクロウたちがこちらを見下ろし、魔術爆弾を次々に投下。
 爆発する舗装道路を抜け、ミストは拳を振りかざした。

●ノワールクロウの災厄
 空を真っ黒な影が覆っている。
 その殆どは空を突き抜け、東西南北あちこちへと散っていった。
 まるでそうすることが彼ら生前よりの使命であるかのように。もしくはそうなるように作られた災害であるかのように。
 一部の個体群はウィツィロに残り、空から黒い魔術球体を次々に投下しては爆発させている。
「生かしてかえさん!」
 ハロルドはオラ死ねェといって落下してきた魔術爆弾を聖剣でもって打ち返すと、上空にあったノワールクロウ固体へと直撃、爆破。
「あ、あちしは何するのだ!? 一緒に戦うのだ!?」
 頭上で鉄球ぶんぶん振り回してみせるサニーサイド・ウィツィロ。ハロルドはニッと笑って振り返ると、頭から流れる血(自主的に出したやつ)を拭って見せた。
「俺は平気だ。それより、博物館でこの土地に関する文献をあされ。封印された連中のことが分かるかもしれん」
 そう言いながら、爆発して墜落したノワールクロウを観察してみる。
 力尽きると同時にパッとシャボン玉のように消え、一枚の白い羽根だけを残した。
 元々真っ黒な鴉であったこともあり、不思議に思ってとりあげてみる。
「この羽根、僅かだが力があるな……。それも聖なる……」
 ハロルドの中でなにか、ズキリとした胸の痛みがあった。
 と同時にぽわっと灯る温かさも。
「ジェック、全員に伝わるように連絡を回してくれ。敵から回収できるこの羽根、ひとり一個は持っておけ。すぐに役立つかもしれん」
「ん……」
 ジェックは博物館の屋根の上からライフルで狙いをつけ、上空のノワールクロウを次々に撃墜していた。
「分かった。行ってクルね。ここヨロシク」
 ジェックはサニーサイドがもしものためにと置いていったモーニングハンマーを天にかざすと、黒いボディスーツ姿へとチェンジ。グッとかがみ込むような姿勢をとった次の瞬間には、すさまじい速さでその場から飛びだしていった。
(大丈夫、アタシなら……ヤレる!)
 スナイパーとして名高いジェックだが、時として別の顔を持つことがある。それが『黒いガスマスクの彗星』と呼ばれた日のことであった。いや、呼び方すごいかっこいいけど、普通にやべー連中にニャーニャーいいながら追っかけ回される地獄だったのだが。
 おかげで、速く走るすべを心得た。
 崩れて落ちるお土産屋の看板。その下で、ソフトクリームを落として無く少女。
 ジェックはすさまじい距離を一瞬で駆け抜けると、少女を小脇に抱えて看板の下を滑りぬけた。
 背後で落下し、砕ける看板。抱えられた少女がきょとんとしてジェックを見上げた。
 ガスマスクのレンズ越しに見下ろし、長くしろい睫をたらす。
「スタッフの人にツイていっテ。安全な場所がアルから」
 少女はお礼を言うと、駆け寄ってきたスタッフと共に博物館のほうへと走って行った。
 頷き、そしてまたジェックは走り出す。
 いつかと違って、いまは誰かを救うために。

 ポップコーンワゴンが爆発し、散ったコーンが弾けていくその中を、強く踏みしめて走るミストの姿があった。
 逃げ惑う人々の列をかき分け、前へ、更に前へ。
 群衆を抜けたその先に、地面へと着地したノワールクロウの姿があった。怪我をした男性が横たわり、それを大きな鉤爪でもって押さえつけている最中だ。
「トリヤデ!」
 肩の上で鋭く叫ぶトリヤデさんに小さく頷き、ミストはトップスピードに入った。
 ノワールクロウの腕が男性の身体を握りつぶすより早く。地面すれすれの位置を超高速で駆け抜ける。広げた翼のはばたきによって加速したミストの剣には炎が宿り、ノワールクロウの脚を無理矢理に切断していく。
「――ッ」
 バランスを崩しかけたノワールクロウだが、反射的にはばたき空中へと離脱。もう一本の足で男性の脚をつかんでいた。持ち去るつもりなのだろう。
「トリヤデッ!」
 振り向くトリヤデさんに一瞬遅れ、ミストは目を大きく見開いたままターン。瞳の輝きがふたつの軌跡を描き、はばたきと大地をける二つの動きでノワールクロウより更に上をとって舞い上がった。
「ふぇにっくす――」
「トリヤデ!?」
 咄嗟につかみそうになったトリヤデさん――をぺいっと地面に放り投げ、両手でしっかり握った剣でノワールクロウを袈裟斬りにしていく。
 そうして放り出された男性は地面におっきく寝そべったデカいトリヤデさんにぽふっとうけとめられた。
「ここは僕とトリヤデさんに任せて! みんなは博物館へ!」
「ヤデェ!」
 そういって剣を構えるミストを、更に上空より飛来したノワールクロウの一団が取り囲んだ。
 円を描くように集団飛行しつつ徐々に降下をはじめるノワールクロウ。
 さすがにこの数は……とこめかみに汗をながすミストと、ファイティングポーズをとるトリヤデさん。
 と、そこへ。
「――蒼雷式・天槌裁華!」
 突如として小規模な暗雲が空を覆い、蒼い稲妻が走る。
 否。
 蒼い稲妻を纏ったマリアが、雲を突き抜けて超高速で急降下し、ノワールクロウの一団をも貫いて地面へと着地。
 片膝と拳を地に打ち付けた姿勢で、ゆっくりと頭をあげた。
 と同時に、先ほど貫いたノワールクロウが大爆発を起こし周囲のノワールクロウの一団を巻き込んで吹き飛んでいく。
 次々と墜落するノワールクロウたちの中に、マリアは舞い落ちる一枚の羽根をみつけた。
 鳥の羽とよぶには大きい、しかしノワールクロウたちからおちたというには白すぎる。そしてなにより、愛しいひとに手を重ねた時のようにぽっと胸の温かくなる羽根だった。
 ぱしりとキャッチするマリア。
「これって……」
「君もウィツィロさんに雇われたイレギュラーズ? 一緒に頑張ろうね!」
 わっふーといって目の前に着地したミストも、同じように羽根をキャッチした。
 するとどうだろう。胸にトリヤデさんをぎゅっと抱いて眠るときのような、不思議な安堵が心のなかに広がっていく。
「トリヤデェ……?」
 それはトリヤデさんも同じなようで、身体をくねんと傾けるように首をかしげていた。

●僕らはきっと正義の味方なんかじゃない。正義が僕らを味方したんだ。
 公園エリアに巻き起こる爆発の連続。
 夏子はその中をまっすぐに駆け抜け、木の柵を宙返りによって跳び越える。
 そしてふれあい広場で震えていた少女とその母親を両脇に抱えると、大地を踏みしめた強烈な蹴りによって加速。
 ノワールクロウによる集中爆発を背に大逃げをきった。
 そんな夏子をマークしたノワールクロウ三体が低空飛行状態となり彼の後ろへとつけた。
 走りながらちらりと後ろへ意識を向ける夏子。
「すこしじっとしててね。コレ終わったらデートしよっか」
 親子は顔を見合わせてから夏子の顔を見て、夏子はその両方に眉をあげて『両方に言ってるんだけど?』と冗談めかした顔をした。
 そして二人を芝生へ放るとブレーキアンドターン。
 背に固定していた槍を掴み、自らの前で高速回転させた。
 追跡してきていたノワールクロウの魔術弾が機関銃のように浴びせられるまさにその瞬間だったのである。
 夏子は鉄壁のガードで魔術弾を撃ちはじき、がしりと持ち手をかえて前身。
 衝突をさけて上昇しようとしていたノワールクロウたちをまとめた回転斬りでたたき落とすと、激しいスパークと共に消滅させた。
「ったく、なんだって急に割り込んできたワケ? 勇者王ゆかりの土地に湧く系のヤツ? にわか知識で聖地巡礼奴~?」
 挑発気味に笑い、上空で旋回しこちらの様子をうかがっていたノワールクロウの一団を見上げる。
 そこへステラとアンナが『お待たせしました!』といって駆けつけ、三人で全く隙の無いフォームを組んだ。
 と、そのあたりで。
「多少は歯ごたえがあるようだな。勇者の子らよ」
 巨大な鴉型怪物ノワールクロウのうち一羽が翼をひろげホバリングしながら、ゆっくりと地面へおりたちそう言った。
「「…………」」
 槍を牽制の構えでとった夏子と、水晶剣を突きつけるように構えたアンナと、バスター砲水平発射姿勢をとっていたステラ……の三人が同時に顔を見合わせ、そしてもっかいノワールクロウを見た。
「「しゃべったーーーーーーーーーーー!!」」
「なんだ、この時代の勇者の子らは鴉が喋ると驚くのか」
「いや、べつに、喋るモンスターとか珍しくはないけど、喋らない系モンスターだと思ってキメキメアクションしてたから俺……」
 まさか返答されるとか思わないじゃん、って両手で顔を覆う夏子だった。
「会話が弾みそうなところ悪いんだけど、私からも質問いいかしら」
 アンナは警戒を解かぬまま、むしろより鋭く相手を観察しながら話を続けた。
 言葉が通じる相手だからといって気を緩めることはない。むしろ、言葉が通じるからこそ争いが生まれることの方が多いのだ。野生動物は無駄な争いをしない。
 理由があって争うなら、その理由……特に『相手側からの主観』を知る必要があるのだ。そうれなければ、戦争は終わらせられない。
「まず『勇者の子ら』ってどういう意味よ。私、勇者王から生まれた覚えないんだけど」
「しれたことを。貴様ら、勇者と同族であろうが」
「ん、んー……ふうん?」
 アンナは一瞬飲み込みづらかったが、一泊置いてから納得がいった。
 どうやらこのノワールクロウの種族(?)は人類をみんな一緒くたにしているらしい。
 鉄帝を全然知らないけどコンバルグ・コングだけは知ってるみたいな人が『鉄帝? あのゴリラの仲間でしょ』と言い出した時の状態に似ていたからである。
 複雑な背景や、まして大召喚の絡みなどまるで意に介していないといった様子だ。
「勇者の子らよ、今度は我々が問う番だ。この大地は我ら古き眷属(オールドウェイブ)のもの。勝手に稲を植え勝手に住処を建てることを許した覚えはない。誰の許しを得た」
「誰の許しも得てないわよ。もっと言えば、ここはレガド・イルシオン。王国の領土だわ」
「勇者の子らよ。殺しても殺しても繁殖し群がるその姿。虫唾が走る! 今こ――」
 言い終わる前に、ノワールクロウの頭部をステラのバスター砲がぶち抜いていった。
「知ってます。このタイプ、言語は通じるけどハナシは通じないタイプですね。こっちをベンジョコウロギくらいに思ってるくちですよ。全部死ぬまで殺虫剤シューってし続けます」
 ステラは二丁のバスター砲を前後にピガーンと連結。
 空に向けて激しいビーム砲をぶっ放し右から左へなぎ払っていく。
 小爆発が無数におき、ノワールクロウたちが次々に撃墜されたのが見える。
「昔のこととか聞きたかったのに」
「フン。無駄だ。我らは『源なる一(ザ・ワン)』よりいましがた分裂した固体に過ぎぬ。記憶など不要。ただ貴様らを巣ごと駆除しきるのみ!」
 新たなノワールクロウが上空から連続爆撃を仕掛けてくるが、ステラはアンナにカバーのハンドサインを出してから反撃を開始。
 それにこたえたアンナは飛来する魔術爆弾を跳躍し身体をひねった対空斬りによって破壊。
 爆風に髪をなびかせつつ、ステラのビームが再びノワールクロウを横薙ぎにしていく。

●勇者の条件
 暴風にあおられ、乱れる髪。
 アセナは片目を瞑り、数パーセント程度解放した天魔の力でがしりとノワールクロウの首を掴んだ。
 振り落とそうと暴れる軌道をとるも、強引に脳天に拳をたたき込む。
 ガクンと傾き飛行能力を失ったノワールクロウの翼と頭をそれぞれつかみ、脚をひっかけて反転。
 きりもみ回転しながら、ノワールクロウは頭からライブステージの中央へと墜落した。
 頭に脚をのせる形で着地するアセナ。
 ステージを降りようとしたその時。彼女の後ろに二体のノワールクロウが着地した。
「待たれよ、勇者の子ら」
「その力、見過ごすわけには行かぬ」
 キッと振り返るアセナに対し、ノワールクロウたちはばきばきと肉体を変形。骨格からして全くの別形態へと変容していく。
 それは、おびえた野良犬にガラガラを振って『はぁい ままですよ。大丈夫~』とあやしていた澄恋の注意も引く形となった。
 その他の人々と一緒に逃げていく犬をよそに、たちあがる澄恋。
「助けが必要な場面、ですか?」
「いらない……と言いたいところだけど、ちょっと、どうかしら」
 ステージへと上がってきた澄恋。彼女と並ぶアセナ。
 そんな二人を見下ろす、全長二メートル強の人型怪物。筋骨隆々の飛行種にも似たその体系に、二人は本能的に身構えた。
 それが、よかったのかもしれない。
 とてつもない初速でもって人型クロウ甲方の蹴りがアセナの側頭部に、人型クロウ乙方の拳が澄恋の顔面にそれぞれたたき込まれたが故である。
 アセナはあえて防御することなく体幹の強さで蹴りを受け止め、がしりと脚を掴む。
「――!?」
 投げられることを予期した甲方が残る軸足で地を蹴りスピン。ねじることで拘束を逃れる。
 一方の澄恋は首を僅かに動かすことで相手の懐へと潜り込み、打ち上げタイプのコンパクトな掌底を顎めがけて繰り出す。
「壁ドン対策がこんな所で役立つ、とは!」
 ボウッと風きりの轟音をたてる掌底を、乙方はのけぞりによって回避。
 宙に浮かんだ甲方の高速連続キックを、アセナは拳のラッシュによって迎撃。
 また一方で澄恋の襟首と腕を掴んだ乙方は彼女を投げ落と――そうとした所で空中で身を強引にひねって乙方の首に両足を挟み、ロールをかけることで頭からたたき落とす。
 と同時に、甲方の脚を今度こそ両手でしっかりと掴んだアセナがまるで畑に鍬をうつかのような豪快なスイングによってステージの地面へ甲型の頭を叩きつける。
 血を流し、崩れ落ち、そしてシャボン玉のように消えるノワールクロウたち。
「変形までするとは……」
「ただの鴉モンスターだと侮ったら、マズそうですね? ――っと」
 ハッと空を見上げる。
 魔術爆弾を大量に集めたノワールクロウたちが、一斉にステージへと爆弾を投下。
 その瞬間に、鋭い低空飛行状態をとったアムルが二人を抱えてステージ上を飛び抜けていく。
 自力で逃げられる所へと放ると、アムルは今度は身体を反転。空へ腹をむけた姿勢をとりつつ滑空すると、腰のホルスターから抜いたサブマシンガン二丁を空めがけて撃ちまくった。
 着弾したノワールクロウが墜落していく中、自らは大きく上昇。きりもみ回転からの再反転によって再び飛行姿勢にもどると、自らを追って後方へ飛んでくるノワールクロウたちを振り返った。
 空中に生まれる魔法の弾。そのすべてが発射されるも、アムルは素早く身を丸くして回転。翼も畳んだコンパクトな姿勢で銃撃をすべてかわしつつ真下をとると、再び反転全力射撃によってノワールクロウたちをまとめて撃墜した。
「これであらかた、片付いたかな」
 吹き上がり各地へ飛んでいった怪物たちはともかく、この場にのこった怪物たちを駆除することができた。
 これで一件落着かと考えた、その時。
 突如。
 もしくは再び。
 大地を割って、怪物が現れた。

●ブラックメア
 ハンマーコースターが設置されていたエリアを崩壊させ、レールをひしゃげさせながら大地へと立ち上がる巨大な怪物があった。
 はじめは全長3mほどの、それはそれで巨大といっても差し支えないサイズであったが、地面から湧き出る白い羽根のようなオーラを口から吸い込み喰らい尽くすことでみるみるうちに巨大化し、ついにはジェットコースターのてっぺんを越えるほどの巨大さへと成長してしまった。
「おいおいおい……」
 これは聞いてねえぞといった顔で怪物を見上げるハロルド。
 避難民を博物館へ収容したのちに合流したアンナと夏子も、この様子には驚きを隠せない様子だった。
「わかったのだー! あいつは古代に封印された獣、『ブラックメア』なのだー!」
 挿絵つきだったのだー! といって巻物をかかげて走ってくるサニーサイド。
 ジェック、ステラ、そしてアルムたちも集合し、迎撃態勢を取り始める。
「あの怪物、こっち見てないですか?」
「襲う気満々、ってところだね……」
 ブラックメアは巨大な鴉の姿をしているが、こちらを見下ろす目つきは台所でムシを見つけた人のそれに極めて近かった。
 純粋な嫌悪。そして純粋な殺意。理屈を越えて、本能で駆除しようとしているのが目つきだけで理解できた。
 澄恋、アセナ、マリアも集まり、いつでも迎撃できいるぞという目でサニーサイドを振り返る。
「とっておきのハンマーがあるのだ! あいつ用に対策したビルドでいますぐ挑むのだ!」
「うん、ありがとう! 頑張ろうねみんな!」
 ミストが両手でばんざいの姿勢をとって気合いを入れるその右横で、トリヤデさんがバンザイの姿勢をとった。
 一方左横で、バンザイの姿勢をとる巨大なひな鳥さんがいた。
「大地の子らよ。おはようございました。わたしの名はハイペリオン。太陽の翼」
「よっしゃ行くぞお前等ハンマーは持っ――何ィィ!!!!!!!!???????」
 今まさにブラックメアと戦おうとしたその瞬間。アニメだったら主題歌がかかろうかというタイミングで、全員が一斉につんのめった。

 説明せねばなるまい。
 白くふわふわとしたひな鳥があった。
 しかし全長は3mほどに大きく、顔は目ぇつぶって描いたのかなってくらいシンプルである。絵文字にできるくらいシンプルで、(╹V╹*)な顔をしていた。
 しかし、なぜだろう。
 その場にいた全員は、この巨大なひな鳥こそが古代幻想王国建国の際、役目を終えこのウィツィロの地に自ら封印された『神翼獣ハイペリオン』そのものだと、直感で理解ができた。
 あとから考えれば、先ほど手に入れていたハイペリオンの羽根と全く同じような安堵感をこのひな鳥から感じたからなのだが……。
「もう一度名乗ります、大地の子らよ。わたしの名はハイペリオン。太陽の翼」
 ぱたぱたと羽ばたき、ゆっくりと上昇するハイペリオン。
「わたしは古代よりこの地に眠り、当時は封印するしかなかった古代獣たちを目覚めさせぬよう楔となっていました。しかし永き眠りの中で力は散逸し、残り僅かな力すらも古代獣たちに吸収され、このようなシンプルで可愛らしい姿となってしまったのです」
「すごい自分のこと喋るじゃん神翼獣」
「ウッ、あたまが……」
 がくんと高度をさげ、頭をおさえるハイペリオン。シンプルな顔のせいでわかりづらいが、なんだか苦しんでいる様子だった。
「力と共に記憶も散逸してしまったようです。今思い出せるのは、古代獣との戦い方や封印方法くらいなもの」
「それ、それだよ今知りたいの」
 ジェックはブラックメアを指さした。
 そして一方。巻物を掲げたまま固まっていたサニーサイド・ウィツィロは。
「はいぺりおんさまなのだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「反応遅っ」
「あとは私に任せるのです。大地の子らよ。理由は分かりませんがこうして封印が解かれてしまったことには意味があるはず。私の使命はあの古代獣を再び封じることのはず!」
 ハイペリオンはなんかヒュッて細長くなると、弾丸みたいにゴォって勢いをつけながらブラックメアへと突っ込んでいった。
「受けなさい太陽の力。大地の子らを守りし我が使めペッキュウ!?」
 そして、ブラックメアに翼でばしってはたき落とされた。
「「ハイペリオーーーーーーーーーーーン!!」」

 地面にぺたーってつぶれた状態で倒れるハイペリオン。
「なんということでしょう……力の散逸がここまでとは……」
「いや、見た目からなんとなく察しては居たぞ」
 ハロルドがしごくまっとうな顔で頷くと、聖剣リーゼロットをビッと突きつけた。
「よくも俺の領地の新マスコットをいじめてくれたなァオラ!」
「なんて?」
「ブラックメアだかなんだかしらねえが、ぶちのめす!」
 その口上に反応してか、ブラックメアは口を開いて暗黒の炎を吐き出した。
「僕の後ろに!」
 夏子はハンマーを自らの頭にがつーんとやると、輝く槍を大回転させた。
 これまで以上の防御力。そしてより多くを守るテクニック。
「うおーいつもより固く硬く守れてる気がする! これがハンマーの力かよ……」
「私も行きます!」
 澄恋も頭をごーんってやると、くるくる周りながらエプロンドレス姿へとチェンジ。
 その瞬間、夏子を含む周りの仲間達が白くかすむ光の中に幻影をみた。
 朝目覚めるとかおるお味噌汁と焼き魚。トントンというまな板で何かを刻む音。
 ふと見ると振り返る、澄恋の優しい笑顔と――。
「能率特化ヒーラー花嫁、爆誕ッ!」
 スタイリッシュHANAYOMEポーズの澄恋の背後で大爆発がおき、なんでかしらないけど爆発に巻き込まれた全員の体力がしゃかしゃかぴーんって回復した。
「反撃の時間だよ!」
 電撃を纏ったマリアと黒い影の翼を広げたアンナが空中へと急上昇。
 ハンマーコースターのレールを滑るように駆け上がり、ブラックメアへと急接近する。
 空中に生まれた無数の魔術弾が一斉に降り注ぎ凶悪な弾幕となるがアンナにとってそれは『通すべき隙間』にすぎない。
 ごく僅かなスペースをくぐり抜け、剣と布による美しい舞によって魔術弾をかき消しながらラインを描いていく。
 そのラインを駆け抜け、マリア――そしてミストとアムルが翼を広げて急接近した。
 空中で宙返りをかけ、流星のごときキックを繰り出すマリア。
「トリヤデさんと一緒の僕はカラスなんかに負けられないもん! ハイペリオン様のためにも!」
 ミストもまた電撃を纏い、大量のトリヤデさんが直列に並びレールを作ると、その上をすさまじい速度で滑り抜け強烈なキックをたたき込んでいく。
「今――」
 その隙を逃さぬアムル。風をきり流星のようなキックを並べ、ブラックメアの頭部を仲間達と一緒に強引に貫いていく。
 頭部を破壊されてもまだ動けるのか、ブラックメアは翼をはばたかせて上昇。身体からぶつぶつとちぎれた黒い塊のようなものが次々とノワールクロウへ変化し、こちらへと攻撃を仕掛けてくる。
 が、しかし。
「この程度、イマさらアタシが外すとオモう?」
 建物の屋根に陣取っていたジェックは、その発生タイミングを逃さなかった。
 形をとった瞬間、ノワールクロウの頭部だけをピンポイントで打ち抜いていくジェックの銃弾。
「翼を狙っテ」
「了解!」
 ステラはその横に並び、前後逆に連結したバスター砲のビームスナイプでもってブラックメアの片翼を打ち抜いた。しかし新たな翼をはやして上空へと逃げ始めた。
 上空から大量の魔術爆弾をばらまき、遊園地を大地もろとも破壊するつもりのようだ。
 一方で砕けて散っていった黒い羽根が、ハイペリオンへと吸い込まれていく。
「ハイペリオンさま! オーラが戻っているのだ! 今なら行けるのだ!」
 サニーサイドがガッツポーズをとり、アセナとハロルドは頷きあってハイペリオンの背へと乗った。
 一時的に大きく神々しい白鳥の姿を取ったハイペリオンはその羽ばたきによってたちまち天空へ舞い上がると、ブラックメアとぴったり並んだ。
「その力は大地の子らを守護する力。返して戴きます――!」
 真正面から突っ込むハイペリオンのその背から、ハロルドとアセナが同時に飛び立った。
 ブラックメアが黒き炎を吐き出すが、アセナはその身を焼かれながらも再生し続け、その顔面に強烈な拳をたたき込んだ。
 そこへ光の翼を広げ飛びかかり、目を見開くハロルド。
「ハンマーランドは、俺が守る!」
 巨大化した剣の斬撃が、ブラックメアを真っ二つに切り裂いていった。

●神翼獣ハイペリオン
「ありがとう御座います、大地の子らよ。この土地を災いの獣たちによって蹂躙される運命は、どうやら回避されたようです」
 また3mくらいのひな鳥フォームに戻ったハイペリオンは、集まったイレギュラーズたちへ感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「永き眠りのなかで、私の力はあまりにも弱くなりすぎました。記憶の殆ども、力と共に散逸してしまったようです。
 それに……災いの獣たちはいま、勇者の子らの大地をむさぼり喰らうべく散っていってしまいました」
 これからどうしよう、なんてつぶやきそうな顔だった。
 だが、そんなハイペリオンに寄り添い、そっとそのふわふわした身体に触れるジェック。
「大丈夫。散った獣たちは、アタシたちが倒すよ。今もあちこちで皆が戦ってる筈」
「だな」
 ハロルドは腕組みをして頷いた。
「幻想には領地をもってるローレット・イレギュラーズも山ほどいる。そいつらが黙ってないだろう。もちろん俺もその一人だ」
「ハロルドがここの領主になったの今日からじゃない?」
 後ろからにゅって顔を出す夏子。
 そのまた後ろからにゅって顔を出す澄恋。
「領主でなくとも、手を貸しましょう。わたしたちはローレット。世界規模の何でも屋ですから」
「困ったことがあったらなんでも言ってね!」
「ヤデェ!」
 そのまた後ろからにゅにゅって顔をだすミストとトリヤデ。
 そしてそのまた後ろから遠慮がちに顔を出しつつ、ステラが小さくつぶやいた。
「ねえ……実は見たときからずっと気になってたんだけど……そのトリヤデさんとハイペリオン。顔、似すぎじゃない?」
「たしかに」
 今日一番の真顔になるミストであった。
 トントンと、腕組みした指で肘を叩くアムル。
「おそらくだけど……散逸した力の一部がその姿を形作ってるんじゃないかな。ハイペリオンの力はブラックメアや他の古代獣たちに吸収されているけど、それが全部ってわけでもなさそうだしね」
「あー……」
 マリアはなんとなーく脳内でトラコフスカヤちゃんとそのおやびんの関係性を想像した。
「何はともあれ、直近の事件は解決してよかったよね。ひどい怪我や、命を落としたひとはいなかったみたいだし」
 避難所の様子を見てきたらしいアセナが戻ってきて、そんな風に言った。
 こっくりと、深く頷くアンナ。
「国中に現れた怪物たちは、私達が必ず倒してあげる。任せて。
 けど、妙よね……。突然封印が解かれるなんて。古廟スラン・ロウでおきたレガリア盗難事件と関係あるのかしら」

 このとき、同じくして幻想各地は古廟スラン・ロウと神翼庭園ウィツィロから現れた大量のモンスターたちに襲われていた。
 各地に領地をもつローレット・イレギュラーズたちがその渦中に巻き込まれていく。
 そしてやがては、巨大な戦いの渦へと……。

成否

成功

MVP

ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者

状態異常

なし

あとがき

 ウィツィロにおけるハンマーランド崩壊事件を解決しました。

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