イラスト詳細
見守る距離の「 」
イラストSS
浮遊島アーカーシュ――エピトゥシ城の夜。
近くの林を歩けば、真冬の済んだ大気に精霊灯のイルミネーションが煌めいている。
「人はこの聖なる夜を祭事として、細かな光を数多く灯すのか」
アウラスカルトは何度か会った通りに、素っ気ない物言いだ。
けれどあまり動かない表情は輝いて見え、なんだかんだちゃんと感激しているようだった。
じっと眺める様子から感じるに、アウラスカルトはこういうものについて、書物や何かの知識はあるだろうけれど、経験自体はなさそうに思える。
どのみち人と交わっての聖夜は初めてだろうから。
「気に入ってくれたみたいで嬉しいな」
どうもこの竜は、こういったきらきらしたものが好きらしい。
ジェックも自然と微笑みが零れる。
「ジェック、あれは何だ?」
「ああ、うん。これは飾りなんだよ、綺麗だし可愛いでしょ」
「確かに美しい。そうかこの衣装や飾りと同じような理屈か」
振り返ったアウラスカルトが、手袋に包んだ手で自身のリボンを軽くつついた。
「そう言われれば、そうかもしれないね」
少女の歩幅に合わせてゆっくり後ろをついていくと、アウラスカルトはそんな風に何度もジェックの名を呼び、振り返っては問うてくる。最早あきらかにはしゃいで見える姿が、楽しそうで何よりだ。
「そうそう、居るのを知って急いで仕入れてきたんだけど」
一通り見て回った後、ジェックは切り出した。
「折角だから、こういうの飲んでみない?」
バルツァーレクの白。スパークリングだ。ちょっとお高いが飲みやすい。
「人は祝い事に酒を飲むのだったな。分かった」
両者の間にあったぎこちなさのようなものは、もうほとんど感じられなくなっていた。
ほっとするような、嬉しいような、ありがたいような。そんな気がしてくる。
この聖なる夜と、誰かが飾ってくれたオーナメントに感謝して。
城に戻ったら一緒に乾杯しよう。
※SS担当者:pipi