PandoraPartyProject

ギルドスレッド

遣らずの雨

湖上のよすが

町はずれに、小さな湖がある。
曇天の下で、鈍色に揺れる湖面は
雨のやまない空からこぼれ落ちる雫が溜まって作られたかのようで。
いつしかそこは、一部の人々から「大水たまり」だなんて呼ばれていた。

土砂降りの日には、湖面から首の長い怪物が顔を出すそうな。
はたまた青い空から雨が降るときは、精霊の御使い様が降臨なさるそうな。
大水たまりには、根や葉の有無もわからない噂が、たくさん付き纏う。

その中の不思議のひとつ。
いつ生まれたとも知れない、その大水たまりの中ほどに
やはり誰がいつ作ったとも知れない、小さな二階建てのコテージがぽつんと建っていた。
奇妙なことに、コテージへ続く橋も、渡し船もない。

あるいは、あなたは町でこんな噂を耳にするだろうか。
小雨が何日も続き、大水たまりの水位が下がった日にだけ
あのコテージに渡るための橋が、湖面の下から現れるらしい、と。
そして、もうひとつ。
あのコテージへ渡るならば、何かひとつ、あなたの「好きなもの」を手土産に残してゆくといい——と。

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【RPスレッド】
【湖上のコテージにて】
【最大3〜4人まで】


《コテージ一階》
いくつかのベッドやテーブル
簡素な調度品の設えられた生活スペース。

《コテージ二階》
広々とした、見晴らしの良い物見台。
一角に、大きな望遠鏡が置かれている。

《ベランダ》
いくつかの椅子とテーブル。
もっとも、雨がやむ気配はない。

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(小雨から身を守ってくれた騎士……傘代わりの大きな葉っぱを入り口に立てかけて、小さなからだが、コテージへと歩み入りました。)
(湖の下には、うわさ通り、コテージへ続く秘密の橋が眠っていたのです。)

まあ。中は遠くで見るより、ずっと広いのね。

(コテージの中、何より目を引くのは、釣り竿やら何のお菓子の缶、それに奇妙な機械の箱……)
(エトセトラ、エトセトラのふしぎな品々。きっとあれが、これまでに訪れた人々が残していった「好きなもの」なのでしょうか。)
(色んな人々の「好き」を宝箱みたいに詰め込んだコテージは、さながら秘密基地のような様相を呈しておりました。)
素敵。こういう場所を別荘にできたら、とってもお姫様らしいのではないかしら。
ああ、けれども困ったわ。ここに置かれているものは、どれも大きなひとに使いやすい大きさみたい。
(きょろり、きょろり。釣り竿でもなんでも、置かれたものは、はぐるま姫にとってはいささか大きすぎるようです。)
しょうがないわ。もう少し、中を探検してみようかしら。
(ことばを発すること自体が楽しいのでしょうか。誰に言うとでもなく、独り言が漏れてゆきます。)
(ぎしりぎしりと橋の軋む音。見かけより重たい体を雨雫に濡れた外套に包んだ男は、コテージの前に着くと雫をぬぐい、扉を開く)
噂というのはなんとやら、本当にこういうところがあるんだなぁ?
(独り言。噂話に興を惹かれ、湖のコテージにたどり着いた男はこれ以上濡れないことに安どすると外套を脱ぐ)
(好奇心の赴くまま、無人のコテージを探索していたところ、誰かが入ってくる音が聞こえました。)
だあれ。
(コテージに置かれたベッドの一つ、シーツが盛り上がりもぞもぞと動いております。)
もしかして、他のお客さんが来たのかしら。
待っていてね。いま、わたし、ここから出るから。
(溢れんばかりの好奇心のまま、どうやらお姫様はシーツの下まで探索を試み、脱出にちょっとばかり難儀しているようでした。)
(もぞもぞ、ごそごそ、シーツの下で小さな輪郭がうごめいています。)
ああ、すまない――
(先客が居たようだ、少女の声に応えようと口を開いたとき)

…………。

(シーツの中を探検する何かを見つける)

分かった、待ってるよ。

(彼女の声に応えると、何かを考えたのかシーツの方に歩み寄って、探索者の出口であろう場所で待ち受けるべくしゃがみ込みます)
(もぞもぞ、ごそごそをしばらく繰り返して)
(ようやく、シーツの出口から小さな頭がひょっこり姿を現しました)

まあ。
(途端、目の前には見覚えのある、はぐるま姫からすれば「大きな」顔。)
誰かと思ったら、ペーションだったのね。
いきなりすぐそこにいたものだから、わたし、驚いてしまったわ。
ごきげんよう。もしかしてペーションも、ここの噂を聞いてきたのかしら。
(シーツから小さな顔を出し、腕をぱたつかせながら、何事もなかったかのように話し始めてゆく姿は、人の目にはちょっとばかりユーモラスに映るかもしれません。)
やあ、こんにちは。誰かと思ったらはぐるまのお姫さんか、また会ったね。
君が驚くのも初めて見たような気がする。

(立ち上がって、周囲を見回しつつ)
うん、俺も噂を聞いてね。
何か好きなものを置いて行かないと駄目な不思議なコテージと聞いて来てみたら。
君に会うとは思わなかったけど……今はお休みの途中だったのかな?
(シーツから顔を出す、小さな少女に視線を合わせるようにまたしゃがみ込む)
こころがあるのだもの。わたしだって、驚くことはあるわ。
(などと言いながら、実際のところ、表情は眉ひとつ動いていないのですけれど。)
ううん、休んでいたのではないの。わたし、ベッドというのを、ちゃんと見たことがなかったから。
中はどんな風になってるのか、探検してみていたのよ。
(のそりのそりとシーツの中から這い出して、はぐるま姫の体格からすれば、いささかばかりの高さから床へと飛び降りて)
(ぎくしゃくした動作で、靴を履き直します。)

このコテージも、変わった場所ね。
誰も住んでいないのに、お掃除したばっかりみたいに、とても綺麗だわ。
ベッドというものを見たことがない……(首を傾げつつ)。
まさか、普段は床にそのまま眠ってるとかじゃないよね?
(床に直で眠るお人形の姿を想像して震えつつ)

そういえばそうだね……
(適当な調度品を指でなぞる。確かに埃もついていない)
見えない、管理人さんでも居るのかしら?
(考え込みつつ、テーブルの傍にあった古めかしい椅子に座る。木の軋む音が小さな悲鳴のように感じられた)
ベッド自体は知っているけど、間近でじっくり見たことはなかったもの。
わたし、どこか座る場所があれば十分なのよ。人形だもの。
けれどベッドというのは、とてもふかふかしているのね。みんなが好いているのも、わかるわ。
(ベッドを必要としないのは、生命宿らぬ人形であった頃から、変わらぬ不文律のようです。)

その椅子も、あの釣竿も、もしかしたらベッドも。
全部がぜんぶ、誰かの持ち込んだ、誰かの「好きなもの」なのかしら。
みんなの「好き」を綺麗にする管理人さんなんて、とても素敵なひとね。
(きりり、きりりと音を立てながら、ゆっくり部屋の中を見回して)
(他に人形のお仲間がいれば、話を聞けるかもと思ったのです。)
(幸運の数字が50より上を指し示せば、あるいは、ひょんな出会いがあるでしょうか。)
31
残念ね。ここには、わたしがお話を聞ける「だれか」は、いないみたい。
(俯いているつもりなのでしょうか。きり、と微かばかり音を立て、はぐるま姫が下を向きました。)
(表情はやっぱり微笑を浮かべたままなので、落ち込んでるようには見えないでしょうけれど……。)
じゃあ、今度からベッドで眠ってみるといい、きっと面白いものが見れるかもしれない。
(天井を見上げて)
ひょっとしたら、ここには何もなくて。
誰かが気を使って物を置いて行ったかもしれない。
そうやって色々と物が置かれていくうちに噂話になったかもしれないなあ。

(視線をはぐるま姫に移すと、うつむいた様子が見えて)
…………
(ゆっくりと立ち上がると小さな木彫りの人形を手に取って)
『やあ、こんにちは。どうしたの? お腹痛いのお嬢さん?』
(はぐるま姫の目の前で人形を動かし、演技をする。それは傍から見たら滑稽な姿かもしれない)
ベッドで。眠る。
(ひとつひとつの言葉の意味を確かめるように、呟いて。)
そうね。わたしにそうできる機会があれば、試してみるわ。

まあ、どうしたのペーション。わたし、お腹が痛いわけではないのよ。
(腹話術、というものは知らなかったのか、或いは人形の声を聞ける力の持ち主のためでしょうか)
(まなざしは、人形の向こうのペーションだけを、まっすぐ見つめていました。
けれどもペーションも、人形を持ってきていたのね。
もしかして、それがペーションの「好きなもの」かしら。
…………。
(視線が人形でなく、自分の方に向いていることに気付いて)
俺達の世界では君のようにお話を聞ける人は少なくてね。声が聞こえたらどんな風だろうと考えてこんな風に人形の真似事をすることがあるんだ。
(再度、目の前に人形を出すと)
『こうやってね? でも本当のココロハはぐるま姫だけが聞けるんだよね、イイナア?』

(人形の横から顔を出すと)
そうやって、人形とお友達になろうとしてきたんだよ。
ちなみにこの人形はテーブルの上に座っていたよ、誰かを待っていたかのようにね。

(再び立ち上がると、人形をテーブルに戻して)
俺の好きなものは別にあるし、ちゃんと持ってきているよ。
まあ。ペーションの世界には、面白い文化があるのね。
けれどもつまり、ペーションはその人形が、やさしい子だったらいいなあ、と思っているのね。
そして、友達になりたいとも。ペーションも、やさしいこころを持っているということだわ。
ありがとう。とても嬉しいわ。
(きゅるり、胸の奥の歯車が音を立てると共に、お姫様は小さく一礼をしてみせました。)
(表情はやっぱり、いつもの何ら変わらぬ、あの張り付いたような微笑なのですけれども。)

(テーブル上に置かれた人形を、目で追って)
あんなところに「いた」の。わたしの高さからでは、見えていなかったのね。
釣りをするための道具も、あの大きなベッドも、二階にあった望遠鏡も。
わたしのからだでは、見えないもの、使えないものが、たくさんあるのね。
すこし、残念だわ。
そうだね。もしこの人形に心があったら、そういう性格をしてるんだと思うよ。ちょっとお調子者のやさしい子……そんな風にね。
どういたしまして、お姫様にやさしいこころを持っていると言われるのはうれしい限りかな。

(視線の方向を合わせて)
みんな、大きなひとに合わせたものばかりだからね。
もし君の世界がもっと広くて、君と同じこころを持った人がたくさんいたら、ベッドも望遠鏡も君が見れる大きさになっていたんだと思う。
そうなると、俺はコテージには入れないかもしれないね、天井がつかえて。
(掌を頭に当ててぶつかるような仕草をしつつ)
とはいえ、君のように小さい人でも使えるかどうかは難しいけど見れる方法はあると思うんだ。
踏み台を使ったり、誰かに持ってもらったり、肩車してもらったりしてね。
さてお姫さん、今は見てみたいものとかは何かあるかな?
そうね。わたしぐらいの大きさに合わせて作られた家なんて、見たこともないわ。
旅人には、他にも小さなひとがいると聞いたことがあるから、探しに探せばあるのかもしれないけれど。
ああ、けれど、こうしてペーションやみんなと同じ場所に立てるのだと考えると。
世界が大きいというのは、きっと、とても良いことなのだわ。
(笑顔を湛えたまま、ぱん、と両手を合わせてみせました。この世界で覚えた「喜び」の仕草です。)

見てみたい、もの。
そうね。わたし、望遠鏡というのがどんなものか、使ってみたいわ。
わたしのからだでは、どんなに背伸びしても、覗き込めなかったもの。
「大きいことはいいことだ」と昔、誰かが言っていたなあ。
多分、服のサイズの話だったと思うけれど、世界の大きさに関しても当てはまるかもしれない。
少なくともこうやって一緒に雨宿りできるしね。

望遠鏡か。
椅子でも届かないなら結構大きいんだな、どこにあるんだい?
2階?
(コテージの天井を見上げてから階段を探しつつ)
でも服が大きかったら、わたしじゃ着ることができなくなってしまうわ。
だから、ええ。世界ならきっと、広ければ広いほどいいのね。

ええ。二階は、物見台のようになっていてね。
わたしでは、柵の上の方どころか、望遠鏡にも背が届かなくて。
(てくてくと、先導するように階段の前まで歩いていって)
ほら、この上よ。先に上るから、すこし待っていてね。
(なにぶん、からだの大きさが大きさです。はぐるま姫は、一段一段をよじ登るようにして、ゆっくり階段を上ってゆこうとしておりました。)
大きかったら詰めることは出来るけれど、小さかったら大きくするのは難しいんだぜ。
ほら想像してご覧。君のドレスを俺が着る姿を。

……いや、やめておこう。
それより二階だったね、物見台のようにってことは先に上っていたんだな。
(階段の前までついて行き)
ところで、この階段をどうやって……
(言い終わる前に彼女はよじ登ろうとする姿を見て)
なあ……肩を貸そうか?
君一人座るくらいの余裕はあると思うんだ?
ペーションが、わたしのドレスを。
(言われるままに、想像しようとしては、みましたけれども)
ペーションがそんなことしようとしたら、服が破けることもできないわ。
大きすぎるのも、小さすぎるのも、よくないのね。
(なあんて言ってる間も、依然、一段一段、よじよじと登っているわけですけれども。)

(声をかけられれば、階段の何段目かの上で、クルリと振り返りました。)
ありがとう、ペーション。それならわたし、お言葉に甘えようかしら。
ひとりで上ろうとすると、すこし、時間がかかってしまうもの。
まあ、入らないのは確かだね。
(よじ登っている様子を見ながら、肩を竦めつつ)

それじゃ……
(階段の途中で片膝をついて)
どうぞ、ごゆるりと。
(座りやすいように高さを合わせます)
降りるときは一人で大丈夫かな?
(よじ登っていた階段をどうやって下るんだろうと考えつつ、先ほどのシーツを探検する姿を思い出す)
それじゃあ、失礼するわ。
抱っこされたことはあったけれど、ひとの肩に乗せてもらうなんて、初めてよ。
(どうしたものかと少しばかり逡巡してから、身を乗り出し、よじよじとその肩へ登りました)
(そのまま姿勢を正してみると、結果として、肩の上で後ろ向きに座る格好となってしまったのですけれど。)
これでばっちりね。
降りるときは大丈夫よ。おじいさんは、わたしを頑丈に作ってくれたもの。
少しの段差を飛び降りるぐらい、わけないわ。
こっちの方が君も動きやすいと思ったけど……
抱っこの方がよかったのかな?
(揺れないようにゆっくりと立ち上がると、大きな鉄の人形紛いは肩に乗った人形のお姫様を伴って一歩一歩階段を登り始める)
頑丈にねえ……
(考えつつ)
君のおじいさんは、いろんなところを歩けるようにと願って、君を作ったのかなあ?
君の世界の他の仲間達とはなんだか違う気がするんだよね、色々と。
(木製の階段が軋む音が聞こえる中、世間話のようにオールドワンの男は口を開きます)
抱っこされるのは好きよ。
だってお姫様は、抱っこされるものだもの。
(肩の上でぷらぷらと脚を揺らしながら、言葉は階下へこぼれてゆきました。)
どうなのかしら。
わたしが生まれたとき、わたしは歩くこともなんにも、できなかったから。
けれども、おじいさんは、おまえたちにいのちが宿っていればいいのに、って、いつも言っていたわ。
だから、もしかすると、おじいさんの願いが、わたしにいのちを与えたのかも。
(小さな脚が揺れるたび、きり、きり、と歯車の音が鳴ってゆきます。)
なるほど、今度はご希望を聞くことにしよう。
(揺れる姫君を肩に乗せつつ、階上へと上がっていく言葉)
でも、抱っこされるのは王子様か恋人だけにしておきな。お姫様を抱っこすることは特別なことだからね。

……その様子だと
君が生まれたときには自覚があったんだな。
そしていのちが宿ってから歩けるようになったと。
(耳朶を打つ言葉と歯車の音が、はぐるま姫という存在を確認する。人間に近い人形の姫とと人形に近い人間の男の二人組はゆっくりと階段を上がっていくと)

……そろそろかな?
(階段の終わりを遠目で確認し呟いた)
特別な、こと。
それは知らなかったわ。けれどペーションが言うなら、きっとそうなのね。
わたし、覚えておくわ。

(階段の上は、物見台だとか展望台だとか呼ばれるのであろう、周囲に柵を設けただけの、吹きさらしの広い空間)
(屋根のほかに雨を遮るものはなく、風の強い日にはびしょ濡れにされてしまいそうです)
(幾つかの長椅子と、鉢植え、と隅にぽつんと置かれた、古びた望遠鏡。そのほかには、なあんにもありません。)

ありがとう、ペーション。わたし、もう自分で歩けるわ。
生まれたときからずっと、おじいさんの話を聞くばかりだったけれど。
今はこうして、自分の意思で動けるのだもの。
そう、特別なこと。
だから世の中の男は英雄に憧れたり、誰かにとっての王子様になりたかったりするものなのさ。

(吹きさらしの広い空間。古びた望遠鏡。このコテージを作った人は雲の向こうにあるものを知っていて、それを見たかったのだろうか?)
(今となってはそれを知るものはおらず、長椅子と鉢植え、そして望遠鏡だけが知っているかもしれない)

お、もういいかい?
(降りやすい高さまで膝を曲げつつも空を見上げて)
このずっと雨の降る町でどんな空を見たかったんだろう?
はぐるま姫は雲の向こうにある空を見たことはあるかい?
誰かにとっての、王子様。
そういう表現があるのは、わたしも知っているわ。ロマンティックなことね。
ペーションも、誰かにとっての王子様になりたいのかしら。

(自然に湧き出す疑問をこぼしつつ、わずかに湿り気を帯びた床を、とことこと歩いてゆきます。)

あるわ。青い空はどこまでも澄んでいて、とても綺麗で、好きよ。
この町だと、空が青いときでさえ雨が降るから、不思議だけれど。
空が青いまま夜になれば、この町でも、お星様を見られるのかしら。
(望遠鏡の下で背伸びをしてみますけれど、やはり、簡単に届くものではありません。)
んー……
(考え込みつつ立ち上がり)
そうだなあ。それはそれで憧れるが、この年で王子様は難しいかな?
白いタイツがデコボコしちゃうしね。
(くたびれた綿のズボンを叩いて笑いながら)

そりゃよかった。
青い空も星も知らないと言われたら、どうしようかと思った。
(背伸びをする様子を見て、望遠鏡の方に近づいて)
空が青いうちは星も寝ているだろうさ、彼らは夜に起きるというからね。
ちなみに俺の生まれたところだと、一日中夜の日もあれば、一日中太陽が沈まない日もあったよ。
で……だ。
(咳払いしつつ)

今度は君を抱き上げればいいのかい?
それとも持ち上げて肩に乗せればいいのかな?
王子様というのは、やっぱりスマートで、煌びやかでなければだめかしら。
ああ、けれど、そういう例えなら、わたし他に知っているわ。
王子様がだめなら、ペーションは、騎士さまを目指せばいいのよ。
(鉄のからだは、鎧に身を包む騎士に似ているでしょう。コテリと首を傾げて、そんな風に言ってみせます。)

お星様にも、寝ている時間があるのね。
この世界で生きていれば、いつかはペーションの国へも行くことがあるかしら。

(まだまだ空っぽの知識で、考えてはみたのですけれど)
ええ、ペーション。お姫様を抱っこするのは、特別なことかもしれないけれど。
わたしはこういうからだなものだから。
どうしても抱っこしてもらわなければならないことが、あると思うの。
だから、お願いしてもいいかしら。
(望遠鏡を覗くには、抱っこしてもらうのが一番やりやすいと、はぐるま姫は思い至ったのでした。)
あと、顔がよくないと駄目かな。
騎士さまか……さらわれたお姫様を助け、竜を討ち倒し、財宝を手に入れる。
そんな感じかな……そういう風に言われたのは初めてだね。
ちょっと考えてみるか。

旅をすることがあるなら、いつかは行くだろうさ。
寒い国だ、服装は厚着にして手袋と帽子も必要かもしれない。
でも、まあ……ココアは旨いかな?

ふむ、分かった。
それじゃ、不肖騎士を目指すペーションが、貴女を抱き上げる栄誉に預かりましょう。
(妙に芝居がかった口調の後、はぐるま姫の身体を抱き上げようと片膝をつきます)
お顔。ペーションのお顔は、よくないの。
わたし、そういう基準が、まだよくわからないものだから。
(ココア、と聞くと反応して、喜びの表現としてぱしん、と手を合わせてみせます。)
ココア。わたし、ココアは大好きだわ。
それはぜひ、一度行ってみなければならないわね。

(抱き上げられるにあたっては、抵抗もなく、見た目通りの軽い躰をすんなり持ち上げられることでしょう。)
ええ、よろしくね、騎士見習いさま。
それじゃあわたし、さっそく、望遠鏡を覗いてみたいわ。
(短い腕を懸命に宙にゆらめかせて、お姫様は望遠鏡に手を届かせようとしております。)
少なくとも王子様向きの顔ではないな。鏡はそんなに見てないけどね。
(手を合わせるしぐさとココアという言葉に反応する少女を見て、喜んでいるのかなと思いながら)
君はココアが好きだなあ、初めて会った時もそうだったよね。
(最初に会った時の話をしながら、抱き上げていきます)

では、望遠鏡まで参りましょうかお姫様……って、そんなに動くなよ、落っこちるぞ。
(望遠鏡へと腕を伸ばす、お姫様を落ちないように改めて抱きかかえると望遠鏡へと歩いて行きます)
ココアは、おじいさんとの思い出の飲み物だもの。
それに、あんなに甘い味なのよ。
わたし、きっと幸せというのは、ああいう味をしているのだと思うわ。

(すいすいと宙を切るばっかりだった小さな手は、ようやく望遠鏡の覗き口に届いて)
(宝石の瞳が、彼女からすれば大きなレンズを覗き込みました)

湖面が、波打ってるわ。たくさんの波紋。
すごいわ。こんなに、くっきり見えるのね。
思い出の飲み物……甘くてほろ苦い感じの思い出なのかな?
でも幸せがああいう味をしていることは、俺も同意するよ。
君にとっての幸せは多分ココアのように甘くて、俺にとってはコーヒーのようにちょっと苦いかもしれない。
でも、温かいのはどっちも一緒だしね。

(望遠鏡が覗きやすいように腕を動かしつつ)
星も覗ける望遠鏡だしね、湖の波紋もくっきりと見えるだろうに。
もしこれで晴れていたら。ひょっとして透き通るような水面や太陽の照り返しを見ることもできるかもしれないね?
(彼女が見ているであろう湖面へと視線を向けますが機械の目では、霧のような雨に遮られて波紋を見ることは出来そうにありません)
おじいさんの大好物で、わたしとお話するときにも、よく飲んでいたのよ。
だから、いのちを得て、動けるようになる前からずっと、わたしも一度飲んでみたかったの。
苦い幸せというのは、わたしにはわからないけれど。
いつかは、わかるようになるのかしら。
(生まれたばかりのはぐるま姫にとって、「いつか」は想像もつきません。)

望遠鏡というのは、星を観察することもできるのよね。
雲のない夜にこれを覗き込めたら、きっと、とても素敵なのだろうけれど。
雨が強まったら橋が沈んでしまうから、ずっとここにいるわけにもいかないわ。
(こんな曇天の中で面白いものが見えるはずもなかろうに、それでも、はぐるま姫は楽しそうに足を揺らしながら望遠鏡を覗き続けておりました。)
ありがとう、ペーション。
わたし、こうやって誰かの力を借りないと、ちゃんとものを使うこともできないから。
ペーションが優しくしてくれて、すごく嬉しいわ。
おじいさんはいっぱい君とお話していたようだね、なんだか羨ましいな。

いつか……そうだね、シナモンがケーキを美味しくするように、苦い思い出もいつか甘いものと混ざっていく頃には幸せだと分かると思うよ
そうなっていける生き方であってほしいな。
そういえば初めてのココアはどんな味だった? 美味しかった?

この雨降りも厄介なもんだぜ。
夜を迎えることもままならないし、君の言う通り橋がなくなったらいつ帰れるか分からない。
(足を揺らして望遠鏡を覗き続ける少女を抱えながら、視線を橋の方へと向けていく)

どういたしまして、こういう時はお互い様だよ。
それにお姫様を抱きかかえるのは騎士見習いとして悪くないしね。
おじいさんとわたしは、家族だもの。
家族は、たくさんお話をするものでしょう。

ココアは、甘くてやさしくて、胸の奥の歯車が、素敵な音を立て出すような味だったわ。
お店で出してもらったのよ。

けれど、そうね。とても楽しい時間だけれど。
雨が強まり出す前に、帰らなければいけないわ。
(ひとしきり堪能したのか、やがて、ゆっくりと望遠鏡から目を離して)
ありがとう、ペーション。もう下ろしてくれて大丈夫よ。
ペーションも、望遠鏡、使ってゆくかしら。
家族か……そうだな。
家族はたくさん話をするものだ。(橋の向こうを見据える目はもっと彼方へと)

胸の奥の歯車かぁ(ちょっと考え込んで)。
昔はそんな風に自分を例えた友人もいたけれど、君の場合はその通りなんだろうなあ。
機会があったら、そのココアを出す店に行ってみたいもんだ。

そろそろ時間か
(お姫様を下ろしつつ)
ん……俺は良いかな?
いつか橋の出た夜に使ってみたい。曇った空の向こうに星が輝いているのか確かめてみたいからね。
そういえば、ここに手土産を置いて行かないとダメなんだよな?
君は何を置いて行くの?
いつか、ペーションの家族の話も聞いてみたいわ。
わたしの行っている店、『笑う人形亭』というの。
イレギュラーズのひとがやっているお店だから、きっと、ペーションのことも歓迎してくれるわ。
(とことこ、小さな歩幅で、湿った床を踏みしめてゆきながあr)
夜。ええ、また夜に、わたしもここに来てみたいわ。
お姫様には、別荘ぐらいあったっていいものでしょう。
わたしだけのものじゃないけれど、たまに遊びにきたら、きっと楽しいもの。
(階段の前に立つと、きりりと音を立て、ペーションの方を振り返りました。)
わたしの好きなもの……大事なもの。
実は、ペーションが来る前に下の階に置いてきているのよ。
俺の家族の話?
ああ、いいよ。大した物語は無いけれど、そうだな……。
(顎に手を当てて考え込み)
じゃあ、その『笑う人形亭』で会ったら話すことにしよう。
でも、そんな面白い話でもないぜ。

(お姫様より一歩下がった位置で、歩幅を合わせながら)
では、今度は夜の別荘にご招待預かりましょうか。
ちょっとの雨だったら、さっきのように肩に乗ればいいしね。

(はぐるま姫が振り返ると、音質の違うギアの音が小さく鳴き、歩みを止める)
あら、先を越されてしまったか。
それで……何を置いてきたんだい?
(視線は階段の向こう、ちょっとの好奇心が下の階へと心を押して行きます)
ええ、楽しみにしているわ。
「家族」というもののお話自体、わたしにとっては、新鮮だもの。
(すとん、すとん。一段ずつ、飛び降りるように階段を下ってゆき、やがてまた一階へ)

わたしの持ってきた……ううん、連れてきた大事なものは、ほら。あそこよ。
(言いながら指差してみせたのは、ベッド脇に置かれた、小さな棚の上)
(はぐるま姫の半分ほどの大きさをした犬のぬいぐるみが、ちょこんと鎮座しておりました。)
彼は、わたしの民であり、従者。名前はトルクというのよ。
また遊びに来たい、別荘のような場所だもの。
こうしてお留守番を頼んで、次に来たとき、わたしがいない間の出来事を教えてもらうのよ。
楽しみにされちゃったよ……ココアと合えばいいんだけどね。
(肩を竦めながら、後に続くように階段を下りていきます)

連れてきた?
(指さす方向を見れば棚の上に鎮座するのは犬のぬいぐるみ)
トルク……昔、聞いた遊牧の民の名前と似てるなあ。
トルク……なるほど、トルクね。
(何度も名前を繰り返して、頭に刻み込むとぬいぐるみの前にしゃがみ込んで)
こんにちはトルク、俺の名はペーション。
君のご主人様とはそうだな……友人か騎士見習いとお姫様って間柄かな?
次に会う時まで留守番を頼まれてくれると嬉しい。
(ぬいぐるみに対しても生きているものと同じように接した後、立ち上がると)
それじゃ、俺もおいて行かないとな。
(懐から一冊の本を出します。それは何度も読み返されたようにボロボロで装丁も少し剥げてしまっています)
こいつは……森の賢者と名乗る爺さんからもらったものでね。
(テーブルにそれを置くとはぐるま姫から視線を外し、天井を見るようにしながら)
とある貴族の奥方の秘密が書かれているっていうことらしいんだけど……結局は俺には分かんなかったんだよね。
うん、分からなかった。
でも、面白くてずっと読んでたな。
そういう昔の思い出が詰まった一冊。
(時々、しどろもどろになりつつも言葉を続けます)
とはいえ、ずっと持っていたら、本もボロボロになっちゃうからね。
ここに置いておくのが良いのかなと思って。
うん、そうだ。そうなんだ。
(咳ばらいをして、はぐるま姫の方へ振り向くと)
さて、そろそろ行くとするかい?
次は夜のコテージで、見えるか分からない曇り空の向こうの星を見るために。
ありがとう、ペーション。
わたしみたいに、喋れる子たちではないけれど。
そうやってわたしの民に話しかけてくれること、とても嬉しいわ。
(微笑みは絶えませんから、さらなる笑顔の代わりに、ぱん、と両手を合わせてみせました。)

本。ずいぶん古いものなのね。
賢者さんが書いたからには、きっと、とってもためになる本ね。
わたしも今度来たとき、読んでみようかしら。貴族についても、勉強したいもの。
(咳払いに、たじろぐようなペーションの態度。されど今のはぐるま姫には、それを変だと思うこともできず)
ええ、行きましょう。
わたしたちの「好きなもの」を置いていくのは、きっと、自分の一部を置いていくようなもの。
きっとこうすることで、冷たい大水たまりの中で、みんな、この場所を自分たちのよすがとしてきたのね。
どういたしまして。
君の民というなら、そのように接しないと失礼だからね。
(ぱん、と音が鳴り、両手を合わせる仕草を見て)
さっきも見たけれど、君にとってはそれが嬉しいという表現なのかしら?

あ、いや。まだ読まなくても良いと思う。
ちょっとそれは……難しい本なんだ……うん。

(促されると再度咳ばらいをして)
ああ、そうだな。
きっとそうやって、みんな自分の拠り所を作ってきたんだろう。
……そして、俺達もね。
(先に歩みだすと外套を被り、扉に手をかけて)
さあ、どうぞ、お嬢さん。
今度会う時は『笑う人形亭』で、その時には家族の話もしよう。
ええ。ひとは喜ぶとき、こういう風にするのでしょう。
これも『笑う人形亭』で覚えたことなのよ。
(どうやらはぐるま姫は、そのお店で見た「だれか」の真似をしているようでした。)

難しい本。なら、その前にもっとたくさん本を読んで、勉強しておくべきかしら。
(入り口に立てかけてあった、葉っぱの傘。幸いにして、飛ばされてはいないようです。)
ええ、また会いましょう、騎士見習いさま。
次に会うときは、わたしも、もっとこころを満たせていたらいいわ。
(ぴちゃり、ぴちゃり)
(雨に濡れた地面へ踏み出して、お姫様は、コテージを去ってゆきました。)
(来たる折には、見知らぬどこか)
(去りゆく折には、貴方のよすが)
(雨に打たれながら、その場所は、今日も誰かを待ちわびている。)

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