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シナリオ詳細

青空乗せて、紙飛行機

完了

参加者 : 40 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 真夏の空は何処までも澄み渡って。雲一つない晴天――そう言えば、心は洗われるが、降り注ぐ陽光はじりじりと肌を焼く。
 豪奢なレェスで彩った淡い桃色の和装に身を包み、耳をぺこりと折ったミルテははあと深く息をつく。
「なんじゃ、暇じゃのう」
 夢見がちな乙女は籠の鳥。任侠一家と言えば聞こえはいいが、特異運命座標と――己が親戚の青年と比べれば、戦闘能力はまだまだだ。無論、一家の組員の朝寝坊を防ぐ能力だけは一級品なのだが。
 鮮やかな空の下、ミルテは気に入った茶屋よりぼんやりと空を眺め、はっとした様に顔を上げた。
「そうじゃ――!」

「空まつり?」
 街で購入したクッキーを齧り乍ら午後のティータイムを読書を楽しんでいた『サブカルチャー』山田・雪風 (p3n000024)は首を傾ぐ。『魔法少女蘇生作戦』よりも大事なものなのかと半ば不機嫌そうに紙面より顔を上げた雪風にミルテはこくこくと頷いた。
「その本ぐらいうちが続編を購入したるけぇ、話を聞くんじゃ」
「ひぇっ、まじ」
 この情報屋、女子への免疫が極端に少ない。ポップな絵柄でグロテスクを売りにする『魔法少女蘇生作戦』の主人公・愛染りりあちゃんから視線を外した雪風にミルテは満足そうに微笑んだ。
「行きつけの茶屋の近くで、願いを描いた紙飛行機を飛ばす『空まつり』が行われるんじゃよ。
 それに特異運命座標の皆を招待したいんじゃ。うちも暇やし――大きな戦いを終えたあとじゃろ? 楽しい事を聞かせてくれるんじゃなかろうて」
 ミルテ曰く、冒険譚を聞きたいのだという。
 願いを込めた紙飛行機は高く高く飛んでいけば神様がその願いを拾い聞いてくれるのだという。
 どこかの誰かへ思いを吐露するのも。
 これからの未来の希望も。
 そして、不安も――すべてすべて、空まつりでは広大な空が受け止めてくれる。
「折角じゃし、近くの川遊びも含めてどうやろか?」
 にこりと微笑んだミルテに雪風は早速、と紙飛行機を用意した。

GMコメント

 菖蒲です。特異運命座標の皆様にお話を聞きたい淑女と楽しく交流しませんか?

●空まつり
 ある高原で毎年行われる想いを届けるおまじない兼おまつりです。
 日中ではありますが、陽射しの和らぐ頃に行われるため避暑としても人気が高いようです。

『ミルテより。
 お祭りの手順は紙飛行機に『願い事or伝えたいこと』を書いて飛ばすことじゃよ』

 ただ、それだけでお祭りへの参加はOKです。
 皆さんの素敵な想いを是非教えてください。

●行動
『同行者(id)orグループタグ』を必ずご利用ください。ご記載がない場合は迷子になる事も。
 字数の節約に【1】【2】【3】をご利用ください。

【1】空まつりに参加。
 紙飛行機に想いを書くことができます。青々とした緑の美しい良く晴れた日です。
 紙飛行機を書いて飛ばすことが目的です。参加された方には近くのお茶屋さんで一品プレゼントです。(詳しくは【2】をご覧ください)

【2】茶屋でのんびり
 美しい高原の茶屋でのんびりと楽しむ事が出来ます。
 ミルテのおすすめはお団子。こちらでは抹茶も美味しいですよ。
 夏季限定の軽食(冷やし中華)やかき氷もあります。実はミルテの実家(やくざ一家)の傘下のお店なので、リクエストした食べ物なら何でも出てきます。
 空まつり参加者さんには1品プレゼントです。
 ちなみに、ミルテは「今までの冒険のお話を聞きたい」そうです。よければ、ミルテに教えてあげてくださいね。

【3】川遊び
 高原近くの木陰で楽しむ事が出来ます。ミルテ一家の組員さんがバーベキューセットを準備してるので、河原で楽しむことも出来ますよ。
 川は飛び込みなどもOK。難易度はそれぞれあるようですが一番上は心臓やぶりと呼ばれているそうです。

 楽しい避暑です。
 どうぞ、よろしくおねがいします。

  • 青空乗せて、紙飛行機完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2018年09月05日 20時50分
  • 参加人数40/∞人
  • 相談5日
  • 参加費50RC

参加者 : 40 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(40人)

ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
サンティール・リアン(p3p000050)
雲雀
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
マナ・ニール(p3p000350)
まほろばは隣に
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
銀城 黒羽(p3p000505)
詩緒・フェンリス・ランシール(p3p000583)
銀蒼棄狼
シエラ・バレスティ(p3p000604)
バレスティ流剣士
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
シャロン=セルシウス(p3p000876)
白い嘘
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢(休息)
ティミ・リリナール(p3p002042)
フェアリーミード
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
セレネ(p3p002267)
Blue Moon
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束
クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
煌めきの王子
アナスタシア(p3p006427)
コールドティア
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵

リプレイ


 雲一つない、晴天の空。まるでキャンバスを青で塗り固めたかのようなその空間にふわふわと飛び交うは白い手紙たち。
 文字列を折り畳み、気持ちを乗せて空を飛ぶ――まるで雲の仲間入りをするかのように飛ぶ、その風景は残暑の、丁度風が涼しくなったころには草原を飾る不思議な空間のように思えた。
「よいしょっと、こんな感じかしらね~?」
 リスと寄り添って。紙飛行機を折りながらレストは楽し気に笑みを溢す。折られた紙飛行機に鼻先寄せて、首をこてんと傾げた栗鼠の可愛らしさに思わず小さな笑みが浮かんだ。
「こへは紙飛行機というのよ~。これを、こうやって~、よいしょ~」
 よいしょ、と掌から離れていくそれ。ゆっくりと、晴れた空を滑りだしていく紙飛行機。
 レストの手から離れたそれを追い掛ける様に首をやや伸ばして、栗鼠は首を傾げる。さあ、どこにいくのかしら、なんて問い掛ける様にレストの瞳を覗き込んだ栗鼠に小さく笑みを溢して。
「ふふ」
 思わず毀れた笑みに栗鼠はきょとりとした表情を返し続けた。
「紙飛行機……?」
 折り方は傍らのレストが教えてくれた。アニーは紙に綴った願いを空へと飛ばす空まつりに思いを馳せては瞳を輝かせる。
(わたしは何を書きましょうか? そうね、美味しいもの沢山食べたいとか、綺麗なお洋服を着てみたいとか……。
 でもこれって……自分本位な単なる欲望ですよね……? う~ん……そうだ、これなら!)
 そう言って、筆をとったのは何時もの彼女らしい願い。大好きなのは笑顔。大切な人が笑っているなんて、それだけで心が躍る。
 今続いている悲しい事にも、辛い事にも、その先に道は存在していて。行く先が幸福であると、そう思いたいとアニーは願う。
 この願いが、どうか、どうか、叶いますようにと目を伏せて。
「あ! お団子頼まなくっちゃ!」
 はっと顔を上げたアニーの口元には笑み。空を飛んだ願いは――皆の未来が幸せでありますように。
「願い事をかくの?」
 ぱちり、と瞬くセララ。なんだか、それって七夕祭りみたいだと瞳を輝かせたセララの願い事は『世界平和』。
 なんたって、彼女は今をときめく魔法騎士。その願い事は神様に叶えてもらうのではなくてセララ自身で。
 だから、これは彼女にとっての『決意表明』だ。
「魔種を全部やっつけて平和な世界にするぞー! おー!」
 ほぼののとしたお祭りごとと聞けばヨハンにとっても楽しいことで。
「うーん、僕はまぁ、無難に……『マナさんともっと仲良くなれますように』でしょうか……」
 悩まし気なヨハンの傍らでマナは『ひみつのお願い事』を紙飛行機に描いて小さく笑う。
 描いた願い事はちょっと恥ずかしいかもしれない、とえへへと頬を掻くヨハンにマナは楽し気に小さく笑う。
「お互いをもっと知り合えていけたらー……って願いを込めてー……? ……く、口説いている訳じゃないですからね……! ね!?」
 慌ただしくそう告げるヨハンにマナはくすくすと小さく笑う。
 願い事を飛ばしたマナに「マナさんは!?」と問い掛けたヨハン。ヒミツ、と口元に指先宛てて冗談めかした彼女にぱちりと小さく瞬いた。
「……え、えっと、参加者は一品料理が頂けるみたいですよ! どーしましょう! せっかくなので冷やし中華とか!」
「はい。あ、よ、よろしければ……お団子、一ついかがでしょうか……?」
 購入しておいたというお団子。お友達と何か1つを取り分けるのが夢だというマナの差し出すそれにヨハンは恥ずかしいと頬を赤らめ、照れて笑った見せた。
 まだまだイレギュラーズとして召喚されたばかり。何を語られるわけでもないのだけれどとシャルロッテは視線を揺れ動かす。
 願うはこれからの事――神様に認められるこの世界ならまじないだって悪くない。
 さあ、願おうとシャルロッテが書き示したのは。
『この世の全ての秘密を凌辱しつくし……』
 そこまで書いて紙をくしゃりと丸める。ふふん、と鼻鳴らしてシャルロッテは視線を揺らした。
「こんな変態じみた願いはこの青々とした空には似つかわしくないだろう。ボクは空気は読める方だよ? だって、探偵だからね」
 そうしてもう一枚。
『ボクの目の前に際限なく謎が現れますように』
 遠回しにはなったけれど、言いたいことは同じ。紙飛行機を見送ればシャルロッテの視界がくらりとする。
 青空の日差しはちょっぴりつらい。祭りの参加者には茶屋でかき氷が与えられるという事を思い出し、さあ、さっそくそちらに向かおうか。
(私の、想い……?)
 ぱちりと瞬くアナスタシア。この紙に綴って空をに飛ばせば、その先で誰かが見るのだろうか。宛名のない手紙として受け取った誰かが、それをどう見るのか――そう思えば、少し面白いけれど、少し不思議な感覚で。
『一人は寂しい』と書き示した想い。ずっと、一人だったから――誰かと一緒に居る事を知らないからこそ、アナスタシアはそう書き示す。
 如何したらいいか分からない。誰かといるという事に慣れないその体はどうにも言う事を聞かなくて。それが、私の想いで、誰かに伝えたいものだとアナスタシアは確かにわかる。
 折り方を教わって、ゆっくりとゆっくりと空を舞わす。風に乗って飛んでいくそれは、どこへいくのだろうかと、少し見送って。
「紙飛行機に願いを乗せて、か。とてもロマンチックだね。僕の願い……いや伝えたい事、なのかな」
 届く宛てないのわかっていてもクリスティアンも想いを乗せたい。故郷への、儚い思いをそっと紙飛行機に乗せて。
 風に乗せて飛んでいくそれはふわり、ふわりとクリスティアンの視界から消えていく。
 どこまで飛んだかなんて見届けない。きっと、届く事がないと知っているから、悲しくなってしまうから。
「さあ! 落ち込んでいても仕方ないね! お祭りに参加すると茶屋で一品戴けるんだったね。
 ふふふ、オススメのお団子を食べに行こうかな!」


「懐かしいねぇ。紙飛行機を飛ばすなんて何年――20年以上ぶりか」
 昔は上手く折れなかった紙飛行機。縁にとっての思い出は、やっとよく飛ぶと風に乗せれば海風に乗って波の狭間に運ばれていったことだった。ガキ臭い思い出かと頬を掻きつつ何を書こうかと手元を見下ろした。
「この歳にもなって、今更願いたいような願い事なんて思いつかねぇ。
 ……それに、本当に叶えたい願いは、絶対に叶わねぇってわかってるのさ」
 悩みぬいて書いた数文字。投げ方が甘かったか、願いが重すぎたのか、幼い頃と同じようにうまく飛ばずに落ちて来るそれ。
 苦笑して、紙飛行機を畳んで懐へと仕舞い込んだ。
『――いつか、赦しを』
 紙飛行機に願いをかけて、か。クロバはそうつぶやいて夢や願いはないんだがと紙をぼんやりと見下ろした。
 しばらく考えても何も思いつかない。いや、あるにはあるのだろうが、それは『オレ自身の手で』とクロバは決めていた。
 願掛けするにもあまりに綺麗なものではないから。
「あ」
 ふと、思いつく。あったではないか、クロバの脳裏に過るのは混沌(ここ)に来てからの様々な顔。
 彼が聞いたのはそうして出会ってきた人々の話や願い、夢。夢のない自身が何かを願うのだとすれば、ただ、一つ。それでいい。
『他の奴の夢が叶うといいな』
 らしくないだろうか、と空に放り投げた。
「旅一座の繁栄……そして、メンバーのこれからを願って……――空から見ていてください、母上……」
 普段は夜空を見上げて空の星に恋歌を紡ぐ。ヨタカにとって溶けていく音色を反芻するのとはまた違う青空がそこにはある。
 説明をうけながら作った折り紙。形はとてつもなく歪なそれ。果たして飛ぶのかどうか――飛んで欲しいと願い事を綴ったそれは吸い込まれそうな蒼穹に溶けてゆく。
 ゆっくりと飛んでいくそれを見送って。母上への想いを口にして。さて、茶屋で甘い物でも食べようではないか。
 やるならばすべて本気。自前の紙飛行機ランチャーをてにしてシグは紙飛行機にも手を抜かない。
「……使用者数が少ないのに無駄? 何を言っている。全ての技術は無駄から始まるのではないかね?」
 彼の手元にある自身の紙飛行機には最愛の恋人の事を記して。
「――願わくば彼女に、幸あらん事を。己が罪に苛まれる事なき事を」
 願い。その言葉に頭痛がしてぐらぐらと視界が揺れる。なんだろうかと考えても浮かばずに。
 いつか何とかなるだろうかとその意識は外に放りだした。
「ふむ、紙飛行機に想いを乗せて……か。ずいぶんとロマンチックだな。
 まぁ、せっかくの祭りだ。せいぜい楽しませてもらうさ」
 黒羽は手順の通りに、紙飛行機に願いを書き記し空へと飛ばす。内容はいたってシンプルだ。
 思い浮かんだそれを単純に書くだけで寄り満足度はあがる。
『混沌の人々の苦痛が少しでも和らぐことを切に願う』
 さて、飛ばしたならば抹茶でも飲みに行こうか。茶屋では冒険譚を楽しみにしてる少女がいるのだから。


 紙飛行機には『誰かを護れる剣になれますように』と記して。シャルレィスはお茶屋でほっと一息。
 一品プレゼント――とは聞いたけれど、どれがいいかは悩んでしまう。
「あ、でも別に自分で買えばいっぱい食べたってかまわないんだよね。すみませーん! 抹茶とお団子お願いしまーす!
 えへへー。甘いお団子にお茶が良くあって美味しいね! お団子、お代わりしちゃおうかな?」
 ふと、遠巻きに見れば、茶を楽しむミルテの姿。冒険譚を聞かせて欲しいという彼女に語る葉墓守な狼との戦いやゴリラドラゴンとの悲しい別れ。
 それから、それからと次々に飛び出す冒険譚にきっと、ミルテも喜び笑みを溢すことだろう。
「この世界の話ではないのだけれど」
 詩緒は傍らで耳をぴこぴこと動かしたミルテに『元居た世界の話』を口にする。
 それは様々な勢力や種族が世界の覇権をかけて日常の裏で戦うサクセスストーリーだ。
「ほう! 面白う話じゃけぇ」
 ミルテの瞳はきらりと輝く。
「じゃあ、こんな冒険譚はどう?」
 セレネとシエラ。抹茶と団子、それからミルテ。今から始まる冒険譚はセレネにとっては真新しい事で。
「冒険談……冒険ではないのですが、先日、大きなドラゴンさんに出会いました。
 とっても綺麗でしたよ。こんなに大きいのです」
「綺麗なドラゴン!? わー! 私も見てみたーい!」
 両手を広げて、こんなに、と表すセレネにシエラは「わあ」と大声を上げる。まるで少女漫画の登場人物の様に瞳をキラキラと輝かせて。
 ドラゴンはまだまだ出会った事がない存在だ。確かに、この混沌世界は『ファンタジー』と呼ぶに相応しい。
 シエラだっていつかは――そう願わずにはいられない。
「ふふふー、ついに、私の冒険譚を語る時が来た様だね!
 あれは私がまだ冒険者になる前の嵐の夜の事……彷徨う魂に取り憑かれ──かくかくしかじか。
 ……魔種達相手には盾役として大活躍!! 私の盾っぷりはパンドラ復活を幾度となく発動する程なのだー!!」
 笑顔でサムズアップする長話シエラ。その言葉にセレネはこて、と小さく首を傾げた。
「シエラちゃんはいつも、ケガしてるので、いつも心配してます。あんまり無茶はしないで下さいね」
 はい、と自身の手元にあった団子を差し出して。セレネは「それで」とシエラに冒険譚を乞う。
 利香にとってはチーズは好物。抹茶のチーズケーキなんて乙女的にも目がない物で。
「合わなそうですが、案外美味しいんですよ! チーズの入った抹茶の蒸しパンとかもいいですよね、あとは……」
 悩まし気な利香はミルテに冒険譚を語ろうとふむ、と首を傾げる。
「そうですねぇ、サーカスの魔種たちの話をしましょうか? 彼らは中々厄介でしたよ。
 人を操ってとんでもないことをさせようとしたり――……あ、でも、イレギュラーズの活躍もすごかったんです!」
 まだまだ色々知らない世界だから。ミルテには楽しいお話をしてやろうと利香はそう思う。
 楽しんでくれればそれでいい、嬉しそうに笑ってミルテに利香は今まで見て来たイレギュラーズの活躍を楽し気に伝えた。
「こんにちは、ミルテさん。俺は秋宮史之だよ。よろしくね」
 経験は少ないけれど、と口にするのは幻想と天義と海洋。幻想ではカースド・タイフーンと呼ばれた謎の現象から村人を避難させた。
 天義の事はあまり話したくないかな、と史之は目を伏せる。
「これは海洋での思い出の小瓶。夜になると凍り付く海の水だよ。現地ではシャーベットの海って呼ばれているんだ。
 海洋は俺にとって大切な国なんだ。何せ依頼へ取り組むきっかけが海洋のイザベラ女王陛下だから……」
 目を伏せて。史之の頭に浮かぶのはイザベラ。辛い時も彼女を思い出せば前向きになれる。
 単純だろうか、と頬を掻いた史之にミルテは「恋の話なんじゃな!」と瞳をキラキラとさせる。
「恋バナは乙女の嗜みじゃけぇの」
 もっと! と乞われれば、嗚呼、何処か恥ずかしい。
「私が何の想いを乗せて紙飛行機を飛ばしたかって?
 そりゃ面白い冒険とか好敵手になり得る存在に出会いたいとか……まぁ、そんな感じよ。
 出会えたとしても運良く依頼を受けられるかってのもあるし、こればっかりは神頼みとしか言いようがないのよね」
「ほほう」
 竜胆の言葉にミルテは瞳を輝かせる。好敵手となり得る存在が出来たならばその話も聞かせてほしいとそう願う。
「……で、今迄の冒険の話だったわよね。私がこっちで体験した事だったらお安い御用よ。
 あ、店員さん。この子のお勧めだっていうお団子をいただけないかしら?」
 自分の分とミルテの分。注文する竜胆にミルテは「ええんか?」と嬉しそうに笑みを溢した。
 ヘイゼルの隣にちょこりと座ったミルテは瞳を輝かせる。
 おすすめの団子と抹茶を手にしたヘイゼルの語る冒険譚は混沌での一年と少しの依頼の話。
 どこか楽し気なヘイゼルにミルテは瞳をきらりと煌めかせた。
「そうでせうね……。『まずはゴブリンより始めよ』『果実園怪鳥事変』『ゴリラとリングイン』」
「ふむ」
「『化物にも満たなかった毒蜂』『反貴族の夢と共に燃え落ちる薔薇園』
 『獣王に呪われし村に起きた奇跡』『瓶詰めの希望』『誰にも見られてはならぬ』」
「ほうほう」
「『くすんだ菫色の闇』『ヴィラン達のランウェイ』『ぷるぽよなアイツ』『農業女子会体験』
『子供たちは動けない』『“高嶺の花”の存在理由』『図書館春闘』『悲劇的少女は悪事がしたい』『蛸に角、茶葉に海水』……


「シュバルツ、紙飛行機に願い事、書けませんでした」
 願うのは苦手だとアマリリスは困った顔をする。「思った事を書きゃいいんだよ」とぶっきらぼうに返したシュバルツにアマリリスは悩まし気に「千年先も貴方と一緒に居たいとか書けばよかったでしょうか」と呟いた。
「ううん、シュバルツは?」
「俺? 願い事をする機会は他にもあったからな。今回はとある奴に伝えたいことを――……誰かは教えないが」
 ちらり、と視線を送られたアマリリスは「機密内容ですか!?」と身を乗り出して、そのままシュバルツと鋭く呼ぶ。
 敵襲かとシュバルツが顔を上げれば、ナイフを手にしたアマリリスが相対したのは蜂。
「……つーか、ナイフ投げんな。危ねぇだろ」
 シュバルツの声にアマリリスは小さく笑う。は、と思い出したようにアマリリスは「シュバルツは」と小さく囁いた。
「この後はお暇ですか? 孤児院が今日はどなたもいらっしゃらず……お泊りになりませんか?
 四方の夏が終わると言うのに静謐に満ちているのが、なんだか寂しくて」
「あぁ、分かった。折角誘ってくれたんだし、今日はお前の所に泊まらせて貰うわ」
 ぱあ、とアマリリスの表情が明るくなる。それを見遣って、シュバルツは手元の料理を口へと運びながら。
「俺が寂しくなんてさせねぇよ。今夜は寝かせねぇからな? なんて冗談、言ってみたかっただけだ」
 騎士の格好でないから心の武装も解けたのかとアマリリスはジョークを乗せてぱちりと瞬いた。
「いい天気、今日は美味しいものを食べて帰ろうか? 何なら後で紙飛行機飛ばしても良いしね」
 そう微笑むシャロンにティミは楽しみです、と大きく頷いた。その後ろ姿になんだか思い出しますと笑うティミにシャロンはぱちりと瞬く。
「実はシャロンさんは姉さんに後ろ姿が似ているんです。よく三つ編みをしていて……」
「お兄さん――じゃばくて、お姉さん……かい?」
 長いみつあみが似ているのだとそう言われれば小さく笑う。
 折角だからと頼んだ抹茶と団子。甘味の事ならば普段からリサーチを続けるシャロンにとっては慣れたものだ。
「ミス・ティミ。出会った頃より、笑顔が柔らかくなったね」
「……笑顔、柔らかくなりましたか?」
 手で頬を挟んで照れた様に。少し、困った顔を浮かべて。
「そして、大人っぽくなった……というか、元から持ってるものかもしれないけど。
 でも、ミス・ティミ……無茶はしないでおくれよ? ……って、君なら大丈夫かな、でもいつも心配はしてるからね」
 妖精たちやシャロンがいるからとティミは柔らかに微笑む。
 彼のオススメのお団子は彼の云う通りやはりおいしくて。こうして食べれば、なんだか、家族と共に居る様な気にもなる。
 安心できて暖かな気持ちが胸をふわりと過って、嗚呼、幸せだ。
「まだまだ暑い盛りですが、綺麗に晴れて気持ちが良いですね」
「はい、今日はとっても気持ちええね。一緒してもろておおきに」
 クラリーチェへと笑みを溢して。蜻蛉は柔らかに微笑んだ。夏もそろそろお暇してほしいなんて思い乍ら二人で茶屋へと足を運ぶ。
「かき氷、今年最後になりますでしょうか?」
 氷苺をさくさくとスプーンで突くクラリーチェへと蜻蛉は「美味しいねえ」と笑みを溢す。きめ細かい氷は何処までも美味しくて。
「クラリーちゃんは願い事あるん?」
 愛称を呼ばれてキョトンとする顔が可愛らしくて。くすくすと小さく笑う。
「私達も、飛ばしに行きますか?」
「そやねぇ……お願い事。最近、新しいのが増えたし。飛ばしてみてもええかも……」
 その言葉にクラリーチェは満足げに頷いた。
「あ、ほら。見てください。紙飛行機が沢山。皆さんどんなことを書いて飛ばしていらっしゃるのでしょうね」
 こうして、誰かとお茶が出来るのは幸せで。また、一緒出来ればうれしいなんて。きっと口にすればクラリーチェは頷いてくれることだろうけど。
 ねがいごとは飛ばすまで秘密。告げればきっと、彼が笑う事は知っている。
 サンティールは傍らのウィリアムの紙飛行機を覗き込み「おおきい」と小さく笑う。
「大きくねえって。……いや、少しだけ大きいかな」
 秘密の儘の方が心が騒ぐでしょう、なんて、サティらしいとウィリアムはそう思う。
 口遊んだリズムはどこまでも高く――サンティールは歌う様に空へと白い鳥を投げる。

 ――ひばり、ひばり、春告鳥よ
 この唄を、僕らの声を
 どうか、どうか、届けておくれ
 遠く、高く、どこまでも!――

 どこまでも澄み渡る蒼穹に投げ入れて、空の向こうへと願いを届けと願うウィリアムの耳に入ったのはサンティールの願い事。
「――ウィルが笑顔になれますように!」
 ほら、ほんと『ばからしい』と目を背けたウィリアム。ふふん、と胸張ったサンティールが小さく笑う。
「でしょう? いろいろ悩んでいるのがばからしくなるでしょ! ……あれなんでこっち見てくれないの」
 回り込んで見遣れば、その願いは叶っている。満足げなサンティール。そらに届いたその願い事はウィリアムだって一緒。
『サティが幸福で在れますように』
 願い事を書いた紙飛行機を飛ばす祭り。平和で微笑ましいとポテトが紙に示した願い事はただ一つ。
『リゲルが沢山幸せになりますように』
 ポテトにとって、一番うれしいのはリゲルの幸せ。けれど神様が叶えてくれるならリゲルの父親の事でも願えばよかっただろうか。
 願いを込めて紙飛行機を空へと飛ばす。飛んでいく紙飛行機を見送ってポテトはふうと小さく息をついた視線のその先――
 紙飛行機を高く高く。どう飛ばせばいいかを研究して。風に乗せて、力強く。
 リゲルが願うはフィアンセのポテトがこの世界に飛ばされ、親とも呼べる人達と離れ離れになってしまった。
「ポテトが女神さま達と逢えますように」
 戻れるかは解らなくてもいつか少しでも会う事が出来るならば――きっと、ポテトはリゲルの事を願っているだろうから。
 本当に女神さまと会えたならポテトに相応しい旦那になるべく、誓いを立てようとリゲルは決めていた。
「リゲル」
 そんな彼の背に声かけて、ポテトはへらりと笑う。奇遇だと手を振って、近寄ればリゲルは嬉しそうに笑みを溢した。
「よければ、これから――」



 そろそろ暑い時期も終わりだ。この時期の締め括りには川遊びをするのだって楽しい。
「川遊び――……その方法は主に、ルナール落とし。着替えの準備は十分かー」
「――って!?」
 俺を落とすのかという叫び声と共にルナールのその体にはルーキスのタックルが飛び込んだ。その勢いの儘、川に落ちていく。
 くすくすと笑ったルーキスが水の中から頭を出して「よーし、水も滴る良い男の完成」と告げれば、ルナールはぬれねずみになった二人の様子に思わず苦笑を漏らす。
「ん? それならルーキスは水も滴るいい女……って髪が凄い事になってるぞ」
 撫でつけた長い髪。視界を遮るそれを気にせずぴたりとひっついていたルーキスは髪を直されたその時に顔を上げ、川魚だ、と瞳を輝かせた。
「火も借りられるんだっけ、川魚も美味しそう」
「ああ、水中行動もあるしいけるだろ」
 二人分採ってきてとリクエストするルーキスに頷いて、ルナールは川の中へ。水の冷たさも、心地よさもすべてをひっくるめて。
 笑みを浮かべたルーキスの許へ向かえば、火とタオルが用意されている。
「たまには野営もいいねえ」
「今度、二人でキャンプでもするかね」
 なんて、楽し気に笑い合いながら今日は二人の『川での野営』を思い切り楽しもう。
 何をするわけでもなく。なんて事ない時間を過ごすかのように川に足を浸けて涼む。静かに、自然の音を聞いて――隣に座り合うそれだけで幸せで。
「……いい香りがするね。何が入っているんだい?」
 ラノールの問い掛けにエーリカはふと、顔を上げる。旅暮らしでは味わえなかった『おべんとう』。
「お肉と、お野菜と、たまごと、あのね、果物もあるの」
 残念な説明になっただろうとエーリカはどこか気まずそうに顔を上げる。それでも、バスケットに詰め込んだのは彼の好物ばかり。
 それは勿論ラノールにも伝わっている。「弁当なんて初めて食べるよ」と告げられた言葉にエーリカの口元も綻んだ。
 さあ、どれから食べようか――迷いに迷う。どれも美味しそうだから、1番目を決めれない。
「エーリカ」
 名前を呼んで、自分の口を指す指先にエーリカは「えと」と首を傾いでから、理解する。
 ああ、そんな――そんなのって。顔にのぼる熱は隠せない。
 まるでひな鳥の様に口を開けて、食事を待つラノールへと一口大の、ちょっぴり香辛料を効かせたお肉を運んで。
「えへへ」
 彼が幸せそうに笑ってくれるそれだけで、エーリカだって、とても、うれしい。
「これが心臓やぶり……高いわねぇ」
 アーリアとミディーセラ。向かうは心臓やぶりの崖。そこから川へと飛び込むのだ。
「飛び込み? ふむ……」
 願いは込めるより、掲げるのが良いというミディーセラ。紙飛行機に託すのはおまかせで、ミディーセラはう美を傾いでさらっと飛び込み。
「水、それも多量のものは一種の断絶なのです。その静けさから眠りを護るもの、と表されます。
 故に、深きにあるソレの先触れであり…。神秘を求め、引き寄せられるように何度も沈んだものです。ちょっとばかり、懐かしい」
「えええ!!?」
 どうしましょう、と慌てるアーリア。ミディーセラは目を伏せたまま動きがない。
 こういう時はどうすればいいのか、おなかを押すのか、それとも人工呼吸か。
 慌てるアーリアは大切な友達を助けるためだと口を近づけて、ぴたりと止まる。
「すてきな目覚めですこと。もう、続きはしてくださらないのかしら? ふふ……」
 ぱちりと視線が克ち合って、あわててアーリアは飛びのいた。冗談めかすミディーセラに「もう!」と頬を赤らめて。
 眺めているだけで楽しそうな、素敵なイベント。
 ノースポールの日課の『お手伝い』も今日はない。だから今日は願いをかけて空に飛ばそう。
『恋人のルークとずっと一緒にいられますように』――そう書こうとして手を止めた。
 神様に伝えなくったってその願いはきっと叶う。だって、それは二人が全力でそれをかなえようとしているから。
 だから、願いは違う。あの笑顔を、あの声色を、心安らぐ体温を、あの優しいまなざしを。
 それを失う事ない幸せな時間を一緒に過ごせるように――「ルークがずっと幸せでありますように」
「んなぁ……虫や泥団子食べさせようとしてきたあのおてんばミルテちゃんが立派にならはったモンやなぁ。
 俺ももう泣き虫やないし、負けないように頑張らんとアカンね」
 茶屋でミルテに挨拶をする前にブーケは紙飛行機に願いを書いていこうとそう決めていた。
 おてんばミルテが祭り会場で楽し気にホストを務めているというのだ。女の成長は早いものだとブーケはぼんやり思う。
(願い事なぁ。叶えてほしいことはぎょうさんあるけど、世界平和ー、とか魔種撲滅ー、とかそんなガラでもないしね。
 自分で叶えられなくて、それでも叶いそうなことを願う匙加減に悩むわ。『他人の金で闇市行きたい』……なんてなぁ。あはは!)
 月餅でも貰ってこよう。きっと、ミルテにどやされるだろうか。
「空まつりねー。願い事かと抱いて欲しいことを書いた紙で紙飛行機を追ってよく飛べば願いが叶うって面白いねー。
 確かに日常でも、何気なく折ったのが凄い飛ぶと何か良いこそがありそうって思えてくるしねー」
 けれど、クロジンデは今日は伝えたいことが有る。悪意をぶつけるのものばかりに適性があったクロジンデだけど。
 今は伝えたい。これは殺意なのだ。アルルカン、くそかわいそうめ、と心に秘めてびっしり書いたのは。
「ぶ っ 殺」
 何処に届くだろうか?
 これで誰かに届いたならば面白い――だから、辞められないのだ。この祭り。
 ふわふわと空飛んで。そうしていけばいい。
 青空は全てを受け入れる様に鮮やかなのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 紙飛行機。子供の頃に良く飛ばしました。
 皆さんの素敵な思い出になりますように。
 ミルテお嬢さんも楽し気でした。

 この度はご参加ありがとうございました。また、ご縁がございましたら。

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