シナリオ詳細
<異世界プリンの恨み>無礼講な美食パーティ
オープニング
●異世界プリンの恨み
とある旅人が『不在照明』に阻まれながらも再現させた故郷の味がするプリン──幻のプリン。またの名を異世界プリン。
希少価値のついているそのプリンはレシピも門外不出。そう簡単に作ることのできるプリンではない。幻想の人々が食べられた機会も、今のところは先日催されたアラモード伯爵のパーティ1度きりだ。
どんな味なのかと興味を持ち、食べたことのある者へ聞いてみると、
「やばい」
「とても美味しい」
「すごいプリン」
……などと、語彙が貧弱になる味ということしか分からない。それがまた、人々に興味を抱かせる一因だろう。
アラモード伯爵のパーティでは1人1つしかプリンが用意されていなかったことに対し……まあ当然と言うべきか、2つも3つも食べた輩がいたようである。どこの誰とは言わないが。
それをきっかけに幻想内の美食家貴族の間で起こった諍いは未だ続いており、次第に泥沼の様相を呈している。
そこへ動いたのは……今まで静観していた、この男だった。
●アラモード伯爵
「……皆に招待状。アラモード伯爵から」
上質な紙へ視線を落とし、『Blue Rose』シャルル(p3n000032)が差出人の名を読み上げる。
アラモード伯爵からの招待状。
おっまさかあれ関係か、と勘づくイレギュラーズもいるだろう。
「なんか、少し前にあったパーティでひと騒動あったらしいよね。それの仕切り直しって名目でまたパーティするんだってさ」
幻想貴族も招待するため、イレギュラーズの参加できる人数は限られている。しかしやはりと言うべきか、前回の目玉であった幻のプリンも登場するようだ。
ところで名目って言いましたよね? なんて声がイレギュラーズから上がる。
「言った。まあ、パーティであることに違いはないよ。依頼の本質的な目的はこっち」
言いながらシャルルが取り出したのは、招待状に重なっていた2通目。
読むね、と開いたそれにシャルルが視線を落とす。
「えっと……
『ごきげんよう、イレギュラーズ。
既に知っている者もいるかと思うが、幻想貴族の間では異世界プリンを巡った大騒ぎが起きている。
先日催したパーティでは賎しい食欲の為に1人1つまでの禁を破り、今もこうして騒ぎ続けていることで私の顔へ泥を塗っているに等しい。愚かしい行為を早急に止める必要がある。』
……だって」
読みきったシャルルは小さく肩を竦めた。
貴族っていうのは大変そうだね、なんて他人事のように呟きを漏らすシャルル。その視線は招待状の2通目からイレギュラーズ達へと向けられる。
「アラモード伯爵の要望は幻想貴族への復讐。とは言っても、死なれたら色々まずいだろうからね。五体満足でちょっと痛い目合わせるくらいでいいんじゃないかな。
前回プリンを食べ損ねた人は、食べるいいチャンスなんじゃない? 今回も1人1つはあるってさ。はい、そういうわけで参加者は名簿に名前書いて。早い者勝ちだよ」
●アラモード伯爵のパーティ
「お集まりの諸君。今日は無礼講のパーティだ」
パーティの会場となった大広間で注目を浴びる男──パーティの主催者、アラモード伯爵。
彼の言葉に会場がざわりと揺れる。
伯爵のパーティで無礼講なんて、これまで聞いたことのないことだった。
「この世界のあらゆるプリンがここにはある。もちろん、件の……『幻のプリン』も」
幻のプリンという単語にざわつきが大きくなる。
それを満足そうに眺めながら、アラモード伯爵は言葉を続けた。
「好きなだけ、いかなる手段を使ってでも食べてくれて構わない。……ただし」
1人1つしか、プリンは用意していない。
そう告げたアラモード伯爵はイレギュラーズ達のいる方へ視線を向けた。その視線はイレギュラーズ達へこう告げているようだった。
さあ、このアホどもをけちょんけちょんにしてしまえ──と。
- <異世界プリンの恨み>無礼講な美食パーティ完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年08月30日 22時05分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●幻のプリン攻防戦
1人1個はあるのだ、まだ急ぐ時ではない。
なんて思いながらも、貴族達が互いに視線で牽制し合っているのが見て取れる。
しかし、伯爵の話が終わる前から戦いは始まっていた。
「おぉ……異世界な感じがしてすごいぞ……!」
ヨルムンガンドの手には既に空となった器。そして2個目へ手を伸ばそうとする彼女に周囲がギョッと目を剥く。
「お、おいお前!!」
「ふふふ……皆が潔く諦められるように……私が残さず食べてやるからなぁ!!」
高らかな宣言に、人の群れがざわりと動き出した。
「1人で何個も、なんて……我儘貴族にはお仕置きが必要やねぇ」
ユイは刀を抜き放つと貴族に向け……るのではなく、傍にあった紐を切り払った。
元々会場に仕掛けられていた罠。切れた紐はもう一方に繋がれていた物の重さに引っ張られる。
「わああっ!?」
シャンデリアに引っかかっており、落ちてきたソレを顔面キャッチした貴族。足がもつれて後ろから来ていた貴族ごとひっくり返る。
「どけ、重いぞ!」
「ちょっとドレスが破けちゃうわ!」
「あははははっ、首擽らないでー!!」
じたばたと手足の動く人々の塊。それをひょいと避けながらユイはプリンのテーブルへ向かい、器を1つ取った。
「欲深いのはあかんねぇ」
小さな器に盛られたそれを見て、ぽつりとユイは呟く。
「これこそ神の思し召しです」
自分の分の異世界プリンを食べたロレインは「さて」と辺りを見回す。
人、人、人。群れを成したそれらがロレインの方へ──正しくはその背後にある異世界プリンのテーブルへ──向かってきていた。
「撃ちますか」
1人1個の禁を破りし貴族達。即刻、断罪せねばならない。
ロレインは粘着銃を構えると、向かってくる貴族の足へ向けて引き金を引いた。
「うわっ」
「えっ何で止まっ」
前のめりに倒れ込み、勢いを殺しきれずに後ろから向かってきていた貴族達も重なるように転倒。
呻きながら何人かが立ち上がる。
「……なっ! 何故ズボンが脱げて……」
厳つい顔の貴族が驚きの表情を浮かべた。そこへ素早く立ちはだかったのはムスティスラーフ。
「準備万端! スライムシューッ!」
ズボンを元に戻そうとする貴族より早く、その中へスライムを滑り込ませる。
もそ、と動き始めたスライムに貴族の男は焦りを見せ始めた。
「こ、こいつはっ」
「さあボルカノ君、出番だよ!」
ムスティスラーフの言葉にババーンと登場したボルカノ。
「ふぁいあー!」
向けられた銃が火を噴く……ことはないが、代わりにべちゃっという音と共にズボンの空いたところへ粘着玉がくっついた。
「護 身 完 成 であるな!」
護身対象は勿論、スライムである。
「取れ、取れなっ、あっはははははは!!」
スライムに擽られて爆笑し始める男に、周囲の貴族は目を白黒。その様子にムスティスラーフとボルカノの笑い声も被さる。
「ふっふー、ついに噂の異世界プリンを食べるチャンス到来だね!」
ミルキィは目の前に用意されている小さな器達を見て、両手を頬へ当てた。
(おいしそー♪ 食べられる前に食べちゃっていいんだよね? あっでも、イレギュラーズの人とは取り合いにならないよう気を付けなきゃ)
「よし、頑張っていっぱいプリン食べよう!」
ぐ、と胸の前で両拳を握って気合いを入れ、ミルキィは最初の器へ手を伸ばした。
そのテーブルの反対側では強面な男──ゲオルグが手に小さな羊を乗せ、他のテーブルへ向かおうとしていた。そこには他のプリンも用意されている。
最も、この状況でそこへ向かうものなどほぼいないと言っていいが。
「君はもっと食べないのか?」
わざわざテーブルから離れるゲオルグに目ざとく気付いた1人の貴族。ゲオルグは小さく肩を竦める。
「用意されたプリンに手をつけないなど、無礼極まりなかろう」
勿論、他の者が妨害してくれると思ってはいるが。
それより羊のジークと共にあらゆるプリンを味わう事が、今ゲオルグにとって大切なことである。
「魔法騎士セララ……ううん。超時空アイドル騎士セララ、歌います!」
先ほどまでアラモード伯爵がいた場所に立ったセララ。会場内の人々は何事かと足を止める。
(目立って注意を引ければ、他の皆も依頼を達成しやすくなるよね)
「タイトルは『プリンが美味しくなる歌』。最後までちゃんと聞いてね!」
手持ちマイクを片手に歌いはじめるセララ。ばっちり振りつけ付きである!
歌い終わると会場から拍手が沸き起こる。
拍手に応えるように手を振ったセララ。唐突にマイクを放り投げ、注目がセララからマイクに移った。
「あはは、ボクも食べたくなっちゃった!」
「あ、ちょっと! 私の分も取っておいてくださいよ?」
前を走っていったセララに利香が声をかける。聞いていたか定かではないが、言わぬよりは良い。
「さて、それじゃ楽しみましょうか♪」
サキュバス姿になった利香はぽっちゃりした貴族に目をつけ、そっと近づいた。
「ねえ、プリンにそんなに夢中になってどうするの? いくら美味しくても喉元過ぎれば忘れちゃうような食べ物より……リカちゃんと遊びましょ?」
上目遣いに見上げ、蠱惑的に首を傾げる利香。思惑通りに頷いた貴族を会場から廊下の影へ連れ出して──
「く、っはははは! おい、遊ぶんじゃ、あひゃひゃひゃ」
「サキュバスとそう簡単に遊べると思ったの?」
腹の上で動き回るスライムに貴族が笑い転げる。利香はそれを見下ろしながらニタニタと笑みを浮かべた。
「かわいこちゃんになってから出直してきなさい? いひひひ……♪」
会場内に戻りて。
「プリン。ああ、何という甘美な響き!」
妨害アイテムでたたらを踏む貴族達の中から影が飛び出す。
テーブル、壁、人の頭まで使って軽やかにプリンの前へ辿りついた汰磨羈は即座に器とスプーンを持った。
(素早く口に運び、いやしかし化け猫ウン千年の歴史を爆縮したおやつテクで味を堪能──)
「ンマーーーーイッ!!」
堪能したら語彙が死んだ。
その声にリナリナがひょいっとテーブルを覗き込む。
「おーっ、ぷりんってこれか? 旨いのか? 食っていいのか?」
興味津々で器を取るリナリナ。
器は小さいし、乗っている『ぷりん』なるものも小さい。美味しいのだろうか。
隣の汰磨羈がグッと親指を立てたので、リナリナは器を逆さまにしてプリンを口へ放り込んだ。
「……!!」
時に表情は、言葉より雄弁である。
汰磨羈の叫び声より少し離れた場所で紅茶を配るのはSuviaだ。
「おいしいお茶をどうぞ。幻のプリン、お茶請けとしては最上のものですよね。先にこちらを飲まれていってはいかがですか?」
「あ、ああ。君は……?」
メイド服を身に纏ったSuviaは貴族へにこりと微笑みかける。そうして見とれる貴族を余所に、近くを通りかかった別の貴族にも特性のブレンドティーを振る舞った。
(皆さん、順調にプリンを食べているかしら……?)
ちらと見るのは異世界プリンの用意されたテーブル。
群がろうとする貴族達は、目の前を素早く通過したバイクにたたらを踏んだ。
「どうしてこんなものが……!?」
「いかなる手段を使っても構わない、って伯爵が言ってたからな。さあ、命かプリンかどっちか選べ。ほれパラリラパラリラー、ってな!」
動き出すバイクに貴族達が慌てて後退し始め、ドミノ倒しのように仰向けに転倒する。クロバはバイクを急停止させると、その足元へ粘着玉を撃った。
「イタズラならまかせろー!」
クロバの粘着玉から逃れた貴族達に元気溌剌な声が降りかかる。顔を上げた貴族達へ、Q.U.U.A.は特製クリームパイを投げつけた。──正確にはプリンの乗った、プリン・アラモード風クリームパイを。
べちゃっ!
「たべたかったプリンだよ? おいしい?」
ドヤ顔で貴族達を覗き込むQ.U.U.A.。しかしクリームパイを投げつけられた貴族は喋れない。
クリームパイに仕込まれていた粘着玉のねばねばが口に命中したのである。
「やばいです。どのくらいやばいかと言うと……とにかくやばいです!」
エリーナは頬を紅潮させ、ぱくぱくとプリンを食べきってしまう。
「取った、取ったぞ!!」
その近くで貴族の1人が器を手にし、取られる前にと素早くスプーンを口に運んだ。しかしすぐに怪訝な表情を浮かべ、首を傾げる。
「これは……ゼリー?」
呟く貴族の近くを妖精がくすくすと笑いながら通り過ぎていく。
「これが噂の異世界プリンかぁ」
(本当にキノコからできてるの?)
自らのプリンを確保し、しげしげと眺めていたフルート。見た目だけではあの材料が使われているのかわからないが──
(先に貴族達へお仕置きだよね!)
丁度テーブルへ向かってきていた貴族へ銃口を向ける。
「そのプリンが食べたい卑しい唇を奪ってあげよう! 具体的には……このべとべとなお団子をお食べ!」
べちゃ、という音と共に貴族の口へ粘着玉が命中する。貴族は慌てて口の中から取ろうとして、指までくっつく始末。
「ねぇねぇどんなお味? どんなお味? あっいけない! 喋れないんだったね!」
あはは! と笑い声を上げるフルートはまだ向かってくる貴族達に気づき、その唇を奪うべく銃口を受けたのだった。
(……む)
テーブルの下から感じる気配にティバンは表情を変えず、目を瞬かせてそれを伺った。
動こうとする気配ではない。隠れてやり過ごすつもりなのだろう。
ティバンは静かに近寄るとテーブルクロスをまくり上げ、ぽかんと口をあけている貴族に粘着銃を向ける。
「食べ物の恨みは何とやらだ、悪く思うなよ」
べちゃ、という気持ち悪い音と共に、貴族の口元へ粘着銃が命中した。
「食べまくって飲みまくってやるわよぉ~!」
おー! と気合いを入れるアーリア。もうすでに酔っているような。
「きっとワインやブランデー、そしてこのご禁制のお酒と最高のマリアージュになるはず……!」
「わかっていらっしゃいますね、アーリア様。甘いからこそ合うお酒もございます」
きっちりとスーツに身を包んだ寛治はブランデーを勧めた。
深い甘みと味わいがある酒。プリンにかけても美味しいだろう。
「甘口の白ワイン、貴腐ワイン、アイスワイン……プリンの甘さに寄り添う、ワインの甘さです」
「いいわねぇ~」
うっとりと頬に手を当てるアーリア。
成果を交換しながら食べればプリンはあっという間にテーブルから減っていってしまう。アーリアが視線を巡らせれば、よろよろとテーブルから離れて行こうとする貴族が見えた。
その手元にあるのは小さな器。アーリアは貴族の元へ近寄っていく。
「ねえ貴方、私に半分だけ食べさせてくれないかしらぁ……間接キス、になっちゃうけどぉ」
アーリアの赤らんだ顔を照れたと勘違いしたのだろう、貴族の動きが止まる。その隙にアーリアは持っていたボトルから酒をプリンへ零した。
「ああ! ごめんなさい、お酒がかかってしまったわ。本来の味ではないでしょうし私が責任もって食べるわね?」
ぽかんとした表情を浮かべる貴族から器を奪い取り、アーリアは軽やかに貴族の前をあとにした。
「……ヤバイ、これふつーにうまい」
次々と異世界プリンに手を出す史之。その周りには力尽きた貴族達が転がっている。
事前に作っておいた激辛からしプリンと度数の高い酒。辛さにやられ味覚がダメになり、ついでに酔いつぶれた者も何人か。
しかも異世界プリンの上には激辛プリンがトレーごと載せられ、不用意に下の器を抜けば全てがひっくり返る不安定な状態だ。
共通の障害があると、人は団結するもので。
「くっ仕方ない……上から食べるぞ!」
貴族の1人から発せられた言葉により、貴族達は決死の覚悟で激辛プリンへ手を伸ばした。そして蹲る貴族の数だけ激辛プリンも消えていく。
トレーが取り払われる頃。総じて蹲る貴族を尻目に、イレギュラーズが再び手を伸ばすのである。
その内の1人──デイジーは蕩けた表情で頬へ手を当てた。
「はぁ~ん、これマジヤバいのじゃ。口の中でとろけるのじゃ」
ひょいぱく、ひょいぱく。
うまうまとプリンを堪能するデイジーは貴族に声をかけられ、小さく肩を竦めた。
「ここにあったプリンがないとな? 何とも不思議なことがあるものじゃの」
「お前が食べたんだろう!」
「知らぬ。妾は知らぬのじゃ。ほれ、異世界プリンは別テーブルにも用意されているようじゃ。そちらへ行ってみてはどうかの」
シラを切り通すデイジーに、貴族が諦めたのか離れていく。
デイジーはその背中を見てニンマリと笑みを浮かべた。
「見て見て! 今日はサプライズでゼリーまで用意してくれてんだってー!」
小さな器に盛られたそれに、話しかけられた貴族は目を丸くして洸汰を見る。
「何!? それはどこでだ!」
「あっちの方で! あっこれどうぞー!」
ニコニコとそれを渡す洸汰。貴族が受け取る瞬間に「あっ!」とわざとらしく器を傾ける。
「わっ……な、何だこれは!!」
つられて声を出した貴族の袖からゼリーだと思っていたもの──くすぐりスライムが侵入する。程なくして貴族の笑い声が聞こえだした。
「オーッホッホッホ! キルロード家が長女! ガーベラ・キルロードですわ!」
ガーベラの高笑いに視線が集まる。それを気にした風もなく、ガーベラは小さな器を手に取った。
(美味らしいプリン、食べてあげるのが美食家の務め──)
「~~ッ!! うまっ! こんなに美味しい甘味は初めてですわ!」
ぱくぱくと食べればあっという間になくなるプリン。
しょんぼりするガーベラに、少し離れた場所にいた貴族達から声が上がる。
「食べたきゃ食べていいんだ!」
「えっ? そ、それではいただきますわ!」
ぱっと顔を上げたガーベラは2個目の器に手を伸ばし、黙々と食べ始めた。
「あっちの貴族がプリンを何個も食べようとしているようだよ?」
「何!? そうはさせるか!」
プリンへ向かおうとしていた貴族へ耳打ちするマルベート。場を離れる貴族を見送る前に踵を返し、別の貴族へまた耳打ちする。
「あの人はもうプリンを5個も食べてしまったようだ……多分、君の分もね」
「なんだって!?」
もちろん全部嘘。伯爵の私兵とイレギュラーズの妨害により、貴族は1人として幻のプリンを食べていない。
(ふふ、パーティーは狂ったように賑やかでなくてはね)
プリンを食べたという架空の出来事で争う人々に、マルベートは小さく口端を上げた。
彼女の隠し持つ小さな器に気づく者はいない。
「良い大人なんだから、少しはルールを守りなさいよ……っと!」
竜胆に正面からぶつかられた貴族はよたよたと後ろへのめり、数人を巻き込んで転倒。そこへすかさず粘着銃を打ち込む。
(アマダケは食べられなかったし、役目を果たしたら実物を頂かないとね)
仲間に取り置きしてもらった方が、いや自分で持っておいた方が安全か。
そんなことを考えながら、竜胆は粘着銃の残弾を確認して別の貴族へ向かっていく。
「わっ、あぶなっ」
抱えられるだけのプリンを腕に抱え、威降はパーティ会場を逃げ回る。
椅子を踏み台にして宙へ舞えば、その体は通常の人間とは思えないほどゆっくりと──まるで羽毛のように──降りていく。
最も威降自身がスローモーションになったわけではないので、貴族の手が伸びてこないうちに抱えたプリンをむしゃむしゃと。
「あ、おいしい」
不意に出た言葉に威降を見上げていた貴族達から声が上がった。
「くそっ私のプリンが!」
「何を言う私のだ!」
「手に取ったからにはこれは俺のプリンです!!」
威降は負けじと言い返し、彼らの手から逃れるべく再び空中へ跳んだ。
「美味ひぃ……の! すごく、美味ひぃ……の……」
(人様に見せられない顔になっているわ……)
蕩け顔のミアを周囲からそれとなく隠すように立つアンナ。ミアが首をぶんぶんと振る。
「負けちゃダメ……なの。プリンをミアの宝物にしまっちゃう……の」
魔法のバッグを出したミアの瞳がキランと光った気がする。いやきっと気のせいだ。
アンナもお土産にとプリンを保存容器に詰め、さあプリンをと手を伸ばしたところでお腹に柔らかいものが触れた。
「きゃあ!?」
「アンナおねーちゃん……ぽよぽよ……なの」
さわさわと触るミア。アンナがはっと頬に手を当てると、頬もふっくらと。
(確かに最近、甘い物を食べすぎた、ような……でもこの機会を逃したら──)
「あまり食べると太る……にゃ。ミアにちょーだい……なの」
「っ!!」
上目遣い。頬を赤らめた誘惑を前にし、アンナは息を詰めた。
「……仕方ない。私の分は食べていいわ」
「やったぁ……なの」
ふにゃりと笑みを零すミアは可愛らしい。
アンナはそれを見ながら『これで良かったのだ』と自分を納得させた。
「ああ、プリンだ!」
歓喜の表情を浮かべてテーブルへ駆け寄ろうとしたチョビ髭貴族は前へつんのめり、顔面から床へ倒れ込んだ。
一体誰がと首を巡らせれば、視線が留まるのは壁に背を預けた怪しげな人物。
その人物──ルチアーノは目深にかぶった帽子越しに小さな笑みを浮かべる。
(子供の遊びみたいだけど、大人が本気でやってることだから面白いね)
「さて、余ってたらプリンを貰おうかな」
粘着玉を撃ち尽くしたルチアーノは壁から背を離し、足を固定されて動けない貴族の前を悠々と通り過ぎた。
ゴリョウが高く上げた手に握られた器。
それに気づいた貴族達は、しかしすぐにその足を止める。
「な、なんだこれっ」
「おぉっとスマねぇな。そこはトリモチ敷いてんだ。そぉい!」
よろけた貴族の頭へ、袋をダンクシュート!
勿論手加減はしているが叩きつけられた袋は破け、中から粘着質な液体が漏れだした。それを被った貴族が笑いだす。
「取れねぇ! どうなってんだこのトリモチ!」
ある程度の貴族が罠に引っかかったのを見て、ゴリョウは「お前ら!」と再び貴族の注目を集めた。
「残念だな。この器は──空だ」
「……え」
器をひっくり返しても、落ちてくるものはない。他のイレギュラーズに食べてもらったのだ。
「こんなもん食っちまったら舌がイカレちまう。普通のプリンが身の丈に合ってるってな」
ゴリョウはにやり、と笑ってみせた。
●残るは小さな器のみ
気付けばテーブルの上には何もなくなっていた。
「ふふ、美味しいプリンをこうしてみんなで食べるのは幸せだなぁ……」
ヨルムンガンドはご満悦な表情。
「美味であったぞ。実にな!」
そして不敵な笑みを浮かべる汰磨羈の言葉が、貴族達へ追い打ちをかける。
「くそっ伯爵は……私達に食べさせる気なんて無かったんだ!」
「その通り」
場へ出てきたアラモード伯爵へ視線が集まる。
選べ、と伯爵は言った。今後一切幻のプリンに関する騒動を起こさないと誓うか、醜い諍いを続けてプリンを食べる機会を潰すか。選ばないのなら──
「誓う! 誓います!!」
伯爵の言葉が終わるのを待たずして貴族達が縋りつく。
情けない姿にイレギュラーズの生暖かい視線が刺さったが、伯爵としては言質が取れたので良いようだ。
こんな終わり方でいいのか? という思いはさておいて。
これを以って異世界プリン騒動は終結し、この件に関して新たな騒ぎが起こることはなかったと言う。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
どれもこれも楽しいプレイングでした。リプレイも楽しく読んで頂ければ幸いです。
これにて<異世界プリンの恨み>連動シナリオは終了となります。ご参加くださった皆様、ありがとうございました。
余談ですが、私が1番好きなのはカスタードプリンです。
それではまたご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
GMコメント
●やること
異世界プリンを幻想貴族に取られないよう食べつくす
●パーティ詳細
アラモード伯爵主催です。主催者の屋敷で行われます。時間帯は昼です。
招かれた他の幻想貴族はイレギュラーズ達が招かれていることを知りません。複数個食べてやろうとか今度こそは食べてみせるぞとか色々考えてます。
アラモード伯爵は主催者としてOPの挨拶後、騒ぎになることを予想してさっさと屋敷の奥へ引っ込みます。
異世界プリンは幻想貴族30名+イレギュラーズの参加者分用意されます。最大60名分です。
●行き先タグ・概要
【貴族】
異世界プリンを食べようとする幻想貴族を阻止することが中心のパートです。
色んな貴族がいますが、いずれも普通の人です。
最初は「まあ1人1つずつはあるんでしょ」と大多数が思っていますが、そう経たないうちに我先にと異世界プリンへ群がります。
イレギュラーズにはアラモード伯爵から内密に秘密道具が支給されています。以下のどちらか1つをお選びください。
・くすぐりスライム
意思を持ったスライム。洋服などは溶けません。1人1体ずつ、袋に詰められて渡されます。
人肌に触れるとその人物をくすぐりますので、うっかり自分が触れないように気を付けつつ貴族の顔にでも落としてあげましょう。
・粘着銃
ウォーターガン的なものに入れられています。超くっつく粘着玉で、なかなか引きはがせません。7発入ってます。
尚、会場には伯爵の私兵も紛れています。彼らも秘密道具を使って幻想貴族を邪魔してくれるので、イレギュラーズ全員がプリンを食べていても大丈夫です。
依頼が成功しさえすれば、これらで多少遊ぶくらい伯爵は多めに見てくれるでしょう。
【プリン】
異世界プリンを幻想貴族に食べさせないよう、どうにかすることが中心のパートです。
異世界プリンはおちょこ程度の小さな器に入っています。
食べても構いませんし、誰も食べられないようゴミ同然にしても良いです。各々に任せます。
食べると語彙のない感想しか出ません。
●依頼に関する注意
パーティなので戦闘行為は禁止です。会場の破壊行為も禁止されています。
●NPC
シャルル(p3n000032)及びアラモード伯爵は会場にいません。
登場しませんのでご注意下さい。
●プレイング
行き先タグは必須ではありません。記載なしの場合、プレイングの内容からタグの振り分けをします。
同行者はわかり易くお願いします。
●ご挨拶
愁と申します。決戦(という名のイベシナ)です。
このイベントシナリオをもって『異世界プリンの恨み』連動は締めとなります。
これ以上争う気が起きないくらい、プリンを食べまくってやりましょう!
それでは、ご縁がございましたらよろしくお願い致します。
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