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【旅日記】白子の娘の秘宝

このスレッドは、冒険の記録をまとめたものである。
それ以上でも以下でもない。事実と脚色と、ほんの少しの旅情のある記録達――
さて、それじゃあおとぎ話の時間は終わりだ。
ここからは真実の冒険の時間だ。

ラサ商会の古物商が売っていた、当時の役人が使用していたスクロール、通商記録。
これには大規模な隊商が運ぶ物品の内訳と通商ルート、必要な支援が書かれている。
運良く、その白子の娘の伝説が噂される王様の治世の書が手に入ったってわけだ。
保存状態が悪かったからちょいと読むのに時間はかかった。

で、読めた部分を元に、現在のラサの地図と照らし合わせてみると、いくつかオアシスが消えているものがあるものの、概ね現在にも通用する通商ルートが見えてくる。
今のラサの首都ネフェルストの原型や深緑と幻想の交易路も見えてくるあたり考古学者には面白い資料だ。
ま、今回はそんな学術的なことが目的じゃないんだけど。

さて、この書物の内容なんだけど、隊商がそのルートを通る理由っていうのも簡潔であるが書かれている。
迂回路を通る時は盗賊団の噂有り、とかモンスター活発化、とか。
で、オアシス関連のトラブルは必ず予兆がある。
水質の汚濁やモンスターの発生、水量の減少とかそういうので迂回させていって、決定的に使用不可能になるとそのルートが消える、という具合だ。

だが、あるオアシスにはその法則が通用しない。
唐突として、枯れたため使用不能として迂回路を通らせている。
たしかにこのオアシスはこの当時からルートとして使用するには不便な位置にあったが、それでも異常だ。
とある日を境に一切の通行を許さない、それには作為を感じるわけだ。

さて、時は流れて現在。
数年ごとに発行されるラサの「大砂漠交易地図」を過去分含めてさかのぼってみた。
すると、ほぼ使われていない交易ルートで、現在は地図にも乗せられない場所だったが、間違いなくオアシスは現存していたんだ。
古い版で、位置情報も不正確かもしれないから別の地図と合わせて見る必要ああるけれども、これを元に僕らは例のオアシスに向かうことが可能だ。

さて、というわけで僕は砂漠用の装備を整えることにするよ。
空中庭園から首都ネフェルストまでいけるとは言え、そこからは辺境まで歩きだ。
防塵装備はしっかりと整えないとね。
さて、必要な資料をいくらか集めてきたわ
【キャラバンの日報】よ
アトが集めてきた資料によると、交易地図を使っていた一番大きいキャラバンの、記録係、一日の移動距離とか、雑感を書いてる日誌のようなものなのだけれど。これに興味深い一文があるわ。
「この砂漠は不思議と荒れることはない、使われないルートなのがもったいないほどで、砂も踏みやすい。まるで誰かが踏み鳴らしているかのようだ。
それだけではない、時折妙なる音楽さえも、遠く栄えた過去の国から聞こえるように思える。」
センチメンタルに浸ってたのかしらね。でもこれから読み取れる情報は多いわ。日報による移動距離、位置を見て、例のオアシスとは一番近づいたタイミングではなく、そこからズレたところでこんな現象が起きた。で、これをオアシスのある方向とおおよその線を結べば……この方角、これがおそらく「通用口」のある位置よ
【アト・サインの日誌】
―――レガド・イルシオン王都メフ・メフィートにて記す。

4月末、僕は慌ただしく旅程の準備を進めていた。
なぜなら出発のタイムリミットが迫っていたからだ。

原因はラサの気温だ。
砂漠地帯における交易が最も盛んになる時期は晩秋から初春にかけて。
高温の砂漠は移動に適さない。
5月は隊商もまばらになり、6月より先は死の季節となる。
つまりシーズン的には既に逃している。
幸いにも僕たちイレギュラーズには空中庭園からのラサ首都ネフェルストへの特急便があるが、時間はかけてられなかった。

焦る心を抑えつつ、司書の手に入れた日報をから得られる情報を丁重に読み解く。
踏み鳴らされたかのような大地。
おそらく魔法で隠匿した社を見つけるための僅かばかりの手がかりか?
司書の言う通り通用口の可能性が高い。

そして音楽。
当時の交易品には当然ながら練達のもたらす蓄音機が含まれているわけではない。
となればオルゴールやミュージックボックスの類、魔法で動く音楽人形。
仮定正しければ、それはかつてゼシュテルに存在していたという機械生命体から生まれた技術。
考古学的価値、美術品としての価値は、とても高いものとなるだろう。
だがこれらの魔法の品も魔法の仕掛けも当時としては高級品だろう。
改めて、何故かつての古代の王が忌むべき娘にそこまでのことを?

資料を読み解いていったが、ついぞ白子の娘の名前を見つけることは出来なかった。
忌々しき白子の娘に関する痕跡すら、可能な限り残したくないという意思を感じた。
目的の神殿も、ただ"涜聖の社"と呼ばれていたことがわかっている。
後世の人間が触れたくないという思いを込めてそう呼んだのだろう。

だが、いつまでも白子の少女と呼ぶのは忍びない。
僕は白子の少女のことをいつぞやから"白ウサギちゃん"と呼んでいた。
僕たちを不思議の冒険へと導いてくれるという以外に他意はない呼び方だ。
モビー・ディックでもデンジャラス・ビーンズでもよかったといえばよかったのだが、女の子なのだ、出来る限りかわいいほうがよかった。
よって、隊商ルートから外れた例のオアシスの名前も"白兎の湖"と名付けた。
聖書にもあるだろう、「人がすべて生き物に与える名は、その名となる」、と。

旅程はネフェルストで準備を整えた後に、白兎の湖の最寄りの村まで向かうキャラバンに加わる。
そしてその村からは二人で出発する。
これで司書に提案することにしよう。
【準備報告書】
・同行するキャラバンのバックボーン
 問題なし。多少がめつい噂はついているが、信用問題で契約は守る。一番信用できるタイプ。
・中継地点にする村
 こちらも問題なし。キャラバンの中継地点にされていることから、こちらも多少商売根性がいい場合があるだろうという程度。情報提供者は冒険者用宿「魔法の手鏡亭」だがこちらも問題なし。
・装備の状況
 食料を切り詰めれば最大で半月程度の滞在は可能。しかし実際は7日もたないでしょう。時期が悪い。
 「通用口」までの道が比較的質が良いこと、ラクダの手配も信用できることを前提にして、多少の無理をしても戻ってくることはできるでしょうけれど。一回目のアタックでどこまでできることか。
・音楽
 推測だけれど。例の白子、白兎。あの子の唯一許された娯楽が、歌という可能性もあるわね。
【アト・サインの日誌】

   ―――5月初旬
   レガド・イルシオン王都メフ・メフィート

本日明け方、僕たち二人は出発することとなった。
現在、僕はローレット行きの乗合馬車内でこの日誌を書いている。

準備期間はあっという間に過ぎた。
メフ・メフィート内で購入したほうが安い保存食や旅支度を揃えることに奔走した。
現地でしか手に入らないものは現地で手に入れたほうがいいが、バザールがあるとは言え、ネフェルスは幾重の農民の耕作地に囲まれ、大量の職人を抱えるメフ・メフィートよりも物価は高い。
荷物を持ち運ぶ手間を考えるのならば荷物を軽くすることに苦心しなければならなかったが、僕たちイレギュラーズには空中庭園の転送ポータルがある。
ローレットからネフェルストには一瞬で飛ぶことが出来るだろう。
これがイレギュラーズにとって最もありがたいことであった。

司書の調査により、安全が確保できてからは話は早かった。
ローレットでの事前交渉により、明日には目的地の白兎の湖まで出発できる。

明け方の出発は乗合馬車の混雑を避けてのことだった。
始発の乗合馬車、しかもローレット行きは人がまばらだった。
快適に荷物をおいて休むことが出来る。

見上げれば空は薄っすらと明るくなっていた。
とはいえ字を書くにはまだ暗すぎる。
そういうわけで自分は乗合馬車の灯りの下に陣取ってこの日誌を書いていた。

灯りの届かない場所に司書は座っている。
様子は暗くてはっきりとしない。
休んでいるのか、それとも早めの朝食をかじっているのか。

ふと、司書の話を思い出す。
白兎の与えられた唯一の娯楽が音楽だったのかもしれない、と。

音楽は今でこそ安価な趣味になった。
少しばかりの金を払って国一番のコンサートホールに行けば腕利きの音楽家たちの公演を楽しむことが出来る。
勿論、席によって払うゴールドは大きく差はあるが、一番悪い席ならば子供が小遣いをためて買うことが出来る程度だ。

しかし、当時はどうだろうか。
音楽を楽しむにしても国から遠く離れた砂漠の社。
そこに運ばれる音楽人形。
最近は練達の蓄音機とよばれる音を出す機械も出回っているが、当時は魔法で動く単調な演奏を行う人形で精一杯だろう。

しかし、それだけが彼女に許された唯一の娯楽。
唯一、許されたものだとしたら。

王の心境を考えるが、想像が及ばない。
何故彼は、音楽だけを許可したのだろうか。

馬車は揺れる、蹄と車輪の音は我々を只々運ぶ。
【知識の砦の日誌5の月、月齢24】

アタック開始一日目、季節を外れ始めた砂漠は、装備を整えていても炎天下の中の移動は厳しい。
よって午前中に移動、正午前から日が傾くまでは簡易テントで日光を避け、水分、体力の消耗を抑えると同時に、アトと現状の意見交換をする。夜間の冷え込みは厳しいが、まだマシだ。
キャラバンの日報にあった、踏み鳴らされたような道、というのを発見することはまだできていない。方角、位置自体は合っているが、細いのかもしれない。
現在の座標はおよそ■■■、■■■。
移動距離は初日は■■キロメートル。
これから夜間の移動を開始する。星の位置ははっきり見える。これなら移動は捗るだろう。

魔力を髪に充填し、ランプの油を節約する。充填するだけなら消耗はないので、安心してとアトに言うと、横が眩しいから微妙に歩きにくいと言い始めた。我慢させる。

更に歩く、目標の地点に近づいたがまだ通用口、踏み鳴らされたような道も見当たらない。座標を間違えたか。
であればまずい、初日のアタックから、星も出ているのに位置を見失うようなヘマは、少なくともアトはしないはずだというのに。まさか、何らかの罠か。ありえる。
私の充填した魔力が、緊張感とともに髪に静電気のようにピリピリとした感覚を伝える。


待って、静電気。砂漠では起きやすいとはいえ、私の髪は魔力で変質している。
ならば、これは静電気ではないのではないのか。魔力に反応するのは、別の魔力では。
であれば、私の髪が何かの魔力に反応しているのでは。
夜が明け始める。
少し早いが、キャンプの準備をする。何故なら――この周囲に、魔力の路ができて、私の髪に反応しているのなら。
それは「通用口」から来ていると考えるのが自然だ、何より。
そうだ、貢物を運ぶにしても、隠された道をどうやって見つけるのだ、決まった航路だけでは、いずれ目につくだろう。それを避けるのであれば。あの時代で一番使いやすいのは。

急いで地面を掘る。アトにも手伝わせる。時間がない、剣を突き立てて少しでも深い地位を探る。

あった。魔力の流れる路だ。素材はわからないが、石でできた綿のような何かには、確かに魔力が通じる様になっている。

この魔力を使って、彼らはオアシスへの道を、その時時によって変えていたのだ。間違いない。しかしこの路がいつまで魔力を流しているか、辿れるかはわからない。

アトに日中のアタックをするか尋ねる――
【アト・サインの日誌】

   ―――5月中旬
   ラサ北部『白兎の湖』周辺

司書の言葉に迷わず僕は、「やるぞ」と一言告げた。
この僅かに流れるマナの道標は時間とともに消え去る可能性が高い。

おそらく、この周辺に複数、砂に埋れた道があるのだろう。
時間の流れと共に消え去った過去の王国は、正確にこの魔力の道を辿れるように地図とカレンダーを用意していたに違いない。
となれば僕らがこの魔力の流れた道を当てたのは偶然以外の何物でもなかった。
そして、安全のためにこの偶然を見す見す逃そうという提案は、同意できないものだった。

赤と青のコントラストで彩られていた夜明けの空が徐々に水色に支配されていく。
地平線の向こうでは黄金の光が顔をのぞかせていた。
砂漠の日の出、それは自然が生み出した美術品。
しかしそれは数時間後に僕たちの体を焼き尽くすことを宣告する、死神の芸術でもあった。

改めて、石の道に顔を近づける。
自分だけでは感知できないマナの通り道。
予め分けてもらった司書の髪の房を通り道に近づけて反応を見る。
髪の毛はまるでそこに磁力があるかのように、魔力の流れに沿って靡いた。
となれば、靡く方向の逆方向、そちらに魔力の源泉、つまり遺跡の入口があることになる。

このまま砂をかき分け続けて道をたどることを考えたが、この石の道を見つけるだけでも結構な深さの砂を掘り起こす必要があった。
現実的ではない、となればここで連れてきた司書の出番となる。
司書には魔力の流れに集中してもらい、この道の示す直線上を、蛇行するように歩いてもらう。
ダウジングの応用だった。
道に対して蛇行して進めば、曲がり角を発見できるという考えに基づいてのことであった。

司書が実際に蛇行しながら砂の上を歩き、道の直進方向に対して感じる魔力が弱まった所で、そのポイントを掘り起こしてみた。
結果、丁の字型の道の接続部を発見した。
片方には魔力は流れているが、もう片方には魔力が流れていない。
なるほど、このような構造の道を幾重にも重ねることによって、通用口への道を簡単に発見できないようにしていたのだ。

再び、魔力の方向に対して司書が歩く、
魔力が途切れたらその地点を掘り起こし、進路を確認する。
これを5,6度繰り返しているうちに、太陽が登りきった。
灼熱の砂が二人の体から容赦なく水分を奪い、目眩と頭痛を引き起こす。
だがここまで来て、引き下がる訳にはいかない。
僕達は発掘を強行した。
汗が流れた途端に水分が飛び、顔には塩分だけがこびりついてザラザラとした感覚だけが残る。
この感覚、戦いで体力が削られてくるのと同じように思えた。
こんな所でパンドラを使用して継戦を選べばざんげも呆れた顔を浮かべるだろう。
イレギュラーズの体の頑丈さのみを信じ、司書が魔力を感じなくなる地点を掘り進める。

8度目のそれを試みた。
吐いた息がボイラーの蒸気のように熱い。
だが、掘っても道に当たる気配がない。

すわ道を誤ったか。
ここで貴重な体力を無駄にしたかもしれないという思いが焦りを産む。
一旦発掘を中止して、直前の分岐路からもう一度やり直そうかと提案しようとした。

そこで、司書から制止された。
しばし声を出すな、耳を澄ませと。
何事かと思いながら言われたとおりにそうする。
するとどうだろう、笛の音、太鼓の音、弦楽器の音。
調和した原始的な音楽が砂の下から聞こえてくる。

死に物狂いで砂を掘り起こす。
音のする方向へと向かってシャベルを無心に動かす。
すると、刃先に硬いものがぶつかる感覚がした。
石だと思って取り除こうとすると、その石はやけに大きく、表面は滑らかだった。
そして、その切石の向こう側から、楽器の音が漏れ出していた。
慎重に砂を払い、石全体を露出させる。
果たしてそれは、古代文字の刻まれた石扉であった。
地面に対してほぼ水平に作られたそれは、地下へと続く遺跡の存在を暗示していた。

シャベルを放り投げる。
やりきったという思いが、心の臓腑から指先に至るまでこみ上げる。
だが、その思いよりも先に、理性が正しい行動をさせた。

暑さと感動で棒立ちしていた司書の腕をひっつかみ、テントに向かって走り出す。
二人して簡易テントの中に転がり込む。
日陰の冷たい砂の中に埋めていた、水筒を地面から引っ張り出して、まず司書の頭の天辺にぶちまけ、続いて、自分も思いっきり水をかぶった。
体温が上昇しすぎて危険な状態であった体から、蒸気が出るがと思うほど急激ではあるが体温を落とす。
すかさず埋めていたもう一つの水筒を取り出し、震える手で2つ分のカップに水を注ぎ、ゆっくりと飲む。
お互い、体の中はカラカラで限界であった。

その後は急激な眠気に襲われる。
仕方のないことだ、生活スタイルとして今は普段は寝ている時間だった。
徹夜の重労働にも等しい作業だったのだから。
一言司書に断って、そのまま僕は眠りに落ちてしまった。
【知識の砦の日誌5の月、月齢25】

この世界に来てから一番の充足感に私は包まれていた。
狙いすましたかのような魔力で作られた路との感応、アトのダウジングの応用による路の発掘。すべてが噛み合った結果見つかった遺跡への入り口は、私を図書館遺跡に導いた時に近い感動で満たしていた。

発見の後の記憶は少々朧気だが、水を浴びるように飲んで夜まで寝て今に至る。
文字通り二人揃って頭を冷やした今、主な問題点を列挙する
・遺跡入り口が砂に埋没していたこと
 これは文字通りの問題点だ。砂漠は天候によっては一晩で山のような砂が移動する。もし明日以降遺跡にアタックする場合、入りましたが砂に入り口を埋められましたでは話にならない。よって入り口周辺をどうにか固める必要がある。
・入り口を固めるのに使う時間、維持
 これも大きな問題だ。極地法であればここに数名の仲間を置いていくのだが、今回は二人。そして時期的に今を逃すと、秋まで挑戦は難しい。
 さりとて戻ったところで、遺跡の入口だけでなく、確たる利益がないと地獄の釜のような砂漠に調査隊や商隊が手を貸してくれると思えない。

 私達はまた決断を迫られている。帰り道を別の場所にあるだろうとたかをくくれるほど、私は楽観主義ではない。
 アトと相談を再開する――
【アト・サインの日誌】

   ―――5月中旬
   ラサ北部『涜聖の社』前

次に目が覚めたときは日はどっぷりと沈み、月が登っていたところであった。
日陰の冷たい砂で冷めた体を動かし、手を二、三度閉じたり開いたりを繰り返す。
僅かなしびれが体に走るが、それはおそらく強烈な日差しが体液を幾ばくか沸騰させたせいだろう。
だが、致命傷ではない。

同じく気絶したかのように倒れて寝ている司書は僕が意識を失う前にはしゃいでいた分、眠りが深いようだった。
ささやかな宴として、夕食の準備―――生活サイクル的には朝食だが―――の準備をはじめる。
砂で簡単な炉を形作った後にその上で焚き火を熾し、炭になるのを待つ。
その間に水で小麦をよく練り、叩いて平たく形成する。
薪が白くなり、ボロボロと崩れやすくなった所で、灰をかき分けて平にし、その上にパンを乗せた。
そしてそのパンの上に白い灰をかぶせて焼き上げる。
キャラバンと一緒に旅をしているときに習った食事だった。

そしてパンを焼き上げるついでに、袋からベーコンを取り出す。
オアシス周辺で食べ物に恵まれたために食べるのを後回しにしていたが、今回は祝いの席でもある。
贅沢に一塊を使うつもりだった。

もう一つ取り出したのは鶏の卵である。
オアシスの近くの村で買ったものだ。
普通の種類より固く、砂漠の種類のため保存食にはそれなりに適していると思ったが、案外食べる機会がなかった。
ちょうど今がその時だろうと食べるのを決意した。

焼けた灰の上にフライパンを置くとすぐに熱される。
はじめにベーコンを乗せて焼き上げる。
香ばしい匂いがあたりに漂い、己の空腹具合を思い出させる。

染み出した油がちょうどいい。
卵を割り、ベーコンの油の上に落とすと香ばしい匂いと共に焼ける。
ふりかけた香辛料がさらに食欲をそそる。

十分に焼けた所でフライパンを持ち上げ、灰を払う。
取り出したパンを2つに裂き、一つずつにベーコン半分と、目玉焼きを乗せてテントの中に戻った。
ちょうどその頃には、多少朦朧としていたが、司書が起き上がり、現在の問題点をまとめていた。
僕にはその点については多少のアイデアがあったので話すつもりではあったが、何はともあれ食事だ。
ベーコンと目玉焼きを載せたパンを差し出し、一緒に用意した濃く淹れた紅茶をカップに注ぐ。
何はともあれ、この大きな成果をささやかながら祝うとしよう。
今後の方針については、それからだ。
口にパンを押し込みながら秘書の羅列した問題点を聞いていく。
入り口をどう固めるかといったもの。
確かに遺跡に入ったら入り口が砂で埋められてしまう。
そういった自体は避けたかったが―――僕の勘はそんな心配は無用だと告げていた。

食事を終え、軽い装備を整える。
腰に剣と拳銃を、背中にはライフル銃を。
何をする気かという司書の問に僕はまあ見ていなと軽口で返す。

二人で再び石扉の上に立つ。
僅かな時間で動いた砂がまた石扉の上に覆いかぶさっていたが、その量はやけに少ない。
僕の勘の正しさがここに示されている。

石扉周辺の発掘を続ける。
扉全体を露出させるが、この扉に開けるための取っ手が存在していない。
はじめから人力で開けることを想定していないかのように。
ならば、答えは決まっていた。

僕は扉の表面に残った砂を丁寧に羽箒で掃いていく。
眼の前のこれはまた美術品にも等しい。
魔力の爆発で崩すなどとは言語道断、このように柔らかな道具で丁寧に扱うべきだ。

果たして、扉の縁に文様の一部に偽装された、取れる石の蓋があった。
そこには無数の窪みとそれらをつなぐ魔力を通す石綿、そして3色の宝石。

なるほど、パズルか。
惜しむべきならば出題者側からのヒントがないこと。
子供が癇癪を起こすような難題だ。
再び司書の髪の房とマナを溶かした試薬を取り出し、窪みと窪みを繋ぐ石綿の中で生きているものを確かめていく。
紙のメモに図を写し、しばし考える。
司書は近くで僕の作業の様子をじっと見ていた。

赤の宝石、4行2列目。
青の宝石、1行3列目。
緑の宝石、5行1列目。

途切れていた魔力の道が復旧し、宝石が光り輝く。
すると、あたりに地響きが響く。
綺麗にならされた砂が動き出す。
そう、この辺り一帯の砂は魔力の影響により、整然と平面になるようにされていた。
それに何か意味があるのかというのをずっと考えていたが、なるほど。
少人数でも貢物を持ってきたものを安全に神殿に入れるためであったか。

石扉の周辺の砂が陥没していく。
なるほど、この扉は、ある種の祭壇の頂点であったか。
本来ならば階段から登るようにできていたのだ。

地響きが終わると今度は石の扉が開く。
中に続いていたのは下に降りる階段。
先は見えない、ただ闇が侵入者を飲み込まんと待ち構えていた。

本格的な準備をしたら挑むとしようと司書に伝える。
謎を解き、大いなる涜聖の社の入り口を暴いた僕はさぞ得意げだっただろう。
(古い本を机の上に置き、開く)
……司書と冒険するにしたって冒険の背景があるとなお楽しい。
そんな事を一日中ぼんやりと考えてたらこの本が手に入ったよ。
読んでいいよね?答えは聞いていない。
僕の精一杯の演奏(https://www.youtube.com/watch?v=IvtLIhWrDUM)も添えながら、(せっかく思いついたから)読ませてもらうとしよう。


―――これは今はラサと呼ばれる国が出来るずっと昔、未だ星数ほどの国々があった時代のこと。
オアシスとオアシスを繋ぐ道を守り、旅人の感謝と尊敬を集めた小さな国の物語。

その小さな国は聡明なる王が治めていた。
民は王を讃え、通りかかる旅人は眩い宝石を落としていく。
黄金と翡翠に飾られた平和という名の揺り籠の中、人々は穏やかに暮らしていた。

しかし、ある日国に不吉の予兆が訪れる。
王宮へと急ぐ巡邏の警吏、彼は大声で叫ぶ。
「白子だ、白子の娘が潜んでいたぞ!」

王宮は大いにどよめいた。
神より賜ったはずの褐色の肌を持たぬ子供が見つかったのだから。
果たしてそれは悪魔の使いか天よりの戒飭か。
王の臣下達は不吉の子はすぐに殺せと騒々しい。
聡明な王は剣を振り上げる前に、宮廷の占い師に白子の娘をどうすべきかを訪ねた。

卜者は言う。
「白子を人の手で殺めてはならぬ。
大地はその呪われた血を飲み干し、忽ちにして災いの口を広げ国を飲み込むであろう。
天命によりその魂を神に返す時、王国は初めて厄災を免れる」と。

王は大いに悩んだ。
白子の娘は不吉の予兆、民は震え上がり、信心深い旅人たちは国を避ける。
しかし白子の娘を血に濡らす事は最も控えるべき短慮である。

王は娘を都から連れ出し、都より遠く離れた民も知らぬ秘密のところに構えた社に娘を住まわせた。
王は大いに白子の娘を恐れながらも、白子の娘が不自由により病に倒れることなきよう、秘密の使いに甲斐甲斐しく世話をさせた。
時が立つにつれ、ついぞ王は恐れと信仰の間で惑乱し、秘密の社は白子の娘を慰める豪奢な贈り物で満たされていったという。
豪奢な贈り物を乗せた王の馬車が人知れぬ場所へと旅立つ時、民草は口々に噂した。
王の心は不吉の娘により呪われ、正気を奪われたと。

王は白子の娘の社の場所を口の固い従者以外に知らせることがなかった。
やがて国は滅び、社の場所を知るものはいなくなった。
今でも砂漠の何処かに宝石に飾られた臥榻の上に横たわる白子の娘がいるという。
 なんてことだ、と私は呆然とした。
 装備を整えて石扉の中に入れば、扉は勝手に閉まった。ここまでは予想通り。事前に入り切る前に、内側から開くこともできるというのは確認していたから。
 けれどそれ以上に驚いたのは、閉じるなり壁にはめ込まれた、水晶だろうか。その内側に火が灯り、通用口全体を十分な灯りでもって照らしたのだ。
 遺跡の外部施設である「通用口」まで完全に動いていたことから予測できたとはいえ、それでも完全な状態で稼働している古代遺跡など、そう何度も目にかかれるものではない。
 この搬入口は石造りになっており、装飾も殆ど無い。本当にただの仕事用の場所、といった雰囲気だ。けれど、触れてみれば床の岩は丁寧に研磨されており、わざと荒く仕上げることで車輪や馬の蹄が滑らないように作られている。
 壁もそうだ、よく見れば矢印のような形状の装飾が彫り込まれており、順路を示している。非常に機能的で、非常に作りが良い。この搬入口の調査だけで一ヶ月は時間を使うことができるだろう。

 しかし、そうするには私達の装備はあまりに不足している。近場にあった馬屋らしき場所にラクダをとめ、不要な装備はここにまとめておく。遺跡の内容はともかく、搬入口にトラップを仕掛けている様子はなかったからだ。
 であれば、と私はアトに目配せをする。ごく単純な理屈だ「入っていけない場所」に罠が仕掛けられている可能性が高い。
 そして白兎にまつわる物が、伝承の通り忌まわしいものであるというのならなおのことだ。よって、探索プランとしては「罠の仕掛けられている通路の発見」と「施設の全景、全容が見える場所の発見」をまずは主軸に据えようと思う。
 ここがオアシスにあるというのなら、どこかに水路か何かがあるはずだし、水が手に入るならアタックにも余裕ができる。

 深呼吸する。自分の全身に魔力と理屈を充填していく。装備をもう一度確認し、体の砂を念入りに落とし、ゴーグルをつける。
 此処から先は本物の未知の領域だ。
 此処から先は一歩間違えれば死ぬかもしれない領域だ。
 通路の確認と水場、全景の把握はまだ危険度は低い。しかし、名もなき屍がどうやってできてきたのか、それを知っていればどんな状況でも警戒しすぎということはない。
「通路は広いわ、斜めに並んでいくわよ。アトの方が鼻が利くから少し前に。私が後方警戒を」
 そう言って私達は歩を進めた――。


         供物搬入路
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

順路を進みながら、場所の意図を手繰り寄せる。
白兎への贈り物を貢ぐ為の場所であるならば、危険性は少ない。
事実、罠を何も感知できなかったのがそうだ。
王の遣いをここで殺めることは理に適わない。

ならば本来、供物はどのようにして運んでいたのか?
忌まわしき白兎の元へ人が直接歩んでいったのか。
それならば楽な話であるが―――

足を止める。
なにか来る、短く伝えて剣に手をかける。
奥から足音がしたのだ。

やがて、行き先の暗闇の中からぼんやりとした光が浮かび上がる。
壁に備え付けられた水晶の灯りと同じ原理のものだろう。
陶器が石を叩く、そんな奇妙な足音を響かせながらそれはやってきた。

黄金の装飾をし、絹の衣をまとった自動陶器人形。
顔の造形はないが、その出で立ちは高貴な者の使いであることを思わせる。
原始的な魔法人形の類であろうかと考えられた。

この人形単体で持ち帰っても十分な元は取れるだろうが、と司書に話を振るが一蹴される。
そりゃそうだ、僕だってここで帰るなんて真似はしない。
そうとなれば剣を収めるしかないだろう。
無闇に刺激して警報を踏むのは止したかった。
司書にもオーラソードの刃を収めてもらい、人形の動きを観察することにした。

人形は僕の前で立ち止まり、恭しく礼をした。
砂漠を乗り越えた王の勅使に対する礼儀か。
そして、手を右の石箱にかざし、そのまま動かなくなった。

この動きの意味、明白だ。
人形は僕達を供物を運んできた者達だと思いこんでいる―――いや、正確に言えば『そういう風に動くように設定されている』というべきか。
魔法の精度が上がればもっと融通の効く物ができたのであろうが、砂の下の王国にとってはこれが最高のものだったのだろう。

この人形を無視するのは容易いものであるが、しかし。
こうとなればなるべく安全を期したいもの。
ならば人形には予定通りの動きをしてもらうのが最も良いだろう。

空の革袋を取り出し、そこに石を詰める。
そしてその革袋を石箱の中に置き、人形から数歩下がる。

すると白兎の使用人は再び恭しく礼をし、石箱の中をじっと見つめる。
そして、石箱に収められた袋を持ち上げ、奥へと進んでいった。
「追いかけるよ、多分閉まっているだろう奥の扉も開けてくれる」
これより先は、歓迎される領域から、迎撃される領域へとなるだろう。
 アトの肩に手を置く、先導を任せると小さく呟く。
 意識を集中する、この施設に存在する魔力を。自分のギフトはまだ使えない。インスピレーションを使うタイミングはここではない。
 人形をリードするための魔力の動線がどこかにある。ルートを策定するために使う魔力の動線がどこかにある。
 アトに移動を任せながら、自分は神経を研ぎ澄ます。髪の毛の先まで神経を入れるように、知識を注ぎ込むように。
「■■■ーー? ■■ァ■■フーー」
 口をついて出る言葉は、思考に言葉が追いつかないから生まれるもの。文字一つに複数の派生が付随する意味のない発音。
 集中しろ、集中しろ、集中しろ。ここはどこまで続くーー?
 供物を運ぶ者。
 うやうやしく礼をする人形。その後ろをついていくとしたら、この先に何がある。使者はこのまま引き返して行ったらそれで無事に帰られたのか。
 それではおかしい、使者を生かして返すのなら、伝承が何故断片的だったのか。何故最期まで秘密が守られたのか。
 魔力の動線を追う。やはりおかしい「動線が少なすぎる」
「アトーー通路のチェックお願い。隠し通路があるかもしれない。この人形達、外と同じ魔力の動線の上を歩いてる。ただ、アクティブになってる動線しか感じられない。そしてその通路はーー20mくらい先で一旦途切れている。あるとすれば、この短い通路だけよ、やれる?」
 その顔は、興奮を抑えるように歯噛みして笑っていた。
 
「任された」
担いでいた3m棒を引き抜く。
この6月まで、依頼で幾度と無く使用してきた頼れる一品。
まずは自分の立っている地面を叩く。
木と石がぶつかる音が僅かに反響する。
この音、これがつまりは『基準』というものだ。

3mの長さというものは馬鹿にはできない。
両壁、天上、地面。
これを一歩ごとに最小の動きで叩き、隠されたものを見つける気配を感じ取れる。
この通路は一見すれば石造り。
灯りは確かに存在し、人間が疑う余地をなくす。

そう、そこに意識が欠ける要素が生まれる。
だから一体化した、極めて薄い石扉に気が付かないというものだ。
音の違いを数度確かめ、確信を得る。
「ビンゴ、ここだ」

しかし、導線が途切れているとはどういう意味か。
この人形の動きは理解できた。
ただ線をなぞって動くだけという原始的なもの。
しかし、『途切れている』というのが気になる。

司書が懸念していることは最もだ。
秘密を守るには使者をおめおめと見逃し引き返させる事が必要があったのか。
だが同時に疑問も生まれる―――「使者を殺したその痕跡が見当たらない」。
入口から、この位置まで注意深く動いてきた。
もしも使者が殺されるのであれば、この石造りの通路の何処かに、何かしら争った形跡があるだろう。
そしてそれが残るようであれば、使者を何度も送ることはできない―――怯えた末に逃げ出してしまうであろう。

トリックは何だ?
隠し通路の存在、途切れた動線、綺麗な此処までの道筋―――いや、まてよ。
「綺麗すぎる」……道がか?
確かに気密性の高い石造りの遺跡だが、本来であればこの長期間砂の中に埋もれれば、足に相当量の砂が貯まる。
いや、むしろ、逆だ。
溜まった砂に血が飛び散ったとしてもその砂を片付ければ血は存在し得ない。
それが、恒久的に使者を殺し続けるトリックだとしたら。
使者の遺骸と砂を貯め続ける存在がいるとすれば、つまりこの石扉は―――。

「走るよ、司書!それ、途切れてるんじゃない!
  ......
 下に続いてるんだ!!」
そう、線は続いている。
この明かりで灯された長い通路そのものが罠で、正規の通路は人形の行く末。
簡素な搬入口は証拠を一切残さない殺人現場。
それが「冒険」が導き出したこの搬入口の正体だ。

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