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シナリオ詳細

<エウロスの進撃>赤き城塞と地の底にある怨嗟<貪る蛇とフォークロア>

完了

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 フェンリル――悪評高き狼『フローズヴィトニル』の遠吠えが鉄帝国の全土を覆いつくしていた。
 新皇帝に彼の麗帝が倒され、鉄帝国が六つの勢力へと分裂を期して以来、初めての冬。
 各派閥は各々の思惑の下、自分達の保持する影響力を転用して各々の勢力圏にて『冬』に抗っている。
 そしてそれは、鉄帝国の北東――ヴィーザル地方にもほど近いクラスノグラードなる町でも襲い掛かっていた。
「ひっひっ、未曽有の大寒波ですからね……ささ、皆さんもこちらをどうぞ」
 引き攣ったように笑うのはルリビタキの飛行種であるという男。
 ダヴィットなる彼はラダ・ジグリ(p3p000271)が創設した商会の鉄帝支部長を務める人物だ。
 ダヴィットが持ってきたのは湯気立つコーヒーやワイン、紅茶と言ったドリンク類。
「助かった。物資の方は滞ってないか?」
「やはり、暖房用の木材や油が売れに売れていますね。
 その次に防寒具ですが……こうも激しいと普段と同じとはいきません」
 ラダの問いにそう言って肩を竦めるダヴィットもただでさえ小柄でふっくらとした身体を防寒具で覆ってもっこもこだ。
「それに、聞いた話ではローゼンイスタフや不凍港との交易路が滞りがちでして。
 こちらも何度かルートを変えてるんですが……新皇帝派ですか?
 どうにも『敵』に狙われているようで」
「……その件についても話し合った方が良さそうだな」
「よろしくお願いします。私は店の方へ戻りますので……」
 そういうとダヴィットはぺこりと頭を下げて立ち去った。
「この町も大変みたいね。来た時から分かってたけど」
 立ち去っていったダヴィットを見て、イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が呟いた。
 思い起こすまでもない。今使わせてもらっているラダの商会鉄帝支部の外は今も大雪だ。
 クラスノグラードまでイレギュラーズは直通できる。
 これは設置された簡易ワープポータルのおかげだ。
 それでもこの支部に来るまでの間に人々の様子は目に見えていた。
「……幸い、凍死された方はまだいないみたいです。
 外に出た時に滑って骨を折ってしまった方はいるみたいですが」
 そういうココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は同じ医術士見習いのダリヤから現在の傷病者の数については聞いている。
 今のところ、死者はいないという話にはホッと胸を撫でおろすものだ。
「で? 結局今日は何のために来たんだっけ?」
 そういうのはヨハン=レーム(p3p001117)だ。
「……『亡者』と『亡霊』がどこへ逃げたのか。
 それを皆で考える話だったはず」
 小さくイズマ・トーティス(p3p009471)が呟く。
「霊魂がらみとも思えるこの事件、少しこの地の霊魂に話を聞いてみようか」
 そういうのはリースヒース(p3p009207)である。
 かつては死霊術士であった彼は、それ故に霊魂との意思疎通を図るすべに長けていた。
「出来れば『亡者』とは会話できる機会が欲しいわ。
 彼? がどういった存在なのか、より詳しく知っておいてもいいはず」
 そう呟いたレイリー=シュタイン(p3p007270)に対して、
「でも……残念ですけども、敵なら『亡者』はしっかり浄化しなきゃでして」
 そう続けたルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)の言葉も正しくはある。
「そもそも、なぜ連中は『亡者』を連れてきた?
 あそこまで弱いと足手まといだろう。
 先の会談を失敗させたいのなら、足手まといを連れてくる理由がない」
「ん~僕らを舐めてたとか?」
 ラダの疑問にヨハンが答える。
「まぁ、それは冗談だけどね。
 あいつらだって、ヴァルデマールだっけ? 頭を僕らが討ったことは覚えてるはず。
 自分達より単独なら確実に強かったであろう魔種を討ち取ったこっちを舐める相手じゃないでしょ。
 その程度なら前回の時で全部片付いてたはずだし」
 冗談めかした自分の予測をさらりと撤回しつつ、ヨハンが本当の推察を述べる。
 相手は傭兵だ。ヴィーザル戦線まで戦場を探して渡り歩いてきた連中。
 敵を見誤り、引き際を間違えるようなポンコツだとは思っちゃいない。
「確かに……侵入ルートは完璧だったし、撤退もスムーズだった。
 想定内の行動を想定内にやられた感じだった」
 結ぶようにイズマはそういうと、当時の事を振り返る。
「連れてきた理由も彼がどういった存在なのか知れば見えてくるかもしれないわ」
「……そうね」
 レイリーが言うと、それまで黙っていたイーリンが不意に小さく肯定の一言を述べる。
「もう1つ着目すべきところがあるわ」
「お師匠様? 何か閃いたことでもあるんですか?」
 手の指同士を合わせて頭をフル回転させていそうなイーリンの言葉にココロは首を傾げていた。
 イーリンは薄く笑うと、その閃きを形にするように、1つ1つ語り始めた。
「連中がどこから来たのか――はこの際どうでもいい。
 問題は『どこへ行ったか』」
「どこへ行ったか、ですか?」
「ええ、あの時、私達は外から迫る天衝種の攻撃から町を守るメンバーと、
 町の内側から会談を守るメンバーに分かれていたわ。
 魔獣から包囲を受けていたともいえる。
 でも――それは外から見た時の話でしょ?」
「……『内側から外へ逃げる』なら、
 今度は私達や外で戦っていた人達がこちらの中心にいた『亡霊』たちを包囲してることになる……?」
 ココロが繋ぐと、イーリンがこくりと頷いて肯定してくれる。
 あの時、イレギュラーズはほぼ全員が10人規模の小隊と共に戦っていた。
 小隊員や町の中にいた防衛隊の連中を含めればほぼ200人強があそこにいたはずだ。
 どうやって、そんな包囲網の中からたかだか5人の傭兵が――それも足手まといを抱えて撤退に成功したのか。
「どこから来たのか、は私達が来る前から町の中に潜入されていたなら意味がない。
 でも、あそこから出て行ったのなら、私達の目を盗んでどうやって退却したのか……ということですね」
「そうよ、流石ね。ある物を使ったと考えたら、それは成功しうるの。
 ニーズヘッグの連中と戦っていた時の資料を見直したけど、
 ここって『鉄帝国が出来る前から存在していた陣地』が後から再利用された町なの。
 上から町を立ててるから遺構みたいなものはほとんどないでしょうけど。
 ――なら、ある物がこの下やその周囲の村に通っていてもおかしくはないんじゃない?」
「……地下道だね。この国の下には、先史文明の地下鉄が通ってる。
 この町が鉄帝国以前からあった物を再利用したのなら、
『当時ここを使ってた連中が地下鉄を使った可能性もある』」
 ヨハンが顔を上げる。
 ラドバウ独立派がその存在を再発見し、各派閥もそれに気づいたもの。
 天衝種やら新皇帝派が跳梁跋扈する地上を行くより、遥かに安全――かもしれない地下鉄と言う存在。
 遥か地底に本物の『それ』が眠っているかもしれないという噂もあるその地下鉄。
 それがこの下を通っていたら――
「連中がそこを通って町から離脱した可能性があるということか。
 たしかにそれならばこちらに悟られずに立ち去ることも可能だろう」
 リースヒースが頷けば。
「探し出してこちらの拠点が築ければ連中の攻勢を阻止できる。
 それどころか、もしも存在しているなら、
 北辰連合が今後に地下道探索をする際の橋頭保にも出来る……かもしれない」
 イズマは可能性に過ぎないながらもそう結ぶ。
「じゃあ、次にすることはその地下鉄の入り口を探ること、でして?
 本当にあるかもわからないモノを探すのは難しいのですよ!」
「私はこの地の霊たちに聞いて探ってみよう」
 ルシアが首をかしげてそういえば、リースヒースが言う。
 ――その時だった。
「シスター! ちょっと来てくれ!」
 そう言って入ってきたのは獣種の男だ。
「ディートリント、どうしたのよ」
 聞き覚えのある声にイーリンが顔を上げれば、そこには見知った男が立っていた。
「あぁ、あの日、俺らの会談を邪魔しようとした奴が……ええっと、『亡者』!
 そいつが今、この町に来てる!」
「――は?」
 誰からともなく、唖然とした声が漏れた。


 伽藍洞の洞の中に僕は――僕らはいた。
 反響する音、ここは地下なんだと『亡霊』達は言っている。
 ――『僕は何者なのか』『どうして生まれ落ちたのか』『ここはどこなのか』
 未だにその答えは見いだせない。
「……彼らは、知っているのだろうか。
 彼らと一緒にいたら、僕はその答えに近づけるのだろうか」
 『亡者』――などと呼ばれるその男は、ぼんやりとつぶやいていた。
「『亡者』! ぼさっとしてんな。さっさとあの魔獣をぶっ飛ばせ!」
 『亡霊』――とそう名乗る連中の1人、テオドシウスが僕に命じていた。
「――分かっています」
 僕は強くならなくちゃいけないらしい。
 テオドシウスはいっつもそう言っている。
『お前さん、腹減ってるか。ならこの辺にいる魔獣をぶっ倒してみな。
 あんたがもし、俺の想像通りの人間(そんざい)なら――』
 含むようにそう言った彼の言葉を反芻しながら、僕は燃え盛る大型のクマにも似た魔獣――ギルバディアへ手を翳す。
 魔方陣から現れた魔力で出来た蛇がギルバディアを拘束し、締め上げて――捻り潰す。
 ――どくん、と。心臓が脈を打つ。
 あぁ――あぁ、本当に、気分が悪い。
 最悪だ、こいつらを殺すたびに――僕はそう思う。


「はぁ? 『亡者』が消えたぁ?」
 その話を聞いた瞬間、テオドシウスは思わずそう素っ頓狂な声をあげていた。
 手持ち無沙汰に弄っていた何かを握り潰して、大きな溜め息を吐いた。
「おいおい、まさか。嘘だろ、あいつ……どこかで野垂死んじまうと俺達の計画がオジャンだろうが」
「どうしやす、お頭」
「――あいつには、まだ強くなってもらわなきゃなんねえ。
 もしも俺が思ってる通りの存在なら、あいつにとって『今のこの国は最高の餌場』のはずだ。
 もっともっと強くなってくれねぇとな……」
「はぁ……で、結局どうなんだよ、あいつの力は」
「さっぱりだ。あいつがまだ自覚してねえからかもしれないけどよ。
 ――まぁ、いい。取り返しに行くぜ、野郎ども」
「『亡者』の居場所、分かるのか?」
「はっ――俺らの元から姿を消したんなら、行く場所は1つしかねえだろうよ」
 仲間の言葉に嘲るように笑って、テオドシウスは握りしめていた何かを指で跳ねる。
 キラキラと輝いたソレは階級章のように見えた。
 自然落下するそれを握り締めて後も、テオドシウスは上を見続けていた。
 遥かな頭上、人々の闊歩する地上を見据えて、冷たい笑みを刻んでいた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 <エウロスの進撃>、当方が運営しておりました<貪る蛇とフォークロア>の舞台、
 クラスノグラードに存在すると考えられる地下道を探索に行きましょう。

●これまでのあらすじ(当長編のみ)
【1】ヴィーザル地方にて傭兵連盟と名乗る新興勢力が暴れまわったぞ。
【2】ラサから仕事を探して流れてきた傭兵が主体となった彼らは、イレギュラーズの活躍で首魁を失って四散したぞ!
【3】序にこの地に封印されていた『ニーズヘッグ』とかいう大蛇が蘇っちゃったのでぶっ倒したぞ!
【4】鉄帝国が分裂して以来、残党連中が集結してヴィーザル地方方面で何やら企んでるっぽいぞ!
【5】そいつらのリーダー核と思しき青年は死んだはずのニーズヘッグの面影があるような……?

●今回のオープニングあらすじ
【6】ひとまず、彼らが逃げ出した場所を見つけよう。もしかしたら地下道があるかも!
【7】――と思っていたら、『亡者』が1人で姿を見せた!? 罠だろうか、でもひとまずは交流の場も持てそうだ!


●オーダー
【1】地下道の探索
【2】『亡者』との交流

●フィールドデータ
【1】クラスノグラード
 鉄帝の北東部に存在する城塞都市クラスノグラード。
 及びその地下に広がっていると予測される地下道です。

 クラスノグラードが鉄帝国以前に存在していた陣地を町の下地とすること、
 鉄帝国地下に広がる鉄道網が存在することが確認されたこと、
 極めつけに前回の戦いでイレギュラーズの包囲をイレギュラーズ陣営に悟らせず脱出した『亡霊』たち。
 以上の理由からその存在はほぼ確実と思われます。

 町の図書館より現在と過去陣地であった頃の地図が確保されています。
 何らかの非戦スキルを駆使すると容易に発見できるかもしれません。

 クラスノグラードは皆さんのご活躍のおかげで、北辰連合へ組み込まれた都市です。
 そこに橋頭保が築ければ、将来に地下道を探るような場合、起点の一つとして活用できる可能性が高いでしょう。

 多種多様な天衝種や『亡者』の奪還を狙う『亡霊』たちがいることでしょう。
 ぶん殴って領域を確保し、拠点化を目指しましょう。

【2】『亡者』との交流
 場所はクラスノグラードと変わりません。
 主に彼が何者なのかを探る側です。
 現時点では敵勢力の首魁と思われますが、その目的は分かりません。

 前回から多少なりとも腕を磨いたようですが、所詮は数ヶ月。
 油断さえしなければ基本的に負けることはありません。
 現状に分かっていることから推理したり、出かけてみたりして交流してみましょう。

 とはいえ、『亡霊』による奪還作戦が予測されます。
 戦闘が起こることも警戒してください。

●エネミーデータ
・天衝種×????
 地下道の他、その存在を証明するかのように、町の中でも数体、その姿が確認されます。
 陽炎のように揺らめく蛇型の怪物こと『ヘイトスネーク』
 燃え盛る爪を持つアンデッドこと『ストリンガー』
 パワードスーツに怒りが宿り動き出した存在である『ラースドール』
 巨大な双頭の狼、『グルゥイグダロス』
 大型の熊のような『ギルバディア』
 などなど。
 多種多様な魔獣が姿を見せるでしょう。

 ストリンガーやギルバディアはその攻撃に【火炎】系列のBSを持つことが予測されます。
 グルゥイグダロスやヘイトスネークは【出血】系列や【毒】系列などのBSが予測されます。
 ラースドールはBSの類を持たない代わりに命中、物攻、HPが高く、着実に攻めてきます。

・『亡霊』×????
 イレギュラーズにより首魁ヴァルデマールを討たれた傭兵連盟の残党。
 ラサの傭兵です。現時点で目的は不明ですが、『亡者』を何故かリーダーかのように扱っています。
 傭兵らしく退き際を誤らず、いざ戦うとなれば苛烈に攻め立ててきます。
 1人1人も油断なりませんが歴戦の傭兵らしくチームワークに長けています。
 剣や槍、斧、などなどの白兵戦の他、銃や弓による後衛の姿も確認できます。

 特に警戒すべきはテオドシウスなる人物だと『亡者』は語ってくれました。
 なお、テオドシウスは階級章のようなものを持っているらしく、直ぐに判別できるでしょう。

●NPCデータ
・『亡者』
 『亡者』と名乗る青年です。
 風貌は病弱そうな雰囲気を漂わせた蛇の目が特徴的な華奢な青年。
 一見すると人間種のように見えます。
 衣装は傭兵風ですが、どこか『着せられてる』感があります。

 なお、『亡者』の名前も『亡霊』と名乗る傭兵連中から名付けられているだけです。
 事実上、無名といえます。
 現在分かっていることは、以下のとおり。

【1】どうやら自分が何者で、『いつ』『どこで』『どうやって生まれたか』分からないっぽいこと。
【2】『怒りや嘆きを喰らい成長する魔獣』ニーズヘッグから険を取ったような風貌をしていること。
【3】ニーズヘッグと言う単語に聞き覚えはないが懐かしい感じがするらしいこと。
【4】一応、傭兵連盟の残党からリーダーのように担がれていること。
【5】来ている衣装は傭兵のそれですが、どことなく『着せられている』感がぬぐいきれない。
【6】交戦したところ、めちゃくちゃに弱い、言っちゃなんだが足手まといレベルであること。
【7】魔獣ニーズヘッグは確実に死んでいる。
【8】この世界において死は不可逆であり、死んだら生き返ることはない。

 上記の通り、ぶっちゃけ雑魚なので殺そうと思えばいつでも殺せます。
 ひとまずは交流しておいてもいいかもしれませんね。

 また、傭兵連盟の残党たちは『亡者』を発見し次第、奪還を目論むでしょう。

●特殊ルール
・小隊兵×10
 皆さんは自分の領地ないし鉄帝軍、
 これまでのフォークロアシリーズで関係を結んだ人などから、
 10人の兵を部下として率いることも可能です。

 この場合、特別な明記の無い限り、兵士の性質は皆さんと同系統となります。
 皆さんはプレイングにて兵士をどう導くかを記してください。
 例えば自身は前衛に立ってその活躍で奮い立たせるも良し、
 自らは支援に回って落ち着いて兵士を導くもよし、
 アイドル風に歌って踊って鼓舞するもよし。
 非戦スキル満載で拠点化のための人員として活用するのも面白いかもしれません。

 ご自身らしい指揮およびご活用ください。

【1】でも【2】でも利用できますが、【2】ではあまり活躍の場はないでしょう。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

  • <エウロスの進撃>赤き城塞と地の底にある怨嗟<貪る蛇とフォークロア>完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月11日 22時05分
  • 参加人数20/20人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(20人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
リック・ウィッド(p3p007033)
ウォーシャーク
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ウルリカ(p3p007777)
高速機動の戦乙女
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

リプレイ

●埋もれし町の下で蠢動する獣達よⅠ
 一部のイレギュラーズはクラスノグラードに存在する図書館へと足を運んでいた。
(おれっちたちが倒したニーズヘッグに似た『亡者』か……
 精霊種は生まれ変わりとかなかったと思うけど、ほかの種族って生まれ変わりとかあるのかー?)
 そう首を傾げるのは『ウォーシャーク』リック・ウィッド(p3p007033)である。
 精霊種はもちろん、生まれ変わりなどというのは存在しないはずだ。
(まあ、そっちは前に会ったやつらに任せておくか!)
 ざっくりと切り替えたリックは人々から情報を集めておくべく動き出す。
「この街に来るのはニーズヘッグの件以来だね。
 あの時は魔獣のヒントを探すことに夢中だったけど、まだまだ調査が足りてなかったということか……」
 一面の雪景色を眺めて『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は呟いた。
 以前に来た時はこの町の歴史を紐解き、魔獣ニーズヘッグとの戦いが繰り広げられた地だと読み解いた。
 あの時はそもそも地下鉄なる概念の存在を知らなかった以上、見抜けなかったのは無理もない。
 いや、それ以前に地下鉄の存在を把握していてもそれをニーズヘッグ戦に利用できたかと言われれば、微妙なところだろう。
「それでも……仮にも研究者の端くれとしては軽率だったかな?」
 小さくそう呟くのも無理からぬ話であり、故に今回はリベンジのつもりでいた。
「ううん、ゼフィラさんが元々見つけてた奴があればこそだよ」
 そう言ったのは図書館から3つの地図を持ちだした『オリーブのしずく』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)である。
 昔の地上の地図、殆ど古文書に近いそれは以前にゼフィラが見つけ出した史料から写し取ったものだ。
「これと。陣地の頃と、今の地図……これを掛け合わせて……少しでも差異があれば……」
 フラーゴラは3枚の地図を重ね合わせてみると、そこには複数の違いが見受けられた。
「……陣地の頃と今の地図はほとんど一緒だね。
 昔の地上の地図は違うところがありすぎて探すのが厄介かも」
「坑道と言う以上、人の手を加えて作ったはずだ。
 当時も調査をしてから掘りやすい場所を工事したはず……」
 思わずつぶやいたフラーゴラにそれを見ていたゼフィラが言えば。
「……それなら地質調査の資料も探した方がいいかも……?」
「これのことかー?」
 ひょっこり顔を出したリックから差し出された資料を手に、2人は中身を覗いてみる。
「ふむ……私達は勘違いをしているのかもしれない」
 地質調査の内容をざっと見た後、小さく呟いたゼフィラは改めて3枚の地図を見る。
「探すべきは差異じゃなく、共通点ということはないだろうか。
 いつの時代も、絶対に変わっていない点。そういう物があれば――」
 そう呟いたゼフィラは地質調査の資料とにらめっこし始める。
「もしかして……?」
 やがてゼフィラは地図上のある場所をなぞってみせる。
 それはクラスノグラードと言う町の南端にある施設だ。
 当局旧舎とだけ地図上に記された場所は陣地の頃には南方見張り台、それより昔には商会が席を置いたと記されている。
 他の施設は時代によって取り壊しやら配置転換やらがあるのにここだけはずっと存在する施設だ。
「巧妙だね。何かがそこに合って、隠しておくべき場所とでもいうような……」
「行ってみよう……!」
 フラーゴラはゼフィラに続けると、小隊と共にその場所へ向かって走り出した。

●埋もれし町の下で蠢動する獣達よⅡ
 クラスノグラードの内部は厳戒態勢が敷かれつつあった。
 天候の関係で外を出歩く人間などそもそもいなかったことは幸いと言うべきか。
 結果的に天衝種たちに襲われる人々の姿はなく、イレギュラーズによる調査も大胆に行う事が出来ていた。
「蛇の道は蛇と言うけれど、彼ら『亡霊』なら墓穴と言うべきかしら。
 けど、墓穴は埋められるものよ、ね?」
 いつもの連中の前で『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は笑ってみせる。
「シスター……その衣装、大丈夫なのか? その、肌面積とか……」
 黒セーラーを濡らす雪を何気なく払ったイーリンにびっくりした様子を見せる彼ら。
「この衣装のこと? 穴兎にあやかってるだけだから気にしないで」
「……元からだいぶだった気はするし、大丈夫ならいいんだけどよ」
「それより、敵がどこからか『来る』以上は、そのための道があるということ。
 どこかしらにつながっているということ。私達は『それ』を探しましょう」
「……あっ、あぁ、分かったよ」
「――行くわよ。神がそれを望まれる」
 未だに驚いた様子を隠せない兵士達が攻め立てていく。
 イーリンは静かに抜いた黒剣を振り払い、波濤の術を振り払った。
「町の中に姿を見せた天衝種は路地辺りから町の中心に向かってるみたいだな」
 そう言ったのは『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)だ。
 ウェールは部下の鉱夫たちと天衝種らの出没位置を地図に書き込んでいた。
 その眼たる鴉たちは1匹は今頃『亡者』と交流している者達の下に置いてきた。
 もう1匹は空へと舞い上がり、今も地上を見下ろして天衝種達の居場所を把握している。
 天衝種達はどこかしらの路地から姿を見せ、中央へと向かっていく。
 これは町の立地上、そういうふうに出来ているというのが正しそうだ。
「中でもよく天衝種達が向かってきてる方向は……南の方だな。よーし、鉱山業務と同じように命大事にで行くぞー」
 部下の鉱夫たちが応じるのに合わせて、ウェールは銀の弓を構えて天衝種めがけて矢を撃ち込んでいく。
「やれやれ。あの蛇倒したっつーのにまだ何かあるのかこの地方は」
 呆れたように呟くのは『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)である。
「まあ心配すんなって、ミーナちゃん!
 地下で迷子になってる子をおうちに帰すくらい、神社のバイトより楽勝だぜ?
 対して『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)はからりと笑っている。
 既に愛刀を抜き放ち、準備はばっちりだ。
「みんな準備はおっけー? テンアゲでいってみよう!」
 ちらりと小隊兵へ告げれば上々な声が返ってくる。
「……ま、私は元々忍者でもあるからな。探索もできないこともない。
 見つけるまでは見つけ次第天衝種を潰していくぞ」
 ミーナはそういうと獲物を抜き放つ。
 それに応じるように小隊の騎士たちも構えを取った。
 目に付いた天衝種目掛けて走った。
「大怪獣を倒してひと段落。と、思ってたんだけれどねぇ……
 まだまだあの件は終わってないってことなのかな?」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が抱くのも似たような感想だった。
 イグナートの周囲にいるのは領地の警護も頼んでいる傭兵達。
 基本的に闘技場周りで暇してる荒くれ連中ではあるが、故にこそ武闘派といって過言ではない。
「今回は他のミンナの部隊への被害を減らすように動けた者ほど高評価ってことで!」
「おお! やったら!」
 気合十分とばかりに傭兵達の声が響く。
「それじゃあ、早速アイツから行こう!」
 こちらに気付き、剣を構えたローブ姿の連中へ、イグナートが走り出せば、傭兵達が続いていく。
「……地下道の探索に亡霊か……中々大変な仕事になりそうだね」
 今回の任務の内容を思い『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は徐々に出力をあげて行く。
「だがこれも鉄帝の将来の為と思えば軽い気持ちになってくるというものさ。
 さぁ! 我が兵士達よ! 国の未来の為、力を貸してくれ!」
 紅の雷を纏い気合十分と言ったマリアに応じるように、兵士達も雷光を纏う。
「行動開始! 皆! 3マンセルを組みお互いある程度距離を取れ!
 だが各班互いの死角をカバーすることを忘れるな! 余った一人は私の直掩に回れ!」
 雷装深紅、鮮やかなる深紅を纏いマリアが告げれば、それに兵士達が応じて別れて行く。
「私兵諸君。防衛戦に続き今回は侵略だ。
 鉄帝の版図に組み込まれ、他所へと仕掛ける機会も少なくなった鬼楽だが、
 その牙が衰えたわけではないだろう?
 君たちのノウハウが存分に発揮されることを、大いに期待している」
「加勢に来たぜ!」
 交戦の始まった地上で、リックは姿を見せた。
 自らの波濤を術式に織り込み、タクト・オブ・グレイゴーストを振るう。
 リズムを討った波濤が仲間達を支えるように音色を奏でる。
 戦場へと進む前、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は私兵へと語っていた。
 地下道探索――そこが穴倉に籠る鼠の巣であるのなら、これは間違いなく侵略戦というべきだった。
「諸君らには今回も各部隊に随行する形で仕事をしてもらう、が。今回の主目的は情報伝達である」
 セレマの語る言葉の1つ1つを反芻し、共有するが如く私兵たちは静かだ。
「土地勘のない場所での探索も兼ねる以上、地形や敵戦力の位置情報把握は必須に違いない。
 諸君らが身に着けた共鳴能力はその共有速度を速め、戦場内の距離を縮め、時間を支配する。
 地の利を生かしたゲリラ戦を仕掛ける亡霊共を、情報によって囲い込むための網がボクたちだ」
 ただ静かにその意見を聞き続ける彼らの視線はセレマのみを映している。
 細かな指示を与えれば、私兵たちがバラバラに各部隊へと紛れ込んでいった。

●縁を結び、人となればこそ
 暖炉の音色がちりちりと鳴っている。
 外から聞こえる風の音は幾分かおさまり、叩きつけるような吹雪もおだやかになりつつあるようだ。
 どれだけ待っていただろうか。
 やがて、兵士達に囲まれながら1人の青年が姿を見せる。
 その全身を覆うローブとフードはしっとりと濡れていたが、それはこんな日に外を歩いていたからだろう。
(んー……なんか変な感じ、というか……まだ、信用しきれないよね……)
 部屋に入ってきた『亡者』を見ながらも、その脇をそっと抜けたのは『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)だ。
「寒いっ……でもとにかく頑張ろうっ!」
 建物を出れば、勢いを弱めてこそいるものの、猛烈な寒波が身を裂くようだ。
 少しばかり身を震わせてから、自らを鼓舞すれば。
「皆も、風邪を引かないように気を付けてねっ」
 小隊兵へとそう声をかけてから、リリーはファミリアーの小鳥を1匹、空へと送り出す。
 もう1匹は既にここにはいない。
 クラスノグラードの地下を探る面々との連絡用にあちら側のメンバーに付けていた。
「――あ、あの時の……」
 部屋へと入った『亡者』の顔が『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)を見て、驚きと安堵に色を変える。
「どうした、傭兵達と仲違いでもしたか」
「いや。そういうんじゃない。でも……あいつらには言わずに来た。
 多分、言っても行かせてはくれなかっただろうから」
「そうか……腹は空いてるか?」
 ラダが『亡者』に問いかけてみると、返事をしたのは『亡者』のお腹の音だ。
「……それなら話は早い。温かいお茶や食事をしながら話すことにしよう」
「う、うん」
 そう言って頷いた『亡者』から視線を外して、ラダは兵士達に視線を向ける。
 その意思を察したらしい兵士達は敬礼してからそっと部屋を出て行った。
(……見れば見るほど、どうしようもなくニーズヘッグを見ているような気分だ。
 シンプルに考えれば、『血縁』……子供とかだろうか)
 そうは考えながらも、それは半信半疑の推論でもある。
 何せ『亡者』の身長はせいぜいがラダが人型を取った時と同等程度。
 このサイズの人物が成長して小さくとも山を七巻半するとは信じがたい。
(ニーズヘッグ、そうあれと生み出された兵器。
 可愛いヤツだなと思ってたのは本当だし……往くべき処へ逝けたなら、
 次は怒りや憎しみ以外を知れる環境に、とも思ったさ)
 姿を見せた『亡者』に『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は心中に呟きを漏らす。
 救いのようにも感じられるのは、あのニーズヘッグよりはかなり平穏――いや無垢に見えるところか。
(死者は蘇らない、それがこの世界の理。
 だが神霊の類は別の存在として生まれ直したり残滓が何かに宿る事もあるだろう)
 事実、そう言った類をアーマデル自身もよく知っている。
 顔を見て、事前に立てておいた予測が中らずとも遠くはないような気がしていた。
「こんにちは。まさか貴方のほうから来るとはね」
 なるべく友好的に『亡者』に声をかけた『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)はそう声をかける。
「怪我とかない? 飲み物はあたたかいお茶でいい?」
「うん、特には……大丈夫。
 あの人も言ってたけど、その……お茶って何?」
 至極不思議そうに、『亡者』が首を傾げる。
「こういうのでして!」
 自らのギフトでセットを出しながら言うのは『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)である。
「……良い香り。これがお茶?」
「お菓子もあるですよ!」
 相変わらず不思議そうな『亡者』にお菓子の方も差し出せばこちらも初見とばかりに首を傾げるばかり。
「あっ、でもその前に挨拶するのが先でして!
 ルシアはルシア・アイリス・アップルトンですよ!」
「そうね、挨拶が遅れてごめんなさい。私はレイリー=シュタイン。貴方は?」
「ルシア……レイリー……」
「たしかに挨拶が遅れたな。
 私はラダ・ジグリ。あの傭兵達と同じラサの者だよ」
 そういえば、とラダがそう続ければ。
「ラダ……僕は……『亡者』って呼ばれているのは、君達は知ってるよね」
「あなたが『亡者』殿か。
 だがそれは立場とかを表す言葉で、ヒトとしての名ではないだろう?
 何か馴染む人名はないか?」
 目を伏せ気味に逸らすようにして呟いた『亡者』に、アーマデルが問いかけた。
「名前……分からない。少なくとも、僕はずっと彼らにはそう呼ばれてる」
 ふるふると、『亡者』が首を振る。
「『亡者』か。誰がそう呼び始めたんだろうな。
 彼は確かに生きてるのに、まるで死者の代わりのように扱って……」
 それに『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が言えば、『亡者』は小さくテオドシウス、と述べた。
「『亡霊』の中で最初に僕を見つけた人……。
 僕をニーズヘッグ? にそっくりだって言ってた。
 僕はよく知らないけど、なんだかその名前を聞くと懐かしいんだ」
「……『亡者』なんて呼ぶのは変だな。名前を決めないか?」
 そう続けたイズマに応えるように、レイリーとアーマデルが反応を示す。
「ニッド(Nid)はどうだ、それは『家』を示したり『No』の意味であったりする。
 ……あなたが意に沿わぬ事を押し付けられた時に『No』と言えるように」
「あるいは……『ニーズ』とか。
 貴方と私達、お互い必要と思えるようにって想いをこめて……貴方が貴方であるように」
 アーマデルとレイリー、2人の名づけはほとんど同時に行われた物だ。
「――ニッド、ニーズ……? 名、ま、え……」
 ぽつり、と『亡者』であった物が呟いた。
「……どっちがいいとか、よく分からない。
 でも、うん。嬉しい――そういうふうに、名前で呼ばれることは初めてだ」
 自身に馴染ませるように、繰り返しどちらもを呟いて、青年が緩やかな笑みを浮かべる。
 同時、『彼』の気配が急速に落ち着いていく。
 何か外見に変化があったとか、そういうわけではない。
 ただ、どことなく何かが定まったような、そんな雰囲気だった。
「ありがとう、これだけでもここに来た意味があったんじゃないかって思えるよ」
「そうだ! それを聞きたかったの」
「それ?」
 レイリーは改めてぽん、と手を打って席に付いた。
「ええ、貴方のやりたいことを聞きたいの。あの『亡霊』達じゃなくて、貴方のよ」
 こうして目の前に立ち、向けられた物をすべて受け入れるかのような対応は、さながら子供のようで。
(こんな子供が自分から殺しとかすると思えない)
 仮に神輿として担がれるにしても、あまりにも無垢にすぎる。
「僕の、やりたいこと……そうだ、僕は僕が何者か知りたくてここに来たんだ。
 やりたい事、はよく分からないけど」
「その前に、私達と連中の関係はちゃんと知っているのだろうか?
 先に軽く確認した方がいいんじゃないか?」
 温かいお茶とお菓子に目を輝かせる『彼』或いはニーズ=ニッドへ、ラダがそういうと。
「あいつらと、君達の関係……?」
「あぁ――」
 そう言って頷くと、ラダは事のあらましを語り始めた。
 ニーズ=ニッドはそれを不思議そうな顔で聞き続ける。
 そうして、最後まで語り終えたラダに、ニーズ=ニッドは首を傾げる。
「初めて聞いた。そんな話、あいつらが僕に教えてくれたのは、戦う術ばかりだったから。
 でも……どうしてだろう。全部、知ってる気がする。
 聞いたことがないし、見てたはずもないのに……ううん。
 よく考えたら俺は、ラダもレイリーも、ルシアも――ううん、ここにいる殆どの人を知ってる気がする」
「……知ってる?」
「なんだろう、この感覚。
 分からない、分からないけど……『聞いたことがあるわけでも、見たことがあるわけでもなく』て。
 経験した覚えなんて全くないけど、知ってる気がするんだ」
 胸元を抑えるように、小さく彼はそう語る。
「でも突然来るから驚いた。あの傭兵達から抜け出してきたようだが、彼らとは何をしてたんだ?」
 イズマが問いかけると、美味しそうにドーナツを頬張っていたニーズ=ニッドが首を傾げた。
「さぁ……地下道の中とか、外とかであいつらの仲間……?を集めてたり。
 それ以外だと、地下道とか、地上とかで魔獣を倒してた。
 なんでも、今のこの国はお前にとって最高の餌場だとかなんとか。
 でも、あんまり気分は良くないんだよね。
 なんか、嫌な雰囲気を纏ってる魔獣ばっかり相手にさせられて、そのたびに最悪な気分になるよ。
 それに比べてこのどーなつ?はすごい! こんなに幸せな物があるんだね!」
 丸呑みにせんばかりの速度で食べれば、そのたびにニーズ=ニッドは目を輝かせている。
「魔獣を倒す度に何やら不快感があると……それはこの地だけだと思いますか?」
 『高速機動の戦乙女』ウルリカ(p3p007777)はふと気になる単語を聞きつけて問いかけた。
「分からない。……でも、あいつらはこの国は僕にとって最高の餌場って言ってた。
 それがホントなら、多分、ここだけがそうなんだと思う」
 もきゅもきゅとドーナツを美味しそうに食べる青年は不思議そうに首を傾げながらそう答えた。
「……ふむ。理由がわからずとも、誰か――あるいは何かしらからの影響を受けているのかもしれませんね」
 ウルリカはその様子をつぶさに観察していく。
「『亡霊』たちはヴァルデマールが死んで自分達も死んだようなものだから、亡霊だと名乗っていた。
 彼らは自分達の生きる道を探しているんだろう。
 なら君は? あの時、俺は亡霊たちの答えしか聞いていない」
「……分からない。それを知りたくて、連中のところから抜けてきたんだ」
 イズマの問いかけにニーズ=ニッドが答えれば。
「答えてくれてありがとう、分からないならそれでいいんだ」
 イズマはそういうと、ちらりと視線を連絡用の小鳥に向けた。
「重要なのは、自分が何で何者なのかではなく、今何がしたくて、どう思っているかですよ」
 ウルリカは重ねて微笑するものだ。
「参照するケースこそ創作ですけども、
 同様のケースにおいて、放浪する側が確固たる意志と計画を持って進めることは少ない。
 亡霊達も……そして貴方も、今すぐに見つけることは難しくても、何をしたのか考えていくといいでしょう」
「目的……僕は、自分がどういう存在なのか、それが知りたい。
 今したいことは、自分を知りたいことだ。それじゃあ、駄目なのかな?」
 ニーズ=ニッドはウルリカの言葉にそう首を傾げる。
「……『亡霊』って、どうでして?
 例えば一緒にいて楽しいとか楽しくないか、とか……」
 ルシアは自身もマカロンに舌鼓を打ってから首を傾げる。
「楽しい……楽しいって、なに?」
 そう言ってニーズ=ニッドが首を傾げる。
「なにって……うーん、どういえばいいんですよ?」
 質問を返されても感情を説明するのは分かりにくい。
「一緒にいたい、とかそんな感じでして?」
 ルシアが首を傾げながら少しばかり考えて言えば。
「そうなんだね……分からないけど、多分、楽しいとか感じたこと無いんだと思う。
 『亡霊』たちは俺に魔獣を退治させるぐらいしかやらせてくれてないから。
 寝るか、起きて魔獣を倒すかしかやってないんだ」
「……それなら、楽しいとかも見つけていくといいのでして!」
 ルシアが笑って答えてやるとニーズ=ニッドは目を瞠った後、頷いた。
 首を傾げたルシアはふと視線を降ろす。
「そうだ! その服!」
「服……?」
「もしかして着慣れてないか、着せられてるのでして?」
「これは……うん、『亡霊』連中に取りあえず着とけって言われてるだけだから……」
「なるほどなのでして!
 でも服は『着せられてるもの』より『自ら着たいもの』の方が絶対にいいと思うのです!
 街で着る、予備の服が何着かあるのですよ!」
「自ら、着たいもの……?」
「そうなのでして! 小隊のみなさーん!
 せっかくですので! この子に似合いそうな服を持って来てほしいのでしてー!」
「はーい!」
 ルシアが声をかけるとやや待ってから小隊に属している子達が姿を見せる。
 いくつもの衣装は多種多様だ。
 鉄帝の寒冷地を思わせるもの、深緑を思わせるもの、幻想、天義と様々な物が並べられていく。
「思ったよりたくさんあったのでして……
 とりあえず、今はこの中から着たいのを選んでほしいのです!」
「この中から……それなら――」
 そういうと、ニーズ=ニッドはどこか魔術師を思わせる衣装へと手を伸ばしていく。

●冷たき地獄より溢れ出でよ
「ここみたいだね……」
 ゼフィラの後を着いてきたフラーゴラはその施設を見上げて呟いた。
「地面も見たまえ。獣の足跡を消したような痕跡がある」
「ここで間違いなさそうだね……」
 2人が頷きあう頃、その様子に気付いたらしい他の面々も集まりつつあった。
 見るからに怪しい軍施設の門は急激に冷やされた後、一気に焼かれたような痕跡が見えた。
「この先に『亡者』がそう呼ばれてる理由や『亡霊』がそう自称してる理由があるかもしれない……」
 真っすぐに施設を見上げる『魔女断罪』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は小さく拳を握る。
(『亡霊』、そして『亡者』……わたしは彼らも『生者』であってほしい)
 彼らの目的が何であるにしろ、ココロの想いはそこにある。
 胸の内に最初に彼らと交戦した時を思いだす。
「この先にそのヒントがあればいいけど……」
 小さく呟いて、ココロは視線を小隊の方へ向ける。
「……ダリヤさん、皆も頑張ろう。
 ここから行く場所では不慮の事故がありえそうだから。
 わたし達にも学べることが多いはず」
「はい」
 ピリリとした緊張感を抱いて小隊の面々が頷いた。
「『亡者』……あの者が向こうから来たならば正体の手掛かりも又、向こうにあるはず」
 ココロと同じ結論に至っているのは『冥焔の黒剣』リースヒース(p3p009207)だ。
「……そもそも、生きているのに『亡者』と呼ばれてしまっては、死の側に引きずられてしまう」
 それは死霊術士にして死を見守る者ゆえにそれはどうしても避けたかった。
 本来、決められているはずの死への道のりは、生と呼ばれる旅路は嘉せられるべきものだ。
「ましてや死者の影に付きまとわれて生きるのは、哀しきこと。死者は蘇らぬのだから」
 死と隣り合わせにあるべき交霊術士だからこそ、それはよく分かる。
「お前は此処にいてもらう。
 亡霊共の首魁があのようなお飾り……であるわけがない、そうだろう?
 あれはまだボクたちが知らない鍵を握っていて、そうする必要があったのだ」
 突入の寸前、セレマは私兵の一人へ声をかける。
「奴らが亡者を取り戻すような動きを見せた時の報告、
 そして有益な情報を得た場合のいち早い報告のために、お前にはここにいてもらう。
 最も重要な立ち位置と心得ろ」
 それだけ命じればその私兵は亡者のいるローレット支部へと走っていく。
 それを確認してから、セレマは改めて軍施設の方へと視線を向けた。
「おれっちの小隊も同じように他の小隊に入ってくれ!
 おれっちと似た攻勢なら、一緒にいるよりも他の支援に回った方が活躍できるはずだぜ!」
 指揮棒を振るい、迫りくるストリンガーへとダイヤモンドダストを叩きつける。
 燃え盛る爪をも凍てつかせる氷雪の輝きがストリンガーを強かに打ち据え、打ち砕いていく。

●地下空洞より熱を籠めて
 軍施設の中身は思いのほか簡素だった。
 縦に長い印象を受ける建物の左右に視線をやればぽっかりと開いた扉が4つずつ。
 それらは近づいてみるに階下へと降る階段のようだ。
 カツン、カツンと反響する音が奥へと通じていることを証明していた。
 下ってみれば、思いのほか大きな空間が広がっていた。
「ここが地下、か。こんなにも広い空間があるとは、な」
 地下へと降り立った『矜持の星』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は地下鉄道らしき路線に目を瞠る。
 天井は比較的高めで場所も意外にも広いことを考えると、ただの路線というよりも駅のような場所なのだろう。
「あんたらの方からおでましとは――なぁ」
 イレギュラーズが布陣する中、そんな声が響く。
 視線を向ければ、ローブとフードに身を包んだ『亡霊』などと自称するそれらが立っていた。
「悪いけどよ、ちぃとばかしそこを通りたいんだわ。通してもらうぜ?」
 そう言って笑うと、何処からか甲高い笛の音が響いて空間の奥の方から天衝種達が躍り出てくる。
 20、30、どんどんと増えて行くが、戦場に立つイレギュラーズよりはその数も少ないか。
「――御身は、なんだ」
 そんな中、リースヒースは笛を吹いたであろうその『亡霊』に問うた。
「何を……纏っている?」
 だがリースヒースが目を瞠り問うたのは、そんな笛如きの問題じゃない。
「へぇ、感じ取ってんのか? それとも、見えてるのか?
 まぁ、どっちにしろ、あんた……霊術師の類か?」
 ローブとフードに身を包みその風貌は判然としないものの、その周囲に漂う『残滓』はリースヒースにはよく分かる。
「幾つの……何人の魂を喰らった? どれだけ呪われれば、そんな姿になる?」
「さぁね。もう覚えちゃいねえや」
 酷薄に笑い、男がブレた。
 愛剣を思わず構えた直後、強烈な衝撃が走り、遅れて炎が体を包む。
「御身か。御身がテオドシウスか?」
 答えはなく、笛の音が響いて横槍を殴りつけるようにグルゥイグダロスが飛び掛かってきた。
 そちらに対応する頃には、既にテオドシウスの姿はリースヒースから遠い。
「野郎ども、撤退しな。『亡者』は俺が連れて帰る」
 そのまま影の方へ下がっていったテオドシウスの姿は、まるで闇に溶けるようにして消えた。
 テオドシウスの発言に従うように、『亡霊』達が一斉に下がっていく。
 だが捨て置かれた天衝種の数は増えている。
「ウェール! 情報共有は出来てるかしら!?」
「向こうには伝えてある!」
 イーリンの言葉にウェールが叫ぶ。
「それなら何の問題もないわ。――皆、連中を追うためにもここは切り抜けるわよ!」
 イーリンが檄を飛ばすのとほぼ同時、ゼフィラの小隊が最速で動く。
「なに、戦線の維持なら私に任せ給え。この街を守るために、キミたちの力を貸してほしい!」
 一斉爆撃の如き蹂躙の魔弾が1匹のギルバディアを消し飛ばす。
「くれぐれも命は大事にな!」
 続けて動いたのはウェール隊だ。
 多数の魔獣を見据え、ウェールはヴォルフガンクの札を一枚取り出した。
 実体化したのは銀色に輝く弓とそれと同色の矢。
 引き絞られた矢は文字通りの止めのように振り注がれ、それに続くように小隊たちの銃弾が、矢が戦場に降り注いでいく。
 天衝種たちの怒りや断末魔の雄叫びが戦場に響き始めつつあった。
「よし、いよいよオレたちの出番だ! 単純にいこう!
 他の部隊を守れ! それをジャマするヤツは全員ぶっ飛ばせ! 行くぞ!」
 イグナートは呪腕を握りしめた。
 鮮やかな黒を纏ったまま、一気に跳んだ。
 跳躍の刹那、その全身を黒き雷が包み込む。
 複数のグルゥイグダロスやヘイトスネークの只中へと落下すると同時、黒光は爆ぜる。
 A級闘士コンバルグが生み出したそれにも等しき鮮烈の件だが周囲の天衝種たちを諸共に撃ち抜いていく。
 それに続くように動き出した傭兵が突っ込んできて薙ぎ払っていく。
「ま、難しいことなんてなんにもないわよ。力を合わせれば何でもできる。今まで通り、ね?」
 イーリンは小隊たちに檄を飛ばしながら、黒剣を振り抜いた。
 鮮やかに走った斬撃はグルゥイグダロスの身動きを封じて行く。
「必ず2人1組で戦うんだ。行くぞ!」
 騎士たちへと命じつつ、ミーナは迫りくるラースドールへと希望の剣を閃かせた。
 残影を刻む美しき蒼空の剣がラースドールの身体を瞬く間に切り刻んでいく。
 それに加えてミーナの指示通りに動いた騎士たちがラースドールたちを抑え、斬り伏せて行く。
「ミーナちゃん! ウチにも任せときな!」
 速度をあげて踏み込んだ秋奈はミーナの背後へと迫ったグルゥイグダロスを切り伏せながらからりと笑う。
「わたし達のやることはいつでも変わらない。
 でも、いつもの流れをいつも通りに行うには練習が必要。
 そして――練習通りに行うには強い意志と状況に動じない落ち着きが必要です。
 ココロは生命エネルギーを文字通りに燃え上がらせる術式を励起させる。
 鮮やかにして温かな炎熱の治癒術式が仄暗い空洞の中を一気に照らし付けて行く。
「皆! 落ち着いて対処しろ!
 数が多いなら全員で敵単体を集中攻撃で撃破!
 数を減らして数的有利を取る! 私を盾にしても構わん! 強い敵はこちらに回せ!」
 指示を与えながら、マリアは直掩の1人と共にギルバディアへと打ちかかっていく。
 咆哮を立てて腕を振り回す熊を、持ち前の直感で鮮やかに躱せば。
「――白雷出力、雷閃葬華!!」
 文字通りの砲弾となりて、一気に爆ぜる。
 さすれば最早止まるまい。
 白き閃光がギルバディアを包むが如く連撃を撃ち込んでいった。

●静謐にして広大なる場所Ⅰ
 突如の会敵を退けたイレギュラーズは本格的な拠点づくりを開始していた。
 ウェールは駅に滞在していた。
「取りあえず、今後のために整地と整備をしていくぞー」
 鉱夫たちを主導しながら、駅の内部にランタンを付け直し、階段の崩れつつある場所を作り直していく。
 あるいは階段の幾つかを削ってスロープへ改造させている。
 完成したスロープを用いた上での狼の因子を活用した物資の運搬には大きな成果があったと言えるだろう。
 そんな中、エクスマリアには仲間達と離れないように注意しつつも、個人的目標への挑戦を試みていた。
(ブランデン=グラード地下道と繋がっている道があってもおかしくはなさそう、だ)
 ファミリアーのネズミを放ちながら、少しばかり意識を集中しておく。
(もし繋がりがあるなら、僅かでも空気の流れもある、はず。
 空気が流れているなら、そこには匂いも含まれる、はず)
 ハイセンスを駆使したその試みは決して無駄ではない。
 ブランデン=グラードで嗅いだ石や土、鉄、虫やら小動物といったものが放つ匂い。
 冠位憤怒との攻防で発生した大気の鳴動がそれらをここまで運んでいれば――とそういう思惑だ。
(……微かにあるような気がする、が。混じっている物が多すぎる、か)
 小さく吐息を漏らす。そもそもとして可能性が低い話だった。
 その上で改めて考えてみるとブランデン=グラードは帝都に存在する。
 ヴィーザル地方の程近く、鉄帝の北東部に存在するクラスノグラードまで至るにはあまりにも遠い。
 例え繋がっていても至るまでの間には他の出入り口やら何やらがないのもおかしな話。
 仮に通じていて、大気の鳴動がここまで到達したとしても、それまでに交じり合った大気から嗅ぎ分けるのは難しい。
「可能性があると考えられるだけでも十分、だ」
 ゆらゆらと髪を靡かせながら、エクスマリアは結論を口にする。
 それは自らを納得させるように。
「さて、ここからだ。
 ここの拠点化に成功すれば地下道内の探索も進むだろう。皆、頼んだよ!」
 マリアはそういうと、小隊たちと着かず離れずで拠点の守りを担っていた。
 時折姿を見せる天衝種や『亡霊』を紅の雷光が迸り、撃ち抜いていく。
 そんな姿と共に、拠点の守りを固めるもう1人。
 リックは拠点付近にいた。
「此処から先にはいかせないぜ!」
 退く唸り声をあげる魔獣たちと相対すると、指揮棒に魔力を籠める。
 そのまま肉薄して、零距離より放つは波濤の弾丸。
 タクト・オブ・グレイゴーストの先端へと集束した極小の魔力は、炸裂と同時に爆発を引き起こし、瀑布の如き衝撃を以って天衝種を貫いた。

●静謐にして広大なる場所Ⅱ
 拠点に残るものもいれば、マッピングの為に周囲へと移動している者達もいる。
 ミーナもそんな一人だった。
 ギフトもあり、戻るべき場所は拠点に置いてきた騎士の気配を辿ればいい。
 元々の卓越した方向感覚もあって、マッピングは順調そのものだ。
「ギルバディアが1匹、あとはラースドールが4か。
 マッピング役は少し後ろから行くぞ」
 それだけ指示して、ミーナは騎士7人と共に一気に襲い掛かった。
「いい加減に見飽きたんでな。さっさと片付ける」
 急速に上がった速度で振り抜いた希望の剣が鮮やかな軌跡を描いてその喉元を切り裂いた。
 一息を吐いて、ふと横を見る。
 そのまま視線を向けていると、何となく無効に開いた空間を見た。
「少し待ってろ」
 騎士たちに命じつつ、壁を抜けて反対側へ。
「此処にも路線があるな……どこに繋がってるんだ?」

「うーん……風が吹いてるけど、これは地上なのかな……?
 他のところで地下で冷気の風が吹いてるって話もあるけど……」
 ちろりと指を舐めて風向きを感じ取るフラーゴラは首を傾げていた。
 フローズヴィトニルの封印に関する情報によれば、地底深くから風が吹いているようにも思えるという。
 フラーゴラの小隊は3人だけだ。
 それ以外の8人の内、拠点に2人を残し、各メンバーにも支援役として預けている。
(ワタシ達は少数だから無理をすると危険……)
 フラーゴラの部隊は獣種で構成されている。
 自身を含め奇襲は受けないが、小隊を分けた分、危険は増している。
「隊長、大丈夫ですか?」
「う、うん。大丈夫だよ……!」
 小隊の子に不思議そうにされながらも、チョークで壁にこの先、天衝種多しと記してからその場を後にする。

 一方、一番大きな集団はイーリン達であるといえよう。
 少しばかり路線に沿って歩みを進めれば、獲物を構える『亡霊』の姿があった。
 その周囲の天衝種を穿つように、イグナートは走り抜けた。
 踏み込みと同時、思いっきり撃ち抜いたアッパーカットが小隊長と思しき亡霊を撃ち抜いた。
 脳震盪を起こしたらしいその『亡霊』はそのまま崩れ落ちた。
「進ませては駄目よ、いくわよあんた達!」
 『亡霊』衣装をまとった傭兵が突っ込んでくる。
「うぇーい! 趣味とかある? どこ住み? 体どっから洗う?」
 秋奈はその『亡霊』へと突っ込んでいく。
「な、なにアンタ!?」
 動揺を明らかにする『亡霊』へ秋奈は一気に踏み込んだ。
 恐るべきドクトリン、悪辣にして冴えわたるブルーフェイク。
 鮮やかなる長刀の閃きが恐るべき負の遺産を押し付けて行く。
「くっ、おちゃらけたこと言う割に強い」
「あははは! そんじゃ――死ね」
 踏み込みと同時、足を払い、叩きつけた一撃に『亡霊』が唸り、僅かに後退する。
「他の『亡霊』達はどこに向かったのでしょう?」
 ココロは首を傾げていた。
 イーリンは縛り上げた『亡霊』を見下ろす。
「――教えて貰おうかしら」
 ココロの言葉に応じるようにして、イーリンは秋奈の一撃で怯んだ『亡霊』と視線を合わせた。
 抜き取る情報はどこから来たのか、どの程度を把握しているのか。
「お師匠様! 多分、南ですよ!」
 フラーゴラから借り受けた地図を見ていたココロの言葉は勘以上の何物でもない。
 とはいえ、駅らしき大空洞、拠点からは路線――もとい横穴のようなものは東西南北へ伸びている。
「根拠が欲しいところだけど、合ってもおかしくはないわね。
 南にいけばエウロスの進撃作戦で攻略しようとしてる東部地域があるわけだし。
 もっと南に通じていれば最終的にベデクトに到達してもおかしくないわ。
 どこかで路線そのものが崩壊してたりする可能性もあるけれど」
 イーリンは隣で広げる鉄帝路線地図を眺めながら弟子の勘に頷くものだ。
「せっかくここまで来たのだし、もう少し南に降ってみましょうか」
「ふっ……それなら司書ちゃん! 大岩が転がってきて逃げるシチュは任せた!」
 秋奈の言葉に笑いつつ、面々は南へ少し下っていく。
 探索班の中でも最も大きな勢力となったイーリン達の部隊は、南方へと突き進み――やがて、その場所へと到達する。
「――ここが、あいつらの拠点でしょうね」
 急激に気温が下がり始めたその場所は、多数の建造物の廃墟や古代兵器と思しき物が転がっていた。
 多数の『亡霊』を蹴散らして到達したその場所は、言うまでもなく彼らの拠点だろう。

●『亡者』の殻を脱いで誓おう
「――いた」
 空を飛ぶ小鳥の視線が路地を移動する影を見た。
 それは建物の影を融けるようにして移動しながら、どこかへと向かっていく。
「独特な気配……あれがテオドシウスかな?」
 小鳥の視線が気配を失う独特の人物を見る。
「これ以上はいかせないよっ」
 愛銃に魔弾を籠め、リリーは一気にぶっ放した。
 万能なりし漆黒の魔弾、猛獣が踏み鳴らすが如き蹂躙の魔弾が真っすぐに走る。
 それは強襲、或いは奇襲たる一弾。
 避けえぬ一撃は必ずや相手を撃ち抜く――はずだった。
 テオドシウスと思しき人物は直角に跳ねるようにして奇襲を潜り抜けた。
(読まれてた……はずはないよね?)
 事実、ローブ越しのテオドシウスがこちらを見たのはその刹那のことだ。
 直後、急激な加速を以ってテオドシウスがこちらへと肉薄する。
(まずいかもっ!)
「待ちな、嬢ちゃん。撃ってきといて逃げるのは無しだろうがよ!」
 後退しようとしたリリーの目の前へ、いつの間にかそいつが立っていた。
「――その顔と手……獣種っ?」
 かちりと合った視線と、ローブから覗いた腕の冬毛を思わせるモフモフ感。
 同時、奇襲への対応にも理解が及ぶ。
 振り抜かれた剣を何とか躱せば、炎熱が足元の雪を溶かし、瞬く間に凍てつかせていく。
 リリーが反撃の魔弾を2度に渡って打ち込めば、1つは滑るようにして射線が逸れる。
 もう1つはテオドシウスの左腕を撃ち抜いた。
 鮮血が雪を赤く染めていく。それにテオドシウスが目を瞠った。
「やりやがる。嬢ちゃんもローレットか」
 驚いた様子を見せて、テオドシウスが楽しげに笑った。

『クルル――――』
 ほぼ同時、ローレットの支部でリリーのファミリアーが緊急事態連絡用に決めた鳴き声を高らかに劈いた。
「な、なに――」
 突如の声に驚いて、ニーズ=ニッドがぽろりと手に持っていたお菓子を取りこぼす。
「大丈夫! 私が立っている限り、私達がいる限り、君を守るよ」
 レイリーが槍を取り、各々が武器を取ったその時だ。
「散歩にしちゃあ、ちぃとばかし遠出が過ぎるぜ、『亡者』」
 そんな声が部屋のど真ん中に響いた。
 ニーズ=ニッドの真横、その頭部を押し付けるように乱暴に撫でつける男が立っていた。
「――あっ、来たのでして!
一応、向こうは敵ですけれど、どっちに行くかは自分の意思で選んでほしいのでして」
 既に銃を構えていたルシアは、その姿に目を瞠る。
 そこに立つ男の気配はその寸前まで、全くと言っていいほどに存在しなかった。
 あぁ、そうだ。まるで亡霊が如く、その場に突如として姿を見せたのだ。
「ぼ、『亡霊』――テオドシウス! や、止めろよ!」
 声を荒げるニーズ=ニッドを見下ろす男、テオドシウスはそのまま手に力を籠めていく。
「こりゃあ、帰ったら多少の躾も必要か?
 めんどくせえが、それもてめえの『糧』になりそうだしよ」
「その階級章、新皇帝派の軍人か?」
 それを見つけると同時、イズマは剣を走らせる。
 全霊を持って振り下ろした最優の攻勢防御――しかし。
「ははっ、我ながらサマにゃならねぇだろ? どこぞのマスク野郎みたいにゃいかねぇわな」
 強烈な金属音を掻き立て、いつの間にかテオドシウスの抜いていた曲刀が細剣を防いでいた。
 冷気を抱く刀に目を瞠った直後、イズマの腹部を強烈な痛みが襲い掛かり、身体が後ろへ吹っ飛んだ。
 一方、からりと笑ったテオドシウスはまるで気にした風を見せない。
「愉しく話せたかよ、『亡者』。散歩だか家出だか、どっちにしろおしまいだ。帰るぜ」
「それを選ぶのは彼だ。それに、もう『亡者』じゃない」
 イズマが体勢を立て直しながら言えば余裕ありげだったテオドシウスの顔に、不快感が滲む。
「おい、まさか――あんたら、こいつに『名前』を付けたのか?」
 刹那、テオドシウスの周囲に熱が生まれる。
「やりやがったか、やりやがったな――あぁ、やってくれやがったな!」
 ビリビリと大気を震わせるは憤怒。
 気配が濃くなるにつられるように、大気を原罪の呼び声が震わせた。
 その手に握られた曲刀が冷気を収めて熱を帯びる。
「あなたたちが何をしたいのか、
 そして行きたいと思う場所に何が待つのか、興味がありますね」
 薄いエメラルドグリーンの髪を躍らせ、ウルリカが変わるように前に出た。
 青白くも美しい軌跡を描いた斬光が三連撃を刻み付け、急加速を描いた剣閃は振動を生み連撃を刻む。
 壮絶なる猪鹿蝶、踊り舞う殺人剣の手ごたえは、まるで滑るように反射されて勢いを殺されていた。
「ここまで来ていただいたのです。
 折角ですから彼の事に着いても教えて頂きましょうか」
「へぇ、興味があるなら来てみるか、嬢ちゃん?」
 光り輝く軌跡を描いて剣閃を走らせつつ詰問を続ければ、テオドシウスが薄く笑う。
「――ま、嘘だけどよ」
 返す刀で振り抜かれた太刀筋は紅蓮の炎を抱き、ウルリカの傷口を赤く灼いた。
 振り抜かれた追撃を何とか防いだところでウルリカの後ろから剣が駆けた。
 剣はウルリカを越え、テオドシウスを微かに打った。
「名付け、或いは名を名乗り、呼ぶ事は縁を結び、存在を固定化する儀式でもある。
 これは俺の故郷における理だが、それならば名前ではなく在り方、或いは立場で呼んだ理由は1つ。
『存在を固定されては困る』からだ」
 愛剣を油断なく結ぶアーマデルに再び冷気を纏った刀身で相対しながら、テオドシウスは自己を嘲笑する。
「良くまわる口だな、あぁ、むしゃくしゃするぜ。言い当てられるってのもな!」
「ならばついでだ。教えて貰おうか――彼をどうするつもりだった?」
「――はぁ?」
 気が抜けたようにテオドシウスが声を漏らす。
 アーマデルはその様子に自らがあらかじめ立てておいた推察を述べる。
 ――転生のたぐい、或いは残滓か、と。
「は――さぁな。知ったこっちゃねえ。だが、これまたあんたの推測通りって奴だ!
『ニーズヘッグの死んだ場所で、そっくりな面したやつが見つかれば』そいつは――ってな。
 まぁいい。名付けられちまったもんは手遅れだ。
 そいつはもう第二のニーズヘッグには成れねぇだろうよ。じゃあな、『亡者』――」
 舌打ちを一つ。直後、ニーズ=ニッドの頭部を抑えていたテオドシウスの手に力が入り――その腕を銃弾が貫いた。
「――ッ、やってくれたな、同胞!」
「殺させるか。良い大人が子供を利用するなよ、情けない!
 同郷とはいえ、お前らと同胞にされてたまるか!」
「言い返す言葉もねえが、ペットを躾けるのも飼い主の役目だろ」
 追撃の弾丸を撃ち込みながらラダが告げれば、テオドシウスが笑う。
「――何?」
「おっと、言っちまった」
 テオドシウスが大袈裟に口を抑えた。
 その隙を突いて一気に肉薄しニーズ=ニッドとの間にレイリーが割り込んだ。
「これ以上はやらせないわ! この子が行きたいというのなら止めない。
 でもここに残りたいのなら――ううん、それ以前に、魔種にこの子を連れて行かせないわ!」
「お守までいるとはな……ま、ガキなら当然か! 良いさ。
 殺さずに退いてやるよ。あばよ、ローレット。
 俺はあの人みてえには――ヴァルデマールみてえには死んでやらねえぞ。
 俺は――あの人を越えて全て呑みこんでやる」
 そう言った直後、再びテオドシウスの影が希薄になっていく。
 最後まで、亡霊の如き有様だった。

成否

成功

MVP

リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
クラスノグラード地下鉄の拠点化に成功しました。
また、『亡者』改めニーズ=ニッドがイレギュラーズ陣営へと加入しました。

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