＜Scheinen Nacht2022＞独立島のシャイネンナハト＜咬首六天＞

オープニング

●
　砂糖も塩もミルクもバターも小麦粉も、全部ひっくり返したような白。
　大失敗したお菓子作りのように、鉄帝国を襲った大寒波は、吹雪で全土を覆ってしまった。
　街も森林も、尾根も丘陵も、こんな風に一切を。覆水は盆に返らないし、一体全体にして何もかもデタラメのメチャクチャで取り返しが付かない。
　ここ浮遊島アーカーシュは、文字通りに浮いており上空にあるから、一目瞭然だった。
　そんな場所がもしかしたらこのご時世において、帝国の中で最も豊かな場所かもしれない。正にアーカーシュを冒険したイレギュラーズ達が活躍したたまものだと言えよう。

　アーカーシュに作られた帝国軍橋頭堡の軽騎兵隊隊長執務室――その机上には小さな木製のカレンダーが置かれている。リーヌシュカ(p3n000124)は数字が焼き印されたブロックの一つをとり、『今日』に変えた。
　未曾有の事態が来ようとも時計は針を刻み、日も月も昇っては沈み、今年も世界中から争いが消える聖なる夜――シャイネンナハトはカレンダーの通りにやってくる。
　リーヌシュカは身震いすると、パジャマを脱いでシャワーを浴びる。それから着替えは軍服ではなくコートにして、軍帽でなくパパーハをかぶった。前の晩に色々詰め込んだキャリーバッグをひきずって外へ。
　少し歩いて真新しい跨座式の単軌汽車に乗り込む。
　向かう先はエピトゥシ城――ローレットのアーカーシュ支部である。

　リーヌシュカが出発した橋頭堡のほど近くに、アーカーシュ・ポータルがある。
　かつて羽止場（はとば）と呼ばれた島の玄関口であり、現在は入島にあたって査証を導入していた。
　新たな客人はこの雪の中でもごくごく稀にちらほらと居るとはいえ、ここしばらくの間においてこれほど困惑されたケースは少ない。
「ご種族は旅人（ウォーカー）でいらっしゃるのですね、そしてローレットの関係者と……」
「そうだ」
「イレギュラーズの方であればこちらを通らずとも、エピトゥシ城の支部のほうへ転移可能かと存じ上げますが、こちらから入島される理由を伺ってもよろしいでしょうか？」
「……ッ！？」
　慣れないことを言うものではなかった。
　明らかにうろたえたアウラスカルト(p3n000256)を前に、二名の職員が目配せし合う。
「別室でご事情を伺いたく存じま――」
「可愛いじゃないですかー！」
「へう」
　突然現れた人影に、アウラスカルトがもみくちゃにされる。
「何をする、我は猛き竜ぞ、人なる子よ――」
「可愛いですねえ！」
「し、しにゃこよ」
　しにゃこ(p3p008456)はアウラスカルトの頭をわしゃわしゃわしゃし、むぎゅむぎゅに抱きしめる。
　自身はどうもか、か、かわ――気高き竜なれど、心外かつ遺憾なれど、かわいいなどと評されるらしい。
「ようこそアーカーシュへ。歓迎するよ」
　笹木 花丸(p3p008689)が微笑みながら手を差し出す。
「皆様のご友人でしたか、失礼致しました」
　職員があわてて下がる。
「今日はシャイネンナハトだもんね、ボク達が案内するよ」
　セララ(p3p000273)が渡したのは、ちょっとした観光ガイドだ。ここアーカーシュ・ポータルからエピトゥシ城までの見所などが描かれている。
（遊びに来てくれたんだ）
　近くのベンチに腰掛けていた、ジェック・アーロン(p3p004755)が立ち上がる。
　島を横断する一両だけの小さな汽車が到着するには、もう少しだけ時間があった。
「まさかあれがドラゴンなんて、職員さん達おもわないですよね」
「同情するような事態にならずほっとしてまス」
　引き気味の普久原・ほむら(p3n000159)に、佐藤 美咲（p3p009818）が頷いた。
　亜竜種のように羽の生えた小さな少女が、精霊力の防壁『セレンディの盾』を掻い潜り、傷一つない姿でひょっこり現れるなど、誰一人として想定していないに決まっている。
「なぜかような場所に人が住んでいるのか……雲の中だぞ、しかもなぜこんなところにも汝等が居る……」
　あたりのイレギュラーズを見渡し、アウラスカルトもアウラスカルトでとても困惑しているようだが。
　なにはともあれ、この空中港は順調に稼働してくれている。あたりには売店などもあり、徐々にレリッカ住人達の収入源にもなりつつあった。けれど下界はあの雪だから、さすがに観光客は居ない。
　観光客がいなくとも、地元の住人や帝国軍人などが買い物にはくるので困ってはいないが、しばらくの間はイレギュラーズも利用してやってもいいかもしれない。
「美味しかったねー」
「なんかこっちでもローストビーフとかあるみたいで、へ、へへ」
　炎堂 焔(p3p004727)に頷いて、ほむらはエピトゥシ城の方角を指さした。

　エピトゥシ城では、さっそくパーティーの準備が始まっていた。
　ここエピトゥシ城の広間は特に使用されていなかったが、リーヌシュカが「秘密基地にしない？」などと言いだし、テーブルなどが置かれている場所だった。
「んー、甘くておいしい！」
　泡立てた生クリームのボウルを指ですくったリーヌシュカが、ぺろりと味見する。
　石窯ではケーキが焼かれており、また窓の外に見えるバーベキュー設備では幾人かが夜に向けてお肉や魚、付け合わせなどの調理をしていた。
「ラジオでもチューニングしようか」
「聞こえるといいね」
　近くではヨシュアとユルグとカティという、レリッカ村の住人もパーティーの準備をはじめていた。
　腕を組んだ村長も居るように、今日はレリッカの人々や、島に駐屯する帝国軍人達も招かれている。
　食料は貴重とはいえ、ここにはローレット支部が存在し、空中神殿経由のワープポータルを利用すればイレギュラーズの分ぐらいはどうにか融通が利く。いかに戦中にあろうと、息抜きは大切なことだ。
　さすがに多忙なイレギュラーズを運び屋には出来ないが、こんな日なら島の住人や軍人達にも、分けてやったっていい。こういうときはお互い様なのだ。
　そんなこんなで、静かな冬の一日が始まった。
「輝かんばかりのこの夜に！」
　いつもとは違う、この日だけの特別な挨拶を交して。

• ＜Scheinen Nacht2022＞独立島のシャイネンナハト＜咬首六天＞完了
• GM名pipi
• 種別通常
• 難易度EASY
• 冒険終了日時2023年01月14日 22時05分
• 参加人数8/8人
• 相談9日
• 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

（サポートPC8人）参加者一覧（8人）

リプレイ

●
　伝説の浮遊島アーカーシュの地上覆うのは、遙か太古の精霊都市レビカナンである。
　そこはやがて無人となり、廃墟となり、遺跡となる。更に幾星霜の後に魔王イルドゼギアが訪れた。魔王はアーカーシュに眠る力を求め、レビカナンの中央に城を築き上げる。
　しかし魔王は滅び、それからまた長いこと、この地に眠り続けてきたのが、ここエピトゥシ城だ。
　切り立った黒曜石のような偉容は――もうずいぶん見慣れてしまった。
　今やローレット魔王城支部などと、冗談のように呼ばれて久しい。

　時間は昼頃だった。
「汝、リースリットか」
　そんな歴史の延長線上にそびえるエピトゥシ城の外壁近くで、石畳の上を金髪の少女が歩いていた。
「お変わりないようで何より、と言いたい所ですが……」
　珍しく、すこし面白可笑しさを感じてしまった『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル（p3p001984）が柔らかく微笑んだ。
　リースリットへ振り返った少女――アウラスカルト(p3n000256)は伝説の竜種だった。
　それが突然姿を現したと聞いたリースリットは、少し時間を割き挨拶に来たのだ。
　仲間達が言うには、この広大な空をあてもなく飛んでいたら偶然たどり着いた語っていたらしく――
「――『冒険家』の才能あるかもしれませんね、貴女」
「未知を暴くのは心地よい」
　そう言って尾をもぞもぞと振った。機嫌がよさそうに思える。
「ここは一体何だ。金色の野リーベルタースにも似ているが」
「此処は、よく解っていない事だらけなのですが……」
　述べながら考え、リースリットはいったん言葉を切った。
　そして頬に人差し指を添え、再び語り出す。
「恐らくは1000年以上の昔に存在した文明の、いまだ稼働中の遺跡です」
　それは過去、現在、未来を支配すると謳っていた精霊都市文明、その夢の址――
　若いアウラスカルトでなく、他の竜であれば、あるいは在りし日を知っているのだろうか。
「これ程の文明を築いた人々に何があったのか……」
　アウラスカルトは思いの外、熱心な様子で聞いている。
「歴史学、考古学。こういうものには、興味がおありのようですね」
　機会があれば図書館にでも連れて行ってみたいところだ。
　けれど『百年は出てこないかもしれない』などと思い至り、リースリットは再び微笑んだ。

　この日、フローズヴィトニルの大寒波は僅かに収まっていた。
　あたかも聖なる夜を祝福するようでもある。
「無事シャイネンナハトを迎えられて良かったでスね、ほむら氏……」
「七分前でしたもんね……あったま痛い」
　陽の光が目に染みる。
　なんだか昨夜の激闘（！？）が思い出されるようだった。



　解熱鎮痛の常備薬をそのまま飲もうとした普久原・ほむら(p3n000159)に、『合理的じゃない』佐藤 美咲（p3p009818）は水を渡してやった。ほむらは躊躇し、はにかんでから飲んで礼を述べた。
　今日はシャイネンナハトで城内は朝からパーティーの準備に忙しいが、二人は先程起きたばかりだった。
　原稿と戦っていたのである。
　ならばと空中港で様子見ついでの買い出しだ。
　市場は再現性東京と全く違い、珍しいものが沢山売っている。
　港ではアウラスカルトを誘導出来たということは、監視はきちんと機能しているようだ。
　もっとも――
（……制度作った側もここに通りすがりの竜種が来るとか想定してないスよ……）
　――ともあれ、素朴な商品を眺めながら二人は話し込んでいた。
「今の戦いもそうスが、空中港が本当に活用されるのはきっと数年先、アーカーシュの生産物を外に送り出す時でしょう。優先度はレリッカ村の次にはなりまスが、これからはここの防御も考えないとスねー……」
「……ですね。練達並にとはいかないでしょうけど」
「……といいまスか。すみませんね、シャイネンナハトに仕事の話ばかりで」
「あ、あーいえ、だいじょぶです」
「食べたい物いろいろ買っていきましょうか。
　なんせ今日の金は多分経費で落ちますから！
　どうせ正月はあれやこれやに課金するんでしょう？」
「へ、へへ。実際の性能次第ですが、どうせ壊れぶちこんでくるでしょうし」
「私はどうせ爆死するので！」
「私も天井出来る石残ってないんですよねえ……」
　さて、今日も執務中であろう歯車卿に感謝して、買い物をしよう。
　値段なんて見ないでいい。なんたって経費だ！

●
　徐々に日が暮れ、葉を落とした広葉樹に精霊灯のイルミネーションが輝き始める。
「輝かんばかりのこの夜に！　こんにちはシュカちゃん！」
「輝かんばかりのこの夜に！　サクラ！」
　この間、ラド・バウで戦って以来だろうか。
　駆け寄るリーヌシュカ(p3n000124)と握手を交した『ラド・バウA級闘士』サクラ（p3p005004）は、互いにずいぶん強くなったと思う。
「鉄帝の冬は本当に寒いね～。知ってたけど思ったよりずっと大変だった。」
「わたしだってこんなの初めてよ。産まれてからいちばん寒い！」
　光を眺めながら、二人はベンチへ腰掛けていくらか話し込む。
「私は天義の人間だから、本来は敵国の人間だよね」
「うん。今はほとんど休戦状態なだけで、本当は戦争中とすら思ってるわ」
「だから昔は侵略する鉄帝は悪いやつだ！　って思ってたんだよね」
「否定は出来ないわ。わたしですらそう思うことがあるもの。けど、今は？」
「侵略が良い事だとは今も思わないけど、そうせざるをえない状況にある事を知らなかった。ううん、知ろうとしなかった」
　作物が育たないなら、育つ土地を得るしかない。
　そこに人が居れば、武力で奪い取ることになる。
「……」
「今は鉄帝を豊かにしたいと思ってる。この国に住む強い人も弱い人も楽しく暮らせる国にしたい」
「うん、わたしだって同じこと思ってる」
「その為にも冠位魔種を倒さないとね！　いっそ一騎打ちで倒して皇帝になっちゃおうか！」
「いいじゃない、だったら競争よ！　……って言いたいところだけど」
「だけど？」
「あなたたちに頼るしかないのね」
　帝国の民ならば、誰しも皇帝挑戦は夢にまで見るだろう。
　だが魔種となればイレギュラーズに頼らざるを得ない。
　今やかなわぬ願いに、リーヌシュカは天へ白い息を吐き出した。

「来てくれたんだね、アウラスカルト」
　そう尋ねた『天空の勇者』ジェック・アーロン（p3p004755）に、アウラスカルトが頷いた。
　とはいえ、それとも――
「……迷い込んだ、っていう方が正しかったりする？」
「たしかにな、より正確な表現だ」
　思わぬ運命のいたずらに、ジェックは微笑んだ。
　さしもの竜も、この地のことは知らなかったらしい。
　おおかた城内や観光名所は誰かが案内するだろうから、ジェックは城の外を見せてあげようと思う。
　木々も、橋や掘も――かの魔王城でさえ綺麗に飾り付け、精霊灯が煌めいている。
　二人は城近くの林を十分ほど歩く。
　ジェックのほうを何度も振り返りながら尻尾を振る様は、幼女のようにも、人懐こい猫めいても見えた。



　それから城内の静かな小部屋で一休みする二人は、ジェックが持ってきた発泡葡萄酒を楽しんでいる。
「不思議な光景だったでしょう？」
　再び振り返った少女へ尋ねると、素直に頷いてくれた。
「ああ、魔王城って言って伝わるかな。キミが読んだ本の中にあったかな、勇者と魔王の話は」
「雛の頃に読んだことがある」
「ここはその戦いの地……ではなく、魔王がスペアやクローンを用意していた後詰めの城らしいよ」
「汝等も未知を覇し暴き、それを手にしたのだな」
「うん、結局使われることはなかったみたいだから、アタシ達が有効活用してるの」
　思えば、ずいぶん打ち解けた気がする。
「しかしこの島の民は竜を相手に勇敢なものだ、先程はよもや立ち塞がるとはおもわなんだ」
「ああ、今鉄帝は戦争中で、ここアーカーシュにも魔種が紛れ込んでたから、一時的に入島検査をやってるんだよ。驚かせてごめんね、ビックリしたでしょ」
　入島検査にひっかかりドラゴンとは、なんだか笑ってしまうが。
　しかし夏のシレンツィオ、あのリゾート地でも思ったのだが。
「アウラスカルト、キミ、設定統一した方が良くない？」
「……そういうものか」
「人の世で過ごすなら、何かあるたびに怪しまれちゃうよ」
　名を使われるのは構わないと伝えると、アウラスカルトははにかむように頬を染めた。

　そんなこんなで、そろそろ夕食時だ。
「そうなんだ、ほむらちゃんローストビーフ食べたいの？」
「あ、は、はい。へ、へへ。お肉美味しいので」
　尋ねた『炎の御子』炎堂 焔（p3p004727）に、ほむらは曖昧な笑みを浮かべる。
「じゃあお城まで一緒に食べに行こうか！　他にも色々あるみたいだし、楽しみだね」
　そんなこんなで市場からお城へ。
　数日前に希望ヶ浜で食べたスイーツの想い出なんかも語りつつ。



　手を繋ぐとほむらは頬を染めて、引っ張られるようについてきた。
「わー！　凄いね、色々あるよ！」
「へ、へへ、そうですね。隅っこで食べたいですね」
　パーティー会場はさながらビュッフェのようになっており、数々の料理が並んでいる。
　まずはローストビーフを貰うとして、それ以外も全部美味しそうで迷ってしまう。
「お肉とかばっかりはダメだよ、ちゃんとバランスよく食べないと！」
　ほむらと美咲が固まった。皿の上は見事に赤と茶ばかりだったから。
「は、はい」
「……そうでスね」
「ほら、お野菜も取っておいたから食べよう！　はい、あーんってして！」
「……っ！？」
　やばい、陽の者だ。
「……あ、あーん」
　観念したようにほむらが口をあける。
「そういえば、美咲ちゃんとほむらちゃんで本作ったんだって？」
「久しぶりにペンタブとか使っちゃいました」
「よかったら今度読ませてよ！
　もしかしてもうどこかで売ってたりするのかな、だったら買いに行くからどこで売ってるのか教えて！」
「え、あ、あ。ええと、年末のイベントで……」
　そう。それは――

　――再現性東京202X：同人誌即売会pants panty project-dreamer！

●
「――輝かんばかりのこの夜に！」
「輝かんばかりのこの夜に」
　竜もこの挨拶をするのだなと『なじみさんの友達』笹木 花丸（p3p008689）は思った。
　花丸はこの竜とも聖夜を過ごしたいなどと思っていたら、まさか現れるとは。
　驚くが、あるいはこれも聖夜のプレゼント――などということになるのだろうか。
　花丸は城内を興味深げに観察するアウラスカルトを、軽く案内しながら会話を楽しむ。十分ほどそうしてから、立ち話も落ち着かないと、花丸はアウラスカルトをパーティー会場へ誘った。
「花丸ちゃん達のシャイネンナハト……もとい、クリスマスパーティーにご招待だよ！」
　やけに重厚な扉を開くと、目映い光が視界に飛び込んでくる。
「えへへ、じゃーん！」
　振り返った花丸が両手を広げると、アウラスカルトが目を丸くした。
「パーティーに合わせて皆で飾りつけも頑張ってみたんだ！　勿論料理の方もねっ！」
　そのままテーブルへ案内して、椅子を引いてやる。
「クリスマスとは、旅人流の呼び名か」
「そうだよ、花丸ちゃんの世界ではそう呼んでいたんだ。ご馳走を食べてお祝いするんだけど、沢山用意したから、アウラさんもぜひ楽しんで言ってねっ！」
　花丸はちょんと腰掛けたアウラスカルトへ飲み物と食べ物をとってやり――
「アウラさんにもジュース……ジュースで良いよね？」
「構わない」
　まさか、まさかもう飲酒してるなんてね（！？）。
　――そんな訳で。

「―輝かんばかりのこの夜にっ！」

　＼カンパーイっ！／

　皆で乾杯して、いよいよパーティーの始まりだ。
「これ美味しいよ、ほら食べてみて」
　あれやこれやと勧めながらも頬張ったお肉は柔らかくて、口の中いっぱいに幸せが広がった。
「いやー…再生怪人…もとい、四天王は強敵だったねっ！」
「再生、怪人とは」
　この地であった色々な出来事を面白おかしく語ると、アウラスカルトは興味深げに瞳を輝かせる。
　そういえば――
「アウラさんの方は何をしてたの？」
　アーカーシュを見つけるぐらいなのだから、いろいろな場所を散歩していたに違いない。
「よかったらその話、花丸ちゃんにお話してくれると嬉しいなっ！」
「不思議な冬が来ると思った」
　どうも鉄帝国のあたりが気になって、好奇心に駆られて飛び回っていたらしい。
　騒ぎにならないよう。雲間に隠れて。
　なんとも彼女らしい理由に、花丸は微笑んだ。

　ヨゾラと祝音もカバンにいっぱいの食料を詰め込んで、このエピトゥシ城を訪れていた。
　広間へと姿を見せたヨゾラはリーヌシュカに手を振った。
「リーヌシュカさん、こんにちはー！」
　和やかに手を振ったリーヌシュカの後にアウラスカルトがとことこ歩いているのにヨゾラは目を見開く。
（もしかして……アウラスカルト！？　深緑の時すごい魔術使った）
　魔術師として内心うずうずしてしまう。色々あったのだろうけど、今はイレギュラーズにとって、味方のような曖昧なような、そんな存在となっている。。
　ある意味で、輝く星のような――。
　だからどうか、今後も仲良くありますようにと星に願う。
「楽しそう。みゃー」
　祝音はふるふると柔らかく震えるローストビーフに目を輝かせる。
「猫さんはいるかな……さすがにいないかな、いたら撫でたいな」
「にゃん」
「あ、いた！　猫さん用のご飯はこっちだよ。みゃー」
　祝音は猫と一緒にパーティの賑わいを見つめる。
「アーカーシュのクリスマス、楽しいね。冬を超えて、冠位憤怒や鉄帝での敵を倒して……春より先になっても。アーカーシュが賑わって楽しくありますように。みゃー」
「おお！　こんな所にアウラスカルト様がいるとはのう……」
　仕事の帰りにアーカーシュへと寄ったオウェードはアウラスカルトの姿を見つけ深々と腰を折る。
「うむ」
　こくりと頷いたアウラスカルトにオウェードはこの場所で起った戦いの話しを語った。
　空の下で起きている鉄帝の動乱の事も掻い摘まんで説明する。
　相づちを打つアウラスカルトを案内し終えたオウェードは来た時と同じようにお辞儀をして口元に笑みを浮かべた。
「しかし、練達でお前さんと初めて出会い……変わったのう……お互いに」
　別れを告げたオウェードはそのままローレットに帰還する。
（リーヌシュカ殿にも会いたかったが、余裕がない……すまぬ）
　そんな想いを抱きながら。

「こうして話すのは初めてであるなアウラスカルト殿」
「汝は――」
「吾輩は炎練倒である」
　尋ねるアウラスカルトに『ノットプリズン』炎 練倒（p3p010353）は自己紹介する。
「竜種であり深き知性を持つ貴殿とはゆっくりと話してみたいと思っていたであるが先ずはパーティーを楽しもうではないか」
　会場には続々と人が集まりつつある。

「それじゃ遊ぼー！」
「おー！」
　パーティー会場でアウラスカルトを見つけた『魔法騎士』セララ（p3p000273）と『可愛いもの好き』しにゃこ（p3p008456）は、彼女にもお揃いでサンタ服を着せてみた。



　ともあれ、まずはケーキを食べさせてみたのだが、いろいろな食べ物に目移りしてしまう。
「アウラちゃんって呼んでもいいですか？」
　しにゃこが尋ねる。だってアウラスカルトって噛みそうだし。
「構わん、人の世ではそのように名乗るようにしている」
　やったぜ！
「ほらほら、ローストビーフですよ！　ケーキですよ！」
「……食えと」
「はい、あーん！」
　ゴリ押し気味だが、アウラスカルトは小さな身体のどこに入るというのか、底なしに食べてくれる。
「いやすいません……ついいっぱい食べさせないといけないみたいな気持ちに……これが母性？」
「……」
「でもほらドラゴンなんですし、いっぱい食べるんじゃないんですか？」
「食うときもあれば、食わない時もあるが。汝はどうだ？」
　時間の流れが穏やか――というより、浮世離れしているように思えてくる。
「しにゃは結構食べるタイプですよ！　ハイエナですので！」
「ドーナツもいかが？　美味しいよ」
「うまいな、人の食事は繊細だ」
「うん。人間の料理には美味しいものがいっぱいあるの」
「興味深い」
「だったら色んな物を食べるのを目標にするのはどうかな？」
　そんな風にして、語り合ったのはいろいろな話だ。
　話が弾んだのはやはりアーカーシュでの冒険物語だ。
　魔王のこと、四天王のこと、それからパトリックのこと。
「それじゃあアウラちゃんに質問タイム！」
「はい！　アウラちゃんは、普段は何してるの？」
　しにゃこの宣言に、セララが元気よく手を挙げた。
　こんな時でなければゆっくりとは話せないから。
「あちこちを旅している」
「好きな食べ物！　あとは趣味はなんです？」
「忙しないな。人の作る料理というものが気になっている。それから書物を読むことか」
「しにゃは肉！　スイーツ！　趣味は可愛いもの集めです！」
　アウラスカルトが言うには、普段は身を隠しながら飛行し、街を発見したら徒歩で入り、好奇心の赴くままに散策しているようだ。一所には長居せず、本を買っては旅に出て、読み終えては次の街で売るといった生活を楽しんでいるらしい。
「住む場所が決まってないなら、ここなんてどう？」
　ここならイレギュラーズが飛んでくることも出来るし、エピトゥシ城なら部屋も余っているだろうから。
「……そうか」
　アウラスカルトは考え込んだが、「悪くない」と呟く。
「最後にしにゃの最初の印象と今の印象！」
「小さき者……取るに足らない些細な生き物だと考えていたが――」
　見上げながら言うものだから、なんだか可笑しい。
「――救世主、竜と並びうる存在か」
　なんか大仰なの来た。
「しにゃからアウラちゃんは……最初は色々ありましたけど、今では可愛い妹分ですよ！」
「……妹、とは」
「人間社会的にはしにゃの方が先輩だからいいんですよ！」
「そうかもしれない」
　三人はすっかり話し込み、ようやくお腹もいっぱいになってきた。
「ときに人よ。竜に宴を供するとき、竜は礼をするものだ」
「だったら今度、背中にボクを乗せて飛んでほしいな！」
「しにゃも相乗りさせてください！」
　楽しそうでわくわくするお願いに、アウラスカルトはゆっくりと頷いた。
　竜はとてつもなく速く飛ぶのだろう。
　うらやましくも思う。遅刻しそうな時とか。
「しかと心得た」
「アウラちゃんが困った時はいつでも助けに来ますからね！
　ドラゴン並みに早く飛んで駆けつけます！　気軽に呼んでください！」
　そんな約束もして。

　夜は穏やかに更けてゆく。
「あっ、お酒もあるんだ、せっかくだからちょっとだけもらっちゃおうかな」
　焔が目を付けたのは、度数の低そうなリキュールだった。
「あー、じゃあこれジュースで割るといいですよ」
　ほむらが言う通り、ラズベリーのリキュールをグレープフルーツのジュースで割ってみる。
「ぷひゃぁ！　たにょしくてぇおいしぃねぇ！」
「え、秒で！？」
　やばい、焔がすげえ酔い方してる。
「ほむらちゃんはぁ、おしゃけのめにゃいのぉ？」
「あ、あーいえ、ほんとは大丈夫っていうか、おっさんなので」
「おっひゃん？　わかにゃい、こんにゃにたにょしくなれりゅのに、もったいにゃいねぇ」
　ほむらは一瞬で酔った焔の介抱をしようと飲んでいなかっただけだが、もうなんか話が通じてない。
「じゃぁ、かわりにむぎゅぅーってしてあげりゅね！　むぎゅぅー！」
「……ヒュッ」
　いきなり胸にうずもれた焔に、ほむらが呼吸を止める。
　先程まで希望ヶ浜の制服だったほむらだが、魔王城にテンションをあげた結果、ティファレティア装束に着替え直していた。魔王だから。
　ところがこれだ。
　焔は焔でなんというか、ちょっとだけはだけてきており、絵面が（ほむら好みで）やばい。
「んぅ？　ほむらちゃんにゃんだかいいにおいがしゅりゅー！　おいしそー！」
「へ、へっ！？」
「ちょっとだけぇ、おみみはむはむしてもいい？　はむはむ」
「ぁ、ぁぁー……」
　ほむらがおかしな声を出しながら身をよじる。
「んー、あじはよくわかんにゃいやー、あははははは！」
　ひとしきり笑った焔は、そのまま胸に顔を埋めるようにして瞳を閉じた。
「うゆぅー、にゃんだかねむたくなってきちゃったぁ、おやしゅみー……」
「ちょ、ま。こ、これどうすれば」
　とりあえず床に落ちないように抱っこしてやっているが、とにかく（百合っけが強くて）やばい。
「……南無、ほむら氏。屍は拾っておきまス」
　美咲は拝んで誤魔化し、グラスにスピリッツをいれて持ってきてやった。
　そういえば――美咲は思う。
　昼はほむらを右腕側に立たせていたが、彼女はまるで気付いて居ない様子だった。
　美咲の左腕は生身同然に見えるが、機械になっている。
　隠している訳ではないが、今日出すような話題でもなかったから言わなかったのだ。
　そもそもほむらは美咲と違って、本質から闘争の人間ではないのだろう。
　とはいえ件の盗聴器にせよ、交友関係は『組織』に目をつけられやすい。
（……年が明けたら、私がなんとかしないとなぁ――）

●
　賑やかな会場の側にある小さな会議室では、歯車卿とマルクが書類と格闘していた。
　二人をパーティーに呼びに来たのか、リーヌシュカは室内に入るなり「こんな日に信じられない」などと呟いて眉をひそめる。けれどしばらくしてから溜息ひとつ、自身も部隊の帳簿を処理し始める。
　戦いのない夜だというのに、さながら戦場のようであるが――
「……こんな所ですかね。休憩しましょうか」
　――ようやく一区切り。
　執務を終えた『浮遊島の大使』マルク・シリング（p3p001309）は、ゆっくりと息を吐き出す。
　ようやく休暇の到来と言える状態に持ち込むことが出来た。
　そんなことを考えながら、いったん執務室を出たマルクは、廊下で『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ（p3p004400）と鉢合わせした。
「あら、お疲れ様。輝かんばかりのこの夜に」
「輝かんばかりのこの夜に」
　飲み物と軽食を取りに行こうという話になり、会場へ向かった。
　マルクは酒に強くなく、リーヌシュカも居るからとノンアルコール・カクテルを手に取る。
　歯車卿は――実家が酒屋だというし、強そうだけれど。
　それから再び、執務室へ。
　リーヌシュカは背もたれに身体を預けながら天井を眺め放心しているが、歯車卿は書類を確認していた。
　仕事は一応終わったはずだというのに。
「お疲れ様ねぇ、こんな夜くらいお仕事も休めばいいのに」
「ええ、しかしお陰様で。今年は比較的早く終えることが出来ました」
　この夜、今も今まで働きづめだったのだろう。
「リーヌシュカちゃんもお疲れ様。書類のお仕事、よく頑張ったわね」
「アーリア―……」
　アーリアは歯車卿を労い、リーヌシュカの肩を軽く揉んでやる。
「では改めて。アーリアさん、シュカさん、歯車卿！　輝かんばかりの、この夜に！」
「「「輝かんばかりのこの夜に」」」
「さっそくだけれど、これなんてどうかしら？」
　バスケットに詰めたのは、パンにローストビーフやポーク、マッシュポテトを挟んだサンドイッチだ。
　執務スペースでも食べやすいように、他の料理にもピックをさしてある。
　それからもうひとつは『とっておき』。
　てきぱきと用意しながら、アーリアは思う。歯車卿はなにかと悪態をついたりと口は悪いが、縁もゆかりもないはずのこの地のために働く彼を嫌う者などいるものかと。
　だから――
「今からこの一本分だけは私に付き合ってもらうわ！」。
　そう言って用意したのはとっておきのお酒に、グラスは三つ。
「私達と、夢見がちな貴方の友人の分」
　歯車卿は微笑むと、グラスを手に取った。
「そうですね…･･ありがとうございます。それでは乾杯しましょうか」

　――輝かんばかりの、この夜に、乾杯！

　食事が美味しければ会話も弾んでくる。
「アーカーシュに来てまだ数ヶ月だけど、色々あったお陰で、何だか第二の故郷のように思えてきたよ」
　貢献してきた自負もあれば、それ以上の重責を背負っている自覚だってある。
「なんだかボクもそう思えてきました」
　実に珍しく、険しい表情を柔らかく崩している歯車卿が、ついに微笑んでくれた。
　一人称も普段の『私』から代わっているが――アーリアは思う――こちらが『本来』なのだろう。
「次のシャイネンナハトは、鉄帝全体で、もっと平和に、盛大に祝えるようにしたいね」
「ええ、そうですね」
　そんな光景を眺めながらノンアルコールカクテルに口を付けたマルクは、窓の外へ視線を移した。
　今宵が戦いを禁じていたとして、明日を掴もうとする決意が阻まれる謂れは無いのだから。

　そんな城の外、きょろきょろと辺りを伺っていた少女に、『黒き葬牙』ベネディクト＝レベンディス＝マナガルム（p3p008160）と『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン（p3p007926）は声を掛けてやった。
「やあ、アウラスカルト。輝かんばかりのこの夜に」
「輝かんばかりのこの夜に」
「ベネディクトにリュティスよ、輝かんばかりのこの夜に」
　リュティスは思う。今宵の出会いは、まるで神様のいたずらではないかと。
　まさか来るとは思ってもいなかった。
「少し冷えますが、よろしければご一緒にいかがでしょうか？」
「ああ、我が従者と食事でもしようかと思っていた所でな。良かったら食べて行かないか？」
　少女が呼びかけに頷く。
「俺が言うのもあれだが、彼女の料理は絶品だぞ」
　巨大なかたまり肉を昼前からじっくりと焼き上げるダイナミックなものがアーカーシュ流とすれば、細かく切りそろえた肉を小さな串に刺す繊細なスタイルがマナガルム流だ。
　食べやすい上に、調理時間も余りかからない。
　お肉は鶏豚牛と揃え、下ごしらえはベネディクトも手伝っている。
　調味は塩の他に、ソースも練達の醤油やバーベキューソースなどを用意していた。
　それから熱々のとろとろに溶けたチーズを掛けるのも良い。
　温野菜や温かなスープや飲み物の用意も出来ている。肉ばかりでは飽きてしまうだろうから。
「そうしよう、そういえば我は下界ではマナガルムであった」
　そんな答えに微笑みながら、ベネディクトはグラスを軽く掲げてみせる。
「アウラスカルトは飲み物はどうする。俺は酒を飲もうと思うが」
「同じもので構わん、詳しくないゆえ」
「好みはあるか？」
「甘いほうがいい」
　なるほど。だったら飲みやすいものにしてやろう。
「今日こちらに現れたのは偶々か？」
「そうだ」
「ならばまた訪れると良いんじゃないだろうか。君に興味のありそうなものがあればだが」
　イレギュラーズの中には彼女を友人と考える者も多い。
　神出鬼没な竜がどこに居るか、所在が明らかになっているほうが良いだろうとも伝える。
「そういうものか」
　アウラスカルトは考え込んでいるようだったが――
「しにゃこか」
「はい、なんですか？　しにゃはかわいいしにゃこです」
　ちょうどいい所に、騒々しいピンク髪が現れた。
「しにゃこは可愛い物が好きだから、アウラスカルトにはべったりだな。余り困惑させてやるなよ」
　そうは言ったが様子をうかがうに、まあ心配するほどでもないような気もする。
「折角ですし、手伝ってもらいましょうか」
　声を掛けたリュティスを見て、ベネディクトは思う。
　相変わらずしにゃことも仲が良いようだし、リュティスとしにゃこも仲が良い。会話も弾むだろう。
「仲は良いのでしょうか？」
　ベネディクトの前でリュティスが首を傾げるが、声に出ていたか。
　ともあれリュティスとて、腐れ縁であるのは間違いないとは思うのであった。

　そんなこんなで準備が整った。
「今日誘ったのは俺達だからな、先ずは客人であるアウラスカルトに食べて貰おうじゃないか」
「……ッ！」
　串にかぶりついたアウラスカルトの肩がぴくりと跳ね、瞳が輝いた。
「感想はどうだろう？」
「……うまい」
　良かった。それでは自分達もいただくことにしよう。
「今日というこの日は争いを考えずに、平穏を噛み締める事が出来る……うん、美味いな」
　それに景色もいい。
「アウラスカルトはどうだ？」
「願わくば、このような日々が未来永劫に続けば良いが」
　それから一同は食事と会話を楽しみ――

　――飛び立った竜を見送りながら、聖夜の宴は夜更けまで続いたのだった。

成否

成功

ＭＶＰ

なし

状態異常

なし

あとがき

　依頼お疲れ様でした。

　シャイネンナハトの一幕でした。
　せっかくなのでクリスマスピンナップの添付SSを本日納品しています。
　合わせてお楽しみいただければ幸いです。

　それではまた、皆さんとのご縁を願って。pipiでした。