PandoraPartyProject

シナリオ詳細

純白なるアマービレ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 『ソレ』を偶然だと言うには、あまりにも出来過ぎていた。
「……」
「リ、リア……その、大丈夫……?」
「いや――シキちゃん、此処は暫くそっとしといたほうがいいかもしれねぇ……」
 バルツァーレク伯が所有しているプライベートビーチ――『ホワイト・クリスタル』
 かつてこの地から『白き剣』が作られ、王家に献上されたという伝承から名付けられた地であるらしい。
 静かなる気配。穏やかなる気候。美しき景色。
 全て兼ね揃えたその地で、毎年開かれている夏限定のパーティへとイレギュラーズ達は誘われた――そこまでは良い、のだが。
 その場にて。一切、表情に色を付けぬのはリア・クォーツ(p3p004937)だ。
 ……堅く閉ざされた心の内に宿っているのは一体『何』か。その意を察しているのは彼女より幾らか事情を伝えられているシキ・ナイトアッシュ(p3p000229)にサンディ・カルタ(p3p000438)の二人ぐらいであろうか。いや、他に『この場』に呼ばれた面々もいるが――その中には話されていなくても、なんとなし察しが付いている者もいるかもしれない。
 ……ともあれ閑話休題。
 先述の通りビーチへと誘われたイレギュラーズ達であったが、パーティに参加するには条件が一つあった。それは――『白い水着』を着用する事である。特に、女性は白いウェディング型と言っても差し支えないデザインであったろうか。
 それが何を意味しているのか、ハッキリとは言われてない。
 が。周囲を見ればイレギュラーズ以外にも参加している貴族らしき者達もいて……更にその者達が二人一組で在れば、なんとなしに察するものだ。

 これは『ペア』で招待されるものなのだ、と。
 そして『ペア』で行動するものなのだ、と。

 そして、リアは選ばれたのだ。なんと主催たる遊楽伯のパートナーに。
 『厳正なる抽選』の結果によって。
 ――あぁ、彼は立場と自らの立ち位置を重んずるから。自分から誰ぞを選んだりはしない。
 だから毎年誰かを選ぶときは『厳正なる抽選』で選んでいて、そして『偶然』『偶々』『奇跡的』にリアになった様で――
「…………ごきげんようバルツァーレク伯」
「リアさん、あの――」
「申し訳ありません、少し気分が優れなくて。夜風を頂いて参ります」
 ……尤も。リアとガブリエルの間には『それ所ではない』空気の真っ最中。
 なんともはや、如何なるパーティになる事か。
 ともあれ。ペアで行動する、というのは以前からの例年通りである。実際――海洋より招待した貴賓枠としてクレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)やフェルディン・T・レオンハート(p3p000215)も此処におりローレットからは星穹(p3p008330)にヴェルグリーズ(p3p008566)らも、ペアとして招待されている。
 更にはブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)の隣には。
「ははっ。水着も似合ってるね――ブレンダ」
「さ、さっきからそうまじまじと見るな……!」
 彼女の知古たる貴族……シルト・ライヒハートの姿もあった。
 シルトはバルツァーレク派の人物であり、だからこそ遊楽伯主催のパーティに呼ばれてもいる形であろうか。彼らの目の前には彩られた料理や希少たる酒に、アルコールが取れぬ者の為の飲み物などなど……より取り見取り。
 流石は遊楽伯の気遣いであると称える貴族もいる――っと、薄暗くなり始めている時刻なれば美しき星空が見え始めてもいるか。
 もう少し時が経てば、より煌めく天の芸術品が其処に顕現するのだろう。
 ……遊楽伯がこの地をプライベートビーチにしているのは『ソレ』が在るからだともされている。この地が心無き者に荒らされぬ様に確保し、保護し、親愛なる者達にだけ一時解放するのだと。
 ともあれ。純粋にこの場を楽しめる者もいるだろう。
 共なる者と、己らだけが知る、静かなる語り合いをする者もいるだろう。
 穏やかなる時の流れの中で……

 純白なる一時が――始まろうとしていた。

GMコメント

 お待たせしました、リクエスト有難う御座います。

●依頼達成条件
 パーティの一時をゆっくりと過ごしましょう。

●フィールド『ホワイト・クリスタル』
 バルツァーレク家が所有するプライベートビーチです。
 時刻は夜に差し掛かっていますが、灯りは十分にあり視界に問題はありません。皆さん以外にも遊楽伯より招待を受けた貴族もいますが、それほど数は多くありませんし、彼らもまばらに散っていますので皆さんの邪魔をしたりはしないでしょう。
 基本的に静かにゆったりと過ごす事が出来るかと思います。

 まもなく夜空も目立ち始め美しき星空も見え始めるかもしれません。
 毎年この時期、このプライベートビーチからは煌めく絶景が見えるのだとか……
 これもまた彼の有する芸術品が一つ――とも言われています。

 また、一角ではお酒やジュース、その他海の幸がふんだんに使われた料理なども並んでいます。此処で軽くペアの方などと食事をしてもいいかもしれませんね。
 一例として以下があります。
・カシス系(ソーダ・オレンジ・リッキー・ミルク)
・ウォッカカクテル系(モスコミュール・バラライカ・ソルティドッグ)
・ワインベース(バンブー・シャンパンカクテル)
・その他ジュース全般(ソーダ・オレンジ・アップル・グレープジュース)

●パーティ・ルール
 なお。本パーティは、デザインはある程度異なれど男性は白い水着、女性は白いウェディング水着の着用が求められています。理由はなんでも「この地は、かつて王家に献上された『白き剣』にまつわる伝承がありまして……」などと言った説明がされていますが、ホントかどうかは分かりません。

●ガブリエル・ロウ・バルツァーレク
 幻想三大貴族の一人、遊楽伯爵その人です。
 『厳正なる抽選』の結果、ペア対象としてリアさんが選ばれました。
 ……厳正なる抽選の結果ですよ? ええ。間違いありません。

●シルト・ライヒハート
 幻想貴族が一角、ライヒハート家の人物です。
 今回は遊楽伯より招待を受けブレンダさんを指名しました。
 彼と他に親しいとされる『ある女性』の姿は――無いように見えます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 純白なるアマービレ完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年09月07日 01時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

リプレイ


 ――さて。一部に流れる独特な気配はともかくとして、だ。
 この場はパーティであるに相違はないと『海淵の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)は『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)へと視線を滑らせるものだ。まさかこのような場に参列できるとは……正に光栄の至り。
 海洋からの貴賓枠としてモスカの名に恥じぬ様にせねば――って。
「クレマァダさん、唐突にどちらへ? そちらには何も」
「ふん、浜辺は騒がしいからのう。しかし海の煌びやかさは変わらぬとなれば……
 海を見るなら当然海の上で――じゃな?」
「えっ、まさか……この船で沖に出るのですか?」
 その時。クレマァダが見ていた先にあったのは、小舟であった。
 二人か、三人か乗れる程度の代物……成程。彼女が望むのならば、それもいいだろう――
 そう思いてフェルディンは早速にオールを探さんとした、が。
「畏まりました、すぐにオールをお持ち致しま――って、う、うわ――っ!?」
「ははは! 油断したの! どうじゃ、これでこそ夜の海じゃ。
 ――芸術品とやらを拝むには、これくらい暗い方が良かろう」
 刹那の出来事。クレマァダはフェルディンを小舟に連れ込み――もやい網を掴んで加速しながら泳ぎ、あっという間に沖の方まで。海種と言う事を忘れておらんかの? ん?
「い、いやしかしいくら水着だからといって、そのような!
 他の方々も見て――いや。誰も、いない……?」
「そりゃそうじゃ。皆、浜辺の方におればの、我らを見る者なぞいようものか」
 然らば。フェルディンは、あまりに突発的な行動に慌てふためくもの――
 先述の通り貴賓枠としての招待客が取り得ることではない、と。
 ……しかし。クレマァダの言うように、二人の姿は誰にも見られておらぬと知れば。

「ふふ…――あはははっ!」

 自然と笑みがこぼれるものだ。
 ――あぁ。思えば、以前ナイトプールに赴いた時もそうだった。
 この祭司長殿は、普段あんなに規律と威厳を重んじておられるのに、少し人目から逃れると唐突にこういう事を――そして、こういう顔をなさるのだ。奔放にして自由気まま。
「むっ、何がおかしい?」
「いえ。なんとも……貴女らしいと」
「そうかの?」
「そうですね。ええ――そしてとても綺麗で、穏やかな海です。
 ……――今だけは。こんなボクでも、貴女を一人占めできたりするのでしょうか?
 この海と。貴方との時を……」
「……そうじゃな。“今だけは”――それで良い」
 だから。あぁ。
 クレマァダは受け入れよう。今、この一時を……彼と共に。
 ただ。『今だけは』と強調するソレは拒絶にも思える意が含まれていたかもしれない。
 悪い捉え方をすれば、この逢瀬は『素敵な想い出』以上にはならぬ、と。
 ……勝手にこれで満足して。だから笑顔を浮かべている。
「ありがとうございます、クレマァダさん。
 ここまでお許しになられたのであれば、私にとっては十分です」
 だけどフェルディンの顔も、微笑みの色で染まっている。
 これで上出来。ここまで許して下さっただけで十分だと――
 クレマァダを背後より抱擁し、そのまま水飛沫と共に海の中へ。
 このまま。泡沫の如き淡い想いでと消えても良い。でも……
 少しでも、期待が持てるなら。
 そんな振る舞いをあなたがしてくれるなら。
「じゃが勘違いするでないぞ――我とそれなりに親しくて、ある程度他人や場に配慮した振る舞いができて、その上でフリーな男なんぞお前しか居らんかっただけじゃから!! それだけじゃからな!! それ以上の意味はないからの!!」
「ええ、分かってます。でも」
 いずれは必ず全て一人占めしてみせましょう。
 貴女の世界を。私達の世界にしましょう。
 彼女にだけ聞こえる囁き。
 ソレは――如何なる難事があろうとも諦めぬ、宣戦布告のようでもあった。


 ウェディング水着。初めて着用すればこそ『桜舞の暉盾』星穹(p3p008330)は幾度も自らの身を眺めるものである――その隣には『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)もいて。
「やはりどこかドレスのようだね――星穹殿、よく似合っているよ」
「ヴェルグリーズも、よくお似合いですよ。えぇ……ただ……」
「ん? どうかした?」
「いいえなにも。端正な相棒を持つと肩身が狭くて困るという話です」
 互いをパートナーとし歩むものである……が。端正に整った容姿を持つヴェルグリーズへと夫人方の目が引かれている様な気がする――も。当の彼はどこ吹く風。気付いているのかいないのか……いや、いずれにせよ彼の興味は其処でなく。
「『白き剣』なるものの事が気になりますか?」
「え? あぁ、はは。星穹殿は敏いな……全く敵わない」
「ふふ、貴方のことならなんでもお見通しですよ。
 それでしたらバルツァーレク様のところにも向かいましょうか。
 こんな機会も滅多にないでしょうし、差し支えない範囲でお話を伺いましょう」
 この地の由来になったとされる逸話について、だ。ヴェルグリーズ自身が剣なる概念と縁があれば……胸に沸き上がる感覚もまたあるもの。敏く、彼の事を見据える星穹にとっては斯様な事お見通しだ。故に。
「おや、ヴェルグリーズさん……よくお越しくださいました――
 白き剣、ですか? えぇ。まぁ儀礼用の剣が捧げられた、という逸話ですよ」
「儀礼用……もしかして婚姻などの際、と言う事で?」
「えぇ。その場に掲げられていると祝福を刻むのが『白き剣』とされています。
 ですので実際の刃物としての価値はなく縁起物としての一つと申しましょうか」
「成程……あぁそれと、この度はご招待頂き真に……」
 遊楽伯と軽く語り合うものである。
 白き剣。存在を同じとするソレは、ヴェルグリーズと異なり催事用か。
 成程――と、話し終えれば喉が渇きて……んっ? 星穹殿、その指先に抱いてるのは?
「ヴェルグリーズ、お酒ですお酒! とても希少なのがこんなにも……!
 ねぇ、こんな機会ですし、多少なり羽目を外した所で何も悪くは……」
「……星穹殿、キミにお酒は……ほんの少しで、すぐ酔いが回るって……」
「そ、それはそれ、これはこれという言葉がこの世にはあってですね……」
「……まったく、本当に」
 少しだけだよ。本当――に少しだけだからね。
 零す吐息。されば『……じゃあ、この綺麗な色のものを』と、星穹がやむなく一個だけグラスを選ぶものだ――柔らかき唇と、芳醇なる雫が交じり合えば、彼女の頬が微かに赤らむもの――あと一杯だけ? ふわふわしてきた? 星穹殿。星穹殿!

「……あら? 少し寝ていた、のかしら」
「おや星穹殿、もう少し寝ているといい――」
「?? ……あ、ほら、星がきれいですよ! ヴェルグリーズ!」

 さすれば。少しの時を経た後に――星穹は目が回りて横になっていた、様だ。
 浜辺に備えられた長椅子にて。あれ。ヴェルグリーズの顔が近いような……
 星穹は酔いがあったが故か気付かなかったが。
 彼女は今――俗にいう、膝枕に近い状態をされている――
 後頭部に感じる柔らかさが何か。はたして気付くのはいつか……
 ともあれ。
 ――貴方とこうしてまた海に来ることができました。
 今日まで沢山の記憶と時間を重ねましたね。
 貴方にとっては些細な記憶かもしれませんが……
「私にとっては大切なんですよ」
「……些細な記憶だなんて、星穹殿と積み重ねてきた記憶はどれを取っても大事な宝物だよ」
「ふふ――そうですか?」
「あぁ、そうだとも」
 キミが大事に思うのと同じように愛してやまない日々の記憶だ。
 忘れたりなんてしないとも。大事にこの手に掴んで、離しはすまい。
 だから。
「――そういう我儘はもっと言ってくれて構わないんだよ」
 その我儘だって大事な大事な思い出の一欠片だから。
 されば星穹も紡ぐものだ――動く唇が、紡ぐ一声は。

『私も――絶対に忘れたりなんか、しませんから』

 心に刻んだ約束。指切りの様に、小指を絡め合わせ。
 愛しき刹那が確かに此処に――あったんだ。
 今日と言う、この日に確かに……


「水着、すっごく似合ってるよ! うんうん綺麗だね!」
「ええ――ありがとう、シキ。でも大丈夫よ、サンディと一緒にいてあげて?」
 そして。一寸離れた所では『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が『玲瓏の旋律』リア・クォーツ(p3p004937)と言の葉を交わせていた。彼女ら自身も麗しい水着に身を包んでいれば、まるで華が如く、だが。
 今回のシキの目的は三つある。その内の一つが『リアの様子を伺うこと』だ。
(……お邪魔になるかもと思ったけど、これぐらいならいいよね?)
 どことなく感じる、いつもと違う雰囲気。
 だけど――露骨に心配してはきっとそれ自体がリアに気を遣わせてしまうだろうから、と。シキはいつも通りの笑みを見せリアと接するものだ――挨拶回りに疲れたら私とサンディくんのところにおいでね。
 愛しい愛しい……私の親友。
「……なぁ。きっとと回り道を通ると思うが、ま、少しくらいは待っててやれよな。
 大丈夫さ――互いにさ、ホントに憎み合ってる訳でもなんでもねぇだろ?」
「ええ……それは、勿論ですが」
 同時。『ゴミ山の英雄』サンディ・カルタ(p3p000438)は遊楽伯の下へと。
 どことなし彼に不安の色が濃く出ている気がしたのだ……故に一声。リアとの間に生じている問題に深く介入しても恐らく解決の糸口には成りえぬと、軽い挨拶だけだが。ソレをするだけでもきっと違うだろうと――
 そして、その後にシキとサンディは合流する。さすればマナーを失していないか多少不安げなシキを支える様に……サンディは一歩彼女の前へ出るものだ。それは彼女を護る様に。或いは、彼女をエスコートする様に。
「おっ。コイツはカプレーゼの一種か……? シキちゃん、食べてみるか?」
「うん、ありがとう! わ、美味しいね……! 上品な感じ!
 ふふ。景色も良いし、サンディ君の新鮮な恰好も見れるし……今日は良い日だなぁ」
「あぁ――まぁ、確かにこんな格好は中々、な。シキちゃんもよ、その水着……」
 『んっ?』と。料理を摘むシキが、サンディへと振り向けば『なんでもない』とばかりに視線を逸らすものだ。
 ……全く。そもそも俺は固定の相棒なんか出来ねえ、と思ってたし。
 どっちかと言えば貴族の結婚式から花嫁逃がす方ばっかやってたけど。
(……もしもよ。もしも――特別な式をあげることになったら、こんな感じ、か?)
 隣に。純白の衣装に身を包んだ誰かが――いるという事。
 再度シキの方へ微かに瞳を向ければ、彼女の煌びやかな姿が目に映るものだ。
 ……らしくない『夢』を視ちまったな。どうせ貴族じゃねぇから上等なのは出来ねぇんだ。
 そう思い、頭を振りて掻き消せ、ば。

「ねぇねぇ――似合うかい?」

 刹那。サンディと瞳合う、その機が合わさったのは偶然か必然か。
 彼女が回る。くるりと一度、全てを魅せるかの様に。
 されば微かに心の臓が高鳴った気がしたのは――はたしてどちらの側だったか。
「あぁ、似合ってるぜ――勿論だろ」
「ふふ。お世辞でも嬉しいよ。ね、サンディ。こうして並んでるとさ……」
 然らばシキは口には出さねども、唇の動きだけで――紡ぐものだ。
 結婚式みたいだね、と。魂の内に。
 ホントに言ってはやらないよ。だって悔しいから、ね。
「んっ? 今なんて――」
「なんでもないよ。さ、それじゃああと一時遊ぼうか! 折角来たんだしね!」
 聞こえなかったなら。波のさざ波に蕩けたんだと思いなよ。
 それよりも折角ビーチにまで来たのなら海も沢山見たいものだとシキが往けば、サンディも巡る。あぁ絶景の鑑賞スポットでも、どこかに無いかと。
 彼女に似合う場が――きっとある筈だからと。


「ふむ、こういう催しもあるのか……まさかこんなに白尽くしとは、些か驚きもあるが」
「あぁ。初めて訪れた人はよく言うよ――それにしてもブレンダは、その水着もよく似合うね。本当に初めて着たのかい? とても綺麗だ。夜でも眩しいぐらいに、ね」
 お、お前な――と紡ぐのは『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)である。その隣には彼女の知古たるシルト・ライヒハートの姿もあり……歩みを共にするものだ。やれやれ……! この男はこれだから……!
「シ、シルト。さっきみたいなセリフは人前で言うんじゃないぞ……!」
「えっ。あぁ、はは。ごめんね、つい本音がそのまま出ただけだから――
 だってさ。ブレンダは何を着ても似合うけれど、白いのは一際綺麗で……」
「い、いや分かったからもういい……! ふぅ、それより挨拶周りが重要だろう。行くか」
「ん? いやいやいいよ。折角美味しいものも沢山あるパーティなんだから偶にはゆっくり」
「そうやって面倒くさがるのは偶にはでもなんでもないだろう――来い!」
 貴族同士の場。そこへ出るを渋るシルト――を引き摺る様にブレンダは往く。
 これはペアであるが故にこそ。途上、沖に出んとするフェルディンらの朗らかな様子が目に見えたり、剣呑な『壁』を感じる伯爵やリアの様子も横目に見据えつつ……同時に、どこを見ても思うのは、このウェディング衣装ばかりの光景に対して、だ。
 ウェディング。つまり結婚か――
 結ばれし者達が結ばれし時に身に着ける、その衣。
 ……シルトはこの世界の貴族。私もいずれ元の世界に戻らねばならない。
 それはまごう事なき事実。今の関係より『先』に進むのは私たちお互いの立場が許さない。この夢のような時間にも終わりは来る――いや。或いは。『終わらせなければ』ならないのかもしれない。
 だけれども。その終わりから目を背け続ける弱い私を許してくれ。
 この指を絡ませるのが解くのが惜しいと思う、こんな私を。
「ブレンダ、ワインいるかい?」
「――あぁ。丁度欲しかった所だ、よく分かったな」
「はは。君の事なら、なんでもね」
「……またそういう事を言う!」
 同時。飲み物を差し出すシルト――今度は周りに誰もいない、か。
 やれやれと、想いながらも彼女がワインを口にするは。
 先の考えと未来の事を――酔いにて目晦まししたかったから否か。
「……綺麗な夜景だな。そろそろ秋だが次はどこへ行こうか」
「そうだね――あぁ。それなら……美しい紅葉が広がる山を知っているんだ」
「紅葉か。それは良いな」
 だけど。もう少し、もう少しだけ。
 この夢の狭間にいるぐらいは――いいだろう……?
 彼女はついぞしてしまう。『次』の約束を。
 未練だと知りながら。一秒一瞬をこの胸に――刻みつける様に。

 そして。先程ブレンダが見据えたリアと伯爵は――

「いえ、何も仰らなくて結構ですよ、バルツァーレク伯爵。
 貴方からのお話を聞く理由はありませんし。
 お忙しい伯爵の一時とお手を煩わせるなんて――私如きにはとてもとても」
「いえ、その」
 ……明らかに『一線』が引かれていた。
 別に、何も怒っていませんよ。
 この衣装はどういうことなのか、とか。どういう意味で誘ったのか、とか。
 なんであたしにサイズが合うのか、とか。なんでこんな攻めた……
「いえ、何でもないです。とにかくバルツァーレク伯爵につきましては、こんな小娘などに……」
 されば。数多の言を喉の奥に引っ込めて。
 突き放そうと――したのだけど。
 振り向いた矢先。彼女は『はぁ』と、吐息を一つ零して。
「………………なんですか、その情けない旋律は」
「……はは。貴方には隠しようがありませんね、なんともはや……」
「幻想三貴族、バルツァーレク家の当主がなんたる有り様。ほら」
 頑張って、背筋伸ばしてください。
 リアは……どうしても感情が鈍るものだ。視線を合わせてしまったら。あの瞳を覗いてしまったら。どうしてか己の足が引かれてしまう――今回だけですよと、お勤め果たさせて頂きますとも。
 そうして彼女は伯爵の、一方後ろを共に往く。
 伯爵の下には幾つもの挨拶が至るものだから……でも。
「ガブ……バルツァーレク様。少々よろしいでしょうか?」
「おや、リアさんどうされましたか?」
「実は先程の貴族、ニコニコ友好的でしたけどあまりお近付きにならない方がよろしいかと。あの人、そこらに良く居る嫌な貴族の音色が五月蠅かったので。アレはバルツァーレク様にとって害にしかなりません……
 ですが、一つ前の貴族はガブリエル様……バルツァーレク様への態度も不遜で、正直なんだこいつ頭おかしいのかって思いましたが、音色はとても綺麗で穏やかでした。恐らく誠実で信用できる方かと――それから――」
 リアは、常に探っていた。周囲の旋律を。
 それは無差別に捉えられるから――だけれども。本当にソレだけだっただろうか。
 得られた音色を伯爵に伝えてどうなる? 伯爵を避けていたのではないのか?
 ――そんな『些事』は、今の彼女の心中にはなかった。
 ただただ。いつも通りの彼女が其処にあって……って。
「……なんですかその顔は」
「え? ああ、いいえ――貴方と。久方ぶりに『お会い』することが出来たと、思いまして」
「…………勘違いしないで頂きたいのですが、貴方に何かあったら幻想が大変な事になるから――それだけです。それ以上の意味はなく、私はただ知りえた事をお伝えしているにすぎません」
「ですが私は貴女が傍にいてくれるだけで、心が躍るものですよ」
 ああぁ、もう、全く――
 顔は見ない。絶対に見ない。その必要はない。
 だって、たった一瞬だけで――瞼の裏に焼き付くかの様であったから。
「リアさん。今一時、共に在れませんか。あちらの方に、静かな場所があるのです」
「主催の方の御招きなら、私は従うのみですよ」
「いいえ。これはお願いなのです――ただ純粋に。私が貴方と行きたいのです」
「……ガ…………バルツァーレク伯には、立場と言の重さを鑑みて頂きたいですね」
 差し出される手。握ろうか、払おうか。刹那に迷いはするけれど。
 一拍の後。重なる手の影が――全てを示していた。

 ……時は過ぎる。ゆっくりと、穏やかなる波の音色に追随する様に……

 純白に彩られし一時が――確かに此処にあったのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お待たせしました。ありがとうございました。
 どうか、皆様の穏やかな一時になれば……

PAGETOPPAGEBOTTOM