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ギルドスレッド

文化保存ギルド

今夜の喋り場その50

それは文化保存ギルドにある一室。
正確には、貴族がこの書庫という屋敷に来た際に執務を執り行うために用意された部屋。

それも今はイーリンの自室となっている。
といっても内装は殆どいじっておらず、書斎机と来客用のソファとローテーブル。本棚と唯一追加されただろうベッド。効率を重視する彼女にとって、ワンルームマンションのようになっているのだ。

おそらく、彼女自身が掃除しているのではない。そう思える小綺麗な部屋。貴方を迎えたのはそういう部屋だ。

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~♪(別段特別なものではない、市販のコーヒーを用意して待つ)
失礼致します…イーリン様、改めて、此度はお招き頂き、ありがとうございます

(案内され、部屋に通された占い師が、会釈をしながら部屋の扉を潜る)
あら、来てくれたのね。ごきげんようヴァイオレット。ちょうど今コーヒーを淹れたところよ。
大したおもてなしも出来ないけど、くつろいでいって頂戴な(向かいのソファを勧めながら、手をひらひらとしてラフな挨拶)
いえいえ、お構いなく…
わざわざワタクシの好きなものまで用意して下さっているのです、それだけでもとても心の篭ったおもてなしですよ

では、失礼して…(ソファに深く腰掛けるも、あまりリラックスはしきらず。緊張している…というより、他者のテリトリーに無防備で入る癖がついていないように見受けられる)
(コーヒーに砂糖とミルクをどぼどぼと注ぎながらその様子を見て、まぁ昨日の今日出会ったばっかりだし、あの仕草も不思議じゃないかと思いながら)

そう言ってくれると嬉しいわ。
さて、夜のお茶会を楽しむとしましょうか(パコっと軽い音を立てて隣においていた小さなバスケットを開けると、中にクッキーが詰め合わせになっていて)

ジャムとか砂糖は好きに使って頂戴な。あとはまぁ、茶菓子が足りなかったら言って?(冗談めかしてくすっと)
ああ、失礼。気を悪くしないでくださいな
育ちが悪いせいでね…無意識に警戒してしまう性質なのですよ

せっかくお招き頂いているのですし…早く、こういった事に慣れねば、とは思っているのですが、ね(苦笑しながら、カップを手元に引き寄せる。
まず目で、カップを動かし波打つ黒い液体を眺め。次に香りをゆっくりと堪能したのち、くいっと自然な動作で口元に傾けた)

…ふぅ、やはり珈琲は良いものです
ささくれ立った心を落ち着けて下さいます
(先ほどより、ややリラックスした態度で息を吐く。完全にとはいえないが、これが彼女の自然体なのだろうとみて取れる)
大丈夫よ、その程度で気を悪くするほど狭量な人間だったら、勇者になんてなっていないでしょうから(くすっと、機嫌良さそうに冗談めかして)

(さすがに飲み慣れてる、というよりは愛好家の飲み方だ、と手紙で聞いたコーヒー好きというのに納得してから)

ささくれ立つね。占い師って職業柄、プレッシャーは相当にかかるでしょう。そういうのって、貴族の顔色を伺わないといけないこっち(幻想に肩入れしてる人間)と似たようなものでしょうし。
ふふ…それもそうですね
侮っていた訳ではございませんが、やはり心持ちに余裕がある。様々な経験、多種多様な出会いをなさった事が伺えますね…

ええ、元世界に居た時のように、ただただ相手を陥れればそれで良い訳ではありませんしね
此処(混沌)に来て、守りたい立場というものに初めて出会ってからは、占い師の仕事もワタクシなりの真面目さで取り組むようになって…おっと、すみません。つい気が抜けて喋り過ぎそうになってしまいましたね
大型船でさえひっくり返すような大嵐の中、小型船で海賊船に突っ込んで暴れまわった後にその上で会談した時と比べれば、大体の状況には余裕を持って対処できるわよ、ええ。

いいのよ、ここに居るのは占い師と勇者ではなくて、ただの女二人のお茶会なんだから。多少気が抜けてなにか喋ろうとも問題ないし。それを迂闊に口外するほどぽやぽやした人でもないでしょ、お互い。
(そう言ってからクッキーを一枚、チョコチップのかなり甘そうなやつを齧ってから)
んで、まぁ。何から話すかしら?(お見合いみたいね、と冗談めかす。
おやおや…それはなんというスペクタクルでしょうか
その語りだけで本が一冊書けそうな冒険ですね
流石、混沌で長く冒険してらっしゃる…

ふふ、そうですね
まだ会って間もないですが、イーリン様が筋を通される方なのはよく解ります。余程の粗相をしなければ動じぬ、というのもね…


ん、そうですね…って、お見合い…ヒッヒ、そんな切り出し方をされるとは思いも依りませんでした。思わず距離が近いと錯覚させられるような…
そういうの、手慣れてらっしゃるので?
その話をするにはもうちょっと潮の香りがする季節になってからのほうが良いわね。
それに今日の話とは沿わないでしょうし。心に留めて楽しみにしておいて頂戴。

筋を通さなければどういう目に合うか、身を持って経験してるからね。そりゃもう、頑張っちゃうわ?(少し遠い目をしてから一口コーヒーを飲んで)

ええ、こうして初対面の相手とどういう話をしようかと切り出すのには慣れてるの。
一歩目はわざと強めに踏み込んで出方を伺う。
その上で相手が引けば自分も引いて、相手が踏み込み返すなら一歩引く。相手の興味をくすぐって、相手の好意を引き出す。どう、手慣れてるでしょ(楽しげに言うのは、真偽の程は定かではないけれど。少なくとも「理屈建てて話せる」というのはそういうことだろう。)
おや、それはそれは
ヒッヒ、では次回の楽しみにしておきましょうか。今年の夏も暑くなりそうですし、ね…

おっと、その方面でも苦労されたご様子。
イーリン様のお話はどこを掘ってもエピソードが沸いて出てきそうですねえ

ヒッヒッヒ、ワタクシも口は達者な方だと思っておりましたが、さすがは策謀渦巻く幻想を渡り歩いてきた方は違いますね。色々と勉強にもなりそうです…
(コーヒーカップを揺らし、また一口味わってから)

…そうですね、取り留めのない雑談に花を咲かせるのも良いですが、
折角機会を設けて頂けたのです。イーリン様、アナタのお話、色々聞かせて下さいな
人に歴史ありってやつね。
すくなくとも、千夜一夜物語よろしく。一週間持たずに話が尽きて殺されてしまうようなモブの語り手になるつもりはないから、期待しておいて頂戴。

そうね――私の話か。
私が自身を悪と定義するという部分に、たしかこの前、貴方が興味を持ったのだったわね。
そこから掘り下げていっていいかしら?
ええ、ちょうどワタクシも…そこを一番興味深く思っておりまして
聞きたいと思っておりました。

…アナタが、何を以て自身を「悪」と定義しているのか。何を背負っているのか…
その経緯をアナタの口から聴いてみたいのです。
じゃあまぁ――コーヒーよりは苦くないかも知れないけど。話させてもらいましょうか。

第一に、私はこの世界に来る前に多く殺している。大した理由じゃないわ。人を襲った山賊だったり、敵対した組織の人間だったり、よくある理由で殺人を犯していた。もっとも、私の元いた世界では神の名のもとにそういうのは許されることは多かったけどね。
――で、この世界に召喚された時、私は思ったのよ「もしかしたら、手を汚さずにやり直せるかも知れない」って。でも、それは最初に私に割り当てられた依頼(奴隷商を暗殺しろ)で脆くも破れた。
どうあっても、私は殺すという宿業から逃れられないのかとその時悟った。だからこれが私を悪と定義する第一の理由。殺人。

第二に、私は多くの人に助けられてきた。然しそれは、多くの人の犠牲によって成り立っているともいえる。勇者総選挙なんて、その結果に至る短時間でもそうだし。それを支えてくれる人が出てくるまで「人望が厚い」なんて一言でまとめちゃえばそれまでだけど。言ってしまえば、搾取してるのよ、その人達から。だから私は口が裂けても善人とはいえない。
第二の罪は……いうなれば強欲ね。

そして3つ目は……いや、殺人と暴食に比べればもう全部些細なものか。
うん、殺人、強欲。この2点において、悪と定義しない理由は、どこにもない、でしょう?
…(珈琲を傾け、もう一度口に含み…語り継がれる言葉と共に、口の中で、耳の中で。珈琲の味、苦味と風味を、イーリンの語る話の苦味と心境を、脳の中で混ぜ合わせるように)

…成程。それがアナタの中で、自分自身を悪たらしめている理由、ですか。

…やはり、思った通りでした。
イーリン様、アナタが自らを悪と定義し、名乗っているのは…ワタクシとよく似ておられる
自らの所業を後悔しながらも、纏わり付く業から逃れられない自己に
戒めるように、縫い付けるように、その重さを抱えておられる。

…命の重さを、そして「信」の重さを理解していなければ、そうは語れますまいに。
細かい罪を数えだすと多分夜が明けるからね。私を悪とする二本柱を語らせてもらったわ。
だから私は自分の手を汚すことにもう大した感傷を抱いては居ないし……それに、汚れる手は少ないほうが良いと思ってる。勇者というのは、そういう意味では都合のいい仕事ではあるわね。
(そこまで語ってから、自分の膝の上に肘をついて、ふうと一息ついてから。ヴァイオレットの言葉に顔を上げる)

――貴方と似ている?(少し訝しむように、じっと目を細めてヴァイオレットの目を覗き込む)
…違いありますまい。勇者といえば聞こえは良いですが、その実、多くの民衆には出来ぬ事をさせられるものです。
その中には、戦いはもちろん…大声では言えぬ「掃除」などもございましょう。
勇者か、英雄か、戦果者か、罪人か、人殺しか…見方を変えればどれもが当て嵌まるものでしょうな。
ですが…だからこそ、それを背負うと決めたアナタには、その重みと意味をしっかりと理解なさっているという事なのでしょう…。

…おっと、アナタのお話を聞くつもりでしたが、少々ワタクシの事情を挟んでしまいましたか。
…お聞きになりたいですか?
体の良い掃除屋というのも否定しないし。死して英雄になるつもりはないわ。私は勇者として生きて、凡人として死にたい。私は人間、人間で沢山なのよ
(ふわっと、わずかに髪から蛍火のような燐光を漏らした)
まぁ、その私の功績だろうと思われるものでさえ。騎兵隊という群の側面があるから、余計に手に負えないのだけど……。

ええ、あのときも私情を挟みたくないと言ってたしね。貴方のことも、せっかくだし、聞きたいわ?(そう言ってソファに深く座り直す)
なるほど。それがアナタの生き様であり、目指すべき場所…という事ですね。
今聞けば、その言葉がより深みを増しますね。
あのとき占いの際、打ち明けて下さった事…そして、今日の事…
アナタという英雄が、どのような道を歩み、そして何処へと進んでいこうとしているのか…解った気がします。

…では、こちらも簡単に語りましょうか。
しかし…アナタの言葉を聞けば、殊更に自身のどうしようもなさが浮き彫りになった気がします。


…ワタクシも、多くを殺しました。
悪しき人も、善き人も。ワタクシという性が在ったばかりに命を落としました。

そんなワタクシの理由は…もっとどうしようもないものです。
ワタクシは、仕方がなかった、という理由ではなく…
自らの欲望に基づいて、命を奪う者なのですよ。
他の子のように隠し続けて、自分の不幸を賢しらに見せびらかすことがないようにしたいのだけど。耐えきれないのは私の弱さね。
私がどこに行くか、旅の先はまだわからないけど……(そう言ってから視線を戻して)

殺しか……(ぼそっと、そうつぶやいてからヴァイオレットの話に不思議そうに)
欲望で殺しをする、というのはまま聞くけれど。貴方はそうは見えないわね。
その姿や所作も、一種の擬態ということなのかしら(淡々と、話の先を促すように)
ヒッヒ…今更隠し立てするものでもありません。
そうですね、この姿はワタクシの欲望を叶える為の姿とも言えます。

…ワタクシの内には、どうしようもない悪が潜んでおります。
必要があったから、理由があったから、仕方がなかったから。
…そんなものとは関係なく、ワタクシは純粋に『人の不幸』を求めずにはいられない性質なのですよ。

死にゆく人の顔に満足感を覚え、絶望に苛まれる人の顔に愉悦を覚え
慟哭に叫ぶ人の声を聴いて安息感を覚え、怒りに我を忘れる人の声に興奮を覚える…

…ワタクシという自己は、それを求めずにはいられない
それを求めんがあまりに、ワタクシは人を殺し、時に人を絶望の淵に叩き込むのですよ。

…その顔を、ワタクシは覚えています、一つ一つ…今でも、忘れられないのです。
(語る言葉は弾むような愉しさを感じるが、どことなく苦痛に奥歯を噛みしめるような雰囲気も垣間見える。
覚えている、の言葉には、愉しかった事に想いを馳せているようにも、自らを罰するかのようにも見えた)
それは……それはどうしようもない本能なのでしょうね。
私が旅をせずには居られないように、未知の物を焦がれて突っ走ってしまうように。
求めずには居られない。それがなければ乾いてしまう。

けれど、人の中で生きるのにそれはなかなか不自由するでしょうね。
その顔も、声も、そう簡単に得られるものではないでしょうから。
(うん、うんと一つずつ話す内容に相槌を打って)

……これは興味何だけど。その時貴方は何を感じるのかしら。
「美味しい」? それとも「楽しい」? もっと別のなにかかしら
(覚えている。それが夕飯のように当然であれば、きっと3日もすれば内容を忘れてしまうだろう。けれど覚えているのならそうではない。もっと別ベクトルの充足、あるいは何かがあるのだろうと、興味深そうに。その質問は、他人の秘密を暴き立てて喜ぶ悪人かもしれない。)
………。アナタには打ち明けても構いませんか。
アナタもまた、心の内を打ち明けて下さったのです、ワタクシも応えるのが、筋というもの…。

「愉しい」です。どうしようもなく。そして…
そんな自分に「苦しい」です。

…ワタクシはそんな性を持ちながら、それに気付かずに育てて下さった方がおりました。
ワタクシの親は、とても善良で…ワタクシの事は、良い子たらんと、沢山の愛情を注いで下さりました。

…人の不幸に甘美なる味を覚える事は、確かな事実です。
ですが…ワタクシの育まれた人格は、それを良しとは、思ってくれないのです。


…笑える話でしょう?実行に移している癖して、半端者なんです。
自らの所業を悪と、罪と、更には自身をも苛めると理解して、なお

人の不幸を求めずにはいられないという性質を抱えているのですから。
ありがと(短くそうつぶやいてから、話を聞いて)

なるほど、二律背反か。
二面性、というよりは乖離して苦しんでいるから、より厄介ね。
だから、貴方の場合は……依頼で不幸にしていい人間を、大義名分を使って不幸にして。それを味わってなんとか飢えを逃したりするのか。
あるいは、それさえも代用品で、本質的には自分を心底好いてくれるような人間の破滅を望んでしまうのか。
悪い言い方をしましょう、実に興味深い。

そして、辛いでしょうね……。
半端者、私と同じね。そうあらねばならない、英雄や、あるいは汚名をかぶると決めていても、他人に脆さを見せ、同情を買い、自分の周りを囲ませるのと同じように。
そうしてはいけないとわかっていても、そうせざるをえない。
……痛いわよね、ほんと。

安い同情は、重さのない砂糖菓子みたいなものだけど。受け取っておいてくれると嬉しいわ(少し軽い口調は、きっと自分にも思うところがあるからなのだろう。本質に触れるには、今はまだ早すぎるし、そんなぞんざいに扱いたくもないという彼女なりの誠意だろう)
……ふふ…
いえ、ありがとうございます。きちんと聴いて下さって、その上で答えて下さって。
興味深い、と。そう思って頂けるだけでも、話した甲斐があるというものです…
…あるいは、その分析通りかもしれませんね。ワタクシも、自らの心の内を完璧に把握し、手懐けた訳ではありませんから…

…今の幸福を、今の地位を、今の関係を。いずれ自身の手で壊してしまう事を望むんじゃないか…って。
そう思っているのに、求めずにはいられない…自分の中に、大切な人が出来てしまうと
今以上の幸福を求めてしまって…

…はい、痛いです。
ですが…アナタの言葉は、砂糖菓子というには随分と苦い。ワタクシと…似た味がします。
だから、なのでしょうか。下手な同情とは、想いません。
少なくとも…ワタクシが会ってきた中でも、アナタの言葉にこそ、重みと…確かな近しいものを、感じます…
破綻してしまえば楽だし、イレギュラーズにはその領域に良くも悪くも至ってる人間は多い。
けどそれ以上に、大切な人を求めて、それと互いに好きあっていても……堕ちてしまう人も、いた(小さく、噛みしめるようにそう言ってから)

……その破滅と不幸に、貴方自身もきっと含まれているのでしょうね。最も間近で聞ける悲鳴は、愛する人間や家族じゃなくて、自分自身だもの。
そして自分自身の耳障りな悲鳴さえ心地よくなったら、まぁ、その時は終わりね。

――ありがと、そう言ってくれて。
……そうか、だから貴方の占い師という仕事も。茶菓子のように不幸を吐露する人間を味わうこともできるし、あわよくばそれ以上の不幸に踏み込むことが出来る。実益の大きな仕事なのね。

ふっ、立場が違ってたら、勇者と占い師、逆になってたかも知れないわね?
きっと勇者は、人の不幸を死ぬほどみられるわよ?
……(噛みしめるようなその仕草に、『誰か』を思い出しているような気がして、深く触れられはしなかった)

…そうでしょうね。恐らくはそれすらも、この半身の『大元』が望んでいる事なのでしょう
狂い、堕ちて、破滅し。それを高みから嗤う…自分の「親」の事ですもの、解ってしまいます。
…ゆえにこそ、それだけはしまいと、踏みとどまっているのでしょうね
そこに負けてしまえば、ワタクシの人生はそれこそ…ずっと手のひらの上で踊っていただけとなってしまいますから


…どこまでも敏いお方ですね、ええ、その通りです
この占いは、ある方に教えて頂いた手法の一つであり、自分自身の実益も兼ねたがゆえに天職としているものです。
…混沌に来て、ここまで真剣に打ち込むようになるとはその時は思いませんでしたけど。


それはそれで、興味深い運命ですね。ワタクシと、イーリン様が…真逆の立場だったら
一体どんな物語が出来上がったのか。
それは、こうしてお茶を飲み合うような仲になっていたかどうかすら解りませんが…
…不思議と、腑に落ちる気がします。やはり、何処か似ているのかもしれませんね、ワタクシ達は
この前も言ったように、多少聡くないと勇者になんてなれないから、ね。
……大本、親。そうよね。どうせなら番狂わせを起こしたい。どんなに小さくても、どんなに些細でも。それが相手にとって意味のないことでも、自分の矜持を通したい。
ささやかな反逆だけれど。私はそれを応援するわ。

元の世界ではどうだったかは知らないけど、この世界は本当に混沌としているからね。占い、僅かなのぞみ、希望、あるいはそういったもの全てを誰もが求めてあえぎ、手を伸ばしている。世界情勢を見ても明らかだし……例のアドラステイアとか特にそう。
ただ実利だけじゃなくて、自分の占いの結果が喜ばしいものであれば、貴方の……まっとうに育てられた方の感覚ではきっと嬉しいのでしょうね。

「ただの占い師よ」なんて言って偉そうに御託を並べるいけ好かない占い師になりそうだけど、私(くすっと冗談めかしてから)
そうね、どこか似てると思う。どうしようもない本能を抱えている辺りとか。それに抗いつつも、受け入れる側面もあり。
矛盾した、乖離した。けど人間らしい。人間でありたいと思っているところが。
……そう、私は人間。人間で沢山なのよ(今日二度目の言葉をそう、自分に言い聞かせるように呟くと、カップを持つ手に力を込めた。)
……(イーリンの語る言葉を深く、強く受け止め、ゆっくりと反芻するように頷く)
きっと、その意味を求めている内は、ワタクシはワタクシであると抗えているのでしょう。
しかし、先程も申したように…この心が何処へ行き着くかは、まだ解りません。

これまで見てきた、多くのイレギュラーズがそうであったように…狂気に膝を折る事も、可能性としてはあるのでしょう。
それに負けないよう、お互い力を振り絞らないといけない、という事でしょうね。


…ふふ、ですね。
まっとうな方のワタクシは、人の幸福を好ましく思っていますから。
そういった結果が出て、残念だ、と思う気持ちと、良かった、と思う気持ちとのせめぎあいはいつもの事だったりもします


おや、それはそれで見てみたいですね、占い師であった場合のイーリン様。
そういう場合、ワタクシはどんな勇者になるのでしょうねえ、人を導き、率いるなどワタクシは出来かねますので…きっと、ワタクシはワタクシのやり方で、アナタとは違う…けれど確かに、どこか似通った答えを出すのかもしれません。
アナタが歩んできた道はとても長かったのでしょうから、簡単に想像はできませんが…ね


…人間でありたい、と。そう願うのはどちらも同じですか。ふふ…(くるくるとカップを揺らし、大きく呷る。その言葉を一緒に、胸の内深くに落とすように)

やはり、今夜アナタとお話できたのは有意義でした。アナタの事を知り、ワタクシの事を語り…
そしてワタクシの語りから透し見た「アナタ」に触れる事ができたのも、僥倖でした。
先んじて言っておきましょうか。多分、今くらい無責任な立場と関わりでなければ、言えないでしょうから。
「貴方の旅の終わりがどこであれ、私はそれを肯定する」
わ。もちろん、それに悪態をついたり、悲しんだりすることはあるかもしれない。けど、貴方が選んだ道であれば、それを否定しない。親しい人ほど、死ぬのも、狂気も、何もかも駄目って言いたくなるでしょうからね。
私も頑張らないと……せめぎあいに負けないように。

そうね、ヴァイオレットが勇者だったら。やっぱりニコニコしながら善行を積んでるタイプじゃないかしら。それに付随する不幸を、善行の影で味わえるようにね。
私は相手にぶつぶつ文句を言いながら智慧を授ける占い師、みたいな。よくあるストーリーテラーになってたかも。

ええ、私も今夜貴方と話せてよかった。
海の話や、なぜ私が人でありたいとこだわるのか。それを語るには……一夜は短すぎるわ。
貴方から見た私がどう変わっていくかも、この先気になるしね(くすっと笑って、カップを置いてから時計を見る。
ふふ…ええ、そうですね
今、この関係だからこそ言える事もある。アナタのその言葉、確かに覚えておきましょう
此処からワタクシ達の関係がどう変わるか、この言葉をアナタが、『その時』が来てどう思うのか…(ふと、懐のカードを取ろうとして、やめる)
…解らないままの方が、きっと今後に思いを馳せる事ができそうですね。

おや、そう見えますか?
しかし、そう言われてみればそんな未来もあるように思いますね。
善行と悪行、そのどちらも味わえるしたたかな立ち位置…それもまた可能性としてあったかもしれませんね。


ええ、時間が経つのは早いものですね、ついつい話し込んでしまいました…
この話の続きは、また今度お聞かせ願えますか?
まだまだアナタとのお話には、興味が尽きませんゆえ(カップをソーサーに置く。汚れを拭って、さり気なく「ご馳走様でした」と付け足して)
ふふっ、ええ。それは占うより当日結果を見るほうがよっぽど面白いってものよ。
そうしてその日が来てしまったら、昔を思い出して笑ってしまうの、往々にして。

だから今はそうね、勇者と占い師が逆だったかも知れないって可能性も見ながら。お開きにしましょうか。
もちろん、どんな話でも、貴方となら楽しくさせていただきます(14の小娘そのものの見た目で、そんなキザなセリフを言って立ち上がり)
外まで送るわ。夜は貴方も慣れてるでしょうけど、ここはまだ慣れていないでしょう?(ごちそうさまでしたと言ってくれたのに嬉しそうに頷いてから、ドアの前へ)
ええ、こちらもその時が来る事。そして…
その時が訪れるまで、共にこうして話し合えるような…良い関係で居られる事を願っておりますよ。


ええ、今夜はとても有意義な時間でした。どうもありがとうございました。

そうですね、では、お言葉に甘えてお送り頂きましょう
(ソファを立ち上がり、ドアへ導かれる。その頃には、此処に着いて常に忍ばせていた警戒心はすっかり薄まっていた)

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